2004年4月9日号

ベランダ植物の不思議

  ベランダ植物の不思議
 

 わが家はマンション形の建物6階であることは、既に書いた。この種の建物の6階となると、風も強く、また施設としても人や物の転落防止ということを、考えなければならないから、ベランダの柵はそれなりに頑丈な作りだ。
 ところで、このところ球根類の植物が、なぜか生育不良である。ジョンキルというスイセンも、ここ数年同様である。
 ジョンキルは当初、泥に混ぜた砂の塩分残留が、生育不良の原因ではないかなどと疑っていたのだが、今年はチューリップにも、葉の変形や、根の伸張不足、ものによっては球根が溶けて無くなったり、芽が球根の尻のほうから出たりしているものがあった。
 ジョンキルも例外ではなく、葉が通常の半分くらいしか伸びない。当然花がほとんど咲かない。これは去年よりもひどくなっている気がする。
 試しに球根を掘り上げてみると、根の張りが十分ではなく、簡単に抜けてしまうほどであった。正常なものは、直根がずっと下の方まで伸び、それで植物体を支えるとともに、養分・水分を十分に吸収して、育ち、花を咲かせる。
 これら球根植物の根の異常は、全く経験したことのないものだ。いろいろと変わったものを植えてみたり、いじくり回すのが結構好きなうちの人々も、これには正直参ってしまっている。
 ジョンキルはそもそも、昨年までの生育が良くなかったので、土の配合を変えて、市販の培養土に黒土を混ぜたり、排水を良くするように、鉢底に入れる土を、軽石状のものに変えたりした。
 しかし、このところの異常を見ていると、そういう土の配合だけの問題でも、なさそうな感じもある。どういうことなのか、よくわからない。

 情報が無いというのが、現代においては一番困ると言える。こういう微妙な環境の変化が、生育に影響していることが予想される場合には、簡単に対処法がわかるというものでもない。結局カットアンドトライで、手探りの対処を続けるしかないのかもしれない。
 以前住んでいた建物と、現在のそれとの大きな違いは、上でも少し触れたが、部屋のことを別すれば、建物の高さと、ベランダの構造である。
 ベランダ柵は古い建物の時代、丸くて細い鉄棒を、上下に渡してあるだけで、その間は風も雨もつーつーかーかーに通るものであった。
 しかし今の建物は、網入り強化ガラスの半透明なパネルが取り付けられている。よほどの横殴りの雨でない限り、ベランダの中まで降り込むことはないし、日照も素通しよりはやや少ない。それと風が強い反面、その吹き込み方は、ベランダの各所でかなり異なる。
 つまり風が吹いて、この住んでいる地域全体の風向きは南風でも、ベランダの中では、南東風が吹いたり、場所によっては、ただの西風になったり、また別な場所ではね返ったり…ということである。
 当然これは、風だけではなくて、上に突き出た屋根のせいで、柵寄りのほうが日射量は比較的多く、手前のサッシ寄りでは少ないとか、西日の射し込む西側は多いが、東側は比較的少なく、それでいて西側でも、そちら側に置かれている物置の陰は、ほとんど日が当たらないなど、野っぱらに植わっている草木とは、全くと言っていいほど異なるわけである。
 4月に入って、球根類の調子は更にはっきりしてきた。ダメなものはダメだが、ムスカリなどは極めて調子がいい。タンポポは球根ではないが、宿根草として見れば、チューリップとほとんど同じようなところに置いているにもかかわらず、これまた調子がいい。
 それでこのまま手をこまねいているわけにも行かず、大学の頃使っていた施肥法の教科書を十数年ぶりに開いてみた。
 農学書だから、“ベランダの鉢物”のことがズバリ書いてあるわけではない。比較的条件の近そうな、「鉢物」、「球根」、「施設園芸」といった項目のところを参考にするのである。
 すると鉢物は、窒素やカリ分が、水やりで抜けてしまいやすいとある。このように肥料分が、水とともに鉢などの下から抜けてしまうのを「溶脱」と言うが、それを適宜追肥で補わなければならない。つまりカリ分が多い配合の肥料が時々必要ということである。
 また自然状態に比べると、降水量は水やりが全てのようなものだから、ビニールハウス等と同じように、鉢の上の方に塩類の濃度が上がる現象(塩類集積)が起こることがあるようだ。素焼きの鉢を使うと、数ヶ月で上辺近くに、白っぽい結晶が出てくることがあるが、そういうことを示しているのかもしれない。
 今のところ種類の違う植物の球根が、そろって同じように不調とすれば、市販の培養土と黒土、化学肥料を使っている以上、まあ土の配合だけでなく、中の養分を疑ってみる必要は、かなりあろうかと思う。
 当面、窒素、リン酸、カリの成分比が、これまでと異なる肥料をやって、様子を見るしか、今シーズンとしてはなさそうだ。根の伸張が良くないとすれば、どれほどの効果があるかわからないけれども…。
 この建物に住んで約8年。いっしょに引っ越ししてきた植物達も、結構入れ替わったものの、ずっとそのままのものいくつかある。最近買ったようなものはともかく、ずっといっしょに過ごしてきたジョンキルなどが、少しずつ適応力を失っているとすれば、これは危機的状況だ。
 外は桜の花吹雪が舞っているが、ちょっと気の重い春である。

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