カントウタンポポタネのゆくえ
このところカントウタンポポの花は、どの株もどんどん開花している。カントウタンポポは、日本固有の在来種で、自分の株の花同士では、タネが実らないことを既に書いた。
うちには複数株あるから、受粉さえさせてやれば、綿毛のついたタネができないことはない。しかし、虫や風による自然の受粉は、あまり期待できないので、だいたいは違う株の花同士をこすりあわせて、人工授粉させる。
今の時期は、花がたくさん咲く一番いい時期なので、片端から「人工授粉」させてやるようにしている。
近所の雑草地に生えているセイヨウタンポポの群落では、もうたくさんの綿毛が見えるのだが、あれは自家受粉で実がつくので、ほうっておけばどんどん実がついて、風に飛ばされてゆく。代々木公園の外周の法面でも、セイヨウタンポポの黄色い花がたくさんと、綿毛たくさんが車の窓から見えた。
しかしうちのベランダは、そんな世界とは環境が異なる。
強い日の光に弱く、うどんこ病がしばしば出現するカントウタンポポは、どこまでも手が掛かるが、受粉さえしてやれば、その花が終わってしばらくすると、ちゃんと綿毛が出来て、その中に実ったタネがある。
綿毛は朝、日の光がさすと、開き始めるようだが、丸いきれいな形になるのは、すぐではなくて、昼前くらいになることが多いようだ。丸いきれいな形になっていないと、少々実の入りが悪いというか、タネの成熟度が良くないように思える。
タンポポの、一輪の花に見える黄色い花は、実は舌状花という小さな花びら1枚をもつ花の集まりである。それが輪(りん)を形成する。そのためにその舌状花一つ一つが受精すれば、その数だけ実ができる、すなわち綿毛になって飛んでゆくタネ一つ一つになるというわけである。そういうわけなので、受精した花の数が少なければ、それだけ綿毛が不揃いになり、丸いきれいな形にはなりにくい。
受精がうまく行かなかった花はどうなるか。全く一つも受精できなかった時には、綿毛自体が出来ないで、そのまま枯れてしまうが、10粒以上程度受精が成功した時には、綿毛が成長を続け、一応開くことは開くようだ。でも受精した花以外は、綿毛の下につくべきタネが育たないので、イネで言う「しいな」の状態、すなわち不捻になる。
さて、こうして実ったタネはどうするか。そのまま放っておけば、タネの下側で花柄から外れて飛んでゆく。はるかな旅に出るわけである。しかしうちでは、極力そうはしないで、「収穫」するようにしている。
それはこの周辺では、カントウタンポポの性質からして、ちゃんとした生育が維持できないだろうと考えられること、また他に育った株がないと、その子孫を残すことは出来ないのだから、たとえタネが風に乗ってどこかへ運ばれ、そこで発芽して根付いたとしても、次の世代が育つ可能性が非常に低いと予想されること、そもそも草刈りが夏前に盛んに行われるし、土の露出したところが少ないようなところだから、育つ余地がない、…といった理由があるからである。
「収穫」は、昼過ぎ頃に、手でつまんで行う。綿毛の上のほうをつまんで、素早く容器に入れる。綿毛が切れてしまうことはなく、下についているタネがちゃんとついては来るが、容器に素早く入れないと、風にすぐ飛ばされる。容器に入れても、すぐフタをしめるのは必須である。それでも多少の取りこぼしはあるので、拾える分は拾う。ベランダだから、さほど難しくない。
一番の障害は、春の気まぐれな風である。ちゃんとよく見ていないと、昼前にはまだいびつだった綿毛の開き加減が、日光に当たっているうちに、どんどん開いて、気がついたら風で全て飛んでしまい、坊主になっていた…ということもある。時には失敗もあるものだ。
ただこの綿毛の開きはじめは、結構ばらつきがあって、朝から昼にかけて開くばかりとも言い切れない。まれではあるが、夕方開き加減になり、日がささなくなって、そのまま止まり、翌日の朝とともに開く場合がある。そのような時は、綿毛が飛べる状態になるのが早いので、注意が必要である。このあたり、「在来種」としてのカントウタンポポの性質なのであろうが、結構場当たり的にも映る。
とったタネをどこに蒔くというアテがあるわけではないから、翌年も他の株の脇に蒔く程度である。都会の中では、なかなか適当な場所も見つからない。
しかしこの季節、数株のカントウタンポポに振り回されるのも、それはそれで楽しい。まさしくそれは野草の、個性的なばらつき具合を見るからである。
野草の楽しみは、高度に規格化・マニュアル化した現代、それに拮抗するかのような、一種アナログ・ローテク的な「手作り・ばらつき感」を、静かに味わうこと、なのかもしれない。 |