2005年4月29日号

ホントのサポート

 
  ホントのサポート
 

 いつもよく行く、新宿のソバ屋で、ソバを食べていたら、うしろの席に、インターネット接続業者の、ユーザーサポート担当らしき、比較的若い二人組が座った。
 歳のころは28〜30歳くらい。そもそもソバ屋というところは、この年代の人々を見かけるのは、比較的珍しいが、遅い昼食なのだろう。
 彼らは、最近すっかり主流になっているADSL方式での、ネット接続相談を受ける人たちらしい。そんなようなことを言っていた。しかし彼らの話を聞いていて、無性に腹立たしく思ったのは、以下のような発言であった。
 曰く「ユーザーなんてものは、人の話は聞かないし、マニュアルは冊子体にしなけりゃだめだよな」、「いくら説明しても、マニュアルすら見ないんだもの」、「基本的な用語も理解できてないし…」。
 そもそも、ユーザーサポートというところは、マニュアルを読んでもわからない現象が起こったり、用語がわからない段階の人でも、専門の人に相談するために設けられているのではないのか?。私は少なくとも、そういう認識なのだが。
 マニュアルは冊子体でないとダメなんだそうである。ということはこの会社は、マニュアルが冊子体でないのだろうか。そんな会社は、あまり聞いたことがないが…。ネット接続のサポートデスクだとすれば、ネットに接続できないから相談してくるのだろうから、マニュアルが、インターネットに接続して調べるタイプの、「オンラインマニュアル」では、役に立たない、…どころか、それを見ることすらできないわけではないか?。それを「説明したって、マニュアルを見ない」であるとか、「冊子体でないとダメだ」とは、会社にぶつけるべき不満なのではないか。
 こういう技術系の「半可通」の人が、どうも陥りやすい穴だと思うのは、自分が理解していることは、絶対ユーザーも理解しているはずで、理解していないのは、ユーザーが悪い、という観念である。
 これはとうてい承服できない理屈であって、それこそマニュアルでがちがちの「専門バカ」が考えることだと、私は思ってきたのだが、最近はどうもそういう観念が、普通の人々に蔓延しているらしい。このことは憂慮すべきことである。
 この種の電話窓口には、しょっちゅう電話したことはないが、それでも何度かはある。たいていオペレーターと称する、要するに人間につながるのに長時間を要し、つながったらつながったで、若い礼儀もわきまえない人に、ぺらぺらと、向こうの手元に置いてある「対応マニュアル」を棒読みしているかのような対応をされる。挙げ句の果てに、自分では対応しきれないと見るや、たらい回しが始まる。
 こういうことは、あまりにお役所的と言えるが、当のお役所ですら、最近いくらかはマシになっている。
 国内有名電機メーカーの、パソコン電話相談担当をしていた友人K氏と、私のプロバイダであるO社の電話相談窓口は、うちのパソコンや、モデムに問題が起こったとき、実に親身に対応してくれた。K氏は友人だから、当たり前の部分もあるが、彼は、私以外の人々にも親身に相談を受けている様子であったのだ。具体的にそれは、その場で回線の状況を調べてくれたり、別会社の製品のことも考えたり、必要なプログラムを手配したり…といったことである。こういう対応を、一人一人にしていたら、「マニュアル的管理」からすると、事務的に追いつかなくなって、失格なのかもしれないが、だいたいにおいて、そういうところに電話しなければならない事態という状況は、その陥っている人にしてみれば、もうパニック寸前で、どうしていいかわからなくなっていて、なんとか人に話を聞いてもらいたい、という状態なのだから、本当は木で鼻をくくったような「マニュアル対応」では困るのである。ユーザーは相談することで、なんとか藁をもつかむ気持ちなのだから。

 回線がつながらない人に向かって、「わが社のホームページをご覧下さい」とは、いったいどういう神経なのだろう?。説明書を読めと言っても、冊子体でないと読めないわけであるし、用語のわからない人は、説明書のどこに、求める情報が書かれているか、まずわからないだろう。
 こういう矛盾に気付かないサポート要員こそ、結局説明書きを読まないユーザーより、ずっと悪質と言わざるを得ない。なぜなら、ユーザーは客であり、客である以上、サポート要員より、知識豊富でなければならないという責任を、負ってはいないからだ。サポートとは、客に説明義務を負う人のはずである。それが満足に説明をしないとしたら、そんな傲慢な会社はつぶれるがよい。
 それと、若い人は知識が豊富だからと、そういう担当にするのかもしれないが、得てして若い人というのは、慇懃無礼な者、あるいは自分の知識に、妙な自信を持っていて、偉そうな者が、最近多い。また女性は物腰が柔らかく、いいと「確信」してしまっている会社も、結構困りものである。女性の融通の利かない人は、よりいっそう困ることがある。電話の先で、机の上に置かれているであろうマニュアル通りにしか、しゃべれない人は少なくない。結局そういうときには、別な上司の男性に代わってもらうことになったりするが、二度手間だし、女性としても不本意なのではないか。
 いっそ、熟練したおじさんを、そういうところ配置したらどうなのか?。熟練したおじさんがいないなどというのは、その会社の都合であって、ユーザーの都合ではない。そんなものを、ユーザーは押しつけられる言われもないのではあるまいか。
 せっかくのソバの味が、この二人連れの会話で、1割引くらいになってしまったような気がした

※この作品が面白いと思った方は、恐れ入りますが下の「投票する」をクリックして、アンケートに投票して下さい。今後の創作の参考にさせていただきます。アンケートを正しく集計するため、接続時のIPアドレスを記録しますが、その他の情報は収集されません。

投票する