2004年11月5日号

この政府のていたらく

 
  この政府のていたらく
 

 いや、今に始まったことではないのである。このていたらくは。だが、このところのそれは、あまりに目に余る。
 今回の新潟中越地震も大変な災害で、これについては、あとで触れるつもりだが、その前に立て続けにやってきて、各地に大災害を及ぼした台風災害で、異例に多数の死者が出たこと、および様々なところで土砂災害に見舞われたことは、記憶に新しい、はずである。
 まずは、その台風被害について触れたい。
 今回の台風18号あたりから、22号に至るまでの、どんどん上陸する台風で、死者は91人にも上るという。いまだ行方不明の人もいると聞く。これはいったいどういうことなのか?。
 たかだか、というと語弊があるし、今年の台風の異常な上陸率や、大きさ、規模も異例であることはわかるけれども、ずっと昔から、毎年いくつかは上陸している台風で、100人弱もの死者が出るというのは、まったく文明国としては情けないと言わざるを得ない。
 低開発国で、災害の規模が、いろいろな条件の不備から、より大きくなってしまうのは、ままあることではある。しかし、台風のメッカともいうべき──いや、それはあまり有り難くないけれども──この日本で、非文明国とはさすがに言えないはずの日本で、これほど多くの人が、災害死していいわけはないのである。
 この責任はどこにあるのだろうか。莫大な金をかけて、それも税金から支出して、治水事業や、治山事業を展開している国であるが、それらは今回、何の役にも立たなかったのではないのか?。
 と、こう書くと、必ずや、「じゃ、放っておいたほうが、犠牲者が少なかったとでもいうのか?」という、反射的な反問が返ってくるかもしれない。
 しかし、それはあたらない。本来、治水や治山というものは、どんな条件でも、被害が起きないようにするものであって、そのために巨額の税金も支出して、山を固めたり、ダムを造ったり、川を鎮めたりしているのではないか。それが今回のようなことになってしまうというなら、それらは無意味だったのでは?と思われても仕方ない。
 もちろん、今年の台風が異例中の異例であったことは、事実なのではあるけれども。野放図に山を切り開いて開発を続けたツケが、今に回ってきているのではあるまいか。それもそうした乱開発に対して、その場の金の流れしか考えなかった、この国の政治体質の責任である。
 それにしても、いったい国土交通省は何をしてきたのか?。この疑問には、国民が信託している以上、公僕として答える義務があり、責任上、国土交通大臣は辞任するくらいの気構えをもっていただきたいものだ。まあ、現大臣に昔から続く国土政策の直接の責任が、全てかかるとまでは言い切れないが、さりとて、監督省としては、責任なしとも言えないからである。
 100年に一度、起こるかどうかの災害のために払う、社会的コストを計算に入れるべきかも、というのも理屈としてはあるだろうが、それで死ぬ側からすれば、たまったものではない。ただ、年々歳々気候は激しくなっており、それを昔の段階で、予測できなかったことはあるだろうが…。

 それと気になるのは、小泉首相の動向である。
 今回の新潟中越地震では、相当な被害が出て、近年では阪神・淡路大震災に次ぐ規模の揺れを観測している。死者も、これを書いている時点で39人に上る。それなのに首相は、地震が起きても、被害の状況をつかまないまま、楽しくご観劇だったそうだ。首相たるもの、相当な揺れを観測したのを知った時点で、即座に官邸に戻り、情報収集にあたるべきであり、被害が拡大している懸念があれば、真っ先に現地に飛んで、被害状況を視察するくらいは、当然のことであろう。
 ところが実際の首相の行動は、田中真紀子元外相や、民主党の岡田代表に先を越され、あとからのこのこ見に行って、避難所をわずか15分程度回っただけ、というていたらくである。まったくこんな人物に、どうしてこの国を任せていられるのか、さっぱりわからないが、選挙向けのパフォーマンスの部分があったり、通信や交通の途絶で、状況の把握に時間がかかったという、多少のエクスキューズがあるにせよ、まず真っ先に何が何でも現地に駆けつけるのが、首相の責任だと思うのだが…。
 ドイツの首相は、彼の国の高速列車が脱線する大事故を起こしたとき、何を置いてもすぐ駆けつけて、現地を視察していたと記憶する。普通の為政者はそういうものだ。
 首相は、どこかの神社に意地になって参拝するのには、ずいぶんとご熱心な様子だが、被災地を見て回る首相としての責任には、あまりご熱心ではないらしい。

 まったくこの国にして、この首相あり。またこの国土交通省あり、という感じである。このていたらく、どうするべきなのか。国民が選挙で選んでいるのがいけないのだろうが、それにしても、あまりに自覚がなさ過ぎるのではないか。
 それでいて、政府は2007年頃に消費税率を上げようとか言っている。治水、治山、開発に対する適切な監視も、ろくにできないような国。地震国でありながら、首相が地震の被害をすぐに視察に行かない国。こんな国のために、高い税金を、支払いたくはない。
 納税は、国民の義務であるが、それは、その納めた税金が、有効に、かつ正しく用いられることが前提のはずである。その前提が、ややもするとあやしいこの国で、まじめに納税する気を持ち続けるのは、容易ではない…気もするところである。

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