プロ意識のない者は…<1>
どうも私は、実際の歳よりも、若く見えるせいなのか、結構商店で、年下の人に、えらそうなことを言われる機会が多い。別にたてまつってもらいたいとは思わないが、不本意ではある。まあしかし、人は外見でものを判断することが多いのだから、ある程度仕方がないかもしれない。わざわざ頭を白髪にしたり、顔にしわを刻むわけにも行かないのだし。
本来ここは、自分の腹立ちをぶちまける場所ではないし、なるべくそういうことがないようにと思うのだが、前回の、世田谷ボロ市の一件も含めて、商売上のプロと言うべき人々から、失礼ではないかと思うことを、最近矢継ぎ早に言われっぱなしである。これは困ったことだ。かといって、いい歳のおっさんの私が、まさか相手をぶん殴るわけにも行かないし、逆にやられてしまう可能性のほうが、極めて高いだろう。そもそも暴力を肯定できない。
したがって、なるべく腹に納めたいところだが、そうも行かない事例にまた遭遇してしまった。
近所のK駅には、南北両側に数件の書店がある。このうち比較的規模が大きい書店は、南側ビルの地下に入っている1店と、北側駅ビル内の1店である。
先日、若くはない母親が、探したい本があるというので、いっしょに北側駅ビル内の本屋へ行った。ここはよく行くし、品揃えもまあまあである。私もちょうど、調べたいことがあったので、それに関する本と、母親が持ってきた本、計3冊を持って、レジに並んだ。レジではすぐ精算され、タクシーで家に帰ったところ、家で本を取りだした母親が「あれっ!?」と、大きな声をあげる。「こんな本…違う」と。
よく話を聞いたところでは、「信長」に関する新書を見つけ、買って読もうと思い、その本が平積みになっているところの、下の方から本を取ってきたのだそうだ。しかし、その下の方から取った本は、特に確かめないで私に渡したという。
ところがそれで買ってきてしまったのは、BSE問題がどうとかという、似ても似つかぬタイトルの本であった。つまりこれは、となりに積んであるべき本が、下の方では入れ替わっていたか、もしくは何らかの理由により、信長の下にBSEが積まれていたことになる。信長にしてみれば、いい迷惑かもしれない。
平積みで売っている本は、上から取るもので、下から取るべきではないという考え方もあろうが、おおむね本屋というところの、立ち読み客たちが手に取る本は、状態が悪くなりがちで、あまり人がべたべたさわった本を、買って来たくたくないという気持ちは、歯科医や美容院・床屋のマンガ、週刊誌じゃないのだから、誰でもあるのではないだろうか。
まあしかし、信長の代わりに、BSEの話を読むわけにもいかないから、仕方なく、所定の信長と交換してくれるように、レシートにある電話番号に電話しておくことにした。
確かに客である私たちの「錯誤」によって、生じた間違いではあるけれど、本来、平積みされて上に出ている本と、異なるタイトルの本が、下のほうには隠れているとは、思わないので、そこには店の管理上の問題も無くはないと思う。
さて、電話に出たのは、若い男性T氏であった。マニュアル通りに、「××書店△△店のTです」などと言う。なので、私もわけを話すことにして、「平積みになっていた本で、下から本を取ったところ、上のものとは異なった本になっており、間違えて買ってしまいました」と言った。
次の瞬間、私は耳を疑うことになる。
T氏は、「段差がつかないように、違う本を並べることがあるんです。またお客様が勝手に並べ替えてしまうことがありますから」と、さも当然のように言う。
私は意外な言葉に、少しびっくりしながらも、まずは取り替えについての事務的手続きを進めた。T氏は「状態に変化がなければ、お取り替えします」と言う。
ここらへんで、普段やさしいわけではない私も、我慢の限界となる。
状態に変化が起こるというのは、どういうことを想定しているのだろう?。私がこの本を3冊まとめて買ったのは、レジの記録によると、17時01分となっている。それで電話をしながら、居間の時計を見ると、17時38分。わずか37分の間に、劇的な「状態の変化」が生じることを、もしかすると私は疑われているのか?。
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