2005年11月25日号

謎の就職試験<2>

   謎の就職試験<2>
 

前号からの続き)
 中途採用の試験の場合、あまり集団面接とか、討論などという場はないと思うし、実際経験もそれほどないが、それでも二人組みという程度のものはある。特に志望者が多い場合は、効率上やむを得ず何人かまとめてということは、ままあることである。そういうことで、同じような立場の人々と同席しての試験というのは、経験がなくもなかったが、志望動機などというのは、それほど立派なことが言えるわけでもない。体育会系の男みたいに、やたらと「私は〜でありますっ!」みたいなのも、就職マニュアル一夜漬けの学生じゃあるまいから、ちょっとどうかと思うし、新卒者じゃないのだから、正直どこでもいいから働き口を…という人だって多い。
 そういう人々の志望動機が、それほど人に感銘を与えるような、立派な動機ということは、むしろ少ない…というか、そんなことはあり得ないのではないか。たまたま新聞広告で見て条件が合っているからとか、卒業生を知っているとか、先輩や先生の紹介で…というようなものが、まあ想定されると思う。
 さてまあ、3人とも志望動機は、一人が「自己実現」、もう一人が「事務員から図書館コンバート希望」、残る一人は「別に…」だということがわかった。
 だがやっぱり、また今にして思えば、3人とも、採用されるには無理がありそうな気もする。
 一人目の体育会系青年の、「自己実現」というのは、確かに聞こえはいいし、「就職マニュアル本」などには、そのように答えるべし…などと書かれているのかもしれないが、こう言うと語弊があるけれど、大学の事務で「自己」を、「実現」させるほどの場面は、それほどありはしないのではないか?。
 私は大学の通信教育部でアルバイトを、長期に渡ってしたことがあるし、他の大学の研究室の資料整理事務などもしたことがあるけれど、「自己実現」と呼べるようなことが出来たのは、資料整理事務をしていた時代、ビデオカメラを担いで、大学祭の取材をなぜか任されたとき位のものであり、それだって、普通は卒業生でもない、アルバイトの人間にやらせないだろうと思う。たまたま私が、ビデオ機器などの「機械モノ」に興味があって、友人になった正職員と、ああしてみよう、こうしてみようと、日頃言い合っていたからであって、単に人手が足りなかったから、ということではないと思う。確かにこのビデオ取材の時は、何しろやっていて楽しかったし、自分の多少の知識を生かしたりは出来たかな?とは思うから、そういうのを「自己実現」なるものの一端だと言えば、それはそうかもしれない。しかし通常は、大学の事務などというものは、かなりルーチンワークの繰り返しなのである。
 そもそも学校などというところは、毎年新入生を迎え、卒業生を送り出し…という作業を、延々と繰り返しているわけで、それは大きなルーチンシステムだからだ。
 それで話を戻すと、私もこれまた採用側からすれば、「困ったやつ」だっただろう。
 それは、やはり一般の「事務職員」を採用したいと思っているのに、専門職である「図書館司書」に、最終的に就きたいと言う。まあ試験を受けさせてくれただけ、ありがたいようなものかもしれない。通常だったら、書類の選考で落とされても不思議はない。
 残る一人の「別に…」に至っては、いくら志望動機に、たいそうなことは答えられないとしても、全然話が始まらないわけで、簡単な動機すらも語ってくれない人を、採用するのは難しいだろう。たかが動機、されど動機なのだと思うし、ここは動機そのものよりも、その人の態度や人品を判定したいのかもしれないのだから。

 しかし、そんな和やかな?雰囲気は、試験官の次の一言で一変した。…いや、回りは一変してないのだが、私の心の中では…ということである。
 「新聞は何新聞を取っていますか?。その新聞、何面から読みますか?」
 よく大学時代、就職ガイダンスなどでは、試験当日の朝刊に目を通しておけとか、「日本経済新聞」を日常とって読めとか、嘘でもいいから1面から読むと答えよなどと言われてきたし、その種の本や、当時学生部の壁に張られていた掲示などにも、そんな記述を見たような覚えがある。
 だが、まさかここで、当時30歳に手が届こうかという、「おじさん」に向かって聞かれるとは思わなかった。
 私の場合、新聞は日経でもなければ、サンケイスポーツでもない。父親がずっと取っていたスポーツ紙以外は、メジャーなところ2紙といったところである。それは正直に答えたが、となりの「体育会系」は、日経と答えていたような気がする。
 それよりも私が憤然としたのは、中学生〜大学生に対して聞くならともかく、既に成人して久しい社会人に対して、「新聞は何面から読みますか?」もないものだということである。
 そんなのは、一度社会に出た人ならば、その時々で、どこからだって読むだろう。電車で新聞を読む人を見ていても、まずは広げて半分に折ったりしている。そういうところは経済面だったり、国際面だったりもするし、日によっては、家庭欄ということだってありうる。就職準備をしている学生ではないのだから、それほど決まった様式というのを、新聞や雑誌の見方について、持っている人が多いとも思えない。

(次号へ続く)→続きを読む

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