2003年4月11日号

「ヒヨドリの来るベランダ」

  ヒヨドリの来るベランダ
 

 このところ、団地の我が家のベランダには、ヒヨドリたちがやってくる。彼ら専用の餌の果物が入った箱めがけて、朝6時頃から夕方5時頃まで、いく度となくやってくる。
 だが、はっきりいつから来るようになったか、記憶はあまり定かでない。
 数年前、たしか人間用に買ってきたリンゴが、食べる時期を逸して、ちょっと傷んできたので、半分に切って、ためしにベランダにあるコンテナボックスの上に置いておいたのが、始まりではなかったか。
 当初はメジロとはいわないまでも、小鳥が来ないかなどと、甘い期待をしていたのだが、やってきたのは、大柄で鳴き声も大きい、ヒヨドリばかりであった。
 それでも、毎日何かの果物を置いておけば、きまって彼らはやってくるようになり、そうするとまあ、それはそれで愛着もわくものだ。
 かくして、ウチの人々は、スーパーで安く低農薬なリンゴや柑橘類を見つけると、せっせと「お鳥様」のために買ってきては、近所迷惑にならないように考えて、ベランダの餌箱の中に、置いておく習慣になってしまった。おきまりの「置きみやげ」(フン)には、困るのであるが。

 ヒヨドリの来るようになる前の年までは、それまで毎年育てていたオオケタデという、大形のタデに、カワラヒワがやって来ていた。カワラヒワはタデの類が大好きな鳥で、見た目もわずかに警戒色が入ったような、体色の美しい、小柄な鳥だ。
 オオケタデが実るのは、夏から秋口なので、ヒヨドリが春先から来ているとなると、カワラヒワをおどかして、来なくさせてしまうかもしれないと思った。
 ところが実際には、5月半ば頃になると、ヒヨドリはパタリと来なくなった。不思議なことだが、図鑑によれば、子育ての時期になって、餌が晩春から夏にかけて変わるためのようだ。それでこの5月半ばから6月のオオケタデが実るまでのブランクを経て、やって来る鳥が、ヒヨドリからカワラヒワへと、うまいこと交代した。ある種の偶然とは言え、そのタイミングの良さには、感心させられる。

 昨年のヒヨドリは、ベランダの手すりに、ちょっと止まってから、一言「ピヨ」と“あいさつ”?をして、リンゴを食べていた。
 今年のはあいさつはしないが、2羽で追いかけっこや、餌の取り合いなどしている。その様子ごとにウチでは、「バカ鳥」、「ピヨドリ」、「鳥ちゃん」、「お鳥様」などと、いささかいい加減に呼んでいるが、雨の日にベランダの天井に付いている物干しのところで、じっと雨よけをしていたり、夕方「帰ろうか、帰るまいか」というような様子で、こころなしか頼りなさそうに、長く手すりに止まって外を見ている姿は、ウチの人々を、「明日もリンゴをスーパーで探してこなくては」という気にさせるに十分である。
 ある種のしたたかさを持っているが、都会の喧噪の中に暮らす鳥たちの、その自然の息吹を感じさせる姿は、やはり美しい。


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