ケースケ・オーストラリア渡航の謎を解く

 ケースケは、実放送の中で、「修行のため、オーストラリアに渡り、3年は戻らない」と、第28話で明かし、実際に景太朗パパさんのヨットでグアムへ。そこから貨物船らしき船の船員として臨時雇用され、オーストラリアに渡り、大会に出場しています。
 これはコメットさん☆との、事実上の「別れ」を意味します。いろいろにその後のストーリーは、想像してみることが出来ますが(私個人の考えとしては、「その先のコメットさん☆へ…」に、詳しく書いていますので、よろしければそちらを参照して下さい)、いくら「人を想う心」が、距離を超越しうるとしても、その先がオーストラリアまで遠くとなると、なかなか困難が伴うかと思われます。

 さて、ケースケがオーストラリアに行くにあたり、現実的な問題として、「パスポート」と「ビザ(査証)」が必要になってきます。これは不法入国で、選手としてライフセーバーの大会に出場できるとは思えませんし、確かにコメットさん☆自身は、「不法入国状態」ですが(笑)、星力のことを知っているわけでもないケースケが、そのような法的な部分を適当にしてまで、自分の意志貫徹を企図するとは考えにくいです。彼の人柄からしても…。
 そうすると、パスポートは日本国民ですから、特に問題がなければ普通に取れるでしょう。しかし、「ビザ」のほうは、相手国オーストラリアの取り決めにしたがって取らねばなりません。ところが、ケースケの生い立ちや年齢からすると、意外に制約が多いことがわかりました。そこでここでは、ケースケが取ったビザの種類を考え、それから付随してわかることを書いてみたいと思います。

 このページは、オーストラリア大使館のホームページ(日本語と英語)を参考に、知人の話も含め、いくつかの情報を集めて構成いたしました。2007年現在の資料をもとにしていますが、一部はケースケが渡航したとされる2001年当時の資料をもとにしています。

 ビザの種類と、それによる資格の制限など、またケースケが取れるビザかどうかを表にしてみました(いくつか重要なポイントは赤字で表示)。
 
 

ビザ名称 資格や条件 ケースケが取得可能か 理由 その他ポイントになる点など
ワーキングホリデービザ ●最長12ヶ月まで
18歳以上
●就学やトレーニングは3ヶ月まで(2006年7月からは4ヶ月まで)
× 18歳以上という条件で不可。当時ケースケは16歳(設定書による)。 年齢制限はいかんともしがたい。
3年は現地に留まるとした、第28話の本人証言の根拠が不明瞭化。
観光ビザ ●3ヶ月まで
●3ヶ月以上もあり
●18歳未満は、法的親権者全員の名が入った同意書が必要
就労・学業不可
●クレジットカードが必要。ただし他人名義でもその人が使用を許可していればよい
× 就労と学業が不可なのと、3ヶ月ごとに出入国を繰り返す必要がある。クレジットカードは、本人名義が取れない可能性も。 就労不可なので、3年は現地に留まるとした、第28話の本人証言と矛盾。
一方、第34話の景太朗パパさん証言、「春には一度帰ってくるよ」には、多少の時期のずれはあれども符合しないこともない。
スポンサーファミリービザ ●生活資金などを全て面倒見る、現地在住の永住権があり、資金提供をする人が必要 × 現地にスポンサーとなる家族や親族が、ケースケにいるとは思えない。 これはかなり可能性が低い。そもそも資金を出す親族などがいれば、最初からオーストラリアで修行すればいいことで、鎌倉に住んでいて、そこからオーストラリアに行かなければならない理由もないし、時期を2001年の10月からとしなければならない理由もない。したがって、そのような家族・親族は、ケースケにはいないと考えるのが普通である(渡航に景太朗パパさんのヨットを使う必要もないだろう)。
長期就労ビザ ●在オーストラリア企業の駐在員
●または外国企業の役員や技術者で支店や支社を出すために滞在する目的
●外国企業の請負仕事の場合等
●最長4年
× ケースケの年齢からして、そんな資格をもつ人物ではないし、事実そんな素振りはなかった。 企業の役員や、駐在員とか、技術者というのは、16歳のケースケにありうるだろうか?。そもそも16歳にしてそんな立場なら、鎌倉の安アパートに住み、毎日トレーニングなど出来ないはず。期間としては、第28話の本人証言と矛盾しないが…。
短期就労ビザ ●3ヶ月有効
18歳未満は、法的親権者全員の名が入った同意書必要
●APEC Business Travel Cardというものをもらえば、3年有効で事前入国審査できる
これが一番矛盾がない。というか、唯一可能性があるビザと言ってもよい。就労ビザなので、当然働くことが出来る。 第34話の景太朗パパさん発言「春には一度帰ってくるよ」について、「春」を新春(1月頃)と考え、3ヶ月後に更新をしなくてはならず、その時の一時帰国のことを言っているとすれば、矛盾がない。
APEC Business Travel Cardは、加盟各国(もちろん日本も含む)3年有効で、事前の入国審査が出来るとすれば、3ヶ月ごとのビザ更新に伴う事務手続きが簡略化でき、第28話の「3年は留まる」という本人発言を、多少なりとも補助する。
学生ビザ ●フルタイムで学校に通う必要あり
●出国・入国に条件設定多少あり。基本的には再入国可能
△の×寄り アルバイト程度以上の就労は不能。アルバイト程度の就労もどこまで可能か未知数。 ケースケが、フルタイムで学校に通いながら、トレーニングや大会に出るとは思えない。またケースケは、学生では無い。
トランジットビザ ●第3国への経由のためのビザ
●もちろん中〜長期はとどまれない
× 基本的にそこに住んで活動するビザではない。

 これらによると、ケースケが取得したのは「短期就労ビザ」であると思えます。これですと、3ヶ月ごとに更新する必要がありますが、一応3年間現地に留まることが出来ますね。またその間、甲板掃除の仕事も出来ます(そればかりではないと思うけれど…)し、トレーニングも合間になりますが可能でしょう。いっそライフガード(ライフセーバーを仕事にしている人)になってしまうことも出来ます。

 一方、これによって、どんなことがわかるでしょうか。
●短期就労ビザを、16歳のケースケが取得するには、法的親権者全員の名が入った同意書が必要。
●ということは、景太朗パパさんは、「法的親権者」に当たらない(養子縁組をしていれば別だが、さすがにそこまでの様子は無かった)ため、母親が存命であることが確実(兄や姉はいないようなので)。
●第34話の「春には一度帰ってくるよ」という、景太朗パパさんのセリフは、10月取得でビザが3ヶ月有効とすると、1月=新春=春としない限り、そのままではやや苦しい。
●しかし、ビザの期限切れ直前に、第3国へ一度出国し、再度ビザをそこから取り直して、再入国とすれば、期限は延長できる。例えば、10月にオートストラリアへ→1月に近隣国へ→4月に一時帰国というのも、一応可能(第3国の対応により異なるが)であり、景太朗パパさんのセリフは矛盾しなくなる。

 これらの中で、注目すべきこととして、ケースケの母親は存命らしいということではないでしょうか。実放送の中では、特にケースケの家族関係について、父親が海難事故で亡くなったこと以外、語られることはありませんでした。しかし、ビザがここで検討した通りだとすると、母がどこかに住んでいないと、同意書が取れないので、18歳を越えないと、オーストラリアに渡航することが出来なくなります。
 作品中で語られないことも、こうやって資料を検討すると、浮かび上がってくることがある…。まあ、一応そういう実例と言えるのではないでしょうか。

★永住権について
 一定の技術を持っている人などは、いくつかの条件をクリアすると、永住権がもらえることがあります。なかなかもらえないようですが…。これを取得しますと、ケースケはビザを気にせず、オーストラリアの選手としてずっと現地に住み、働きながら競技を続けるなども可能になりますが、16歳で渡航するケースケ、という本題から外れますし、条件が一筋縄ではいかない様子なので、ここでは割愛します(そもそもぽんと渡航して、すぐに取得できるものではありません)。

 このビザの問題は、「ケースケはモナコに行っていない」という、当ページの見解・証明に、以下の点で多少影響すると思えます。すなわち…、

1.3ヶ月に一度のビザ更新のため、モナコに一度出国と考えれば、1月末にモナコにいたこと自体に、一見矛盾はないように見える。
2.しかし、そうだとすると季節が合わない(モナコの1〜2月は寒く、夏服のケースケ・コメットさん☆に説明がつかない)。
 …ということです。

 「コメットさん☆」という作品は、実際の世界・地域・システム、というものをかなり忠実に背景として描写することで、それを裏打ちにして登場する人々の感情や心の動きに、リアリティを増強させていると思えます。それはすなわち、本当はもっとドロドロしたものとか、複雑な動きをする人間そのものを、そして、この作品の主題の一つである「人の絆」を、いずれも実際よりずっとすっきり描き切っていると考えられるのです。全てがリアルではないのだけれど、背景をリアルに描いたら、ストーリーにリアル感が増した、ということでしょうか。
 そうした作品の特徴から考えますと、このようなビザに関する解題をしてみることで、ケースケという人物の人柄、景太朗パパさんとの関係、そしてコメットさん☆への想いを、より浮き彫りに出来るのではないかと考え、あえていろいろと調査してみた次第です。


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