2009年・産まれた卵の観察日記続き


 
 8月17日。早朝4時半頃、地域猫になっている顔見知りの猫に、ごはんをあげようと、ゴミ捨てのついでに餌の包みを持って、下に降りました。するとエントランスのところの直上で、カラスと鳩が一瞬「クロス」して、別々の方向へ飛んでいくのが見えました。カラスの動きが、いやな感じがしたのですが、ついそのままゴミ捨て場と、そのあと猫の方へと行き、その日に限って猫が食べ終わるまで見ていました。それで猫用の水のボトルを回収し、猫の餌入れを手に、戻ってきてみますと、エントランス脇の歩道のところから、カラスが舞い上がり、「ファサファサ」と音を立てて飛んで行くところでした。しかしそのカラスがいたところを見ますと、小さな黒い物体が落ちています。急ぎ見に行ってみると…、子鳩が瀕死の状態で動くことも出来ずにいました。しかも、数日前に、階段のところにいた鳩に、模様から見て違いありません。
 

●ここからかなり凄惨な場面の描写があります。耐えられないと思う方は、ここをクリックして、ジャンプして下さい。






 
 

 続きです。
 鳩さんの状態は、背中からお尻にかけて食いちぎられ、内臓の一部が見えているような状態。お尻からウンチが出せないのか、妙な場所にフンが固まっています。背中のところに、丸い穴のようなものが血にまみれて見えます。左足は骨折しているのか、全く動かせません。首のところにもひっかいたような傷があり、血が出ています。とにかく、背中からお尻にかけての傷からは、鮮血が出ていて、生きてはいますが、どう見ても「助からない」感じでした。
 しかし、放っておくわけには行きません。なんとか助けなければと思い、両手で羽根を持って抱き上げると、急いでエレベータのところに向かいました。ところが、わずかなところで取り落としてしまい、鳩さんは不自由な体で、一生懸命逃げようとします。左足を引きずって、なんとか必死に…。もう一度今度はしっかり抱えて、家に戻りました。
 手頃な箱に入れることにしましたが、箱に入れると、ダニがたくさん落ちて来るような状態。それに、最初に選んだ箱は大きすぎたので、別な小さな箱に、古いタオルを敷いて、そっと横たえました。あらためて見ると、血はなんとか止まっているようでしたが、荒い呼吸をしており、その呼吸に合わせて、肺が動く(肋膜)のが見えるほど。もう逃げようとする元気は無いようでした。とにかくまずは獣医師に診せるしかないだろうと思いました。時間を見ると、5時半過ぎ。獣医医院が開くのは、おそらく人間の医院と同じく、9時でしょうから、それまでなんとか持たせなければなりません。かわいそうですが、3時間半もの時間、何か出来る手当ては無いかと思い、人間用のマキロンで、せめて傷口から菌が入らないように消毒をしてみましたが、実際にかけてみると、しみるのか痛そうに動きます。これではよけいに痛くしているだけになってしまうかもしれないのでやめました。
 子鳩ですから、眠っているところを襲われたのかもしれません。野生に生きるということは、こういうこともあるのです。もっと早く、猫にはそのままごはんを食べさせておき、見に行くべきだったかもしれません。

 9時になりましたので、まずは行政区に電話しました。すると、保健所につながりましたが、保健所ではドバトとカラスは保護対象ではない、と言う答え。それで、都の「鳥獣保護管理担当」に電話して下さい、とのことでしたので、即そちらにかけ直しました。都のそこへは、すぐにつながりました。それで経緯を説明し、「どうしたらいいでしょう?」と聞くと、その答えは冷淡なものでした。
1.ドバトとカラスは保護対象から外した。
 それは議会などで検討の上ですか?、と尋ねますと、
2.議会で審議などしたわけではなく、都の内規に従って外した。
 …のだそうです。つまり、都民に相談無く、内部で勝手に決めたと言うことも出来るわけですね。そこで私は、少し腹が立ってきたので、「すると、鳩がカラスに襲われていたら、見殺しにしろと、そういうことですか?」と聞きました。答えはふるってます。
3.そういうこと(鳩見殺し推奨)になる。自然の摂理にまかせるということです。
 …だそうです。ほう、なるほどね。こういう時だけ、都合よく「自然の摂理」ね。自然なんて、ほとんど無いようなものなくせにね。……バカ言ってんじゃねぇ!。目の前に大けがして死にかけている鳩がいたら、見殺しにしろだと?。オレはそんな「冷血人間」じゃねぇんだよ!。カラスを料理して食って、「文明のもたらしたもっとも悪しき有害なものはババア」なんて暴言を吐く都知事がいる都ってところは、さすが言うことが違うね。
 

 少々冷静でない文を書いてしまいましたが、私は「目の前に大けがして、死にかけている鳩を助けないで見殺しに出来るほど、人間出来ていません!」と、担当者には言いました。そして「とにかく、私費でもなんでもいいから、なんとか出来ないんですか!?」と言うと、渋々ながら、「どこに住んでおられますか?、…それでは近くの獣医医院を紹介します」とのこと。痛みに苦しんでいる鳩を前にして、議論しているヒマは無いのです。さっさとそうしてくれればいいのに、こういうところが、「役人には血が流れていない」とすら思わせるゆえんですね。長いこと都民していますし、したがって税金も長いこと収めていますが、いつのまにやら鳩を害獣なるものに指定し、ケガしていたら見殺しにしろなどと平気で言う。都にそんな権限を与えた覚えはありません。だいたい区も都も、なぜかこの子鳩を保護して欲しいと申し出ているように勘違いしている様子…。そうではなくて、こういう場合、治療するにはどこに連れていったらいいか、指定の場所があるのか、それとも自分で探すのか、どこか適当な場所を教えてくれないか、尋ねているつもりなのに…。どうも話が通じてないようで(私も徹夜で鳩さんを見ていたためもあり、うまく説明できてないのかもしれませんが)。ですが、電話の最後に「都からの紹介です、と言ってもいいですよ」と言います。これは後に、多少の(いや、かなり?)の意味を持つことになりました。
 ようやく9時35分頃、私は大けがの鳩さんを、ケージなんてありませんから、タオル敷きの箱のまま紙袋に入れて、近くの大通りからタクシーで教えてもらった獣医医院に向かいました。獣医師に何かの動物を連れていくというのは、はじめての経験です。修了した大学院の、となりの建物は獣医学科で、付属の獣医科病院もありましたが、そこに行ったことすらありません。しかし、偶然というのはあるもので、あるいは何かの力が働いたのかもしれませんが、いつもよく乗るタクシーの運転手さんに当たりました。行先が獣医医院ということで、運転手さんはどうしたのか聞いてくれました。経緯を話すと、自分が飼っている猫の話をして下さいました。猫さんは3匹いて、1匹は体調が悪く、よく獣医師にかからねばならないそうです。心配な気持ちの私としては、そうやって話が出来たことで、どれほど気が休まったか…。
 7〜8分ほどで、Y獣医科病院というところに到着しました。私鉄駅の近くですが、商店街から1本入ったところなので、割とひっそりしたようなところです。入口で「先ほどお電話した●●ですが…」と言いますと、「獣医看護師」さん?が、手早く手続きして下さり、すぐ先生が診て下さいました。他の猫さんや犬さんを各1頭ずつ待たせてしまったようにも見えました。
 先生は親切で、経緯を説明する私の話も聞きながら、そっと子鳩を診て、そして「回りの皮膚を寄せて縫えるかなぁ…」と言っておられます。「都の紹介で来たの?」と言われましたので、「はい。そのように言ってよいと、担当の人から言われました」と答えますと、「代金は要りません。ぼくらは(野生の生物は)ボランティアでやっているから」とのこと。まったくそれでは申し訳ない気持ちに…。
 「あとで電話します」と先生はおっしゃるので、じっと待っていてもしょうがないですから、いったん帰ることにしました。「問診票」に当たるものがあり、私(飼い主ということになるようです)の連絡先と、「ペットの名前」などという欄もあります。しかし、さっき保護した鳩さんに、名前を付けてあるわけでもなく、回復できれば、通院治療などで当面名前も必要になるでしょうが、そのあたり躊躇して「これでいいですか?」と空欄のまま、獣医看護師さんに渡すと、「それで結構ですよ」とのこと。この辺も何分初めてなのでとまどいます。しかし、そんなことはどうでもなることで、今はなんとか鳩さんに助かってほしいと願うばかりです。
 
 1時間半位して、獣医師の先生から電話がありました。内容は…「肛門のところまで食われていて、どうしても皮膚を寄せて縫うことが出来ず、麻酔を強くしてそのまま楽にしてあげました。縫うときの麻酔を強くしただけなので、苦しまなかったから、そこは心配しないで下さいね」とのこと。予想はしていましたし、素人の私が見た感じでも、かなり厳しい状態でしたので、残念ですが、やむを得ません。わずかな時間ではありましたが、親身になって鳩さんを診て下さった獣医師の先生には、頭が下がります。それにしても、「こういうこともあるのだ」という事実を、今まで知らなかったわけではないのに、あらためて冷や水を浴びせられるように知らされたような気分です。都市の中とはいえ、野に生きるとは、こういうものなのでしょう。
 私は、創作館の中で(→海洋紀行トップページから、創作館)、「都市に自然など無い」と書きました。それは今でも間違いはない(創作館に書いた意味においては)と思いますし、傷ついた鳥が、「害獣指定」だからといって、見殺しにするのが「自然の摂理」だと、そこだけ都合よく「自然」を持ち出す都の姿勢には、疑問を感じます。ただ、ここはやはりアフリカのサバンナだったり、アマゾンのジャングルではないので、今そこに命をねらわれている「弱い立場の生き物」がいるのに、見殺しにするという神経は、持ち合わせていないし、これからも持つつもりはありません。

 夕方、鳩さんの遺体を引き取りに行きました。犬猫さんたちが何匹も待合室にいて、先生は頼りにされておられる様子。大事な「家族」を、信頼して預けられる医院なのでしょう。先生は鳩さんの治療代金を取って下さらないので、せめてお礼だけは、と思い、季節の果物を少しですが持って行きました。
 18時過ぎから、北側のうちが管理している花壇脇、スロープ通路と建物の間に草地がありますので、そこへ深めに穴を掘って、鳩さんを埋めることにしました。悲しい気持ちでいっぱいです。左目がほんのわずか開いていたので、そっと指で閉じてあげました。右目はちゃんと閉じています。4時間もの間、痛みを我慢しなければならなかったこの鳩さんがかわいそうでなりません。穴の底に、傷跡もそのままな鳩さんを入れ、土をかけました。
 もっと早く猫さんを置いておいて、見に行けばよかったのではないか?、4時間も傷みを我慢させて、そのあげくに安楽死ならば、いっそそのままがよかったのか?…。いろいろ考えることはあります。後悔もします。前の「?」はそうするべきであったかもしれません。しかし後の「?」は、おそらく違うのではないかと思えます。
 重い持病を抱えた人を、そのまま安楽死させるべきかということが、病気の程度によっては議論されるときがありますね。しかし、たとえ治らない病気でも、例えばQOLを改善できないか、あるいは少しでも緩解状態を長く出来ないか、そういうことは「治療の一環」として一般に行われています。医学的に治らないと判定されたら、治療を放棄していいということにはなりません。人と鳥、犬、猫は違うと言う人もいるかもしれません。では、「トキ」だったらどうします?。トキが猛禽に襲われていてケガをしていたら…。やはり放置はしないと思うのです。それはトキが希少種だから?。それもあるかもしれませんが、基本的には人間として、あるいは生物として、傷ついた生き物をまのあたりにしたときはたらく、当たり前の倫理観だからではないでしょうか。
 この子鳩さんは、結果として救えませんでした。それは悲しく、とても残念です。しかしその一方で、いろいろなことを教わった気がします。害獣なるものに、役所はとても冷淡ですが、その役所の回りで暮らしている市井の人々は、みな親切で、心温かき人々でした。タクシーの運転手さんから始まって、獣医師、獣医看護師(そういう資格はなさそうですが…)、その後話を聞いてくれた人みんな…。そして獣医医院というところも、思ったよりずっと敷居は低く、初めてでも心配することなくかかることが出来ましたし、そこに至る手順も理解できました。そのような意味では、教えられたことは多いです。また、都の担当者が、電話を切る直前に言った、「都の紹介ですと言ってもいいですよ」という言葉は、担当者氏の個人的な良心だったのかもしれません。

 北側と南側のヒナは、今日も元気です。上に書いたようなことがありましたので、心配はつのりますが、南側は親鳩さんから給餌され、さらには小さい皿に出した「専用餌」を食べていたりします。手でそっとつかまえようとすると、そそっと逃げるすべも覚えました。結構結構。北側は巣の中より、巣箱の上に上がって、外を見ていることが多くなりました(大きい方の個体)。もう少しすると巣立ちでしょうかねぇ。カラスに襲われないことを祈ります。「いよいよ危なかったら、部屋の中に入っちゃうんだよ」と言葉をかけておきました。きょとんと首を傾げるばかりでしたが…。

北側ヒナの画像です

 北側ヒナの大きい方。この角度だと、一見立派な鳩さんに見えます。6時26分。

北側ヒナの画像です

 事故に遭わないよう、願うばかりです。北側のヒナ2羽。7時4分。

南側ヒナの画像です

 南側のヒナ。エアコンの室外機にのっかって、まんじゅうのようになっていたりします。かわいいですが、心配ですねぇ…。羽根を下に敷き気味にしているのか、グレーの背中がよく見えます。14時10分。


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