2005年8月12日号

宣伝広告の不思議世界<1>

  宣伝広告の不思議世界<1>
 

 この7月4日に、井の頭線に乗ったら、化粧品の某社“M”の宣伝を、生の人間を使って、車内でやっていた。…というべきなのだろうと思う。多少自信のない部分もあるのだが、少なくとも見る限り、宣伝以外には考えにくい。
 井の頭線というのは、東京の渋谷と、吉祥寺を縦方向に結ぶ、比較的短い路線である。しかし、両端とも若者がたくさん集まる町になっているし、途中に東京大学の教養部があったりするし、また他線からの乗り換え客も多く、路線が短い割に、若い人の乗車率が比較的高そうで、乗客の入れ替わりも多い路線である。
 さてこの日は、明大前という途中駅から、いつもよく行くおそば屋さんへ向かおうかと、乗車したのだが、乗ってみると、赤と白の奇抜な衣装で固めた男と女が、一人ずつ、各車輌に乗車していて、何をするでもなく、車内のドア脇に立っている。していることと言えば、車内を前から後ろへと、普通の目つきで見渡すこと…位のものである。
 しかしそのスタイルはかなり強烈で、赤と白という色もさることながら、その中身の人も、やたらたくさんピアスをした人とか、最近流行なのかタトゥーを両腕にした女性とか、およそ私らの常識では、考えられないような、渋谷系?の人々なのである。もちろん年齢は、20代前半といった若者である。赤と白の色の意味は、後から考えれば、その宣伝商品のイメージカラーであった。
 ピアスをたくさん付けていたのは、男性であったが、耳には3つくらい金属の輪を、また唇にも付けている。何か食べるとき、じゃまにならないのだろうかとなどと、よけいなことを考えてしまう。まあ、だいたい誰でも考えるだろうが…。
 隣の車輌をのぞくと、真っ白なじゃらじゃらとした、すそが切りっぱなしなのかというような衣装の女性が、真っ赤な口紅で、にやりと笑っている。なんだか、乗っているのが、「特別電車」かと思ってしまうような光景だ。
 反対側の車輌にも二人、遠くを見れば、吉祥寺よりの先頭車輌にも、同じように二人が乗っている。
 よく見ると、これらの奇抜な衣装の人々は、何もしゃべらないし、何をするでもなく立っているだけなのだが、衣装の帽子とか、胸、肩口などに「M」という商品名のロゴが入っている。どの人も同じである。ということは、これはどうも、「M」を宣伝する、「パフォーマンス」なのだと思える。

 最近は、人々が考えつきもしないような広告手法を、考えだし、実行することが流行っているようだ。やや古くは、ショーウインドウに、本物の人間を入れたというのもあったし、首都圏の電車の車体に広告ステッカーを貼り付けるというのも、それかもしれない。テレビのCMだって、コンピュータグラフィックスの進歩と共に、考えられないシチュエーションを実演してみせるようなものは、非常に多い。
 その中でも、このように何をするでもない、一般人の常識からすれば、「奇抜」としか言いようのない衣装を着た若者を、ただ一般の営業電車に「乗客」として乗せて、おそらくは短い路線の井の頭線を、何往復もさせるというのは、かなり突出していると言える。意外性という点では…。
 ただ、広告手法としてはなかなか興味深いが、肝心の広告の効果としてはどうなのだろう?。それほど成功しているとは思えないが…。
 特に車内の人々は、好奇の目で、それらの若者たちを見つめてはいるが、中にはうちの母親のように、「見てはいけない」人たちなのかと思った、などと言う人も、いる始末である。鋲のたくさん打たれたベルトをしていたり、アニメのコスプレのような格好とも、言えなくは無いから、そういう系統の人々なのかと思われているフシも、無いではなかったし、威圧感があると思った人もいたようである。ヒソヒソ話している人ばかりが目立ったし…。
 「M」のロゴがそれほど目立たないこともあったし、中吊り広告と、全く連動していないこともあり、それほど「ああこれは、化粧品のMの宣伝だ」と気付いた人は、少なくとも私の乗った車輌では、それほど多くなかった様子である。
 これが仮に、山手線の車体広告のような媒体と、あるいは、せめて中吊り広告と連動していれば、それなりに気付く人も多かったと思うのであるが…。

(次号へ続く)→続きを読む

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