カワラヒワのために
9月20日の朝日新聞朝刊に、「けさの鳥」と題して、カワラヒワが載っていた。
カワラヒワは、タデの類が大好きで、ウチのベランダで育てている「オオケタデ」に、毎日のようにやってくるのは、前にも書いたとおりである。新聞の記事にも、河原の中州に大群で出てきて、タデなどの種子を…とある。
新聞の写真は、ウチにやってくるカワラヒワより色が薄いが、それは印刷のせいだろうか。ウチにやってくるのは、もっとウグイス色が濃くて、言ってみれば“ウグイスもち”のようである。
それはさておき、今のこの季節、だいぶ朝夕涼しくなって、気温の寒暖差も大きくなってきても、ウチのベランダ植物のオオケタデは、赤い花びらと、その中の黒い実は相変わらずで、少しずつ紅葉する気配を見せつつも、元気と言えば元気だ。下葉は1枚また1枚と枯れてゆくけれども。
先号にも書いたが、ウチは夏の終わりに毎年一週間ほど、西伊豆に行くので、その間水やりをどうするかは、いつも問題になる。
ベランダにはいろいろな植物があって、その中には一週間程度なら、水を多めにやっていけば十分というものもあるが、普通の鉢ものは、何らかの方法で水を補給してやらないと枯れる。
だいたいの鉢は、オーストリア製の「ブルマット」という、毛細管現象を応用して、自然に水を補給するグッズを使う。これはなかなか良くできていて、コーンと呼ばれる素焼きで中空の杭を、鉢の土に埋め込み、それと水を入れた容器を細い管で結ぶというものだ。コーンが素焼きなのがミソで、土が乾きぎみになると、素焼きのコーン内部から水がしみ出し、その分管が負圧になるから、容器から水を吸い上げる、という仕掛けである。
ところがオオケタデだけは、毎日4リットルほども水を「飲む」、草丈2メートルにもなる植物だから、ブルマットの給水力ではとうてい足りず、何か別な対策が必要となる。
以前は家の中に取り込んだりもした。しかしそうすると、色が抜けたように枯れてしまうのである。空気の流通がなく、日照が決定的に足りないせいだろうか。
別に旅行の前に、バッサリ切っていったって…とも、一瞬は考えたが、この草の実が大好物で、それをあてにしている鳥たちがいると思えば、そんなことは絶対にできない。
すると失敗して枯らしてしまわないように、なんとか一週間水やりを続ける術を、考えなくてはならない。
あるとき、よく行くそば屋のとなりにある「S.D」というホームセンター的大規模店に立ち寄ったら、偶然電動散水器の手頃そうなのを見つけた。水中ポンプと分配器、水量調整弁に、それらをつなぐホースという、割と単純な構成で、毎日1回、1分間水が出るという。細かいタイマー設定ができないが、それだけ単純化されているということである。「GARDENA」という名前だが、専用バケツのついたセットになっていたので、試しに買ってみた。
それで去年から、オオケタデは自動給水で、私たちの旅行中を乗り切ることになった。ただ簡単にそうなったわけではない。GARDENAのセットのバケツは、小さすぎて使えず、代わりに小さな子どもなら、水遊びができそうなくらい巨大なバットに水を張り、それを使った。また1日1回ではとうてい水量が足りないので、別に秋葉原で調達した、熱帯魚を飼う人がよく使うタイマーを追加して、1日3回、1回1.2リットルくらいの散水になるように実験を繰り返した。
当初はセットに含まれる分配器で、他の鉢、例えばキンカンなどといっしょに散水できるかも、などと考えていたが、まったくそれは甘い考えなのであった。もう完全にこのセットは、オオケタデ専用である。それも秋口の一週間のためだけにである。
ふと思えば、ここまで必死になる私も、お金のかかる道楽をやっているようで、いかがなものかとは思うが、あらためて理由を求めるとすれば、オオケタデそのものの美しさ、力強さ、珍しさという要素もさることながら、体長10cmほどのきれいな鳥カワラヒワが、毎日のようにそれを求めて、いずこからかやってくるということが、都会の団地に暮らす私たちに、自然がもつサイクルの一端を見いださせるものであり、そのこと自体が尊いと思えるから、ではないかと思う。
今日は雨が降っていて、カワラヒワはやってこない様子だが、この雨があがれば、紅葉しつつあるオオケタデに、またやってくるだろう。花ばかりでなく、葉や茎にも赤みがさし始めたオオケタデに、カワラヒワの濃いウグイス色は、いっそう映えるにちがいない。 |