2005年7月22日号

日の丸企業の明日<1>

  日の丸企業の明日<1>
 

 また携帯電話の話が続いて恐縮だが、先日自分の携帯電話を、会社の統廃合のために、契約変更したとき、見聞きしたことについて、ちょっと書いてみたい。
 通常携帯電話の契約の変更というと、「新規」に、違う会社と契約するとか、同じ会社でも、料金の方式を変えるとかいう場合である。私の場合は、会社が無くなってしまうのだから、当然別な会社との新規契約ということになる。この場合、申込書を書いて、しばらくその場で待っていなくてはならない。大形の量販店などでは、預り証のようなものを発行して、しばらく他のフロアや、その近所をぶらぶらしていろというような方式のところもあるようだ。
 しかし、私が頼んだような小形のお店の場合は、いすが置いてあって、20分ほどで手続きをしてくれ、その日の夕方には、電話機が使えるようになっている、というものだった。
 そのため書類を書いている間、それから、本人確認の書類の写しを、会社にFAXしている間、会社とお店が連絡を取っている間などの15分ほどは、そのいすに座って待っていたのである。
 すると、となりのいすには、携帯電話の機種変更を希望して来た、70歳代のおばさんがいて、いろいろ話をしているのが聞こえた。
 聞くとはなしに聞いていると、この人は、某元公社系の電話会社の、相当古い形の電話機が、充電しにくくなってきたので、新しいのに変えたいという。ところが、例によって、ほとんど全ての機種は、若者向けに作られていて、ボタンも小さければ、大げさな液晶画面が付いており、いりもしないカメラなんかが付いている。それがどうも、おばさんには、「使いもしない機能が付いているのは、なんとなく気分が悪い」ということらしい。
 なるほど、それはわかる気がする。よほどのことがない限り、私も携帯電話で写真を撮ろうとは思わないし、「写メール」とかいう、友人に画像つきメールを送ろうとも思わない。そもそもそんなことは、デジタルカメラやパソコンに任せるべきものであって、なんでも携帯端末にやらせるのがいいとは思わない。もちろん、私個人の考えであり、仕事でどうしても必要という人もいるだろうが…。だいたいメールだって、あの打ちやすいとは思えない0〜9、*と#キーでせっせと打ちはしない。友人が、海外に出かけるから、面白いものを見つけたら、携帯にメールすると言ってきても、「頼むからパソコンに送って」とお願いするほどなのだ。
 そういう具合なので、このおばさんの思想はよくわかる。
 何でも向こうの会社の、「思うつぼ」のように、お仕着せで決められるということには、相当抵抗感がある。この辺が、今の若い世代と、根本的に違う頭脳構造なのだろうとは思うが。
 今の人々が、単純に何でも受け入れると言っているのではない。そもそも構造的に、というか、選択の余地無く決められてしまうことの多い現代という時代に対して、ある抵抗力を持っていたいということである。
 これは案外大事なことなのではないだろうか?。今までの人生経験の中で、受けてきた教育や、見てきた政治構造なんかの、トップダウン的な、「頭ごなし」に決められたことで、いいことなんてほとんどありはしなかった。
 「それこういう若者向きの携帯をたくさん作ったぞ、好きなの選べ、ただし出来ることは大体同じだ…」と、そういう中から、使いもしない機能がたくさん付いているものを買って、「使わせていただく」つもりなんて無い。主役はあくまでこちら、つまりは客のはずである。そして、様々な相の人間が客になっているはずで、それこそ今や、小学生からお年寄りまで、メカに強い人から、弱い人までいろいろなはずだ。それを十把一絡げに、同じレベルの機種に、順応させようというのは、かなり無理がある。
 無論そこには「多数の原理」が働いているのも理解している。たくさん使う、いわば一番儲けさせてくれる人のニーズに応えて、他を無視するのは、企業の収益性としてはありうる話だ。しかし、ことは「コミニュケーション」を仲介し、公共性のある仕事を受け持つのが携帯電話会社。少数切り捨てでいいという理由づけにはならない。

 件のおばさんは、「某モードというのは、メールもネットもやらないから、いらない」と言う。「カメラは取り外せないのか?」とすら言っていた。まあカメラは取り外せないとしても、まったく使わなければそれまでだから、なんとかなるとして、某モードというのは、毎月300円の料金がかかる代わりに、最初に1000円安くしている、だから某モードを使わないとすると、最初に払う金額が1000円高くなるがいいか?という、お店の人の言に納得行かない様子である。なぜ、使わない場合に高い料金になるのか?と。
 それに対してお店の人は、「翌月フリーダイヤルで、そのモードだけ解約すればいい」、「みんなたいていの人は、メールをやるので、そういう制度になっているのだ」と説明するが、これは説明としてもあまりかみ合っていない。
 おばさんには、「客であるこちらが、なんでそんな面倒な手続きを要求されなければならないか?」、「みんなメールを使うというのは、携帯電話屋や、お店の理屈であって、それをしないという人に、負担増となるようになるのはおかしいではないか?」と切り返され、お店の人は困惑しているようであった。

(次号へ続く)→続きを読む

※この作品が面白いと思った方は、恐れ入りますが下の「投票する」をクリックして、アンケートに投票して下さい。今後の創作の参考にさせていただきます。アンケートを正しく集計するため、接続時のIPアドレスを記録しますが、その他の情報は収集されません。

投票する