2005年12月2日号

謎の就職試験<3>

   謎の就職試験<3>
 

前号からの続き)
 私は結局、比較的そこから読む場合が多い、という「社会面からです」と答えざるを得なかった。理由も尋ねられたから、「私たちは、日々社会の中に生きているので、まず社会で何が起こったか、また起きつつあるのかを知ることが大事だと思う」などと答えた。この辺、人事担当者としては、うれしくない回答なのかもしれないが…。

 さて、もちろん、この試験、私は落ちたのだが、しばらくたってから、ふと疑問がわいた。
 それは、あの「新聞は…」という設問についてである。
 あの大学は、社会人の中途採用とわかっているのに、どうして「新聞は何面から読むか」などと聞いたのだろう?と思った。もちろんそれは、単純な質問のほうが、人格がはかりやすいということもあるかもしれない。そこで顔に出やすい私などは、きっとムッとしたような顔つきをしたに違いないから、向こうの思うつぼなのかもしれないが…。
 それに、同じ職場で机を並べて働くかもしれない人を選ぶのだから、設問そのものへの回答よりも、その人の反応から、気質のようなものを見ようとした可能性も、捨てきれない気がする。
 ただやはり、その設問がたとえ「人を見るため」の、いわばダミー的な質問だとしても、中途採用希望者に対して聞く質問としては、適当な聞き方とは言えないとは思う。何をいまさらと思う人もいるだろうし、私のように内心不信感を抱く人もいるだろう。たとえ試験だとは言っても、あまり賢い聞き方だとは思えない。
 しかし私は、もう少しうがった見方もしてみた。というのは、あの日の試験で、約20人ほどが集まっていたのだが、はたして合格者がいたのだろうか、ということである。
 それは2通りのことが考えられると思えるからだ。
 1つ目は、既に採用者は内定しており、新聞や情報雑誌に広告してしまった以上、形だけでも試験を行わねばならず、たんたんとマニュアルにしたがった試験をしただけである可能性。
 もう1つは、やはり全体として、かなり厳密に人選をしたいと思い、かなり初歩的なところから質問をしてみて、それに対する反応で、「人としての性質・気質」をはかろうとした可能性…の2つである。
 私個人の見方としては、全体の質問が、いくらなんでも「子ども騙し」過ぎるような気がして、今でも後者の可能性は薄いと思うけれど、さりとて、あり得ないとも言い切れない。
 また気になるのは、女の試験官が、私の趣味欄を見て、相当突っ込んだことを聞いてきたことである。
 私は履歴書の趣味欄に、「鉄道の研究」と書いていたのだが、「どういうことか?」と聞かれ、「鉄道車輌の研究や、鉄道全般のシステムの研究である」旨答えると、「鉄道のどこが面白いか?」と聞く、それで私は「鉄道は社会を乗せているから面白い」などと、禅問答のような回答をしたところ、さらに「社会を乗せているとはどういう意味か?」と、約20分ほどに渡って、私にだけ質問を繰り返してきた。
 鉄道のシステムの持つ面白さや、「社会を乗せている」という言葉の意味については、ここで語っていると、この文章が、さらに長く長くなってしまうので、また別の機会に譲ろうと思うが、この女の試験官だけは、身を乗り出すようにして、私に質問をしていたから、まあ一応、興味深いやつだとは、思われたのかもしれない。その意味では、投げやりな試験とも言えない様子であって、この感じだけを見ると、上の2つの可能性のうち、前者の線は消えるかにも思える。
 結局やっぱりこの試験で、「新聞は何面から読むか?」という質問の意味は、いまだどっちだったのか、あるいは第3の意味があったのかはっきりしない。
 だが、落ち続けた就職試験の中でも、この試験は一番印象に残っている、「謎の」試験であった。読者のみなさんは、どう思われるだろうか?。
(完)

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