植物の日照り害
今年の夏の暑さは、尋常ではない。この東京でさえ、観測史上初めてという、39.5度の気温を記録している。
私は風邪をひきやすいほうだが、さすがに39.5度の熱というのは、出したことがない。そもそも39度の熱があったら、大人でも子どもでも、かなり急を要する事態だと思う。
そんな温度が、気温として出てしまう。これでは体の熱が外になかなか出ていかないから、熱中症に簡単になってしまいそうである。事実熱中症で、病院に運ばれる人は、相当例年より多いそうだ。気温というのは、「地上1メートルの高さ」で測定したものだそうだから、地表面ではもっと高くなる理屈である。当然、気温39.5度ならば、地表面では、40度を越えているはずである。
この夏の異常な気象は、関東の異常高温だけではなく、信越地方や北陸地方・一部の東北の集中豪雨なども、それに数えられる。
先日の号でも、少し触れたが、最近のうちのベランダ植物は、ここへ来て、急速に葉やけの症状を呈するものが多くなった。
これは、旱害(ひでりがい)などと呼ばれるものの一種と考えられる。植物が強すぎる光や、高い温度にさらされることにより、葉にやけどのような症状が起きて、葉の組織が破壊されたようになり、やがて葉や植物全体が枯れるというものである。
何しろ日中39.5度だった7月20日は、夜中になっても、気温が30.1度にしか下がらなかった。これはもう、熱帯の気温である。いや、熱帯でも朝夕は気温が下がるから、熱帯以上と言うべきか。
ベランダのあらゆる植物、特に葉の弱そうなものから順に、どんどん葉やけを起こしていく。オオケタデやソバに始まり、今年ひさしぶりに買ってみた朝顔、プレクトランサスという、妙な紫色の花の咲く植物や、カサブランカというユリ、タラノキやヤマウドに至るまで、葉っぱが変色したり、巻いたり、一部が焼けたように枯れてきてしまう。ベゴニアのように熱帯原産のものでも、葉っぱの調子が悪い。
狭い範囲のことだから、病気や虫も疑わしいと思ったが、例年そんなことはないし、今年もそれらしいものは見つからない。これはやっぱり、異常高温しか原因が見あたらない。
また、うちのベランダだけかと思いきや、近所の立木や、団地内の植栽などにも、立ち枯れや葉焼けが起こっていた。
人も熱中症と闘わなければならない。しかしこれは、昼間不必要な外出を控えれば、何とかなりそうである。また対策の立てようもある。しかし植物は、その場から動けないのだから、大変である。もちろんベランダの鉢植えは、ある程度は動かすことができる。しかし、葉っぱが焼けそうな植物全部を、部屋の中に避難させていたら、うちのリビングは、おそらく植物園のようになってしまうだろうし、今度は逆に日照不足で枯れてしまうに違いない。
そうするとどうやって、この暑さを乗り切るかであるが、いろいろ考えた末、ベランダの下が、照り返しのきついコンクリートであることが、高温障害をより強くしていると考えられるので、ここを一時的にでも冷却することが、いいのではないかと考えた。
それには「打ち水」をすることが、一番効果的かつ簡単であろう。しかし、この建物はベランダに水道栓がない。だからいちいちまく水は、風呂あたりからくんでこなければならない。面倒だが、植物たちのことを思えば、やるしかない。
今年の異常高温の原因の一つに(いや結果かもしれないが)、記録的に小雨だというのも、挙げられるだろう。7月の都内降水量は、例年の100分の一だとか言われている。これは、例年だと夕立や梅雨で、葉っぱ表面に降り注いでいた雨が、まったく降ってこないということである。それはさらに葉面の焼けを加速するのではないか?。
そこで、葉面に噴霧器で水をかけてみることにした。こんなことはしたことがないが、やらないよりかはましかもしれないという考えだ。日中の非常に強い光の時は避けて、夕方にしてみることにした。まるっきり手探りではあるのだが。
コンクリで土を覆ってしまった都市、海風を考慮しないで建ててしまったビル・乱開発。そういったもののツケが、ヒートアイランド現象をはじめとして、結局人類と全ての生き物に襲いかかっている。
人間や生き物を、土や水から遠ざけ、それがあたかも近代的生活の象徴であるかのような、高度成長から現在に至る「土建屋」志向が、実は「天に唾する行為」だったのだ。
都市からコンクリをひっぺがし、ウッドチップでも入れることから、考えたらどうなのか。
ここも、今のように高い建物になる前は、棟と棟の間は、人の歩くところ以外、土が露出していたものだ。雨が降ると少しは泥になったものだが、それで困ることなど、ありはしなかった。もちろん現代は、高齢化が進んだりしているから、車椅子が通れないと困るとか、入浴車が入れないと困るなど、昔なら予想もしなかったことが起こっているだろう。しかし、それも工夫次第だと思う。何も工夫をしないで、快適に暮らすことなど出来はしないはずである。
熱中症には、重々気をつけなければならないが、こういう異常な気象の時こそ、現代人の思考力が問われている時なのかもしれない。 |