古書店などから購入した古写真のネット利用についての見解


 最近、遺品整理なのか、生前整理なのか、少なくない数の古鉄道写真が、主としてネットオークション等に出品され、誰でも入手出来るようになっています。中には非常に貴重な写真も含まれている時もあり、既に撮影が現在不可能な列車・車輌や状況の写真は、そのまま埋もれさせてしまう、または落札者によって再度死蔵されてしまうには惜しいカットも少なくありません。
 そのため、古書店等が売っている写真を入手して、広く視読者に紹介しようと、ホームページやブログに掲載したいと考えるのは自然なことかと思われますが、ここで問題になるのが「著作権処理」でしょう。基本的にほとんどの古写真は、著作権について明記がされずに売られている現状があります。
 自分が最近撮影し、所有している写真画像であれば、スキャナを利用するなどでデジタル化(デジタルカメラや、携帯電話などで撮影したものは、それすら必要ありませんね)し、それをホームページなり、ブログなりに掲載すれば、人の肖像権とか、別途処理が必要なことがあるかもしれませんが、法律がたまたま映り込んでいる著作物の著作権は認めないように改正されていますので、他人・企業などの著作権を侵害する懸念はまずありません。
 しかし、整理品と思われる古写真の場合は、当然自分が撮影者では無い反面、たいていの場合撮影者がわからず、連絡先はもちろん、その人が存命なのかすらわかりません。「供託」という制度もありますが、古写真のホームページ利用などの場合は、あまり現実的とは言えないでしょう。このような場合、どうやって「適正利用」するか困ることになり得ます。
 写真は「写真の著作物」であり、特契が無ければ撮影者が著作者です。ただ他の著作物とは異なり、1971年と1997年の法改正までは、著作権の保護期間が特異的に短い時期があったり、保護期間の起算時が異なるなど、古写真では、撮影時期により保護期間が大きく異なるという問題もあります。また「同一性保持権」に関連して、フィルムやプリントの写真からデジタル化を行う際に、同一性保持が事実上困難であるという、固有の問題もあります。それらも踏まえ、適正利用についてどのような方策が考えられるかについて検討し、見解を述べたいと考えます。
 

<著作権のおさらい>

 著作権と一言に言いますが、その中身は「著作財産権」と「著作者人格権」に分かれています。

●著作者人格権:公表権(無断で公表されない権利)、氏名表示権(名前の表示を求める権利)、同一性保持権(無断で改変されない権利)。
●著作財産権:複製権(許諾無く著作物をコピーされない権利)、上演権・演奏権(許諾無く公衆に上演、演奏されない権利)、上映権(許諾無く公衆に上映されない権利)、公衆送信権(許可無く公衆に送信されない権利)、公の伝達権:公衆送信された著作物を許諾無く受信装置を用いて公に伝達されない権利)、口述権(無断で公衆に後述されない権利)、(以下あまり関係ない項目なので略)。

 これら「著作権」のうち、古写真では、
1.著作財産権は、整理屋さんや古書店に売却した時点で、誰が購入するかわからず、また古書店などから、著作権料を受領する手続きをしているとはとうてい考えられないので、購入者がその著作財産権ごと譲受したと考えられる。
 つまり原著作者またはその継承者の複製権、上映権、公衆送信化権、公の伝達権などは、全て放棄されているとみなしうる。

2.著作者人格権は、撮影者の死去に伴っても消滅せず(消滅するという説もあり)、かつ譲渡や放棄は出来ないとされ、かつ生前の意に反するような利用は出来ないとされる(法第60条)。
 …という点が、問題になりそうです。

 それで、法に照らした解釈として1については、特に無理は無いと思えます。

 しかし、2については、以下の理由で、厳密に法が想定しているような遵守は、実は一部困難であるという事情が発生します。

●撮影された画像を基本的にそのまま利用するのであるから、法60条の生前の意に反するような利用(著作者の死後も著作者人格権の侵害となるような行為)は、よほどのことが無い限りする心配は無いはずである。
●氏名表示権について、ある程度わかっている場合には、氏名を表示して転載することも可能ではあろうが、古書店などで売られている写真に、いちいち「○○(氏名)撮影。××年×月×日」などとは書かれていないのが普通である。アルバムごと購入などの場合はなおさらで、仮に氏名がわかっても、それを「表示することを望むかどうか」についてすら、確認のすべが無い。古書店は売却元を知ってはいる場合もあろうが、顧客の秘密遵守や、個人情報の壁から教えてくれるはずも無く、例外的な場合を除き「撮影者不明」とせざるを得ない。
●同一性保持権について、そもそもアナログの写真を、デジタル化する際に、それは全く保持できないと言ってもよい。
●公表権については、遺族(継承者)または本人が、古書店などに売却または個人が売却した時点で、黙示的に第三者による公表を許諾したと考えざるを得ない。もしこの点が許諾できないのであれば、写真は捨てれば良いことである。

…というようなことが一般に考えられますが、特に3つめの●印について、「同一性保持」とは、トリミングやわずかな補正、色味の調整などは原則許されないことになっています(「写真 同一性保持権 トリミング」で検索すると、違法の判例あり)。しかし、実際の作業として、プリントなりネガ・ポジなりを、スキャナーなどでPCに取り込む際に、たいていのスキャナーのソフトは、取り込む範囲を勝手に設定してしまい、手動でそれはある程度修正できるものの、正しく1ミリも違わずに取り込むことは事実上不可能です。
 また色調は、ネガもプリントもわずかずつではありますが、経年変化していくものなので、どの時点がそもそも「同一性保持のための原点か」、という疑問も解決できません。撮影した瞬間を原点とするのが、考え方としては妥当に思えますが、カメラに入っているフィルムが現像に出されるのにいくばくかの時間がかかった場合、その間の変化をどう考えるのか。現像時に同時プリントした場合、そのプリントは既に機械補正されている場合が大半だが、それらは「同一性を保持している」と言えるのか。撮影者が後年焼き増しをした場合、その色調が変化しているはずだが、その焼き増しプリントは「同一性を保持している」のか。…等々思考自体が困難な状況に陥ります。
 スキャナーのソフトは、褪色補正やキズ・ほこり除去などを自動的にかけながら取り込むのが実情です。もちろんその後の画像補正ソフトで極力自然なように修正することも出来ますが、その修正が、「同一性を保持」出来ているとはとうてい思われません。よって、デジタル化の時点で、事実上「同一性保持」は不可能だと言い切らなければならないでしょう。
 トリミングは、スキャナーでの取り込み後に、背景の一部や、映り込んだ人物をカットしたりすること等考えられますが、撮影者の意図としては、例えば「手前に映り込んでいる電柱はカットしたかったのではないか」とか、「右端に無駄な草藪があるが、それをかわしたかったのではないか」などと見られる写真もあります。それらをそのままにせよ、というのが法律や判例の趣旨でありましょうが、より芸術性や記録性、美観などの価値を向上させるものと意図するトリミングや傾き補正も認められないとすると、下記法第20条4項が定める「やむを得ない改変とはいったい何か」という疑問も湧きます。
 そもそも、原著作者に、著作権の利用について許諾申請・確認できない状態である以上、常識的なトリミングや、色調の補正、ある程度の傾き補正、人の顔をぼかすといった程度は「やむを得ない改変」に当たると考えるしか無いんじゃないでしょうか。

※著作権法第20条:
第二十条 著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。
2 前項の規定は、次の各号のいずれかに該当する改変については、適用しない。
(一から三号略)
四 前三号に掲げるもののほか、著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変

 …ということで、古書店などから購入・入手した古写真を、適正に利用しようとすると、特に著作者人格権の維持が、物理的に困難であり、このようなデジタル化機器の進歩に伴う、統一した見解がしかるべき団体から示されることが望まれます。
 ただし、著作権の利用許諾にあたって、「著作者人格権の不行使特約」を結ぶ例もあるとのことなので、この種の古写真で、誰が撮影したのかも不明なものについて、または通常の方法でそれらを知ることが不可能な画像については、この「著作者人格権の不行使特約」を黙示的に結んだと考えるしか無いかとも思えます。例えば公表権については、遺族(継承者)または本人が、古書店などに売却または個人が売却した時点で、黙示的に第三者による公表を許諾したと考えざるを得ないのではないでしょうか。もしこの点が許諾できないのであれば、写真は捨てれば良いことです。

 その上で、当ページでは、当面以下のように取り扱うことにいたしました。

●著作財産権は、全て譲受したものとみなす。

●著作者人格権については、可能な限り保護に努めるが、権利そのものについては、それを行使しないとする黙示的な意思表示(原著作者による著作者人格権の不行使特約)があったものとみなし、特に物理的に保持が困難な、同一性保持権については、スキャナーソフト、画像補正ソフト上で行える、「美観や画像状態、芸術性や著作物性の向上」の範囲では、妥当な範囲のトリミングなども含めて、法の定める「やむを得ない改変」とみなす。

 …と考えることとしました。その上で、撮影者の氏名が不明なものについては、「★★コレクション」と明記し、私自らが撮影した写真とは異なることを明記して掲載することにします(撮影者氏名が判明しているものについては、氏名をとりあえず明記)。

 また一方、原著作者およびその継承者からの異議申し立ても受け付けることにいたします。トップページのメールフォームからまずご連絡をいただくことにいたしたいと思いますが、その際、写真を手放された経緯をおたずねしたり、原著作者本人である、または正当な継承者であることを証明する書類を提出していただくこともありますので、その点はご了解下さい。

以上参考文献:Q&Aで学ぶ 写真著作権第2版 公益社団法人日本写真家協会編著 太田出版 東京 2016年
 

<写真著作権の保護機関と権利の消滅について>

・1967年7月27日 - 発行後12年(未発行の場合は製作後12年)に延長(昭和42年法律第87号、暫定延長措置)
・1969年12月8日 - 発行後13年(未発行の場合は製作後13年)に延長(昭和44年法律第82号、暫定延長措置)
・1971年1月1日 - 公表後50年に延長(著作権法全面改正)
・1997年3月25日 - 著作者の死後50年に変更(WIPO著作権条約への対応)

上記によれば、1956年(昭和31年)12月31日までに発行された写真の著作物の著作権は1966年(昭和41年)12月31日までに消滅し、翌年7月27日の暫定延長措置の適用を受けられなかったことから、著作権は消滅している。また、1946年(昭和21年)12月31日までに製作された写真についても、未発行であれば1956年12月31日までに著作権は消滅するし、その日までに発行されたとしても、遅くとも1966年12月31日までには著作権は消滅するので、1967年7月27日の暫定延長措置の適用は受けられない。したがって、著作権は消滅している。いずれの場合も、著作者が生存していても同様である。

以上wikipedia 「著作権の保護期間」内、「写真の著作物」の項目から引用。

※著作権法第51条
第五十一条 著作権の存続期間は、著作物の創作の時に始まる。
2 著作権は、この節に別段の定めがある場合を除き、著作者の死後(共同著作物にあつては、最終に死亡した著作者の死後。次条第一項において同じ。)五十年を経過するまでの間、存続する。

付記:なお、「発行」、「公表」、「制(製)作」の違いなどについて、いまだ不明な点もあるにはあるので、本ホームページのガイドラインとしては、今後も改訂の可能性があることを付記いたします。

2018.10.13 すぎたま記。2019.3.6、2019.5.11訂補。