2003年10月31日号

赤ソバ

  赤ソバ
 

 秋になると、そば屋の店頭には、「新そば」の表示が出されるようになる。
 ソバという植物は、真冬はどうだかわからないが、春から秋までは栽培できるはずである。というのは、最短1ヶ月半位で収穫できる、生育期間が短い作物だからで、イネのように、特に春植えて秋に収穫すると決まっているものでもない。ただ畑を一定期間占有することには違いないから、時期の制約がないわけではないだろうが。
 だから春に種をまけば夏に、夏に種をまけば秋に収穫できるものである。すると秋に獲れるそばが、特に「新」そばとも言えないのではないかと思うが、夏や晩春の頃に「新そば入荷しました」みたいな表示は見かけないから、何かからくりがあるのだろう。

 ソバの花というのは、普通白い小さなもので、たくさんバラバラと咲く。それが次々に実ってソバの実となり、粉にひいてそばに打つのである。
 ソバ畑というのは、そういうわけで一面真っ白な花が咲いているものであるが、最近それに「赤ソバ」という、赤い花のものがある。すると畑は一面真っ赤、ということになるのだが、私の母親が、その真っ赤になった「赤ソバの花」が見たいと言う。テレビで何度か紹介されたようだ。
 それで赤ソバの花畑が見られるところはないかと、いろいろ調べたのだが、長野県箕輪町が有名で、その他のところは、まだあまり情報として、ネットや活字媒体に載ってきていない。
 ではちょうど信州・上田に、小旅行しようかと思っていたので、箕輪町に寄ってみようかと考えたのだが、上田や長野市内から箕輪町は遠くて、二泊で上田−長野−箕輪町と回るのは、少々日程的に無理があると判断し、断念せざるを得なかった。
 ならば、赤ソバをウチに植えてしまえと考えて、例によってベランダ植物として栽培してみることにした。
 「赤ソバ」とは、中国のダッタンソバの系統から来ていると言われる、花がピンク色になる性質のあるソバのことである。もともとソバはタデ科の作物で、タデの類は茎や葉柄が赤っぽい。何度か書いている「オオケタデ」は、花も赤い。これはアントシアン系の赤い色素が、花に回ったからだと思うが、赤いソバは、珍重されるせいか、既に園芸品種として、「高嶺ルビー」という品種のタネが売られている。2年ほど前に通販で購入して、実は所有していたのだが、秋に花を見るつもりで、夏に植えたところ、なぜか赤い花が咲かず、普通の白いソバであった。この理由は当初わからず、残りのタネは、そのまま冷蔵庫で放置状態となった。しかし今年、テレビで紹介されたときに、「低温にさらされると、よけいに赤くなる」と言っていたから、都内で夏に植えたのでは、夜から早朝にかけてあまり気温が下がらず、それで赤くならないのではないかと考えた。
 ソバは上に書いたように、一月半もあれば、開花−結実−収穫できる作物である。ということは、都内なら10月くらいに植えて、11月下旬までに花が見られないことはないと思える。ただ、霜が降りるようだと厳しいかもしれない。
 それで10月の初旬、冷蔵庫に在庫していた「高嶺ルビー」のタネを、空いている鉢に20粒ほどまいてみた。一面の赤ソバ畑というのとはほど遠いのであるが。
 すると2日くらいでタネは芽を出し、双葉が出て、どんどん伸び始めた。10月中旬くらいになると、もう害虫も出にくいし、朝夕は適当に寒いから、本来のソバの育つ環境には、ちょうど良いはずである。そう言えば、かなり昔の資料になるが、世界一のソバ生産国は旧ソ連であったことを思いだした。ソバは冷涼な気候を好む。

 赤ソバはその後、茎の根本の赤がはっきりしてきて、10月末の現在、花芽が見えるようになってきた。そして何となく花芽の先端は赤っぽい。ちょっとは期待できそうだ。果たして本当に赤い花が咲くのかどうか。結果が出るにはもうしばらくかかる。
 赤ソバ畑が見られないなら、自分の家で見ようとは、相当「病膏肓に入る(やまいこうもうにいる)」という感じだが、まあ一風変わった植物好きの、ウチの人々らしいのかもしれない。

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