2004年9月3日号

胃の内視鏡検査<2>

 
  胃の内視鏡検査<2>
 

(前回の続き)
 21年前、母が最初にガンと診断された検査機関のものは、本当に「胃カメラ」であった。再検査の時に借りたフィルムは、幅が数ミリの、細い、本当にカラーポジフィルムだったのを覚えている。その後手術の前に、大規模病院で、再度検査をしたようだが、それは「カメラ」であったかどうかはわからない。
 しかし、私が受けた検査では、3回とも「内視鏡」であった。母の手術からおおよそ10年位が経過していたと思うのだが。
 検査台に横たわった私は、医師の操作をちらりと見た。医師は、ビデオモニタを見ながら、手元の内視鏡を操作していた。片目でカメラをのぞいてなんていないのだった。
 内視鏡検査は、喉に麻酔をきちんとすれば、首ごと引っ張られる感じはするけれども、痛いということは通常ない。飲み込むのがつらいという人もいるようだが、私の場合は、麻酔がうまくいかなかった3回目をのぞいて、どうということはなかった。喉を広げ気味の感じでいたら、勝手に通っていったようなものであった。
 ところが一番最近の、3回目だけはいただけなかった。喉の麻酔は、スプレーでするのだが、それがうまく効かず、検査台に上がったときにも、喉はちゃんと感覚があった。これはまずいかも…と思ったのもつかの間、果たして喉から入らない。ゲッとなってしまうからである。本来ここで「今日はやめましょう」と、私も自分の体なのだから、言えばいいようなものだが、そのまま続けてしまったから、これはもう阿鼻叫喚である。なんとか喉を通過できても、喉に太いパイプが通ってるのを「感じて」いるわけだから、医師が何か操作をするたびに、ゲッ…の繰り返しである。涙は出てくるし、大げさに言えば、胃が口から出てきそうな感覚とでも言おうか。
 あまりのことに、私は自ら内視鏡の真ん中あたりをつかみ、自分で引き抜いてしまった。これは本来絶対やってはいけないことだそうである。それは食道や、胃壁を傷つけたり、場合によっては穿孔といって、穴を開けてしまう危険があるからである。しかし、そうは言ってもどうしようもなかった。
 その検査を担当した医師は、不機嫌そうに「もう当分来なくていいから」と言ったが、こっちだって当分どころか、二度と行きたくない。だが、前回にも書いたが、予防医学の観点からすれば、そもそも麻酔が不良で、患者が苦しむなどということは、あってはならないはずである。我慢しきれなかった私も悪いかもしれないが、麻酔がきちんとかけられない看護師を擁している医師も、ちょっといかがなものかと、言いたくはなる。
 さて、そんな「事件」があってから、ここ5年くらい内視鏡検査はしていないが、胃のほうは、まあまあの調子が続いてる。それは結構なことで、体重も少しではあるが増えてきた。しかし、このまま永遠に内視鏡検査を受けないで、済むはずもないだろうと思う。早く見つければ助かる病気で、死にたくはない。
 そう思っていた矢先、新聞に直径5.9ミリの内視鏡が出来、それは鼻から胃に通すので、喉の麻酔がいらない、という記事と、カプセルに超小型のCCDカメラを内蔵したものを、薬のように飲み込み、外からそれを操作して、消化管全て(口から喉、食道、胃、十二指腸、小腸、大腸、直腸、肛門まで)を撮影し、その撮影内容は電波で体外に出力しながら、便とともに排出…というものが開発されたとの記事を目にした。いずれも数年後には、一般化しそうである。
 これはなかなかの朗報である。早く実用化されて、苦しい11ミリ内視鏡を、口から飲み込む時代も、終わって欲しいものである。

 最近のデジタルカメラの改良は、めざましいものがある。ちょっと前までは、35万画素のものがやっとで、その荒い画像を、なんとかきれいに見えるように印刷するソフト、などというものが存在した。ところがデジタルカメラの画素数は、飛躍的に増え、今や500万画素などいうのも、普及製品になってきている。なにしろデジタル一眼レフカメラなどというものが、本当に実用化されて、それで撮影した画像が、普通に雑誌のページを飾るようになったのだから。
 そういう時代の今、カプセル内視鏡などのような、新技術の開発と、それに伴う患者の負担軽減への流れには、大きな希望と期待がもてると言える。外国では、既に実用化しているところもあるようだが、早く我が国でも一般化して欲しい。
 ここ何年も受けていない胃の検査の、空白を埋める最初の検査は、出来ればカプセル内視鏡、無理なら5.9ミリ径内視鏡を鼻から通してで、ぜひお願いしたいと思う。もう自分で抜いたりしないから…。
<完>

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