車号板のアクリル彫刻タイプには、どれも同じようなイメージを持ちますが、実際にはいろいろな字体が存在します。本来は「国鉄客貨車文字」に準拠したものになっているはずなのですが、国鉄時代の晩期から字体は変化しはじめ、JRとなってからは、特に西日本では、角ゴシック体を平らにつぶしたような文字になるなど、変化は大きくなっています。
ここでは国鉄からJR東日本の、字体変化について見てみます。
A.国鉄旧字体(国鉄客貨車文字準拠)
一番なじみが深いと思われる、国鉄客貨車文字字体に準拠していると思われるものです。とはいえ、よく見ると、細め、太め、ハネやはらいなど、細かい部分に差異が認められますね。
一番上のモハ103−677は、比較的横幅が大きめ。モハのモの字、下がはねているのがわかります。モハ184−31は、数字は似ていますが、モの字の下がはねてない、ハの字の右側が外向きになっています。また色が濃いめ。三段目のモハ102−829は、全体にやや縦長の印象を持ち、さらにやや太字に見えます。モの字の下ははねてなく、ハの右側は内側向きです。一番下のモハ114−1032は、全体に細めの印象で、モの字はあまり強い印象がない反面、ハの字は太く筆で書いたような感じになっています。
これらは、彫刻したプレートを納入した業者の特徴のようで、車輌メーカーと相関があるそうです。
モハの字だけを見てみます。細かい差異が結構あるものですね。モハ184形とモハ114形は、リニューアルにより壁ごと交換することになったため、発生したもの。他は廃車発生品です。
参考までに、モハ103−502号の更新前に付いていた車号板。上のモハ103−677と全く同じ字体ですね。モハ103−502は後年、DDMモーターの試験車になり、京葉線で試運転と営業運転を行うことになるのですが、更新工事が行われるまではこれが付いていたようです。
B.表から彫刻の国鉄旧字体
国鉄客貨車文字準拠でも、アクリル板を表から掘ったものでは、また字体が少々異なります。
白いアクリル板に、表から彫刻。比較的初期のアクリル彫刻タイプで、1970年代末頃までの仕様と考えられます。モハ102−145と156は、比較的近い番号なのに、文字の太さ、字間、モの字などに案外違いが見いだせます。オハ14形は、形式の文字が細く、丸ゴシックのように見えるのが特徴的でしょうか。
形式の部分のみ、アップとしてみました。比較すると違いがかなりありますね。
これはモハ454形の車号板。この時代には表堀が一般的だったようです。「モハ」の字は、比較的モハ102−145に近いでしょうか。
これはモハ102−96号の車号板。名古屋地区転属後、JR東海に引き継がれ、部分更新工事を行った際に取り外されたものと推定されますが、その時点までは国鉄時代のオリジナルが残っていたのでしょう。本品は文字がやや全体に細めです。
ブルートレインも、比較的初期の25形までは、表からの掘り文字のものがオリジナルです。本品の字体は、上のオハ14形のものに近いので、おそらく(車輌の)製造メーカーが同じなのでしょう。
※例外的な、お座敷客車における国鉄旧字体・表から彫刻の角ゴシック調文字のもの。
オハ14形などと同様な感じに仕上がるよう、改造時に製作したようです。これは、表から彫刻するタイプでも、極めて例外的な1980年代に入ってから、元の仕様に準拠した作り方と考えられるものです。オロ12 837号は、お座敷車「白樺」の中間車です。
C.国鉄新字体
丸ゴシック調の、国鉄時代の新字体です。国鉄客貨車文字とは、一線を画する軽快な字体になっています。
国鉄時代に冷房改造されるなどして、元の車号板が使えなくなる事情が発生したとき、新たに作られた車号板によく採用された字体のようです。形式の文字がかなり細いのが特徴で、番号もその後のJR字体に比べると、やや細身に見えます。この2枚はユニットですが、京浜東北線で非冷房車編成に組み込まれるため、量産冷房車の車体のまま、非冷房で作られた車輌です。本品はその後の冷房改造時に取り付けられ、特別保全工事か、または車輌更新工事の際に取り外されたものと思われます。
あまり多くの例はない字体です。
D.JR字体
JRとなってから、車体更新やリニューアルなど、工事を伴う作業で車号板を交換した場合に、取り付けられたものに広く使われる字体です。
車輌更新工事車やJRとなってからの新造車に取り付けられた、JR字体のもの。一番上は103系の車輌更新工事車。中段は仙石線用の車輌更新工事車のもの。一番下は新製のサロ212形のものですが、新製時からこの車号板だったのかは、ちょっとわかりません。サロ213に国鉄旧字体準拠のものがある(画像はこの後にご紹介します)ためです。
国鉄新字体と、JR字体の比較です。上が国鉄新字体。全体にJR字体の方が、太めになっているのがわかります。特に形式の文字「モハ」等が太くなっています。
走行中車内のため、少しぶれた画像で恐縮ですが、185系のリニューアル車では、やや特徴的な字体のものが確認されています。リニューアルに伴い、ここの壁ごと交換されたため、車号板も交換されたものです。「モハ」の「モ」の字下側が角張って斜め右にはねており、また「ハ」の字が、レプリカと見まごうばかりに右側が直線的なのが特徴です。番号の字は、特に普通のJR字体と変わりません。これも彫刻した時期や業者の違いから来るものと思われますが、本品は珍しくリベット取り付けではなく、接着取り付けなのも目を引きます。
そんな特徴的な車号板を付けていた185系も、さすがに廃車が発生するようになり、現品を入手することが出来ました。どうも大宮総合車両センターでリニューアルされた車輌に特徴的な字体のようです。上の車内画像同様、「モ」の下がはねており、「ハ」は非常に直線的です。また接着取り付けになっており、リベットやネジの類は使われていません。
一般的なJR更新車字体のモハ102−1027号と比較。こうして比べると、全体に文字が太字なのも特徴の一つですね。
見た目がかなり異なる「モハ」部分のアップ。
なお、寝台特急用客車には、全く別の字体のものが付けられていたり、色が金色だったりする例があるため、ここに示したJR字体に合わないものが多数あります。
E.新幹線字体
どういうわけか、新幹線の電車は、国鉄時代から字体が異なっていました。国鉄客貨車文字に準拠しながら、全体に角張った「角ゴシック調」に作られています。
盗難か破損による補充で、在来線同様の字体のものに交換された車輌や、JRになってからは、特に東海の車輌で、ヘルベチカ調の完全なゴシック体に交換された車輌などもありましたが、原形はこのように角ゴシック調の、国鉄客貨車文字準拠のタイプでした。上は200系、下は0系2000番台のものですが、
0系では、ご覧のように時期による差異は見いだせません。メーカーによる字体のわずかな差異はあるように見えますが…。
0系増備車(小窓車)1000番台の車号板。字体や取り付け方は同じですが、文字色は多少変化しています。これは製造時期やメーカーによる違いでしょう。
100系、次いでJRになってから登場した300系までは、この字体が使われました。何か特別な理由があるのでしょうか。
なお、JRになってから増備された100系には、普通の国鉄書体のものが存在します。これがメーカーによる違いなのか、国鉄時代にも存在した差異なのかは、今のところ確認できていません。
これが新幹線100系の116形グリーン車の普通の国鉄書体例。本品は取付方も独特です。
裏面。本品は「アクリル彫刻」タイプなので、裏側は文字が裏返しにへっこんでいるかと思いきや、真っ平ら。
上か下からのぞき込みますと、透明アクリルに彫刻されて、青の塗料を差したあと、裏側に薄い白色アクリル板を取り付けて、背景を表現してあります(上辺が白く見えるのが白色アクリル板部分)。彫刻された透明アクリルと白色アクリルの間は、おそらく二塩化メチレンなどのアクリル用接着剤で接着しているもの思われます。
同じ116形ですが、本品はやはり角ゴシック調の、「新幹線字体」になっています。こうして見ると116−16はかなり異端な感じを受けますが、実際のところどうだったのか…。
作り自体は、116−16と同じように、白色アクリルの薄板を裏側に接着してある仕様です。
F.JR更新字体
JR東日本が、国鉄時代の車輌を対象に行った延命工事、「車輌更新工事」では、やや丸みを帯びた新しい字体の車号板が取り付けられた例があります。
全体にゴシック調なのですが、それでいて丸文字系の感じとでも言いましょうか。おそらく字体に名称があるのでしょうが、よくわかりません。彫刻の仕方や、アクリルの厚さそのものは特に変わりませんが、字体がややクールな感じに仕上がっています。下のサハ103−804は、モハ103−910番台の電装解除車で、その工事の際に当然ながら改番が行われたため、この字体の車号板になったようです。
余談ですが、上のクハ103−710は、DのJR字体のレプリカが出回っています(オークションで確認)。しかし本品が正当な実使用品です。収集される方は、レプリカを実使用品と偽ってつかまされないようにご注意下さい。
G.例外的な事例
JRになってからの増備車でも、国鉄時代に源設計が行われていた車輌には、国鉄旧字体で作られた車号板が存在します。会社によっては、自社設計の車輌にも、このような車号板を取り付けた事例があったかもしれません(例えばJR東海311系等)。
サロ213−2も、下のモハ205−158も、JRになってから登場した車輌です。特にサロ213形は、国鉄時代には無かった形式で、211系・213系そのものの系列としての設計は、国鉄時代になされたものでしたが、車輌としての設計は、JR東日本になってからです。しかしこのように国鉄旧字体に準拠する車号板で落成しています。サロ213−2は、高崎線系統への転用改造により改番、モハ205−158は武蔵野線用にVVVFインバータ制御に改造のため(5000番台へ)改番のため取り外されて販売されたものです。