2004年7月2日号

キンカン最大の危機

 
  キンカン最大の危機
 

 わが家のベランダにある、太くて、背の低いキンカンの鉢植えの話は、少し前にも書いた。
 毎年恒例の、冬にある地域の植木市で、数年前に買ってきたものだ。それがいつも決まって100個以上の実をつけていたのだが、去年は全体に樹勢がやや弱り、実の数も少なくなったばかりか、葉っぱの勢いもなくなってきた。
 それと、枝が伸びすぎた印象になってきて、もとの木から、遠いところに葉っぱが固まったような感じになってきてしまったので、そろそろ剪定と、植え替えも必要になってきたと思えた。
 そのために、今年の1月の植木市で、このキンカンを購入した農園のおじさん、既に毎年顔なじみなのだが、その人に植え替えと剪定の仕方を聞いてみた。
 おじさんによると、4〜5枚の葉を残して、その先の枝を止め、短めにする。また上を詰めれば、その下に栄養が回るから、だいたい2月頃に剪定をする。そして植え替えは3月終わり頃に。植え替えの時には、古根をある程度さばいてもいい。実を収穫したら、肥をやること…とのことであった。
 実の収穫は、当初1月を予定していたが、思いのほか早く実ってしまって、ヒヨドリに食われたりしたので、12月には収穫を終えた。それですぐ肥料をやっておいたのだが、剪定は、都合で2月15日になってしまった。もしかすると、今年に限っては、全体に気候が早く回っている様子だから、もう少し早い方が、よかったかもしれない。
 剪定は、言われた通りにやろうとするが、必ずしも4〜5枚なんて、葉っぱが“教科書”通りに出ているわけではないので、なかなか法則性は見いだせない。しかしまあ、なんとかおおよそは、おじさんの言にしたがってすすめた。4枚も葉っぱがないところは、最低2枚にするなどして。
 植え替えのほうは、3月中には忙しくてできず、結局4月7日になってしまった。今年の気候からすれば、だんだん新芽が動き出す頃かもしれないが、やむを得ない。ベランダでの生育では、土も買ってきたものだし、鉢だってそうそう簡単に手に入れてこられない。ホームセンターに車で乗り付けて…というわけには、車もないうちの場合、いかないからだ。
 植え替えのために、根っこごと株を鉢から抜いてみると、新根の生育が良くなく、直根のようなものが、下に向かって伸びてない。これでは調子も悪くなろうかというものである。しかしなぜ直根が、伸びていないのか、その理由はちょっとわからない。下に向かって伸びようとした根が、途中で止まって、そのあたりで固まっているような印象だし、そもそも根の太さが細い。
 理由としては、土が締まりすぎていて、根に十分な空気が届いてないか、土の質が良くないか、鉢の水分流通が良くないなどが考えられるが、私も花卉園芸が専門ではないし、結局わからなかった。
 それでもそのままにしておくわけにはいかないから、とりあえずは古い根をある程度切り捨てて、古い土をはらい落とし、なるべく新しい土が根に触れるようにしてから、植え替えを終えた。鉢は元のプラスチックのものを使用したが、下のほうには、鉢底用の軽石をたくさん入れて、透水性を良くしたつもりだった。
 入れる土のほうは、あまり好ましいのかどうかわからないが、市販の培養土とせざるを得なかった。ベランダでは、自分で土を作るというのは、実際のところちょっと難しい。したがって土が悪いかも…と思っても、別の銘柄の土に切り替える程度のことしかできないのが、限界と言えるだろう。

 さて植え替えもすんだキンカンは、当初やや葉っぱの色がつやつやして、よさそうかに思えたが、5月に入る頃から、新芽の発芽を予期させる出っ張りが、去年伸びた枝の部分から、少しずつ出る気配は見せたものの、それがちゃんとした芽にはならない。それどころか、だんだんじわじわと枝が枯れ始めるではないか。
 これは予期しない事態だ。もしかすると、木全体が枯れてしまうことも予想される。何年も大事にしてきただけに、それだけは何としても避けたい。
 「植物活力素」なるものもやってはみるが、そもそも根から吸えないのであれば、活力素であろうと、肥料であろうと、吸収されるはずもない。
 結局じっと、毎日観察しているしかないのであった。
 だが、観察している間にも、それまで残っていた葉っぱが、風が吹くたび、ちょっと手が触れるたびに、1枚また1枚と落ちてゆく。葉っぱがゼロになれば、光合成ができないわけだから、かなり危機的だ。枯れてゆく枝は、もちろん葉っぱがゼロになった後、そのまま茶色くなって枯れる。
 もう絶対に絶命かと思われた。同じようにこの木を大事にしている母とともに、「もしもの時は、あきらめよう」と話し合った。
 一般にこのような、なり木ものは、鉢を大きくした場合、プラスチックの鉢は良くないとされる。それは鉢の周縁部の温度が、予想外に上がるのだそうだ。また素焼きの、昔ながらの鉢に比べると、通水性、通気性も、まるっきり良くない。これらが根の伸張を阻害するほうに働く。しかし大きな鉢は、素焼きでは重いし、だいいちなかなか売ってない。
 剪定自体は、新芽の伸張を起こさせる刺激になるそうだが、うちのキンカンの場合、剪定がどう作用したかわからない。
 私たちに原因があるとすれば、今年の気候からして、植え替えが遅すぎた感じはある。例年ならば、問題にならなかったかもしれないが…。ただ、結構太くてしっかりした木だから、単一の原因で、ここまで不調になるのかどうかは、ちょっとわからない。
 いよいよ木の左側半分は、全ての枝が枯れた。仕方がないので、そちら側の、何本かの枝は、はさみで切ってしまった。しかし残りは、枝のどこまでが生きているのか、わからないので、当面そのままにしておいた。
 それでも5月の終わり頃だろうか、残った右側のわずかな枝に、小さな新芽の芽吹きが見えた。もしかすると、木は復活しようと思っているのか。ついに残る葉っぱは、わずか18枚になっていた…。
 6月16日、とうとう新芽が発芽した。それと同時に、何カ所かに新芽のもとが見えてきた。これでなんとか最悪の事態は避けられたのだろうか。
 6月末の今、10カ所以上から芽が出てきた。なんとかこの木は、生きながらえそうだ。
もう少し落ち着いて生育するようになったら、左側の枯れ枝を全て落としてやろうと思う。

 人間の知っていることは、やはり一部分に過ぎない。また小さな自然の部分である鉢植えでも、ことは“教科書”通りには進まない。大事なキンカンの、死の危険は、私にそれを、いまさらながら、あらためて認識させてくれたと思う。もっと情報が必要なのだ。

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