2004年11月12日号

行かれない松崎

 
  行かれない松崎
 

 今年立てた旅行の計画は、とことん台風にたたられている。いや、台風だけではない。地震もちょっとは関係ある。

 毎年夏の伊豆・松崎に行くのは、わが家の恒例行事になっている。もう12年くらい続けて行っている。それで今年は、春にちょっと言ってみようかというような話になった。気候も安定するはずの5月の中旬あたり…と考えていた。
 ところが、なんと5月中旬に台風(2号)が、関東近海を通過していった。台風が来ていては、波が荒くて釣りにならないし、漁師も出漁できないから、魚料理店の料理が、いつもと変わってきてしまい、刺身などは食べられなくなったりする。それもさることながら、電車や道路が雨量規制で、通れなくなる時があるから、行かれない、帰れないという事態になる危険すらある。
 伊豆の弱みは、海に山が直接突き出したようなところだし、半島になっていて、駿河灘と相模湾の先っぽみたいなところだから、災害にやや弱いことだろうか。
 さて、5月に小旅行というのは、無理だったので、今度は小〜高校が夏休みに入る直前の、7月中旬頃はどうだろうかと計画してみた。ここならば、まだ海辺もすいているし、今年は梅雨明けしていたから、7月の20日頃と考えてみた。
 ところが、ここでまた台風(10号)である。
 通常台風が行ってしまうと、海の底が荒れてしまうらしく、魚の食いが悪くなり、釣りにはあまりよくない。荒い波で、海底の餌が巻き上げられてしまうようだ。
 ただ、通常釣れないような魚が、逆に釣れることもあるにはある。過去旅行中に、台風が遠目の沖合を通ったことはあったが、その時には波がやや荒く、泳ぐことはできなくても、釣りはなんとかできた。そして普段あまりいいものが釣れない防波堤で、思いがけずカサゴやメジナのそこそこの形のものが釣れたりした。
 しかしまあ、結局7月もあきらめざるを得なかった。こうなれば仕方ない。いつものように、8月末から9月上旬あたりで計画するようにしようと思った。
 それで、9月3日出発で、一度は宿の予約も取ったのだが…。またしても台風(18号)。それでもそれをやり過ごし、9月8日頃で再度計画しても、沖合だったものの、また別の台風(19号)。
 もうだんだんこうなると、ヤケである。それで9月下旬はどうかと考えていると、更に台風(21号)である。台風は、直接そこにいなくても、波と風を遠くから送ってくる。なので、遠くにいるから大丈夫ということには、全然ならないのだ。
 今年は台風の当たり年で、既に10個も上陸しては、各地に大被害を出していることは、既に前の号でも触れた。日本に近づいた、または上陸したのだけでも、2・4・6・13・15・16・17・18・21・22・23・24の各号である。もううんざり…。
 その台風自体は、自然現象だから、逆らえない。しかし、こちらも毎日遊んでいるわけではないので、仕事の都合や、雑事の都合、各種の予定を処理しながら、うまくそれらをよけるように、旅行日程を調整している。もちろん、9月の3日がだめなら、8日などと、すぐに動かせるのは、かなり幸運なのであるが、それでもじゃその翌週なら行けるかと言えば、そうはない。
 こうなってくると、もう台風との根比べである。10月はどうかと思ったが、上旬はやはり台風(22号)で、下旬にかけても台風(23・24号)と大雨で、もうどうしようもなかった。それと肝心の予定が十分開けられなかった。
 こうなると12年通った伊豆・松崎に、今年は行かれないのか…という雰囲気が漂ってきたが、では信州に山菜かキノコでも食べに、2〜3日行って来ようかと思った矢先、なんと今度は新潟で地震である。
 新潟は地震で大変なことになっている。それは毎日報道されているが、となりの長野だって、結構揺れてはいる。もちろん、東京も岩盤のつながりがあるのか、震度2や3の地震は起こっている。その地震をものともせず、震源の近所にわざわざ近づく“勇気”は、ちょっとない。
 ここまで計画する旅行が、全て自然要因によってダメになると、よほど私たちに「行くな」と言っているのだろうかと思えてくる。最近引いたおみくじでは、旅行はどこの方位も、「よし」だったはずなのだが…。
 もはや、こうなると、謎としか言いようがない。そういうわけなので、今年はうちでキノコ汁をつくって食べたり、魚は小田原や鎌倉まで買いに行って、うちのベランダで干物にしたりして、「行ったような気分」を味わっている。しかしやっぱり、いつも行っているところに、行かないで年が終わるというのは、大変気分が悪い。もう12年も…となると、見知った人々が彼の地にはいるわけで、そうした人々が、「今年は来ないなぁ」と思っているかもしれない。それは何だか、心苦しい。
 「こうなると、宝くじでも当たらないとやりきれない」などと、言い放ってはみるけれど、やはり寂しい感じはぬぐえない11月の私である。

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