冬に向かうカワラヒワたち
夏が過ぎ、秋も深まってくると、ベランダに育てていて、カワラヒワという美しい鳥の餌になっているオオケタデも、葉っぱが枯れていき、茎も赤っぽくなり、いよいよ今年は終わり、という感じになる。
例年、完全に枯れるまでは放っておかず、ある程度のところで切ってしまって、また来年、ということになるのだが、それは、もう久しくカワラヒワがやってこなくなってから、である。
ところが今年は、10月の終わりだというのに、カワラヒワは、残り少ない実を目当てに、まだやってくる。あまり人の活動が騒がしくない早朝に、4羽もやってきたりするのだ。この4羽は、2組のつがいなのか、互いにケンカする様子もなく、それぞれの枝にとまっては、少ない実をついばんでいった。
また気が向くと、昼間ふらりと飛来することもある。回数は、夏の頃に比べると、かなり少なくはなったが。それでも、彼らがやってくると、窓の内側にいる、私ら人間は動けなくなる。大きな動作をすると、カワラヒワは警戒して飛び去ってしまうからだ。そのため人間には、しゃがんだまま後ずさりしたり、茶室の入り口のように「いざる」動きが要求される。足腰は痛いが、仕方ない。
このところしばらく、秋の長雨が続いていて、天気は良くなかった。アサガオは昼間まで咲いていて元気だが、カワラヒワは、雨が苦手らしく、雨の日はやってこないのだ。雨の日の餌は、どうしているのだろうか。
団地の建物の、エントランスのところに植えられていた植栽が枯れてしまったので、今年そこにオオケタデを植えてみた。まあ勝手に植えたのだが、夏の草刈りの時期も、赤い花の穂をつけた、大きな植物になっていたから、刈られることもなく育った。今10月末でも、長くて赤い花の房を保っているから、ここに来ればカワラヒワも餌がある。事実食べている様子もあるのだが、あいにく建物の入り口に当たるところだから、早朝の新聞配達から、午前中のゴミ出し、通勤通学の人々、昼間の配送やセールス、夕方から夜の帰宅する人々…と、一日中人通りがあって、安心して小鳥が餌をついばむ環境にはないらしい。もう少しいい場所に植えてやればいいようなものだが、さすがに整備された緑地のところへ、勝手に植えるわけにも行かない。エントランスに泥が露出していたから、まあ植えられたようなものなのだ。
そんなこともあってか、うちのベランダのオオケタデには、いまだにカワラヒワがやってくる。いったいいつまでやってくるのだろうか。
ここらへんのカワラヒワだけの、特別な性質かどうか、わからないのであるが、例えば皿に出しておいた市販の「野鳥の餌」とか、切ってコップに差して置いたオオケタデの花房などは、決して口にしないのである。どうあっても、土からはえている、生きた花の実でないと食べないのだ。だから、もう新たな花は、ほとんど咲かない状態に、寒さで弱ってきたオオケタデでも、切ってしまえないでいる。来年の準備もできはしない。
私ら人間からすれば、少々困ったようなものだが、カワラヒワたちの餌場かと思えば、じっと見ているしかないのである。
もしかすると、回りの環境が徐々に悪くなって、カワラヒワたちの餌が少なくなってしまったのだろうかとも考えた。そう言えば、この周辺も、少し前までは、けっこう企業の寮や、個人の家などに、ちょっとした林と呼べるような木立があったり、それほど手入れの行き届いていない草っぱらがあったりしたものだ。ところが最近、それらはぐっと少なくなり、そもそもここの団地が高層化して、緑が少なくなったのに始まってか、大規模なマンション建設が、ラッシュの様相を呈している。
マンションは「緑豊かな」などと広告でうたっているけれど、そんなのはうそっぱちで、緑を伐採しまくって、そのあとにどこからか持ってきた木を、申し訳程度に植えながら、ガタガタ騒音をまき散らしつつ作り、あげく入居者が足りない…などというのもある。取り付け道路も狭く、あまり向きも良くないという物件すらあるが、あまねくそういうところは、建設自体が、鳥や小動物の生息環境を悪化させ、人間の住環境だって、必ずしも良くないように見える。
身近な環境をどう守るのか、というところまで、大風呂敷を広げるつもりもないが、案外人間は、温暖化が、CO2の排出量が、とかいいながら、ハイブリッドカーを買ってみたり、フロンを使っていない冷蔵庫を買ってみたり、テレビを液晶に変えて節電したりして、「エコライフ」しているつもりになっていても、足元の環境には、思いをいたしきれないようだ。
5月頃のカワラヒワは、3羽とか4羽とかやってきては、ケンカしながら餌であるオオケタデの実をついばんでいたが、このところやってくるのは、つがいなのか静かに食べている。そして全体に一回り大きくなって、ふっくらしたようだ。春から夏になって秋が深まって、一回り成長したのだろうか。それとも、冬の羽毛に変わって、冬支度なのだろうか…。
明日の天気は、秋晴れだと予報では言っている。葉っぱはボロボロになったオオケタデだが、また明日の早朝、カワラヒワを待つ。 |