2005年11月18日号

謎の就職試験<1>

  謎の就職試験<1>
 

 今からもう10年以上も前になるかと思うが、私は大学院を修了して、自分が目指してきた、農学の道に違和感を感じ、方向転換をしたものだから、農学系の仕事には就かなかった。
 そうすると、かわりにどうするか。当時は図書館の司書になりたかったので、資格を取って、とりあえずは大学の事務員に採用され、そこから図書館に配転してもらおうなどとも考えていた。しかし、4年間を過ごした大学に、バイトとして採用され、資格を取りながら、かつての教授筋や、理事などに打診したけれど、一度採用は内定したものの、大学側の諸般の事情により不調に終わった。
 そこで、中途採用の状況は、今ほど厳しくなかったから、毎月のように、企業や大学の、極力司書資格の生かせそうなところへ、中途採用の試験を受けに行っていた。
 のちにその道も、様々な理由により、断念することになるのだが、当時は一生懸命試験に臨んでいた。
 ところがある日、不思議な試験に遭遇したというか、今でもその意味が、最終的に理解しがたい試験を受けた。
 それは都内某所の医系大学で、職員を中途採用する試験であったのだが、事務職員若干名、ということであった。
 私は図書館勤務を希望だったのだが、そんなのは採用の「区分」にない。ただ「事務員」となっているだけであった。しかし、その程度のことで、いちいち「条件に合わない」などと言っていたら、それこそ永遠に職にありつけないこともあると、少なくとも当時は思っていたから、とりあえず事務で入って、入ってからなら、なんとかなるんじゃないか、それはつまり、時期が来れば、図書館に配転の目もあるのではないか?と、勝手に解釈して履歴書を出したのだった。履歴書を出すなどというときには、多少の拡大解釈は必要である。
 そうして試験当日になり、私は指定の時間に遅れそうになりながら、都内某駅から試験の会場に着いた。遅れそうになったのは、その大学は、医系大学だから、事務棟のある場所と、講義が行われたり、病院があったりする場所が、少し離れたところにあって、場所を間違えたからであった。
 うかつと言えばうかつだが、地図が今のようにネットですく探せる時代でもなかったので、つい間違えてその大学の、付属病院のほうへ行ってしまったのだ。
 しかしまあ、なんとか間に合って、試験は始まった。試験の内容は、まず適性検査があり、そのあとに面接があるのだが、面接は一人ずつではなく、一度に3人ずつというものであった。
 試験官は3人。男が2人と女が1人である。どうも女の人は教授かもしれなかった。残りは人事部長と、事務部長あたりであろう。
 何組かが面接を終えて、私を含むグループの番になったが、私のグループは、暗そうな青年、やたら「体育会系」?な青年、そして私の計3人であった。
 まず志望動機を尋ねられる。
 答えは1人目の体育会曰く、
「私の自己啓発と自己実現のために…!。御校に精一杯報いるつもりであります!」
…なのだそうである。何となく「軍隊調」なのが鼻をつく。
 次に私の番だったので、正直に答えた。
「私は図書館司書になりたいので、当面事務員として採用され、採用されてからもし図書館に空きが出たら、そこに配転していただきたく…」
 …という具合である。今にして思えば、向こうとしては、「事務職員」とわざわざことわっているのに、司書になりたいとは、司書が専門職の一種であるだけに、困ったやつだとは思っただろう。試験官の男の一人は、しきりに、
「そうは言ってもあなた、事務職員での採用であって、図書館に移れる保証なんてないよ?」
 …と言う。まあしかし、それは納得の上で履歴書を出しているのだから、こちらとしては、ダメですと言うわけにもいかない。それに、いくつも受けた試験から、そこで「そうですか」などと、すごすご引き下がっていられないことなんて、わかっていた。
 そしてもう一人の男が語った志望動機はふるっていた。ぼそっと曰く…、
「別に…」
 …である。本当にそう言ったのだ。
 私はいくつもの中途採用試験を受けてきたわけだが、志望動機が「別に…」という人は初めて見た…。というか、その後見ていない。読者諸氏は、見たあるいは聞いた経験が、おありだろうか?。

(次号へ続く)→続きを読む

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