東京メトロ駅構内撮影禁止のうわさを検証

 案外前から、もしかすると営団地下鉄の時代から、地下鉄の駅で電車の撮影をすることは禁止なのだという「ウワサ」が立っていたように記憶しています。帝都高速度交通営団という組織は、半官半民の、戦時中に国策的につくられた経営体であって、それは東京メトロになっても、株式を未だ公開していないことから、完全な民営会社とは呼べません。そのような会社が、「公共施設である駅において、勝手な理屈によって、市民の『表現の自由』を制限しうるのであろうか」というのは、注目すべきことかもしれません。
 しかし、いくらマニアの間で、「不当だ、妥当だ」と議論にもならない討議をしていても、あまり意味があるとも思えませんから、実際に東京メトロに、電話にて取材を試みました。その結果を報告します。


 まず「電話センター」(いわゆるお客様センターみたいなところ)に電話しました。そして尋ねたのは、
「駅構内での写真撮影は禁止であるという話を聞いたが、それは会社としてそのような方針で、それを公表しているのか」
…ということです。
 ところが、「センター」での回答は、「理由を把握していないので回答できない」ということでした。
 
 いわゆる「客セン」が、ある意味乗客の行動を制約しかねないことについて、「把握していない」というのは、少々困ったことですが、いままでこの種の問い合わせが無かったのかもしれないので、ここはひとつ「本社広報」に電話をし直しました。


 そこでの一問一答は以下の通り。
Q.駅構内での写真撮影は禁止しているのか?。
A.「いいか」と言われれば禁止である。

 いいかと言われれば禁止というのは、よくわからない返答ですね。じゃあ、「良くないか」と言われれば「許可」でしょうか?。

Q.その理由(禁止の理由)は何か?。
A.いっしょに写り込む人のプライバシー的問題。それに対して苦情があった場合、メトロとして責任持てない。

 駅に入線してくる列車を撮影する限り、「いっしょに写り込む人」が出るとは思えないんですけどね。それに、不特定多数の人々を漠然と撮影した画像(つまり乗車している人が窓から見えた程度や、乗降している人々の様子など)は、ほとんどの場合、写っている人は、「肖像権」(慣用句。判例として認められた言葉・権利ではない。「何人もみだりに撮影されない権利」程度のもの)を主張できません。

Q.例えば東京に旅行で来た人が、記念に撮影する場合も禁止なのか?。
A.そこまで杓子定規には考えていない。

 メトロが鉄道の日などに開く「撮影会」は、これによるようです。

Q.どうも駅構内での撮影を、一律に禁止するには、根拠が弱い気がするが?。
A.駅務上迷惑になるから。

 まあこれが本音なんでしょうね。

Q.一般に提示して周知をはからないと、根拠の無い「説」が流布しかねないので、掲示等で周知徹底した方が良いのでは?。
A.上にあげて検討する。

 検討はしたのかもしれませんが、いまだにそれらしい掲示を見かけたことはありません。



 東京メトロの正式な回答としては、以上でした。
 したがって、「駅構内は一律に撮影禁止」という「ウワサ」は、基本的に本当でした。そのため地下区間であろうと、地上区間であろうと、フラッシュを焚こうが焚くまいが、たとえ電車のみを撮影するのでも、要するに「万が一人が写り込んで苦情を言われると困るから」、「駅でカメラを持ったやつがうろうろするのは迷惑だから」禁止ということらしいです。


 この問題は、ある意味において、「表現の自由」とのせめぎ合いであり、今後判例が出てくるようになれば、他の鉄道・施設などにも波及しかねない問題であると思います。
 また「駅構内は、その鉄道会社の所有地だから、どのようなルールを設定しても自由だ。よってそれは絶対で、従わなければいけない」、という人がいますが、しかし、そうとも言い切れないのではないかと思えます。それは鉄道会社そのものが、その公共性を担保する代わりに、固定資産税その他の優遇を受けており、その所有地であっても、公共性を損なうようなルールの設定は許されないという不文律があるからです。
 先般の東日本大震災に際しても、首都圏のJRが早々と運行再開をあきらめ、さらには駅構内から「帰宅困難者」の人々を追い出し、その後強い批判を浴びました。このことも、駅や鉄道施設が、相当の公共性を持っており、駅や施設地は、単なる私有地ではないという認識の現れにほかなりません。世間一般の認識は、そういうことだということです。
 それに照らして、東京メトロの言い分を考えると、少々違和感を禁じ得ませんね。
 だいたい、地下鉄サリン事件の日は、取材陣が毎年霞ヶ関駅などに来て、撮影をしています。あれって全て、どんな社も許可をいちいち申請し、メトロとしては許諾しているのでしょうか。
 駅の公告にも、QRコードが付けられており、携帯のカメラでそれを読みとってアクセスする時代です。東京メトロには、もう一度ちゃんといろいろなケースについて精査しなおしていただきたいと思いますね。「面倒だから禁止」っていう感覚は、もう時代遅れであるばかりか、お役所的で硬直した体質を感じさせます。
 なお、本件の電話取材は、数年前(現在2011年9月)に行ったものであり、現在は会社としての対応は、変化している可能性があります。

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