2004年6月7日臨時増刊号

コメットさん☆に捧ぐ<4>

 コメットさん☆に捧ぐ(連載第4回)

(前号からの続き)
<思いのほか少ない登場人物>
 この作品の特徴の一つには、あまりたくさんの人が出てこないというのがある。これは作品世界が狭いということと、ある程度の関連があるのだが、普通のアニメ作品と比べると、圧倒的に少ない印象だ。
 これはこれまでの多くの作品では、ほとんどのキャラクターが1回限りしか登場せず、毎回新しい人との出会いが、その回のストーリー展開の元になっていたのに対して、「コメットさん☆」においては、一度登場したキャラクターは、必ずのちの話で何かカギを握る人物になってくる。これまたそれほど他の作品に無い特徴かもしれない。
 あまりたくさんの人が出てこないことで、一人一人とコメットさん☆、あるいはその回りの誰かとの関係が、より濃密なものになり、やはり「人の縁と絆」を強めることになっているとでも言おうか。

<平和主義>
 この種の作品では、ある程度当たり前なのだが、徹底した平和主義的描写が目立つ。例えばそれは藤吉家の人々が、自家製の「憲法」を持っており、生活規範を規定していることも、挙げられるかもしれない。
 憲法の最高法規性を持ち出すまでもなく、コメットさん☆の住む藤吉家が、家内憲法を遵守しているのは、憲法というものが持つ、「容易に破ってはいけないもの」という暗黙の約束を、あらわしているに他ならない。このことは、もしかすると現在の、日本国憲法改変圧力に対する、危機感のあらわれかもしれない。
 また平和主義を象徴するものとしては、「ロボットは戦うために作られたのではない」という主張が、作品中にある。これは剛くんと寧々ちゃんが、作品中で学ぶことなのだが、こういう直接的な格言や、規範意識を高めるよう誘導するような表現が、嫌みなくさらりと込められているのが、いかにも現代的で面白い。

<“かがやき”と規範意識>
 上の平和主義とも関連するし、他の作品が一概にそうでないとも言えないのだが、この作品は、意外とストレートに道徳的なことを説く。しかしそれは、教条的に「こうするべきです」と、出てくるのではなくて、さらりと見てしまえば、それで通り過ぎてしまうようなものである。ところがふと立ち止まって、「それってどういう意味だろう?」とか、「なかなかいいことを言っているような気がするな」と思ったとき、私たちは、コメットさん☆の魔法にかかったようなものなのだ。
 割と特別な力に頼らない「努力」の大事さとか、まっすぐ真摯に物事を考えることの重要性など、普段特に大人は忘れているような意識を、あらためて再確認させるようでもあり、またそういう見方をしないことも許容するという、不思議な中庸的態度とでも言えるだろうか。
 本当は、「特別な力に頼らない努力は大事だ」ということを、前面に強く押し出してしまうと、魔法少女系作品の「魔法」の意義と、対立する可能性もある。しかしこの「コメットさん☆」では、「魔法絶対主義」の呪縛から逃れるように、ストーリーや、キャラクターを設定することにより、うまくその対立を避け得ているようにも見える。
 “かがやき”という言葉で象徴される、「信ずること、素直に心に感ずることを、良心にしたがって発露せよ」という、ある意味直球勝負で、青臭く、ストイックな主題が、この作品では、空気のように流れているはずなのだが、その空気を、今読み切れなくとも、それはそれでいいという、軟らかな思考が、そこにはあるようにも思える。

<驚くほど無防備な等身大のヒロイン>
 コメットさん☆は、前に12歳くらいと書いたが、よく考えると、ちょっと年齢不詳のヒロインであった。小学生なのかと思いきや、地球では学校に通わない。だから中学生でもない。見た目の年齢としては、小学校高学年か中学1年生くらいに見える。いわゆる思春期の入り口の、多感な少女というイメージではあるけれども、あまり少女漫画的恋愛ストーリーで、埋めつくされているわけでもない。そのような作品中での性格付けが、大人の私には、意外な感じとして受けとめられる。
 それと作品中でのコメットさん☆は、非常に無防備だ。星力という魔法力を、使うことが可能でありながら、である。
 一口に無防備と言っても、わかりにくいかもしれないが、例えば特に魔法を使うところを厳密に隠そうとはしないし、時によっては人前でも使ってしまう。夜になるとパジャマ姿でラバボーの背中に乗り、空高く舞い上がって星力を集めるなど、絶対近所の人には見られているぞというようなことを、平気でやってしまう。深夜に、足を痛めたケースケの下宿へ、女性看護師の姿で一人で行ってしまうなど、数え上げたらきりがないほどだ。
 最後のケースなどは、本来とんでもない危険なことかもしれないから、大人の私からすれば「ギョッ」とするが、それ以外の魔法を不用意に使うというのは、視聴者との一体感を強める演出なのではないかと考えられる一方、今までの魔法少女アニメの多くが、固く秘匿しなければならなかった魔法を、少々一般に知られてもかまわないのではないか?、それによって天地を揺るがすほどの影響はないのではないか?と、根本を見直すことで、コメットさん☆を、一般の人々に近づけたということでもあろうかと思う。
 ただ本来的にはそうなのであろうが、それとは別の見方も可能だ。それは「星力」という魔法を使うコメットさん☆も、実は一人の生身の人間だということである。
 こう書くと、「アニメの中の人を、生身の人間と言うのはおかしい」と、反論したくなる人もいるかもしれない。が、ここで問題にしているのは、コメットさん☆が実在する人物かどうかとかいうことではなくて、私たち「普通の地球人」と、設定上どう違うのか?ということである。
 今までの魔法少女は、視聴者とは越えられない一線が必ず存在した。それは魔法力を自ら持つということが、私たち「一般人」には、普通絶対に獲得できない能力であるということである。しかし、コメットさん☆の「星力」はどうか?。これは「星力」の本質を何と定義づけるかによって、もちろん変わってくるのだが、少なくとも「星力」が及ばない、使えない時のコメットさん☆は、私たち「一般人」と何ら変わるところがない。多少予想外のこともしでかすし、失敗もする、そして恋にも悩む、普通の少女に過ぎないと言える。
 これをもって「等身大」と言うのである。
 アニメの中の魔法少女たちは、1980年代後半あたりから、だんだん普通の人間に近づいてきた。それは“魔女”という、高い位置から、私たち人間近くに「降りて」来たとも言うことができるが、それでも最後の一線「原魔法力」だけは、越えられない一線であり続けた。
 しかしコメットさん☆は、その線の真上に立つ。確かに右手には、「星力」を操るバトンを持つが、左手は剛くんや、寧々ちゃん、その他視聴者である私たちを含めた、あまたの「普通の人間」と手をつなぐために、何も持たずにあけてあると言えるのではないか。
 このことは、コメットさん☆自身が、弱く、倒れやすい人間そのものであり、私たち普通の人間と、なんら変わりはないのだという点で、よりいっそう私たちに身近な存在になったのだと言える。
 生身の人間がもつ、生きていることの悩み多さ、もの悲しさ、心の中の想い。生けるもの全てがもつ、生きているがゆえの命のはかなさ、悲しさ、そして喜び。それら全てを共有しうる、一人の人間として、コメットさん☆が描かれていることは、私たち普通の人間の共感を呼ぶ。そして、今までになく「生身」であることをさらけ出した、コメットさん☆にまつわるこのストーリーは、ある種もの悲しく、甘酸っぱく、ほろ苦く、そして愛おしい。人が「縁と絆」を求める理由が、あるいは、人はいつでも希望を持つことができるという、「希望の力の発露」が、そこにあるからだ。

<「星力」をどう見るか>
 「星力」とは、コメットさん☆やメテオさんが使う、魔法の力であった。しかし、それだけでは終わらない何がが、まだあるような気もする。ここでは、この星力の本質をより突っ込んで考えてみたい。
 コメットさん☆が日々使っていた、星の子から与えられた力としての「星力」は、作品中様々なことに使われた。ここまでは普通の魔法少女系作品と、それほど大きく違わない。ダブルブッキングを解消したり、部屋を改装したり、時には無茶をしたり…である。だがこれらの力が作用するとき、時として目先の物事を解決するだけではなく、それ以上の変化を、人々にもたらす場合が、確かにあった。それは「星力」ないしは「恋力」が、「人の縁と絆」を強くするときである。そしていくつもの場面で、「星力」は、本来の作用以上の力を持つように描かれた。
 これまた、さらっと見てしまえば、そうとは気付かないが、深遠なテーマが隠されていることが多い、この作品の特徴のあらわれとも言えそうだ。
 しかしここで疑問がもう一つわく。それは私たち普通の人間が、「縁や絆」を求めてはいないのだろうか?ということである。無論、答えはノーだ。人は一人では生きられないなどとよく言うではないか。人間は、全て、あるいは常に、「縁や絆」を求めずに生きてはいかれない。
 「星力」や「恋力」が、「縁や絆」をもたらす力だとするならば、もしかすると、私たち普通の人間も、日々使っているのかもしれないと、言うことができる。不思議な縁に導かれて、友人同士になったとか、結婚したとか、そういう例は多々考えられる。第一自分が今、母から生まれ、生きていること自体、かなり奇跡的な「縁」であり、家族の「絆」ではないか。
 そう考えてくると、コメットさん☆の使う「星力」は、意外に身近にある力なのかもしれないと思う。またこの見方は、コメットさん☆が、やはり純粋に一人の人間なのだという見方をも、裏打ちすると思える。

(以下次号)→続きを読む

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