2006年2月10日号

世田谷ボロ市の変質<2>

 
  世田谷ボロ市の変質<2>
 

(前号からの続き)
<事件3>
 今年の1月は、極めて寒く、天候は厳しい。しかし、1月15日は、日曜日にあたり、天気も穏やかであった。そのためか、どっと人が繰り出し、ボロ市通りも、まともに歩けないほどの人手で、左右の店をのぞくことすらままならないほどだった。
 ところが翌日の16日は平日であることもあり、人出は普通で、まあゆっくり見ることが出来た。
 しかしよく見ると、なんだかすいているのは、客だけではない。店の間隔がまばらになっているところが、随所にある。どうやら、15日だけで帰ってしまった店が多いようで、15日にはあった店が、16日には「空きスペース」になっているという具合のようだ。前日たくさん売り上げがあったから、翌日の少な目の客はいらない。そういうことなのだろうか?。
 私は世田谷ボロ市に20年ほど通っているが、こんなことははじめてのことである。

 私はごく最近まで、マニアものグッズばかりを扱うフリーマーケットに、ずっと出展していた。マニアものというと、変な連想をしがちだが、要するにノベルティグッズと呼ばれる、企業の非売品とか、アニメグッズのちょっと古いもの、鉄道用品など…である。
 そういったもので、いらなくなったもの、あるいはスーパーの特売などで「処分売り」されたものを、多少余分に買って、「仕入れ」ておいて売るわけである。この辺は、基本的に普通の公園などでやっているフリーマーケットと、さして違わない。ちょっとばかり客層が、「オタク」関係の人であるだけである。
 そういうイベントであるが、当然にして、私は売り手、テーブルの向こうで品定めをする人々は、お客ということになる。何度も出展したイベントでは、顔見知りの人もいれば、つまりちょっと苦手な客というのも来る。しかし、私や、私の友人たちの売り手側の者で、客に向かって「暴言を吐いた」り、「恫喝」したりしたことはない。それはイベントの一期一会のような出会いであっても、お客様はお客様だという、一応の「プロ意識」は持っているつもり、というのと、常識的に考えて、一言言いたくなっても、黙っているのが筋だと思うからだ。
 私たちは、イベントに参加した売り上げで、飯を食っているわけではない。本業は別にあるわけで、まったく趣味の世界である。今日はよく売れたの売れないのと、お客さんとの「駆け引き」や、別のブースで売っているものを買ってくる楽しみが、面白いと思って参加しているのである。であるから、当然それは「アマチュアリズム」ということになる。
 翻ってボロ市に参加している業者はどうか。彼らはもともとそれらが商売という人々がほとんどである。もちろん○○小学校PTA会のブース、なんていうのもあるし、障害者の人が制作した木工作品の即売コーナーなどもあるから、必ずしも営利追求のみを目的としていないブースも存在するけれども、基本はやはり「プロ」が、客商売をしているのである。
 客を恫喝したり、客に暴言を吐いたり、プロは平気でするのだが、アマチュアの私たちは、そういうことはしない。いったいこれは何であろうか?。その辺の神経は、正直言って私にはわからない。
 どうもこういう事態の蔓延を目にしたり、体験してしまったりするのは、はじめてだけれども、その兆候は少し前からあるにはあった。それはボロ市の客筋が、某番組の影響からか、骨董系にシフトしてから始まったような気がする。そういう客筋の変化とともに、業者が客を嘗めるようになったのではないかと思える。
 商道徳というものが、地に落ちたように言われて久しい。この原稿を書いている前の日にも、某有名IT関連企業の社長が、逮捕されている。どうもこの国は、お金の力に、魂売り渡しているのではないかという気持ちにもさせられる。
 身近な「区民祭り」的イベントで起きた「事件」と、最近の企業倫理と商道徳の秩序崩壊は、実は同じ根を持つのではないかと、考えもする。
 世田谷区は、ボロ市を、「400年続く民族無形文化財」であると言っていて、「後援」している立場だと言う。まったくしかし、400年の歴史が泣くのではないか。少数とはいえ、客が不快になるようなイベントであってはならない。世田谷区は、後援者として、不良業者の排除、指導を徹底すべきだし、直接の主催である「ボロ市保存会」に、働きかけをするべき立場である。○十年以上区民やっている身としては、ちょっとやそっとで納得できる問題でもない。関係者の猛省を促したい。
 それはそれとしても、客層が悪くなったことも確かだ。いつも行きつけの玩具を扱うおじさんの店で、数年前に倒産した蔵前問屋街の××商店に、10年ばかり勤めていたと自称する、私と同年輩の男が、箱が傷んでいるだの、中身はそろっているのかだの、きれいなものを仕入れろだの、キャリア47年のおじさんに向かって、エラソウにさんざんケチをつけて帰ったのも目撃し、たかが10年の玩具問屋勤務で何様だよ、と思ったことも付記しておく。
(完)

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