2005年2月11日号

情報誌の正確性と編集主幹

 
  情報誌の正確性と編集主幹
 

 鉄道を、趣味と研究対象とするものとして、毎月「鉄道雑誌」は欠かせない。
 鉄道を扱う雑誌には、情報誌として数誌があるが、中でも一番の勢力を持つのは、Y社が出しているP誌である。このY社は、今も昔も本職向けの、難しい本を主に出しているらしい。
 一方、かつて私が中学生だった頃に、内容が難しくて、取っつきにくかったQ誌は、最近お気に入りで、これは定期購読している。難しさは相変わらずだが、それでもいくらかやさしくなった。
 これらはいずれも「情報雑誌」としての性格が強く、JR・私鉄の次回ダイヤ改正、新車の登場、旧型車の廃止、路線の開通や廃止などのニュースが、かなりのウエイトを占めている。その他は、特集記事で埋めつくされることになるわけだ。
 さて、そんなP誌とQ誌の2つの雑誌であるが、かつては私自身P誌を購読していた。カラー記事が多くて、わかりやすく、かつ情報の正確さ、特集記事の深い掘り下げなどは、右に出るものはないと思っていたからだ。事実、Q誌がかなり専門的知識を、予備知識として要求していたのに対し、P誌は解説が丁寧になされるなど、かなりその性格を異にしていた。
 ところが、戦後まもなく量産され、桜木町事件を引き起こすことになってしまった、「モハ63形電車」の特集記事を巡って、その編集姿勢に幻滅したため、P誌の購読は中止することになった。その顛末はこうである。
 この記事は、P誌編集主幹のT氏という人が、書いたものであり、その号の特集記事であった。ところが、これが間違いだらけで、まともに読めたものではない。巷間言われている一般的な歴史すら、全く間違って解釈されていた。あまりに専門的なので、いちいち細かい指摘をここではしないが、車輌研究には欠かすことのできない、「車輌の履歴」が間違っているなど、およそ情報を主とした本として、致命的なほどであった。
 これはいただけない。この種の雑誌は、やはり書いてある情報の正確性が、一番に追求されるべきであり、どうしてもそれが保証できない場合は、その旨明記するべきである。そこらの芸能ゴシップ週刊誌じゃないのだから。いや、それですら、最近はある程度の裏付けがないと、訴えられたりする。
 私はこのP誌の編集部に手紙を出した。逐一間違っているところを指摘した上で。それはそれで、「やらしい」指摘だったのかもしれない。しかし、情報雑誌としては、それに回答したり、次号で訂正記事を出すのは、当然と思っていた。結果は、全くの黙殺であった。編集主幹様の記事は、どこもいじれないということらしい。
 後年、今度はQ誌のほうが、同じモハ63形電車を取り上げた。この記事での筆者は、普通の研究家の人で、編集主幹であったりはしない。ところがやはり数カ所間違いがある。そこで今度は、「訂正記事」の形で「投稿」してみた。するとQ誌は、それを原稿として扱い、掲載したあげくに、原稿料までくれた。さらには掲載誌も1冊くれた。
 断っておくが、Q誌を褒めちぎるつもりは全くない。本来編集の段階で、チェックされてしかるべきことであるには、違いないからだ。

 この2つの雑誌の対応は、非常に対照的に映る。もちろんP誌のほうには、手紙として送っているので、多少のexcuseはあるかと思うし、それをそのまま掲載しなかったのは、最初から原稿として書いていないので、特に問題があるとは思わない。しかし、まとめて訂正記事くらいは載せるべきであり、おそらく指摘をしたのは、私だけではないはずだ。
 モハ63形電車というのは、今戦中〜戦後世代の人なら、まあまあ知ってはいると思うが、一部は戦中、多くは戦後に大量生産された、粗末な電車である。戦後の物不足の時代、部品不足や、戦災による損傷で不足していた輸送力を改善するために、とにかく輸送を確保を第一に考え、あらゆる犠牲を払って量産された。荒廃した電車の中にあって、ともかくも新車であったから、これによる輸送の改善は、目を見張るものであったと記録されている。
 しかし、大半の鉄道ファンが、その歴史的経緯を知らない世代となった今、モハ63形電車が戦後復興に果たした役割と、粗製濫造がもたらした罪の両面を、きちんと正確に記述することは、日本の戦後史を語る上でも重要なことであると思える。
 それを、編集主幹の記事だから…と、訂正できないイエスマンのみで、編集されているとしたら、その雑誌は、もう情報雑誌の看板は下ろすべきではないのか?。編集主幹の同人雑誌だと言うなら、それはまた別だろうが、それならそうと明記して欲しいものだ。
 昨今、NHKが見苦しいことになっている。「みなさまのNHK」とか言いながら、朝日新聞を一方的に叩く時間を、よりにもよってニュースの時間に、公共の電波に乗せて延々と繰り返す。この見苦しさ、及び、受信料を払っているものとしての、不快感といったらない。もはや、内容の真偽の問題では、無くなってしまっている。どこが「みなさまの…」だろうか。これとても、一方口をニュースに乗せて、垂れ流すくらいなら、「会長の同人放送です」とでも言うべきである。
 P誌とNHK。その病根は、案外同じようなところに、あるのかもしれないと思うのは、私だけだろうか…。

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