2005年4月1日号

やさしい家電製品が欲しい

 
  やさしい家電製品が欲しい
 

 うちの母親は、高齢者という区分に入る歳であるが、いまも現役で仕事をしている。その母親が、よく見るテレビというと、昼間か夜にやっている推理ものである。最近は私ともども「相棒」というのが気に入っている。
 さてそれらを録画しておいて、後で見ようと思うのであるが、近頃はもはやテープの時代でもないと言える。昔買ったベータ方式のビデオデッキが、3台もあったうちであるが、さすがに去年DVD−ハードディスクレコーダーを買ってから、ほとんど使わなくなってしまった。
 しかし、そのDVD−ハードディスクレコーダーも、ハードディスクの容量が80GBと、比較的小さいものだったので、すぐに満杯になってしまい、そうそうすぐにDVDにダビングしてもおけないから、もう一台買おうか、という話になった。それでテープデッキを、やめてしまおうという計画である。
 その計画そのものはいいのだが、母親によると、最近の電気機器の類は、いちいち私に聞かないと、操作の仕方がわからないと言う。確かに去年買ったDVD−ハードディスクレコーダーも、基本的な操作の仕方を、図に書いて2度ほど教えた覚えがある。
 母にしてみれば、テープより簡単なはずだから、自分で暇ができたときに、ちょっと操作して、録画されているのを見たいということらしい。
 私などは、最近の機器類は、ひとときに比べれば、まだやさしくなったほうだとは思うが、それでも機能が多すぎて、とてもじゃないが、全ての機能など使わないし、使えないし、覚えられないことが多くなった。これは、私も歳をとったということもあろうが、機器類が年々複雑化していることの証左でもあろうかと思う。
 そもそも機械の類は、やさしくないような気がする。携帯電話にも、高齢者にアンケートを取って、液晶画面のない、会話のみができる簡単な機種が、一部の会社には登場している。子ども向けを考慮して作ったとかいわれていた、3カ所にしかかからない携帯電話が、高齢者に受けがいいと聞いたこともある。
 このことが何を意味するか?。高齢者は、お金を持っていないわけではないし、いろいろな楽しい機器を、使いこなしたいという欲求を、当然にして持っている。これは特に若い世代と、それほど違うわけではない。しかし、使いこなせるほど、機能が単純で、わかりやすいものが、非常に少ないということが、「バリア」になっている様子である。もちろん、そんなものはものともせずに、どんどん使いこなしている人もいるであろうが、そういう人は、少数なのではないか?。
 近所のCDショップに、「巻いて、しまえる電子ピアノ」というのを売っていた。巻いてしまっておけるというのは、驚きの「機能」であるが、値段は5980円だそうである。しかし、試しにちょっと鍵盤をなでてみると、ピアノ顔負けの音が出る。もちろん、本式にピアノをやる人が、買うものではないのだが、なんと、このクラスの製品でも、曲を読み込ませると、次にタッチするべき鍵盤を、LEDが光って教えてくれるのである。指の運び方を知らなくても、その光るLEDにしたがって弾けば、なんとか曲を弾くことができるわけである。このような、次の押し下げるべき鍵盤を、光って示すという、エレクトリックキーボードは、だいぶ前からあるにはあったが、「巻ける」というのとくっつけたのは、なかなかの現代的アイディアであると思える。
 この伝で行けば、DVD−ハードディスクレコーダーでも、再生と、いま映っている番組の録画程度のことならば、次に押すべきボタン操作を、LEDで示すくらいのことはできないのだろうかと思ってしまう。
 難しい画質の設定とか、予約録画と入力設定などの細かい機能まで、LED表示しろというのではない。ごく簡単な基本機能くらい、もう少し「人にやさしく」あっても、いいのではないか?という提案である。
 高齢者たちは、それなりにお金を持っている人が、結構いるのである。その人々の購買意欲が低いということは、本来ない。しかし、その購買意欲を、難しい、取っつきにくいシステムが、削いでしまっていないかということは、電気機器メーカーの開発者たちも、考えてはどうなのか?。わざわざ「買う気」のある世代を、丸ごとロストしているのではないか?、その疑問を抱かないとしたら、それはいったいどういう人々なのかと思ってしまう。
 近年、いろいろなものが、非常に低価格になった。そのこと自体は、消費者の側からすれば、喜ばしいことなのだろう。事実10万円を切る価格で、性能は数十倍?になったコンピュータが、当たり前になったり、一昔前には7万円もしていたFAXが、普通紙に印字できて2万円台だったり、ひげ剃りすら、数千円で相当深剃りのきくものが買えるようになっている。それはそれで結構なことであろうが、このような「低価格路線」とは、別な路線が、これからの高齢化社会で、案外求められているのではないか、という気もするのである。
 「簡単じゃないか」と、おじいさん役の役者がつぶやく携帯電話のCMではないが、ひたすら多機能・低価格というのとは、また違った機器類が、今求められている…。そんな気が、母親の言を聞いていると、強くするのだが。

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