2005年2月18日号

剪定の季節

 
  剪定の季節
 

 私の住んでいるところは、都市再生機構(旧住宅都市整備公団)の、賃貸住宅である。家賃が当初から高すぎ、毎年のように少しずつ調整されているが、いっこうに住民が増える気配はない。比較的新しい割に、設備が古くさく、何しろインターネットの環境だって、ごく最近までダイヤルアップ以外、全く考慮すらされていないほどだったし、光ファイバーを引くには、地元ケーブルテレビを通してになるなど、いまだに手続きが複雑である。
 もちろん、玄関オートロックや宅配ボックスなど夢のまた夢。近所の得体の知れない輩が、勝手に団地の建物入り口に入り込み、酒を飲んだり、弁当を食べたり、そのゴミはそのまま放置だったり…、全く「管理」とは自治会まかせの放置か?と、都市機構にはたずねたくもなる。だいたいその自治会だって、話によると、組織率4割を切っているのだから…。
 そんな都市機構は、毎月家賃と共に「共益費」というものを取る。これは例えば廊下の電気を夜間点けておくための電気代とか、その電球代とか、清掃員を雇用するための給料とか、清掃に使う水道代などである。その中には、周辺植栽の剪定費などというのも含まれる。
 近年、高家賃と住環境の不備からか、この団地を出て、近郊のより安くて高機能なマンションに移り住む人はあとをたたず、とうとう空き部屋だらけの団地になってしまった。そのため共益費が不足して、去年は値上げということになっている。
 共益費は毎年、収支計算書が配られるが、数年前までは、ちゃんと翌年への繰越金が、少しはあった。しかしここ2年ほどは、特に状況がよくない。
 では、どこか削れる費用はないものか。そう考えるのは、まあ、人情であろう。しかし、清掃をいい加減にするわけには行かない。より住環境が悪くなることは目に見えているからだ。では、電灯を少なくできるか?と言えば、それも構造上、また防犯上好ましいと言えない。水道代や電気代は減らしようもないし、そのあたりはさしたる金額になってない。よってたとえ少し削れたとしても、大勢に影響ないわけだ。
 するとどこが一番削れて、比較的大きくコストダウンできるか、ということであるが、毎年行っている低木と高木の剪定費、これは節約できそうだ。

 冬は、剪定の季節である。うちのベランダ植物でも、このころに剪定をしたり、植え替えをしたりする。それは、植物にとって、活発に新芽を伸ばしたりする時期ではなく、どちらかと言えば、休眠期にあたるからである。もちろん、そうでない植物もあるので、全てがそうとは言えないが、おおむねの傾向として…ということである。
 そのような観点からすると、落葉樹は葉がないこの時期、楽でもあるし、また植物に大きな影響を与えにくいということで、この時期の剪定は、それなりの理由を認められる。
 しかし、毎年高木の剪定をする必要があるかと言われると、それは大いに疑問だ。この団地にある高木というと、ケヤキがやたら多く、あとは遊歩道に沿って少数あるサクラ程度のものであるが、これらを、毎年ぶっつぶっつ切るのである。しかもそれに100万円もの共益費を費やしている。
 毎年毎年必ず切るものだから、ケヤキなどは枝の先が突如とぎれて、そこから細い枝が数本生えているというような、みっともない状態になってしまっている。これでは、ケヤキの堂々たる樹姿を、見ることはできないし、それなら植えている意味も、あまりないことになってしまう。事実、落ち葉の季節になると、ケヤキの落ち葉は厄介者で、清掃のおじさんたちも困っている様子である。
 この「毎年剪定問題」は、旧公団住宅系の掲示板などでも、「やたらそれだけ熱心」とか揶揄されるほどで、他の団地の住民も、疑問視しているようだ。
 さらには、サクラに至っても、いまだに剪定をやめないものだから、今年これから咲こうという枝を、2月にまた無作為に落としているような現状である。今や3階くらいの高さ以下の枝は、ほとんどなくなってしまっているサクラである。そして断面の処理を全くしないから、心材腐朽がどんどん進んでいる。サクラにこれとはまったく、どういう園芸業者を選定しているのか、担当者の考えを聞いてみたいものだ。まさか、担当者が、サクラの正しい剪定法を知らない、などということが、あるはずはないと思うのだが。
 かように不透明な部分もある、都市機構の樹木剪定作業だが、これは、少なくとも3年に一度でいいと思う。そうすれば、樹木剪定にかかる費用も、年単位で三分の一ですむ。毎年100万が、33万になるなら、これは節約として有効であろう。3年間伸びっぱなしは困るのではと思うかもしれないが、隣接する世田谷区の公園は、ここ10年ほどケヤキの剪定をしていない。しかし、やぶのようになってしまって困るなどということはない。それから見たら、少なくとも毎年剪定する必要など、ありはしない。盆栽ではないのだから。
 サクラの剪定のありさまを見ていると、なにがしか不透明なものも、感じなくはないが、それを明確に示す証拠があるわけではない。しかし、とりあえず共益費が赤字であるなら、必要経費とそうでないものを、再度精査するくらいの心構えを持ってもらいたいものだ。もっとも、そんなことができるなら、ここまで旧公団も、賃貸経営を誤ってはいないだろうが…。
 都市再生機構という名前は、どういう経緯でついたかわからないが、自分たちも“再生”するつもりにならないと、いずれ来る「完全民営化」時代は、生き残って行かれない。日本最大の大家である現在の地位に、いまだにあぐらをかいているなら、都市機構に明日はないのではないか?。

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