2005年2月25日号

ヒヨドリの好み

 
  ヒヨドリの好み
 

 去年の1月から春にかけては、鳥インフルエンザを一応心配して、ヒヨドリにベランダの中で、餌をやるのはやめていた。しかし、ヒヨドリたちは、一昨年、餌をもらっていたことを覚えているのか、何度か「無いの?」と尋ねるかのように、やってきて、手すりに止まって鳴いたりしていた。
 今年は幸いにして、鳥インフルエンザは報告されておらず、ヒヨドリたちも元気で飛び回っているから、餌にリンゴを置いてやろうと思っていたのだが、昨年夏に多数台風がやってきて、落果が多かったせいなのか、なんだかリンゴの値段が、前のシーズンに比べると、やたら高い気がする。そのため、そもそもあまり人間のほうが、リンゴを食べないで、他の果物を買って食べていた。したがって、あまりヒヨドリたちには、餌を用意してやっていなかったのだ。
 ところが彼らは、意外なものを見つけて、食べていくようになってしまった。
 うちには今、プリムラという花が咲いている。それとパンジーの薄紫色のもの、それとヒメキンレンカという、黄色い、それでいてつやつやの花が咲く珍しい植物、アリッサムという白い小花。これらが春直前の今、咲いている。
 このうち、特にプリムラの、紫色の花だけを、なぜか食べてしまうのである。次いでパンジーの紫の部分も…。これはどう考えても、「見て」食べているとしか思えない。
 それとヒメキンレンカも、これは黄色い花であるにもかかわらず、咲いているそばから食べられてしまう。これまた「見て」食べているのかもしれないが、そうだとすると、つやつやの光り具合がいいのだろうか?。
 ヒヨドリはいろいろなものを食べるとは聞いているが、咲いている花を食べるのは、予想しなかった。何らかの対策が必要になった。
 鳥は、一般的に強い磁気を嫌うとされている。地磁気を感じることで、方向感覚を得るのだとか言われている。そのため強い磁石を置いておくと、そのそばには近寄らないらしい。
 強い磁石…。なかなかそういうものは入手が難しい。…と思ったら、壊れてしまったハードディスクを解体すると、中から、非常に強力な磁石が取れることを発見した。これはもともと、読み書きのできなくなったハードディスクを、面白いからと解体してみてわかったことなのだが、ディスクに記録するヘッドと呼ばれる部品を動かす部分に、極めて強力な磁石が使われている。うっかり冷蔵庫などに付けようものなら、引き剥がすのに苦労するほどである。
 これを置いたら、ヒヨドリは嫌がって近寄らないのではないか?。そう考えて、早速実行した。以前鳩が来て困ったときには、普通の磁石でも、そこそこ有効であったから。
 やってみると、確かに効果が無くはないのだが、本当に直近に置かないと、ダメなようである。ヒヨドリは、5センチも離れていれば、磁石など気にもしないで、すぐとなりの株の花を食べてしまう。これでは、「あまり効果がない」と言ったほうが、早いかもしれない。だてに野生の鳥は、やっていないらしい。
 結局リンゴ風呂に入れた残りのリンゴをやったりして、そっちに注意を向けることにしたが、それでも洗濯をして、洗濯物がベランダに干してあるときは、そのままリンゴを出しておくことはできない。もしかすると、洗濯物を汚されてしまうかもしれないからだ。彼らのフンは、やたらとでかい。
 花を食べられない、かつ洗濯物を汚されないとなると、物理的に花を守るくらいしか、方法はない。素直に金網で囲うことにした。
 金網は、細いものでないと、中の植物に差す日光の光量に、影響してしまう。そのため一番線の細いタイプを、近所のホームセンターで買ってきた。それを、鉄の棒を丸く枠状に組んだ植木鉢台に、巻き付けるように止め、その植木鉢台ごと、プリムラの植えてある鉢にかぶせて、ヒヨドリから守ることにした。ついでに、おまけにしかならないかもしれないが、金網にひっかけるように、ハードディスクの磁石も、付けておいた。
 近所の家に、放置されたままのキンカンの木があり、たくさんの実がついている。それにもヒヨドリは飛来して、人がいなければ食べ放題しているようだが、どういうわけだが、この団地のヒヨドリたちは、うちの紫色の花と、ヒメキンレンカが大好きなようで、困ったものである。
 金網で覆うと、プリムラは無事になったが、今度はヒメキンレンカの花が、丸坊主になってしまった。仕方がないので、それも金網で、仮囲いをした。しかし金網の寸法が少し足らず、もう少し買い足さなければならない。パンジーも食べられてしまうが、あまりおいしくないのか?、色の濃いところだけをつまむ程度である。
 ヒヨドリの目が、紫色や、“光りもの”に特に反応するのかどうかはわからない。いらないCDディスクや、きらきら輝くハードディスクの円盤部分などを、つり下げてみても、全く彼らは意に介さない。ヒヨドリが、なぜ紫色や光る花を好むのかは、ヒヨドリになってみないとわからないのかもしれないが、人間には見えない波長の光も、見えているのかもしれない。
 サイエンティフィックな分析としては、いろいろできるのかもしれないが、結局のところ、ヒヨドリ様に食べられないようにするのは、昔ながらの金網であったというところが、いかにもローテクで面白い感じがする。
 当面、安いミカンとかを食べていてもらって、一方花のほうは金網で守るしか、ヒヨドリたちとつきあう方法はないようである。

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