プラ製機関車はもう買えない?<1>
私が鉄道模型を趣味の一つにしていることは、既に書いた。
鉄道模型には、その大きさによって、主にNゲージとHOゲージがある。ほかにもいろいろなサイズがあるし、特にHOゲージは、呼び方について論争が昔からあるので、本当はもっと正確に書くべきかもしれないが、これは論文ではないから、それらには触れないでおく。
さてNゲージはその初期から、プラスチックで車体を作った大量生産品が、主に出回ってきた。それは縮尺が、実物の1/150と小さく、1輌の電車が手のひらにのる程度だから、細々と作り込むよりは、走らせるほうに重点が置かれてきたからだと、一応言うことができる。
これに対してHOゲージは、昔から真鍮を加工して作ることが多かった。それは真鍮が模型として十分な強度を維持し、ハンダ付けで組み立てる伝統的技法が使えたからであろう。縮尺も実物の1/80と、比較的大きいので、細部に至るまで、実物さながらに再現することも可能である。もっとも最近はNゲージでも、金属製の部品を使用して、相当な作り込みをすることができるが、大まかな流れとしては、Nゲージは走行主体、HOゲージは製作主体の模型であったと言えると思う。
ところがここ10年くらいのうちに、HOゲージでも、従来Nゲージを作っていたメーカーの新規参入により、それまで真鍮では、20万もする高価な模型でないと、表現しきれなかったような細部まで、プラスチック成型技術を利用し、いとも簡単に表現した機関車などが、一台1〜数万円程度で売られるようになってきた。
これは、それまで一台一台手作りで仕上げられてきた真鍮製HOゲージ模型が、主に人件費の問題から、急激に価格高騰してしまい、一部の人々の手にしか渡らない、超贅沢品になって、業界としても、もう少し安価で手軽に楽しめないと、将来生き残りの問題にかかわるという意識が働いたこともあるだろう。
昔私がHOゲージを集め始めた頃は、中学生であったが、通勤電車の模型など、半年くらい小遣いを貯めれば、まあ1輌くらいは買えたものだ。それが今や、1輌で5万円などという電車も珍しくない。これでは学生が買って趣味にするというものではない。したがってここ15年くらいは、もう学生の趣味ではなくて、ほとんど高給取りのオヤジの趣味になってしまっていたと言っても、過言ではない。
ただ楽しみ方はいろいろだから、前に書いたように、中古品を安く手に入れ、自分流に加工するのにひたすら邁進、というのも「有り」ではある。私などは、もちろん5万円の電車はとうてい買えないから、中古品をいじり倒すクチである。
とまあ、そうは言っても、たまには「新車」も欲しい。でも高価な機関車など買えるはずもないし、買う気もしない。それでプラスチック製機関車は、大変ありがたいものであった。
大量生産品だから、在庫切れをそれほど心配する必要もなく、なくなれば再生産されるので、待っていればよい。個性に欠けると言う人もいたが、直線や垂直がきっちり出ていて、破綻がない車体の表現は、実物の機能美を的確にとらえていて、値段を考えれば相当に優れた製品と言える。
上にも書いたように、HOゲージは製作が主体の模型である。しかし走行が主体ではないということは、「鑑賞」という楽しみ方もあるということである。その点でもプラスチック成型の車輌の、細部表現の鋭さは、高価な模型に勝るとも劣らないと言えると思う。
ところがこのプラスチック機関車には、とんでもない落とし穴があった。
それは細密さを向上させるため、「完成品」を買ったつもりでも、自分であとから取り付けなければならないパーツが、少なからずあるという点だ。
生活の上で、出来合いのものを買って、家に帰ってすぐに機能しないものは、ないと言えよう。
例が極端かもしれないが、ビデオデッキを買ってきたとして、箱から出して、コネクターや、ビデオテープの巻き取り部分、テープの出し入れ口のフタなどを自分で組み立てるというのはあり得ない。コンピュータだってそうだ。箱から出したら、たいていの一般向けのパソコンは、すぐに電源が入れられて、OSくらいは起動するのが普通である。しかしプラスチック機関車は違う。SLにしても電気機関車にしても、手すりや足かけ、配管の類、汽笛や発煙筒など、およそ実物で車体からとび出て付いているものは、全てと言っていいほど、ユーザーが付けなければならない。これはかなり苦痛である。
電車は比較的付けるものは少ないから、まだしもだが、機関車はよく見るとでこぼこしているものだから、後付パーツはかなり多い。特にSLに至っては、「チエの輪」のごとき部分もある。そしてそれは年々新しい機種ほど多くなる傾向にある。
この後付パーツには、皆苦労しているようで、模型を運転する会合(運転会と言う)でも、何もパーツを付けてない機関車が走り回るとか、有料サービスで取り付けてくれる模型店があるとか聞く。
<以下次号> |