プロ意識のない者は…<2>
※前号からの続き
そういう事態は、例えば乳児がいて、本をびりびりに破ってしまったとか、ペットがかじったとかいう場合が、まあ考えられる。しかし、37分位の時間では、タクシーに乗って帰ってきたのだし、逆にそれくらいしか、想定できない。だがもちろん、うちには乳児もペットもいないのである。
それで私は、そのT氏に、問うてみた。「下の方には違う本が積んであるというのは、店側の管理の問題ではないのですか?。また客が勝手に並べ替えると言うが、それは直しておくのが店の責任では?」と。するとT氏の回答はこうだ。「私はそうは思いません。先ほども言いましたとおり、平積みで段差が生じないようにということと、お客様が並べ替えてしまうということがありますから」…だそうである。…いや別に、君が個人的にそう思うかどうかを、聞いているのではないのだが…。
このあと私は声を荒げ、店長に電話を替わらせることになったのだが、その直前、あまりに自信たっぷりなので、よほど責任ある立場なのかと思って、件のT氏に「あなたは店長さん?」と聞くと、「いいえ、ただのバイトですけど」とのたまう。「ただの」と言われてしまうと、なんだか肩すかしをくったような格好だ。せめて「配架担当責任者のバイトTです」くらいは、言ってもらえるかと思ったのだが…。
結局電話を替わった店長が、申し訳なさそうにわびることになるのであったが、もう少し根本的なことを考えてみたい。
今時アルバイトの青年は珍しくないし、アルバイトだから、職業的地位が低いという考え方は、古いのだろうと思う。事実私もアルバイターだった時期もあった。しかし、口先だけ達者で、きちんとした接客応対が出来ない、プロ意識のない者の、失礼な言動は、売り手として許されない。これは自称「ただの」バイトだろうと、正社員だろうと、関係ないのではないか。
先日の世田谷ボロ市で、私が問題だと思ったのも、業者でありながら、つまりはそれで飯を食っていながら、プロ意識がなさ過ぎる、客との対話が出来ない、という点だった。このT氏も、全く同じ問題を抱えている。もっとも本人にその自覚は無いだろうが。
あまり客であることを、カサに着るようなまねは、見苦しいのでしたくない。しかし、小馬鹿にしたような物言いをする者に対して、我慢していろというのは、少なくとも私には無理な相談である。
はっきりこの、上と下で本が違っていたというのは、段差がどうのこうのとか、客が勝手にずらしたとかいう、「いいわけ」が通ることではないのではないか。段差がつくほど、片側の本が売れて、本が崩れてしまうなら、足りないほうの本を補充するか、売れないほうの本を少し倉庫に引っ込めればすむことだ。客が勝手にずらしたら、時々はそれをチェックして、元に戻すくらいの知恵を持ってもらいたい。…というか、客が勝手にずらしたままに放置しているとしたら、それはバイト君、君の怠慢ではないのか?。
少なくともこの店では、広辞苑を買おうとしたら、下から「家庭の医学」が出てきたり、英和辞典を買おうとすると、同じ版形・出版社の露和辞典だったりすることも、ありうるということらしい。
平積みの本の数は、本当にその本がたくさん積まれているのか、あてにならないということだろう。これは客としても、よくよく用心しなければならない。
昨今、このような世間の理屈に合わない「マイ理屈」を振りかざす、謎な人類が増えているのだろうか。そう思うと、今度の一件は、実に腹立たしい。
後日、同じ書店に立ち寄ったついでに、バイトのT氏が言うように、本に段差がつかないように、別の本が下に入れてあったり、高く積まれた本の下の方が、別の本にすり替わったりしているのかどうか、新刊、文庫、新書、マンガ、雑誌の一部で見て回ったが、どこにもそんなところは、ありはしなかった。こうして調べてしまう私も、イヤラシイオヤジなのかもしれないが、どだい段差を解消させている様子なんてなど無く、崩れかかった山もあれば、隣と相当な高さの差がある平積み新刊もあった。
あのあと店長が指示したのかもしれないが、「段差云々」や、「客が勝手にずらす」は、まずはT氏の勝手な「マイ理屈」に基づく、いいわけに過ぎないと思える。
もし仮に、全ての本を、ぴっちりと平らに並べて、隣の本と隙間なく並べたら、本を手に取るのにすら苦労するだろう。
このT氏のような人々は、少なくとも客商売じゃないバイトなり、仕事に就くべきだと思う。誠実にやりたいと思っている人の、ポストを奪っているという点で、じゃまをしているのではないか?。
(完) |