2005年4月8日号

魔法のハードディスク

 
  魔法のハードディスク

 
 この作品を発表するのに使用していたり、他のコンテンツを作るのに使用しているパソコンは、内蔵のハードディスクが13GBなので、容量が決定的に足りない。それは、ホームページ制作以外にも、ビデオキャプチャや、静止画取り込み、それにデジタルカメラの画像管理などにも使っているからだ。そのため、今や珍しいSCSI方式の、外づけハードディスクを3台も付けている。
 ホームページ用には、外づけの18GBハードディスク1台のうち、4GB位を割り当てているが、ホームページ制作に使うだけなら、それで十分である。しかし、素材を準備したり、画像を作るために一時的に置いておいたり、画像を処理することを考えると、全体の容量が、もう少し欲しい。そこでこの18GBのドライブを、36GBのものに交換することにした。あわよくば3台もついているハードディスクを、1台くらいは減らせないかという思惑も、あるにはあったのだ。
 さて、もとの18GBのハードディスクは、中古で買ってきた、サーバーコンピュータ用のもので、SCAコネクターという、あまり一般向きでない形のコネクターになっている。外側のケースの関係で、新たに導入しようと思っている36GBのものも、同じSCAコネクタータイプのものに、する必要があった。
 この種のサーバー用のハードディスクというのは、秋葉原などで多量に売られている。比較的安いのはいいのだが、当然どこのサーバー機に入れられていたものかわからないので、使用時間が不明であり、相当酷使されているかもしれない。何しろサーバーというものは、停止することは好ましくなく、ずっと電源入りっぱなしということであるから。
 その意味では、あまりコンディションが、もともと良くないはずなのであるが、いい品に当たれば非常に堅牢なので、何台か使用実績があった。
 それで秋葉原のジャンク店に行き、ごろごろしていた36GBのハードディスクを買ってきた。値段は5250円。普通の中古品を扱う店で、同じ容量のものを買おうとすると、今はたいてい68ピンの、ワイドSCSI規格コネクターが付いたものになり、値段は1万円以上となることが多い。
 ジャンク品扱いではあるが、初期故障については交換してくれるという。それならばと、一種の賭けではあるが、1台購入したわけである。
 うちに帰って、物置部屋の機材棚から持ってきたケースに、コネクターアダプターを介して取り付け、早速電源を入れてみた。電源は無事入るし、電源投入直後の「カラカラ…」という初期動作もする。これはしめたもの…と思いきや、ケーブルでパソコンにつなぎ、パソコンの電源を入れてみると、なんとSCSIボードから認識されない。
 さあ困った。よくこの種の「認識されない」という問題はあるのだが、もしやと思って、ケーブルのコネクターをよく見ると…、しっかりはまっていなかった。こういう初歩的なミスは、よくあるので、気を付けなければならない。
 改めて電源を入れてみると、今度はちゃんと認識されたのだが、なんだか表示される「ドライブ型番名」がおかしい。これは「ベンダ名」とか言われるが、要するにメーカー名と型番が表示されるのである。ところが、それが文字化けしている。今まで何台もハードディスクは買ったことがあるけれど、表示される型番名が「文字化け」するものははじめてだ。しかし、一応36GBに相当する容量が、確保できるし、フォーマットをかけてみても、普通にフォーマットされる。まあ、使えればいいのだから…と思いつつ、データのコピー試験などをしてみると、コピーそのものは正常なのに、どうもなんだか、ドライブの内部から「ちゃりちゃり…」というような音がして、やたらにぎやかだ。
 これはなんだか、イヤな予感がしたのだが、まあ若干傷み気味なのだろうと、あえて「楽観的に」考えることにした。しかし、ドライブテストツールで、これまでの通算使用時間を表示させると(そんなツールもあるのだ!)、25252時間とか表示される。これが正しい値だとすると、3年近くという計算になるから、とっくに寿命は過ぎているような気もしたのだが…。
 夕食の時に、母親にその話をすると、パソコンのことはほとんどわからない母であるが、面白いことを言う。
「今度のハードディスク、なんだかちゃりちゃり音がするんだよね」
「ああ、それは持って明日までだね」
 全く恐ろしい“予言”をするなぁ…などと思ったのだが…。
 翌日になって、試しに動作の様子はどうかと、電源を入れてみると…。「カタ…カタ…カタ…」という、謎の音がしていて、もちろん?、丸ごとそのドライブ分のアイコンが消滅している…。果たしてこれは、丸1日でぴったりちょうど壊れてしまったということか。
 まさか母の“予言”が的中するとは思わなかったが、もうこのハードディスクは、二度と動作することはなく、しまいには、「キッ…キッ…」という小さな音がする以外、回転すらしなくなった。
 いままでハードディスクというものは、何台も買ってきたし、中古品もいろいろ使いつぶしてきたが、きっちり1日で壊れるというのは、さすがに経験がない。まさかタイマーが入っているわけでもなかろうが、ここまできっちりだと、ちょっと面白くもある。
 この結果の報告を母にして、二人で大笑いしてしまった。故障して大笑いとは、ちょっと違うような気もするのだが、ここまで「ジャンク」が「ジャンクらしい」と、もう笑いしか出ない。
 これは当然、「初期故障」の一つと思えるから、お店に持っていけば、おそらく交換してはくれるだろうが、すぐに秋葉原まで行かなくてはならないし、その時間を作るのもなかなか大変だ。お店がぴったり1日で壊れるように、魔法をかけているわけもなかろうし、第一そんなことは逆に店の損失だろうから、店のせいとは言えない。現に一度はちゃんと動作して、ファイルのコピーもできたのだから。
 するとまあ、“自己責任”による、高い授業料ということになるのかもしれないが、うちじゅうこの話題で、大笑いだったのだから、その代金と考えれば、それはまあ、それほど高いとも思えなくなる。最近こんなに母と大笑いは、していないようにも思うし…。結局交通費も考えて、交換には行かないことにした。
 秋葉原は、最近変貌が激しい。もともと改廃の激しい町ではあるが、特にこのところ激しいと言っていい。しかし、どこかリスキーなものを抱えた、「ジャンク」の魅力は、相変わらずと言っていいだろう。まるで魔法のような魅力が…、今日も…。

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