2005年7月8日号

ケータイよあらゆるニーズに<1>

  ケータイよあらゆるニーズに<1>
 

 母には、まあ職業柄必要だろうというのと、急に連絡したい時を考えて、かなり前から携帯電話を持たせている。最近では公衆電話も、少なくなったこともあるが…。
 使っている携帯電話機は、今や稼働しているのが、珍しいのではないかと思えるほど、古いタイプのものである。それは、当時個性的な携帯電話機を、いくつか作っていたメーカーのもので、電話会社は元国営のN社である。もう5年以上の長期割引が、適用になっている契約だが、その間一度も電話機を機種交換したことはないので、それもまた珍しいことだと思える。
 たいてい携帯電話機は、それは端末と呼ばれるのだが、使っているうちに、内蔵の充電式電池が劣化して、充電できなくなり、電池を交換する必要が出てくる。しかし、その頃には、端末ごと交換したほうが、いろいろ機能が進歩していることもあり、安くていいということも多い。
 私もそれで何度か携帯端末を、機種交換してきた。
 電池パックは、どんなに高いのか?と思ったら、数千円から1万円弱するものもあるらしい。詳しく調査したわけではないが…。まあ仮に5000円として、電池を交換して古いものを使い続けるか、それとも新しい端末に取り替えるかというのは、安いか高いかで比べれば、そう大きく違わないことが多いし、場合によっては電池より安い端末というのもあるので、普通は端末ごと交換ということになってしまう。
 ところが母の場合は、めったに使わないので、そもそも電池が長いこと劣化せず、いまでも充電性能が、ひどく低下しているということはない。そのため本人に聞いても、この端末のままがいいと言う。
 しかし、電池の寿命が永遠ということは、あり得ないわけだから、いつかは機種交換の時を考えなければならない。
 ところが、この端末を、当時選んだ理由は、老眼の進んだ母でも、番号ボタンを押し間違えにくいようにと、1つ1つのボタンが離れて配置されている、やや幅広の端末を選んだという経緯があった。またそもそも最近の折り畳み式とか、ましてやカメラ付きなどというものは、考えられすらしなかった頃のものなので、機能は至ってシンプルである。会話以外出来るものはない。カメラはもちろん、メールも出来なければ、着うただの、着メロだの、和音で着信すらない。まるで旧形機の「動態保存」をしているようである。便利な機能と言えば、特定の数字ボタンを押し続けるだけで、通話ボタンを押さずに、登録番号へ電話がかかるというものがあるので、3カ所だけ番号が登録してある。しかもその番号とは、私の携帯2つと、わが家の固定電話である。
 さてどうしたものか。もう5年以上使っているとなると、いくらなんでも電池が弱っては来るだろう。そうすると、割と最近のうちに、機種変更をしなくてはならないかもしれないし、もう少しは大丈夫かもしれない。バッテリーの劣化度は、見ただけではわからない。
 たまたま、私の携帯電話を取り替えることになったので、新宿の量販店などをちらちらと見て、代替機にいいものは無いかと、少し探してみた。
 ところがこれがまたまるっきりわからない。当時無かったiモードとか、FOMAとか発展的規格があるし、それぞれにいろいろな機種があるらしいのだが、何だかやたら多機能過ぎて、シンプルで良さそうなものは、ほとんど見つからない。それに機種変更というのは、意外に料金が高い。
 わずかに現行機種で1つ、ボタンの形状が特殊な形で、本人に店頭で持たせたところ、いたく気に入った様子の小形の端末と、型落ちの折り畳み式で、非常に薄い、カメラなしの端末くらいしか、適当と思われるものは見つからない。
 他の電話会社はどうかと思っても、競争をしているわけだから、基本的に同じような多機能な端末が、各社ずらりということである。
 その中に、例のメールも液晶画面もない、通話だけの端末というのもあった。よくCMをやっている、「簡単じゃないか」というアレである。
 しかし、母が言うには、「確かに高齢者は、機能がシンプルなのを選びたがるが、デザインももっといろいろなものがあっていいのではないか。一機種しかないのはつまらない。多機能ばかりが能じゃないし、いろいろなニーズがあるはずだ」とのことである。

(次回に続く)→続きを読む

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