2004年6月1日臨時増刊号

コメットさん☆に捧ぐ<1>

  コメットさん☆に捧ぐ(連載第1回)
 

 私が子どもの頃、テレビでは実写特撮ものの子ども向け番組が、結構たくさんあった。仮面ライダーや、ウルトラマンといったものは、その知名度では代表的なものである。
 しかし、そのころの私としては、あまり興味があったわけでもない。だから記憶にそれほど残っていない。ただその中に「コメットさん」という、少々毛色の変わった番組があったことは、何となく覚えている。
 ストーリーの詳細までは、よく覚えていないが、宇宙人の「コメットさん」という女性が─いや少女なのかもしれないが、私の当時の年齢からすれば立派な?女性である─、地球にやってきて、当時の一般的な核家族に居候する…というような話であったかと思う。
 記録を調べると、1967年にリリースされている。まさに私が子どもの頃である。ところが、これとは別に、大場久美子氏が演じた、別の「コメットさん」に関する記事を発見する。これは1978年リリースのようである。この78年版については、もうまったく記憶がない。雑誌でちらっと見た程度ではないかと思う。
 ここで話にのぼらせようとしているのは、上に書いた2作ではない。
 21世紀が始まったまさにその年である2001年、はっきり鎌倉を舞台に作られた、完全な新作の、同名アニメ作品についてである。前2作との関連は、わずかな部分をのぞいて、基本的にない。声優に一部、67年版を演じた九重佑三子氏と、大場久美子氏が、重要な役どころに起用されているだけとすら言える。その意味では、20世紀の影を引きずってはいない。
 さて、このような話をここで書こうと思った理由については、もう少し説明が必要であろう。またここの読者諸氏には、アニメについて興味のない方も含まれているだろう。この新しい「コメットさん☆」をよく知っている人には、単にホームページにでも、「解題」を貼り付ければすむかもしれない。しかし私は、この新しい「コメットさん☆」のことを知らない人にも、もっと広く紹介したいと思う。とすれば、やはり多くの人々に理解されるように、私的な心情も含めて書くべきだろう。それゆえ、特にここにこうして書く必要があると感じた。
 そのために、ストーリーの一部も含めて少し解説した上で、この作品の「見どころ」や、意義についても書いてみたく思う。
 なおこの作品は、現在テレビでの本放送は既に終了している。しかしDVDソフトとして、あるいはレンタルビデオなどで見ることができる。少し最終回の種明かしになってしまう部分も避けられないが、その点はご了解願いたい。

<「コメットさん☆」との出会い>
 私はよく新宿に、歳のいった母親と買い物に行って、ソバを食して来るのだが、母親が晩の食材をデパートの地下街で買っている間、私は西口をぶらついて、大形電気店や、コンピュータショップなどを見ていることが多い。
 時には、中古のDVDなどを扱う店なども覗くことがある。
 ある時その種の店「T」を覗くと、棚に「コメットさん☆」のDVDボックスがあった。ボックスとは、テレビ放送ものの場合、半年分位をまとめて、ディスク数枚に分けて収録し、それを専用の箱に収めたものである。たいていなにがしかの「オマケ」が付いている。
 アニメ版「コメットさん☆」が、良い評判であるのは、実は友人筋から聞いて知っていた。前2作と直接の関係はないものの、当時のファンの間、つまりは30代以上の大人にも評判であったことも。また舞台をはっきり鎌倉と決めてあることも。
 もともとアニメは嫌いなわけではない。十年ひと昔とは言うけれど、ちょうどそのくらい前までは、本来の視聴者層ではないにもかかわらず、子ども向け魔法少女アニメを見ては、その評論同人雑誌を作って、同好の人々と共に、「ああでもない、こうでもない」と、今から思えば「身の程を知らぬ作品論」を繰り返していたような気がする。
 そんなわけだから、「魔法使いサリー」などという有名なアニメの結末も知っているし、「魔法騎士レイアース」だって、レーザーディスクを持っている。現在実写化されて続いている、あの有名な「セーラームーン」の、アニメ版最終回だって、見て知っているのだ。
 そういう身の私は、「魔法少女系」アニメが好きなマニアということになるのかもしれないが、なおさらそれなら、割と最近高い評判になった作品は、見てみたい。「魔法」の扱いが、同人誌を作っていた頃の昔と違うのかどうか、当時のアニメは、「関連キャラクター商品を売るための、30分CM」などとすら言われていたこともあったが、スポンサーのあり方は、今もそのままなのか、大人として、関心がないとは言えない。
 結局、私はそのディスクを購入した。そして、本来1年弱かけて放送された「コメットさん☆」を、おおよそ10日で見ることになる。

<「コメットさん☆」ストーリーのあらまし>
 本来は作品を語るのに、あまりその内容の詳細を書いてしまうと、あとからその作品を見る人に、ある程度の先入観をもたれてしまうかもしれないし、ストーリーの結末をしゃべってしまうことは、推理小説同様禁じ手かもしれない。
 しかし、まったく解説しないでは、この作品を見たことのない人は、何のことだかわからないし、したがって話が前に進まない。
 この作品としての、あるいは「魔法少女系作品」としての独特な世界観が、やっぱりどうしてもあるものだから、あらましは紹介するようにしたい。少し長くなるが、おつきあい願いたい。

 コメットさん☆は、遠い星の生まれるところの星雲にある、3つの「星国(ほしくに)」のうちの1つ(星一つで一国)の王女である。年齢は12歳くらい。母はかつて地球に留学した経験をもつ。また叔母は地球に留学後、地球での恋愛経験から、地球人と結婚し、八ヶ岳山麓に住む。
 王女コメットさん☆の趣味は、星の子と呼ばれる「生まれたての星」と遊ぶことだが、その星の子は、一つ一つ人格と意志を持っている。そしてその星の子から授けられる「星力(ほしぢから)」という魔法を、コメットさん☆は使うことが出来る。しかしこの力は、星の子の「協力」がないと使えない。
 ある夜、王女コメットさん☆は、舞踏会に出ていた。その舞踏会は、星雲の将来を背負うとされる国々の、王子・王女が一堂に会するもので、王女が有力国の王子に見そめられれば、その国と星雲全体の未来は安泰であるという。つまり初めて見る人に、勝手に結婚を決められてしまうというわけなのである。
 王女コメットさん☆と、となりの星国の王女メテオさんは、その候補になりうるが、メテオさんはともかく、コメットさん☆は、堅苦しいドレスも、大人たちが勝手に相手を決めようとする政略的な結婚も、イヤだと思っているのだ。
 ところが舞踏会の最中、事件は起こる。王子が中座して地球へ逃げ出してしまったという。あっけにとられる参加者の人々。だがコメットさん☆も、実はつまらない舞踏会を抜け出して、宮殿の長い廊下を走っていた時、ちょうど逃げ出す王子とすれ違いざまにぶつかり、王子は「メモリーストーン」という、思い出や記憶を記録できる石を落としたまま、走り去っていく。コメットさん☆には、それが誰であるかわからないが、声をかけることもままならず、その石を拾った。
 やがて星国では、王族の代表を地球に送り、王子探しをすることになるが、妃候補を直接送って、結婚させようという意志もそこには働く。そこでコメットさん☆に白羽の矢がたつが、会ったこともない人を好きになんてなれないコメットさん☆としては、侍従長が説得に来ても、乗り気ではない。が、侍従長と母から「地球に行ける」と聞かされたコメットさん☆は、地球という星により興味がわく。母も留学した地球に行ってみたいと思うようになり、王子探しを実は全くの口実にして、地球へ向かうことにする。
 コメットさん☆は、「星のトレイン」という特別列車に乗って旅立つ。ラバボーというお供を連れて。王子の手がかりは、「瞳に“かがやき”を宿すもの」であるという。“かがやき”とは何か?。その程度の手がかりで、果たして王子は見つかるのか?。だが今のコメットさん☆には、王子探しよりも、地球の人々に興味があったのだ。
 星のトレインは、遠い星雲から彗星のように飛び、地球にやってきた。深夜の江ノ島電鉄、七里ヶ浜─稲村ヶ崎間の線路に乗り入れ、そのまま極楽寺、長谷、由比ヶ浜、和田塚の4駅を通過し、未明の鎌倉駅4番ホームに着いた。
 地球での最初の一日が始まるが、夕方になっても行き場がなくて、鎌倉駅西口の時計台下で、困ってべそをかいていたコメットさん☆に、救いの手を伸べてくれたのは、4歳の双子、藤吉剛(つよし)・寧々(ねね)兄妹と、その母であった。こうしてコメットさん☆は、国籍不明者ながら、藤吉家に居候することになる。
(次号へ続く)→続きを読む

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