2003年12月19日号

気になる子猫

  気になる子猫
 

 近所にペット飼養可の、賃貸低層マンションがある。そこに住む人々は、みななにがしかの動物を飼っている様子である。家主があるいは動物好きなのかもしれない。エントランスには、花鉢などが置かれているが、そっちの手入れはあまり良くなく、夏など水が枯れていることもある。
 建物は3階建て。西側の道路に面した側に家主が住み、その他の部分を賃貸しているようである。
 そのマンションのどこかの家で秋頃、2匹の子猫が生まれた。1匹はキジ白のぶち、もう1匹は全身がベージュ色の、いずれも器量のいい子猫である。
 おそらくは南側の、細い道に面した一室ではないだろうか。そこにはベランダに出るサッシに、猫用の出入り口が設けてある。またよくベランダに、半野良の猫が寝そべっていたりする。
 子猫は親猫のそばをちょろちょろしていたが、やがて親の目から離れて、マンションの周りを走り回るようになった。
 だがどうもここの猫たちは、警戒心が強いのか、私のような知らない人には、寄ってくる気配はない。その割には堂々とマンションの人間用エントランスから、階段をのぼっていったりしている。最近はやりの「地域猫」というのではないのである。
 まあ最近の動物虐待の話などを聞いていると、知らない人に寄っていく猫では、それもちょっと心配ではあるが、そんなつもりはないこちらとしては、少し寂しい。先日もたまたまカメラを持っていたときに、ベージュの子猫が、何をするでもなくマンションの敷地にいたので、カメラを取り出して向けたところ、オートフォーカスの「ピピッ」という音で、さっと逃げられてしまった。
 やれやれ…という感じであるが、彼らの走り回る速度は、瞬間的に相当なもので、ものすごい勢いで道路も横切るから、見ていて気が気でない。道路には結構車がやってくるからだ。

 近くの「H」という、大地主の家には、古くから池がある。庭にある池というのとはちょっと違っていて、コンクリートで四角く固めた池だから、もしかすると昔は何か商売にでも使っていたのかもしれないが、今はスイレンが少し生えているだけの、ただの池である。
 ところがここから、春先になると、ヒキガエルが生まれて、低い塀を乗り越えて道路に出てくる。道路は狭い一方通行だが、反対側には同じ地主の建てたアパートがあって、そこの中に向かって、なんとなくカエルたちは行進していくようだ。
 しかしそこの車の通りは、道幅に似合わないほど多く、雨の日の翌日など、特に何匹も車に轢かれたカエルが、無惨な姿になって発見される。ぺっちゃんこになって、ひどい状態である。そうなるのは容易に想像がつくから、道のすみにたまたまカエルがうずくまっていると、何度もつかみあげて、アパート側の塀の中に返してやったか知れない。別にカエルが苦手ということはないが、妙に冷たいぐにょっとした感触で、つかむと「ぶふっ」と言うカエルは、あまりいい感じというものではないけれど、ヘタをすれば数分後には、ぺっちゃんこになって轢死するかもと思えば、そうしないでもいられない。
 ある日その地主のおやじさんが、塀の中で自分の家の庭木を手入れしているのが見えた。池のところの塀は低いが、庭のところの塀は少し高くなっていて、道を歩く私から、直接互いが認識できる位置ではない。しかしいつも見かけるおやじさんの背格好から、そうだとわかった。すかさず聞こえるように、つい口をついて出た。
 「カエル出さないで下さい」

 子猫が横切る道は、見通しも良くなく、良い道ではないので、地元の訳知りの人々は、比較的車をゆっくり走らせる。猫はともかく、子どもが飛び出したりするからだ。しかし勝手を知らない営業の車などは、結構無茶な走りをしている。そういう“田舎モノ”の車を見ていると、そこらを走り回る子猫たちが心配だ。
 マンションの家主には、一言言いたい。「危ないから子猫出さないで下さい」…と。いや本当は、ちょっと子猫が遊び回るのを、見ていたいのも本音だけれど。

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