鎌倉失格写真店
最近鎌倉に行くのが、うちの“ブーム”になっている。前から時々行ってはいたのだが、このところ私の「マイ・ブーム」が、アニメ館の某作品になってからは、かなり頻繁に行くようになったとは言える。もちろん、アニメ館の“取材”のためだけに行くわけではなくて、鎌倉でしか買えないいくつかの、ちょっと変わったものを、母親ともども買いに行くのが、わが家の定番になりつつあるのだ。
そんなわけだから、たくさんある寺社は、そんなに見ない。小町通りや御成通りといった、商店街巡りが中心だ。鶴岡八幡は、さすがに何度か行ったが、それでもサクラを見にであったりする。いくつかのポイントを定めて、それを一つずつ見に行くというパターンが多い。
さて、先日もそんな具合で、報国寺の竹林を見に行こうと思っていた。ところが、ガイドに持っていった本の地図が間違っていたし、思ったより全然遠くて、車で行くべきだと思い直したから、結局行かなかったのだが、その前に、鎌倉駅から鶴岡八幡の向かって西側に通じる、小町通りという商店街を歩いて、お香を買ったりしようかと思っていた矢先、持っていたデジタルカメラの電池が無くなったので、予備のバッテリーと交換しようとした。ところが、わずかにバッテリーの側面がふくれているのか、所定の手順で、消耗したほうのバッテリーを取り出そうとしても、取り出せない。となると、充電済みのバッテリーを入れることができないから、この先何も撮影できなくなってしまう。
これは大変困ったことだ。どうするか…、と考えて、ピンセット状のものでなら、なんとか取り出せるのではないか、そうすれば、交換済みのバッテリーは、うちまで持つはずだから、なんとかなると思った。
では、ピンセットを持っているような店は無いだろうかと考えたが、まあそうなれば、写真屋さんが早いだろうと思った。何しろ、最近はたいていの写真店が、デジタルプリントサービスなどしているのだから。この種のトラブルには、対応できるはずだ。
それで、小町通りには覚えがなかったので、鶴岡八幡への参道である、「若宮大路」という、桜並木の「段葛」のある道路に出た。そして見ると、遠くに写真屋らしき模様の看板が見える。これはしめたと思い、そこへ行って、扉を開けて中に入った。以下、私とそこの店主の会話である。
「すみません、デジカメのバッテリーが取り出せなくなってしまったのですが、ちょっとピンセットでつまんで、出してもらえませんか?」
「ピンセットなんかないから。ダメだね。ちょっとうちじゃ。扱ったこともないし」
私はすぐにこの店主はダメだと確信した。年の頃50代の、「例の世代」である。この世代の評判は、私ら一回り下の中年世代などからすると、すこぶるよくない。
私のデジタルカメラを、扱ったことはないかもしれない。あまりたくさん普及しているメーカーのものでもないし。それはわかる。だから無責任なことはできないと思ったのだろう。それも仕方ないし、妥当でないとは言い切れない。しかし、カメラを扱う写真屋に、ピンセットがないわけはない。これははっきり嘘のいいわけである。カメラを売っている店に、ピンセットがなくて、どうしてフィルムやシャッターのトラブルに対処できるのだろう?。
私の姿を見て、観光客だと思わないわけもない。大きな紙袋を下げているのだから。そんな観光客は、相手にしないというような態度は、いかがなものか。別にたてまつって欲しいとは、さらさら思わないが、もう少し親切な対応はできないのだろうか。まったく言葉遣いからして、どちらが客だかわからない。
私は、「〜してくれませんか?」と頼んだのを、店主が断ったことそのものを批判しているのではない。もう少し言いようがあろうと思うし、そもそも観光に来た人を、つまらない気持ちにさせることの、商店主としての態度を言っているのだ。
こういう尊大な態度は、50代という世代のせいだと、言い切る友人もいる。私の立場からすれば、「そうはない」と言わねばならないはずだが、一般に50代の人々の態度は横柄で、どうしてあんなに尊大になれるのか、理解に苦しむシーンを、よく目にすることは事実だ。これが、どの程度の一般性を持つのかわからないが、複数の証言があるにはあるので、もし世代としての問題だとするなら、それは残念なことである。
件の写真屋をあとにして、私は比較的大きな薬局に向かった。薬局ならピンセットもあるだろう。それと、もしかすると毛抜きが、力をかけられるという点では、いいかもしれないとは、母の提案であった。なるほど、毛抜きは、先がぴったり合って、力もかかるはずだ。そうでなければ、毛など抜けないから。
私はその薬局で、ピンセットと毛抜きを両方買うことにした。そしてレジに行こうとして、ふと見ると、「肩こりバン」という、磁力線利用肩こり治療具を売っている。これはまたいいものを見つけた。肩こり族の私としては、非常にうれしい。某社のCMで有名な製品もいいのだが、ちょっと値段も張るし、肩じゅうにベタベタ貼るには、ちょっと考えてしまう。この「肩こりバン」は、結構安くて、それでいてそこそこのパワーがあるので、いつも無いか無いかと探しているのだ。
結局私は、ピンセット、毛抜き、肩こりバンの3つを持って、レジで精算した。大した金額ではなかった。
カメラのバッテリーは、このうちの毛抜きで取り外すことができた。所定のレバーを取り出し位置にしながら、毛抜きで少し出っ張っているバッテリーの尻をつまんで、少しずつ引っ張ったら、難なく取れた。
もし彼(か)の写真屋が取り出してくれていたら、どうだろうか。もちろん、お金を払うことにやぶさかではないし、ただでいいと言われれば、フィルムの3本セットの1つくらいは、買って店の売り上げに貢献するくらい、常識だと思っている。何しろ、薬局に行って、関係ない「肩こりバン」まで買ってしまう位なのだから。人の親切にお礼の意味を込めたことをすることに、なんの躊躇も無いけれど、現実には、そんなことをさせてすらもらえない態度であったわけだ。
鎌倉の多くの店で、不快な思いなんて、今までしたことはない。今回が初めてである。また今後も、これが唯一の事例であって欲しい。世知辛い世の中だから、件の写真店主も、保身的な言い方になったのだろうが、国際的観光地なのだから、もう少しの親切心は、もってもらいたいものだ。
それから、今50代で、そんな鎌倉の大通りに面したところに店を構えていられるのは、おそらく先代から譲り受けた店だからだろう。“世代”が不親切にさせているなら、さっさと次の代に譲ったらどうか、もしくは……などと、よけいなことの一つも、言いたくなるというものである。 |