私鉄のものについて続き

 ここでは京王電鉄と小田急電鉄のものを見てみます。特に小田急は、意外といろいろな字体が存在します(しました)。

 まずは京王から。

京王電鉄3000系の車号板画像

 井の頭線で活躍し、地方私鉄に売却された3000系の車号板です。国鉄客貨車文字に似てはいますが、丸ゴシックのようだとも言えますね。両端リベット止めですが、粘着材を使っているかどうかはわかりません。禁煙札は西武のものを縦長にしたようなデザイン。

京王電鉄デハ7113号の車号板画像

 これは本線用7000系、デハ7113号のもの。本車は編成組み替えとVVVF制御化改造で、デハ7227に改番されたため、発生したものです。丸っこい文字の感じになっていて、井の頭線3000系と基本的に同様の字体です。

京王電鉄1000系の車号板画像

 3000系置き換えのためにデビューした新1000系の車号板は、ヘルベチカ調のゴシック体になりました。取り付け方法などは変わらないようですが、禁煙札がピクトサイン化されています。

京王電鉄9000系の車号板画像

 9000系からは、独立してはいるもののシールになってしまいました。寸法が小さいので、はがされそうですね。字体は新1000系と同じような感じです。

 ここからは小田急を見てみます。

小田急の車号板画像です

 小田急で活躍した9000系と2600系の車号板。いずれも車体修理という更新で、壁ごと取り替えられることになり、発生したもの。新百合ヶ丘駅の前で開催された部品市で、1枚1000円だったのですが…。
 さて、9201はトップナンバー編成の中間車で、この当時すでに9001は盗難にあって、縦長ヘルベチカのような字体のものに交換されていました。本品はオリジナルですが、いわゆる国鉄客貨車文字準拠のものと言えそうです。しかし「1」がやたら太いのが目を引きます。2871号は、のちに小田急永山駅付近の土砂崩れに巻き込まれ、現場解体で廃車されるという運命をたどった車輌ですが、これも字体はほぼ完全に国鉄客貨車文字に準拠しています。小田急は「2」がやや上下につぶれたような文字になることが多い(上の9201など)ですが、2871の「2」はのびのびとしています。普通にアクリル板で作られており、裏側を掘って作ったものです。両端リベットのみで止める方式で、粘着材無しです。2871は丁寧に角が面取りされています。

小田急旧4000系の車号板です

 本品は、吊り掛け駆動車の更新車として造られた、旧4000系吊りかけ駆動時代のクハ4060号車号板です。仕上げは同時期のクハ2871とほとんど同じです。2400系のモーターを転用して、WN駆動化改造時(高性能化時)に、クハ4551に改番されましたので、その際に発生したものでしょう。周囲の面取りや字体などあまり大きな特徴はありませんが、取り外し時に生じたのか、皿ネジ形状の取り付け穴になっているが目を引きます。これが製造時からのものか、取り外し時にそのようになったのかはわかりません。色味はやや明るく見えますが、もう少し落ち着いた紺色です。

小田急の車号板画像です

 ところが9000系の一部は、独特な字体のものが存在していました。これらは車体修理後、ほぼ統一されてしまうのですが、この9103号の原形のものは、薄手アクリル板に彫刻し、さらに裏へ同じ寸法の白色アクリル板を重ねてから壁に取り付けるという、珍しい手法で取り付けられていました。このような方法は、新幹線にごく稀に見られる(前の3ページ目参照)程度で、一般の国鉄車などでは見たことがありません。

小田急の車号板画像です

 車号板を立てて見たところ。2ミリのアクリル板に1ミリ掘ってあるようです。白色アクリル板が失われていますが、彫刻された透明アクリルにも白色塗料を吹き付け、補助的に白色アクリル板をリベットで共締めしていたものと思われます。字体も9が不思議な感じ。1が太いのは9201と変わりませんが、3の真ん中の棒も左横への張り出しが小さいような気がします。0も縦長でしょうか。車体修理前の9000系には、このような字体の車輌が少数ありました。5000系などでは見られない仕様です。

小田急の車号板画像です

 小田急1000系、1405号の車号板と禁煙札など。最近はいろいろべたべた壁に貼られている印象ですが…。1405号の車号板は、ここ20年程度の小田急電鉄の標準的な様式です。やや細めの国鉄客貨車文字準拠のもので、車体修理後の各車も、同様な様式になっていました。リベットの頭に穴が無いタイプを使用しています。

 その1000系もリニューアルや廃車に伴い、取り外し品が売られる時代になりました。

小田急1000系の車号板画像

 リニューアルによる10連化で、デハ1445へ改番されたため発生した旧デハ1306号の車号板。最近の小田急の標準的な字体です。上の1405号のものと同様ですね。皿形リベット取り付けであったことがわかりますが、地下鉄乗り入れ編成だけの特徴かもしれません。

小田急デハ1114号の車号板画像

 小田急1000系は全車リニューアルかと思っていたら、まさかの廃車も発生。それで取り外されたデハ1114号の車号板です。特に他のものと違いは見いだせません。1306号とも同じ仕上げと思いますが、裏面には両面テープが貼られており、小田急としては珍しいものと言えそうです。皿形リベット取り付けは、他の地下鉄対応1000系と同じになっています。

小田急旧4000系の車号板画像

 これは小田急旧4000系デハ4505号のもの。本品は普通のリベットで取り付けられていたようです。4505は、カルダン駆動化・冷房化後の番号で、元はデハ4309号でした。色は微妙に1306号と異なりますが、字体そのものは同じですね。上のクハ4060のものと比べると、やはり高性能化時に字体が変更になっているのがわかります。

小田急の車号板画像です

 2000系のトップナンバー編成は、今のところやや細字のものを付けています。基本的な字体は変わらないと言えそうですが。1405号よりあとに作られたにも関わらず、リベットは以前の仕様に戻っています。1405号は地下鉄乗り入れ対応車でしたが、何か関係があるのでしょうか。

小田急の車号板画像です

 大量増備された3000系も、車号板はアクリルのものを付けています(追加増備の中間増備車はどうなんでしょうね)。特に初期の車輌は、2000系までを引き継ぐ、最近の「小田急字体」のままでした。

小田急の車号板画像です

 しかし、その後の増備が進むにつれ、車号板の字体が変更されています。何次車から変更かはっきりしませんが、この3915号は8輌編成の中間車です。角ゴシック体になったのがわかりますが、相変わらずアクリル板に掘り文字というのは変わりません。禁煙札はシールになりました(上)。

小田急デハ3331号の車号板画像

 この3331号も角ゴシック体に変更されていました。その後10輌編成化に伴い、改番が行われ、発生したものですが、交換後がどうなっているのかは写真を撮る機会が無く不明です。

小田急の車号板画像です

 一部のロマンスカーには特殊な字体のものが付けられています。これはEXE30000系のもの。車体外部に取り付けられた車号表記と同様な字体を採用しており、色も通勤車とはかなり異なります。この30000系の場合、壁面の色と合っているのかどうか、微妙かも。

小田急7000系ロマンスカーの車号板画像

小田急ロマンスカー7701号車号板

 上2枚ともロマンスカーLSE車7000系の、更新後の車号板。色や縁取りの付け方は30000系と同じになっていますが、字体は普通の「国鉄客貨車文字」準拠の、「小田急的字体」です。「5」のつぶれ方がやや独特に見えますが、「1」が9000系の更新前と同様太いのが面白いです。この他ロマンスカーの場合は、NSE3100系が金文字、SSE3000系は丸ゴシック調(下方画像参照)で、青色や金色など、割といろいろでありました。

小田急10000系ロマンスカーの車号板画像

 これは、ハイデッカー構造の車体が災いして、バリアフリー法に適合せず、まさかの廃車となった10000系ロマンスカー「Hi-SE車」の車号板。デハ10008号のものです。未更新のまま廃車なので、背景が白いアクリル板に、茶色の文字となっています。更新されていれば、上の7000系と同じような様式になったことでしょう。文字としての特徴は、やはり「1」が太いです。廃車後に長野電鉄に譲渡された車輌は、同社1000系となっていますが、どんな車号板なのでしょうか。

小田急SSE車車号板画像です

 参考までに、小田急3000系SSE車の車号板を含む壁の画像。SSE車はやや縦長丸ゴシックに見えます。製造銘板は「川崎車輌昭和32年」と、「川崎重工昭和59年」(更新)ですが、昭和32年のほうは、当時のオリジナルのようです。SSE車の更新は、大野工場で行われましたが、川崎重工の銘板が付いているということは、川崎重工の出張工事だったのでしょうか。1991年3月15日撮影。

小田急の車号板画像です

 そんな小田急も、地下鉄乗り入れのJR・E233系共通設計車の新4000系では、ついにシール貼りになってしまいました。字体も角ゴシック体になっています。ただし、JR新津車輌製作所製の編成は、やや字体が異なっているのを確認しています(1文字ずつの間隔が広めで文字はやや細身)。

●車内形式番号板の未来

 今後の車号板は、確実にシール化が進みそうです。鉄道ブームに伴う盗難の増加、破損対策、省力化、資材費節約のどれを取っても、アクリル彫刻などの車号板を、積極的に残す理由はありません。とはいえ、現在あるものをわざわざ交換する必要は無いですし、壁の構造上シールにするのが好ましくない場合も考えられます。会社の「こだわり」もあるかもしれません。そのため旧形車や特急電車、地方私鉄の車輌などを中心に、特に標準化を嫌う関西私鉄などには、今後もしばらくは車号板と呼べるものが存在し続けるでしょう。東武鉄道の新形車60000系も、アクリル製車号板を付けてデビューしています。時代の流れとしては、壁に直接手書き→アクリル彫刻→シール利用という流れですが、全てがそれにのるわけでもなさそうです。
 
 本稿をまとめるにあたり、EH500氏には資料提供を受けるなど、特にいろいろお世話になりました。ここに改めて謝意を表します。 (すぎたま2013.2記)

●付記:割損車号板の修理

 取り外し時など、また落下させてしまうなどの理由で、たまにヒビ入りしている車号板を見かけます。これらのうち、何も手が入れられていないものであれば、ある程度修理出来る場合がありますので、その実例をお見せします。ただし、完全にヒビが無くなるわけではなく、「目立たない」程度になれば成功というレベルの工作と思って下さい。ものによってはかなり効果的な場合があります。
 当然ですが、全く欠損部があるものの修理は、この方法では出来ませんので、そこは期待しないで下さい。

東急7700系車号板の修理画像です

 サンプルとして用意したのは、東急の7700系から、サハ7960号の車号板です。デハ7101号を改造して、インバータ制御化改造車7700系のサハとしたものです。
 本品は右下側に目立つヒビ割れがあります。これをなるべく目立たなくしようというのがこの企画です。

東急7700系車号板の修理画像です

 ヒビ割れ部のアップ。結構深い傷です。

アクリル接着剤の画像です

 車号板は、たいていの場合アクリル樹脂製ですので、アクリル樹脂専用接着剤を使います。このタイプの接着剤は、アクリルそのものを溶かし、その溶けたアクリル溶液が細いすきまに入り込んで接着するというような方法で接着します。
 ここで瞬間接着剤などを使いたくなる方は多いかと思いますが、瞬間接着剤などの一般的な接着剤は、ヒビをふさぐというような場合、ヒビの中に接着剤そのものが貼り付くことで接着をするので、言ってみれば「異物」を注入していることになります。その点、アクリル樹脂専用接着剤は、接着剤が溶けたアクリルそのものなので、より密着度が高く接着できる利点があります。

アクリル接着剤の画像です

 箱を開けると、このような小瓶に入った液体の接着剤と、スポイトがあります。この接着剤は、極めて揮発性が高く、あっという間に無くなってしまうほどなので、瓶のふたを開けている時間は、最小限にとどめなければなりません。また、アクリルを溶かすので、絶対に対象物の表面にかけてはいけませんし、目立つところに垂らすなども厳禁です。あとが残ってしまいます。
 また、成分は「二塩化メチレン」で、毒性もありますから注意が必要です。

修理後の東急7700系車号板の画像

 スポイトに取った接着剤を、裏側のあまり隙間が開いてないところから、慎重に垂らし、さらに接着させる方向にぎゅっと握ります。
 するとどうでしょうか。主として「0」の下側と、その右側のヒビ筋がだいぶ目立たなくなった感じがします。しかし、「6」に近いほうは、あまり顕著な効果が無く、ここはアクリルが薄く割れてしまい、かけらが残っていないものと思われます。そういう完全な欠損部には、本アクリル樹脂専用接着剤は効果が期待できません。

修理後の東急7700系車号板の画像

 修理後の全体画像。一応「だいぶまし」という程度には修理できたかと思われます。右側「0」を斜めに横切っているのは、光の加減です。最初の画像よりはだいぶましではないでしょうか。
 このように、単純に入ったヒビには、そこそこ効果が期待できますので、入手したものにただのヒビが入っていて、まだ修理がされてない場合には、この方法を試す価値はありそうです。既に瞬間接着剤などで、修理が試みられているものは、ほとんど効果は期待できないでしょう。


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