2005年12月9日号

オオケタデの「仕舞い」

 
  オオケタデの「仕舞い」
 

 毎年夏から秋にかけて、小さな鳥「カワラヒワ」の大好物である大形の草「オオケタデ」を、ベランダで育て、カワラヒワの様子を見るのが、うちのお気に入りになっている。カワラヒワとオオケタデの共生は、何度かこの場にも発表したところである。
 今年のオオケタデは、暑さにやられた昨年より、全体に調子よく、秋に入ってからもずっと花をさかせ、実を次から次へとつけていた。
 カワラヒワも、例年秋口になると、草の実がたくさん、いろいろなところにあるようになるからか、あまり来なくなる。だが、最近工事や開発などで、安心して餌を食べられるところが減っているせいなのか、今年はあまりはっきりした切れ目もなく、いつまでもわが家のベランダにやってきていた。
 さてしかし、秋とは言っても、10月中旬くらいになると、夏の間から9月まで大変な勢いだったオオケタデも、だんだん朝晩の冷え込みで弱ってくる。茎が赤くなって、葉っぱがボロボロになってきて、普通の一年草と同じく、枯れる気配を見せ始める。そうなるとうちでも、ある時期で切って、また来年、ということにするのだ。
 だが、そうするには、カワラヒワが、もうほとんど姿を現さないということが、前提となる。夏から秋の台風でやられてしまったり、暑さ負けで枯れてしまったりという年も、あるにはあったが、そういうアクシデントがない限りは、カワラヒワがやってこなくなるまで、極力そのままにしておくのだ。
 今年は、カワラヒワがずっとやってきていたから、なかなかオオケタデを「仕舞い」に出来ずにいた。10月下旬に入っても、毎日のように、残り少ない実を求めて、早朝から夕方まで、ぽつぽつと飛来する。
 夏の頃から比べると、少しふっくらして、成長したのかな?と思わせる姿や、つがいなのではないかと思えるカワラヒワたちが、時にケンカしながらも、順番にオオケタデをついばんでいく姿は、やはり可愛らしい。
 なるべくならば、そのまま完全に枯れるまで、オオケタデを置いておきたいところであったが、うちのベランダも、冬支度をしないわけにもいかない。別な植物たちに、日当たりのいい場所を譲ったり、鉢の植え替えや、泥の処理などをしなければならないからだ。
 特に日当たりの問題は、この建物ではシビアで、冬の低い日は、前の建物に遮られ、ベランダ全体に日の当たらない時間が、毎日出来てしまう。キンカンや、芽を出し始めるジョンキルというスイセンを、オオケタデのあった場所に出して、少しでも多く日に当ててやりたい。そういうやりくりが、このベランダでは、必要なのである。
 カワラヒワがずっと来ている以上、オオケタデを切ってしまうことは、なかなか出来ずにいた。しかし、いつまでもそうしているわけにもいかない。11月末までは、さすがに気温が低くなって、オオケタデそのものが持たないだろう。
 そこでついに11月5日、ベランダの鉢に植わっていたオオケタデは切った。その上でキンカンをその場所に移動させた。するとカワラヒワたちは、「キリリリ…」と鳴きながら、うちのそばを探すように飛んでいくのだが、やむを得ない。
 だが今年は、地上のエントランス部分に、実はもう1本オオケタデを植えていた。本当は勝手に植えるのはまずいのであろうが、そこに植わっていたシャガだか何かが枯れてしまって、ずっと土が露出したようになっていたのだ。それでエントランスの飾りに立っているポールのそばへ、ベランダで育てていたオオケタデを、夏前に移植しておいたのだ。
 その地上にあるオオケタデは、台風や自転車が倒れかかるといった「事故」にもめげず、ちゃんと生育を続け、どういうわけか、6階のうちのベランダのものよりも、しっかり花をつけたまま、11月を迎えていた。しかし、この1本も、当然やがては枯れてしまう運命だろう。
 そもそもここにオオケタデを植えたのは、ここにもカワラヒワがやってきたらいいのではないかと思ってのことだったが、実際には早朝から夕方まで、案外ひっきりなしに人が通るので、長いことじっくり食べていられないらしく、実がついてもあまり減らないままになっていた。
 そこでこの1本を切って、バケツに差しておいてはどうかと、うちで検討した。
 通常、カワラヒワは、オオケタデの実を、小皿に出して置いておいても、まず食べない。やっぱり木の上でないと、生の実でないとあまり好きではないらしい。なので、切ってバケツに差したものを食べるのかどうか、今一つわからなかったが、オオケタデ自体は、切られても非常に強く、11月5日に切ったものを、短く切って、バケツに差しておいたら、なんとまた根が出てきたほどであった。
 とすれば、切ってバケツに差し、それをカワラヒワが見つけやすい、高い位置に出しておけば、もしかすると実を食べに来るかもしれない。…それは早速実行に移された。
 11月18日に、下に植えられていた1本を切って、エレベータに乗せ、6階に持ってきた。長さを整えて、11月24日には、ベランダの物置の上に、バケツごと載せて、赤い花と実を、ベランダの外に出すようにした。こうしておいても、物置は低いので、バケツが外に落ちる心配はない。
 果たして11月26日、カワラヒワは争うようにしてやってきて、その実をたくさん食べた。はじめて、切り花になっているオオケタデでも、実っている実があって、それが容易に見つかり、安心して食べられる環境にあれば、カワラヒワは食べることが確認できたのである。
 しかし、そんな安穏な時間は、長く続かない。木枯らしが吹いて、翌々日の夜には、からからに葉っぱが乾いて、切断面からの給水が追いつかず、枯れたような状態になってしまった。思わぬアクシデントに、がっかりした気分になったが、まあ自然の成り行きに、やや逆らおうとするのだから、仕方がないことかもしれない。
 オオケタデ、ベランダへの奇跡の?復帰は、わずか2日間で終わったのである。
 
 カワラヒワが食べ散らかした実は、そこらの越年する植物たちの鉢に、知らず知らずのうちにばらまかれている。来年もまた、その中から、ふたたび新しいオオケタデになる個体が、芽吹くだろう。
 こんなカワラヒワ−オオケタデ−そして人間を結ぶ共生のラインが、いつまでも途切れないことを、そっと願う。

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