2004年8月6日号

朝の交通事故

 
  朝の交通事故
 

 うちの建物の前のところは、T字路になっていて、その縦棒と横棒が重なるところを囲むように、コの字形・3本の横断歩道が設定されている。
 団地の中の道路であるにもかかわらず、車や自転車の通りは多い。未明から、配達や、市場に向かうトラックはガタガタ通るし、バイクも頻繁に、大きな音をたてて走る。自転車も横断歩道のとおりになど、走りはしない。およそ、住宅地の中の道とは思えない状態である。
 これは、この団地の中の道が、「抜け道」になっているからで、別に大きな道路同士を結ぶ道路計画があって、 本来ならば、とっくにそれができあがり、この道の代わりに機能しているはずなのだ。それが今、たった2軒の家が立ち退かないために、ここ40年近くも、計画が進まないままになっている。これは困ったことである。
 さて、ある朝、7時頃起きてみると、なんだか窓の外が騒がしい。救急車が来ている様子である。窓から覗くと、件のT字路に、警察官や救急隊員、それに倒れている人がいる。交通事故である。
 窓から見ていたのでは、よく状況が見えないから、エレベータで1階まで降りて、現場を見に行ってしまった。
 すると、ミニバイクと自転車の衝突事故のようである。目撃者はいるのだが、小学生の女の子3人で、大人の目撃者はいないようだ。バイクには酔っぱらったおじさんが乗っており、少しろれつの回らないような物言いで、警察官に半ば喧嘩を売っている。警察官は、手慣れた様子で、大きな声でわめくように話す酔っぱらいおじさんを相手に、現場検証を始めた。
 一方の被害者のほうは、中年から高年くらいの女性であるが、ちょっと心配なことに、ぴくりとも動かない。路上に腕を投げ出すように、寝ころんだまま、声もあげなければ、手足を動かす様子もない。あるいは…、死んでしまったのか?。
 しかし、即死するほどの衝撃があったのかどうか。警察官が、路上につけている印から判断すると、バイクはT字路の、左の方からやってきて、右の方へいこうとしたらしい。そこへ、Tの字の下のほうから、上に向かった形で、自転車がやってきて、互いに減速しなかったのか、衝突したようである。
 酔っぱらいのおじさんは、盛んに「オレがこう行こうとしたらよう、まっすぐ突っ込んできたんだ。何も悪いことはしてねぇよ」と言う。
 しかし、それはもう破綻している。なぜなら、酒を飲んで、それもろれつが怪しくなったり、警察官にまっすぐ歩けるかのテストをされている段階で、確実に飲酒運転だからだ。
 通常、こんな事故だったら、バイクのおじさんは、逮捕ということになるはずだが、目撃者が、子どもしかいないせいもあってか、おじさんの言い分を一応聞くしかないようだ。それで、すぐパトカーで連行ということにはならずにいた。
 それにしても、被害者は、なかなか救急車に収容されない。生きていれば、どこを打っているかわからないだけに、素早く救急病院に運ばなければならないし、もし死んでいる様子でも、「死亡判定」は、原則的に医師でなければ出来ないのだから、やっぱり心臓マッサージや、人工呼吸をしながら、病院に搬送することになるはずだ。
 やがて被害者のおばさんは、担架を両側で切り分けたような形の台で、両側から挟んで持ち上げられ、救急車に収容された。しかし、すぐには発車しない。受け入れ先の病院を、探しているのだろうか。
 酔っぱらいのおじさんは、警察官から、アルコールの「呼気検査」を受けている。一度うがいをしてから、ポリ袋に吐息を吹き込む。それを細い管に通すと、管の中の色が変わって、アルコール濃度がわかる仕掛けだ。
 現場検証は続いているが、酔っぱらってはいるものの、おおむね位置関係や、衝突の様子などのつじつまは合うようだ。結局、おじさんの証言や、子どもの目撃証言に基づき、警官が現場へのチョークで印を付けた場所などから判断すると、やはりT字路の左から、右へ、曲がらずに直進しようとしたミニバイクの右方から、おばさんが、横断歩道を外れ、バイクの進路をふさぐように横断しようとし、互いに止まりきれず衝突、ということらしい。
 この事故の直接原因は、T字路の手前がカーブしており、やや見通しが悪いこともさることながら、やはり酒に酔ってバイクを運転したおじさんが、とっさにブレーキをかけるなどの判断が遅れたこと、それと自転車も、バイクが接近しているにもかかわらず、横断歩道を正しく横断しなかったこと、である。しかし、やはり酒を飲んでいるのは、全く許されない。おそらく、警察署に連行されたあと、逮捕状が執行されるだろう。
 その後救急車はようやくピーポーと言いながら、走り去っていった。受け入れ病院が決まったのだろうか。警察官も、おじさんをパトカーに乗せ、連行するようである。また別に警察のワゴン車が、いつの間にか来ていたが、それに証拠物件のバイクと、壊れた自転車は積み込まれた。
 あとには、地面に残されたチョークのあとが残るのみである。

 しかし、ここの交通量は、驚くほど多い。朝の7時過ぎだというのに、ざっと数えて、時間200台以上の車が、ひっきりなしにやってくる。そしてこのT字路を通過していくのだ。その間自転車もたくさんやってくるが、見ていただけでも5回ほど、同じような事故が「あわや」という瞬間があった。もちろん手前で車が減速したり、自転車が一度待ったりしたので、現場検証中に再度…ということはなかったが、これほど交通量が多いというのは、ちょっと住宅地の中の団地内道路としては、問題である。また、自転車の交通法規無視っぷりも目に余る。
 今は夏休み中だから、いいようなものだが、子どもの通学路にもなっているし、脇には児童館がある。前にも児童館前のところで、無理に横断しようとした子どもと、自動車が接触する事故があったし、件のT字路の手前に、かつてもう一つ横断歩道があった頃、子どもが重傷をおう事故も発生している。
 そもそもここの道路は、当初この団地の建て替えにともなって、付け替えが行われ、T字路を今の位置に設けず、もっとまっすぐ団地の端を通るように直す予定で、同時に児童館も移転するはずだったのだ。それが団地の自治会がよけいなことを言い出し、スピードを出して危険だからという理由で、わざわざカーブの先にT字路を設け、そこからさらにS字カーブで団地内を抜けるようにしてしまった。また児童館もそのままにしてしまった。これは一見、スピードを弱めさせるように見えるが、実際は、そのS字カーブを、スピードを出して走ることを、みな喜んでいるようである。バイクなどは、何度も同じ車がぐるぐる回って、カーブを高速でクリアする「練習」をする始末である。
 また時間あたり200台も通過する車を、予想しなかったのだろうか。またこの少子化の中で、児童館をここに設けておかなければならない理由もない。実際に必要なのは、老人施設かもしれないし、第一危険ではないか。
 この様子では、もう2,3人、人が死なないと、この道路は改善されないだろう。そうでもしないと動かない行政というのは、まったく困ったものであるし、自治会と、立ち退かない家の、くだらない「地域エゴ」は、もっとたちが悪い。それで迷惑している人、危険にさらされる人は、どうすればいいと言うのか。
 無論酒を飲んで走る車や、無法運転の自転車、ふらふら歩く歩行者も、危機意識が足りなさすぎだが、わずかな目先の自己利益のために、危険がいつまでも放置されてしまうこの国のあり方も、大いに問題だと思う。
 いらない赤字の高速道路なんぞ、作っているヒマと金があるならば、国と地方自治体では管轄が違うとか言っていないで、こういう身近な危険を何とかしたらどうなのか。

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