2004年4月23日号

御苑の八重桜花見

 
  御苑の八重桜花見
 

 先日、都内新宿御苑の八重桜を見に行ってきた。
 3月下旬、ソメイヨシノの見頃の時、花見は一応したのだが、その日はしばらく良くない天気が続いたあとの土曜日だったので、苑内の芝生は、ほとんど余地がないほどの人手であった。これでは落ち着いて花見をすることは出来ない。もっとも酒類の持ち込みは禁止なので、そのあたりのマナーは、まあまあである。酔った人が寝込んだり、カラオケ大音量ということはない。
 八重桜は、ソメイヨシノが見頃を過ぎてから、2週間位すると見頃である。その辺を見計らって、見に行ったのだ。
 ソメイヨシノの頃とはうってかわって、新宿御苑の昼下がりは、ひっそりとした感じであった。喧噪の都心のそばにありながら、苑内を歩く人の数は少ない。
 新宿門という入り口から入ったが、門のすぐそばから、八重桜は咲いている。人々は、皆思いおもいに写真を撮ったり、小さなスケッチブックに絵を描いたりしている。平日の昼間のせいであろうが、この人の少なさは、あまり八重桜に人気がないからでもあろう。それはもったいない感じだ。
 むしろ私たちにとっては、人が少ない分、ゆっくりと静かに鑑賞できるから、恵まれているとも言えるのだが…。
 感じがいいのは、人が少ないからだけではない。八重桜が見頃になる頃には、ちょうど新緑が芽吹く頃にも重なるので、苑内に植えられたカエデやイチョウ、その他の木々も、薄緑色の美しい葉をいっせいに出して、その淡緑と八重桜のピンクとのコントラストは、実に美しい。
 八重桜も、この苑内にはいろいろな品種が植えられており、色が単純な薄いピンク色だけではなく、濃いピンクのものや、薄緑色の「ウコン」などという品種もあるので、それぞれに味わい深い。もちろんソメイヨシノの頃にも、カンヒザクラなど、色や盛りの時期が異なる桜があるのだが、数がまとまってあるわけではないので、あまり目立たない。ちょっと損をしている感じである。
 気温は少しずつ高くなっているから、池の回りに猫が寝そべっていたり、カントウタンポポを含むタンポポ類が、黄色い花をたくさん咲かせていたりもする。
 大きなイチョウには新緑、八重桜の下にはタンポポ。ソメイヨシノの頃よりも、景色に厚みがあるような気もする。もちろん、たくさんのソメイヨシノの、それも樹姿が整った、冬を抜け出たばかりの印象も、とてもいいのだが、それよりももう一段、春を強調しているような感じなのがいい。
 苑内を歩く人の中には、外国人の人がいる。言葉を聞き分けてみると、中国人、韓国人、それにタイ人であった。なかなか国際色豊かだが、皆それぞれに日本のサクラを楽しんでいるようである。何と言っているのかはわからないが、楽しそうにしているから、春の花を愛でる気持ちに、国境はないのだろう。
 新宿御苑には、食堂が2カ所あるが、そこに「御苑汁」という名物?メニューがある。毎回新宿御苑に行く度に、必ず食すのであるが、これがなかなかうまい。味噌汁の一種なのだが、塩味は十分なのに、あまり味噌の味が強調されてない。イリコか煮干しのようなものでダシをとり、入っている具は、けんちん汁か豚汁のようである。大根、ニンジン、豚肉、コンニャク、豆腐、生ネギの刻んだものなど、味噌汁を薄くして、その分ダシ汁で味を戻したものとでも言おうか。なんとも不思議な汁なのである。
 特にサクラの季節は、時によっては肌寒かったりするものだから、この食堂での「御苑汁」はなかなか良い。これと冷酒、おつまみセットという、チーズ、ハム、サラミ、刻みキャベツの盛り合わせは、うちの人々の定番である。
 ここの食堂はサービスも良く、テーブルに小さな花が飾られている。この季節はもちろん八重桜がメインである。ソメイヨシノの頃には、ソメイヨシノであった。おそらく幹咲きの部分などをうまく活用しているのであろう。木を傷めないようにしつつ、生花を飾るちょっとした心遣いである。

 都内にこのような「庭園形公園」は、昭和記念公園、小金井公園などいくつかあるが、この新宿御苑は、都心の真ん中にあって、その外とは全く別世界の自然が残されているという点で、非常に貴重であると思える。だが、ここの魅力はそれだけに留まらず、気軽に楽しめる木々と植物、人も含めた一部の動物の、生き生きとした姿であると言うこともできる。
 都内に住んでいる人も、そうでない人も、新緑の季節には来訪をおすすめできる場所である。

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