2005年9月2日号

西伊豆迷惑者物語

 
  西伊豆迷惑者物語
 

 西伊豆に行って来た。うちとしては珍しく、8月上旬という、「トップシーズン」にである。
 ところが伊豆は、見た限り全体、夏のかき入れ時だというのに、どこもすき気味であった。困ったことである。いや、私たちのように、混雑したところを好まない者としては、すいているほうが楽は楽だが…。
 西伊豆の定宿にしているホテルが、例の「西武・堤問題」で、閉館になるという。まったく迷惑千万な話だ。もちろん、近年やや伊豆全体が「地盤沈下」傾向にあって、経済・観光ともに低迷しているとされているので、多少の危惧は持っていたのだが、よりにもよって、そこであの「西武問題」である。
 西武問題は、そもそも自社株のグループ内所有について、虚偽の報告をしていたところに端を発するのであるが、それが鉄道の株上場廃止を経て、まさか西伊豆のホテル閉鎖に飛び火するとは思わなかった。採算性が今一つだったのだろうが、この2年間ほどは、さまざまな経営改善を目指す施策を、ホテルとしても打ち出していただけに、そのようないわば「外的な」要因で、閉鎖の引き金が引かれてしまうとは、釈然としないものを感じる。
 無論その根本は、ホテル単体の問題でもなければ、西武だけの問題でもないとは言える。定常的に伊豆の魅力が、相対的に低下していたのは事実であり、きれいな海、夏以外のしずかな環境といった要素を、うまく観光収入に結びつけられなかったという背景もある。これは残念なことだ。
 しかし、では訪れる人間のほうに問題はないのだろうか?。残念ながら、もちろん答えは「否」ということになってしまう。
 今回経験したことであるが、西伊豆松崎から少しの港で釣りをしていたときのこと、この港には個人の?クルーズ船が停泊していたりするのだが、その船が沖合から、夕方になったせいか、帰ってきた。ここまではまあ、普通に漁船なども、出入りしているから、不思議はない光景だ。
 ところが、これに乗船しているのが、全員薄汚いと言っちゃあ何だが、若者の軟派な男女のグループ。それが防波堤すれすれを通る。防波堤はそれほど高くないから、船が大きな波を起こすと、海の水が防波堤の上にかぶる恐れがあり、われわれのように、防波堤の小物釣りをしている人間からすると、ちょっと気を使う。もしも勢いよく水がかぶってきた場合、持ち物が水浸しになるばかりでなく、自分たちが港内に転落する危険も、なきにしもあらずだからだ。
 しかし、若者たちの船は、そんなことはお構いなし。まあ幸い、それほど大きな波は起こらず、防波堤に水が上がることはなかったが、人がいるのを認めたら、スローにするというような配慮のある人々ではない。
 船はまだいいとしても、このグループには、ジェットスキーが2台ついてきていた。これらは、船よりずっとマナーが悪く、釣りをしている人がいることを知りながら、わざわざ港内を2往復も、相当な時速を出して、かっ飛ばし、そしてなぜかまた出航していった船と共に、港を出ていった。
 これなど、魚を釣っている側からしたら、非常に迷惑である。何しろ音に驚いて、ちょっと大きめな魚は逃げてしまう。それになんでわざわざ2往復もするのか、港内を。
 港内というところは、本来漁船が出入りして、作業したり、停泊したりするところなのであって、遊び場ではない。が、釣りについては、地元の人も含めて、マナーを守れば許されている。…ではあるが、港はジェットスキーの練習場では、はっきりない。そんなこともわからない、わかろうとしない、人の迷惑ということそのものが理解できない、知性のない人間が、やたらとやってくるようになってしまっている。
 こういう輩が、たくさん来ることが、観光開発でもあるまい。
 次いで別な港に行って、これまた釣りをしていたら、今度は防波堤で、バーベキューを楽しんでしまっているグループ2つがあった。われわれは、防波堤の先端近くに空いているところがあったので、そこから釣り糸を垂れようと思っていたのだが、そこまで行くのに、焼き肉とか、焼きそばなんかをやっている人々の間を「すみません」とか言いながら、すり抜けるありさまである。まあ向こうの人も、「おじゃましていてすみません」とか言っていたし、帰るときには、ほぼ完全にきれいに片づけて帰ったから、まだ善良な人々なのだと思いたいが、一応バーベキュー禁止とは、港の入り口に大きく書いてある。
 それと心配になったのは、港の船揚場のそばには、浅瀬があるのたが、そこでは小さい子どもたちが、潜って遊んでいた。ところがここへまでジェットスキーと、モーターボートを、相当な速度で乗り入れる者がいたことである。もちろん、ジェットスキーは、禁止と表示があるのは、言うまでもない。
 ジェットスキーの構造がどうなっているかは、あまりよく知らないが、モーターボートは、少なくとも「船外機」というものが付いていて、それにはスクリューがある。その推進力で前に進むわけだが、潜っている子どものすぐ脇に、平気で乗り付ける。考えたくない事態だが、もし子どもがそのスクリューに…と思ったら、見ているだけで、身の凍る思いである。
 この連中は、まもなく出ていき、夕方になったら、結局私たちだけになってしまったから、何の事件も起こらなかった。それは幸いである。しかし、もしかすると何かの事故が、起こっても不思議はない光景を、何度か目にしてしまった。
 通常、8月下旬以降の西伊豆で、こんなことを見ることはない。シーズンも終わり近くなると、至って静かな海になる。一日中防波堤で釣りをしていても、誰にも会わない日すらある。だが、本当に人間性を疑うような輩が、現実にいることは事実だ。ここには数例を紹介したが、数え上げればキリがないほどである。
 伊豆の観光が、ややしぼみ気味であるというのは、数年前から耳にしている問題である。それは、やや伊豆半島全体が「守りの姿勢」に回ってしまっていることも一因ではないかと思うが、まあそこに住んでいる人間ではないから、あまり無責任なことも言えない。しかし、どうも東京などからやってくる者が、上に書いたような「迷惑行為」を、まったく認識なくやっている現状を見るにつけ、暗澹たる気持ちにもなる。観光開発とか、レジャーの基地になるとかいうのは、こういう傍若無人な輩を、多く呼び寄せることではない。

 私たちが、モーターボートも、ジェットスキーも、バーベキューの人々も去った防波堤で、帰り支度をしていると、老婆が二人、夕日を拝みに来た。私たちは一言二言、その地元の人と「暑いですね」というような、会話を交わした。老婆は夕日に向かって手を合わせると、小さな声で「お題目」らしいものを唱えている。こういう素朴な想いを持っている人が、まだまだ西伊豆には、いるのだ。
 ジェットスキーや、モーターボート、クルーズ船といった、「新しい」ものばかりが、地元にいいものをもたらさないのではないか?。そんな疑問にも取りつかれる。伊豆復興のヒントは、案外そんなところに隠れているのかも、と思いたい。

※西伊豆のホテルを「閉鎖」と書いていますが、現時点で他企業による経営引き継ぎの話もあり、実際に閉鎖となるかどうかは、正式発表がなされていないため不明です。しかし、一応現状で先行きが不明瞭であることから、そのように表記いたしました。

※この作品が面白いと思った方は、恐れ入りますが下の「投票する」をクリックして、アンケートに投票して下さい。今後の創作の参考にさせていただきます。アンケートを正しく集計するため、接続時のIPアドレスを記録しますが、その他の情報は収集されません。

投票する