免許更新お断り？＜２＞

（前号からの続き）
　結局警察官の拙い説明を総合すると、更新前に２度葉書が来るが、一度目の葉書によって、都内５４カ所の教習所のうち、都合の良いどこかに予約して、３時間講習を受ける。その際６１５０円が必要で、必要なら実技講習も同時にも受ける。ただし講習はほとんどの教習所で予約が一杯であり、一月くらい先でないと受けられない。講習を受けると、証明書が発行されるので、それと２通目の葉書、古い免許証を持って警察署に行く。すると２２５０円の印紙代で、免許証は更新される…ということだそうだ。

　この道交法「改正」は、全く高齢者を閉め出すことしか考えてないと思えるのは、一般成人に比べて、いくつも越えなければならないハードルが存在することだ。例えば、ペーパードライバーであろうと、違反が無かろうと一律に民間の教習所に予約させることしかり、「“再入学”３時間拘束」しかり、高い講習料しかり…である。ことに、なぜ「教習所」で講習を受けなければならないのか。そもそも私の年齢だったら、更新料２９５０円ですむものが、高齢であるというだけで、トータル８４００円もかかってしまうのはなぜか。教習所は民営で、コストや経営状態に差があるはずなのに、固定的に６１５０円と決まった額の講習料なのはなぜか、などいくつもの疑問が浮かぶ。
　だいいち、予約が一杯で、一月先でないと、講習が受けられないかもしれないというのも、一通目の葉書がちゃんと届けば、時間的に間に合わないことはないとはいうものの、ちょっと余裕がなさ過ぎてどうかと思う。
　確かにこちらにも不備がなかったとは言わない。２通目の葉書にはもっとちゃんと目を通して、「手続きの際に持参していただくもの」というところに書かれた「高齢者講習終了証明書」というのは何か、確かめるべきだったかもしれない。１通目の葉書が来なかったとしても、それくらいのチェックは、現代人の危機管理能力としては、持っているべきだろう。いつもと同じだろうという観測は、必ずしも正しくないということである。
　ただもう一つ言わせてもらえば、免許更新コーナーのような、一般市民が続々と訪れるような場所としては、配置された警察官の教育がなってないし、そもそも太った警察官などというのは、やはり論外だ。
　もし仮に例えば、この免許コーナーで、暴力事件や、盗難事件があったとしよう。当然警察官としては、即座に犯人を逮捕しなければならないが、１００キロの体重でさっと身をこなして、走って犯人を追いかけられるのか。筋肉質でもりもりの人なら別かもしれないが、この「目の検査氏」は、少なくともそういうタイプではなく、見事な腹の持ち主だった。
　人の体のことをあれこれ言うのは、自分も言われたくないし、差別的で好ましくないのだが、警察官という職業は、場合によって身を呈してでも、市民の安全を守る仕事のはずであり、大部分の警察官はそう自負しているはずだ。自分で体重管理ができない人が、そういう仕事を全うできるのか、大いに疑問である。逆に言えば、警察官とはそういう厳しさを持った職業だということではないのか。

　結局母は、もう免許証は身分証としてしか使ってなかったことから、更新しないことにし、帰ることにした。カウンターの件の警察官は、なぜか今度は愛想良く、身分証の変わりとして「自動車運転証明書」というものなら発行しますよと言う。だが銀行協会の取り決めで、銀行などの身分証明書として使えないと言う。なんだそれは。そんなことは警察庁と財務省で協議して、銀行協会をあらかじめ指導しておくべきことではないのか。
　いいかげん、高齢者のみならず、将来の高齢者をも小馬鹿にしたような、こういう「縦割り」システムには、怒りを通り越して、あきれ笑いすら出る感じである。
　身分証明書として使うなら、ずっとパスポートのほうが良い。まあ金額だけの問題ではないし、都内であると２度ほど都庁に行かなければならない手間があるけれど、１５０００円で１０年有効のものが作れるという。年齢制限もないし、少なくとも、指定の場所で机を並べ、講習を受けろなどとは言われない。しかも身分証としても、何も問題ない。何しろそれから、「外国に行ける」という特典すら付くではないか。いや、それは特典ではないだろうが。
　警察署というところは、治安維持のための機関であるとともに、行政サービスの出先機関でもあるはずだ。サービスとは名ばかりで、一部（と思いたい）の警察官に、明治時代から綿々と続く、「オイコラ」精神で市民を監督しているような意識が、未だに跋扈しているというのが、よく認識できた出来事でもあった。