2003年7月11日号(改訂11月12日)

小型カメラに挑む

  小型カメラに挑む
 

 10年くらい使っていた、オートフォーカスのコンパクトカメラが、突然故障してしまった。それも、ライフワークにしている、鉄道古レールの調査中にである。電池を一度抜いてもう一度セットするなどしても、もうレンズの動作がおかしくなってしまって、どうしようもなくなった。
 デジタルカメラも既に持っていて、それなりに重宝しているのだが、やはり画質の点と、プリンタで印刷しないと紙焼きにならない点がイヤで、少しでも仕上がりの画質にこだわる時には、フィルムカメラを愛用している。一応一眼レフも、持ってはいるが、情けないことに最近は、持ち歩きに肩が凝る有様なので、めったに使わない。結局コンパクトカメラが一番なのであった。
 この故障してしまったカメラは、A社の140ミリズームレンズ内蔵で、大変便利なのと、ピントのシャープさがよかった。したがってこれを使う限り、カメラに起因する失敗はほとんどなかった。ついでに紙袋に無造作に突っ込んで持ち歩いても、壊れないタフさがよかったのだが。
 しかし、もう壊れてしまったものを放っておいても、直るわけではないのだから、新宿のYカメラに、代品を探しに行った。修理も考えたが、10年たっているカメラとなると、ちょっと現実的でないような気もしたからである。
 ひさしぶりに見るカメラ売場は、だいぶデジタルカメラに占領されているようでもあったが、なかなか根強い人気もあるのか、コンパクトカメラも、それなりのスペースを保っていた。後に開発されたAPSカメラのほうが、勢力としては弱そうである。
 品物をざっと見たところでは、さすがに10年の間のモデルチェンジは相当なものらしく、それまでの140ミリ望遠どころか、170ミリのレンズ付きながら、カメラ全体の体積は半分くらい、重量も200グラムちょっとというものが、いくつか売られている始末であった。しかも、壊れたカメラを買ったときより値段が安い。
 もはやこうなると、壊れたやつにこだわりを持って、修理して使うよりは、潔く訣別したほうがいいような気配である。

 結局同じA社の、170ミリ望遠レンズつきのカメラを買った。F社の製品もなかなかに良さそうであったが、ボタン類の操作が元のものと共通であったので、同じ会社のものにしたのである。
 ボディは銀色で、一時期はやっていた黒ではない。大きさが半分ほどになったボディには、4段に伸び縮みするレンズが入っている。シャッターの反応も良い。

 さて買ってきて、フィルムを入れ、いろいろな試し撮りを始めたのだが、実際に使ってみると、店頭では気付かないちょっとした問題もわかってきた。
 例えばファインダーは、視力に応じて「視度調整」という、ファインダーを覗いたときに、被写体がぼけて見えないようにする調整をしなくてはないらないが、元のダイヤルを回す方式でなく、つまみをを動かす方式なので、やや調整しにくいこと、そもそも小型化のためか、ファインダーが小さくて、眼鏡族の私だと、覗きにくいこと、ボタンの類も小さくて、少々扱いにくいこと、…などである。
 しかし、ベランダの花や、それに飛んでくるカワラヒワたちの撮影では、170ミリ望遠の威力は絶大で、満足のいく撮影ができた。
 次いで、街に持ち出して、駅で列車を撮影したり、風景も撮影してみたが、列車の撮影では、なぜかひどくブレた写真が出来上がってしまった。これは一瞬原因がわからなかったが、どうも少しレンズを望遠気味にしたときに、発生した様子である。
 それからやってくる列車に対面するようなアングルで撮影すると、わずかにシャッターチャンスを逃して、列車が画面からはみ出したように撮れてしまったりした。これは腕がヘタということもあるが、以前のカメラでは、ほとんどなかった現象なので、ファインダーから見える範囲と、レンズが実際に撮る範囲のズレ、という問題も関係していそうである。
 これはコンパクトカメラが、一眼レフと異なり、レンズとファインダーが別々に独立しているという、構造上の違いにより、そのズレの度合いが、カメラのメーカー・型番ごとに異なるからのようである。
 どうもこの新しいカメラでは、ファインダーで見えているよりは、一回り周囲がカットされてしまうようで、以前のカメラよりは、カットされる割合が若干大きいようである。ただこれは私がファインダーを覗いたとき、眼鏡のレンズのせいで、ファインダーから眼までの距離が少し遠くなることも、あるいは関係しているかもしれない。

 なかなか「新しいモノ」というのは、何でも、すぐに使いこなすのは難しい。
 だが、どうも今度のカメラは、いくら何でも小型化しすぎという気もする。カメラボディの厚みの、3倍以上突出するレンズは、手持ちで撮る場合には、それなりのコツがいりそうだし、手でしっかり握ろうとすると、測光部に指がかかって、自動露出が狂いそうだ。ブレの原因も、レンズの張り出しに対して、手持ちが不安定になり、それでいて、高速で走ってくる列車のような被写体を、写そうとするからだろう。
 小さくて持ち運びも楽で、ちょっとしたシャッターチャンスにすかさず1枚、というのは、大変に便利であり、小難しい写真の理論を越えて、万人に楽しめるようになっている。しかし小型軽量化の極みと、そういうカメラをチョイスすることには、評価が分かれるかもしれない。
 …のであるが、やはり練習も大切であり、新しいものの特性を理解し、それを使いこなすのもまた、現代人に要求される一種の能力である。
 前のカメラが懐かしいと思う心は、少々歳をとって、適応力が低下したのかと思わせるものもあるが、小さく、手軽に、高画質というのも、技術の進歩には違いない。その進歩を享受できない、しないのは、なんとも悔しいではないか。そうしたものを使いこなす工夫にも、まだ耐えうる年齢だと思うし、自分の技術・能力向上への努力を、放擲(ほうてき)するわけにはいかない。当分は失敗の写真を、ちょくちょく撮ることになろうとも。

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