その先のコメットさん☆へ…2004年後半

 「コメットさん☆」オリジナルストーリー。第132話から第182話は2004年になります。このページは2004年後半分のストーリー原案で、第157話から第182話を収録しています。第132話から第156話までは、こちらをご覧下さい。

 各話数のリンクをクリックしていただきますと、そのストーリーへジャンプします。第157話から全てをお読みになりたい方は、全話数とも下の方に並んでおりますので、お手数ですが、スクロールしてご覧下さい。

話数

タイトル

放送日

主要登場人物

新規

第157話

芝生のにおい

2004年7月上旬

コメットさん☆・ツヨシくん・景太朗パパさん・沙也加ママさん・ライフセーバーの人・ケースケ

第158話

気持ちの洪水

2004年7月中旬

コメットさん☆・景太朗パパさん・沙也加ママさん・プラネット王子・ブリザーノさん・ヒゲノシタ・ツヨシくん・ネネちゃん・ラバボー・スピカさん・みどりちゃん

第159話

メテオさんの父

2004年7月中旬

コメットさん☆・メテオさん・景太朗パパさん・沙也加ママさん・ツヨシくん・ネネちゃん・ラバボー

第160話

砂浜の星国伝説

2004年7月下旬

コメットさん☆・沙也加ママさん・万里香ちゃん・ラバボー・ツヨシくん・ネネちゃん・扇屋の人たち(景太朗パパさん・賢司くん)

第161話

ケースケの未来

2004年8月上旬

コメットさん☆・ケースケ・ツヨシくん・ネネちゃん・沙也加ママさん・景太朗パパさん・お店のお客さん

第162話

花火大会の夜<前編>

2004年8月上旬

コメットさん☆・ツヨシくん・ネネちゃん・景太朗パパさん・沙也加ママさん・ケースケ・前島さん・鹿島さん

第163話

花火大会の夜<後編>

2004年8月中旬

コメットさん☆・ツヨシくん・ネネちゃん・景太朗パパさん・沙也加ママさん・プラネット王子・ブリザーノさん・ミラ・カロン・みちるちゃん・ラバボー・ムーク・メテオさん・幸治郎さん・留子さん・前島さん・鹿島さん・青木さん・ケースケ・スピカさん

第164話

万里香ちゃんの友だち

2004年8月下旬

コメットさん☆・万里香ちゃん・賢司くん・ツヨシくん・ネネちゃん・ラバボー

第165話

キラッと写真館

2004年8月下旬

コメットさん☆・ツヨシくん・ネネちゃん・プラネット王子・メテオさん・ラバボー・沙也加ママさん・景太朗パパさん

第166話

ケースケの恋人?

2004年9月上旬

コメットさん☆・ケースケ・新井さん・ラバボー・沙也加ママさん・ツヨシくん・ネネちゃん

第167話

星国大運動会・<前編>

2004年9月中旬

コメットさん☆・メテオさん・プラネット王子・ツヨシくん・ネネちゃん・ブリザーノさん・王様・王妃さま・カスタネット星国女王・ミラ・カロン

第168話

星国大運動会・<後編>

2004年9月中旬

コメットさん☆・メテオさん・プラネット王子・ツヨシくん・ネネちゃん・星ビトたち・カスタネット星国女王・サメビト・アルメタルくん・ミラ・カロン・ラバボー・ラバピョン・景太朗パパさん・沙也加ママさん・王様・王妃さま・アリストーニさん・ブリザーノさん

第169話

星国のおみやげ

2004年9月下旬

コメットさん☆・ツヨシくん・ネネちゃん・メテオさん・プラネット王子・景太朗パパさん・沙也加ママさん・スピカさん・ラバボー・ラバピョン・海の妖精・ミラ・カロン・王様・王妃さま

第172話

メテオの留守番

2004年10月中旬

メテオさん・幸治郎さん・留子さん・猫のメト・カロン・羽仁神也くん・ムーク・コメットさん☆

第173話

医者ビトの不思議な治療

2004年10月下旬

コメットさん☆・医者ビト・景太朗パパさん・沙也加ママさん・ツヨシくん・ネネちゃん

第174話

ケースケの文化祭

2004年10月下旬

コメットさん☆・ケースケ・新井さん・景太朗パパさん・沙也加ママさん・ツヨシくん・ネネちゃん・生徒たち・ケースケの担任の先生

第176話

王妃と星の導き

2004年11月中旬

コメットさん☆・万里香ちゃん・万里香ちゃんのママ・沙也加ママさん・ツヨシくん

第178話

星力はどこまで

2004年11月下旬

コメットさん☆・景太朗パパさん・沙也加ママさん・プラネット王子・ツヨシくん・ネネちゃん・高村さん

第180話

美沙子さんのアルバム

2004年12月中旬

メテオさん・幸治郎さん・留子さん・猫のメト・ムーク・羽仁神也くん

第181話

沙也加ママの思い

2004年12月中旬

コメットさん☆・沙也加ママさん・ツヨシくん・ネネちゃん・ラバボー・景太朗パパさん

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★第157話:芝生のにおい−−(2004年7月上旬放送)

 相変わらず空梅雨気味のまま、7月が始まった。そんな最初の土曜日、景太朗パパさんは、朝からリビングの窓越しに、庭の奥のほうを見つめ、そして縁側から庭に降りていったりして、何かが気になっている様子だった。

コメットさん☆:景太朗パパ、どうかしたんですか?。

景太朗パパさん:うーん、庭の奥のほうさ、植えてあった芝が、だいぶはげちゃったところがあったから、春に少し植え直したんだよね。ところが、このところの暑さで…。

コメットさん☆:あ、あのまだらになっているところですね?。

 コメットさん☆は指さしながら言った。

景太朗パパさん:うん、あの辺ね。まわりと違って、タイル貼ったみたいになっているだろう?。あそこのところと、あと裏庭に通じるあたりもそうなんだけど…。どうもこのところの天気で弱っていて…、水撒いてやらないといけないみたいなんだ。時々気が付くと撒いていたんだけど…。今日はぼくは図面仕上げないといけないから…。悪いけど、水撒きしてやってくれないかなぁ。

コメットさん☆:はい。…どんなふうにやればいいですか?。普通に花に撒くみたいに?。

景太朗パパさん:…ああ、普通にホースの先をシャワーにして、雨が降るみたいな感じで。よろしく頼むよ。

コメットさん☆:はい。わかりました。

景太朗パパさん:あ、そうだ。今日はネネが友だちの家に出かけているから、ついでにツヨシといっしょに水遊びしながらでもいいよ。

コメットさん☆:わはっ、ほんとですか?。…えーと、じゃあ、水着着てやっちゃおうかな…。

景太朗パパさん:あははは。コメットさん☆も夏になると、水遊び好きだね。面白いかい?。…水撒きの時間は、あんまりカンカン照りの時じゃなければ、たぶん大丈夫だから、やっておいてね。

コメットさん☆:はいっ。じゃあさっそくツヨシくん呼んできます。ツヨシくん、退屈そうにしていたから…。

景太朗パパさん:はははっ、そうか。じゃ頼んだよ。

 コメットさん☆は、行ってしまった景太朗パパさんと入れ代わりに、リビングの窓から、芝生のところをよく見た。確かに一部の芝が、あまり元気よくなさそうだ。

コメットさん☆:ラバボー、ラバボー…。

 コメットさん☆は、ティンクルスターの中のラバボーを呼ぼうとした。ところが…。

コメットさん☆:あっ、ラバボーはラバピョンのところに行って、ケーキ作り手伝っているんだっけ…。どんなケーキ作っているかな…。じゃあ…。

 コメットさん☆は、自分の部屋に上がると、水着をチェストから出した。いくつか持っているうちの2着を。

コメットさん☆:(オーバースカートは…。…ツヨシくんと水遊びするだけなら、いいか…。)

 そんなことを考えながら、水着を持つと、ツヨシくんが一人遊んでいる部屋に行った。

コメットさん☆:…ツヨシくん、ツヨシくん。

ツヨシくん:なあに?、コメットさん☆。

 ツヨシくんは、部屋のカーペットの上で、ビー玉を転がして遊んでいた。

コメットさん☆:…この水着って、どっちがいいと思う?。

ツヨシくん:え?…、どっちって…、ぼくは左側のやつがかわいいと思う…、けど、なんでそんなことぼくに聞くの?。

コメットさん☆:ふふっ…、これからね、いっしょに水遊びしながら、お庭の芝生に水撒きしようって誘いに来たの…。水着、ツヨシくんがいいって言うほうを着ようかなって思ったから…。

ツヨシくん:えー!、水遊びするの!?。やったー!。やろうやろう!。水着着てやるの?、コメットさん☆。

コメットさん☆:うん、そうだよ。景太朗パパが、ついでに水遊びしていいよって。

ツヨシくん:わーい!。水遊びっ、水遊びっ…!。今着替えるっ!。

コメットさん☆:うん。じゃあ、私も、ツヨシくんがいいって言った、こっちの水着着てくるね。ちょっと待っててね。女の子は、着替えに時間がかかるから…。

ツヨシくん:そうなの?。いつもネネと競争しているから、わかんないや。

 

 水着に着替えた二人は、庭に出た。ウッドデッキの脇、ガレージに降りる階段のところにある水道と、奥の菜園脇にある水道から、それぞれホースリールに巻いたホースを引っ張り、水を出す。先をシャワーに切り替えると、上に向けて、じょうろのように芝に水をかけていく。

コメットさん☆:わあ、もう日ざしが強いなぁ…。…このあたり、芝生を景太朗パパが張り替えたんだって。

ツヨシくん:ふぅん。ここだけタイルみたいだ。

コメットさん☆:うん。でもなんだか元気ないんだって。あ、星力使っちゃおうかな。そうすれば、じょうぶに育つよ。

ツヨシくん:いいの?。

コメットさん☆:だって、芝生さんが枯れちゃったら、お庭がきれいな緑に、ならなくなっちゃうよ。

ツヨシくん:そうだね…。あんまり踏んづけないほうがいいのかなぁ…。

コメットさん☆:そうかもしれないけど…。踏まないと歩けないよね…。普通に歩く分には大丈夫って、前に景太朗パパが言ってたし。

 もう真夏並みの暑い日ざしが照りつける。ツヨシくんの、まだあまり日焼けしていない肌には、少しピリピリとした刺激があるほどだ。水を遠くから芝に向けてかけると、その水の中にさあっと虹が浮かぶ。

ツヨシくん:あっ、虹だ。虹が見えるよ、コメットさん☆!。

コメットさん☆:あ、ほんとだ。ホースの水でも、虹が出来るね。わあ、きれい…。もう少し上に向けると、もっと見えるかな。

 その時南風がふわりと吹いて、ホースの水の向きを変えさせる。

コメットさん☆:わあっ、きゃっ、冷たーい!。わはっ、水着濡れちゃったよー。

ツヨシくん:だって、そのために水着着ているんじゃないの?、コメットさん☆。…ぼくもコメットさん☆に、水かけちゃおう。それっ!。

コメットさん☆:わっ、ツヨシくん…、やめ…、きゃはっ、冷たいっ!。よーし、それなら私だってぇー!。

 南風を合図に、水のかけ合いが始まった。上品な格子柄ワンピースの水着を着たコメットさん☆に、どんどん水をかけるツヨシくん。それに対して、左手で水をよけるようにしながら、右手を突き出すようにして、ツヨシくんに向け水を放つコメットさん☆。二人はあっという間に、びしょ濡れになってしまう。二人の体にかからなかった水は、虹を描き出しながら、まわりの植物たちをも潤す。

ツヨシくん:コ…、わ…ぶっ…、コメットさん☆は、…なんで今日は…、水着にスカートないの?。

コメットさん☆:…ええっ?、…うわっ、ちょっと…冷た…、きゃっ!、つ…ツヨシくんとの水遊びなら…、いら…ないかと…思ったからだよ…。…ああもう、…髪の毛もびしょびしょ…。

 そんな様子を、景太朗パパさんは、リビングの窓越しに見た。

景太朗パパさん:おおっ、さっそくやっているな。はははは…。コメットさん☆もツヨシも、ほどほどにしておきなよ。寒くならないようにね。

コメットさん☆:はーい。景太朗パパ、芝生…きゃはっ、冷たいなあもう…、水あげておきましたよー。…あとで、うわっ…、ちょっと、ツヨシくんったら!、まってよー。

ツヨシくん:うん、パパ大丈夫だよ…。うわっと、だああーー、冷たいよー。ひーっ。

景太朗パパさん:やれやれ、二人とも元気で楽しそうだなぁ。ははははは…。…ぼくは仕事だ…。はぁー。

 景太朗パパさんは、話をしている間も水を止めない二人に、半ばあきれたように笑って、それからため息をついて、仕事部屋に再び行ってしまった。

 やがて遊び疲れ、そして冷たい水道の水で、少しからだが冷え気味になったコメットさん☆とツヨシくんは、どちらともなく水を止め、よく茂っているところの芝生に寝ころんだ。まぶしい日の光を、手でよけながら、ゆっくりと行く雲を眺める。

コメットさん☆:…もう、梅雨明けなんじゃないのかな?…。ああ、芝生のいいにおいがする…。気持ちいい…。

ツヨシくん:うん…。コメットさん☆寒くない?。大丈夫?。ぼく水かけすぎ?。

コメットさん☆:ううん。大丈夫だよ…。ふふふっ、心配してくれるの?。

ツヨシくん:…う、うん。ちょっとやりすぎたかなって思ったから…。

 コメットさん☆は、ツヨシくんのほうを向いて、やさしい目で言った。

コメットさん☆:大丈夫…。暑かったから、ちょうどよかったよ。ツヨシくんはどうだった?。

ツヨシくん:楽しかったよ。コメットさん☆といっしょだもの。

コメットさん☆:…ふふっ…。

 コメットさん☆はまた空を見上げた。いつしか並んで寝ころぶツヨシくんの手を、そっとにぎっていた。すがすがしい風が、体の上を駆け抜けていく。背中の下の芝は、ひんやりした感触で、心地いい。そんなコメットさん☆は、両手を降ろして目を閉じた。強い日の光が、まぶたの裏で赤く見える。ツヨシくんは、そんなコメットさん☆を、じっと見つめていた。赤いチェックの水着におおわれた、コメットさん☆の胸が、息で規則正しく上下するのに、なぜかドキドキした。星ビト、星使い、お姫さま…。それでもコメットさん☆は、普通の生身の女の子であるということに、ツヨシくんはとても不思議な気持ちになった。押し黙ったツヨシくんに、コメットさん☆は気付いて、目をゆっくり開き、ツヨシくんのほうを見て言った。

コメットさん☆:なあに?、ツヨシくん。

ツヨシくん:ううん、何でもないよ…。けど…。

コメットさん☆:…けど?。

ツヨシくん:…コメットさん☆、ぼくよりお姉ちゃんだけど…、かわいいんだなぁって…。

コメットさん☆:……あはっ…、恥ずかしいな…、そう?…。…ありがとう…。…ツヨシくんは、…いつも私のこと、…かわいいって言ってくれるんだね…。

 そんなツヨシくんの言葉を聞いたコメットさん☆もまた、ドキドキしていた。いつしか、二人の手は、しっかりにぎられていた。握り慣れたとも言えるツヨシくんの手は、前よりずっと大きくなった。それでもまだコメットさん☆の手よりは小さい。その小さな手から、じんわりと流れ込んでくる何か…。コメットさん☆は、それに不思議な安心感を感じていた。

 ツヨシくんは、ふと唐突に言い出した。

ツヨシくん:…ねえ、コメットさん☆。海に行こうよ。

コメットさん☆:えっ?、今から?。…うん、…いいね。景太朗パパさんがいいって言ったら、行こうか。沙也加ママさんのお店から、由比ヶ浜へ。

ツヨシくん:うん!。

コメットさん☆:でも、どうしようかな…、着替えは持っていかないとね。

ツヨシくん:部屋に脱いであるの、持っていく。

コメットさん☆:うん。私もそうしよう。あ、その前に…、芝生に星力かけておこう。

ツヨシくん:芝生が元気になりますように…って?。

コメットさん☆:うん。またこうやって遊びたいでしょ?。

ツヨシくん:うん、またコメットさん☆と水遊びしたい…。

 コメットさん☆は、立ち上がってバトンを出すと、振って、芝生全体に星力をかけた。暑い夏を乗り切れるようにと。

 

 ツヨシくんとコメットさん☆は、景太朗パパさんに断ると、濡れた水着のまま、着替えとタオル、ツヨシくんに塗る日焼け止め、帽子を持って、星のトンネルを通り、沙也加ママさんのお店に向かった。沙也加ママさんのお店に着替えを置いて、物入れに常備されているパラソルを持って、目の前の海に出ようという考えだ。

 星のトンネルを通るツヨシくんとコメットさん☆は、トンネルから外を見た。星のトンネルは住宅街を抜け、江ノ電の上を越し、海岸沿いの国道を行く。海は輝いていて、泳いでいる人や、サーフィンの練習をする人が見える。キラキラと輝く水面。日の光を反射して、青く光る水…。そして空は抜けるように青い。まるで梅雨はもう明けてしまったかのよう…。緑が美しい稲村ヶ崎の公園脇を抜けると、目指す由比ヶ浜の浜と、たくさん並ぶ海の家、水に親しむ人々の姿、そして沙也加ママさんの店も見えてくる。

 沙也加ママさんの店である「HONNO KIMOCHI YA」の前で、星のトンネルから出ると、コメットさん☆とツヨシくんは、さっそく扉を開けて中に入った。

沙也加ママさん:いらっしゃ…、あらっ!?、コメットさん☆とツヨシ、どうしたの?。水着着て…。しかも濡れてびしょびしょじゃない。

コメットさん☆:沙也加ママ、景太朗パパから、芝生の水撒きを頼まれて、ツヨシくんといっしょに、その、水遊びして、そのうちに海に行こうってことに…。

ツヨシくん:ママ、ぼくが頼んだんだよ、コメットさん☆に。海に行きたいって。

沙也加ママさん:そう…。びっくりしちゃったわ。うふふふ…。二人とも、海が好きなのね…。いいわ、あんまり疲れすぎないようにね。2階で準備して、行ってらっしゃい。私ずっとここにいるから。

コメットさん☆:はい。沙也加ママ。

 コメットさん☆は、ツヨシくんに物入れからパラソルを出すように頼むと、2階に上がって、水着にオーバースカートを重ねてはいた。そして、ツヨシくんといっしょに、沙也加ママさんの店から出ると、国道を信号で渡り、浜へと歩き出した。

ツヨシくん:コメットさん☆、なんでスカートはいたの?。

コメットさん☆:…だって…、知らない人がいて…、恥ずかしいから…。

ツヨシくん:ふぅん…。なかなか「お姉ちゃん」は、大変なんだね。

コメットさん☆:あははっ。ツヨシくん、面白いこと言うね…。ふふふっ…。

ツヨシくん:そう?、面白い?。

コメットさん☆:うん。ツヨシくん面白いし、…かわいい。…まだ海には、そんなにたくさん人いないね。

 コメットさん☆は、照れ隠しのように、遠くを見つめて言った。

ツヨシくん:うん。海開きしたばっかりだもんね。コメットさん☆、貸しきりみたいだよっ!。

コメットさん☆:…そうだね。じゃあ、この辺にしようか…。

 コメットさん☆は、持ってきたパラソルを立てようと、あたりを見回した。

ライフセーバーの人:パラソルの穴、掘ってあげようか?。

 赤いキャップをかぶった、ライフセーバーが、スコップを持って立っていた。コメットさん☆は、ちょっとびっくりしたが、一瞬その姿に、ケースケを重ね合わせた。「いつか、同じように、ケースケが掘ってくれたこともあったっけ…。でも、今は…」。コメットさん☆は、ちらりとそんなことを考えながら、答えた。

コメットさん☆:…あ、お願いします。ありがとうございます。

ライフセーバーの人:いいんだよー。…もし何かあったら、あそこの監視台に知らせてね。弟さんかな?、気を付けてね。

コメットさん☆:は、はい。ありがとうございます。

ツヨシくん:お兄ちゃん、どうもありがとう。

ライフセーバーの人:どういたしまして〜。ほら掘れたよ、パラソル貸して。うん、このくらい深く刺しておかないと、風が吹いたときに危ないからね。じゃ、困ったことがあったらいつでも言ってねー。

コメットさん☆:はい、どうもありがとうございました…。

ツヨシくん:ありがとうー。

 コメットさん☆は、屈強な青年のライフセーバーの後ろ姿を見送りながら、少し複雑な気持ちになっていた。それに、心のどこかでは、ケースケがその後どうしただろうと、気にもなった。それでも、グラウンドシートを広げて、その上に座った。

コメットさん☆:ツヨシくん、肩に日焼け止めを塗ったほうがいいよ。あとでむらに日焼けして、痛いよ。

ツヨシくん:うん。日焼け止め塗る。コメットさん☆、ある?。

コメットさん☆:あるよ。ちゃんと持ってきた。背中向いて。肩から背中、塗ってあげる。

ツヨシくん:…うん。…ありがとう。

 コメットさん☆は、日焼け止めのクリームを手のひらに出すと、ツヨシくんのまだ小さな肩と、背中にそっと塗った。

ツヨシくん:…くく、くすぐったい…。

コメットさん☆:そう?。もうすぐだよ。…こんなものかな?。肩から背中、それに腕の上側は塗ったから、胸とおなかは自分で塗ってね。あと、手足は自分で塗れるでしょ?。

ツヨシくん:うん。ありがとう。…コメットさん☆は、本当に何も塗らなくていいの?。

コメットさん☆:…うん。大丈夫…、なんだけど、ケースケとかには、よけいに不思議に思われているのかな…。メテオさんは、少し日焼けするから、そっちのほうがいいのかな…?。

ツヨシくん:そんなことないよ。ぼく日焼けしないコメットさん☆…好き…。

コメットさん☆:……。

 コメットさん☆は、それには何も答えず、そっと持ってきた帽子をかぶってみた。なんだか、ツヨシくんが言う言葉は、やさしすぎて、胸が熱くなるような気がしたから…。それと、ツヨシくんに日焼け止めクリームを塗っている間、手のひらから、ツヨシくんの気持ちが、流れ込んできて、心が温かくなるような、不思議な感じがしたから…。

 二人は体操をしてから、海に飛びだした。

コメットさん☆:わはっ、水があったかいね。

ツヨシくん:ほんとだ。わーい、コメットさん☆に水かけちゃえー!。

コメットさん☆:また…、もう、髪の毛濡れちゃって…バラバラだよー。

 ツヨシくんは、海の水をすくうようにして、コメットさん☆に飛ばす。コメットさん☆は、逃げるようにしながら、ツヨシくんにもかけ返す。もうすっかり夏の日ざしになった空は、暑い太陽の光を投げかける。ほとんど雲のない空は、青く輝き、水もキラキラと輝く。コメットさん☆の膝くらいの深さで、海は波を寄せては返していく。

コメットさん☆:ツヨシくん、バタ足の練習しようか。手を持ってあげるから。

ツヨシくん:うん、やる。…まだ学校で教わっても、息継ぎうまくできないんだ。

コメットさん☆:そう。じゃあ、私の手をしっかり持ってね。それで、足を水中に投げ出して、手を伸ばして、足をバタバタやってみて。

ツヨシくん:はーい。

コメットさん☆:うふっ…。いいお返事っ。

 ツヨシくんは、コメットさん☆の手をにぎって、バタ足の練習をし始めた。バタバタする足が、水の底についてしまわないように、少し深いところまで移動したから、顔を上げると、コメットさん☆のおなかから上が見える。ツヨシくんは、コメットさん☆と練習するのが、なんだかとてもうれしくて、にこっとした顔を、コメットさん☆に向けた。それにつられて、コメットさん☆も微笑む。コメットさん☆は、ツヨシくんが足をバタバタさせる時の、前に進む力で、一歩ずつ後ろに下がっていく。時々後ろに人がいないか、確かめながら。

コメットさん☆:いいよ。ツヨシくん、上手になったね。もう少し足を伸ばして、足全体でバタバタするといいよ。水しぶきが上がらないように、水中で足をかいて…。

ツヨシくん:…うん。こんな感じ?。

コメットさん☆:そうそう、そんな感じで。

 コメットさん☆は、後ろに下がりながら、だんだん深いところに来てしまっていた。気が付くと、胸のあたりまで水が来ていて、コメットさん☆自身も、あまり自由に動けない。コメットさん☆は足で探りながら、深さを確かめたが、はっと思うと、水が首のところまで来て、ちょうど来た波を、顔にかぶってしまった。

コメットさん☆:…わっぷ…。わはっ、ツヨシくん、もう一度浅いところに戻ろ。ここもう深すぎて、危ないよ。私もだんだん背が立たなくなっちゃう…。

ツヨシくん:うん。

 二人は練習を一時やめると、波をやり過ごしながら、浅いところに戻ることにした。しかし、まだ泳げるとは言えないツヨシくんを、歩かせるわけにも行かず、コメットさん☆は、自分につかまらせることにした。

コメットさん☆:じゃあ、私の背中につかまって。引っ張っていってあげるから。…スカートのところ、持たないでね…。

ツヨシくん:…このくらいならいい?。

コメットさん☆:うん、いいよ。じゃ、行くよ。…よいしょ、よいしょ…。どう?。あはははっ…。

ツヨシくん:あははは、コメットさん☆、面白いよ。もっと引っ張って、もっともっとー。

コメットさん☆:あー、ツヨシくん、楽しているなー。しょうがないなあ…。それっ。うふふふ…。

 コメットさん☆とツヨシくんは、何度かバタ足の練習を繰り返し、それからコメットさん☆がツヨシくんの体を支えて、手の練習もした。そして、手と足を同時に動かして、息継ぎの練習もしてみた。今日は静かなほうだとはいえ、波がある海だから、なかなかうまくは行かないが、それでももう水を怖がることもないツヨシくんは、思ったよりは早く上達しているようだった。やがて、コメットさん☆が10メートルくらい離れて、水の中に立って…。

コメットさん☆:ツヨシくん、ここまで来られる?。やってみようっ。

ツヨシくん:うん。ぼくがんばる。じゃあ、行くよっ!。

コメットさん☆:うん。がんばって!。

 ツヨシくんは、ざばっと水音をたてながら、コメットさん☆に向けて泳ぎだした。手をかいて、息継ぎをし、足はバタ足で。まだ連携がうまく行かないのか、進む速度は遅いが、ちゃんと前にツヨシくんは進んでいった。コメットさん☆を目指して…。

コメットさん☆:わっ、すごい、すごい。ツヨシくん、ちゃんと前に進んでいるよー。もう少し、もう少しだよっ。がんばれっ!。

 ツヨシくんはコメットさん☆の応援が、耳に入るほどの余裕はなかったが、何度目かのかいた手が、コメットさん☆の手に触れた。ついにツヨシくんは、コメットさん☆のもとまで、泳ぎ着くことが出来たのだ。

コメットさん☆:ツヨシくん、ツヨシくん!。泳げたよっ!。

ツヨシくん:…ぷっはー。ぼく泳げた?。泳げたの?。

コメットさん☆:うん、ちゃんと前に進んで、泳ぎ切ったよ!。ほらっ、後ろ見て。

ツヨシくん:やったぁー。これで検定合格するかも。15メートル泳げると、検定メダルもらえるんだよ。

コメットさん☆:そうなの?。きっともらえるよ。手と足を同時に動かすタイミング、忘れないでね。…よかったね…、ツヨシくん。

ツヨシくん:コメットさん☆、ありがとう。コメットさん☆のおかげ…。

コメットさん☆:ううん。ツヨシくんの努力だよ…。私は手伝っただけ…。…でも、もうだいぶたつから、一休みしよう。ツヨシくん。

ツヨシくん:…うん。ぼく少し寒くなった。

コメットさん☆:…そっか。じゃあ、一度上がって、それでも涼しかったら、今日は帰ろうか。急にあんまりたくさん泳ぐと、くたびれて、あとで熱出たりするかも。

ツヨシくん:うわ、熱出るの困るな。あさって学校でプールだもん。

コメットさん☆:じゃ、とりあえず上ろ。 

 遊び疲れてきた二人は、浜に上がって、体をタオルで拭くと、パラソルの影に入るように寄り添って座った。コメットさん☆は、そっとタオルを足と腰のところにかけ、ブラシで髪の毛の乱れを直した。ツヨシくんも、そよそよと吹く風で、体が冷えないように、タオルを肩に掛けていた。そしてコメットさん☆は、ぼぅっと寄せては返す波を、見つめるでもなく見ていた。ツヨシくんは、そんなコメットさん☆を、じっと見ていた。コメットさん☆の髪の毛が、乾いた部分だけ風にそよぐ。それは日に照らされた遠くの波をバックに、金色に輝いているように見えた。それを見たツヨシくんの心には、何かきゅんとするような、ツヨシくんの今の語彙では、表現しきれない気持ちが、じんわりとわいてきた。ツヨシくんは、ドキドキしながら、コメットさん☆の手首のあたりに触れた。

コメットさん☆:あ…、どうしたの?、ツヨシくん。

ツヨシくん:コメットさん☆の手、さらさらすべすべ…。

コメットさん☆:…うん。海の水につかると、こうなるね…。

ツヨシくん:…コメットさん☆、…お願いがあるの…。

コメットさん☆:なあに?、ツヨシくん?。

ツヨシくん:…あのね…、ぼく…、コメットさん☆のことが…、好きなんだ…。

コメットさん☆:…う、うん。ありがとう…。知っているよ…。

 コメットさん☆は、ツヨシくんのストレートな表現に、少しとまどった。

ツヨシくん:…だからね、…コメットさん☆のこと思うと、胸がきゅんってなって…、お姉ちゃんなのに…、…かわいくてたまらないの…。ぼくの大事な人なの…。

コメットさん☆:…そ、そう…。

ツヨシくん:……だから、…ほっぺに、キス…しても…いい?。

コメットさん☆:……、ツヨシくん、そんなに私のこと…、好きって……。

 コメットさん☆は、なんと答えていいか、言葉に詰まった。そしてそっと目を閉じたが、内心はとてもドキドキしていた。ツヨシくんはまだ小学校低学年なのだが、さっきからコメットさん☆の胸を熱くしたり、こういうときに心を、じわっと切ないような気持ちにさせるのは、誰よりも強い、ツヨシくんの「恋力」なのだと悟った。コメットさん☆は、ゆっくりと目を開け、静かにささやいた。

コメットさん☆:……いいよ、ほら…。

ツヨシくん:…じゃあ、んーー、ちゅっ…。わはぁっ、…しょっぱい…。

コメットさん☆:わはっ、くすぐったい…。…しょっぱいの?。

 コメットさん☆の右のほほに、小さなツヨシくんのくちびるが触れた。少し緊張したコメットさん☆に対して、ツヨシくんはあくまで無邪気だ。

ツヨシくん:うん。ちょっとしょっぱかった…。

コメットさん☆:…もう…、恥ずかしいな…。海の潮だよ…。……でも…、男の子に…キスされたの、…はじめて…。

ツヨシくん:…じゃ、ぼくコメットさん☆に、初めてチューショット…。

コメットさん☆:ツ…、ツヨシくん…、もう少し小さい声で…。恥ずかしいったらぁ…。

 コメットさん☆は、真っ赤になって、まわりをそっと見渡した。特に誰も気付いている様子はなかったが…。

ツヨシくん:…ごめん…、コメットさん☆。

コメットさん☆:…私も、…いつもやさしい気持ちを持ってる…、それに特別なかがやきを持ってるツヨシくんが、…好き…だよ…。

 コメットさん☆は、ツヨシくんの手をとった。そして、ドキドキして、とまどう自分の心を隠すかのように、ふるえそうな精一杯の声で言った。

コメットさん☆:…こうして、よく手をつないで歩いたり、泳いだりするよね…。…これからも、いっしょに、…手をつないで歩いたり、遊んだりしようね…。

ツヨシくん:…うん。きっとだよ、コメットさん☆。

 コメットさん☆は、少し潤んだような目と、赤い顔でうなずいて、そっと立ち上がった。普段まとまっているコメットさん☆の髪の毛は、ばらけてわずかに強くなった風に舞う。

コメットさん☆:さあ、ツヨシくん、帰ろうか。…風も出てきたし。

ツヨシくん:うん。そうする!。また水泳教えてね、コメットさん☆。

 ちょうどその時、たまたまライフセーバーの詰め所から、アパートに戻ろうとしていたケースケが、二人を見つけた。

ケースケ:おっ?、ツヨシとコメットだ…。あいつら、けっこう海好きだな…。それでいてあんまり日焼けしないんだよな…。よっぽど日焼け止めつけているんだろな…。…それにしても、今日はネネいないのか…。あれじゃあ、まるで姉弟みたいなカップル…。

 ケースケは、そこまで独り言を言ったところで、急に押し黙った。コメットさん☆とツヨシくん。二人は浜辺のミニカップル。確かに仲のよい姉弟のようにも見えるけれど、その結びつきは…。

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★第158話:気持ちの洪水−−(2004年7月中旬放送)

 コメットさん☆は、ある夜、メモリーボールに、その日の出来事を、いつものように記録していた。ここで記録されたことは、遠く離れた星国の、王様と王妃さまのもとに、画像とともに届くのだ。前には、少々ヒゲノシタをびっくりさせたようなこともあったが…。

コメットさん☆:…関東地方は、今年早い梅雨明けだって。もう7月上旬には梅雨が明けていましたって、天気予報で言っていた。…それでね、明日は景太朗パパさんが仕事忙しくないから、プラネット王子とブリザーノさんが、将棋を指しに来るんだよ。スイカを用意して、切ってみんなで食べるよ。最近、プラネット王子は、景太朗パパさんと将棋するのが、だいぶ気に入ったみたい。写真館のおじさんが、ブリザーノさんっていう、本当のおじさまだったことがわかって、しばらく信じられない様子だったけど…。最近は私も、プラネット王子と、チェスするんだよ。みんな夕方から、縁側でゲームしようって。庭に水を撒いておくと、とっても涼しい風が吹くんだって…。あ、それから、景太朗パパさんと、沙也加ママさんが、私の部屋のとなりに作ってくれた新しい部屋と、お手洗いが出来上がったよ。とってもきれいでステキな部屋…。木の板が横に張ってあって、天窓もあるよ。…それにお手洗いも、きれいでいいよ…。

 星国では、コメットさん☆が記録したメモリーボールの内容を、王様と王妃さまがじっと見ていたが、それ以上に、ヒゲノシタは、ちょっと落ち着かない様子で見ていた。

ヒゲノシタ:ううむ、将棋と聞いては、黙っていられませんなぁ…。わしのこの100年近いキャリアが、ものを言うというものですな…。王様、王様…。

 コメットさん☆は、楽しげにメモリーボールに向かっていたが、その記録を星国に送ると、ベッドの上に座り直し、窓の外をじっと見つめた。部屋には、軽く冷房が入っているので、窓は閉まっていて、外の漆黒の闇と、わずかにきらめく星が見える…。コメットさん☆は、しばらくそんな外を、じっと眺めていた。

ラバボー:むー、眠いボ…。…姫さま、どうしたんだボ。

コメットさん☆:…ううん。どうしもしない…。けど…。…最近。

ラバボー:最近、どうしたんだボ?。江ノ電の広告電車が面白いのかボ?。

コメットさん☆:…そんなこと言ってないよ、ラバボー。…真面目に聞いてくれないの?。

 ラバボーは、コメットさん☆のそんな言葉にびっくりして、あらためて聞き返した。

ラバボー:うわわ、ごめんだボ、姫さま。最近、何かあったのかボ?。

コメットさん☆:…最近、ツヨシくんがやさしすぎて…。

ラバボー:…前から、ツヨシくんもネネちゃんも、景太朗パパさんも沙也加ママさんも、このうちの人は、みんなやさしいボ?。

コメットさん☆:…そういうことじゃなくて…。…ツヨシくん、私のこと、好きって…。…好きって、言ってくれるのは、うれしいし…、私も…好きだけど…。それって…、男の子として好き…っていうだけじゃなくて…。でもツヨシくんは女の子じゃないから…。…あーん、もう、私何言っているんだろ…。

ラバボー:…姫さま…。…ツヨシくんは…。

コメットさん☆:…え?。

 

 翌日、夕方にプラネット王子とブリザーノさんがやってくることになっているので、景太朗パパさんは、仕事を入れずにいた。沙也加ママさんも、お店は定休日なので、家にいる。ツヨシくんとネネちゃんは、終業式が近いが、まだ学校である。コメットさん☆は、時計を見ながら、自分の部屋からスピカさんに、ティンクルホンで電話をかけた。

コメットさん☆:…あ、スピカおばさま?。コメットです。こんにちは…。

スピカさん:あらコメット、こんにちは。どうしたの?。またツヨシくんとネネちゃんといっしょに、みどりと遊びたいのかな?。

コメットさん☆:…い、いえ。おばさま、ちょっと聞いて欲しいことがあって…。私一人で…。あ、ラバボーは、ラバピョンのところに連れていきますけど…。お昼頃まで、そっちに行ってもいいですか?。

スピカさん:…ええと、修造さんは、お客さまを車で山がたくさん見えるところまで案内しているから…、いいわよ、今からいらっしゃい。

コメットさん☆:ありがとう。おばさま…。

 コメットさん☆は、電話を切ると、景太朗パパさんと、沙也加ママさんに言った。

コメットさん☆:あ、あの、ちょっと出かけてきます。星国のお友だちのところへ…。

沙也加ママさん:いいけど…、星国のお友だちって…、プラネットくんや、メテオさんじゃないの?。

景太朗パパさん:ああ、もしかして、ママ、ほら、前に紹介された女の子じゃないか?。

コメットさん☆:あ、はい…。そうです。

沙也加ママさん:ああ、あの子ね。えーと、名前なんて言ったかしら?。

コメットさん☆:スピカさんです。

沙也加ママさん:うんそうそう。スピカさんか。そうね、思いだした。けっこう遠くに住んでいたのよね?。星力使っていくの?。

コメットさん☆:はい。そうしないと、帰ってこられないんで…。

沙也加ママさん:いいわ。お昼頃までには帰ってこられる?。夕方のことがあるから、少し準備しないとね。

コメットさん☆:はい、沙也加ママ。大丈夫です。そのころまでには帰ってきます。

沙也加ママさん:そう。じゃ、行ってらっしゃい。

景太朗パパさん:気をつけてね。コメットさん☆。

コメットさん☆:はい。行ってきます。

 コメットさん☆は、少しドキドキしながら、玄関を出て、それからそっとウッドデッキに回って、星のトンネルに入り、八ヶ岳山麓のスピカさんのところへ向かった。腰につけたティンクルスターからは、ラバボーが飛び出て、星のトンネルの遠くへ向けて叫んだ。

ラバボー:ラバピョン〜、今行くボー!。

コメットさん☆:あはっ、ラバボー、いつもラブラブだね…。…ラブラブかぁ…。

 コメットさん☆は、ふいにつぶやいた。

 スピカさんのところに着くと、もうペンションのサンルームでは、みどりちゃんとスピカさんが待っていた。コメットさん☆は、ガラスの外からちょっと手を振ると、ドアを開けて中に入った。ラバボーは、一目散にラバピョンのところに行ってしまった。

みどりちゃん:あっ、コメトおねぃちゃんだっ!。ねえねえ、だっこしてぇー。

コメットさん☆:わはっ、みどりちゃん、ずいぶんおしゃべり上手になったねー。

 みどりちゃんは、コメットさん☆を見るなり、うれしそうな顔をして、とことこと歩いて寄ってきた。コメットさん☆は、スピカさんにあいさつする間もなく、みどりちゃんをそっと抱っこして、それからおんぶしてあげた。もう2歳と2ヶ月になるので、舌足らずな口調ながら、いろいろなことをしゃべるみどりちゃん。そんなみどりちゃんが、コメットさん☆はかわいくてたまらないのだ。みどりちゃんのぽってりとした手足を見ていると、コメットさん☆は、不思議と頬ずりしたいような感覚にもなる。…それでもふと、コメットさん☆は、「ツヨシくんが、私のことかわいいって言うのは、みどりちゃんのこと、私がかわいいって思うのとは、やっぱり違うんだろうな…」と考えていた。

コメットさん☆:スピカおばさま、こんにちは。ずいぶんみどりちゃん、言葉ちゃんとしゃべるようになったんですね。それに、…少しまた重くなったかな。ふふふ…。

スピカさん:そうねー。けっこう早いほうかなー。日増しに大きくなるような感じよ。いつか、コメットも、赤ちゃんが出来ると、同じ体験することになるのよー。

コメットさん☆:…えっ、あ、…そ、そうかな…。

 コメットさん☆は、みどりちゃんを背中にくっつけたまま、いすに座った。みどりちゃんの小さな腕が、コメットさん☆の首の回りで動き回る。柔らかい手が、コメットさん☆の耳を引っ張ったり、ほっぺたに触れたりする。コメットさん☆も、その小さな手のひらを、そっとつまんでみたりする。そのたびに、コメットさん☆の心には、じわっと温かみがわくような感覚がある。

スピカさん:それで、何の相談かな?。コメットは。何か女の子の問題?。

コメットさん☆:…は、はい…。最近、ツヨシくんが…、その、私のこと好きって…。それはとてもうれしいんだけど…。

スピカさん:そうねぇ…。前からツヨシくんは、コメットのこと、恋しちゃってたのねぇ…。

コメットさん☆:…うん…。

スピカさん:コメットは、ツヨシくんから好きって言われて、イヤなの?。

コメットさん☆:ううん。そんなことない…。ツヨシくん好きだよ、おばさま…。…最初は、小さな弟が出来たみたいに思っていたけど…、ケースケとは違ったかがやきがあるような気がして…。でも、あんまりストレートに好きって何度も言われると、…だんだん私、なんて答えたらいいか…。

 その時、ふいに背中から抱きついているみどりちゃんが、コメットさん☆にキスをした。

みどりちゃん:コメトおねぃちゃ…、…ちゅっ…。

コメットさん☆:あははっ、みどりちゃん…、くすぐったいよ…。

 コメットさん☆は、そう言って笑ったが、ふとツヨシくんの、「チューショット」を思いだして、少し赤くなった。

スピカさん:あ、みどり、コメットおねえちゃんにそんなに抱きついていないで、こっちにいらっしゃい。

みどりちゃん:いやーー。おねぃちゃんのところがいいー。

コメットさん☆:あ、おばさま、私はいいよ…。…この間、ツヨシくんにはじめて、ほっぺにキスされちゃった…。

スピカさん:…あらそうなの!?。ふーん…うふふふふ…。どんな感じでかな?。

コメットさん☆:…あ、あのね、たまたまいっしょに由比ヶ浜の、沙也加ママさんのお店の前に、泳ぎに行ったの…。ツヨシくんと二人で…。そうして、ツヨシくんに水泳教えていたの…。ツヨシくん、少し泳げるようになったんだけど、寒くなったから、砂浜に上がって並んで座っていたら…、ツヨシくんが少し後ろで…。私が「かわいくてたまらないから、ほっぺにキスしていい?」って…。私…なんだか…、ツヨシくんの普段のやさしい気持ちが、心につたわってきたような気持ちになって…、そんな気持ちが心からあふれちゃうような…。…それで…、…いいよって…。

スピカさん:ふふっ…そーう。…コメットも、すこーし大人に近づいたかなぁ?。…そうなの。ツヨシくん、前もって聞いたの?、「いい?」って。

コメットさん☆:…うん…。

 コメットさん☆は、消え入りそうな声になって答えた。

スピカさん:今みどりもあなたにキスしたでしょ?。割とねぇ、小さい子って、そういう愛情表現するものなのよね。別にそこにあまり深い意味はないはず…。でも、ツヨシくんの場合は、もう少し気持ちがこもっているのかもね。

コメットさん☆:…気持ち…。

スピカさん:…はじめてのほっぺキスか…。ツヨシくんが、「キスしてもいい?」って、ちゃんと聞いたということは、あなたのこと、本当に想っているからね。もしいい加減な気持ちだったら、きちんと聞いて、あなたが「いいよ」って言ってから「ちゅっ」なんて、しないんじゃないかなぁ?。もしその時、あなたが「イヤ」って言っていたら、どうなったと思う?。

コメットさん☆:…ツヨシくんのことだから、私がイヤって言ったら…、しなかったと思う…。

スピカさん:どうしてそう思うの?、コメット。

コメットさん☆:…どうしてって…、ツヨシくんのことだから、私がイヤってことはしないはずだし…。私の部屋、もう勝手にのぞいたりしないし…、そういう沙也加ママさんのいいつけはよく聞くし…、私がイヤって言うことは、絶対しないよ。

スピカさん:ふふふ…。そのあたりに答えがあるような気がするなぁ…。あなたがイヤということを、ツヨシくんは絶対にしない…、しないはず…ということは、あなたはツヨシくんを信頼している…。自分のいやがることを無理にしようとなんて、しないとどこかでわかっている…。逆にツヨシくんも、自分がちゃんとあなたに向かって言う希望なら、あなたは断らないだろうという、ちょっとした自信もある…。そういうことなんじゃないのかなぁ…。

コメットさん☆:…あ…。そ、そんなこと…。

スピカさん:気持ちが通じ合う女の子と男の子。二人はそういう信じる気持ちで、通じ合っているのよ、もう。

コメットさん☆:…そ、そうなんだ…。…で、でも、…ツヨシくんの言葉は、私にはやさしすぎて…。なんて答えたらいいのか、だんだんわからない…。

スピカさん:そうねぇ…。お母様は好き?、コメット。

コメットさん☆:えっ?、だ…大好き…。

スピカさん:じゃ、お父様は?。

コメットさん☆:もちろん、大好き…だけど?。

スピカさん:男の子って、お母さんのこと、だいたいは大好きなのよ。

コメットさん☆:おばさま…、どういうこと?。つながりが…、わからない…。

スピカさん:ツヨシくんは、4歳までは、沙也加ママさんが一番好きだったはず…。それがある日、コメットが突然やって来て、だんだん成長する上で、沙也加ママさんと同じような「やさしい気持ち」を持っていたあなたに、「好き」っていう気持ちが移っていって、そうしてママにべったりというのから離れていった…。…普通はその「好き」の相手が、クラスの女の子だったりするんだけど、たまたまとても身近にいるものだから、コメットのことが大好きになっちゃったのね…。それも、星の導きなのかもよ…。

コメットさん☆:…おばさま、私、じゃあ、沙也加ママさんの代わりの部分もあるのかな…。

スピカさん:それは少し違っていて、男の子は、知らず知らずのうちに、お母さんに似た人を好きになるみたいね。これは女の子も、お父さんの面影のある人が好きになりやすいらしいけど…。つまり本当の初恋の人は、お母さんで、それが成長にしたがって、似たような気持ちを持っている女の子に移っていく…。そういうことなんだと思うな。…もちろん、そうじゃない人もいるけどね。ツヨシくんの場合は、ママさんとコメットのやさしい気持ちは、とても似ていた…。最初はそこから始まった…。

コメットさん☆:…じゃあ、私はどうすればいいんだろう…。ツヨシくんが好きって言ったら…。

スピカさん:思ったように答えていいんじゃないかな?。あんまりたくさん言われて、受け止めきれないと思ったら、「ありがとう。でも恥ずかしいから、そんなに言わないで」とか、直接きちんとした気持ちで、わかるように言えば、ツヨシくんは、ちゃんとそれに応えるんじゃない?。

コメットさん☆:…うん、そうかもしれない…。…たぶんそう…。

スピカさん:…あなたが、ツヨシくんのストレートな言葉全部を、どう受け止めていいか、受け止めきれないな、と思うのも当然…。なぜなら、あなたの心は、まだまだこれからときめく年頃だもの…。ケースケくんや、プラネット王子のこともあるから、心が敏感すぎるように反応しちゃうけれど、少し余裕を持って、全部に応えなくてもいいのかもしれないわねぇ…。

コメットさん☆:…そうなんだろうな…。私、全部に応えようと、思っていたのかもしれない…。そんなこと、…出来るわけないよね、おばさま。

スピカさん:そうねぇ…。たくさんの気持ちを、どんどん心にそそぎ込まれたら、それが「好き」っていう気持ちや、「大事」とか、「かけがえのない」って言うような気持ちでも、コメットの心は、あふれて洪水になっちゃうかもね。…でも、いいわねぇ…。うふふふ…。そんな子なかなかいないわよ、コメット。ふふふふ…。…いつか、王子さまになってくれるかもよ?。

コメットさん☆:…えっ!?、そ…それは…。

スピカさん:歳が離れているからイヤ?。ふふっ…。

コメットさん☆:…そ、そんなこと…ないけど…。まだ、そんなこと考えないよ…、おばさま…。ツヨシくんは、楽しく水遊びとかして遊ぶ、遊び相手で、…でも、…私もツヨシくんのこと、かわいくて好き…。…ツヨシくんの、やさしい言葉に、胸がじーんとしたりすることもあるけど…。

スピカさん:じゃあ、それが答えね。

コメットさん☆:…えっ!?。こ、答えって…。

スピカさん:今、まだそんなこと考えないって。…だったら、今考えることじゃない…。違うかな…?。

コメットさん☆:…う、うん…。そうかなぁ…。……あ、おばさま、みどりちゃん寝ちゃってる…。

 コメットさん☆は、話に夢中になっているうちに、背中のみどりちゃんが静かになっていることに気付いた。コメットさん☆の耳元で、静かに寝息をたてて、眠ってしまっていた。

スピカさん:…うふふ…。実は知っていたわ。あなたがどんな反応をするかなぁと思って、しばらく見ていたんだけど…。

コメットさん☆:…ご、ごめんなさい。私夢中で気が付かなかった…。

スピカさん:いいのよ。コメットの背中温かくて、みどり気持ちよくなっちゃたんだと思うな。…ほら、じゃあ、こっちにそっと渡して。

コメットさん☆:…はい、おばさま。

 コメットさん☆は、首に巻き付いていたみどりちゃんのかわいい手を、そっと外して、倒れないように体を支えながら、背中とお尻に手を回して、そっと抱き上げ、スピカさんに渡した。みどりちゃんの体からは、ミルクのにおいのような、ちょっと懐かしいような、コメットさん☆の胸をきゅんとさせるようなにおいがした。

スピカさん:コメットも、小さい子の扱い方、だいぶ上手になったわね…。いつか、自分の子どもも、そうやって抱っこするのかな?。ふふふ…。お相手は誰かなあ?…。ちょっと楽しみね。

コメットさん☆:…お、おばさま…。

 

 コメットさん☆は、少し恥ずかしいような、それでいて心がいくらか軽くなったような気分で、ラバボーをラバピョンのところまで呼びにいってから、星のトンネルを通って家に帰った。ところが、コメットさん☆が星のトンネルの出口から、ウッドデッキのところに出てきたら、ツヨシくんとネネちゃんが、ヒゲの老人に取り付いているのが見えた。

コメットさん☆:ただいま…。あれ?。ツヨシくんとネネちゃん?…。あーっ!!。

ヒゲノシタ:おや、姫さま。お久しぶりでございますな。あ、いててて…。こらっ、ひっぱらんで下され、ツヨシくん。

 なんと、そこにいたのは、星のトレインでやって来たらしい、ヒゲノシタであった。ヒゲノシタは、ツヨシくんに自慢のヒゲを、しっかり引っ張られていた。

ツヨシくん:おじさん、これって本物なの?。

ネネちゃん:星国のヒゲのおじいさん、何しに来たの?。

ラバボー:うわわ、ヒゲじいさん、本物だボ…。

コメットさん☆:…ち、ちょっとツヨシくん、やめてあげて。ヒゲノシタ、どうしたの?。一人?。

ヒゲノシタ:ああ、姫さま、わし一人です。実は、姫さまのメモリーボールを拝見しておりましたら、なんでも今日こちらの家で、プラネット王子殿下とこちらの景太朗さまが、将棋で対局なさるとか…。それならば、私めも、勝負に加えていただけないものかと思いましてな。飛んでやって参りました。何しろ、将棋と来ては、わしも長年のキャリアがありますゆえ…。

コメットさん☆:ひ、ヒゲノシタ…。そんなに将棋が好きだったなんて…、私知らなかったな…。星国でやっていた?。

ヒゲノシタ:姫さま、私めは王様としょっちゅう打たせていただいております。王妃さまが、地球からお持ち帰りになられた駒と板で…。

コメットさん☆:そうだったんだ…。…じゃあ、景太朗パパと、沙也加ママに紹介するね。ツヨシくんも、ネネちゃんも行こう。

ツヨシくん:うん。…このヒゲ、本物かなぁ…。

ネネちゃん:ネネちゃんも、興味あるっ。

 コメットさん☆は、ヒゲノシタを玄関のほうに来させて、玄関の引き戸を開けて中に入った。

コメットさん☆:ただいまー。帰りましたー。

ツヨシくん:パパ、ママ、お客さんだよー。

ネネちゃん:おヒゲのおじいさんのー、お客さんー。

 景太朗パパさんと、沙也加ママさんは、ツヨシくんとネネちゃんのただならぬ言葉に、急いで玄関までやって来て、驚いてヒゲノシタを見た。

景太朗パパさん:えっ…、えーと、い、いらっしゃいませ。どちら様ですか?。建築設計のことでしょうか?。

沙也加ママさん:あらっ、コメットさん☆…。この方お知り合い?。

コメットさん☆:あ、あの…。

ヒゲノシタ:あー、申し遅れました。私めは、ハモニカ星国侍従長、ヒゲノシタと申します。姫さまの侍従長をしております。よろしくお願いいたします。いつもは姫さまが、お世話になっております。私、侍従長からも御礼申し上げます。

景太朗パパさん:えっ、は、はあ…。ど、どうも…。

沙也加ママさん:こ、コメットさん☆の侍従長さん?。

コメットさん☆:は、はい。私の、星国での教育係でもありましたけど…。今日は、景太朗パパと、将棋を指したいそうです…。

景太朗パパさん:しっ、将棋?、ですか?。

沙也加ママさん:じゃあ、将棋トーナメント開催ね!。

ヒゲノシタ:あー、いかにも…。ぜひ私めも、お手合わせ願いたく…。

景太朗パパさん:ママは、そんな気楽なこと言っているけど…。は、はあ。まあ、わかりました。どうぞ、お上がりください。

沙也加ママさん:どうぞ。

ツヨシくん:…本物か、偽物か…。やっぱり引っ張ってみるしか…。

コメットさん☆:ツヨシくん、ヒゲノシタのヒゲは、本物だよ。私、小さい子どもの頃、寝ているヒゲノシタのヒゲ、三つ編みにしてみたことあるもの…。

ネネちゃん:えーっ、コメットさん☆、そんなことしたの?。あはははは…、面白ーい!。

ヒゲノシタ:あー、おっほーん。姫さま、何かおっしゃいましたかな?。

コメットさん☆:…う、ううん。何も言わないよ。

ラバボー:相変わらず、地獄耳だボ。

 

 そうして、夕方になり、やって来たプラネット王子、ブリザーノさん、そして景太朗パパさん、ヒゲノシタの4人で将棋対局が始まった。藤吉家の縁側に、将棋盤を出して、チェスの用意もして。軒先に下げられたガラスの風鈴が、からんからんと、時折涼しげな音を立てる。

ブリザーノさん:大変お久しぶりですな、ヒゲノシタ様。私、この地球に長いこと隠れ住んでおりました。

ヒゲノシタ:こちらこそお久しぶりです。タンバリン星国のプラネット王子お妃候補として、わが姫さまが選ばれるのではと思っておったのですが、どうもそういう流れは、今風ではないようで…。ブリザーノ様たちが、大きな改革をなされたおかげで、わが星国ものんびりとしておりますです。

プラネット王子:ヒゲノシタさん、オレもいろいろ画策したんですよ…、ふふふ…。

ヒゲノシタ:あー、これはプラネット王子殿下、申し訳ありません。そうでしたな。殿下のご活躍なくしては、大改革もなされ得なかった由に聞いております。

 プラネット王子は、ちょっと苦笑いを浮かべた。なんだか、王子としても、古傷に触れられるような気がしたからだ。そんな話をしているうちに、景太朗パパさんと、コメットさん☆が、スイカを切って、お盆にのせて持ってきた。

景太朗パパさん:さあ、このスイカでも食べながらやりましょうか。まずはどうしますか?。

コメットさん☆:甘いスイカのようですよ。どんどん食べてくださいねって沙也加ママが。ツヨシくんもネネちゃんも、ラバボーもね。

プラネット王子:オレは、コメットとチェス打ちますから、将棋のほうはよろしくどうぞです。すみません。

景太朗パパさん:では…、私と打ちますか?、えーと、ヒゲノシタさん。

ヒゲノシタ:ブリザーノ様、私が先でよろしいですかな?。

ブリザーノさん:ええ、どうぞどうぞ。私は打ち手の研究をさせていただきますよ。あとで対局いたしましょう。

景太朗パパさん:では、振り駒で先手を決めて…。

 そんな様子を、スイカを食べながら見ていたツヨシくんは、ふっとヒゲノシタに対して、引っかかりを感じていた。

ツヨシくん:(ヒゲは本物らしいけど…、コメットさん☆を泣かせたのは、タンバリン星国のヘンなんとかっていう、おじさんだけなのかな?。このヒゲのおじさんも関係ないのかな…。)

 

 そんなツヨシくんの気持ちを、誰も知る由はなかったが、ともあれ、蚊取り線香の煙が、ゆっくりと立ち上る中、縁側で涼をとりながらの将棋とチェスは始まった。スイカをしゃくしゃくと食べながら、日は暮れていく。今コメットさん☆の心が、誰かの気持ちで、洪水になっていることはない。でもまた、いつかそれは…。

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★第159話:メテオさんの父−−(2004年7月中旬放送)

 ある日の昼下がり、コメットさん☆は、沙也加ママさんのお店を少し手伝ってから家に帰り、ちょうど学校から帰ってきたツヨシくんとネネちゃんと、図面を引いている景太朗パパさんと四人で、おやつを食べようとしていた。景太朗パパさんには、いつものようにコーヒーを入れる。今日のおやつは頂き物の果物ゼリーだ。冷蔵庫で冷やしておいたのを、景太朗パパさん以外の三人で食べる。景太朗パパさんは、さすがにコーヒーに果物ゼリーは合わないと思ったのか、いつも切らさないサブレをつまんでいる。

景太朗パパさん:んー、おいしいね、コーヒー。いつもおいしく入れてくれるなぁ、コメットさん☆は。

コメットさん☆:…そうですか?。景太朗パパがそう言ってくれると…、うれしい…。

ツヨシくん:あー、メロンゼリーおいしいっ。

ネネちゃん:ネネちゃんはさくらんぼゼリーだもん。

ツヨシくん:メロンのほうが甘いもんね。

ネネちゃん:さくらんぼだって甘いもん。コメットさん☆は?。

コメットさん☆:え?、私…は、なんだろ?これ…。えーと、マスカットゼリーか…。マスカットゼリーって書いてある…。おいしいよ。甘いけど、ちょっと控えめな甘さっていうような感じかな?。

ツヨシくん:控えめな甘さ?。

ネネちゃん:ものすごく甘いんじゃないってことよ。知らないの?、ツヨシくん。

ツヨシくん:うっ…、ネネは、ネネは知っているのかよー。

ネネちゃん:当たり前じゃない。お菓子ってものは、ただ甘いだけじゃダメなの!。

景太朗パパさん:おっ、本格的なこと言うなぁ、ネネは。どこで覚えたんだ?。あはははは…。

 そんな会話を交わしながら、午後のゆったりとした時間が過ぎていく。藤吉家のいつもは、こんな感じだ。ところが、ふいに玄関に人が来た。玄関の引き戸の前にある、チャイムを鳴らす人が…。

チャイムを押した人:こんにちはー。

コメットさん☆:はーい。どなたですか?。

メテオさん:コメットぉー!。水くさいじゃないのぉー。教えてよったら、教えてよ。

コメットさん☆:あれっ?、メテオさん?。どうしたの?。

メテオさん:とにかく入るわよ。おじゃましまーす。

 やって来たのはメテオさん。メテオさんは、インターホンではなく、玄関の引き戸をがらりと開けて、入ってきた。コメットさん☆は、景太朗パパさんと、ツヨシくん、ネネちゃんとともに、玄関に出る。

景太朗パパさん:おや、メテオさんいらっしゃい。また夏の旅行でも企画してくれたの?。

メテオさん:あ、…い、いえ、き、今日は違いますわ。コメットにちょっと用事が…。

景太朗パパさん:あ、そうか。いやごめん。また今年も8月にどこかに行くのかなぁなんて、思ってさ。

メテオさん:…そ、そうですね。また考えてはおりますけれど…。

景太朗パパさん:そうか。じゃ上がっていきなよ。ちょうど冷えたゼリーがあるよ。外は暑かったでしょ?。

メテオさん:…ど、どうぞお構いなく。

景太朗パパさん:なんだ、いつものメテオさんらしくないなぁ。ふふふ…。何かあったかな?。まあリビングにどうぞ。

メテオさん:…はい。

 メテオさんは、コメットさん☆の顔を、ちらりと上目遣い気味に見て、靴を脱ぎ、廊下にあがった。そして冷房の効いたリビングの、ソファにちょこんと座ると、庭をじっと見た。

 コメットさん☆は、ゼリーと冷たいお茶を、メテオさんのために持ってきた。ツヨシくんとネネちゃん、ラバボーも、それを遠巻きに見ている。コメットさん☆が、テーブルに置くと、唐突にメテオさんは切り出した。

コメットさん☆:どうぞ。メテオさん。

メテオさん:コメットったら、冷たいじゃないのー。チェスなら誘ってよったら、誘ってよー!。プラネット王子から聞いたわよ。

コメットさん☆:…えっ、…め、メテオさん、ごめん…。メテオさんもチェスするなんて、知らなかった…。

 コメットさん☆は、びっくりして、思わず謝ってしまった。

メテオさん:やるわったらやるわ!。ムークや、幸治郎お父様や、留子お母様とも…。お父様は上手よ。

コメットさん☆:ムークさんともチェスするの!?。…ぜんぜん知らなかった…、ごめんね…。

メテオさん:…いいわ。…でもコメット、今からやりましょ!。いざ対決よっ!。

コメットさん☆:ええっ、い、今から…?。

ツヨシくん:…ああ、メテオさんのいつもの強引なのが始まったかも…。

ネネちゃん:メテオさん、いっつもあれだもんね…。

ラバボー:メテオさまも、あれさえなければ、普通の女の子だボ…。

 メテオさんは、持ってきた小さなデイバックから、自分のチェス盤と駒を取り出して、テーブルに置いた。デイバックの中身は、それだけではないようだったが…。

コメットさん☆:じゃあ、駒並べるよ、メテオさん。

メテオさん:手加減しないわよ。

コメットさん☆:べ、別にいいけど…。

 そうして勝負は始まった。ところがメテオさんは、それほど強くない。静かに駒を動かすコメットさん☆に対して、メテオさんは、思い切った手ばかりを使ってくるので、守りが穴だらけだ…。そして、予想通り、ほどなくメテオさんは…負けた。いつしか、盤の回りには、ツヨシくんやネネちゃん、それにラバボーも集まって見ていた。

メテオさん:あー、気が散るじゃないのったら、気が散るじゃないのー。ギャラリー、もう少し下がって!。もう一戦やるわよ!、コメット。今度は負けないわよ。

ツヨシくん:あー、メテオさん、ぼくたちのせいにしてるー。

メテオさん:もう、うるさいわねー。見てるんなら、何かアドバイスしたっていいじゃないのー!。

ネネちゃん:だってぇ…、チェスってよくわからないもの…。

メテオさん:…ええ…、わからないのに見ていたわけぇ?。

ツヨシくん:うん。コメットさん☆が負けるとくやしいから。

メテオさん:なんなのよー!、それって。

コメットさん☆:め、メテオさん、じゃあ、私の部屋でやろ。ツヨシくん、ネネちゃん、しばらくラバボーと遊んでいて。ごめんね。ラバボー、二人をお願い。

ラバボー:わかったボ。

ツヨシくん:ええー、つまんないの…。

ネネちゃん:ネネちゃんも…。ラバボー、私たちの部屋で、ゲームでもして遊ぼ。

ラバボー:何かあるのかボ?。じゃあ、ボーたちもやるボ。

 コメットさん☆とメテオさんは、二階に上がった。そして先日の工事で新しく出来上がった部屋とトイレを、メテオさんに、コメットさん☆は見せた。

コメットさん☆:メテオさん、ほら。ここが新しくできた部屋だよ。

メテオさん:ふぅん…。誰か住むの?。

コメットさん☆:…そ、そういうわけじゃないけど…、誰かお泊まりに来てもいいようにって…。景太朗パパさんと沙也加ママさんが…。

メテオさん:…そう。なかなかいいじゃない。木のにおいがするわ。ちょっと森の中にいるみたいね。

コメットさん☆:うん。ログハウスみたい…。それで、こっちがお手洗いだよ。

メテオさん:お手洗いね…。あなた専用?。

コメットさん☆:そういうわけでもないんだけど、今のところ専用のようなものかな…。

メテオさん:へえ、ずいぶん奥に細長いのね。

 メテオさんは、手前に手洗い用の流しがあって、奥に自動洗浄便座のついたパステルピンクの便器があり、屋根に沿った形に、小さな明かり取り窓のあるトイレをのぞいた。

コメットさん☆:う、うん。屋根裏だから、こんな感じになっちゃったって。下の配管につなぐ必要もあったって言っていた。景太朗パパさんが。

メテオさん:いいわねぇ、専用のお手洗いなんて…。うちのお手洗いなんて、けっこう暗くて…。最初のうちは怖かったわ、夜中とか…。…ところでコメット、続きよ。

 メテオさんの目がキラリと光った。

 

 メテオさんは、結局泊まっていくことになった。なんと着替え持参で、今夜は徹夜「マラソンチェス大会」にするつもりだったのだ。夕食を藤吉家の人々と共にし、そしてお風呂にネネちゃんといっしょに入ったメテオさんは、景太朗パパさんにもチェスの相手をしてもらった。沙也加ママさんは、少々面食らっていたが…。リビングに場所を戻して、チェスは延々と続いていた。もうすでに、何勝何敗かなんて、わからなくなっていた。

メテオさん:ビショップで…。ねえ、コメット、ちょっと聞いてくれる?。

コメットさん☆:…えーと、クイーン上げて…、え?、メテオさん何?。

メテオさん:…あの、瞬さまとデートしたんだけど…。

コメットさん☆:…チェック!。…イマシュンとデート?。国内や海外のロケやコンサートで、いつもしているんじゃなかったの?、メテオさん。

メテオさん:…あ。…ま、まずいわ!。ここでチェックかけてくるなんてー。…そ、そりゃいつもしているようなものだけど…、二人っきりで、彼の仕事先っていうのは、あんまりなくて、…その…。

コメットさん☆:…そうなんだ。で、デートで、何かあったの?。

メテオさん:…いつものように、海外での録音についていったの…。それで同じホテルの別の階に泊まって…、録音の合間に、ホテルの近くに、大きな公園があったから、そっといっしょに歩いたんだけど…。

コメットさん☆:へえ、いいなぁ…。なんだかそういうの…。あこがれるな。私も…。

 コメットさん☆は、駒を動かすのも忘れたような様子で、目を輝かせた。

メテオさん:そうしたら、瞬さま…、私のこと好きって言ってくれて…。でも私、男性って、どういう気持ちなのか、よくわからないわ。実際のところ…。わかっているつもりだったけど…、瞬さまに「ぼくの部屋に来ない?」って言われても、なんだかどう答えていいのか…。

コメットさん☆:えっ?、メテオさん、そうなの?。私てっきり…。

メテオさん:それって、私どうしてなんだろうって考えたわ。そうしたら、私にはお父様がいない。だからわからないんじゃないかなって。それに、私がきつい性格になっちゃったのも…。

コメットさん☆:…メテオさん。そんなことないよ。

メテオさん:ううん。わかっているわ。ずいぶんあなたにも、ムークにも、いろいろな人に迷惑かけたわ…。それって、私ずっとお母様としか、暮らしていなかったからじゃないかって…。

コメットさん☆:そんなんじゃないよ、メテオさん。だってメテオさんには、幸治郎さんだっているじゃない。

メテオさん:…瞬さまとデートする時、彼の言葉になんて答えたらいいか、なんて、聞けると思う?。

コメットさん☆:…そ、それは…そうかも…。

 その時、景太朗パパさんが、遅くまでリビングでチェスをしている様子の二人を見て、やって来た。

景太朗パパさん:あーあ、まだ二人は寝ないのかい?。まだまだ決着はついていないのかな?。

コメットさん☆:あ、景太朗パパ、メテオさんの話、聞いてあげてくれませんか?。

メテオさん:あ、こ、コメット、い、いいのよ。あなたが聞いてくれれば…。

景太朗パパさん:んん?、メテオさんがどうかしたのかい?。

コメットさん☆:メテオさん、私ですむことなら、いくらでも聞くけど…。イマシュンの気持ちまでは…。

景太朗パパさん:イマシュンの気持ち?。あのママがハマっちゃっている彼か…。そういえばメテオさんの、えーと…えへん!、恋人…なんだよね?。

メテオさん:こ、恋人なんて…そんな…。私、彼にどう接していいのか、わからないわ…。

 コメットさん☆は、景太朗パパさんの耳元へささやいた。

コメットさん☆:メテオさんは、お父様がいないんです。生まれる前に亡くなったから…。それで、男性の気持ちが、実はよくわからないって言うんですが、それがお父様に接したことがないからじゃないかって、悩んでいるみたいなんです。

景太朗パパさん:ふーむ、なるほどね。…メテオさん、お父様がいらっしゃらないということだけど、それで自分がどうなったと思っている?。よかったら話してくれないかなぁ?。

メテオさん:…け、景太朗パパさん…。

 メテオさんは、びっくりして景太朗パパさんを見て、それから少しうつむくよう視線になって、小さな声で答えた。

メテオさん:私、なんだか性格が、母に似てきつくなったような気がしますし、何でも悪い方に考えるようになったかもって…。いろいろみんなに迷惑もかけたと思うし…。強引だし…。

景太朗パパさん:なるほど…。メテオさん、でもそうやって自分のことを、冷静に分析できるのは、なかなか大人でも出来ないから、立派なことだと思うよ。

メテオさん:…それに、私お父様のいる人の気持ちが分からないわ…。瞬さまもお父様がいないから、なんだか通じ合うものがあって…。でも、彼が「ぼくの部屋に来ない?」と言って、誘ってくれても、私どうしていいかわからなくて…。

 メテオさんは、今にも泣き出しそうな顔になりながら、心を吐き出すように語った。

景太朗パパさん:人の気持ちが、全部分かるような人はいないよ、メテオさん。もし、「君の気持ちは全部分かる」なんて言う人がいたら、そんなのはウソなんだよ。

メテオさん:…えっ?。

景太朗パパさん:その人の心の奥までは、その人になってみなければわかりっこないさ。ぼくだって、ママの心のすみずみまで全部わかっているかって言ったら、本当はわからない…。ツヨシやネネだって、その気持ちの最も深いところまでなんて、わかりっこないんだよ。でも、でもね、その人の気持ちの一部分を、共有することは出来る。それは確実だね。

メテオさん:そうかしら…。

景太朗パパさん:君は今、お父様がいる人の気持ちはわからないと言ったよね。じゃ、お父様のいない人の気持ちはどうかな?…。

メテオさん:…あっ。

景太朗パパさん:ね?。お父様のいない人の気持ちは、少なくとも一部はわかるだろう?。だからこそ、イマシュンとも気が合った…。そういうことじゃない?。

メテオさん:そ、…そうには違いないわ…。

コメットさん☆:景太朗パパ、さすが…。

景太朗パパさん:いやいや、そんな感心するほどじゃないよ。ふふふ…。人の気持ちなんて、推し量ることしかできない。人間って、そういうものなんだな…。だから対立もするし、共感もする。その理屈を理解するのは、けっこう大事だよ。

メテオさん:景太朗パパさん…。

景太朗パパさん:お父様がいらっしゃらないことは、時に寂しく思うこともあるだろうし、あっただろうと思うよ。それは人である限り、仕方がない…。でも、君はそれで自分の性格がきつくなったとか、悪い方に考えるようになった、強引になったと言うけれど、それはお父様がいないからじゃない。ましてや君のように、もう大きな子なら、大きくなる過程で、少々そういう傾向があるかもしれないというだけだよ。もし自分に何か人当たりの悪いところがあるなと思うなら、それは自分の力で直そうとすればいい。時間はまだたっぷりあるじゃないか。

メテオさん:…そ、そうなのかしら。私、なんだか自分が悪い子のような気が、最近特にして…。

景太朗パパさん:…まあ、悩み多い年頃なんだよね…。人の気持ちなんて、わからないから思いやる…。だから尊い。そういうことなんじゃないかなぁ。ぼくはそう思うけどな。…むしろ、イマシュンと、どう接していいかわからないって言ったよね。そっちのほうが今は問題なんじゃないかな?。

メテオさん:瞬さまと、二人っきりになると、なんだか…私、柄にもなく…、固くなっちゃって…。小さい頃から、私母にきびしく育てられたから…。男性のことはよくわからないわ…。

景太朗パパさん:うーん、そうだねぇー。多少そこには、お父様がいらっしゃらなかったことが影響しているかもしれないけれど…、あんまり意識してもしょうがないよ。お父様が、もし生きていらしたとして、自分のために娘である君が、そんなことで引っ込み思案になったり、引け目を感じたりしているとわかったら、悲しまないかな?。どうだろう?。

メテオさん:……。

 メテオさんは、うつむいて、少し涙ぐんだ。そして小さくうなずいた…。

景太朗パパさん:あれ?、メテオさん、いつもの君らしくないぞ。元気を出しなよ。別にいっぺんに変わらなければいけないってわけじゃないよ。ゆっくりでいいんだよ。少しずつしか、相手の想いなんて、わからないさ。…それに…、君の恋人であるイマシュンは、きっと君のことを信じて、待っていてくれるに違いないさ。

コメットさん☆:(少しずつしか、相手の想いはわからない…か…。私も同じなんだろうな…。なんだか、私も答えを急いで求めようとしているのかも。ツヨシくんのことだって…。)

 コメットさん☆は、景太朗パパさんの語る言葉が、少しばかり自信をなくしたメテオさんに向けられているにもかかわらず、自分のことのようにも感じていた。

 

 メテオさんは翌日、深々と頭を下げながら帰っていった。景太朗パパさんと、沙也加ママさんはメテオさんを、玄関で見送ってから、そっとささやきあった。

沙也加ママさん:亡くなったお父様の面影を、なんとか見つけようとしているのね。でも、元がわからないから、あの子も、どうしていいのかわからない…。時間が解決してくれるのかしら?。

景太朗パパさん:そうかもしれないなぁ…。お父様は国王様だったらしいけど、お母様はきびしい人らしいからね…。もっと小さい頃、お父様に甘えてみたかったんだろうね…。そこはかわいそうだなぁ…。

沙也加ママさん:ちょーっとくやしいような気持ちにもなるんだけど…、うふふ…、イマシュンとメテオさんの相性って、とてもいいはずよね。

景太朗パパさん:ふふふ…。ママはそれですか…。…まあ、そうだね。イマシュンとメテオさん。手を握った程度らしいから、これからゆっくり二人の時間を、はぐくむんだろうね…。人は自分に自信をなくすことがある…。メテオさんのような普段強気な女の子でも…っていうところかな。

 そんな様子をじっと見ていたコメットさん☆は、嫉妬しているわけではないけれど、少しうらやましいような、一方で逆にメテオさんがかわいそうなような、複雑な気持ちになっていた。

コメットさん☆:(チェスのクイーンは、縦横斜め、どこにでも縦横無尽に動けるけれど、人って、たとえそうやって動いていても、時には立ち止まって考えることが、必要なんだろうな…。なんだかメテオさんが感じていた疑問って、誰にもあることなのかも。わからないことが出来たり、自信がなくなったら、立ち止まって考える…。そうすれば、何か道が開けてくる…。そういうことなのかな…。)

 コメットさん☆は、そんなことを、何となく考えながら、リビングの窓越しに、遠くを見つめていた。立ち止まって考えること。それは、自らの心の中にあるかがやきを、見出すことなるのかも…。

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★第160話:砂浜の星国伝説−−(2004年7月下旬放送)

 夏休みシーズンを前にして、沙也加ママさんの経営する「HONNO KIMOCHI YA」では、品物の入れ替えをして、夏物を少し置くということになっていた。シーズン中、由比ヶ浜にはたくさんの人が訪れる。沙也加ママさんの店でも、それなりにお客さんが来るので、コメットさん☆もしばしば手伝いに行っていた。今日もそんな感じで…。

沙也加ママさん:コメットさん☆、また今日も午前中、お昼までお願いね。

コメットさん☆:はい。よろこんでお供します。

沙也加ママさん:なんだか悪いわね…。

コメットさん☆:いいえ。いろいろ楽しいですから。

 そうしてコメットさん☆は、沙也加ママさんの運転する車に乗って出かけていった。

 由比ヶ浜の沙也加ママのお店では、開店前に品物を並べたり、移動させなければならないから、大忙しだ。棚に載っていた木工細工を奥に動かしたり、新しいワゴンを出したり、入口近くに可愛らしいアクセサリーを並べたり…。そうして10時の開店になると、お客さんがぼちぼちやってくる。7月上旬までは、たくさんいた修学旅行生はなりを潜め、若いカップルや、海水浴に来た家族連れが主たるお客さんだ。

コメットさん☆:いらっしゃいませー。貝のネックレス、いかがですか?。

若い女性:いいわね、これ。これってー、まさかこの海で捕れた貝?。

コメットさん☆:…あ、いえ、そうじゃないですけど…。

若い女性:そうだよね。…でも、ちょっと気に入ったから、これ買おう。くださいっ。

コメットさん☆:はい。ありがとうございますー。今、お包みします。

沙也加ママさん:そちらの流木アートは、地元の人の作品ですよ。ご興味おありですか?。

若い男性:へえ、そうなんですか。ええ、オレ、美大の学生なんですよ…。オレの車に載るかなぁ…。

沙也加ママさん:あらそうですか。じゃあがんばってデビューしないとね…。ところで、どのくらいの車ですか?。

若い男性:ええと、軽のワゴンなんですけど…。

沙也加ママさん:それなら載るんじゃないかしら…。店の前まで車持ってこられますか?。

若い男性:は、はい。じゃあ今、回してきます。

沙也加ママさん:コメットさん☆、こちらのお客さんが車を前につけるから、台車でこの商品運ぶのだけやってくれる?。

コメットさん☆:はーい。

 こんなお客さんとのやりとりは、お昼になる直前まで続く。普段は沙也加ママさん一人で営業しているので、お昼の時間だけは、お休みにするのだ。もっとも30分ちょっとであるが…。

 コメットさん☆は、そんな忙しさの中でも、ふと窓の外、遠くに見える砂浜に、朝からずっと一人で遊んでいる、小さな女の子が気になっていた。遊ぶと言っても、ただ一人でぼーっとしていることが多く、水に入ってもすぐに出てきてしまう。それにパラソルで強い日ざしを防いでいる様子もない。だんだんコメットさん☆は、心配になってきていた。だいたい子どもが一人で遊んでいるなんて、よほどのことでもない限り見たことがない。

 12時半を回った頃、沙也加ママさんは、お店をいったん閉めた。ようやくお昼ごはんである。

沙也加ママさん:ああ、やれやれ。今日もけっこうな人出ねえ…。コメットさん☆、お昼何にする?。

コメットさん☆:はい。…じゃあ、チャーハンで…。

 この時期、沙也加ママさんは、お昼ごはんを、由比ヶ浜で営業している海の家から、特別に出前してもらうのだ。何しろ浜は目と鼻の先なのだから。もう何年も、海の家の人たちは、見知った顔である。

沙也加ママさん:そうねー、じゃ私はカレーライスにしようかな…。いつもの扇屋さんに行って、コメットさん☆悪いけど注文してきてくれる?。私ちょっとお手洗いに行ってから、商品補充するから。

コメットさん☆:はい…。…あ、あの、沙也加ママ…。

沙也加ママさん:え?、なあに?。

 コメットさん☆は、沙也加ママさんのほうを向きながら、店の窓から外を指さした。

コメットさん☆:あそこに一人でいる子、朝から一人なんですが、ずっと日に当たってて、大丈夫かなって…。

沙也加ママさん:え?、どの子?、どこ?。…あの、濃いピンク色の水着の子?。

コメットさん☆:はい…。誰かを待っているふうでもなさそうで…。

沙也加ママさん:そうねえ…。じゃコメットさん☆、ちょっと扇屋さんに注文するときに、どうしたのか聞いてあげて。

コメットさん☆:はい。…そうしますね。なんだか心配で…。

沙也加ママさん:よく気がついたわねー、コメットさん☆も。…もし具合が悪そうだったら、セーバーの人に言ってあげて…。…でも変ねぇ、見たところ小学校中学年くらいだけれど、一人で遊びに来るかしら?。

コメットさん☆:…そうですよね…。友だちと来ているのならわかるんですけど…。何かあったのかなぁ…。

 コメットさん☆は、沙也加ママさんのお店を出て、国道の信号を渡り、浜に下りていった。むっとした熱気が、浜の砂から上がってくる。風もあまりなく、かっこうの海水浴日和だが…。ツヨシくんとネネちゃんは、午前中宿題をやっている。パパさんも仕事をしながら、二人の宿題をみてあげているはずだ。ついでにラバボーも。算数は得意のはず…。コメットさん☆は、お店のそばに海の家を構えている「扇屋」に行って、昼食を注文した。

コメットさん☆:こんにちは。すみません、いつものように、カレーライスとチャーハンお願いします。

扇屋の人:よお、「HONNO KIMOCHI YA」の人だね。カレーライスとチャーハンね。はいよ。出来次第とどけま〜す。

コメットさん☆:…お願いします。代金支払っていきますね…。

扇屋の人:はいよ。いつもありがとうね。おーい、北原くーん、こちらのお客さまから、代金いただいてー。

北原さん:はーい。

 コメットさん☆は、北原さんという、アルバイトの店員の人に、昼食の代金を支払い、念のために店の場所を教えておいた。それがすむと、浜を歩いて行き、さっきから気になっていた女の子のところに向かった。浜の砂は、太陽の熱で熱せられて、コメットさん☆の履いているサンダルの底から、熱を輻射してくる。サンダルの脇から、コメットさん☆の足の裏に入り込んでくる砂も熱い。しかし、コメットさん☆は、そんなことに気を止めず、女の子にどんどんと近づいた。

コメットさん☆:ねえねえ、あなた一人?。どうかしたの?。

女の子:……。

コメットさん☆:私、そこの国道を渡った向こう側のお店にいるコメット。よろしくね。

女の子:コメットさん☆っていうの…?。

コメットさん☆:うん。そうだよ。歳いくつ?。

女の子:9歳だよ…。

コメットさん☆:そっかー。9歳か…。さっきから一人みたいだけど、どうしたの?。よかったら、私に話してくれないかな?。

女の子:…うん。あのね、私東京から引っ越してきたの。それでね、お友だちがね、できなかったの。でも、夏になってはじめてお友だち出来たの。賢司くんっていうの。それでね、賢司くん、さっきから待っているんだけど…。

コメットさん☆:えっ、東京から越してきたの?。そうなんだ。賢司くんと仲いいの?。

女の子:うん…。

コメットさん☆:あなたのお名前は?。

女の子:万里香…、稲沢万里香。

コメットさん☆:万里香ちゃんか…、いいお名前だね。私はねぇ、コメット、藤吉コメット…だよ。14、あ、いや15歳…かな…。あははっ。

万里香ちゃん:コメットお姉ちゃん、大きいんだ…。

コメットさん☆:…そ、そんなことないよ…。ねえ、万里香ちゃん、頭暑くない?。大丈夫?。気分悪くない?。あんまり日に当たっていると、日焼けするし、熱射病になっちゃうよ。

万里香ちゃん:うん…。大丈夫。でも、賢司くんがパラソル持ってきてくれるって…。

コメットさん☆:そっかー。賢司くんは、ボーイフレンド?。

万里香ちゃん:う、ううん。そ、そうじゃない…けど、お友だち。万里香といっしょに遊んでくれるの…。今日は、朝からいっしょに海で遊ぼって言ってたのにな…。

コメットさん☆:そうなの?。じゃあもう来るはずだよね…。どうしたんだろう?。

万里香ちゃん:…わからない…。

 万里香ちゃんは、あまり明るくお話する子ではなかったが、その顔がいっそう曇ったように、コメットさん☆には見えた。コメットさん☆は、さらに心配になった。

コメットさん☆:じゃあ、その賢司くんのおうちの電話番号わかる?。

万里香ちゃん:うん…。でも携帯電話持ってないよ、万里香…。おうちにおいて来ちゃったから…。

コメットさん☆:へえ、携帯電話、自分の持っているんだ。すごいね万里香ちゃん。じゃあ、賢司くんのおうちに電話してみようか。あそこのお店が、私のいるお店だから、一休みして、あそこから電話して、それから待とうよ、賢司くんを。

万里香ちゃん:うん…。でも荷物どうしよう…。

コメットさん☆:私も持ってあげるから、いっしょに持って、行こう。あ、万里香ちゃんお昼ごはんは?。

万里香ちゃん:お昼になったら、賢司くんといっしょに食べるつもりだったの…。

コメットさん☆:そうなんだ…。

 コメットさん☆は、賢司くんはどうしたのだろうと思った。様子からすれば、朝と約束していたに違いないし、そうだとすると、こんなに遅くなるのはおかしいような気がしたからだ。コメットさん☆は、ふと監視台を見た。ケースケだったら、何か相談できるかもと思ったからだが…、残念ながら今日の担当はケースケではないようだった。知らない人が、監視台に昇っている。

 コメットさん☆は、万里香ちゃんの敷いていたグラウンドシートをたたむと、砂をはらって持ってあげ、水着バッグを持った万里香ちゃんの手を引いて、国道の信号を渡り、「HONNO KIMOCHI YA」に戻った。そして戻るやいなや、すぐに沙也加ママさんに万里香ちゃんのことを、細かく話した。

沙也加ママさん:大丈夫?。だいぶ疲れているようだわ。2階で少し休んでいなさいね。気にしないでいいわ。ここは私のお店だから、困ったことがあったら、いつでも言ってきていいのよ。コメットさん☆、ちょっと万里香ちゃん見ていてあげてね。私その賢司くんのおうちと、万里香ちゃんのおうちに電話してみるわ。

コメットさん☆:はい、沙也加ママ。さあ、万里香ちゃん、2階に上がって、少し涼しい風にあたろう。あ、水着濡れてて寒いかな?。

万里香ちゃん:ありがとう…。涼しいけど、少し寒い…。

コメットさん☆:そっか、じゃあ、冷房の風が当たらないところに座って…。それでほんの少し待っててね。今ガウン取ってくるから。

万里香ちゃん:うん。

 コメットさん☆は、万里香ちゃんを、2階に並べられたイスに座らせると、急いで裏口から1階に下りた。そしてバトンを出すと、星のトンネルを通って、家に飛んで帰った。ウッドデッキのところに降り立つと、海で上に羽織るガウンと、ふと思いついて、自分の水着とタオル一式を持って、またウッドデッキのところから、「HONNO KIMOCHI YA」までとんぼ返りで戻ることにした。その時、部屋で宿題をやっていたツヨシくんとネネちゃん、それにラバボーは、コメットさん☆の足音に、びっくりして部屋の外を見た。

ラバボー:姫さま?。

ツヨシくん:あれ?、コメットさん☆?。

ネネちゃん:ママのお店に行っているんじゃなかったのかな…?。何か持って、星のトンネルを通って行っちゃったよ。

 怪訝な顔の三人と、トイレに行っていて、何も気付いてない景太朗パパさんを残して、コメットさん☆は急いで戻っていった。

 「HONNO KIMOCHI YA」に戻ってみると、沙也加ママさんが電話で話しているのが見えた。多少心配そうな顔つきなのが気になった。しかし、急いでコメットさん☆は、万里香ちゃんにガウンを着せようとまた裏口から階段を上がった。

コメットさん☆:万里香ちゃん、お待たせ。ほら、これ羽織って。

万里香ちゃん:コメットお姉ちゃん、寒いよ…。

コメットさん☆:あ、ごめんね。さ、これを着て。…どう?。

万里香ちゃん:うん、大丈夫になった。

コメットさん☆:そっか。それ、私がいつも海で着るやつだよ。

万里香ちゃん:ありがとう、コメットお姉ちゃん。

 そこへ沙也加ママさんが、階段を上がってきた。

沙也加ママさん:万里香ちゃんって言ったわね。賢司くんね、急に熱だしちゃって、来られなくなっちゃったんだって。それで何度も万里香ちゃんの携帯電話に電話したけど、通じなくてどうしようかと思ってたんだって。万里香ちゃん、携帯持ってこなかったのね。

万里香ちゃん:なんだぁ…そうだったんだぁ…。うん、私なくすといけないと思って、うちにおいてきたの…。

沙也加ママさん:こういうときは、持ってきた方がいいわよ。…それで、万里香ちゃんのおうちにも電話したんだけど…、誰もいらっしゃらないみたいねぇ…。

 万里香ちゃんは、うつむいて、今にも泣き出しそうな顔になった。ところがその時…である。

扇屋の人:こんちわー、お昼出前持ってきました〜。

沙也加ママさん:あ、はーい。ありがとう…。あ、万里香ちゃんお昼は?。

コメットさん☆:賢司くんといっしょに食べるつもりだったんですって。

沙也加ママさん:そうかー。じゃあ、万里香ちゃん、私たちと食べない?。おなかすいたでしょ?。おなかすくと、よけいに気持ちが落ち込むわよ。

万里香ちゃん:…で、でも私お金少ししか持ってないし…。

沙也加ママさん:いいのよ。そんなことは。困ったときは、誰でも助ける。これってうちのモットーだから。ふふふ…。カレーライスでいい?。

万里香ちゃん:はい。いいです。ごめんなさい…。

沙也加ママさん:あら、ずいぶんお行儀がよくて、おとなしい子ね。ふふふ…。…いいってば。せっかくだから、コメットお姉ちゃんと、いろいろお話していけば。あ、扇屋さん、待って。カレーライスもう一つ、大急ぎで追加お願い。これ、お金。

扇屋の人:え?、カレーライス、もう一つですか?。急ぎですね。まいどありぃ!。今すぐ持ってきま〜す。

 程なくカレーライスは追加で届けられ、沙也加ママさん、コメットさん☆、万里香ちゃんの三人は、お昼を食べはじめた。万里香ちゃんは、よほどおなかがすいていたのか、食べはじめたら元気になってきた。

万里香ちゃん:カレーおいしい。えーとえーと…。

沙也加ママさん:私?、私は沙也加よ。

万里香ちゃん:沙也加ママありがとう…。コメットお姉ちゃんも…。私どうしようかと思ってた。

沙也加ママさん:コメットさん☆がねぇ、あなたのことずっと見ていて、心配していたのよ。

コメットさん☆:…万里香ちゃん一人だったから…。その水着、かわいいね。ママに買ってもらったの?。

万里香ちゃん:うん。ママやさしいの。万里香ね、東京の世田谷ってところから、春に引っ越してきたの。学校も転校したの。

コメットさん☆:えっ、世田谷…?。世田谷のどの辺?。万里香ちゃん。

万里香ちゃん:んーとね、砧3丁目っていうところ…。今はねえ、浄明寺1丁目ってところだよ。

 コメットさん☆と、沙也加ママさんは、思わぬ地名に、顔を見合わせた。世田谷区砧とは、王妃さまがかつて住んでいたところ…。しかも砧3丁目は、王妃さまによれば、住んでいたところの極めて近くである。

コメットさん☆:そっか、そうなんだ。今は浄明寺ってところか…。沙也加ママ、浄明寺ってどの辺ですか?。

沙也加ママさん:いやあね、コメットさん☆、浄明寺知らないの?。鎌倉駅から北東の方向よ。駅の東口から…そうねー、けっこう歩くかな。

万里香ちゃん:うん、駅からは遠いよ。パパがそこにおうちを買ったの。

コメットさん☆:そうなの…。私どうも地名がよく覚えられない…。えへっ。

 コメットさん☆は、ばつが悪そうに笑った。

万里香ちゃん:コメットお姉ちゃんは、どうして外国語の名前なの?。

コメットさん☆:私は、ハモニカ星国っていうところから、ここにかがやき探しをしに来たの。

万里香ちゃん:かがやき探し?。

コメットさん☆:うん、そう。ここに住んでいる人たちの、心に灯る希望や、夢のかがやき…。

万里香ちゃん:ふぅん…。万里香、よくわからないけど…。「りゅうがく」っていうの?。

コメットさん☆:うーん、そんなところかな。…万里香ちゃんは、鎌倉気に入った?。

万里香ちゃん:うん。おうちがずっと広くなったし…。自分のお部屋もあるよ。猫がいるんだ。ブブっていうの。

コメットさん☆:えっ、猫がいるの?。名前はブブ!?。面白い名前だね、猫ちゃん…。そっかー、私も、この鎌倉が大好き。…おうち、前は狭かったの?。

万里香ちゃん:パパが、「家が狭すぎる」って…。世田谷は「地価」って言うのが高いんだって。

コメットさん☆:地下…?。地面の下?。

沙也加ママさん:コメットさん☆、違うわよ。あはははは…。土地の値段のことよ。土地って買うのにお金がかかるんだってば。

コメットさん☆:えっ、そういえば…、そうか…。星国は土地ってみんなのものだから…。間違えちゃった…。

沙也加ママさん:万里香ちゃん、お父さんとお母さんはお勤め?。

万里香ちゃん:そう。パパは東京の会社。ママは花屋さんに勤めてるの。だから万里香、昼間は一人なの。お友だちいなかったから、つまらなかった…。でも、夏は好きなんだ。泳げるから。万里香水泳得意なんだよー。

コメットさん☆:そうなんだ。万里香ちゃん、どのくらい泳げるの?。

万里香ちゃん:学校の水泳記録会では、50メートル以上だよ。万里香、小さい頃スイミングに通っていたんだ。賢司くんよりずっと泳げるんだよ。

コメットさん☆:へえー、私負けそう。てへっ。私も泳げるけど、遅いもの。

万里香ちゃん:ねえねえ、コメットお姉ちゃん、午後いっしょに泳ごう。

コメットさん☆:えっ…、沙也加ママ…。

沙也加ママさん:いいわよ。もう商品の入れ替えも一段落したし…、あとは私一人で大丈夫よ、コメットさん☆。午後2時過ぎになると、宿題が終われば、ツヨシとネネも来るかも。真ん前で遊んでくれば?。あ、でもコメットさん☆、水着は?。

 コメットさん☆は、決まり悪そうに、万里香ちゃんに着せるガウンといっしょに、もしかして…と思って持ってきた水着バッグを、そっと沙也加ママさんに見せた。

コメットさん☆:え、えーと、沙也加ママ、…実はもう、持ってきているんです…。もしかすると、そういうこともあるかなーって思って…。

沙也加ママさん:…やれやれ、コメットさん☆も…。うふふふ…。ちょうどいいわ、じゃ万里香ちゃんと遊んであげたら。

コメットさん☆:はい。沙也加ママ、ありがとう…。

 コメットさん☆は、お店のお昼休みが終わると、2階のついたての陰で水着に着替えた。最近よく着る、赤いチェックの水着。もう下の階には、またお客さんが来ているので、少しドキドキしながら。そうして、裏口から万里香ちゃんを連れて、お店にあるパラソルを持ち、浜辺に出た。

 真上から少し傾きはじめた太陽は、相変わらず強い日ざしを、由比ヶ浜に照りつけていた。コメットさん☆と、万里香ちゃんは、いっしょに手を取って遊んだ。ビーチボールを投げ合ったり、コメットさん☆の背中に万里香ちゃんが乗ったり、万里香ちゃんを水の中でおんぶして、コメットさん☆が背の立つギリギリのところまで行ってみたり…。コメットさん☆は、ふと、「妹がいたら、こんな感じかなぁ」とか、「みどりちゃんはいとこだけど、もう少し大きくなると、こうやって遊べるかな…」などと思った。そして次の瞬間、「私にも、いつか子どもが出来て…、あ、そんなの…、ずっと…先の…こと…」とも。コメットさん☆の背中にぴったりとくっつく、小さな子どもである万里香ちゃん…。コメットさん☆にとって、さっき出来たばかりの小さなお友だちのはずなのに、なぜか「家族」を意識してしまう。

 ひとしきり遊んだコメットさん☆と、万里香ちゃんは、浜辺の、自分たちのパラソルの下に戻った。

コメットさん☆:どう?、楽しい?、万里香ちゃん。

万里香ちゃん:うん。楽しい。コメットお姉ちゃんは?。

コメットさん☆:私も楽しいよ。いつもは、沙也加ママさんの子どもの、ツヨシくんとネネちゃんって言う双子の子と、よく遊ぶんだよ。

万里香ちゃん:へえ、そうなの?。何歳?。

コメットさん☆:うん。小学校2年生で、8歳。…そういえば、賢司くんって、どんな子?。

万里香ちゃん:やさしいよ。友だちいなかった私に、はじめて声かけてくれたの。でも、気が弱いの。

コメットさん☆:そうなんだー。気が弱いの?、でもやさしいからじゃないのかな?。

万里香ちゃん:そうかもしれないんだけど、他の男の子にいじめられて、よく泣いているよ。

コメットさん☆:そっか。でも、それってやっぱりやさしいんだよ。万里香ちゃんには。

万里香ちゃん:…うん。コメットお姉ちゃんには、そんなお友だちいないの?。

コメットさん☆:…いるよ。いる…。やさしいよ。やさしくない言い方する友だちもいるけど…。本当はみんなやさしいよ…。

万里香ちゃん:…あのね、コメットお姉ちゃん、ママから聞いた話、聞いてくれる?。

コメットさん☆:え?、うん…、いいよ。どんな話?。

万里香ちゃん:あのね、世田谷にね、万里香が生まれるずっと前から、ママとパパは住んでいたの。結婚する前から。それでね、ママがまだ学校に行っていた頃、ある時、近所に住んでいる、違う星からきた女の子と、友だちになったんだって。

コメットさん☆:えっ…、せ、世田谷の…、それって、砧の話だよね?。

万里香ちゃん:うん、そうだよ。そのお友だちは、バトンっていうのを回して、いろいろな魔法みたいなのを使っていたんだって。

コメットさん☆:ふぅん…。何年前頃の話なのかな?。

万里香ちゃん:万里香の生まれる前だから、わからない…。けどね、あのね、そのお友だちは、ある時星の国に帰っちゃったんだって。そんな話をママがしてくれた。

コメットさん☆:…そうなんだ…。

 コメットさん☆は、ドキドキした。同じ世田谷、同じ砧3丁目、同じようにバトンを操り、同じように星の国に帰った女の子。万里香ちゃんの生まれる前…、万里香ちゃんのお母さんが、学校に行っていた頃…。こんな偶然って、あるのだろうか…。いや、おそらくそれは…。

万里香ちゃん:私ね、ママの言うの、信じているんだ。ママが見た女の子は、本当にいたんじゃないかな。私もそんなお友だちが出来るといいなあって。

コメットさん☆:そうだね…。万里香ちゃん、私も信じるよ。星国…じゃなかった、星の国からやって来て、地球でお友だちをたくさん作って、星の国に帰っていった女の子、どこかにいそうだよね。

万里香ちゃん:コメットお姉ちゃんも信じてくれる?。そんな女の子って、どこかにいそう?。

コメットさん☆:うん、信じる。きっとどこかにいるよ。

 コメットさん☆は、そう言って、にこっと笑った。

 

 2時半過ぎにやって来た、ツヨシくんとネネちゃんに、コメットさん☆は万里香ちゃんを紹介した。みんなすぐに友だちになって、いっしょに海で遊んだ。忙しくレジをこなす沙也加ママも、その様子をちらりと、お店の窓ガラスから見て、そっと微笑んだ。

 夕方、バスに乗って帰るという万里香ちゃんを、浄明寺のおうちまで、沙也加ママさんは車で送ってあげることにした。コメットさん☆とツヨシくん、ネネちゃんは、江ノ電で帰る。小さな手を振る万里香ちゃんは、少し寂しそうな顔をした。

万里香ちゃん:コメットお姉ちゃん、またいっしょに遊んでくれるよね?。

コメットさん☆:うん。もちろん。また水遊びしようね。今度は一人で来ちゃダメだよ。

万里香ちゃん:うん。わかった。ツヨシくん、ネネちゃん、またね…。

ネネちゃん:万里香ちゃん、いっしょに今度花火しよ。

ツヨシくん:…う、うん。またね。

 ツヨシくんは、ちょっと恥ずかしそうだ。なぜかコメットさん☆の手を、少し強く握った。…そうして万里香ちゃんは、みんなと手を振りつつ帰っていった。コメットさん☆が砂浜で聞いたお話は、王妃さまを知る人々の心に残る伝説?…。

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★第161話:ケースケの未来−−(2004年8月上旬放送)

 夏休みも中盤にさしかかるころ、少しばかり季節はずれ気味の台風がやって来たせいで、ここ数日海へは行かれない日が続いていた。ツヨシくんとネネちゃんは、学校のプール指導に通っている。だから二人は楽しそうに泳いでくるのだが、コメットさん☆はいっしょに行くわけにも行かず、一人ちょっとばかりつまらない日々を過ごしていた。

天気予報:明日の神奈川県地方・相模湾の波の高さは1.5メートルでしょう。

コメットさん☆:わはっ、明日の波は少し穏やかだ…。

ツヨシくん:明日海に行けそう?、コメットさん☆。

ネネちゃん:行けるなら、コメットさん☆もいっしょに行こうよー。

コメットさん☆:うん。大丈夫そう。行こうか。

ツヨシくん:うん…。あーでも、午前中は学校のプールがある…。

ネネちゃん:そんなのすぐ終わるじゃない。さっと入って、さっと出て、出席のハンコだけもらってくればいいよ。

ツヨシくん:そうか。じゃそうして、お昼までには帰ってこよ。

ネネちゃん:私も。

コメットさん☆:わあ、うれしいな。私もここんとこ泳ぎたいなーって、思っていたから。

 コメットさん☆は、夜の天気予報を見て、ツヨシくんとネネちゃんといっしょに、明日泳ぎに行こうと思った。そこへ景太朗パパさんがやって来た。

景太朗パパさん:おっ、明日の天気は晴れか…。みんな泳ぎに行くのかい?。いいなぁー、ぼくは都内で仕事だよー。

コメットさん☆:景太朗パパ、都内まで出るんですか?。

景太朗パパさん:仕事の打ち合わせがあってね…。ぼくもたまには泳ぎに行きたいよ。

コメットさん☆:今度景太朗パパも、いっしょに行きましょう。

景太朗パパさん:あははは、コメットさん☆誘ってくれるのかい?。それはありがとう。そうだねー、仕事があいたらね。少し離れたところにみんなで行こうか。

 景太朗パパさんは、少し遠慮がちな物言いで言った。

 

 翌日、ツヨシくんとネネちゃんは、学校のプール指導に出かけていった。コメットさん☆は、その姿を見送ると、庭と鉢植えへの水撒きをはじめた。すると沙也加ママさんが、廊下の窓のところから、コメットさん☆を呼んだ。

沙也加ママさん:コメットさーん☆、ツヨシとネネが帰ってきたら、海に行くんでしょ?。何時頃かしら?。

コメットさん☆:はーい。えーと、ツヨシくんもネネちゃんも、なるべくすぐに戻ってくるって言ってましたから…。

沙也加ママさん:…とすると、11時頃かしらね…。お昼食べてから出かける?。

コメットさん☆:そうですね、私はどっちでも…。沙也加ママはどうしますか?。

沙也加ママさん:そうねー、私はいつものように扇屋さんから出前してもらおうかな…。あ、それならみんなお店の2階で、お昼食べてから行ったら?。

コメットさん☆:あ、はい。じゃあそうします。それで私、お昼作ります。

沙也加ママさん:あらいいわよ。その間お店番していてくれれば、ささっと私が作るわ。

 沙也加ママさんとの打ち合わせで、お昼を食べずにお店まで行き、そこで食事をしてから海に出ることになった。景太朗パパさんは、今日仕事で都内の設計事務所へ出ているので、昼食の心配はないとしても、沙也加ママさんは、一人の食事はつまらないと思ったのだ。

 沙也加ママさんがお店に出かけ、しばらくの間コメットさん☆が一人留守番をしていると、やがてツヨシくんとネネちゃんが帰ってきた。

ネネちゃん:ただいま〜。

ツヨシくん:ただいま。コメットさーん☆。すぐ海に行こうよー。

コメットさん☆:二人ともお帰り。沙也加ママが、お昼お店で食べてから海に行けば?って。

ネネちゃん:わあい、ママとお昼だー。

ツヨシくん:コメットさん☆とお昼だー。

コメットさん☆:うふふふっ。ツヨシくん、なあにそれ。

ツヨシくん:コメットさん☆といっしょのお昼…。

ネネちゃん:そんなの当たり前じゃない。ツヨシくん変ー。

コメットさん☆:…ふふふっ。ネネちゃんもツヨシくんも、面白い…。あ、でも二人とも水着は?。

ネネちゃん:水着って…、学校のじゃないやつがあるもの。大丈夫だよ、コメットさん☆。

ツヨシくん:ぼくも、パンツ何枚もあるもんね。

コメットさん☆:あはっ、そっか。そうだよね。学校のと違うんだよね、水着…。…私学校のプールって、星国の学校のプールしか、知らないなあ…。

 コメットさん☆は、「学校のプール」のイメージの違いを考え、少し困ったような顔で言った。

ネネちゃん:星国の学校のプールってどんな感じ?。

コメットさん☆:うん。星力がかかっているから、どんな子も、すぐ泳げるようになるよ。丸くて、そんなに深くないよ。

ツヨシくん:丸いの?。

コメットさん☆:そう。先生が教えてくれるんだけど、星ビトさんたちは、背の高い星ビトさんや、体の小さい星ビトさんもいるから、一人一人にちゃんと教えてくれるよ。サカナビトさんは、もうすぐにでも泳げそう。

ネネちゃん:サカナビトさん?。全身魚なの?。

コメットさん☆:体が魚っていうか…、人魚さんみたいな感じかなぁ…。でも男の子だよ。

ツヨシくん:うわっ、男の人魚…なの?。

コメットさん☆:うーん、サカナビトさんは、人魚さんじゃないけど、童話とかに出てくる人魚さんって、みんな女の子っていうイメージあるよね…。けど、男の子だっているんだろうね。もし男の人魚さんっていたら、サカナビトさんみたいな感じかなぁ?。

 コメットさん☆は、そう答えながら、ふと「どうして人には、男と女しかいないのかな…?」と、素朴な疑問を感じた。「そんなの、感覚的にはわかるけど、どうしてなんだろう」…とも。

 お昼近くになって、ツヨシくんとネネちゃんは、もう水着を下に着て、用意していた。コメットさん☆は、二人の学校で使ってきた水着とタオルを洗濯すると、ちらっと空を見上げて、雨が降る心配がないかどうか確かめてから、物干しに干した。それから部屋に上がって、自分の水着をチェストから出し、鏡の前で体に当ててみた。

コメットさん☆:どれがいいかなぁ…?。今日はブルー系にしようかな…。

ラバボー:姫さま、姫さま。今日は泳ぎに行くんだボ?。ボーも行くボ。

コメットさん☆:うん。ラバボーもいっしょに行こ。…水着どれがいいかな?。

ラバボー:最近姫さま、衣装選びに少し時間がかかるボ?。

コメットさん☆:…だ、だって…、かわいいの…着たいもん。

ラバボー:その星柄のがかわいいボ。

コメットさん☆:紺色に星柄か…。じゃあ、この流れ星が入ったオーバースカートを組み合わせて…。

ネネちゃん:コメットさん☆、まーだー?。

ツヨシくん:ママがおなかへらしちゃうよー。

ネネちゃん:おなか減っているのはツヨシくんでしょ!。

コメットさん☆:あ、ごめーん。今行くね。…えーとタオルと、ポーチ持って…、二人に塗る日焼け止めも…。

 コメットさん☆は、準備に忙しく階下に下りていった。ラバボーもそのあとを追う。

 コメットさん☆とツヨシくん、ネネちゃん、それにティンクルスターに入ったラバボーは、星のトンネルを通って、沙也加ママさんのお店に向かった。

 星のトンネルからは、夏の強い日ざしと、それを反射してきらめく青い海が見える。夏の海らしく、家族連れやカップル、友だち同士のような若者たちが、浜辺にたくさん遊んでいるのが見える。国道は混雑していて、車がたくさんなのも見えるが、その脇を涼しい顔で江ノ電が走り抜けていくのも見えた。そのうちに三人は由比ヶ浜の、沙也加ママさんの店「HONNO KIMOCHI YA」に着いた。

沙也加ママさん:あら、もう来たの?。あははは、早いわねー。まだお昼前ギリギリよ。

コメットさん☆:星のトンネルを使って、ススっと来ちゃいました。

ツヨシくん:もう下に水着着ているんだもんね。早く泳ぎに行きたい!。

ネネちゃん:ネネちゃんもだよー。

沙也加ママさん:コメットさん☆は?。

コメットさん☆:わ、私はまだ着替えてません。

沙也加ママさん:そう…。ふふっ、そうよね。…もうツヨシもネネも、髪の毛濡れっぱなしで…まあ。じゃあ、コメットさん☆、ちょっとお店見ていてくれる?。やっぱり時々お客さん来るから…。私は2階のキッチンで、何か作るわね。材料持ってきたから…。

コメットさん☆:はい。私お店番します。ツヨシくん、ネネちゃん、手伝ってね。…あ、割れ物には気をつけてね。

ツヨシくん:うん、わかった。大丈夫だよコメットさん☆。

ネネちゃん:コメットさん☆もね…。

コメットさん☆:わはっ、信用されてないなー…。

 コメットさん☆は、ちょっと苦笑いをしながら答えた。窓の外には、夏の日ざしに照らされた、由比ヶ浜海水浴場が見える。たくさんの海の家と、その先で泳ぐ人々…。ひっきりなしに通る車からは、時々人が降りてきたりする。

お客さん男:へぇ…、こんな店あるんだ…。おっ、けっこう面白そうなものがあるぞ。うわ、でけえ流木アートっ。

コメットさん☆:いらっしゃいませー。

ツヨシくん:いらっしゃいませ。

ネネちゃん:いらっしゃいませー。

お客さん女:あら、かわいい店員さんだよー。お手伝いかなー?。

 若いカップルが、水着のままでやって来た。2階のキッチンで簡単な料理をしながら、沙也加ママさんは、ちらりと1階の様子を見やった。

お客さん男:あ、オレこの携帯のストラップ買おう。…じゃあ、これね。

コメットさん☆:はい。525円になります。

お客さん女:私は、このアロマキャンドルにしよう。ねえねえ、これって入れ物はどうするの?。かわいい店員さん。

コメットさん☆:あ、はい。えーと、それだったら、お皿とかの熱で壊れない食器が使えます。…あと、向こう側の棚には、お香やアロマキャンドルに使える、焼き物のお皿とかもありますけど…。

お客さん女:あーそうなんだー。…じゃあこのお皿も買おう。なんかかわいいー。

コメットさん☆:はい、ありがとうございます。ネネちゃん、台の下に箱があるから出してね。番号がついているから…。えーと、43番っていう箱…。

ネネちゃん:うん。今出すー。

お客さん女:わあ、かわいいね。ありがとうね、お姉ちゃんのために箱出してくれるんだ。

ネネちゃん:はい。ママのお店だから、いろいろ知っているよ。

お客さん女:あ、ここってあなたたちのママさんのお店なんだ。そっかー。ママさんはどこ行っているの?。

コメットさん☆:今ちょっと…、2階で用事を…。

お客さん女:ふーん、そう。…じゃあ、友だちにも教えておくね。ここっていろいろあるよって。

コメットさん☆:ありがとうございます。

お客さん女:ねえ、ユウジ、ここって面白いよねー。

お客さん男:ああ。前は材木座のほうに行ってたからなー。ここ知らなかったよ。

 コメットさん☆は、商品を慣れない感じで包みながら、そっと微笑んだ。2階で料理をしている沙也加ママさんも、わざと足音をたてないように、そっと1階の様子を見ながら、やっぱり微笑んでいた。

 

 「新鮮野菜のパスタ」を、みんなで食べてから、コメットさん☆は2階のすみで水着に着替え、ツヨシくん、ネネちゃんといよいよ浜辺に飛び出していった。沙也加ママさんは、お店の前に置いたよしずを広げて、日が直接お店の中に差し込むのを防ぎながら、みんなの背中を見送った。コメットさん☆は、片手にパラソルを持っている他は、ビート板とビーチボールを持っている。お店は目の前だから、最小限のものしか持っていない。それでもツヨシくんとネネちゃんに塗るための日焼け止めだけは、念のため持ってきた。もっとも二人とももうすっかり小麦色なのだが…。グランドシートは、ツヨシくんとネネちゃんが二人で、頭上に掲げ持つようにしている。その様子が面白くて、コメットさん☆は、「くすっ」と笑った。ラバボーを入れるための小さなバケツも、ツヨシくんが片手にさげている。

コメットさん☆:ここらへんにしよっ。

 コメットさん☆は、沙也加ママさんのお店から、一直線に前の浜辺の空きスペースに立ち止まって、ツヨシくんとネネちゃんに言った。ツヨシくんは、それを聞いて立ち止まった。

ツヨシくん:うん。コメットさん☆、パラソルの穴掘ってもらうの?。

 ツヨシくんは、持っていたグランドシートと、バケツを砂の上に降ろしながらコメットさん☆にたずねた。

コメットさん☆:うん…。えーと、あ、監視台にケースケがいる…。ケースケに掘ってもらお。

ツヨシくん:…う、うん。

ネネちゃん:あ、ほんとだ。ケースケ兄ちゃんだー。ケースケ兄ちゃーん…。

 ネネちゃんは、ケースケのところに走っていってしまった。コメットさん☆は、ちょっとびっくりしたような顔で、ネネちゃんを見送った。そして振り返ったとき、そこにはツヨシくんのじっと見つめる瞳があった。

ツヨシくん:…コメットさん☆、きれい…。

コメットさん☆:えっ?。

ツヨシくん:…コメットさん☆って、ほんとに日焼けしないんだね。手とか背中とか薄い肌色できれい…。

コメットさん☆:……。

 コメットさん☆は、「まただ」と思った。じんわりと心の中にしみこんでくるような、あったかい気持ち…。夏で体は暑いのに、心はじんわりと温かいような感覚…。そして、瞳にかがやきを宿すとは、ツヨシくんの目だと、まさしく思えるような瞳…。コメットさん☆は、少し恥ずかしくなって、下を向いた。

ツヨシくん:コメットさん☆、その星の柄の水着って、コメットさん☆らしいね。

コメットさん☆:…う、うん。…沙也加ママが買ってくれたんだよ…。

ツヨシくん:濃いブルーがかっこいいっ!。

コメットさん☆:そう?。うふふ…。ありがとう…。

 コメットさん☆の心が、敏感になっているのをうち消すかのように、ツヨシくんは、普段のツヨシくんらしい言葉をかける。コメットさん☆は、感じやすい心から、いつものコメットさん☆に、すっと気持ちを切り替えることができた。

ケースケ:おーす。久しぶりだな。どの辺に穴掘るんだ?。

 その時、ネネちゃんに呼ばれたケースケがやって来た。

コメットさん☆:あ…、ケースケ。…じ、じゃあ、この前あたり…。

ケースケ:よしっ。今掘るからな。…今年は暑いなー。コメット、元気だったか?。

コメットさん☆:…うん。

ケースケ:…コメットって、日焼けしてないんだな。日焼け止めしっかり塗っているんだろ?。

コメットさん☆:…うん、そんなとこ。

ケースケ:海は紫外線強いからな。日焼けだけじゃなくて、髪の毛ぱさぱさになったり、目によくなかったりするからな…。…その、気をつけろよ。…あと、家に帰っても、シャワー忘れずにな。

コメットさん☆:ありがとう…。

 ケースケは、パラソルの穴を深めに掘ると、コメットさん☆の手から無言でパラソルを受け取り、立てて開いてくれた。

ケースケ:ああ、あとでちょっと話したいことがあるから、オレヒマになるまで待っててくれよ。

コメットさん☆:…話したいこと?。うん。わかった…。待ってるね。

 コメットさん☆は、「何だろう?。珍しいな」と思いながら、ケースケを見た。ケースケもまた、その瞳にはかがやきを宿していることには違いない。が、ふと気付くと、ツヨシくんが、自分の腕をしっかりと抱きとめていることに気付いた。

コメットさん☆:つ、ツヨシくん…、どうしたの?。

ツヨシくん:…コメットさん☆、泳ごう。早く…。

コメットさん☆:…うん。…じゃあ、みんなで体操しよっ。

 コメットさん☆とツヨシくん、ネネちゃん、バケツに入ったラバボーは、水の感触を楽しんだ。低い波が体を持ち上げる。その浮かんだ感じが面白くて、コメットさん☆は歓声をあげた。ネネちゃんやツヨシくんもだ。ビーチボールを投げ合ったり、水の中でバレーをしたり、ビート板につかまって泳いでみたり、ラバボーをツヨシくんが頭の上にのせたり、わずかな時間、みんなタオルを体にかけてお昼寝したり…。思う存分コメットさん☆も、みんなも、楽しく遊んだ。

 やがて夕方になるかという頃、コメットさん☆が肩にタオルをかけ休んでいると、ようやくケースケがやって来た。ツヨシくんとネネちゃんは、まだビーチボールで遊んでいる。

ケースケ:わりい、待たせたな。もう帰るところか?。

コメットさん☆:あ、うん。…もうそろそろ帰ろうかなって思っていたとこ。

ケースケ:そうか…。今日は海にはちょうどいい日だったよな。コメット、日に焼けたか?。

コメットさん☆:ううん、焼けないよ…。

ケースケ:ふーん。コメットって、ほんとに日に焼けないようにしているんだな。…女の子って、そんなもんか…。

コメットさん☆:…うん。

ケースケ:話ってのはさ…。

コメットさん☆:あ、何?、ケースケ…。

ケースケ:…オレ、最近高校の先生と相談したんだけどさ、進学するか就職するかって話をさ…。コメットも、海って好きだろ?。

コメットさん☆:うん。好きだよ。こうやって一日遊ぶのは、とても楽しい。…それに伊豆の海もきれいだった…。…けど、進学?、就職?。

ケースケ:ああ。オレの卒業後ってこと…。今、この地球上で、海がだんだん汚れているんだ…。人間が汚すんだけど…。

コメットさん☆:そうなんだ…。それって、なんだか悲しい…。

ケースケ:…そうだよな。オレたちはそんなつもりないのにな…。ここの海岸だって、水はあまりきれいじゃない…。でも問題はそれだけじゃないんだよな。もっと地球全体の海が、汚れつつあるっていうことで。

コメットさん☆:私もそれって、本で読んだよ。

ケースケ:…それでさ、オレ海洋生態学ってのを勉強するために、進学するかもしれないんだ。

コメットさん☆:…えーと、大学に行くの?。

ケースケ:ああ…。ただまだ決まったわけじゃないし、試験に受からないとならないけどな。就職するか、進学するために試験を受けるか、ちょっとまだ決めてないんだけど…。

コメットさん☆:…ふぅん、そうなんだ。ケースケ、新しいチャレンジだねっ。

ケースケ:うん、まあ、そんなところかもな。…ところが、もし進学するとなると、三重県の大学に行くことになると思う。

コメットさん☆:…えっ、三重県?。

ケースケ:ああ。海洋生態学っていうのは、海の環境を守るために、どういうことが人間にできるのか、海の生き物の生活そのものといっしょに研究するんだ。でも、この街の近くで、そんなの研究しているところって無いんだよな…。

コメットさん☆:三重って遠いの?、ケースケ…。

ケースケ:ああ、名古屋の南のほうっていうか…。…オレ、実は海で事故が起こらないようにって考えて、ライフセーバーになったんだけど、海はそれだけじゃないんだよな。人間が水に親しんだり、そこで働いたりする海には、無数の生物がいて、それを守る生きた海があって、それでオレたち人間は、その恩恵を受けているってさ、高校の生物の先生が言っていた…。

コメットさん☆:ケースケ…。

 コメットさん☆は、最初楽しげにケースケの話を聞いていたが、三重がけっこう離れたところだということがわかると、少し心配そうな顔になった。ケースケはそれにかまわず、話を続けた。

ケースケ:海で事故に遭わないようにするのも大事だが、海そのものの環境を守ることは、結局オレたち人間にも返って来るんじゃねぇか?って、思ってさ…。

コメットさん☆:…ケースケは、また新しい夢を見つけたんだね…。

ケースケ:…いやまあ、それほどのものでもないけどな…。それにまだ2年先の話だけど。

コメットさん☆:ケースケが三重に行っちゃったら、…またなかなか会えないね…。

ケースケ:…ああ。…受験勉強しなけりゃならないから、今までよりずっと忙しくなって、バイトもしてられないかもな…。ここに顔出してもいられないかもしれない…。セーバーの大会にも、参加しにくくなるかも…。

コメットさん☆:じゅけんべんきょう?。

ケースケ:ああ、大学は試験があって、それに受からないと入れてくれないからな。…あ、コメットは学校どうするんだ?。

コメットさん☆:わ、私はもう卒業したから…。

ケースケ:へえ、コメットの国はそんなもんか?。それで留学してるってわけか…。

コメットさん☆:…う、うん。…私、今たくさん本を読んで勉強してる。この星や、星国のこと。とても面白いよ。

ケースケ:ほし…くに?。なんだいそりゃ?。

 ケースケは一瞬、プラネット王子に言われた、「この星の人間ではない」という言葉を思いだした。そして「もしかして、コメットも…」とは思ったが、コメットさん☆の、普段通りの顔をじっと見つめ、「そんなことあるわけないじゃないか」と思い直した。「きっとそういう名前なんだろう」と…。

コメットさん☆:星国は星国…だよっ。

ケースケ:ふーん、まあ、お互いがんばろうぜ。…もっとも、この進学の話は、まだ決まったわけじゃないんだ…。あまりお金も無いからな…。早いところおふくろ助けてやらないとならないかもしれないしな…。

コメットさん☆:そうなんだ…。ケースケもいろいろ大変なんだね…。夢は簡単に叶うものじゃない…。そういうことなのかな…。

ケースケ:ああ…。だからいつも前に進むしかない…ってことなんだろ。

コメットさん☆:…そうだね…。

 コメットさん☆が静かに返事を返すと、ちょうどツヨシくんがやや離れた波打ち際から、コメットさん☆に声をかけた。

ツヨシくん:コメットさーん☆、もうそろそろ帰ろうよー。くたびれてきたよー。

ネネちゃん:コメットさん☆、私もー。

ケースケ:ほーら、あいつらが呼んでいるぞ。

コメットさん☆:うん。…ツヨシくーん、上がってきてー。ネネちゃんもー。

 コメットさん☆は、ケースケに返事を返すと、立ち上がってツヨシくんとネネちゃんに答えた。ケースケは、何気なくコメットさん☆の白く美しい背中のあたりを見た。そして、ちょっとどぎまぎした。一度はあわてて視線をそらしたが、再びそっとコメットさん☆の背中を見たとき、水着の跡が全くないことに気付いた。それは、なんとなくケースケの心に、引っかかりを感じさせた。

 ケースケは進学するのだろうか?。それとも就職するのか。新しい夢の前に、今までの夢はもうその先が無くなってしまうのか?。いや、ケースケは、今までの夢さえも捨てなければならないのか。ケースケの話を聞いていたコメットさん☆の心に、少し心配の種がまかれてしまった。ケースケの未来は、いったい?…。

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★第162話:花火大会の夜<前編>−−(2004年8月上旬放送)

 8月も半ばになると、鎌倉の海でも花火大会がある。毎年コメットさん☆は、楽しみにしているのだ。星国にも花火はあるけれど、あまりたくさん人が集まって、たくさん打ち上げるという習慣はないのだ。今年はそう言えば、前島さんが、新しい浴衣を作ってプレゼントしてくれるという。雑誌のデザイン記事で、浴衣の特集を組んだから、その時の生地が残っているのだそうだ。

前島さん:コメットさん☆にさあ、着せてみたかったんだよね。コメットさん☆、スタイルいいから、何でも似合いそうだし…。

コメットさん☆:…そうでしょうか。なんだかちょっと恥ずかしいです…。

前島さん:どうしてぇ?。コメットさん☆って、いつもかわいい妹みたいなイメージだから…。

コメットさん☆:わ…、私よりメテオさんとかのほうが…。

前島さん:ああ、メテオさんね。あの子もコメットさん☆と同じようにほっそりしていて、ステージ慣れしていそうだから、モデルにいいけど…。でもやっぱりコメットさん☆に…。何て言っても、鹿島さんと巡り合わせてくれたのは、コメットさん☆、あなただもの…。

コメットさん☆:そんな、わ、私は…。あの…。

前島さん:いいのよ。割と簡単に縫えるし…。ちょっと私も、自分で作った浴衣、着てみたいし、コメットさん☆に着せてみたいから。その代わり、時々モデル助けてもらいたいな…。

コメットさん☆:…そ、それは、私でよかったら…。いつでも…、いいですけど…。前は急にキャンセルしちゃってごめんなさい…。

前島さん:あ、もういいんだよ。でも今度頼むときは…、その時はお願いね。…あ、そうだ…、ネネちゃんとツヨシくんにも浴衣作ってあげるね。ちょうどいい生地があるんだ。

コメットさん☆:ええーっ…。な、何枚作るんですか…。

前島さん:ふふっ、数こなすのも練習のうちだもの。

 前島さんは、そう言ってウインクした。

 そんないきさつがあって、コメットさん☆は浴衣が出来上がるのを楽しみにしていた。メテオさんも、幸治郎さんと留子さんに、新しい浴衣を買ってもらったという。今年のコメットさん☆は、プラネット王子、ブリザーノさん、ミラ、カロンといっしょに花火を見に行くことになった。もちろんツヨシくん、ネネちゃんもいっしょで。一度藤吉家に集合して、星のトンネルを使って、由比ヶ浜の沙也加ママの店「HONNO KIMOCHI YA」に行き、そこの屋上から花火を眺めようというプランである。メテオさんは、幸治郎さん、留子さんといっしょに行くという。

 一方、ケースケは、自室に寝ころんで「あの日のこと」をぼうっと考えていた。

(コメットさん☆:ケースケが三重に行っちゃったら、…またなかなか会えないね…。)

 その言葉が、耳の奥に残っている。人の気持ちが、まだまだよくわかるとまでは言い難いケースケでも、それが何を意味しているかは理解していた。しばらくじっと、天井を見ながら、考え込んでいたケースケだったが、寝返りをうつように横を向くと、独り言をつぶやいた。

ケースケ:今考えても、仕方ない…か…。

 しかしケースケはふと、コメットさん☆の肌の白さがまた気になった。きれいだから…というのではなく、これだけ暑い夏に、たびたび海で見かけ、相当日に当たっているはずなのに、水着のあとすらつかないコメットさん☆。本人は日焼け止めをつけているからというようなことを言っていたが…と、ケースケは思ってはみたものの、なんとなく再び疑問が頭をもたげてきてしまう。

ケースケ:いったいあれは、日焼け止めの効果なんだろうか…。しかし…、まさかプラネットが言うように、宇宙人ってことはあるまいし…。…そんなことあるわけないだろが!…。オレも何考えているんだか…。…そういう体質なのか?…。

 そうは言ってみたものの、ケースケは、かつて子どものころ、父が買ってくれた、子ども向けSF小説の筋書きを思いだしていた。

ケースケ:…あれは、たしか…、別の次元からやって来た人が、ごく普通の家に知らず知らずのうちに住み着いて、いろいろなことを体験するような話…だったかな?。オレも細かい記憶がないが…。その別次元は、人の思ったことが、そのまま形になる世界…。確かそういう話だった…。題名は…、えーと…、そうだ…『プラスチックの木』(※下)。…コメットが、もう一つの世界からやって来た、別の人類だとすれば…、成長が遅かったり、日焼けしないのも、まあ説明がつく…。いや、それだけじゃない。オレがオーストラリア・ケアンズで、船の甲板を掃除していたとき、コメットは間違いなくあの場にあらわれた…。あれは、見間違いなんかじゃない…はずだ…。もしも、違う世界の人間だったら…。それすらも…。

 ケースケの考えは、どんどんと普段のケースケらしからぬ方向へ膨らんでいく。ケースケは、むっくりと起きあがり、押入の奥にある、子どものころ読んだ本を探しはじめた。そんなことをしたからと言って、ケースケの疑問は晴れるわけではなかったが、ふと読み返してみたくなったのだ。

ケースケ:…たしか、あれはおふくろのところじゃなくて、オレが子どものころのおやじの写真とかといっしょにあったはず…。くそっ、見つからないか?。…あ!、あったぞこれだ!。

 ガツン!。…ケースケは押入の奥を、四つん這いで探していて、『プラスチックの木』という、その本を見つけたとたん、立ち上がろうとして、押入の天井に頭をぶつけた。

ケースケ:あ…、…いってぇー。もろ押入の梁の角にぶっつけちまった…。うー、いてぇ…。

 ケースケは、頭を押さえながら、古ぼけたその本のほこりを手で払った。すすけたような色と、角がぼろぼろになっている本を、もどかしそうに開く。ぱらぱらとページをめくるケースケ。そしてその本の71ページを見て、はっとした。本に書いてある字面を追うと…。

それから、しずかにいいました。

「もうそんなウソはやめにしよう」

ふたりははっとして、おにいさんの顔をみました。

ウソってなにをさしていっているのでしょう。

………

「地球はいい、きみたちもいて、いい」

おにいさんはぽつりといいました。そして目をほそくして、前の道路をいききする自動車をたのしそうにみているのです。

いまさら、おにいさんに、あなたは敵か、味方なのかときくのもおかしい。

でも、そうです、ではいったいなんのために、やってきたのでしょう。それに、地球にはたくさんの人がいるのに、この町の、この団地のそばの、このぼくたち、ふたりのところになぜちかづいてきたのでしょう。

………

「ぼくはこの地球にきて、マシンではない人間が、いろいろのことをしているのがそれはすばらしいとおもったんだ。ぼくがここへきた目的は、ぼくが人間らしいくらしをもういっぺんしてみたかったのと、きみたちにそのことをわすれないでもらいたいとおもったからさ。まだまだ、地球にはすばらしいものがたくさんある。なくなろうとしているものも、それはもちろんある。」

 ケースケは、本の何ページかを拾い読みして、それからため息をついて、本を閉じた。そして座り込んだまま、前を向いてゆっくりと本をそばの机に置いた。だが次の瞬間、ケースケは声をあげていた。そしてまた考えた。

ケースケ:…バカな!。荒唐無稽だ、そんなこと…。何を考えているんだオレは…。そんなことがあるわけないじゃないか!。現にコメットは、普通の女の子だ。そうじゃなかったら、師匠の家にいるわけがない…。……まてよ…、そんなことはあり得ないとしても、コメットって、どこら辺から、どういう目的で留学してきたのか、留学期間はいつまでかとか…、詳しく聞いたこと無いな…。

 コメットさん☆が普通の女の子であるということに、安定を見出しかけたケースケは、今度は、コメットさん☆のことを知っているようで、まるで知らないという事実に愕然とした。

ケースケ:ツヨシやネネのほうが、よっぽどコメットを知っているって…。

 ケースケは、また寝ころぶと、薄暗い天井をぼうっと見つめた。

 

 夕方になって、まず鹿島さんと前島さんがやって来た。約束通り、コメットさん☆とツヨシくん、ネネちゃんの浴衣を持って。もちろん今日は鹿島さんも前島さんも浴衣姿だ。前島さんは紺にピンクとグリーンのなでしこ模様、鹿島さんは伝統的な柄模様。

鹿島さん:こんばんはー、って言うにはまだ少し早いですかねえ。

前島さん:こんばんは。コメットさん☆、ツヨシくん、ネネちゃんいる?。

沙也加ママさん:あら、お二人さんいらっしゃい。わあ、前島さんきれいねー。鹿島さんりりしくて素敵よ。相変わらず仲よさそうねー。うふふふ…。あ、今日のために前島さん、うちの子たちに浴衣縫って下さったって…。ありがとう。忙しいのにごめんなさいね。どうぞ上がってください。

前島さん:あ、いいえ。いいんですよ。その代わり、コメットさん☆にはモデルに困ったら助けてねって、約束しましたから。あはははは…。おじゃまします。

沙也加ママさん:あらそうなの?。うふふふ…、コメットさん☆は恥ずかしがり屋さんだから、あまり大胆なのはダメかもよ。うふふふ…。

前島さん:そうなんですか?、じゃ来年のティーンズ向け水着モデルなんて、ダメかなぁ…。

沙也加ママさん:さあ?…、ふふふっ…、本人に聞いてみて。…あ、ところで鹿島さん、最近工房での制作はどう?。

鹿島さん:調子いいですよ。ただこのところ台風続きなので、材料がたくさん流れ着く反面、危険でなかなか取りに海岸に降りられないっていうのが、困っていますね…。あははは…。まあ、自然が相手だから…、仕方ないですよ。

 その時、2階の部屋で遊んでいたコメットさん☆と、ツヨシくん、ネネちゃんが下りてきた。ちょうど話をしながらリビングに上がってきた前島さんと鹿島さんと鉢合わせだ。

コメットさん☆:あ、優衣さんこんばんは…。

ツヨシくん:あー、優衣さんだー。ぼくの浴衣ある?。

ネネちゃん:優衣さん、私のもー?。

前島さん:あら、コメットさん☆、それにツヨシくんとネネちゃん、こんばんは。ちゃーんと用意してきたよ。今見せるね。

 前島さんは、リビングの床に、肩から下げていた大きな袋を降ろすと、みんなの浴衣を出した。コメットさん☆には、藍地にさくらの花びら模様、ネネちゃんもお揃い。ツヨシくんには大人っぽい紺色の、六角形のような柄模様…。

ネネちゃん:わあー、コメットさん☆とお揃いだー!。

コメットさん☆:わはっ!、さくらの模様…。きれい。

ツヨシくん:うわー、目がぎろぎろしそうな模様ー!。すげー。

前島さん:どうかな?。さっそく着てみる?。

コメットさん☆:はいっ。…でも、一人じゃ着られない…。

ネネちゃん:私も早く着たいけど…、コメットさん☆と同じ…。

ツヨシくん:ぼくも…。

前島さん:大丈夫だよ。ちゃんと教えるからさ。せっかくだからだいたいの流れを覚えよう。

 前島さんは、ちょうどキッチンから出てきた景太朗パパさんと、話をしている鹿島さんを置いて、まずツヨシくんとネネちゃんに浴衣を、沙也加ママさんといっしょになって、二人の部屋で着せた。続いてコメットさん☆にも、コメットさん☆の部屋に上がって…。そうしてお披露目…。

ネネちゃん:わーい、コメットさん☆とお揃いだよー。パパー。

景太朗パパさん:おっ、きれいだなぁー、ネネ。コメットさん☆とお揃いかぁ。どれ、コメットさん☆は?。

コメットさん☆:えと…、柄がとってもきれいですね、これ…。沙也加ママ、景太朗パパ、どうですか?。

沙也加ママさん:あら、わー、きれいねー。コメットさん☆、素敵よ。帯がピンク色なのね。花の柄と合っていて、さすがは前島さんね。

景太朗パパさん:うん。きれいだ。いいね。やっぱり夏は、こういう着物もいいものだね…。ママ、ぼくらもそろそろ…。

沙也加ママさん:…そうね。じゃあ、パパ先に着替える?。

景太朗パパさん:…いいかな?。じゃあちょっと失礼して着替えてくるね。

ツヨシくん:どう?、ぼくの浴衣。かっこいい?。

コメットさん☆:うん。ツヨシくん、大人っぽいね…。かっこいいよ。柄もそろってきれいだね…。

ツヨシくん:わぁい!。帯がちょっと苦しいけど…。

前島さん:苦しいかな?。しばらくすると少し楽になると思うけど…、あんまり苦しかったら言ってね。

沙也加ママさん:ツヨシもだんだん、男っぽく見えるようにはなったわねー。ふふふふ…。パパに似てきたかなぁ…。

コメットさん☆:優衣さんありがとうございます…。とてもうれしい…。いいんですか?、いただいちゃって…。

前島さん:ああ、いいのよー、コメットさん☆。私も縫ってみたかったんだ。仕事以外でね…。ふふふ…。

ネネちゃん:優衣さんありがとう…。コメットさん☆とお揃いでかわいいから、この浴衣大好きになっちゃった。

前島さん:そう?。よろこんでくれてありがとうね。コメットさん☆とネネちゃんは、姉妹みたいだから、ペアも悪くないかなって思ってさ。

ツヨシくん:ぼくのもかっこいいね。優衣さんありがとうー。

前島さん:さすがに、ツヨシくんまでさくらの花柄っていうわけには行かないから、ツヨシくんは少し大人っぽくしてみたんだ。

ツヨシくん:ぼく、お揃いでもよかったよ。

前島さん:えーっ!。ツ、ツヨシくんちょっとそれは…。あははははは…。でもおかげで練習になったよー。みんなありがとうね。けっこうきっちりまっすぐに縫うところが多いからさ、いつもと違った練習になるんだよね。あー、でもコメットさん☆とネネちゃんとツヨシくん、そのままモデルになって欲しいような感じだなー。

 前島さんは、ツヨシくんの「意外」な言葉に驚き、そして大笑いしながらも、真新しい、仕立ての上手な浴衣に喜ぶ3人を見て、うれしく思っていた。やがて夫である鹿島さんとの間に、子どもが生まれるなら、こんな家族がいいなぁ…と、心の奥では思いながら…。

 ケースケは、本を見ながら浴衣を着ようとしていた。青木さんを始めとするセーバー仲間たちが、花火を見てから食事をしようぜと、誘ってくれたのだ。普通の格好でもいいけれど、どうせなら、浴衣なんて着てみたい。明日は学校もバイトもないから、ちょっとした骨休めができる…。そんな感じの夜だった。浴衣を着るのには、少々苦労したが、去年も着たことがあるので、上前を重ね、腰に帯を巻きながら、つぶやいた。

ケースケ:角帯は…神田結びにするか…。

 ケースケの浴衣は、割と一般的な縞柄である。

ケースケ:…コメット、来るかな…。

 ふとケースケは、コメットさん☆のことを、なんとなく気にした…。

次回に続く)

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※原著作者転載許諾済み 『プラスチックの木』(国土社刊)(C)1981 Yoshiko Kohyama all rights reserved.


★第163話:花火大会の夜<後編>−−(2004年8月中旬放送)

前回からの続き)

 そのころ藤吉家では、楽しく鹿島さんや前島さんと、リビングでおしゃべりをするコメットさん☆のティンクルホンが鳴った。

コメットさん☆:…あ、すみません、電話に出ますね。

前島さん:あら、変わった携帯持っているのね。

コメットさん☆:え…、ええ。あははっ。

前島さん:最近の携帯って、みんな個性ないよねー。

鹿島さん:あー、ぼくもそう思うなぁ。思わず欲しくなるみたいなのって、ないんだよねー。

 最近の没個性的な携帯電話のデザインに話が移る、前島さんや鹿島さんから少し離れて、コメットさん☆はティンクルホンに出た。電話をしてきたのは、プラネット王子だった。

プラネット王子:…あ、コメット?。…今から、そっちに行ってもいいかな?。

コメットさん☆:プラネット王子ですか?。こんばんは。…うん。今沙也加ママのお友だちで、私も知っている人が来ているけど…。

プラネット王子:あ、いいよ。江ノ電で行こうと思っているから…。

コメットさん☆:え?、江ノ電たぶん今日は満員だよ?。それにここまで歩いてきたら…、汗かいちゃうよ?。

プラネット王子:…だけど、今星のトンネルで行ったら、その…、コメットの知っている人に見られてしまうかもしれないだろ?。

コメットさん☆:…うーん、大丈夫。私さっきからずっとおしゃべりしているし、ウッドデッキのところからそっと玄関に回れば…。

プラネット王子:…そうか。じゃあまあ、星のトンネルで行くかなぁ。ブリザーノ伯父さんと、ミラとカロンもいっしょに行くよ。ミラは…、ちょっと驚きだぞ…。

コメットさん☆:ええ?、何が驚きなの?。

プラネット王子:…まあ、見ればわかるよ…。じゃ、今から行く。

コメットさん☆:うん。わかった。気をつけて…。

 コメットさん☆はティンクルホンを切ると、窓の外を見た。ウッドデッキの右端に、おそらくプラネット王子たちはやってくるはず。それなら、リビングの中を見ている限り、鹿島さんや前島さんの視界には、星のトンネルから出てきたプラネット王子たちは見えないはずだ。コメットさん☆はそれを確かめると、急いでリビングのいすのところに戻った。

前島さん:コメットさん☆、お友だち?。

コメットさん☆:はい。もう間もなく来るそうです。

鹿島さん:へえ。紹介してよ、コメットさん☆。何人くらい?。

コメットさん☆:えーと、4人ですね。私の友だちと、その…、兄妹の2人と、伯父さん…です。

前島さん:わあ4人も!?。ずいぶんたくさんの人たちで見に行くのね、今日の花火。なんかにぎやかそうだね。

コメットさん☆:はい。

 コメットさん☆は、にっこり笑った。その時ツヨシくんと、自分たちの部屋で遊びながら、出かけるのを待っていたネネちゃんが、やって来て言った。

ネネちゃん:…ねえ、優衣さん、浴衣って、お手洗いに行くときどうするんだっけ…?。私お手洗いに行きたくなっちゃった…。

前島さん:あ、ごめんごめん。教えてなかったね。じゃあ、今私が教えるね。簡単だよー。ちょっと鹿島さん行って来るわ。

鹿島さん:ああ。行っておいで。

前島さん:ネネちゃん、トイレはどっちかな?…。

 前島さんは席を立ち、ネネちゃんを連れて廊下を回ってトイレのほうに向かっていった。コメットさん☆は、それを目で追うと、鹿島さんに尋ねた。

コメットさん☆:鹿島さん、優衣さんとは、普段名前で呼ぶんですか?。

鹿島さん:んふふふふ…。そうだよ。ちょっと面白いかな?。なんかぼくたちさ、互いに違う仕事しているじゃない。そうすると、「君」とか「あなた」とか、言うのも言われるのも、なんか似合わないなぁって、思ってさ。それで互いに名前で呼び合うことにしたんだよ。お互い家族だし、大事なパートナーだからさ…。

コメットさん☆:わあ、なんかいいなぁー。「パートナー」…って。いいなぁ…。名前で呼び合うなんて…。

鹿島さん:コメットさん☆のお父さんとお母さんはどう?。なんて呼ぶの?。

コメットさん☆:…え、えーと…。

 コメットさん☆は、一瞬答えに詰まった。まさか、「あなた」と「王妃」とか呼んでます…とは、言えないと思ったからだ。…と、その時、ウッドデッキの低いわずかな階段を降りる足音が聞こえた。コメットさん☆は、プラネット王子たちがやって来たことに気付いた。

コメットさん☆:あ、…もしかすると…、もう来たのかな?。

鹿島さん:ん?、お友だちたちが来たのかな?。

コメットさん☆:はい、たぶん…。

 コメットさん☆は、鹿島さんの質問に答えないですんだことに、少し申し訳ない気持ちになりながらも、ちょっとほっとした。程なく藤吉家の玄関の引き戸が開く音がした。

プラネット王子:こんばんは〜。おじゃましまーす。

ブリザーノさん:こんばんは。藤吉さん、橋田です。

ミラ:こんばんは。コメットさま、いらっしゃいますか。

カロン:こんばんは…。

 コメットさん☆は、急いでリビングから、玄関に出ていった。景太朗パパさんと、沙也加ママさんはキッチンでなにやら用意をしていて、プラネット王子たちの応接は、コメットさん☆にまかせた。コメットさん☆は、みんなの姿を見て驚いた。

コメットさん☆:こんばんは…。あーっ…。…お、王子、それにカロンくん、ブリザーノさんも…。

プラネット王子:…いやあ、ちょっと恥ずかしいんだけど、男はみんなお揃いってことで…。

コメットさん☆:み、ミラさん…。これって…。

ミラ:…はい。私が、…その、全部縫いました。服のこと、いろいろやってみるのが面白くて…。

コメットさん☆:ミラさん、すごいね…。上手…。

 なんとプラネット王子、ブリザーノさん、カロンの3人は、お揃いの太めの縞柄、ミラは、藍染めのモノトーン朝顔柄浴衣に、身を包んでいたのだ。しかも、それらは全部ミラの手作りだと言う。ミラは、コメットさん☆のコンテスト用ウエディングドレスを作ってからも、ずっと服飾の勉強を続けているのだ。

プラネット王子:ミラは、骨董市でさ、この柄の反物をたくさん買っていたんだよ。何にするのかと思っていたら…。

ブリザーノさん:はっはっは…。私がこの地球に来てから、骨董市にはよく行くんですよ。最初は古いカメラなんぞを探してね。コメットさま、そうしたらミラもいっしょに行くようになって…、こういうことです。

コメットさん☆:こっとういち?…。それって、ふるーいものをたくさん売っている露店ですか?。

ブリザーノさん:そうです、コメット王女さま。よく鎌倉市内にもありますですな、そうした店が。

コメットさん☆:へえー、こんな布地も売っているんですね…。あ、忘れてた…、どうぞ上がってください。

プラネット王子:それじゃあ、おじゃまします。

ブリザーノさん:私もおじゃまします。

ミラ:おじゃまします、コメットさま。

カロン:おじゃまします…。

 コメットさん☆は、4人をリビングに案内した。4人とも来慣れたリビングではあるのだが…。そこで鹿島さんが待っていた。ネネちゃんをトイレに連れていってる前島さんは、まだ戻っていない。

コメットさん☆:こちら、沙也加ママの店に、流木アートを並べてくれている鹿島さん。有名な流木アートを作る人。鹿島さん、こちらは端から、私の…、えーと、お友だちの留学生プラネットさん、プラネットさんの伯父さんのブリザーノさん、えーと、ミラさんとカロンくん…。

鹿島さん:いやー、有名ってほどじゃないけれど…、よろしくお願いします。鹿島です。

 そこへちょうど、前島さんが戻ってきた。またそれと同時に、部屋の外が騒がしくなったためか、ツヨシくんが自分の部屋から顔を出し、たくさん人が集まっているのを見て、部屋を出てきた。

ブリザーノさん:こちらこそよろしく。私はこのプラネット、ミラ、カロンといっしょに暮らしております、伯父のブリザーノと申します。藤沢市に住んでおります。

前島さん:あら、はじめまして。ブリザーノさんも日本語、お上手ですね。お仕事はどんな?。

ブリザーノさん:あはは、ちょっと古風な写真館をやっております。ちょっと遠いですが、ご家族のお写真でもいかがですか?。ははははは…。

鹿島さん:写真館ですかー。それはいいなぁ…。作品展を開くことがあったら、ぜひお願いしようかなぁ…。ねえ、前島さん。

前島さん:そうねー。いいわねえー。

ツヨシくん:コメットさん☆、みんな来たの?。

コメットさん☆:あ、ツヨシくん。うん、いまちょうどそろったところ。もうすぐお出かけだね。

ツヨシくん:うん。ぼく楽しみ。

ネネちゃん:私もー。…トイレいってきたぁ。浴衣でトイレって、前ーに教わった気がするけど、晴れ着と大体同じで、大丈夫だったよ。

コメットさん☆:そう。私も前に教わったよ、沙也加ママから。すそを帯にはさむんだよね。

 そこへキッチンで用意をしていた沙也加ママさんが出てきた。

沙也加ママさん:あら、みなさんこんにちは。ごめんなさいね、ちょっと奥で用意をしていたので…。ブリザーノさん、プラネットさん、ミラさんにカロンくん、こんばんは。今晩はよろしくお願いします。

ブリザーノさん:いやどうも。いつもおじゃまして申し訳ありません。こちらこそよろしくお願いいたします。藤吉さんは、今日は?。

沙也加ママさん:ああ、うちの藤吉は、今鹿島さんと前島さんを送るための車を用意してます。私たちは、あとから参りましょう。

ブリザーノさん:…あっ、わかりました。そういうことですね。

沙也加ママさん:はい…。コメットさん☆、お願いね。

コメットさん☆:はい。沙也加ママ。

 沙也加ママさんは、ウインクでコメットさん☆に合図を送った。星ビト全員と、沙也加ママさん、ツヨシくん、ネネちゃんは、車には乗りきれないから、コメットさん☆の星のトンネルで移動するのだ。沙也加ママさんが、星のトンネルを通るのは、はじめてとなる。

 景太朗パパさんは、門の前に車をつけ、鹿島さんと前島さんを呼んで乗せ、一足先に由比ヶ浜の沙也加ママさんの店「HONNO KIMOCHI YA」に向かった。国道はひどく混雑しているので、少し遠回りをして、細い道を行く。

 一方残った8人、沙也加ママさん、コメットさん☆、ブリザーノさん、プラネット王子、ミラ、カロン、ツヨシくん、ネネちゃんは、コメットさん☆が振るバトンで開けた、「HONNO KIMOCHI YA」に向かう星のトンネルを通って、景太朗パパさんの車を追いかけた。

 

 みんなそろうと、「HONNO KIMOCHI YA」の非常階段を使って、屋上に上がった。そしてみんなが空を見上げたところで、花火大会が始まった。

 ドン・ドン、パラパラパラパラ…と、夜空に舞う花火の光。おなかに響くような音とともに、夜空を華麗に染める色とりどりの花火は、海をバックに、とても美しく映えるのであった。

沙也加ママさん:さあ、みなさん、何か食べませんか?。おなかがすきますでしょ?。パパは、鹿島さんにもお勧めして。

前島さん:あ、どうぞお構いなく…。なんだかすみません。私もお菓子焼いてきましたから、みなさんどうぞ…。

沙也加ママさん:あら、どうもありがとうね。じゃあみんなでいただきましょ。

景太朗パパさん:さ、鹿島さん、飲み物どうぞ。

鹿島さん:なんだかすみませんね。こんな特等席だけじゃなくて、飲み物や食事まで…。…ありがたくいただきます。

コメットさん☆:王子もどうぞ。ブリザーノさん、ミラさんとカロンくんもね。

プラネット王子:いただきます。コメットが作ったのか?。

コメットさん☆:ううん。今日は沙也加ママと景太朗パパだよ、作ったのは。

ツヨシくん:ぼくもいただきぃー。

ネネちゃん:私もー。

ミラ:おいしいです。すでに…いただいてます。すみません…。

コメットさん☆:ミラさんは、しっかり食べてね。カロンくんもだよ。

カロン:はい。コメットさま…。あの…、メテオさまは…。ここに来ないんですか?。

コメットさん☆:うん、毎年おうちの人と見るみたい。ほんとはここに来ればいいんだけど…。でも、近くを探せばいるかもしれないよ。そういえば、メテオさん、新しい浴衣買ってもらったって。

カロン:そうなんですか…。ぼく…探してこようかな…。

コメットさん☆:星力で探せないかな?。

 コメットさん☆は、そっとカロンの耳元でささやいた。カロンは、少し明るい顔になって、目を輝かせ答えた。

カロン:じゃあ、下に降りてやってみます。

コメットさん☆:もしいたら、呼んできて。せっかくだもの…。

カロン:はい、コメットさま。

 カロンは、階段を降りて、お店の裏口側に回っていった。そんな間にも、花火はどんどん打ち上げられていく。大きな花火の輪が、空に描かれるたび、観客からは歓声があがる。コメットさん☆は、空をじっと見上げ、星国でもこんなことをしてみたいな…と思っていた。そう考えたとき、ふとコメットさん☆は、思いついた。

コメットさん☆:ラバボー、ラバボー。

ラバボー:…な、なんだボ?、姫さま。さっきから音が大きくて怖いボ。

コメットさん☆:ラバボー、怖いの?。大丈夫だよ。別にふってきたりしないよ、花火は。…それより、この花火、スピカおばさまにも見せてあげようよ。

ラバボー:えっ?、どうやってだボ?。

コメットさん☆:星力使って、おばさまのところに窓を開けてあげよ。

ラバボー:前に姫さまが、八ヶ岳で見たときのようにかボ?。

コメットさん☆:うん。

ラバボー:それはいい考えだボ。…でも、今はボーは手伝えないボ。

コメットさん☆:あ、そうか…。どうしよう…。…待って、いいこと思いついた…かも。

 コメットさん☆は、そっとミラに近づき、わけを話して、星力を分けてもらうことにした。かつてミラに分けてあげたことのある星力…。故郷の星国は違っていても、同じに使えるはず。コメットさん☆が、星力を使うために下に降りようとすると、プラネット王子も、バトンを出して、黙って差し出した。

コメットさん☆:プラネット王子…。

プラネット王子:何か使いたいんだろう?、星力…。オレのを持っていきなよ。…そうだ、ツヨシくん、君が使え。

ツヨシくん:えっ?。プラネット兄ちゃん…。

プラネット王子:君がオレの代わりに、コメットのために星力を使うんだ。…できるだろ?。

ツヨシくん:うん。

 ツヨシくんは、プラネット王子の差し出したバトンを受け取ると、こっくりと頷いた。そうしてコメットさん☆、ミラ、ツヨシくんの3人は、お店の裏手に回ると、バトンをかざし、星力を使って、この花火大会を画像として映すことのできるスクリーンを作り、それをピンク色の光の玉にした。

コメットさん☆:この花火のかがやきよ、スピカおばさまのところに飛んでいってー。

 コメットさん☆がバトンを振ると、ピンク色の光の玉は、星のトンネルに入り、速い速度で遙か彼方の八ヶ岳に飛んでいった。

 八ヶ岳山麓のスピカさんのペンションでは、夕食の忙しい時間が過ぎ、ようやく片づけをしているところだった。スピカさんは、ふと窓の外を見た。

スピカさん:あらっ?、何かしら…。

 スピカさんの視界に、ピンク色の光の玉が走り、それは裏庭のほうへ飛んでいった。スピカさんはもしやと思い、手を止め、戸口から庭に出て、その光の玉を追った。

スピカさん:もしかして、コメットかなぁ?。

 スピカさんが裏庭に着いたとき、光の玉は目の前ではじけ、大きなスクリーンのようになった。そしてそこには、鎌倉の花火が映し出された。まるでメモリーボールのように、鎌倉の空を彩る花火を、八ヶ岳のスピカさんの前に映し出す。

スピカさん:まあっ…。…ありがとう、コメット。わざわざ見せてくれるのね…。あなたのこんなやさしい気持ちが、いつか意味を持つときが、必ず来るわ…。

 スピカさんは、しばらく花火の美しさを見つめ、かつて地球にすんだころのことを、懐かしく思いだしていた…。

コメットさん☆:さっ、これでスピカおばさまのところに、きっと届いたよ。ミラさん、ツヨシくん、ありがとう…。…プラネット王子にも、お礼を言わなきゃ…。

ミラ:いいえ、コメットさま、私たちの星力でよければ、いつでも使ってください。コメットさまのおかげで…。

コメットさん☆:…私の?。私がどうかしたの?。

ミラ:……。

 ミラはそれには答えなかった。代わりにラバボーが…。

ラバボー:姫さま、姫さま、ほんわかかがやき感じるボ。ミラさんは恋をしているんだボ…。でも、今はまだ小さなかがやきだボ。

コメットさん☆:えっ、そうなんだ。

 コメットさん☆は、ミラに聞こえないように、そっとラバボーにささやいた。ミラが恋する人とは、いったい誰だろう?。コメットさん☆はそれでも、なんだか自分のことのようにうれしい気持ちになっていた。そしてコメットさん☆は、また花火のほうに向き直った。すると、十メートルほど先に、カロンがいて、誰かと話をしているのが見えた。

コメットさん☆:あれ、カロンくん…。メテオさんを見つけたのかな?…。…でも、あれは違う人だなぁ…。

カロン:みちる…ちゃん。…かわいいね。

みちるちゃん:…カロン…くん。ありがとう…。

ラバボー:姫さま、あれはみちるちゃんだボ。あのバトン教室の。

コメットさん☆:ああ、あのみちるちゃんかぁ。やっぱりかわいい浴衣着ているよ。

ミラ:カロンったら…。みちるちゃんのこと…。

ラバボー:やっぱり、みちるちゃんとカロンくんとの間にも、ほんわかかがやき感じるボ。

コメットさん☆:…そ、そうなんだ…。カロンくん、メテオさんが大好きなんだと思ってた…。

ミラ:…コメットさま、きのうまでは…、そのはずでしたが…、カロン…。

コメットさん☆:ええっ?…。

 そんな話を、ちらちらと聞いていたツヨシくんは、いつしかコメットさん☆の背中に、きゅっと抱きついていた。少しびっくりしたコメットさん☆は、後ろを振り返って、ツヨシくんのことをじっと見た。

コメットさん☆:…ツヨシくん、暑いよ…。

ツヨシくん:コメットさん☆…。

 ツヨシくんの瞳には、花火の光が映っては消える。それでも澄んだ瞳で、自分をじいっと見つめる目に、コメットさん☆は、ツヨシくんの心をしっかりと感じていた。

 

 新しい浴衣で上機嫌のメテオさんは、幸治郎さんからカメラを向けられていた。

メテオさん:新しい浴衣で、気持ちがいいわったらいいわ。…でも、けっこう浴衣って、暑いのよね…。

ムーク:そう聞きますなー。もとは湯上がりに着る着物ですからー。湯冷めしないようにっていう意味も、あるんでしょうなぁー。

メテオさん:ムークったら、なんでそんなことに詳しいのよ。着てみたことあるの?。

ムーク:…もちろん!、…ありませんが?。

メテオさん:…あ、あのねー!。

幸治郎さん:はーい、メテオちゃん、こっち向いてー。花火があがったら撮るよー。

メテオさん:あ、はーい。

留子さん:メテオちゃん、とってもかわいいわ。なんでも似合うわねー。

 メテオさんは、まんざらでもない様子で、にこっと笑った。

青木さん:ケースケ、セーバーはやっぱ、世界に飛び出さねぇとなー。

ケースケ:青木さん、酔っぱらっているんですか?。…って、コーラじゃないですか、それ。

青木さん:そうだよ。コーラで酔っぱらうのがはやっているんだよ、ケースケ。知らねーのか?。

ケースケ:知りませんよ、そんなの。青木さんでしょ、はやっていることにしているの。

青木さん:そうだよ。ばれたか、なーんてな。冗談だよ。んなわけあるはずないだろ?。あっはっはっはっは…。

ケースケ:やれやれ、青木さん、もう少しマジな話をしてくださいよ。

 ケースケは、青木さんのおふざけにつきあいながら、花火がよく見える場所を探していた。それで由比ヶ浜沿いの道を歩いてきて、ふと「HONNO KIMOCHI YA」の前で、コメットさん☆の姿を見つけた。コメットさん☆は、ツヨシくんと、ミラといっしょに、お店の裏側から階段を上がろうとしているところだった。

ケースケ:コメット…。

 ケースケは、後ろであがる花火に照らされながら、コメットさん☆の後ろ姿を見て、なんだか言いようのない気持ちになった。…そして、次の瞬間には思っていた。「…いっしょに見たかったかもな、花火」と。

 花火大会の夜。たくさんあがる花火は、観客をみな酔わせるかのようだ。しかし、それぞれの心には、それぞれの想いがある。みんな人を想い、そして想われているはず…。みんなの想いを連れるようにして、今年も夏はいく。コメットさん☆とツヨシくんの、カラコロという下駄の音は、「HONNO KIMOCHI YA」の屋上に響く…。

(このシリーズ終わり)
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★第164話:万里香ちゃんの友だち−−(2004年8月下旬放送)

 今年は夏の間何度も台風が日本列島に接近して、鎌倉の海も波立っていることが多かった。七里ヶ浜のサーファーたちには、人気の波のようであったが、コメットさん☆やツヨシくん、ネネちゃんにしてみれば、波が荒くて泳げないことが多く、みんながっかり…ということである。そこで、鎌倉海浜公園にある「海浜プール」に出かけ、みんなで泳いでくる時も、何度かあった。それにはメテオさんを誘ったことも。

 そんなある日、相変わらず暑さの厳しい中、コメットさん☆は天気予報を見て、それから庭のウッドデッキから、海を見た。

コメットさん☆:…やっぱり波荒いなぁ…。天気予報でも、神奈川県は波3メートルって言っていた…。

ラバボー:今日は海水浴無理だボ。

コメットさん☆:…うん。だめそうだね…。残念…。

 そこへツヨシくんとネネちゃんがやって来た。

ツヨシくん:コメットさん☆、今日も海水浴ダメ?。

コメットさん☆:うん。あんなに波が立っているよ…。ああいう小さい白い波がたくさん見えるときは、ちょっと危なくて泳げないよって、景太朗パパが言ってた。

ネネちゃん:夏休み後半は、もう学校のプールないんだー。

ツヨシくん:つまんないな…。今日こんなに暑いのに…。あー、暑いよー。

ネネちゃん:ツヨシくん暑いって言わないの!。よけいに暑くなるよっ。

コメットさん☆:あはっ、ネネちゃん、お姉ちゃんみたいだね。

ネネちゃん:だって暑いんだもん…。あ…。

ツヨシくん:ほーら、ネネだって暑いんじゃんかー。

コメットさん☆:…二人とも…。…どうしようかなあ…。私だって…暑い…。あ、そうだ。じゃあ、沙也加ママのお店のそばにある、プールに行かない?。

ネネちゃん:あっ、海浜プール?。

ツヨシくん:わぁい、プールっ!。

コメットさん☆:うん。今日は平日だから、あんまり混んでないんじゃないかな?。景太朗パパに聞いてみて、いいって言ったら行こ。あと、沙也加ママにも電話してね。

ネネちゃん:うん。じゃあ、パパに聞いてくる。

ツヨシくん:ぼくはママに電話するね。

コメットさん☆:わあ、二人とも張り切ってる。うふっ。じゃ私少しずつ準備するね。

 コメットさん☆は、二人の下着やタオル、それにグランドシート、帽子にゴーグルといった、プールに必要な道具を、タンスや洗濯機のそばの棚から出した。海に行くのであれば、沙也加ママの店「HONNO KIMOCHI YA」に、たいていのものは置いてあるので困らないのだが、今日はプールだから、少し勝手が違う。

ネネちゃん:パパが行ってもいいよって。コメットさん☆。

ツヨシくん:ママも、パパがいいって言えばいいよって。

コメットさん☆:よかった。じゃあ、準備しているから、もう少ししたら行こうね。

ネネちゃん:私もう水着着ていこう。

ツヨシくん:ぼくも!。

コメットさん☆:わはっ、二人ともいつも下に着て行くんだね…。ふふっ…。

ツヨシくん:コメットさん☆も着て行けば?。すぐ泳げるよ。

コメットさん☆:ええっ?、だって…、なんだか…恥ずかしいもの…。

ツヨシくん:なんで?。

ネネちゃん:ツヨシくんにはわからない、年頃の乙女の思いなのよ!。

コメットさん☆:…あ、あの…、ネネちゃん…。

ツヨシくん:…じゃあ、ネネはどうして下に水着着ていくの?。

ネネちゃん:…わ、私はすぐ泳ぎたいもの。それに学校でもそうしているもん!。

 コメットさん☆はちょっと苦笑いをしながら、二人を見ていた。思えば星国の水泳の授業の時、水着をあらかじめ下には着ていかなかった。なぜなら、星力ですぐ着替えはできたから。だから、地球にやって来て、ネネちゃんが下に水着を着たまま、平気で海やプールまで出かけ、さっと上に着ているものを脱いで、体操もそこそこに水遊びをはじめるのが、とても不思議だった。コメットさん☆には、そもそも水着を下に着て出かけるという、発想そのものがないのである。

 コメットさん☆とツヨシくん、ネネちゃんは、星のトンネルを通って、一度沙也加ママのお店まで行き、コメットさん☆はそこで着替え、それから歩いてプールに向かった。沙也加ママさんの「気を付けてね」という、やさしい言葉を背で受けながら…。

 

 プールはそんなに混んではいなかったが、台風の大波で、海に行きそびれた人がみんな泳いでいた。やっぱりこう毎日暑いと、水が恋しくなるものなのだ。

コメットさん☆:わはっ、水、気持ちいいね。

ネネちゃん:海と違って、波がないから、泳ぎやすいよ。コメットさん☆、私だいぶ泳げるようになったんだよー。見ててー。

コメットさん☆:わあっ、ネネちゃんうまいうまい。

 ゴーグルをかけたネネちゃんは、すいすいと水をかいて泳ぐ。ツヨシくんはそれを見て、潜ってネネちゃんの足をわざとつかんだ。

ネネちゃん:あっ、こらー。ツヨシくんやめてよ!。

ツヨシくん:へへへ…。ネネだけじゃないもんね。ぼくだって泳げるもん。

コメットさん☆:ツヨシくん、いきなりそういういたずらしちゃだめだよ。危ないでしょ?。

ツヨシくん:…う、うん。ごめんネネ…。

 ツヨシくんは、コメットさん☆に注意されると、すぐにおとなしく謝った。コメットさん☆は、そんなツヨシくんの様子に少し微笑むと、自分でも少し水に潜って泳いでみせた。そしてプールの端まで泳ぐと、ぷはっと顔を上げた。

コメットさん☆:…ふう…。…あ、万里香…ちゃん?。

万里香ちゃん:あ、コメットさん☆。…こんにちは。

 コメットさん☆が手をついたプールの端には、万里香ちゃんがいたのだ。この間友だちになったばかりの…。

コメットさん☆:万里香ちゃんもプール?。

万里香ちゃん:うん。今日は賢司くんといっしょだよ。

コメットさん☆:わあ、賢司くんといっしょなんだ。賢司くんどこ?。

万里香ちゃん:今向こう側…。

 コメットさん☆が向こう側と指さされた側を見ると、ツヨシくんとネネちゃんが呼んでいるのが見えた。

コメットさん☆:あ、いっけない…。ツヨシくんとネネちゃんといっしょなんだ。万里香ちゃん、あっちに行かない?。

万里香ちゃん:あ、ツヨシくんと、ネネちゃんといっしょなの?。じゃあいっしょに遊ぼう。

コメットさん☆:うん、そうしようね。

 そうして向こう側まで泳いで行ったコメットさん☆と万里香ちゃんだったが、ちょうど休憩の時間になったので、ツヨシくん、ネネちゃん、とともにプールサイドに上がって、一休みすることにした。放送と監視員の人の笛が、休憩時間を告げる。賢司くんもいっしょにプールサイドに上がり、万里香ちゃんとコメットさん☆のそばに来た。

賢司くん:…あの、コメットさん☆って言うの?。ぼく、賢司…。秋山賢司…。

コメットさん☆:君が賢司くん?。万里香ちゃんのお友だちだね。

賢司くん:うん。コメットさん☆は、どこに住んでいるの?。

コメットさん☆:私はツヨシくんとネネちゃんといっしょに、稲村ヶ崎のほうだよ。

賢司くん:ふぅん…。何歳?。

コメットさん☆:万里香ちゃんとおんなじことを聞くんだね…。ふふふっ、15…歳だよ、たぶん…。

賢司くん:あははは…。たぶんって?。

コメットさん☆:え、えーと…。あはははっ…。

ツヨシくん:賢司くんは、万里香ちゃんの…恋人?。

万里香ちゃん:え?、えーと、…大事なお友だち…。

 万里香ちゃんは、ほほを染めながら、小さい声でつぶやいた。賢司くんも、少し弱気に見える表情で、もじもじしながら赤くなっている。コメットさん☆は、そんな小さなカップルの二人を見て、にこっと笑った。ツヨシくんは、少しほっとしたような表情を浮かべた。コメットさん☆は、ツヨシくんが、いつもの元気いっぱいのツヨシくんらしくないような、例えて言えば、プラネット王子のような顔をしているので、少し不思議に思った。

コメットさん☆:万里香ちゃん、この間万里香ちゃんが言っていた、ママから聞いた話のことだけど…。

万里香ちゃん:え?、コメットお姉ちゃん、それって、星の国から来た女の子の話?。

コメットさん☆:…うん。その子は、どうして星の国に帰っちゃたんだろうね?。

 コメットさん☆は、もう少し「星の国から世田谷にやって来ていた女の子」の話が、聞きたくなっていた。

万里香ちゃん:…私わからないんだー。でも、ママは「ある時いつの間にかいなくなってた」って…。

コメットさん☆:どうしてママは、その子が星の国からやって来た子だって、わかったのかな?。

万里香ちゃん:…うーん、万里香にはよくわからないけど…、ママは目の前で魔法みたいなのを、使うの見たよって言ってた。

コメットさん☆:ふぅん…。そうなんだ。じゃあ、やっぱりその子は、星使い…じゃなかった、魔法使いだったんだね。

万里香ちゃん:…うん。私、そう信じてる…。

コメットさん☆:じゃあ、コメットさん☆も、信じる。その子は、本当に別の星の国の人で、地球に何か探しに来ていたんだよ。それで、その探しているものが見つかったから、自分の星に帰って行ったんじゃないかな?。

万里香ちゃん:そうなのかなぁ…。コメットさん☆、まるで星の国の人のこと、知っているみたいー。

コメットさん☆:ええっ?、そ、そう?。私…。

 コメットさん☆が、自ら星ビトであることを、万里香ちゃんには言ってもいいな、と思ったところで、休憩時間の終わりを告げる笛が、いっせいに鳴った。

賢司くん:万里香ちゃん、行こう。休憩終わりだよ。

万里香ちゃん:うん。コメットさん☆たちもいっしょに泳ごうよ。

コメットさん☆:…あ、う、うん。じゃあ、ツヨシくん、ネネちゃん行こう。

ツヨシくん:うん。コメットさん☆、いっしょに泳ごう。

ネネちゃん:私もー。

 コメットさん☆は、万里香ちゃんに言いかけた言葉を飲み込んで、ツヨシくんとネネちゃんと手をつなぎ、プールサイドから、水の中に入る階段のところまで歩いていった。

 賢司くんに背中から抱きついて、水の中をいっしょに歩く万里香ちゃん。二人だけでフロートに乗ったり、手をつないで潜ったりと、コメットさん☆でも、ちょっとびっくりするほどの仲の良さだ。そんな様子を見て、ちょっと当てられ気味のコメットさん☆、ツヨシくん、ネネちゃんであった。

ネネちゃん:万里香ちゃんと賢司くん、アツアツ…。なんだか、私たち置いて行かれてるね…。

コメットさん☆:本当だね…。ふふふっ。…でも、かわいいカップルだね。

ツヨシくん:…コメットさん☆、ぼくたちはぼくたちで遊ぼう。これじゃ、いっしょに遊んでいるって言えないよ…。

 ツヨシくんは、そう言いながらも、コメットさん☆の手にしっかり抱きついた。コメットさん☆は、一瞬なんだろう?と思ったが、ツヨシくんが万里香ちゃんと賢司くんを意識しているのだと気付いて、そっとツヨシくんのことを見た。ツヨシくんもまた、コメットさん☆を見つめた。コメットさん☆は、ツヨシくんに微笑みかけた。ツヨシくんは、うれしそうな目を、コメットさん☆に向けた。

コメットさん☆:…そうだね、ツヨシくん…。

 

 夕方になって、万里香ちゃんと賢司くんと別れたコメットさん☆と、ツヨシくん、ネネちゃんは、プールから沙也加ママさんのお店「HONNO KIMOCHI YA」に帰る道をゆっくりと歩いていた。ツヨシくんは、コメットさん☆にふいにしがみついた。コメットさん☆は、遠くの由比ヶ浜の海岸を見ながら歩いていたので、ちょっとびっくりしてツヨシくんを見た。

コメットさん☆:ツヨシくん、どうしたの?…。

ツヨシくん:…何でもないけど…、やっぱり…、ぼく、コメットさん☆のことが好き…。

コメットさん☆:……。…そっか。…うふふ…、ありがと。

 万里香ちゃんと賢司くんの仲の良さを見て、思いを巡らせたツヨシくんの今の気持ちが、コメットさん☆には、何となくわかったような気がした。夏至の頃に比べると、だいぶ早くなった夕暮れは、少しずつ秋の気配。遠くの台風から寄せる波で、荒れ気味の由比ヶ浜には、もうあまり人はいない。水でさらさらになった三人の皮膚を、強めの風がなでていく。コメットさん☆の感じやすい心にも、すうっとさわやかな風が通る…。

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★第165話:キラッと写真館−−(2004年8月下旬放送)

 もう夏休みも終わりに近づいて、藤吉家ではツヨシくんとネネちゃんが、残っている夏休みの宿題に追われていた。

沙也加ママさん:…もうー、少しずつやっておきなさいって、言っていたでしょ。…最初のうちは、ちょこちょこやっていたから、てっきり大丈夫なんだと思っていたら…。

ツヨシくん:だってぇ…、宿題多すぎるんだもの。

ネネちゃん:なんで夏休みなのに、宿題があるのー?。

沙也加ママさん:…そうねぇ…、夏休みは、暑くて勉強が進まないから休みなわけで…。って、納得している場合じゃないわ。どのくらい残っているのよ。

ツヨシくん:ぼくは…、計算ドリルと、作文と、国語の書き取り…が少し。それに日記とか…。

ネネちゃん:私は、読書感想文と、作文。計算ドリルも。日記もあんまり書いてないし。…間に合わないよ…。

 ネネちゃんはすっかり弱気になっている。計算ドリルのページは、大半真っ白なのだ。ツヨシくんはいくらかましだが、国語の書き取り練習は、まだまだ進んでない。それに、作文が二人とも終わっていないのは、かなり時間がかかりそうで、沙也加ママさんは、ゆううつな気分になってきた。

沙也加ママさん:…しょうがないわね…。ママ手伝ってあげられないわ。今日はお店だもの…。

コメットさん☆:…あの、私が手伝っちゃだめですか?。

ツヨシくん:わあい、コメットさん☆手伝ってー。

ネネちゃん:コメットさぁん☆…。

沙也加ママさん:本来宿題って、本人がやらないと意味ないんだけど…。…ふぅ、まあしょうがないわね…。今さら言っても遅いし…。コメットさん☆、悪いけど、少し見てやってくれる?。ほんとにしょうがない二人ね…。

コメットさん☆:はい。わかるところは見るようにしますね、沙也加ママ。沙也加ママは、お店行ってきて下さい。私、できるだけ手伝ってみますから…。

沙也加ママさん:ほんとに悪いわね…、コメットさん☆。じゃあ、夕方までお願いね。私が帰ってきたら、今度は私ができるだけ見るから。…あと、パパにも頼んでおくわ。ここ2〜3日は、仕事一段落しているはずだから…。

コメットさん☆:はいっ。

ツヨシくん:わーい、強力な助っ人ぉー。

ネネちゃん:これで全部終わるかも…。

沙也加ママさん:こらーっ。二人とも、自分でやるのよ。どうしてもわからないところだけ、教えてもらいなさい。

ツヨシくん:はーい。

ネネちゃん:はーい。

沙也加ママさん:もう、こういうときだけ返事がいいんだから…。

 コメットさん☆は、そんな沙也加ママさんと、二人のやりとりを見ていて、ちょっと微笑んだ。

 沙也加ママさんが出かけてしまうと、沙也加ママさんから頼まれた景太朗パパさんも加わって、リビングのとなりの和室にみんなでこもり、ツヨシくんとネネちゃんの宿題をざっと見た。ラバボーは、コメットさん☆がバトンで人の姿に変えた。ラバボーの「数学力」を助けにしようという考えだ。そして、コメットさん☆は、ティンクルホンを取ると、メテオさんに電話をかけた。

メテオさん:…なんで、わたくしがぁー、おこちゃまの宿題を手伝わなきゃならないのよー。

コメットさん☆:メテオさん、お願い。少しでいいから手伝って。そうでないと終わらないよ…。

ツヨシくん:メテオさん、おやつにナシとぶどうとスイカがあるよ。

 ツヨシくんは、コメットさん☆のティンクルホンの横から、メテオさんに語りかけた。次いでネネちゃんも…。

ネネちゃん:メテオさん、手伝ってよー。お願いだよー。

 ネネちゃんは半べそで、メテオさんに頼む。

メテオさん:…な、ナシとぶどうとスイカって…、そんなもので…、このわたくしが…。

ネネちゃん:メテオさんー。お願いだよー。

 そう言われると、メテオさんも仕方ない。それに、ちょっと季節の果物も気になった。メテオさんは、眉間にしわを寄せながらも、困ったようなうれしそうな表情で返事を返した。

メテオさん:…き、今日だけよー。もう!。

ネネちゃん:やったー、メテオさんありがとう。

ツヨシくん:メテオさん、ありがとう。果物が待っているよ。

メテオさん:……はぁぁー。なんでおこちゃまの宿題の手伝いが、かがやき探しなのよぅ…。

 メテオさんは、とたんにうれしそうな二人の声を聞いて、ため息をついた。

 メテオさんもやって来て、4人の「援軍」となった。コメットさん☆、ラバボー、景太朗パパさん、メテオさん。この4人で、たまった宿題を片づけようというのだ。そのメテオさんが、たくさん残っている宿題を見て言った。

メテオさん:…むむーう、こんなに宿題が多いのは、この国の教育の貧困だわ!。夏休みに宿題なんて、人の道に反しているわったら、反しているわー!。

コメットさん☆:メテオさん、…お、落ち着いて。

メテオさん:こんなの落ち着いてやってられますか!。ツヨシくん、まずは書き取りをやりなさいったらやりなさい。私は、その間、ネネちゃんの計算ドリルを片づけるわ!。

ラバボー:それなら、ツヨシくんの計算ドリルは、ボーがなんとかするボ。

コメットさん☆:そうしたら…、私は日記かなぁ…。メモリーボールを再生すれば、ある程度のことはわかるから、要点をメモしてあげるよ。これはネネちゃんも使えるでしょ?。

ネネちゃん:うん。わあ、そういう方法があるんだー。

コメットさん☆:でも、ほんとうは自分で付けなきゃだめだよ。だって、そうじゃなかったら、日記の意味ないでしょ?。

ネネちゃん:…うん。

景太朗パパさん:それじゃあぼくは、インターネットで夏休み中の天気とか気温なんかの、気象情報を調べよう。毎日の日記には、それは欠かせないからね…。ふふふふ…。…それにしても、けっこう宿題の多い先生だなぁ…。ぼくら子どもの頃なんて、こんなにはなかったよ。

コメットさん☆:そうなんですか?。メテオさんは?。

メテオさん:私たち、学校で宿題なんてなかったじゃない…。あっても、自由研究みたいなのだけだったわよ。

コメットさん☆:自由研究かぁ…。あ、ツヨシくん、ネネちゃん、作文はどうするの?。

ツヨシくん:…う、うわぁ…さ、作文…。どうしよう…。何も考えてないや。

ネネちゃん:私も…。だって、『働いているお父さん、お母さんについて』なんて…。

コメットさん☆:え?、決まっているの?、書くこと…。

ツヨシくん:うん。…でも、うちはパパとママは二人とも働いているけど、どこかに出かけて働くっていうばかりじゃなくて…。えーと、何て言ったらいいのかなぁ…。

ネネちゃん:ママはお店持っているけど…、そこで働いている様子を書くのって…わからないし…。パパの製図の仕事を見ても、私何しているのかわからないし…。

メテオさん:それは要するに、勤めに行っている人以外は、書きにくいってことよ。おうちが仕事場の人や、お店を経営している人なんかは、あまり考えられてないってことね。

景太朗パパさん:うーん、…メテオさんの言うとおりの部分はあるね。例えばぼくの仕事は、設計をして、製図したり、現場を見に行ったり、打ち合わせしたり、そういうのが仕事そのものだけれど、仕事の内容そのものが、小さいネネやツヨシにはわかりにくいかもな。それを見て、作文にするのは、ちょっと難しいかもしれないね。

コメットさん☆:ツヨシくん、ネネちゃん、その作文って、どうしてもパパやママのことを書かなきゃいけないの?。

ツヨシくん:ううん。知っている人ならだれでもいいって、先生は言っていたよ。

コメットさん☆:そっか…。じゃあ、大丈夫だよ。なんとかなる…。

ネネちゃん:コメットさん☆、どうするの?。

メテオさん:コメット?。

景太朗パパさん:何かあてがあるのかい?、コメットさん☆。

コメットさん☆:ええ、あとで電話かけて聞いてみます。

 景太朗パパさん、メテオさん、ツヨシくん、ネネちゃんは、じっとかわりばんこに顔を見合わせた。コメットさん☆は、一人にっこり微笑んでいる。

ラバボー:まーた姫さまの、思いつきだボ…。

 

 みんな一生懸命宿題を進めた。ツヨシくんはメテオさんに言われるように書き取りを終わらせ、計算ドリルに進んだ。ネネちゃんは、読書感想文を書き上げた。本を読んではあったので、メテオさんが要点を聞き取って、それをメモしてネネちゃんに渡し、なんとかまとめ上げた。極めて短いものになってしまったが…。

ラバボー:ツヨシくん、かけ算を進めるボ。これは簡単だボ。四角に入る数字を考える問題は、四角をXとおけばいいんだボ。

ツヨシくん:だめだよラバボー、えっくすなんて習ってないもの。

メテオさん:いいこと?、ネネちゃん。今から計算ドリルどんどんやるから、わたくしに貸しなさいったら、貸しなさい。

コメットさん☆:えーと、7月31日は…。何をしたのかな…。あ、天気予報見ているから…。台風かな?。それとお買い物だ…。メモしておこ。

 コメットさん☆は2階の自分の部屋から、メモリーボールを持ってきて再生し、景太朗パパさんは、仕事部屋のコンピュータに向かって、キーボードを叩いた。

景太朗パパさん:ふーん、やっぱりこの夏は、相当暑かったんだなぁ…。最高気温、横浜で36.5度か…。ええと、天気はまとめてプリントアウトするか…。

 そのころまたリビングのとなりの部屋では…。

メテオさん:ネネちゃん、計算ドリル答え写して。

ネネちゃん:わあ、メテオさんありがとう…。でも…、写していいの?。

メテオさん:そんなこと言っていたら終わらないったら、終わらないわ。

コメットさん☆:メテオさん、それはやっぱり…。

メテオさん:あーもう、しょうがないわね。じゃあ検算だけしなさいっ。おんなじことだけど、気分は違うでしょ!。

ラバボー:メテオさまの強引なのが始まったボ。ツヨシくん、ほっておいて進めるボ。Xに数字を代入すればいいボ。

ツヨシくん:ラバボー、わからないってばぁ…。もう、そんな校長先生のあいさつみたいなの聞いているんじゃないの。ラバボーたよりにならない。コメットさん☆!。

ラバボー:…あわわ、ごめんだボ。ツヨシくん…。

コメットさん☆:どうしたの?、ツヨシくん。

ツヨシくん:ラバボー難しいことばっかり言って、ちっともやり方教えてくれない…。困っているの。

コメットさん☆:ラバボー、ちゃんと教えてあげてよ。そのために星力使って、人の姿にしたんだから。

ラバボー:うう…、姫さま、ごめんだボ。ツヨシくん、ごめんだボ。ちゃんとやるボ。

コメットさん☆:私、しばらく見張っているね。

ラバボー:…うわあ、まずいボ。…ツヨシくん、この四角に入る数字は、こうやって考えるボ…。

ツヨシくん:…うん、…うん…。

メテオさん:コメットぉ、日記のもとはどう?。

コメットさん☆:うん、あともう少し。

メテオさん:よーし。だいたいなんとかなりそうね。わたくしの手に掛かれば、ざっとこんなものね。おーほっほっほ。

ラバボー:メテオさまの自己陶酔の世界だボ…。

メテオさん:ラバボー、何か言ったかしら?。

ラバボー:…いいい、いや、何も言わないですボ。ドリルは難しいボって、ツヨシくんと。

ツヨシくん:…そ、そうそう。メテオさん、ドリルは難しいねって。

 メテオさんは、眉毛をひくっと動かした。

 

 お昼になって、昼食をとってから、コメットさん☆は、プラネット王子にティンクルホンで電話をかけた。プラネット王子にわけを話すと、快く応じてくれた。

プラネット王子:なるほど、働く人についての作文か。ちょっと恥ずかしいけど、オレでよければ見に来ていいよ。オレが写真館で働いているところを、ツヨシくんやネネちゃんに見せればいいんだろ?。

コメットさん☆:うん。それをもとに作文を書くんだって。いいですか…?。

プラネット王子:いいよ。ブリザーノ伯父さんにも言っておくよ。ミラとカロンも、さっきからきゅーきゅー言って、宿題やっているよ。あれ大変そうだな…。

コメットさん☆:…私も、学校って、こんな大変なところだと思わなかった…。

プラネット王子:まあ、星国にはないような習慣だよな。夏休みの宿題…。

 星のトンネルを通って、コメットさん☆とツヨシくん、ネネちゃん、それに「わたくしも見ておきたいわ」と言って興味を示したメテオさんの4人は、藤沢市の橋田写真館に向かった。そこで4人を待ち受けていたのは、お客さんを相手に一生懸命に働く、プラネット王子の姿だった。プラネット王子は、星国に帰ればまさに王子…。当たり前なのだが、いつしかタンバリン星国の王子のいすに座っていたのとは、全く違うプラネット王子の別の素顔が、そこにはあったのだ。

プラネット王子:いらっしゃいませ。写真の焼き増しですか。どのカットを焼き増ししましょう?。

プラネット王子:証明写真ですね。2階にどうぞ…。…はい、もう少し右肩をあげてください…。ああ、そんな感じです。…もう少し目を上向きに…、はい、では撮ります。

プラネット王子:デジタルカメラで撮影した画像のプリントですね。じゃあ、この機械にメモリーカードを差し込んでください。画面を見て、画面にタッチして、枚数を選べば、数分で下に出てきます。あとでまとめて精算してください。

配送の人:こんちはー。印画紙の配送です。

プラネット王子:あ、はーい。お疲れさまです。伝票は…あ、これですね。じゃハンコ…。

配送の人:またよろしくお願いしまーす。

プラネット王子:はーい。あ、今度来るときは、2Lサイズ2箱に増やしてください。

 続々と来るお客さん、それに混じる配送の人。それらをてきぱき、すいすいとさばくプラネット王子の姿に、ツヨシくんとネネちゃんは、景太朗パパさんから借りたデジタルカメラを向け、メモを取った。コメットさん☆も、プラネット王子を、ちょっとあこがれのような目で見た。その時、ふとメテオさんが語った。

メテオさん:…なーるほど。こういうことだったのね…。コメット、殿下もかがやいているじゃない。

コメットさん☆:…メテオさん…。…そうだね。とてもかがやいている…。まるでいつかの殿下とは、別人のようだね…。

メテオさん:「瞳にかがやきを宿せなくなった」、そして地球に逃げた…、そんなのはまるでうそのよう…。人って、こういうふうに変わるものなのかしら…。

コメットさん☆:…うん、そうなのかも…。…人は変わる…か…。

 コメットさん☆は、ふとケースケを、次いでツヨシくんの姿を、思い浮かべた。ところが、コメットさん☆がふと気付くと、ツヨシくんもネネちゃんも、働くプラネット王子に、いつしかまぶしいものを見るような、あこがれの目を向けていた。きっと、プラネット王子のかがやきを、二人も感じているに違いないのだった。

 

 夜になって、メテオさんは、ナシとぶどうとスイカをたくさん食べて、ちょっとおなかが痛くなりながらも、景太朗パパさんと、沙也加ママさんに感謝されつつ帰った。さしものたくさん残っていた宿題も、あと2日だけの夏休み中になんとか形になりそうである。ツヨシくんは、ネネちゃんとともに、メテオさんをありがとうと言いながら見送り、景太朗パパさんと二人だけで、いっしょにお風呂に入った。

景太朗パパさん:あー、いいお湯だなぁ…。今日も暑かったなぁ、ツヨシ。

ツヨシくん:うん…。でもぼくそれどころじゃなかった。

景太朗パパさん:あっはっはっは…。…コメットさん☆といっぱい泳いで、この夏は楽しかったかい?、ツヨシ。

ツヨシくん:うん、楽しかった!。

景太朗パパさん:そうかー。もうだいぶ泳げるようになったかい?、ツヨシは。

ツヨシくん:うん!。泳げるようになった。コメットさん☆とたくさん練習して、学校の検定で、メダルもらったよ。…15メートルだけど…。

景太朗パパさん:おー…。あれから伸びてないのか記録…。はっはっは…。…そうだったよなぁ。まあでもよかったなツヨシ。泳げるようになって…。…で、コメットさん☆は、練習につきあってくれたのか?、ずっと…。

ツヨシくん:うん。いっしょに練習してくれたよ、ずーっと。

景太朗パパさん:…そうか。

 景太朗パパさんは、やさしい目でツヨシくんを見つめ、一呼吸おいてから続けた。

景太朗パパさん:…コメットさん☆と、いままでより仲良くなれたか?、ツヨシ…。

ツヨシくん:うん!。

景太朗パパさん:…そうか。…ツヨシ、いいかい?。しっかり勉強はしなきゃだめだ。先生の出した宿題もしっかりな…。

ツヨシくん:…う、うん…。

景太朗パパさん:でもなあ、これはコメットさん☆にも言ったんだけど、机に向かってするばかりが勉強じゃないさ。もちろんそれも大事だけど、ツヨシもネネも、そしてコメットさん☆だって、楽しいことをたくさん、いっしょになってするっていうのも…、大人になるためには、けっこう大事なんだよ。プラネットくんやラバボーくんのお兄ちゃん、メテオさん、コメットさん☆のお姉ちゃんが、ずいぶん助けてくれたろ?。それだって、大事な友だちの絆なんだよな…。わかるかい?、ツヨシ。

ツヨシくん:うん、パパ。わかるよ。みんなぼくとネネを助けてくれた…。

景太朗パパさん:よし。それがわかればまあいいさ。予定通りに宿題をやっていたら、こんなふうに“友だちの絆”を、確かめられなかったはずだから…。

 景太朗パパさんは、湯船へ背中をあずけるように両肩をのせながら、そっとツヨシくんに言った。ツヨシくんは、景太朗パパさんが意外なことを言うので、ちょっとびっくりしながら答えた。

ツヨシくん:…うん、そ、そうだったよね、パパ。

景太朗パパさん:まあ、夏休みが終わって、始業式がすんだら、ちゃんと報告して、お礼しておくんだよ、みんなに。

ツヨシくん:はーい。

景太朗パパさん:よし、いい返事だ。しっかしツヨシも、コメットさん☆が間に入ると、やたら態度がいいな。ふっふっふ…。

 残る夏休みはあと2日。ツヨシくんは翌日になってから、作文を書き上げた。

ツヨシくん:「…プラネットのお兄ちゃんは、いっしょうけんめい仕事をしていました。お店はすずしいのに、ずっと立っていて、いそがしく歩きまわるので、けっこうあせをかいていました。それでもいろいろなお客さんに、しんせつにこたえるプラネットのお兄ちゃんは、とてもかっこよかったです。…」

 コメットさん☆、ツヨシくん、ネネちゃん、メテオさん、プラネット王子、景太朗パパさん、沙也加ママさん…。まだまだ今年の暑さは続きそうだが、みんなの夏は、それぞれの胸にさまざまな思い出を残しながら、今年も静かに過ぎていこうとしていた…。

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★第166話:ケースケの恋人?−−(2004年9月上旬放送)

 夏休みも終わり、海の家も片づけられた由比ヶ浜の海岸は、だいぶ静けさを取り戻していた。だが、相変わらず残暑はきびしい。ツヨシくんやネネちゃんは、学校の新学期も始まったが、まだまだ暑い気温に、コメットさん☆を海に誘った。が、コメットさん☆は数日ほど、海には行かれない日が続いていた。それでもツヨシくんとネネちゃん、時に万里香ちゃんや賢司くん、それに最近ぐっと親しくなった、みちるちゃんとカロンくんが、沙也加ママのお店「HONNO KIMOCHI YA」の前で水遊びをしたりしているので、浜におりて様子を見に行ったりしていた。浜の砂は熱く、コメットさん☆も水の感触を楽しみたいとは思ったが…。

 そんなある日、コメットさん☆は七里ヶ浜で、最近練習に余念がないケースケを、久しぶりに見に行った。ケースケは、10月の頭にある「ライフセービング選手権大会」に出場するために、トレーニングをしているのだ。秋は行事の季節。夜間高校の文化祭もあるので、ケースケは毎日忙しく過ごしていた。ビーチフラッグス、ランスイムラン、ボードレスキュー…。いろいろな競技があるライフセービング。それらの競技に出場するための、基礎的なトレーニングをずっと繰り返すケースケは、地味だけれど、やっぱりかがやいて見えた。浜を走り、泳ぎ、ボードに乗る、ボードを持って走る…。ケースケの目標は、本当はいつも世界選手権なのだ。そこで金メダルをとること。学業やバイトのかたわら、その夢は持ち続けているケースケだった。

 そのケースケを見つめるコメットさん☆。ケースケは秋の終わりになると18歳。いくつかの本格的な資格も、とることが出来るようになる。そんなケースケは、コメットさん☆にとって、あこがれの的でもあるのであった。

コメットさん☆:ケースケかがやいてる…。

ラバボー:姫さま、ここは暑いボ。

コメットさん☆:…うん。もう海から吹く風は、少し涼しいような気もするけど…。あんまり暑いところは…、今日は苦手かな…。

ラバボー:なら、うちに帰って一休みするボ。

コメットさん☆:うん、そうしようか…。ツヨシくんとネネちゃんも、帰ってきてるかな…。

 コメットさん☆は、ティンクルホンを取り出すと、沙也加ママさんに電話をかけ、それから歩いて家に帰った。

 夕闇が迫る頃、沙也加ママさんがお店から帰ってくると、夕食の支度が始まった。コメットさん☆は、エプロンを付けて、普段よくするように沙也加ママを手伝う。ツヨシくんや、ネネちゃんも手伝ってくれる。そうしているうちに、図面を届けに行っていた景太朗パパさんも帰ってきた。

景太朗パパさん:ただいまー。いやー、いつまでも暑いねぇ。コメットさん☆は、ツヨシとネネといっしょに海に行ったかい?。

コメットさん☆:あ、景太朗パパおかえりなさい。…いいえ、今日は私は行きませんでした。

景太朗パパさん:…あ、そうか。まあまだ暑い日は、続きそうだから、機会があったら行っておいで。クラゲには気を付けてね。

コメットさん☆:はい。あ…そうだ…、今日ケースケを見ました。

景太朗パパさん:へえ。ケースケか。最近あまりうちにも来なくなったなぁ…。何していた?。

コメットさん☆:七里ヶ浜の浜で、何か練習していました。

景太朗パパさん:あー、そうか。10月にライフセーバーの大会があるからね。他の人たちもいただろう?。

コメットさん☆:はい。よくわかりませんでしたけど…。青木さんはいました。

景太朗パパさん:ケースケも、けっこうやることが多くて大変だろうな…。まあ若いうちは、そんなものだけどね。

コメットさん☆:そうですね。ケースケ、かがやいていました。

景太朗パパさん:そうか。じゃあ、コメットさん☆も負けないくらい、かがやかないとね。

コメットさん☆:えっ、…は、はいっ。

 ところがその時、沙也加ママさんがキッチンで叫んだ。

沙也加ママさん:ああー、おしょうゆがないわ…。…困ったなぁ、煮物が出来ないじゃない…。

景太朗パパさん:おやおや…?。

コメットさん☆:沙也加ママ、何か足りないんですか?。

沙也加ママさん:昨日おしょうゆの残りが少ないなって、思っていたんだけど…、すっかり忘れていたわ。今日買って来なけりゃいけなかったのに…。

コメットさん☆:じゃ、私が買ってきましょうか?。

沙也加ママさん:うーん、なんだかそれじゃ悪いけど…。今ほかの料理で手が放せないから…。

コメットさん☆:私買ってきます。

 コメットさん☆は、沙也加ママさんの申し訳なさそうな顔に、微笑んで応えてから、近所のスーパーマーケットまで、しょうゆを買いに出た。ツヨシくんとネネちゃんも行きたがったが、もう夕方なのでコメットさん☆が一人で急ぎ買いに行くことにした。なにしろ、料理の途中なのだし。

 コメットさん☆は、スーパーに着くと、しょうゆの棚を探した。夕方の店内は、そこそこ人がいて、にぎわっていた。仕事帰りの人だろうか、スーツ姿の人もいるし、ラフな格好の人もいる。ラフな格好の人は、夕食の材料を買い損ねた人たちかもしれない。

コメットさん☆:えーと、有機大豆しょうゆって…、どこの棚かなぁ…。

ラバボー:あ、あそこだボ。姫さま、「しょうゆ・ソース」って書いた看板が下がっているところ。わっと…。

 ラバボーは、コメットさん☆の腰のティンクルスターから、顔を出して、店内の天井から下がっている看板を見つけてくれたが、人影に気付いて、あわてて引っ込んだ。ところが、コメットさん☆は、その場で止まって動かない。ラバボーはどうしたのかと思って、ティンクルスターの中から、そっとささやいた。

ラバボー:姫さま、姫さま、どうしたんだボ?。

コメットさん☆:…ラ、ラバボー…、ケースケと…新井さんが…。

 コメットさん☆の視線の先にいたのは…、ケースケと楽しそうに品物を見ているように見える、新井さんだった。

新井さん:あ、三島くん、ホットケーキの材料もメモして。ホットケーキも、出すかもしれないから。

ケースケ:お…おう。えーと、298円…か。…しっかし、ああー、なんでこんなことオレたちが…。

新井さん:文句言わないの!。さっさとやって次行くよ。今のうちから用意しとかないと、10月末に間に合わないよ。

ケースケ:あ、ま、待てよ。そりゃ、そうだけどよ…。

 ラバボーは、そっとティンクルスターから顔を出し、ケースケと新井さんを見つけ、それからコメットさん☆の表情を見た。コメットさん☆は、ケースケと新井さんの様子を、柱のかげからそっと見ると、ケースケたちの歩いている棚とは別の列に、かくれるように入った。

コメットさん☆:…ケースケは、…やっぱり新井さんが…、好き…なのかな…、ラバボー。

ラバボー:姫さま…。

 ラバボーは、どう答えていいかわからずに、そっとコメットさん☆の表情をうかがうだけだった。

コメットさん☆:ラバボー帰ろ…。

ラバボー:え?、姫さま、しょうゆどうするんだボ?。

コメットさん☆:……。

 コメットさん☆は、何も言わず、足早に立ち去ろうとした。ところが、商品の棚を抜けて、出口のほうへ進んでいくと、そこでばったりと、曲がって来たケースケ、新井さんと鉢合わせしてしまった。

ケースケ:あ…、コ、コメット…。

コメットさん☆:…ケ、ケースケ。

新井さん:あれっ?、だいぶ前に学校で会った…。

コメットさん☆:あ…新井さん…、ケースケと…。わ…、私、失礼します…。さよなら…。

 コメットさん☆は、下を向くと、ケースケと新井さんの前を抜けて、立ち去ろうとした。

ケースケ:コ、コメット…、ま、待てよ…。

新井さん:コメットさん☆って言ったよね?。ちょっと待ちなよ!。

 コメットさん☆はその声に、はっと立ち止まった。新井さんがすぐに寄ってきて言った。

新井さん:待って、コメットさん☆。…もしかして、何か勘違いしてない?。私、好きな人いるんだよ?。

コメットさん☆:…す、好きな人って…、ケースケ?。

新井さん:アハハハ…、ちがうよ。やっぱそう思われてたか…。あのね、私の好きな人っていうのは、立花くんって言って、江ノ島のレストランで働いているんだよ。三島くんじゃないよ。

コメットさん☆:そ…、そうなんですか…。

 コメットさん☆は、恥ずかしいような、困ったような表情で、また下を向いた。いきなりそんなことを言われても、心の整理がつかないような気がしたからだ。そこにケースケがゆっくりとやって来た。これまた困ったような顔で…。

ケースケ:コメット…、オ、オレ…。

新井さん:コメットさん☆、今度江ノ島のレストランに来なよ。三島くんとでも。立花くんに言って、食事おごらせるからさ。

コメットさん☆:新井さん…。

 コメットさん☆は、「三島くんとでも」という言葉にドキッとして、新井さんを見た。新井さんも、自分の好きな人の話で、少しはにかんだような表情をした。

 

新井さん:最近さあ、10月末にある文化祭の準備で、準備委員の私と三島くんはさ…。

 三人はスーパーを出て、外の駐車場にいくつもある、一段高くなった、レンガタイル貼りの花壇の一つに、腰掛けながら話した。

新井さん:あ、私たちのクラスは、喫茶店やるんだけどさ、そのための準備で、三島くんと、いろいろ下調べしているんだ。

コメットさん☆:そうだったんですか…。私、てっきり…。

 コメットさん☆は、そう言って、ケースケをちらりと見た。

ケースケ:コメット…、何だよ…まったく…。

新井さん:三島くん、あなたが学校で言ってた、「コメット」って、もちろんこの子のことでしょ?。

ケースケ:あ、ああ…。

新井さん:三島くんはね、「コメットが、コメットが」って、何度も言っていたんだよ。

 新井さんはコメットさん☆に、声を潜めるような言い方で言った。

ケースケ:あ、お、おい、よけいなこと言うなよ。

新井さん:なんで?。事実じゃんか。

ケースケ:そ…、じ…事実って…。

コメットさん☆:ケースケ、どうして私の話なんて出たの?。

ケースケ:え、あ…、いや、その…。

新井さん:なんかー、かわいいとか何とか、ヒソヒソ男子と言っていたような…。

ケースケ:わー、やめろったら、やめろって!。

 コメットさん☆は、少し笑った。

新井さん:あ、やっと笑ったね。…三島くん、この際だから言うけどさあ、自分の思っていることとか、考えていることって、相手にきちんと言葉で言わないと、伝わらないよ。あなた割と、その辺がヘタだよね。

ケースケ:う…、そ、それは…。

 ケースケは、急に心にぐさっとくることを言われ、うろたえた。

コメットさん☆:で…、でも、それって…、必ずそうなんでしょうか…。

新井さん:えっ?。

ケースケ:コ、コメット…?。

コメットさん☆:あ、いえ、すみません…。

新井さん:ふふふっ…。三島くん、コメットさん☆って、私が考えていたより、ずっと真面目だよー。…コメットさん☆、あなたが言いたいのは、人に言葉で言わなくても、伝わることがあるってことでしょ?。

コメットさん☆:あ、は、はい…。

新井さん:それはもちろん、その人次第…。以心伝心って言ってさあ、言葉で言わなくても伝わるってことは、確かにあるよ…。けれど、今のあなたと三島くんの様子を見て、話を聞いているとさあ…、なんか歯がゆいっていうか…。そんな気になっちゃうな…。

コメットさん☆:新井さん…、いしんでんしん…。

新井さん:そう。思ったことが、言葉じゃなくて心から心に伝わるっていう…。そりゃたしかにあるんだけどさあ…、なんて言うか…、それで失敗して、家族にヒビ入っちゃった身としてはさあ…。

コメットさん☆:えっ?。

ケースケ:新井…さん…。

 新井さんは、一瞬急に寂しそうな目をすると、それをさっと切り替えるように言った。

新井さん:三島くん!、私はもう帰るけどさあ、文化祭の、うちのクラスの予算見込み計算しといて。明日の学校までにさ…。…しっかりしないと、彼女にあきれられるよっ!。

ケースケ:かかか…彼女って…、お、おい!。

 ケースケの真っ赤になってあわてている顔を尻目に、花壇からすとんと降りて立つと、新井さんは、停めてあった自分の原付バイクのところまで歩き出した。コメットさん☆は、何と答えていいか、考えあぐねて、少し不安げな顔をしつつ、新井さんを目で追った。

新井さん:…じゃ三島くん、夜の学校で。コメットさん☆、またね。三島くんに、江ノ島のお店の場所教えておくからさ、あとで聞いて行ってね。

 新井さんは、明るい顔で、バイクの後部トランクからヘルメットを出すと、頭にかぶりながら言った。

ケースケ:お、おう。じゃ夜にな…。計算は明日になるかもしれないけど…。

コメットさん☆:新井さん…、ありがとう…ございます…。

 新井さんはバイクのエンジンをかけると、さっと手を振って、アクセルをふかし、行ってしまった。あとには、コメットさん☆とケースケの二人が残された。

ケースケ:…あ、あのさ、コメット…。

コメットさん☆:な…、何?。

 コメットさん☆は、いきなりの問いかけにびっくりして、ケースケのほうを見た。心なしか、胸はドキドキしている。

ケースケ:…オレ、コメットのことが、…その、なんか…、す、好きだ。…好き…だけどさ、なんて言うか…、その、こ…こ…恋人ってのとは、ちょっと違うんだよな、正直言って…。

コメットさん☆:…ケ、ケースケ…。

ケースケ:…コメットに会ったときから、そ、その…、気になる女の子って思って…、コメットに会うと、なんだかほっとするようになって…、でも、それが何か、「恋人にしたい」って言うより…、どこか、コメットにあこがれつづけているみたいな…、そんな気持ちでさ…、いつか…、いつか言わなきゃって思ってたんだけど…。大事な心の支えっていうか…。オーストラリアでのトレーニングも、コメットにいつか会える、会ったときには、絶対に「世界一になったぜ」って、言おうなんて、思っていたから耐えられた…。最初のうち言葉に苦労してもさ…。…でも、おかしいよな、それって…。コメットが、いつまでここにいるのか、わかってもいねえのにさ…。

コメットさん☆:…ケースケ、それって…、私はケースケにとって、「恋人」じゃないっていうことだよね…。……でも、それって…、私もそうなのかもしれない…。私もなんだかケースケが、世界一のライフセーバーになるっていう夢を、かなえるために努力しているのを見て、その夢のかがやきはとても強くて、まるで自分が同じ夢を追っているような気になって…、まぶしいような気持ちで、ケースケを見ているのが好きだった…。…これって、やっぱり「あこがれ」だよね…。ケースケが夢をかなえるのを、見届けてから星国に帰れればいいなって…、なんか、そんなふうに思ってた…。

ケースケ:…そ、そうか…。やっぱりな…。

コメットさん☆:…やっぱり?。

ケースケ:…ああ、なんかコメットは、そう思っているんじゃないか…なんて、漠然と思ってた。…これも以心伝心ってやつかな…。あははは…。

 ケースケは、普段より力無く笑った。まるでいつものケースケらしくなく…。

コメットさん☆:…きっと、そう…なんだろうね…。

 コメットさん☆もまた、力無い返事を返した。そして、二人の間を、沈黙が支配した。駐車場にさす夕日は、短くなった昼の時間を反映して、どんどん夕焼け色になっていく…。

ケースケ:…あ、コメット、買い物に来たんじゃないのか?。いいのか?。

コメットさん☆:えっ?、あっ、いっけなーい、沙也加ママから、おしょうゆ頼まれてたんだ!。

ケースケ:なんだよ…、しょーがねーな、ってやばい…、オレも帰るよ。もう夜学のしたくしないと…、遅刻しそうだ。

コメットさん☆:うん、じゃあ私も、おしょうゆ買って帰る…。

 コメットさん☆とケースケは、それぞれあわてて駐車場から、別の方向へ走りだした。コメットさん☆はもう一度店内へ、ケースケは駅のほうへ、自転車に乗って帰って行った。…なんとなく、互いの心に、うずくような気持ちを残しながら…。

 そのころ、藤吉家では…。

沙也加ママさん:コメットさん☆、遅いわねぇ…、どうしたのかしら…。

ツヨシくん:遅いね。おなか減ってくるね…。

ネネちゃん:遅い遅い。

沙也加ママさん:…もう…、煮物がいつまでたっても出来ないわ…。電話してみようかしら…、心配だし…。

ツヨシくん:…ん、あ、もうすぐ帰ってくるよ。

 それを聞いていた景太朗パパさんが、すかさずたずねた。

景太朗パパさん:あれっ?、ツヨシ、どうしてわかるんだい?。

ツヨシくん:…うーん、何となくそういう気がするよ、パパ。

景太朗パパさん:へえー。

 と、その時、玄関の引き戸ががらりと開いて…。

コメットさん☆:…ただいまー。ごめんなさーい。ちょっと話し込んでいて、遅くなりました…。

ツヨシくん:…ほらね、パパ。

景太朗パパさん:おっ、ほんとだ。すごいなー、ツヨシは。

ネネちゃん:ツヨシくん、すごーい。どうしてわかったのー。

 ネネちゃんは、思わずパチパチと手を叩きながら聞いた。

ツヨシくん:えーと、いしんでんしんってやつかなぁ?。

景太朗パパさん:あははは…、それはちょっと使い方が違うような気がするけど…、ツヨシはコメットさん☆大好きだから、大好きお姉ちゃんのことは、ピンと来るのかな?。

ツヨシくん:えへへへへ…。

 景太朗パパさんの言葉に、照れ笑いするツヨシくん。彼に伝わったのは、コメットさん☆のテレパシー?。それはただ「大好きなお姉ちゃん」だからなのか、それとも何か別の力なのか。今はまだ誰にもわからない。キッチンでは、さっそくしょうゆのにおいが、ただよいはじめていた…。

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★第167話:星国大運動会<前編>−−(2004年9月上旬放送)

 9月に入ると、少しずつ幼稚園児、保育園児たちの、運動会の練習が始まる。ツヨシくんとネネちゃんの通っていた保育園には、広めの園庭があったから、練習はそこでしていた。近くの小学校や中学校の校庭からも、そんな練習の様子が時折聞こえてくる。コメットさん☆は、風向きによって聞こえたり、聞こえなかったりするその声や音を、ウッドデッキのところから、まだまだ暑い南風に吹かれながら聞いてみたりしていた。

 そのころハモニカ星国では、午後のお茶を飲みながら、くつろぐ王様と王妃さまが、カップを片手に話をしていた。王様は、ダイエットのため、砂糖抜きの紅茶を、仕方なくすすっている。

王妃さま:あなた、この間カスタネット星国の女王と、お話したんですけど、トライアングル星雲全体で、何か交流行事をしましょう。

王様:おお、それはいい。しかしパーティーなら、よくやっておるが…、王妃にはそれ以外にいいアイディアがあるのかね?。

王妃さま:星ビトみんなが参加できるものがいいですね…。運動会なんかどうかしら?。

王様:ほほう、うんどうかい…か。…それは、みんなで球技をしたり、走ったり、ダンスを踊ったり…、そういうものかな?。

王妃さま:ええ。以前コメットのメモリーボールで、ツヨシくんとネネちゃんが、学校で参加しているのを見ましたね。あれですよ。

王様:うむ、そうであったなぁ。それはいい。ではさっそく星ビトたちにも提案してみよう。

王妃さま:そうですね。私もいろいろな星ビトたちが、みんな面白く参加できるように、考えてみますわ。私自身、地球で見たことがあるけれど、星ビトによっては、向き不向きもあるでしょうから…。牛ビトとウサギビトがいっしょに走るっていうのは…。

王様:うーむ、なるほどな。…それにしても地球というところは、いろいろなことがあるな…。こりゃわしも留学しておけばよかったかな?、わっはっはっは…。

 王様は豪快に笑い、王妃さまも微笑んだ。メモリーボールモニターには、ツヨシくんとネネちゃんが1年生の時の、リレーの様子が映っていた。

 

 数日後、王妃さまは、星のトレインに乗って、カスタネット星国に行った。メテオさんの母である、カスタネット星国の女王に会うためだ。

カスタネット星国女王:あら、いらっしゃい。最近私たち、よくお話するわね。

王妃さま:そうですね。先日は腰が痛いとおっしゃっていたけど、大丈夫?。

カスタネット星国女王:…まあ、なんとかなっているわったら、なっているわ。それで、今日はどんな話かしら?。

王妃さま:そうね。電話するよりはと思ったのだけれど、トライアングル星雲全体で、少し交流行事をやったらどうかと思って。

カスタネット星国女王:ほう。それは?。

王妃さま:例えば運動会とか。

 カスタネット星国女王は、席を立って、自らお茶をいれると、王妃さまにもすすめつつ、応接セットのいすに座り直した。背ずりが3つに別れて、山形にとんがっている、妙なデザインのいすである。色は赤と黒。

カスタネット星国女王:どうぞ、こちらへ。…それで、運動会とは?。

王妃さま:…やはり、星国では運動会は一般的ではないかしらね…。みんなでいろいろなスポーツをする大会のことですよ。

カスタネット星国女王:そう。…私たちの星国では、地球に行ったものは、メテオが初めてだから…。あなたが地球に滞在したのは、どのくらいだったのかしら?。

 カスタネット星国女王は、白いカップのお茶を飲みながら、深くいすに腰掛け、いつもよりはいくらかやさしげな目で、王妃さまを見て言った。

王妃さま:そうね…、ここの暦で言えば、1年足らず…。地球の暦で1年と少し…。

カスタネット星国女王:…地球はいろいろな物事が多すぎて、なんだか疲れそうなところだわ…。以前、メテオの様子を何度か見に行った時思った…。…買い物は楽しかったけれど。

王妃さま:まあ、お買い物なさったの?。

カスタネット星国女王:ふふっ、ほんの紙袋5つくらい…。不思議な着物や飾り物、宝石も。…それに、お菓子のおいしいところだったわね。

王妃さま:あら、お菓子も。あなたもお菓子はお好きなようね、私も好きなんだけど…。

カスタネット星国女王:…時々、メテオに送らせているわよ。…で、その運動会というものは、どうやってやるのかしらったら、やるのかしら?。

王妃さま:そうねぇ…、いくつかスポーツの種類を決めて、星ビトに参加したい種類を選んでもらって、それでみんなにメダルを出したらどうかしら?。あまり勝ち負けにこだわらないようにして…。

カスタネット星国女王:勝ち負けにこだわらない…。それでは面白くないんじゃなくて?。

王妃さま:上位に入賞した星ビトには、大きいメダルとかを出せばいいとは思うけれど、あまり度が過ぎると、交流の意味がなくなってしまいますね…。

カスタネット星国女王:…なるほど、それもそうねったら、そうね…。

 カスタネット星国女王は、星国間が対立するようなことになっては、目的が逆になってしまうということに、すぐ気付いた。

カスタネット星国女王:…なら、タンバリン星国にも、提案しなくてはならないのでは?。

王妃さま:そういうことですねぇ…。

カスタネット星国女王:…いま、彼の国の王族会は、だれが代表を務めているのかしら?。

王妃さま:王子は地球にいらっしゃるわけだから…、アストールさんのいとこ、アリストーニさんだとうかがっていますよ。

カスタネット星国女王:ああ、あの太めの…、おっと、口が滑ったわったら、滑ったわ。

王妃さま:うふふふ…。

カスタネット星国女王:では、使いを出して…。

王妃さま:せっかく地球に、王子がいらっしゃる星国なんですから、王子に直接…。

 

 そんな王妃さまと、カスタネット星国女王の話し合いの結果、コメットさん☆には王妃さまから、電話がかかってきた。

コメットさん☆:えっ、星国交流大運動会?。へえー、そんなことやるの?、お母様。

王妃さま:そうなのよ。カスタネット星国の女王さまも、乗り気になられたのよ。それでね、あなたから、プラネット王子に伝えてもらえないかしら。私からタンバリン星国の王族会に直接言ってもいいんだけれど、それよりは話が早いかと思って。

コメットさん☆:うん、わかった、お母様。私がプラネット王子と、ブリザーノさんに話をするね。…なんか楽しそうだなぁ…。もし話がまとまったら、私も競技に出たいなー。

王妃さま:もちろん、あなたも一時こっちに帰ってきて、いろいろ楽しんでいったらいいわ。…ああ、ツヨシくんとネネちゃんも、よかったら連れていらっしゃい。ラバピョンとラバボー、縫いビトたち、それにメテオさんやムークさんもね。

コメットさん☆:はい、お母様。わあー楽しみ!。

 こうしてコメットさん☆は、プラネット王子に会いに行くことにした。

 昼下がりの稲村ヶ崎の住宅街は、9月に入っても、まだまだ陽炎が立つほどに暑かった。今年は酷暑である。コメットさん☆は、にじみ出る汗を、ハンドタオルで拭くと、星のトンネルを通って、湘南台の橋田写真館まででかけた。あらかじめプラネット王子には、星力メールを送っておいたので、写真館では、もう王子が待っていた。

プラネット王子:ようコメット、よく来たな。なんだい?、星国のことで話があるって。

コメットさん☆:あのね、星国の私の母が、星国同士交流するために、運動会をしましょうって。

プラネット王子:運動会?。へえ…。いや、別にいいけどさ。どうやってやるんだ?。いろいろな体形や体力の星ビトがいるぞ。

コメットさん☆:…うん。そこはまだ…。…それで、タンバリン星国も、参加してくれますか?。

プラネット王子:ああ、そういうことか、話って。…それならもちろん参加するよ。…なんだか面白そうじゃないか。

コメットさん☆:…そう…だよね。ああよかった。断られたらどうしようって思って…。ちょっと心配っていうか…。

プラネット王子:なんで?。まだ信用ないのかな…、オレたちの星国は…。

コメットさん☆:ううん、そんなことないよ。…で、でも、今のタンバリン星国の人たちって、私、王子とブリザーノさん、それにミラさんとカロンくんくらいしか、よく知らないから…。

プラネット王子:そうか…、そうだよな。特に紹介したわけでもないしなぁ…。で、オレは星国に連絡を取って、準備しておいて欲しいって、王族会に言っておけばいいんだろう?。それはいいけどさ、コメットやメテオは参加するのか?、どうするんだ?。

コメットさん☆:…みんないっしょに、出ない?。運動会に…。そうしないと、本当の交流に見えないんじゃないかな…。

プラネット王子:…そうだよな。よし。みんなで出よう。ミラにもカロンにも伝えるよ。あ、伯父さんはどうするかな。

ブリザーノさん:姫さま、お久しぶりです。どうぞ、お茶を。

コメットさん☆:どうぞ、お、おかまいなく…。それに…、…そ、その「さま」っていうの、やめてください…。ブリザーノさんのほうが年上なのに…。

 コメットさん☆は、ブリザーノさんがお茶を運んできたのにびっくりして、思わず言った。

ブリザーノさん:…しかし、「コメット王女」と呼ぶのもなんだか…。

コメットさん☆:私はそれでけっこうですから…。

ブリザーノさん:はあ、そうですか…。では「コメット王女さま」と呼ばせていだたきましょう。

コメットさん☆:あ、あのー、その「さま」っていうのは…。

プラネット王子:まあまあ、それは追々考えればいいじゃないか、コメット。それより、伯父さん、3つの星国交流のための運動会をやりたいんですけど、伯父さんもいっしょに出てくれますよね?。

ブリザーノさん:おっ、そんなイベントがあるのですか?。ほほう、それは面白そうですな。どんな競技がありますかな?。

プラネット王子:まだ細かく決めてないんですけどね…。王族会に連絡して、他の星国と話し合って、決めてもらったらいいんじゃないかと思うんですけど、地球での運動会を参考にして…。…ん、地球の運動会を参考にすると言えば…、運動会来月に控えている「友だち」がいるじゃないか。オレたちには…、コメット。

 プラネット王子は、にやっと笑って言った。

コメットさん☆:えっ!?、あ、ツヨシくんとネネちゃん?。

プラネット王子:ああ、それにミラとカロンもだよ。

コメットさん☆:あっ、そうだった…。

プラネット王子:今の4人に聞きながら、メテオも入れて、オレたちみんなで考えよう。じゃあ、伯父さん、王族会への連絡、お願いします。

ブリザーノさん:わかりました。私も何か参加できるといいですなぁ…。

プラネット王子:大丈夫ですよ、な?、コメット。

コメットさん☆:はい。

 いよいよ3つの星国で、交流を目的とした運動会が開かれることは確実になった。コメットさん☆は、家に帰ると、さっそくメテオさんにもティンクルホンで電話をかけた。

コメットさん☆:メテオさん、あのね…。

メテオさん:…もう、母から聞いているわよったら、聞いているわよ…。「星国交流大運動会」…でしょ?。…なんだか疲れそう…。

コメットさん☆:…メ、メテオさんは、気が乗らない?。

メテオさん:そ、そんなことないけどぉー、瞬さまを連れていらっしゃいとか、無茶言ってくれているのよ?、母は。そんなこと、出来るわけないじゃないのー。

コメットさん☆:あはっ、そうなんだ。メテオさん、すっかりイマシュンのこと、お母様にも認められているんだね。

メテオさん:み、み、み…認められているって…。

 メテオさんは、電話の向こうで、すっかり赤くなった。

メテオさん:と…とにかく、競技の内容は、私たちや、地球に来ているみんなで決めないとならないわ。ほとんど誰も、運動会ってなじみがないわけでしょ。だいたい、どこでやるのかすら、決まっていないったら、決まってないわ。

コメットさん☆:うん。そういうことになるんだよね…。どうしようか…。今のところ、ツヨシくんとネネちゃん、それにミラさんとカロンくんが、実際に運動会って、学校で体験したことがあるから…、その4人から種目を教えてもらおうよ。場所もだけど…。

メテオさん:私たちだって、小さい頃、運動会ってなかったかしら?。

コメットさん☆:んー、小さいのはあったかも…。でも、みんなで集まって、かけっこくらいじゃなかったっけ…。ほとんど覚えていないよ…。

メテオさん:…そうね…。おゆうぎみたいなものだったわ、確か。それじゃあ、参考にもなりはしないわね。

 

 コメットさん☆とメテオさんは、翌日プラネット王子の写真館に集まり、競技種目と、開催場所を考えることになった。

 午後、ツヨシくんとネネちゃんの帰宅を待って、星のトンネルを通り、まずメテオさんの家へ。そこでメテオさんと合流して、橋田写真館に向かった。そのためにツヨシくんとネネちゃんには、早めに学校から帰って来てもらった。

 星のトンネルを通りながら、コメットさん☆は、ツヨシくんとネネちゃんに聞いた。

コメットさん☆:ねえ、ツヨシくんとネネちゃん、もう学校の運動会、練習始まった?。

ツヨシくん:ううん、まだだよ。

ネネちゃん:来週からだって。

コメットさん☆:そうなんだ。どんなのに出るのかなぁ?。

ツヨシくん:えーと、かけっこと、大玉転がし、それに最後にある、学年リレー…かな?。

ネネちゃん:私たちは、ポンポンダンスもあるよ。

コメットさん☆:ふーん、いろいろあるんだね。学年が上がると増えるのかな?。

ツヨシくん:そんなこともないと思うよ。あ、パニッくんは、合唱の指揮もやるよ。

メテオさん:への6号が!?。

ネネちゃん:途中で合唱があるんだよ。その時パニッくんが、指揮するの。

コメットさん☆:へぇー、パニッくん、音楽得意なんだ。

 そんな話をしているうちに、橋田写真館に着いた。写真館では、ミラとカロンが帰ってくるのを、プラネット王子、コメットさん☆、メテオさん、ツヨシくん、ネネちゃんの5人で待った。

 やがて、ミラとカロンの二人が帰ってくると、星ビトたちが出るということを考えながら、場所と競技種目の話し合いが始まった。

プラネット王子:だいたい競技をあっちこっちでやるのは、参加するにも応援するにも困るんじゃないか?。星ビトや星の子が散らばってしまうだろう。

コメットさん☆:あ、そっか…。じゃあ、3つの星国のどこかに、みんな集まって運動会っていうようにしたほうが、いいんですね…。

カロン:…それなら…、ハモニカ星国がいいんじゃないですか?。タンバリン星国は会場にできそうなところが少ないような…。

プラネット王子:うーん、確かにそうだなぁ…。海もハモニカ星国は、今すぐ泳げるしなぁ…。そりゃあオレたちの星国だって、海をしずめて泳げるようにするのは、たいしたことじゃないけれど…。コメット、他の場所も含めて用意できるか?。

コメットさん☆:大丈夫だと思います…けど。

メテオさん:じゃあ、会場はハモニカ星国にしましょ。みんなそれぞれの乗り物に乗っていくわ。

プラネット王子:よし、会場は決まったとして…、競技だな問題は。ミラとカロン、来月にあるという運動会の競技ってどんなのだ?。

ミラ:徒競走とか、フォークダンス、騎馬戦とかありますね。前は棒倒しって言うのがあったと聞きましたけど、危険なので廃止になったそうです。

カロン:小学校の時は、玉入れとか、低学年の子はやっていました。棒の先に付けたかごに、みんなで柔らかい玉を入れるんです。あとは…、鼓笛隊の行進なんていうのもありましたし…、音楽に合わせて踊ったりとか…。少し長い距離走ったり、組体操と言って、何人かで組んで、形のそろった体操をするとか。

コメットさん☆:ツヨシくんとネネちゃんは?。

ツヨシくん:ぼくたちは玉転がしやるよ。さっきコメットさん☆に言ったように、あとは学年リレーとか、かけっこ。女子はダンス。

ネネちゃん:私たちダンスと、縦笛の行進もやるんだよ。

プラネット王子:…なるほどな。つまりは体を動かすことと、ダンスや行進、体操のように、発表会っぽいこともやるということかな。

メテオさん:何か星国ならではの競技も、あっていいんじゃないの?。

コメットさん☆:あ、そうか…。それなら、例えば海の競技も、水泳だけじゃなくてもいいのかも…。

プラネット王子:それもそうだな。別に地球と同じことをしなければならないこともないし…。それに牛ビトやサメビト、バッタビトとかに、延々と走ってというわけにも行かないよな…。よし。じゃあ、思いつくままに紙に書き出してみよう。オレが書くから、みんなどんどん言ってみて。名前がわからないのとか、今考えたのは、どんなことするのか、説明してくれよ。

ツヨシくん:かけっこと、玉転がしね。

ネネちゃん:玉入れ、ポンポンダンス、リレー。

プラネット王子:ちょっと待ってくれよ…。かけっこっていうのは、決まった長さ走るんだよな。それと玉転がしか…。これは大きな玉をどうするんだっけ?。

ツヨシくん:向こう側に旗が立っているから、そこまで大玉を転がして、戻ってくるの。5人くらいでチームになって…。

プラネット王子:あー、そういうことか。一人で転がすのかと思っていたよ。えーと、ポンポンダンスってのは?。

ネネちゃん:手にね、ポンポンを持って踊るの。

プラネット王子:ポンポンって?。

ネネちゃん:ふわふわした毛玉みたいなやつ。

プラネット王子:け、毛玉?。ますますわからないな…。

コメットさん☆:こう…、なんていうのかな…。こんな感じの…。

 コメットさん☆は、すかさずプラネット王子からえんぴつを受け取ると、チアリーディングのメンバーが手に持つような、持ち手のところから幾筋ものひらひらした帯が、放射状にまっすぐ伸びていて、全体は丸く、振るとしゃらしゃらと音を立てる「ポンポン」を、絵に描いた。

プラネット王子:へー…。まあいいか。それね…。リレーっていうのは、身長の大きい星ビトと、小さい星ビトでいくつかにチームを分けて、順にバトンを渡していけばいいか。

メテオさん:バトンって、いつも回しているバトン?。

カロン:メテオさま、違います。もっとこう…、パイプのようなというか、卒業証書のようなというか。手に持つのにちょうどいい、軽い筒のようなものです。

コメットさん☆:回す方のバトンを、みんなで回すというのは?。

プラネット王子:それは競い合う方じゃなくて、ダンスのように、みんなでいっせいにやる方がいいだろうな。なぜなら、みんな相当上手だろ?。

コメットさん☆:あはっ、そうですね。

ミラ:みんな星力を使っちゃうと、同じレベルになりますよね…、バトンを回す競技…。

プラネット王子:あ、それ重要だ。星力を使ってはダメだよな…。みんな実力だけということにしないと。走るにしたって、みんな1位になってしまうかもしれないぞ。

 こうして種目は、次々に提案されては、プラネット王子の手元の紙に書かれていった。

プラネット王子:サメビトなんかはどうする?。

コメットさん☆:サメビトさんは…、海で泳いでもらうのは?。

メテオさん:海にコースをつくるの?。小さい星ビトは、よっぽど波がないところじゃないと、おぼれちゃうわ。…って、泳げない星ビトはどうするの?。

プラネット王子:あー、そうだ。オレたちは泳げても、そんな星ビトはごく少数だな…。

コメットさん☆:ハモニカ星国は、学校で授業があるから、割と泳げる星ビトはいるけど…、それでも泳がない星ビトもいるだろうし…。あ、そうだ。じゃあ、浜辺でやる競技はどうかなぁ?。

メテオさん:浜辺でやる競技って?。

プラネット王子:何かあるのか?。

コメットさん☆:ビーチフラッグスとか、ランスイムランとか…。ライフセーバーの競技なんだけど…。

 コメットさん☆は、少し小さい声になって言った。

ツヨシくん:あ、ケースケ兄ちゃんがやっているやつだね。

ネネちゃん:わあ、あの浜辺走るやつ、星国でもやるの?。

メテオさん:なーんだ。カリカリ坊やがやっているやつ。

プラネット王子:それってどんなんだい?。

コメットさん☆:え、えーと、浜に目印を立てておいて、うつぶせに寝た競技する人が、合図で起きあがって、それを取りに走るの。で、それを取れた人が入賞。

プラネット王子:ほう。それなら泳げない星ビトでも参加出来るな。

コメットさん☆:ランスイムランは、浜を走って、それから泳いで沖の目印を回って、浜に戻ってきてまた走ってゴール。

プラネット王子:よし。じゃあそれも加えておこう。海のところでは、ただ泳ぐだけじゃ面白くないかもしれないものな。

ミラ:星ビトに参加したくなるように、競技を説明しましょう。

カロン:姉さん、どうやって?。

ミラ:星力で呼びかけたり、星力メールを使ったり…。

 

 星国運動会の具体的な内容は、だんだん決まっていった。星国の季節は、コメットさん☆が問い合わせたところ初夏。地球の北半球は、もう秋なのに、星国はこれから夏なのだ。少し急な決定なので、さっそく各星国で、あらゆる方法を用い、星ビトたちへの伝達が行われた。実行は、地球の時間で今度の週末。星力で時間の進み方を調整して、星国と地球で、時間のたつ速さを変えておき、星国での準備の時間をとることになった…。

次回に続く)

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★第168話:星国大運動会・<後編>−−(2004年9月中旬放送)

前回からの続き)

 それから数日がたった土曜日、コメットさん☆とツヨシくん、ネネちゃん、ラバボーとラバピョンは、リビングでお出かけの準備を終えて、待っていた。星のトレインを。…もちろん、星国に行くためである。やがて、南の空から姿をあらわした星のトレインは、ぐんぐんと近づいてきて、ウッドデッキの前に乗り入れた。もう見慣れたような光景だが、景太朗パパさんは、またご近所になんて言おうかな…などと、考えていた。

沙也加ママさん:じゃあ、みんな気を付けるのよ。

景太朗パパさん:コメットさん☆の星国に行くのに、気を付けるもないものじゃないの?、ママ。

沙也加ママさん:だ、だって、送り出すほうとしては…。宇宙を飛んでいくわけでしょ。

景太朗パパさん:まあ、そういうこと…かな?。

沙也加ママさん:ええと、コメットさん☆、今日出発して、明日帰ってくるということは、運動会は明日なの?。

コメットさん☆:いえ、2日後です。

沙也加ママさん:ええっ?、じゃあ、月曜日になるの?。

コメットさん☆:えーと、星国では何日かたちますが、地球では2日しかたたないように、時間の進み方を変えます。

沙也加ママさん:…えっ!?。そそ、それってどういうこと?。

コメットさん☆:星の力を使えば、時間の進み方も変えられるんです。だから、地球では2日しかたっていなくても、星国では5日くらいたっているように出来ます。もちろん、その逆で、地球で10日たっているのに、星国では1日しかたってないというのも出来ます。

沙也加ママさん:うーん、よくわからない…。コメットさん☆が星ビトであるっていうのがわかってから、もう何年も経つのに、いまだにその時間のたちかたっていうのが、なんだかよくわからないわ。

景太朗パパさん:まあいいじゃないか。じゃあみんな行っておいで。運動会、楽しんでくるんだよ。帰ったら、どんなだったか、ぼくたちにも教えてね。

コメットさん☆:はい。じゃ行って来ます。

ツヨシくん:うん。パパ、ママ行って来る。

ネネちゃん:私も。いってきまーす。

ラバボー:行って来ますボ。

ラバピョン:行って来るのピョン。

沙也加ママさん:い、…いってらっしゃい…。

 目を白黒させている沙也加ママさんと、にこにこ微笑んでいる景太朗パパさんを置いて、しずかに星のトレインは、藤吉家の庭をあとにした。七里ヶ浜の上空を旋回すると、メテオさんの乗った帆船と並んで、そのまま光の速さに近い速度へと、加速した。

 七里ヶ浜を旋回するとき、コメットさん☆は、窓の外を見ていた。ふと、やや沖合にケースケを見つけた。彼は10月上旬にある大会に向けて、練習をこなしている。コメットさん☆は、「いつ寝ているんだろう?」と、ぼんやり考えた。そのケースケが、空を見上げているような気がした。

 星のトレインは、メテオさんの帆船とともに、2時間ほどの時間で、ハモニカ星国に着いた。しかし実際には、とてもとても遠いところなのだ。星国では、王様、王妃さま、ヒゲノシタ、カスタネット星国女王、タヌキビト、たくさんの星ビトたちが待っていた。コメットさん☆は、ツヨシくんとネネちゃんを連れて、星のトレインから、降り立った。車内で縫いビトに着せてもらった、簡単なドレスをまとって。

コメットさん☆:お父様、お母様、ただいま。

王様:おお、コメットや、久しぶりじゃ。また大きくなったかな?。

コメットさん☆:そ、そんなことないよ…。

王妃さま:コメット、おかえりなさい。元気だった?。

コメットさん☆:はい、お母様。

王様:ツヨシくん、ネネちゃん、久しぶりじゃな。コメットがいつも世話になっとる。今回はいろいろ協力してもらったようじゃな。ありがとうよ。どうもわしは、地球の習慣がわからなくていかん…。

ツヨシくん:王様、こんにちは。ぼくたちも、もうすぐ運動会だから、2回運動会があるみたいで楽しみ。

ネネちゃん:王様、王妃さまこんにちは。私も楽しみー。ダンスに出たいー。

 一通り、みんなあいさつを交わすと、コメットさん☆は、星国宮殿の自分の部屋に、ツヨシくん、ネネちゃん、ラバボーとラバピョンを連れていった。メテオさんは、カスタネット星国の女王といっしょに応接室へ。縫いビトは自分たちの家に帰ったりした。ミラとカロン、それにプラネット王子は、彼らの星国に、今頃帰っているはずである。ふと、コメットさん☆は、「プラネット王子は、迎えてくれる家族が、親戚の人しかいないんだ…」と思った。

ツヨシくん:わあ、星が見える。コメットさん☆の部屋って不思議だね。

ネネちゃん:ほんとだー。あれがルナ星でしょ、コメットさん☆。

コメットさん☆:あ、ネネちゃんよく覚えているね。あの大きな星がルナ星だよ。

ツヨシくん:あの天井から下がっている布の向こうは、時々人が通るけど、向こうの人からこっちは、ほんとうに見えないの?。

コメットさん☆:見えないよ。そういうように星力がかかっているんだよ。

 ツヨシくんが、不思議そうにあたりを見回しながら、天井から下がっている垂れ幕の向こうを気にした。以前、お花見の時にも来たこの部屋だが、やっぱり不思議なのだ。

ネネちゃん:ここ何だっけ?。

コメットさん☆:そこは私のベッドだよ…。…恥ずかしいから、あんまり見ないで…。

ネネちゃん:わあ、かわいいベッドー。中までは、この間のお花見の時、見てなかったぁー。

 ネネちゃんは、天蓋のついたコメットさん☆のベッドを見た。こぢんまりとしたベッドに、小さな枕が三つ、それにまわりはカーテンで覆われている。カーテンを閉めると、中は薄明かりだけにすることが出来る。

ネネちゃん:コメットさん☆、子どものころから、ここで寝ていたの?。

コメットさん☆:…う、うん…。

ネネちゃん:ちょっと寝てみていい?。

コメットさん☆:いいよ…。

 ネネちゃんは、コメットさん☆のベッドに横になってみた。見た目より低めの枕に寝ころぶと、天蓋が見える。星のもようが天蓋のところ、そして部屋の天井にも浮かんでいるのが見えた。

ネネちゃん:うわー、なんだか寝心地いい…。眠くなっちゃいそう…。

コメットさん☆:あはは…、そう?。

ネネちゃん:コメットさん☆、子どもの頃、ここでお母さんといっしょに寝たの?。

コメットさん☆:ううん。8歳の頃から、一人で寝てた…。

ネネちゃん:寂しくなかった?。

コメットさん☆:……少しね…。しばらくしたら慣れたけど…。時々怖い夢見たときとか…。……私も寝てみよう…。このベッドに寝るのも久しぶりだから…。

ツヨシくん:ぼくも…いい?。

コメットさん☆:…いいよ…。ふふっ、…特別だよ。ラバボーもラバピョンも…、よかったらこない?。

ラバボー:姫さまいいのかボ?。

 ラバボーは、ラバピョンと顔を見合わせた。

ラバピョン:おじゃまするのピョン。

 そうしてみんなコメットさん☆のベッドに上がってみた。

ツヨシくん:わあ、新しいシーツ。コメットさん☆のベッドふかふか…。

コメットさん☆:ああ、なんか私も眠くなりそう…。みんなで少しお昼寝しちゃおうか…。ネネちゃんカーテン少し閉めて。

ネネちゃん::いいの?、コメットさん☆…。

ツヨシくん:わあい、コメットさん☆とお昼寝…。なんかうれしい…。

ラバボー:ひ、姫さま…またしてもいいのかボ?。

ラバピョン:姫さまったら、ぜんぜん…。…言ってもしょうがないのねピョン…。

 ラバピョンがくすくすと笑うのをよそに、夕食会までしばしみんなでまどろむことになった。ツヨシくんは、すぐに眠ってしまったコメットさん☆の寝顔を、なんとなくしばらく見ていた。しかし、自分もすぐに眠くなって、寝てしまった。

 

 翌々日、朝からハモニカ星国は、大忙しになっていた。全ての星国から、運動会に参加する星ビトや、タンバリン星国からは王族会の人々、それにプラネット王子、ミラ、カロン、ブリザーノさん。カスタネット星国からはタヌキビトたちや女王、それにメテオさん、ムークがいっせいにやって来ていた。そして次々に参加の申し込みをしていく。星ビトだけじゃなく、星の子たちも、面白がってたくさん見に来ている。会場は王宮前に作られた競技場と、海の競技は、ハモニカ星国「ほうき星の海」。コメットさん☆が、海の妖精といっしょに整備した海水浴場は、いつしかそういうように呼ばれていた。

会場案内:みなさんおはようございます。手元のシートに、ご自分が参加したい競技に印を付けて、提出してください。時間はその場でわかります。海の競技は、「ほうき星の海」のほうで行いますから、そちらに向かってください。

コメットさん☆:さあ、私たちも参加の申し込みしよ。

ツヨシくん:ぼく何にしようかな…。海で泳ぐのやろうかな。

ネネちゃん:ツヨシくん水着は?。

ツヨシくん:持ってきたよ?。ネネは持ってないの?。

ネネちゃん:へへー、持ってこなかったけど、コメットさん☆が、私くらいの時に使っていたの貸してくれるって。

ツヨシくん:ふぅん。…ぼく、ビーチフラッグスもやってみよう。あと、50メートル水泳にも挑戦しちゃえ。

ネネちゃん:ツヨシくん50メートルなんて泳げるの?。

ツヨシくん:さあ?。わからないけど…。

コメットさん☆:大丈夫だよ。きっと。それにちゃんと背が立つところになっているから…。…私も水泳はエントリーしよう。あと、ビーチフラッグス、それにダンスと…、そうだ、徒競走と、二人三脚と…。

メテオさん:コメットったら、ずいぶんいろいろやるのね。

 コメットさん☆が振り返ると、メテオさんが、ちょうどエントリーシートを持って、やって来たところであった。

コメットさん☆:あ、メテオさん。メテオさんは、何に出る?。

メテオさん:なるべく疲れるのは出たくないんだけど…、うちのお母様が出ろ出ろって…。

カスタネット星国女王:私がどうかしたかしら?、メテオ。

メテオさん:わあああー、ごめんなさい、ごめんなさい。出ます、出ますとも…。水泳に、仮装リレー、普通のリレー、500メートル走、カリカリ坊や競技…。

コメットさん☆:メテオさん、そんなに出たら大変だよ?。

カスタネット星国女王:私も何か面白そうなのに出たいわったら、出たいわ。何が面白そうか、教えてちょうだい、ハモニカ星国王女。

コメットさん☆:は、はい。仮装リレーは面白そうだと思いますけど、あとメテオさんと二人三脚とか。

カスタネット星国女王:どんなことをやるのか、どこかに説明があるかしら?。

コメットさん☆:向こう側に掲示をするようにしておきました。細かい説明を書いてあります。なにしろみんなはじめてみたいなので…。

カスタネット星国女王:そう。では、それを見てこのシートに書き込めばいいのね。…メテオ、行きましょう。

メテオさん:はーい…。

 メテオさん、もうすでに疲れたような目を、コメットさん☆に向けて、女王とともに立ち去っていった。コメットさん☆は、苦笑いを返した。

星ビトA:わあ、姫さま、姫さまですね。いっしょにダンスしましょう。

コメットさん☆:うん、しようね。私もダンスに出ることにした。

星ビトB:ぼくは組み体操っていうのに、出てみようと思うんだな。姫さまこれってやったことあるんだな?。

コメットさん☆:私はないよ。地球の運動会は、参加したことないもの。

星ビトB:そうなんだな。残念なんだな…。何か姫さまとご一緒したいんだな…。

ネネちゃん:コメットさん☆は、ずいぶんいろいろな星ビトさんに、好かれているんだね。

コメットさん☆:…うん。そうだね。星ビトみんなが、楽しんでくれれば、私もうれしい…。もちろん、みんなもね。

ラバピョン:私も姫さまとダンスするのピョン。ラバボー、いっしょに踊るのピョン。

ラバボー:ボーも、ラバピョンといっしょに踊るボ…。手をしっかり握って踊るボー!。

ラバピョン:もう少し小さい声でいうのピョン。

サメビト:サメサメー、姫さま、私はやっぱり泳ぐのがいいのでしょうかサメー。

コメットさん☆:あ、サメビトさん。泳ぐの得意でしょ?。

サメビト:サメサメー、まあ得意…と言えばそうですねサメー。走るのはちょっとしんどいサメー。

ツヨシくん:うわあ、サメビトさん大きい…。

ネネちゃん:サメビトさん、走るのは大変そう…。

コメットさん☆:じゃあ、やっぱり水泳がいいよ。他のサメビトさんや、サカナビトさんたちといっしょにどう?。

サメビト:じゃあそうしますサメー。姫さまも水泳がんばってくださいサメー。

プラネット王子:よう。コメット、大変な盛況ぶりだな…、こりゃ。こんなことなら、もっと前からやればよかったかな。

コメットさん☆:あ、プラネット王子。おはよう。そうだね…、こんなにみんな大喜びするとは思わなかった…。ミラさんやカロンくん、ブリザーノさんや、王族会の人たちは?。

プラネット王子:ああ、みんなあれこれ競技決めるのに苦労しているよ。あははは…。何しろ知らないことばかりらしくてさ…。…でも、みんな平和でいいよな…。星国がずっとこんな空気に包まれていれば…。

コメットさん☆:……、そうだね。ずっとこうやって、星国の交流が続きますように…。

 コメットさん☆は、ふいに祈るような気持ちになった。王子の気持ちは、身にしみてわかっていたから。

 コメットさん☆たちが、一度着替えのために、王宮に戻ろうとすると、タンバリン星国の王族会の人々が遠くから近づいてきた。そして王宮の前庭のところで呼び止められた。

アリストーニさん:あ、コメット王女さま、コメット王女さま…。

コメットさん☆:はい?。

プラネット王子:あ、コメット、うちの王族会代表、アリストーニだ。よろしく。

アリストーニさん:私がタンバリン星国王族会代表アリストーニです。よろしくお願いいたします。

コメットさん☆:は、はじめまして…。

 コメットさん☆は、はじめて会う少し太り気味で、髪のやや薄い、にぎにぎしい金糸の入った衣装をまとった男性に、ちょっとびっくりしながら返事を返した。

プラネット王子:オレの親戚の人なんだ…。

コメットさん☆:そう…。はじめて会うので…。アリストーニさん、よろしくお願いします。

 コメットさん☆は、そっとお辞儀をした。

アリストーニさん:はっ、ど、どうかハモニカ星国コメット王女さま、頭をお上げください。…かつて私どもの星国をまとめておりましたヘンゲリーノが、当時大変失礼をいたしました。彼の者に替わりまして、お詫び申し上げます。

コメットさん☆:あ、いえ、もういいんです。今は、こうしてプラネット王子とも、友だちになれましたから…。…でも、あの時、私も王子に失礼なことを申しました…。ごめんなさい…。

アリストーニさん:い、いえ…、もったいないお言葉…。どうか、ひらに…。

 コメットさん☆が謝ると、アリストーニさんの後ろについていた側近たちからも、どよめきのようなあわてた声が聞こえた。プラネット王子も、複雑な表情をしている。アリストーニさんは、ハンカチを出すと、額の汗をぬぐった。

コメットさん☆:私はこうして、3つの星国がいっしょに楽しく交流できることを、うれしいと思っています。アリストーニさんも、そう思って下さいますか?。

アリストーニさん:はっ。恐れ入ります。今後ともこうしたおつきあいが進むといいですね…。どうか、これからも王子のよき友人となって下さるよう、お願い申し上げます…。わが王子と王族会は、あなた様や、カスタネット星国メテオ王女さまを、ないがしろにするようなことは、もう決してないと、お誓い申し上げます。

コメットさん☆:…ありがとうございます。これからもよろしくお願いしますね。

 コメットさん☆は、改まったあいさつに少しとまどったが、自分を丁重に扱ってくれるタンバリン星国の変化に、王子の改革を実感して、プラネット王子を、にっこりと微笑みながら見た。プラネット王子は、いつもと同じはずのコメットさん☆の笑顔に、なぜかどっきりしつつ、少し自信のありそうな笑みを口元にたたえて、やさしげな目つきでコメットさん☆を見た。

 そして午前10時、発案者である王妃さまの開会宣言で、競技が始まった。コメットさん☆は、さっそくまずは100メートル徒競走に出場した。同時に走るのはメテオさん。ツヨシくんとネネちゃんは50メートル走なので、前のグループだ。ラバボーとラバピョンも、ほかの猫のような姿をした星ビトたちといっしょに出場する。ツキビトや、ウサギビト、イタチビトといった、体の小さい星ビトには、専用のコースもある。縫いビトやイガイガビト、妖精たちは、「空を飛べる星ビト」のグループに分かれていて、この星ビトたちは、「200メートル飛行」という種目になっていた。

スターター:よーい、「パンッ!」。

コメットさん☆:くっ…。

メテオさん:えいっ…。

 コメットさん☆とメテオさんは、100メートル徒競走を隣り合ったコースで走り出した。しかし、普段それほど力一杯走るわけではないので、横を他の星ビトが並んで走っていく。

メテオさん:ま、負けないわよ…。はあ、はあ…。

コメットさん☆:…はっ、はっ…。うわあ、足が重い…。

 結局コメットさん☆は、4位、メテオさんは5位であった。6人で走ったのに…。

メテオさん:きぃーー。…はあ、なんで…はあ…はあ、わたくしが…はあ…5位なのよーー!。

コメットさん☆:ああ…に、入賞…できなかった…ね…。あは…は…はは…。

 メテオさんはくやしそうに嘆き、コメットさん☆は、苦しそうにしながら笑った。

 そのころプラネット王子は、水泳に出ていた。1000メートル遠泳に。しかし、いっしょに泳いでいるのが、サカナビトだったので、泳力で差を付けられていた。しかし、そんな遠泳にエントリーした人は、他にほとんどおらず、仕方がなった。

側近:プラネット王子さまー、がんばってくださいー!。

アリストーニさん:王子、抜かれますぞー。

プラネット王子:(…そ、そんな…こと…言ったって…。…頭が魚の…星ビトといっしょは…なしだよなぁ…。)

 結局王子は、15人で泳いで、14位と惨憺たる結果だった。

プラネット王子:あーあ、こんなところ、コメットやメテオには、見せられねぇよ…。

ブリザーノさん:わはは、王子もさすがにかないませんかな、サカナビトには。

プラネット王子:あ、伯父さん、もうどうしようもないですよ…。やれやれ…。いやー、でもおもっいっきり泳いだ…。はぁ…。

 そこへ水着に着替えたツヨシくんと、ネネちゃんがやって来た。

ツヨシくん:あ、プラネット兄ちゃん、どうしたの?。

ネネちゃん:あれー、プラネットのお兄ちゃん、寝っ転がっている…。

 プラネット王子が、疲れて空を見ていると、ツヨシくんとネネちゃんが言った。プラネット王子は、ゆっくり起きあがると答えた。

プラネット王子:よう、ツヨシくんとネネちゃんか…。今オレ1000メートル泳いだんだけど…、もう疲れたよ…。何しろ相手が悪すぎでさ…。あははは…。

ツヨシくん:え?、どうしたの?。

ネネちゃん:相手が悪さしたの?。

プラネット王子:あ、いや、そうじゃなくて…、相手がみんなサカナビトなんだぜ…。おかげで14位だよ、15人中…。星国って、泳げる人少ないんだなぁ…。

ツヨシくん:よし。じゃあ、ツヨシくん、プラネット兄ちゃんの代わりに入賞してくる!。

ネネちゃん:私も!。

プラネット王子:おお、そうしてくれるか。あはははは…。じゃあ、がんばってきてくれよ。期待しているよ。

 プラネット王子の言葉に、ツヨシくんとネネちゃんは、大いに励まされて、「ほうき星の海」に作られたコースに向かった。ツヨシくんは50メートル、ネネちゃんは25メートル水泳に出るのだ。

星ビトC:あら、あの子たち、地球の子よね?。

星ビトD:おお、本当だ。確かあの男の子は…、前に姫さまが病気になったとき、ここまでやって来た子だ。

星ビトE:姫さまと、とても仲がいいらしいよ。姫さまはあの子の家に、住んでらっしゃるそうだ。

星ビトF:へえー、いいわね…。かわいいじゃない?。となりの女の子は双子の妹さんね。

 今やツヨシくんとネネちゃんは、ハモニカ星国で知らない者はいないほどの、「有名人」になっていた。そんなツヨシくんとネネちゃんの様子を見に、コメットさん☆とメテオさんは、「ほうき星の海」までやって来た。もっとも自分たちも、水泳と、ビーチフラッグスに参加するためでもあったが…。

コメットさん☆:あ、ツヨシくんがいる。50メートル水泳に出るんだね。あ、ネネちゃん。ネネちゃんは何に出るの?。

 コメットさん☆は、ツヨシくんがスタートの準備をしているのを見て、さらに貸してあげた水着を着て待っている、ネネちゃんに尋ねた。

ネネちゃん:あ、コメットさん☆。水着貸してくれてありがとう…。私は、25メートル水泳だよ。

コメットさん☆:そっか。ネネちゃん25メートル泳げるようになったんだね。

ネネちゃん:ううん。学校ではそんなに泳げないけど…。なんだか、泳げそうな気がするから…。

コメットさん☆:へぇーー。すごいね、ネネちゃん。挑戦するんだね!。

ネネちゃん:うん!。がんばるね。

コメットさん☆:がんばって!。…あれ?、メテオさんは?。

 コメットさん☆は、ネネちゃんを励ましているうちに、メテオさんがいなくなっているのに気付いた。そしてふと見ると、ツヨシくんの後ろの組で、ハモニカ星国の女の子の星ビトに混じって、スタートを待っているメテオさんを見つけた。

コメットさん☆:あ、メテオさん、50メートル水泳に出るんだ…。メテオさん、ツヨシくんがんばってー!。

 コメットさん☆の、思わず出した大きな声に、ツヨシくんとメテオさんは気付いて、コメットさん☆のほうを向いた。ツヨシくんは大喜びで手を振り、メテオさんは、恥ずかしそうに小さく手を振った。

 そして、40分ほどたったとき、コメットさん☆、メテオさん、ツヨシくん、ネネちゃんはみんな、ちゃんと入賞のメダルをもらって、にっこりしていた。ツヨシくんはちゃんと50メートルを泳ぎ切ったばかりか、堂々の2位。ネネちゃんも3位、メテオさんは1位、コメットさん☆は2位のメダルを手にしていた。メテオさんとコメットさん☆は、25メートル水泳の同じ組で泳いだが、コメットさん☆はメテオさんに半身ほど離されてゴールした。

メテオさん:1位はうれしいけど…、なんだかどんどん疲れているような気がするわ…。

 メテオさんは、三角形の目をしながらつぶやいた。

コメットさん☆:メテオさん疲れた?。私これから、ビーチフラッグスに出るよ。

メテオさん:…それって、カリカリ坊やがやっている競技でしょ?。…私も出るわよ…。もしかすると、また同じ組かもよ…。もう…足がくたびれたわー。

コメットさん☆:あはっ、メテオさん、ファイトファイトっ!。

ツヨシくん:メテオさん、普段運動しないからだよ…。

ネネちゃん:メテオさん、うちに帰ったら、いっしょに水泳しようよ。

メテオさん:あー、もうわかったわよう…。みんなお母様みたい…。

カスタネット星国女王:誰が私のようなのかしら?、メテオ。

メテオさん:うわーーー、ご、ごめんなさい、ごめんなさい。私、がんばるわったら、がんばるわ。

 ちょうど応援にやって来たカスタネット星国の女王さまの声を、背後から聞いてびっくりしたメテオさんは、あわてて答えた。

コメットさん☆:あ、メテオさんのお母様。

カスタネット星国女王:おや、ハモニカ星国王女も、水泳に出たようね。わが娘は、どんな成績だったのかしら?。

コメットさん☆:1位ですよ。私2位でした。同じ組だったんです。

カスタネット星国女王:そう。それはあっばれだわ。…あなたもね。入賞おめでとうなのだわ。

 カスタネット星国の女王は、そっと片手ずつ、コメットさん☆とメテオさんの肩を抱いて、入賞を祝福してくれた。コメットさん☆も、メテオさんも、いつもの女王のイメージからは、ちょっと考えつかない女王の行動に、びっくりして女王を見上げた。そこには、にこやかに微笑む、普通の母親の顔をした女王がいた。

コメットさん☆:ありがとうございます…。

メテオさん:お、お母様…。

 コメットさん☆とメテオさんは、少し微笑んで、女王の祝福に応えた。

 

 ビーチフラッグスの参加者は、水泳よりずっと少なかった。そのため、女性と男性、おとなと子ども各一組ずつということになった。ビーチフラッグスは、浜に立てた競技者より少ない旗を、みんなで取り合う競技。ライフセービングの大会ではおなじみの競技なのだ。だが、さすがに星国では、全く誰もやったことがない。コメットさん☆ですら、競技としてやってみるのは、提案した本人であるにもかかわらず、はじめてという有様だった。

スターター:よーい、スタート!。

 コメットさん☆とメテオさんは、うつぶせに寝ていた姿勢から起きあがって、目標の旗を目指し走った。20メートル先の旗を取れれば入賞。

コメットさん☆:…はっ、はっ…。えいっ!…。

メテオさん:…えーいっ!。

 二人とも旗を、無事取ることが出来た。しかし…。

コメットさん☆:わあ、メテオさんも私も、水着の前砂だらけだよ…。

メテオさん:ああー、せっかくのわたくしの水着が…。洗濯が大変なのよー。いいわ。星力で何とかするわ。

コメットさん☆:でも、競技が終わるまではダメだよ、星力使うの…。

メテオさん:…うう、…そうだったわー。このじゃりじゃりのまま、応援するのおー?。

コメットさん☆:だって…、ほかの星ビトをほうっておいて…ってわけにもいかないよ。ツヨシくんも出るし…。あ、私が前に作り忘れたお手洗いと更衣室が出来てる…。だれか作ってくれたんだ。…なら、たぶんあそこにシャワーがあるよ。そこで流そ。

 コメットさん☆は、前にこの海を、海の妖精に協力してもらって、泳げるようにしたときに作り忘れたという、お手洗いや更衣室、シャワー室が、誰かの手によって作られているのを見つけ、そこを指さした。

メテオさん:ほんと?。最初から作っておいてよ、コメットったらぁ。もう…。

コメットさん☆:ご、ごめんね…。

 そんなやりとりでも、メテオさんは、ほっとしたような顔で微笑んだ。コメットさん☆も、それにつられて微笑む。

 一方ツヨシくんは、この競技めっぽう強く…、というか、参加者が少なく、ツヨシくんのような子どもの星ビトたちとでは、ほとんど自動的に1位になった。何しろ全部で3人しか、ツヨシくんの組には、参加者がいなかったのだから。

 

 昼食をはさみ、午後になって、コメットさん☆は、ダンスに出た。二人一組になって、丸い輪でみんな踊る。相手は誰でもいいし、別に男女のペアでなくてもよい。が、たいていは男女ペアでのダンスになっている。踊りは、割と星国では伝統的な、地球で言えばフォークダンスのようなものである。ラバピョンは、言うまでもなくラバボーと。メテオさんは、カロンと。プラネット王子はミラと。ネネちゃんはコメットさん☆の応援で知り合った、アルメタルくんという星ビトと。そしてコメットさん☆は、ツヨシくんと踊ることになった。ハモニカ星国の星ビトたちは、男女を問わず、コメットさん☆と踊りたがったのだが…。

コメットさん☆:あ、アルメタルくん…かな?。

ツヨシくん:だれ?、その人。

コメットさん☆:…う、うん。小さい子どものころ、いっしょに学校で勉強した男の子…。となりの席だったんだよ。

ツヨシくん:ふぅん…。あれ?、なんでネネと踊るんだろ?。

コメットさん☆:アルメタルくんって、引っ込み思案なところがあって…。見た目はそうでもないんだけど、女の子の前になると、とたんにもじもじしていたよ、ふふふっ…。

ツヨシくん:…ふーん。

 ツヨシくんは、その話に、何となく心の底が、ちょっともやもやするような気になった。

ツヨシくん:あ、コメットさん☆、ぼく踊り方わからないよ…。

コメットさん☆:大丈夫だよ。私が踊るから、それに合わせればいいよ。私が手を引いたら、そっちへ引かれて、押すようにしたら、後ろに下がるようにしてね。あとは、小さい声で右足前とか言うから、その通りにして。

ツヨシくん:うん…。やってみる。

メテオさん:カロン、いいわね。踊り方は大丈夫よね?。

カロン:ええ、メテオさま、一応マスターしています。

プラネット王子:ミラ、久しぶりに踊ることになるな…。写真館の2階は狭いけど…。

ミラ:プラネットさま…、いえ、プラネット王子…。私もがんばりますね。

プラネット王子:そんなに構えなくてもいいよ。楽しく踊ろう。

ミラ:…はい。

ネネちゃん:…ふーん、アルメタルさんって言うの?。

アルメタルくん:う、うん…。ぼ、ぼく、こういうのはじめてだから…。うまく踊れるかな…?。

ネネちゃん:私より年上なんだから、アルメタルさんしっかりしてよ。失敗してもいいじゃない。

アルメタルくん:う、うん、そうだね…。コメット王女は、どう?。

ネネちゃん:どうって…?。とても楽しいお姉ちゃんだよ?。

アルメタルくん:あ、あの…、地球で好きな人なんて…、いるのかな…?。

ネネちゃん:誰に?。コメットさん☆に?。

アルメタルくん:…う、うん。

 アルメタルくんは、踊りの始まる位置に移動する間、ずっと関係ないことを聞いている。

ネネちゃん:うーん、いるよ。

アルメタルくん:い、いるの!?。ほんとうにいるの!?。……う、うわーー、ぼくの人生終わりだぁ…。

ネネちゃん:あ、あの、アルメタル…さん、なんで人生終わりなの?。とりあえず終わるのあとにしようよ。そうしないと、私ペアの人いなくなっちゃうもん。

アルメタルくん:…うん、そうだね。じゃあ、ネネちゃん、ぼくと結婚してっ!。

ネネちゃん:ち、ちょっと…、それもあとにしてったらぁ…。そういう難しい話は、本当に終わってからにしてよ…、って、私アルメタルさんのおよめさんになりに来たんじゃないよぅ…。

 アルメタルくんの、実は相当な「変人ぶり」に、ネネちゃんは嘆いた。内心正直、「この人とペアを組んだのは、間違いかも…」とすら思っていた。

 そんなちょっとした騒動もあったが、軽快な音楽とともにダンスは始まった。コメットさん☆は、ツヨシくんと両手を握り合って、白い木綿のドレスを着ている。スカートには黒いラインが通してあって、とてもかわいい衣装である。木綿の生地には、花の模様が…。実は縫いビトの力作で、このために準備してもらったのだ。

星ビトJ:わあ、姫さま可愛らしいドレス…。お相手の男の子は、地球人のツヨシくんね。

星ビトK:あのお二人、お似合いねぇ…。可愛らしいカップルだわ。

星ビトL:…案外、未来の王子さまだったりして。

星ビトM:まっさかぁ…。…でも、ありうる…かな?。

 コメットさん☆は、そっとツヨシくんに次の動作をささやきながら踊る。

コメットさん☆:ツヨシくん、左足前ね。右手押すよ。…そう。そのまま横向左1歩…。

ツヨシくん:えっと、…こうかな?。あ、間違えた…。…おっと倒れそう…。

コメットさん☆:うん。そう。大丈夫、少しくらい間違えても、みんなけっこう間違えてるよ。ふふっ…。

ツヨシくん:でも、楽しい…。コメットさん☆と踊れて…。

 ツヨシくんは、コメットさん☆と、ずっと手を握っていられるのがうれしかった。それに、だんだん動きに慣れてきて、手足を動かす順番も、少しずつわかってきた。コメットさん☆のドレスと手足しか見る余裕がなかったのが、次第にコメットさん☆の顔を見つめられるようになってきた。

ツヨシくん:(コメットさん☆、きれい…。)

コメットさん☆:ツヨシくん、上手上手。少し手を大きめに動かしてみてね…。

 コメットさん☆がツヨシくんににっこりと微笑みかける。ふとコメットさん☆が、あたりを見ると、コメットさん☆のまわりと、メテオさんのまわり、プラネット王子の近くに、人垣が出来ているのに気付いた。それは星ビトの人々が、もしかするとそれほど遠くない未来、王様や女王さまに、なるかもしれない3人の王女・王子を、身近に見たいと思ったからだった。普段地球にいる3人は、このところめったにそろって星ビトの前に、姿をあらわすことはなかったわけである。

 それでもツヨシくんは、手足を動かしながら、コメットさん☆の笑顔に、また心が温かくなっていた。そしてコメットさん☆もまた、ツヨシくんのつないだ手から、流れてくる「気持ち」に、気付いていた。二人はいつしか、踊りながら、ほほえみを交わしていた。

 

 そのあとも綱引きや、仮装リレーと種目は続いた。

メテオさん:お母様、お母様ったら!。

カスタネット星国女王:なにかしら?、メテオ。

メテオさん:そ、それ何の格好なの?。いくら仮装とは言え…。

カスタネット星国女王:何って、魔女の格好よ。魔女って昔から地球の伝説にあるのではないの?。そういうふうに本で読んだわったら、読んだわ。

メテオさん:そ、それはそうだけど…。何もお母様が、それをまねしなくても…。

カスタネット星国女王:魔女は魔法を使うのだわ。ちょうど私のようじゃないの…。あなたもペアルックにな・ら・な・い?。

メテオさん:おおお、お断りするわ…、お母様。わ、私は美しいバレリーナのスタイルで…、い、行くわ。

カスタネット星国女王:あらそう。それは残念ねったら、残念ね…。

 メテオさんは、内心げんなりしていた。何しろ三角帽をかぶり、魔法の杖を持ち、黒いマントと長いスカートに身を包んだ女王が、そのままリレーに出ようというのだから…。もっとも自分もバレエのチュチュを着て、仮装リレーに出る段階で、もはや入賞できるかどうかなど、どうでもいいのは言うまでもなかった。

 仮装リレーは、適当なグループを組んで、そのグループでたすきをつないで走り、早くゴールできれば入賞である。コメットさん☆はこのリレーには出ず、応援に専念した。縫いビトたちは、コメットさん☆に何か着せたがったが…。

 ツヨシくん、ネネちゃんはお得意のヒーロースタイルで出場して、大いに会場をわかせた。しかし、メテオさんのチュチュと、カスタネット星国女王の出場には、さらに大きな拍手がわいたことは、言うまでもない。

 

 楽しかった運動会も、夕方が近くなる頃、最後の星ビト混合リレーで幕を閉じた。

 それぞれの星ビトたちは、参加賞である小さなメダルや、メモリーボール・メモリーストーンにかける「メモリー」を手にして、家路についた。メテオさんとカスタネット星国女王、プラネット王子とタンバリン星国王族会、ミラにカロン、ツヨシくんとネネちゃん、ラバボーにラバピョンは、ハモニカ星国王宮に帰った…。

次回に続く)

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★第169話:星国のおみやげ−−(2004年9月下旬放送)

 大運動会も終わって、コメットさん☆、メテオさん、プラネット王子は地球へ戻るまでの1日、つかの間の星国の休日を楽しんでいた。

 ハモニカ星国の昼下がり、運動会が終わって、静かな砂浜に戻った「ほうき星の海」では、デッキチェアに、コメットさん☆、メテオさん、プラネット王子が座っていた。ツヨシくんとネネちゃんも、波打ち際で遊んでいる。ミラとカロンも、まるで小さな子どものように、砂をかき寄せては、何か作って遊んでいる。無邪気な姉弟そのものである。

プラネット王子:伯父さんや、アリストーニたちは、今頃何をしているかな…。

メテオさん:うちのお母様も、またタヌキビトを困らせているんじゃないかしら…。

コメットさん☆:今頃楽しく食事会だと思うよ。お父様とお母様、それにヒゲノシタが主催するって言っていたから。ラバボーとラバピョンは、ヒゲノシタにつかまっているみたい。

プラネット王子:本当にオレたち、出なくてよかったのかな…。

メテオさん:いいわよ。私たちだって、少しは星国の空気を、ゆっくり吸いたいわ。

コメットさん☆:…そうだね…。ラバボーとラバピョンには、ちょっと気の毒だけど…。…あ、ツヨシくんとネネちゃんが呼んでる…。

 コメットさん☆は、チェアから起きあがると、砂浜を裸足で駆け出した。足の裏につく砂は白い。

ツヨシくん:コメットさん☆、コメットさん☆、小さな魚がいるよ。

ネネちゃん:このお魚逃げないよ、コメットさん☆。…きゃはっ、…わあ、波でお尻濡れちゃったぁ…。

コメットさん☆:そうだね。ここにいるのは普通のおさかなさんだよ。サカナビトさんじゃないよ。ネネちゃん水着きつくない?。

ネネちゃん:うん、大丈夫。ちょうどいいよ。コメットさん☆、水着貸してくれてありがとう…。でも、返すのに洗濯どこでしたらいいのかな。

コメットさん☆:いいよ。王宮のランドリーで、私が洗っておくから。

ツヨシくん:…ほら、ほら、この魚、手ですくえるよ。

ネネちゃん:わあ、きれい…。虹色に見えるよ。

コメットさん☆:ほんとうだ…。なんておさかなさんだろうね…。名前はわからないや…。

 その時、プラネット王子は、浜に足を投げ出して座っているミラのところに、ゆっくり歩いていった。

プラネット王子:ミラ、少し水に入って泳がないか?。

ミラ:あ、プラネット王子…。はい。いっしょに行きましょう…。

 ミラは、心なしか赤くなって、少しうつむいた。プラネット王子は、それを見て、少し微笑んだ。そして、プラネット王子は手を差し出すと、ミラは、その手を取って、二人浜からゆっくりと水に入って泳ぎだした。キラキラと水を光らせる日の光が、そんな二人を見守っている。

メテオさん:…あの二人…。

カロン:…メテオさま…。

 一人残されたメテオさんのもとに、カロンがやって来て言った。

カロン:メテオさま、ぼく、好きな子が出来たんです。

メテオさん:え?。

カロン:地球に好きな子が…。

メテオさん:…あそ。…で、なんでそれをわたくしに?。

カロン:2番目に好きな、メテオさまにお知らせしたくて…。

メテオさん:…はぁ?。に、2番目って…、な、なんなのよったら、なんなのよー!。まるで私は…、はっ!、…も、もう…。

 メテオさんは、イマシュンの顔を思いだして、カロンに「2番目」と言われたことに、怒っていいのか、なんと答えていいのか、わからなくなって、言葉に詰まった。その代わり、眉間によったシワが、よけいに深くなる。

メテオさん:あー、もう、美容に悪い話だわ!。カロン、いいこと?、今からバリバリ泳ぐわよ!。わたくしについていらっしゃい!。

カロン:え、ええー?、遠泳ですか?。…ふふふっ、はい。お供しますっ。

 メテオさんは、むっとしたような顔をしながら、胸にかけていたタオルを取ると、カロンが差し出した手を取って起きあがり、ずんずんと水に向かっていった。カロンは、少し微笑んで、それに従う。

メテオさん:みんなぁー、左側の離れ岩まで泳ぐわよ!。

 メテオさんは、水遊びをしていたコメットさん☆、ツヨシくん、ネネちゃん。それに、プラネット王子とミラに「宣言」した。

プラネット王子:おっ、メテオのいつものが始まったな。ふふふ…。よし、ミラ、行こうぜ。

ミラ:はい。

コメットさん☆:じゃあ、ツヨシくん、ネネちゃん、平泳ぎで行ってみよ。なんだかわからないけど…。深いところはないから…。

ツヨシくん:うん。ぼく大きなメダルもらったんだから、大丈夫だよ。

ネネちゃん:私も。…学校でもらう検定のメダルより、ずっと大きいよ。

コメットさん☆:わはっ、そうだね。よーし、競争だよっ!。

 みんなメテオさんとカロンを追って、いっせいに泳ぎだした。「ほうき星の海」は、今のところ星国で唯一の「海水浴場」だが、由比ヶ浜のように混雑するはずもない。だから沖に一休みできるフロートが浮かせてある、などということはない。ただの遠浅の海。誰が作ったのか、お手洗い、更衣室、お湯の出るシャワーがあるだけだ。でも、いわゆる磯浜だから、岩があって、小魚や貝がいたりする。少し沖には岩場があって、登ってみることも出来るのだ。

 

 離れ岩の平らなところを選んで、みんな腰を下ろした。地球の海と同じように、へたに座るとお尻が痛い。メテオさんは、浜のほうをぼぅっと眺めていた。地球とは比べものにならないほど、白い砂が広がっている。

メテオさん:私たちだけで、こんなのんびりした時間を過ごすなんて…、思いもしなかったわ…。

プラネット王子:ああ、そうだな。もし、オレたちの星国が、間違った向きに進んでいっていたら、こうやって、みんな仲良く話なんて、する機会もなかっただろうな…。…あー、でも、海はいいなぁ…。日の光が明るくて、涼しい風は吹くし、波に身をまかせていても、なんか心地いいし…。…オレの星国の海も、こんな風にしようかな…。あんまりよさそうな場所が無いんだけどな…。

コメットさん☆:あ、それいい…。タンバリン星国の海も見てみたいなぁ…。…場所は、ここだって大荒れの海だったんだよ…。でも、海の妖精さんが協力してくれた。海の妖精さん、ありがとう…。妖精さんのおかげだよ…。

 コメットさん☆がつぶやくように言った。すると、どこからともなく声が聞こえた…。

海の妖精:いいえ、私の見守る海に、たくさん星ビトがやって来て、星の子も、その様子を楽しそうに見るようになりましたよ。姫さまが地球というところで、地球の海の楽しさを経験してこなければ、ここは荒れた海のままだったでしょう…。私もうれしいと思っていますよ…。姫さま…。

 コメットさん☆以外のみんなは、驚いた様子であたりを見回した。コメットさん☆は、静かに目を閉じると、海の妖精に答えた。

コメットさん☆:海の妖精さん、妖精さんだね…。ありがとう、いつもありがとう…。いつまでもきれいな海にしておきたい…。これからもよろしくね。みんなで水遊びしたいから…。ほかの星国の海を、こんな感じにするときがあったら、また協力してあげてね…。

海の妖精:わかりました。ずっと見守っていますよ、この海を。ほかの星国の海も、私が見守るこの海のようにするならば、いつでも飛んでいきますよ…。では、みなさんごきげんよう。いつかまた…。

コメットさん☆:(ありがとう、海の妖精さん…。またね…。)

 コメットさん☆が、心の中でつぶやくと、同じように言葉こそ違え、そこにいたみんなが、心の中で海の妖精に感謝した。その様子を入り江の岩山の上から眺めていた鳥が、一羽そっと飛び立った。…海の妖精は、鳥の姿をしているのだった。

メテオさん:それはそうと、カロンったら、好きな子が出来た、ですって!。

カロン:ああー、メテオさま、な、何でここで言うんですか?。黙っててくださいよ…。

コメットさん☆:あはっ、それってみちるちゃん?。

カロン:こここ、コメットさま…。ど、どうして…。

 コメットさん☆は、にこっと笑って、カロンのほうを向いて言った。カロンはズバリと当てられ、真っ赤になってしどろもどろになった。

コメットさん☆:だって、花火大会の時、二人っきりで、ラバボーの言う「ほんわかかがやき」で、話していたもの…。それに海でいっしょに泳いでたし。

プラネット王子:なんだい?、そのほんわかかがやきって?。

コメットさん☆:恋人同士が見せる、ふわっとした感じのかがやき、らしいですよ。ふふふっ…。

ミラ:…それって、ラバボーさんには、全部わかっちゃうんでしょうか…?。

コメットさん☆:さあ?。…カロンくん、みちるちゃんにやさしくしなくちゃダメだよ。みちるちゃん、すぐ泣いちゃうよ。

カロン:…は、はい…。

プラネット王子:どうもこのところ、カロンのやつそわそわしているなと思ったら、それか…。あははは…。でも、いいよな、そういうのって…。

コメットさん☆:えっ?。

 コメットさん☆は、ふとプラネット王子の言っている意味が、わかったようなわからないような、不思議な気分にとらわれた。だが、その意味するところは、コメットさん☆にもある、心の蠢き(うごめき)のことなのだった。

プラネット王子:メテオもコメットも、その水着かわいいな…。どこで買ってもらうんだ?。

メテオさん:な、何見ているのよー。…恥ずかしいじゃないのー。

コメットさん☆:メテオさん、今、みんな水着だよ?。

メテオさん:…はぁ…。いいわねぇ、コメットは天然で…。…よ、横浜よ!。留子お母様に買ってもらったのよ。

コメットさん☆:天然って…。

プラネット王子:コメットは?。

コメットさん☆:わ、私は、沙也加ママさんに、新宿のデパートで…。

プラネット王子:ふーん、そうか…。ミラもオレもカロンも、藤沢のデパートなんだけど…。

メテオさん:おほほほほ…、って、単に地元なだけじゃない。それに新宿のデパートも、藤沢のデパートも、経営は同じでしょ。

プラネット王子:…ふふふっ、まあな…。

 そんな会話を楽しくするみんな。コメットさん☆、メテオさん、プラネット王子の3人が、遠い未来に、それぞれの星国をまとめるのかどうか。それはまだわからない。だか、もしその時が来ても、ここにいるみんなは、きっと友だちのままでいるに違いない…。

 

 コメットさん☆と、ツヨシくん、ネネちゃん、ラバボーとラバピョンを乗せた星のトレインは、ハモニカ星国を出て、一路地球に向かった。プラネット王子の飛行船、メテオさんの帆船とともに、並んで空を駆ける。そして2時間ほどに感じる時間飛行して、青い地球に近づくと、一気に三浦半島を目指した。三浦半島上空に着くと、星のトレインは他の船と別れ、七里ヶ浜を旋回し、景太朗パパさんと沙也加ママさんが待つ、藤吉家のウッドデッキを目指した。もうあたりは夕闇が支配している。

景太朗パパさん:おやっ、ママ、列車の音、聞こえないか?。

 リビングで新聞を読んでいた景太朗パパさんは、沙也加ママさんを呼びながら、窓の外を見た。

沙也加ママさん:あっ、確かに聞こえるわ。ああっ!。

 沙也加ママさんは、新聞を読んでいる景太朗パパさんの反対側に座って、お茶を飲んでいたが、立ち上がって窓の外、ウッドデッキを見た。その目にはあっという間に、星のトレインの姿が映っていた。

 停車した星のトレインのドアが開いて、ウッドデッキにコメットさん☆とツヨシくん、ネネちゃん、ラバボーとラバピョンが降り立った。そして玄関へまわり…。

ツヨシくん:ただいまー。

ネネちゃん:ただいま。メダルもらったよー。

コメットさん☆:ただいま戻りましたー。

ラバボー:ただいまですボ。

ラバピョン:ただいまなのピョン。

 沙也加ママさんと景太朗パパさんは、急いで玄関に出て、みんなを出迎えた。

沙也加ママさん:おかえり。みんな楽しかった?。

ツヨシくん:楽しかったー。

ネネちゃん:ネネちゃんもー。

コメットさん☆:コメットさん☆もー。

景太朗パパさん:あははは…。そうか、みんな楽しかったかい?。それはよかった。なんだか、昨日と今日、うちの中がシーンとしていてさ、寂しかったよ。

沙也加ママさん:さあ、上がって。順番にお風呂に入ってね。そうしたら夕食にしましょ。おなかすいたでしょ?。

 沙也加ママさんは、ずっと明るい顔になって、みんなを出迎えた。丸一日以上、がらんとしていた広い藤吉家の中に、またツヨシくん、ネネちゃん、コメットさん☆の明るい、楽しそうな声が響くのに、沙也加ママさんも、景太朗パパさんも、なんだかうきうきするような気持ちになっていた。

 

 夕食になって、ダイニングのテーブルでは、運動会の話に花が咲いた。

ツヨシくん:ぼく何個もメダルもらったよ。ほら。

景太朗パパさん:おおー、ツヨシやったなぁ…。どんな競技のだい?。

ツヨシくん:この大きくて金色のは、ビーチフラッグスだよ。

景太朗パパさん:ええっ?、ビーチフラッグスなんてやったの?。

コメットさん☆:あ、あの、私が競技として提案しました…。

景太朗パパさん:へぇー、それはまたずいぶん珍しいね。ネネはどうだった?。

ネネちゃん:うん。私もメダルもらったよ。水泳とか、かけっことか…。

沙也加ママさん:みんなすごいわね。まさか賞品もらってくるとは思わなかったわ。コメットさん☆はメダルもらえたの?。

コメットさん☆:はい。水泳と、ビーチフラッグスとか…。

沙也加ママさん:あら、コメットさん☆もビーチフラッグスに出たの!?。

コメットさん☆:はい。

 コメットさん☆は、ちょっと恥ずかしそうに、いくつかのメダルを見せた。

景太朗パパさん:ラバボーくんとラバピョンちゃんは?。

ラバボー:ボーももらいましたボ。徒競走と二人三脚ですボ。

ラバピョン:私ももらったのピョン。25メートル水泳と、二人三脚で…。ラバボーといっしょに出たのピョン。

景太朗パパさん:そうかー。みんな何かに入賞したんだね。でもねコメットさん☆、みんながたくさん持っている小さなメダルは、それ参加賞だろ?。

コメットさん☆:はい。参加賞に小さいメダルを出すことになったんです。

景太朗パパさん:本当はそっちのほうが、価値があるのかもしれない…。それはね、3つの星国が、分け隔てなくみんなで一生懸命やろうとしたこと、それが実はとても尊いんだと思うな、ぼくは。たとえ入賞できなくても、みんながいっしょに努力した…。そのあかしが、参加賞の小さなメダルなんじゃないかな。

コメットさん☆:…はい。本当にそう思います。メテオさんや、プラネット王子、それにメテオさんのお母様や、プラネット王子の王族会の人たちが、みんなうれしそうにしてくれましたし…。それを見ていて、こんな交流が続けばいいなぁ…って。

沙也加ママさん:そうね。みんなで楽しいことをすれば、みんな笑顔になって、幸せな気持ちになれる…。それって大事なことだわね。

 コメットさん☆は、景太朗パパさんと沙也加ママさんの言葉に、にっこりと笑って、うなずいた。

沙也加ママさん:それにしても、本当にみんな2日で帰ってきたのね…。星国では5日たったの?。本当に5日?。

ツヨシくん:うん、間違いなく5日いたよママ。

ネネちゃん:信じられないの?、ママ。

沙也加ママさん:ううん、信じるけど…。どういうことだろうって…。なんだか計算の合わないお店の売り上げみたいな…。

景太朗パパさん:あっははははは…。

 藤吉家の食卓には、楽しそうな声がいつまでも響いていた…。

 

 コメットさん☆は部屋に戻ると、ティンクルホンを取って、地球へ無事戻ったことを報告するため、星国の王妃さまに電話をかけた。

コメットさん☆:あ、お母様?。さっき戻りました。

王妃さま:コメット、あのね、星国は今大変なことになっていますよ。

コメットさん☆:えっ!?。何か悪いこと?。

王妃さま:いいえ、そうじゃないわ。星ビトたちが大喜びで、次はいつですか?って。私もパパも、星ビトに会うたびに聞かれるわ。

コメットさん☆:ああ、よかった…。一瞬心配しちゃった…。運動会、そんなにみんな喜んでくれているの?。

王妃さま:そうですよ。このままだと、春と秋の2回やることになりそうよ、コメット。

コメットさん☆:わあ、それって楽しみだね。お父様は何て?。

王様:お、コメットか?。わしじゃ。もう忙しくなりそうだぞ。

 王様は、王妃さまから受話器を、半ばひったくるようにして取ると、コメットさん☆に語りかけた。

コメットさん☆:よかった…。みんな喜んでくれて…。

王様:王妃は、「ちょっと大規模にやりすぎだったかしら」とか言っておるが…。タンバリン星国とカスタネット星国からも、大好評なんじゃよ…。特にカスタネット星国は、女王がやたら乗り気でな。わっはっは…。

コメットさん☆:ええっ!?、メテオさんのお母様が?…。

 

 コメットさん☆は、王妃さまの発案が、3つの星国の交流をすすめることになれたのを、とてもうれしく思いながら、電話を終えた。そして、星国から持ってきたメモリーボールのメモリー体を、窓辺のメモリーボールに入れると、もう一つ小さなメモリーボールを取り出した。

ラバボー:あれ?、姫さま、そのメモリーボールなんだボ?。

コメットさん☆:うん。これ、おばさまにあげよ。

ラバピョン:スピカさま?。…そういえば、スピカさまはメモリーボール持っていないのピョン。日記帳には何か書いているけど…。

コメットさん☆:うん。だから、今度の運動会の様子、入れてきた。おばさまにも、星国の様子、見てもらおうよ。

ラバボー:それはいい考えだボ。スピカさま見たがるはずだボ。

ラバピョン:スピカさまに、もう一度メモリーボールをあげるのねピョン。みどりちゃんの成長も記録できるのピョン。

コメットさん☆:あ、そうだね。みどりちゃんの成長…。どんどん大きくなるみどりちゃん…。

 コメットさん☆は、八ヶ岳の家に帰るラバピョンとともに、星のトンネルを通って、スピカさんのもとに行った。スピカさんは、みどりちゃんを寝かしつけるために、ちょうど絵本を読んであげたところだった。サンルームの窓に近づくと、中を片づけているスピカさんが見えた。

 コメットさん☆は、窓をそっとコツコツと叩いた。

スピカさん:あら、誰かしら?。あ、コメットとラバピョン…。

 スピカさんは、サンルームの扉を開けた。

コメットさん☆:おばさまこんばんは。

スピカさん:どうしたのかな?、こんな時間に。

コメットさん☆:今日はおばさまのために…。おばさま、メモリーボールを持ってきました。星国のおみやげ…。

スピカさん:えっ?、メモリーボール?。何か入っているの?。

コメットさん☆:はい。カスタネット星国と、タンバリン星国と、ハモニカ星国で交流大運動会をやったの。お母様の発案で…。私とメテオさん、プラネット王子、ツヨシくんやネネちゃん、ミラさんやカロンくんで種目を決めて…。

スピカさん:へぇー、そう。楽しかった?。

コメットさん☆:はい。それに…、星ビトがみんな大喜び。これからも年2回くらい開くことになりそうだって…。それで、その様子を、このメモリーボールにおさめてきたの。おばさまに見せたくて…。

スピカさん:そう。ありがとう…。コメットは、やっぱりやさしいのねぇ…。メモリーボールかぁ…、何年ぶりかしら。

コメットさん☆:じゃあおばさま、もう遅いから私これで帰るね。ラバピョンからも話聞いてね。

ラバピョン:スピカさま、私もメダルもらったのピョン。

スピカさん:ほんと?。あら、その首にかけているのがそれね。…わかったわ。ありがとうコメットにラバピョン…。最近忙しくて、星国のこと忘れかけていたかも…。

コメットさん☆:おばさま、それじゃあおやすみなさい…。

スピカさん:おやすみ、コメット…。…それと、ありがとう…。

 コメットさん☆とメモリーボール。スピカさんと星国を結ぶ絆…。コメットさん☆は、星力でラバピョンを家まで送り届けると、また星のトンネルを通って帰った。それを遠くで見送ったスピカさんの目には、少し光るものがあった。スピカさんはつぶやいていた。

スピカさん:…星国のおみやげ…か…。

 そんなスピカさんの想いとは別に、コメットさん☆は思っていた。これからも、星国同士の交流が、ずっと続きますように、と…。

(このシリーズ終わり)
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★第172話:メテオの留守番−−(2004年10月中旬放送)

 メテオさんが、3時のおやつを食べようかと、自室から出て、1階に降り、ダイニングの扉を開けると、となりのリビングから、幸治郎さんと留子さんの声が聞こえた。

幸治郎さん:やっぱり、ゆっくり出来るところがいいねぇ。

留子さん:そうですねぇ。東北でしょうねぇ。

幸治郎さん:うん。東北の温泉にしてみようか。

留子さん:いいですね。じゃあそうしましょう。

幸治郎さん:どのくらい時間がかかるのかなぁ。やっぱり新幹線かね、留子さん。

留子さん:バスには少し弱いですから…。

幸治郎さん:そうだったねぇ…。やっぱり電車で行こう。

 メテオさんは、そんなやりとりを聞いて、何の話だろうかと思い、リビングの扉を開けた。

メテオさん:お父様、お母様、どこかに行くのかしら?。

留子さん:あらメテオちゃん、そうよ。よくわかったわね。東北にね、温泉旅行に行こうかと思っているのよ。

メテオさん:温泉旅行…?。

幸治郎さん:そうなんじゃ。私と留子さんはね、新婚旅行に、東北を旅したんだよ。それで今季節も、紅葉が見頃だというから、私ら夫婦でもう一度行ってみようかと思ってね。

メテオさん:そう。お父様とお母様の新婚旅行って、東北だったの?。

留子さん:ええ、そうよ。あのころは汽車に乗ってね。ずいぶん時間がかかったわ。それでメテオちゃん、私たちが旅行に行っている間、一人になるけどお留守番頼むわね。メトちゃんの世話もしてあげてちょうだい。

メテオさん:留守番ね。ええ…。……えええーーっ。わ、わたくし一人でぇー!?。…ち、ちょっと…。

 メテオさんは、突然の話に、一瞬事態が飲み込めず、何気なく返事をしてしまうところだった。

留子さん:だって、あなたも連れて行ったら、誰もメトちゃんの世話してくれる人がいなくなってしまうわ。

メテオさん:…そ、それ…は。で、でも、わたくし、一人でどうすればいいのよー!。

幸治郎さん:いいんだよ。お友だちを呼んでも。あの青年を呼んでもいいよ。ほら、恋人の…なんて言ったかな、…そう、イマシュンという彼だね。

メテオさん:…ち、ちょっと…。ししし、瞬さまを、よ、呼ぶなんて…。

留子さん:あら、恥ずかしがることないじゃない?。もう二人も年頃よ。

メテオさん:そ、そういうことじゃなくてぇー!。…だ、誰がごはん作ったり、洗濯したり、掃除したりするのよー。庭の掃除もぉー!。

留子さん:そのくらいメテオちゃん、もう出来るでしょ、一人で。

メテオさん:…そ、それは…。

 メテオさんは、そう言われると言葉に詰まった。

幸治郎さん:メテオちゃん、頼むよ。3泊もしたら帰ってくるからね。

留子さん:お料理も、お洗濯も、メトちゃんの世話も、上手なメテオちゃんだもの、大丈夫よね。

メテオさん:……。

 メテオさんは、もう黙るしかなかった。料理も洗濯も自信なんてあるわけはなかったが…。

 

 翌日、幸治郎さんと留子さんは、もう出発していった。タクシーを自宅まで呼んで、大船駅へ向かうのだ。

留子さん:じゃあメテオちゃん、あとよろしく頼むわね。メトちゃんにはちゃんとごはんをあげてちょうだい。あとトイレの掃除もしてあげないとダメよ。

幸治郎さん:おみやげ、たくさん買ってくるからね。じゃあいい子にしているんだよ。

メテオさん:…い、いってらっしゃい…。

 メテオさんは、暗い声になりながら、楽しそうな二人を見送った。タクシーは手を振る留子さんと幸治郎さんを乗せて、軽快に走り去った。

 車が行ってしまうと、メテオさんは、急に不安な気持ちになった。広いのをいいことに、普段好き勝手に振る舞っているこの家を、メトとムークはいるにしても、実際上たった一人で留守番しなくてはないないのかと思うと、「どうしよう…」という思いのほうが先にたった。

メテオさん:…うなだれていたってしょうがないわったら、しょうがないわ。たったの3泊4日くらい、お父様とお母様がいなくたって、なんとでもなるわよ!。

 メテオさんは、口に出して言ってみた。すると、少し力がわいた。メテオさんは、まず庭の手入れをすることにした。そして庭に出ようと思って、ふとメトのトイレを見ると、メトがまさにそのトイレを使っているところだった。

メテオさん:あー、そうだったわ。メトは今頃よくトイレするんだったっけ…。そっちの掃除が先だわったら、先だわー。

猫のメト:にゃー。

メテオさん:はいはい。ちゃんとお知らせしてくれるのはありがたいけど…。うわ、くさい…。はあ、なんでわたくしがぁー!。…あ、星力を使えば…。…でも、それは…。

 メテオさんは、猫トイレの砂を手早くポリ袋に入れて、専用のゴミ箱に捨てると、トイレの容器を取り替えて元の位置に置いた。メトが少しばかり不思議そうな顔で、そんなメテオさんを見ていた。

 メトのトイレをきれいにしたメテオさんは、今度こそ庭に出た。庭に生えているバラたちに、水をやらなければならないのだ。庭の隅にある水道から、ホースを引いて、水を出し、まく。

メテオさん:ムーク、ムーク。蛇口をひねってよ!。

ムーク:おお、姫さま、一人でかがやきみがきですなー。それはすばらしい。星力をお使いにならないのですね。

メテオさん:あー、もうどうでもいいから、早く水出してったら!。

ムーク:はいはい〜。じゃあ出しますよ。…よっと、3回くらい回してやれ。

 メテオさんは、なかなか出ない水を、今か今かとホースの先をのぞき込んで見ていた。そこにムークがおもいきり回した蛇口から、一気に大量の水が来て、メテオさんの顔にばしゃっとかかった。

メテオさん:…わっ…ぷ。…むむむむ…、ムークっ!。

ムーク:はい何でしょう?。

メテオさん:蛇口、ひねりすぎっ!。もう、夏でもないのに、服まで濡れちゃったわよ!。

ムーク:おやおや、それは大変。すみませんねー。…たまにはいい薬かもねこりゃ。

 ムークはぼそぼそと、日頃の気持ちをぶつけるかのように言った。

 秋のバラは、水を得て秋晴れの日の光にキラキラとかがやく。しかし、メテオさんには、そんな風情を感じている余裕はないのであった。

 ようやく庭の水やりを終えて、部屋に戻ると、今度はメトが猫のおもちゃを口にくわえてやって来た。遊んでくれというのである。メトはメテオさんが拾ってきた猫だが、もう2歳になる。何にでもじゃれつくということはなくなったが、キャッツトイで遊んであげないと、室内飼いだから、ストレスがたまってしまうのだ。

メト:にゃーん。にゃぁーん。んゴロロロロロロロ…。

メテオさん:ふう…。やっと一休みしてたのに…。もうしょうがないわ。ほら、メトいくわよ!。

 メテオさんは、メトが持ってきた、細いプラスチックの棒の先に、ねずみの形をした毛玉がついたおもちゃを、メトの鼻先すれすれに振り回す。するとメトは、その毛玉を追いかけて夢中でつかまえようとする。そしてつかまえてはかじり、そしてまた放し、爪でひっかけてつかまえ…というのを繰り返す。メテオさんは、そんなメトを、面白がって見ていた。だが、そんなことをしているうちに、何となく口寂しくなってきた。ふとメテオさんが時計を見ると、もうすぐお昼の時間である。

 メテオさんは、お昼ごはんを何にするか、何も考えていなかったので、仕方なく近所のコンビニエンスストアに行って、お弁当でも買ってこようと思った。

メテオさん:…はぁ…、なんだかこんなところ、誰にも見せられないわったら、見せられないわー。

ムーク:まあ、仕方ありませんな。早く帰って食べることです、姫さま。

メテオさん:わかったわよ…、もう。

 メテオさんは、嘆きながら、コンビニエンスストアの袋を下げ、家に向かって坂を上り始めようとした。と、その時、聞き覚えのある声が背後からした。

カロン:あれ?、メテオさま、メテオさまじゃないですか。どうしたんですか、こんなところで珍しいですね。

メテオさん:あーっ、カロン、カロンじゃないのー。…ま、まさか、みちるちゃんとかいう、女の子といっしょじゃないでしょうね?。

 メテオさんは、後ろからカロンに声をかけられ、飛び上がるほどにびっくりしつつ、みちるちゃんがいっしょでないか、さっさっとあたりを見回した。

カロン:…みちるちゃん…ですか?。彼女はテストなので、今日はいっしょじゃないです。ぼくも、たまたまこの近所に今住んでる、友だちのお兄さんに借りた、ノートのコピーを取りに来たんですけど…。メテオさまは何をしに来たんですか?。

メテオさん:べ…、別に用なんてないわよ、おーほほほほほ。

カロン:あ、何か買ったんですか?。お菓子とか?。

 カロンはメテオさんが下げている、半透明のポリ袋の中身をのぞき込んだ。

メテオさん:ななな、何でもないわったら、何でもないわー!。

 

 二人は数分後、メテオさんの家のそばにある、ちょうどメトを拾った公園のベンチに座っていた。

カロン:なあんだ、そういうことですか。別に隠すことないじゃないですか。

メテオさん:だ、だって…、ご、ごはんだもの…。

 メテオさんは、普段見せないような困ったような顔をした。

カロン:夕食はどうするおつもりですか?。星力使うんですか?。

メテオさん:と、当然わたくしが自分で作るわよ!。

カロン:そうですか。じゃあ、明日、ぼく試験休みなんで、ごはん作ったり、お手伝いしたりしに行きますよ。あ、神也さんも連れていきます。

メテオさん:い、いいわよったら、いいわよ。大丈夫よ一人で。

カロン:どうせぼくも明日はヒマですし…。メテオさまの家って、まだよく見たことないから…。

メテオさん:…カロン…。…し、しょうがないわね。そ…、そんなに来たいっていうなら…。神也も連れてきていいわ!。

 メテオさんは、もったいぶったように、強がって言ってみた。内心は、「助っ人が現れてくれたかも…」と思いつつ。

カロン:では、明日行きます。場所はこの先ですよね。そうだ、神也さんが知っていますね。

 カロンはにこっと微笑んで答えた。

 家に帰ったメテオさんは、ムークと遅めの昼食をとった。さっき買ってきた、お弁当である。

メテオさん:なんでこう、揚げ物ばっかりなのよー!。

ムーク:仕方ありませんな。腐らせないようにという配慮かとー。

メテオさん:…脂っこい…。うう…。ゆ、夕食こそ!。わたくしが豪華に作るったら、作るんだから!。

ムーク:…あまり無理はしないほうがいいのでは〜。

メト:にゃあん…。

 

 夜になって、メテオさんは、自らの夕食を作るために「格闘」していた。豪華に作ると宣言した割には、質素な内容だった。買ってきた野菜を洗ってサラダと、同じくオーブンで焼くだけのグラタンを作り、それに明日のためにごはんを炊いておこうと思ったのだ。明日の朝食のおかずも、一応は買ってきた。サラダはなるべくいろいろな材料を、と思って買ったつもりだった。ルッコラにサニーレタス、キュウリにフルーツトマト、ムラサキタマネギ…。それらをざくざくと刻み、ボウルに入れていく。

メテオさん:…これって、明らかに…、作りすぎだわ…。でも…、キュウリにしても、サニーレタスにしても、1本とか、4分の1個なんて、買えるものじゃないし…。

ムーク:…うーむ、これは食べられるだけ食べて、明日に残しておくしかありませんな。

メテオさん:そうね…。仕方がないわ…。

 そんなとき、メトがキッチンにやって来て、メテオさんの足もとに、しっぽを立てながら体をすりつけてきた。メテオさんは、ちょうどグラタンをオーブンに入れて、時間を15分にセットしたところだった。

メテオさん:オーブンはあったまっていないと、書いてあるのより時間がかかるはずだわ。これは…、5〜8分と書いてあるけど…、長めにしておいて、途中でとめればいいわね。…何?、メト。どうしたの?。

メト:にゃあーーお、にゃあーーーお。

 メトは相変わらずメテオさんの足に、まとわりついて何かを催促している。

メテオさん:あ、メトにごはんあげなきゃ!。おなかがすくのは、何も私だけじゃないわ!。メト、ごめんね。今あげるわ。ちょっとまってね。

 メテオさんは、急いでキッチンの戸棚をあけ、メトのキャットフードを探した。

メテオさん:えーと、ここだったかしら…、あ、あった。これね。えーと、缶切り缶切り…。あ、すぐに開くやつだわこれ…。よしよし、メトこっちよー。

 メテオさんがキャットフードの缶を見つけると、メトはうれしそうにまたメテオさんの足に、体をすりつけた。

メト:うにゃあん…。ごろろろろろろ…。

ムーク:…ふんふん、おんや?、いいにおいがただよってると思ったら、なんだか焦げ臭いですなー。姫さま、姫さま、オーブン大丈夫ですか?。

メテオさん:あー、ちょっと手が放せないから、ムークが見てよったら、見てよ!。

 メテオさんは、メトのごはん皿に、キャットフードを盛りながら答えた。

ムーク:…そ、そんなこと言ってもね…。私じゃ止められないっていうか…。姫さま、本気で焦げているかもしれませんよー。

メテオさん:待ってたらぁ!。

ムーク:あー、なんか煙が出てきた…。知ーらないったら、知ーらない…って、私の食事はどうなるんでしょ?。…姫さまぁー!、煙ー!。

メテオさん:もうしょうがないわね、……あー!…。

 メテオさんとムークは、黙々と、きつい焦げ目のついたグラタンを、作りすぎのサラダとともに口に運んだ。二人とも押し黙って…。

 メテオさんは、夜寝るときになって、メトがそっとベッドに入ってきたのに気付いた。メトは、メテオさんの体に、額を押しつけるようにすると、すぐに寝入ってしまった。メテオさんは、そっとメトの背中をなでるとつぶやいた。

メテオさん:ごめんね、メト…。あなたの世話、お母様にまかせっぱなしだったわ…。

 

 翌日、メトが自分の胸を、前脚で踏んで起こそうとしているのに気付いたメテオさんは、眠い目をこすりながら目を覚ました。

メテオさん:なあに…?。もう朝?。…メトはごはんね…。あーあ…眠いわ…。…えーと、今日は何曜日かしら?。…んー、…はっ!。今日って、ゴミ捨ての日じゃないのー。今何時…?、も、もう9時近いわ!。

 メテオさんは、枕元の時計を見ると、パジャマのままでキッチンの隅にまとめておいたゴミの袋をもって、玄関から飛びだした。そして、数十メートル走ったメテオさんの目には…、走り去る清掃車の後ろ姿が映っていた。

メテオさん:わあー、間に合わなかったじゃないのー!。…もう。…あっ。

 通りすがりの人が、くすくす笑っている。ふとそれを見たメテオさんは、自分がパジャマのままなことをすっかり忘れていたことに気付いた。メテオさんは、真っ赤になって、再びゴミの袋を持ったまま、家に飛んで帰った。

メテオさん:はあ…、はあ…、…もう、最悪だわー。

 メテオさんは、坂道と階段の上にある玄関でへたり込んだ。髪の毛もとかしてないし、パジャマ姿を近くの人に見られたのは、恥ずかしさを通り越して、悲しかった。

 しばらくして、前の日に買っておいた総菜と、なんとか炊いたごはんとともに朝食をすませたメテオさんのもとに、カロンと神也くんがやって来た。

神也くん:メテオさーん。会いたかったですー。…もう、メテオさんも冷たいですね。ぼくに言ってくれれば、ずーーーっとごいっしょしたのにー。

メテオさん:…はぁ…。い、いらっしゃい…。

カロン:メテオさま、こんにちは。ぼくたちお手伝いしますから、何でも言って下さい。…ただ、3時くらいまでしかいられませんけど。

メテオさん:カロン、助かるわったら、助かるわ。さっそくだけど…、庭の水やりして下さらない?。

カロン:はい。メテオさま。

メテオさん:…私は猫のメトの、トイレの世話してくるわ。毎日トイレの掃除はしてあげないとならないから…。

カロン:…メテオさま、大変なんですね。

メテオさん:だって、猫だって生き物だから。大事な命だもの…。

カロン:…そうですね。

 カロンがにこっと笑うと、メテオさんも、少し落ち着いた顔になった。その時今度は神也くんが、にやついた顔で言った。

神也くん:メテオさーん。ぼくは掃除をしますねー。掃除機どこですかー?。

メテオさん:あっ…、し、神也…ありがとう。…掃除機は、2階の物入れよ…。

神也くん:…2階、…こっちですねー。

 メテオさんは、神也くんにも、申し訳なさそうな顔を向けた。それを見た神也くんは、いっそううれしそうな顔で、2階に上がっていった。メテオさんは、それを見届けると、手早くメトのトイレを洗ったり、砂を補充したりした。そして、庭に出ると、一人で水をまいているカロンのところに走った。

メテオさん:カロン、ありがとう。あとはわたくしがやるわ。

カロン:あれ?、メテオさま。いいんですか?。ぼくがやりますよ?。

メテオさん:いいのよ。私のほうすんだから…。あなたは休んでいて。

カロン:は、はあ…。

 メテオさんは、カロンから水やりのホースを受け取ると、昨日と同じように、庭のバラたちに水やりを続けた。カロンにムークが耳打ちした。

ムーク:姫さまは、今日も失敗続きなんですがー、星力を使わずに、出来ることは自分でやろうとしているようです。

カロン:…そのようですね…。メテオさま、えらいなぁ…。

 メテオさんは、水やりを終えると、今度は神也くんがかけていた掃除機を受け取って、自分の部屋や、幸治郎さんと留子さんの寝室や書斎にもかけた。窓を開け放ち、外の風も入れる。そんな様子を、遠くから見ていたカロンと神也くんは、顔を見合わせながら、みんなで食べる昼食の準備に取りかかることにした。

 

メテオさん:…で、こ、これは何なのよったら、何なのよー。

神也くん:え、えーと、メテオさんのために作ったトーストと、ハムエッグ…だったはずなんですがー。

カロンくん:どうも、両方とも焼きすぎたみたいですね…、メテオさま…。

メテオさん:この消し炭みたいなのを、食べろって言うの?。

 メテオさんは、お昼を作ってくれるという神也くんと、カロンの申し出を楽しみにしていたのだが…、朝食のようなメニューもさることながら、皿に盛られた焦げだらけのパンと料理に愕然とした。

神也くん:メテオさん、すみません…。どうも勝手が違っていて…。作り直しましょう。

カロン:油のひき方が、足りなかったんじゃないですかね。…うわ、これはなんだか苦い…。

 カロンもパンをかじってみて、苦いほどの焦げに閉口した。

メテオさん:……。食べるわよったら、食べるわよ。…せっかく作ってくれたんだし…。もったいないじゃないのー。

 メテオさんは、自分のために、二人の男の子が、なんとかしてくれようとしたのだと思うと、パンの焦げたところは削り落としながらも、黙って食べ始めた。

ムーク:…わが姫さまも、成長したもんだ。しかしー、私の食事はどうなるのでしょう?。もしかして昼抜きか?。そうなのか?。うー、つらいところだー。

 離れたところから、そっと三人の様子を見ていたムークは、独り言のようにつぶやいていた。

 

 お昼ごはんを食べて、トランプなどして遊んでいた3人だったが、3時過ぎになると、カロンと神也くんは帰っていった。彼らは学校の生徒だから、ちょうど試験週間なのであった。そんな中でも、なにがしか手伝いに来てくれた二人に感謝しつつ、メテオさんは、カロンと神也くんを見送った。しかし、二人の後ろ姿を見送ってしまうと、なんだか自分が情けなくなるような、寂しい気持ちでいっぱいになってしまった。

メテオさん:お母様…、お父様、早く帰ってきてよ…。

 そんな弱気な言葉も、口をついて出た。

 ところが短くなった日が、江の島の向こうに沈む頃、玄関の呼び鈴が鳴った。

メテオさん:ムーク、ちょっと様子を見てきて…。…ムーク、ムーク?。どこ行ったのかしら…、しょうがないわね。

 メテオさんは、こんな時間の来訪者に、少し不安を覚えながら、なぜかいないムークを不思議に思いつつ、玄関にそっと出た。

コメットさん☆:メテオさん、こんばんは。

 そこに立っていたのは、コメットさん☆だった。メテオさんは、ほっとしたようにドアを開けながら応えた。

メテオさん:…なぁんだ、コメットなの…。あら、ムークも!?。

コメットさん☆:ムークさんが知らせてくれたんだよ。メテオさんが一人で困っているって。

メテオさん:…そんな、困ってなんて…。…いるかも…。

 ムークはそっとメテオさんの住んでいる風岡邸を抜け出し、コメットさん☆の家まで行ったのだった。そして、一人で寂しそうに、しかし星力を使わないで、一生懸命に家事をこなすメテオさんの話をムークから聞いて、コメットさん☆は、風岡邸にやってきたのだった。

コメットさん☆:いっしょに夕食のおかず、買いに行こ。

メテオさん:…うん。

 メテオさんは、少しうつむいて、小さい声でうなずいた。そして…。

メテオさん:コメット、ムーク、…ありがとう。

 

 近くのスーパーに向かう道すがら、メテオさんは、コメットさん☆にたずねた。

メテオさん:どうしてわたくしのことを…?。

コメットさん☆:だって、お友だちじゃない。困っている人は助ける…。ねっ?。

 コメットさん☆は、メテオさんににこっと微笑みかけた。メテオさんも、黙ってにこっとした。

メテオさん:…おこちゃまたちは?。

コメットさん☆:来たがったんだけど…、明日学校があるからって、沙也加ママが。

メテオさん:そう…。

 

 夕食は、品数がぐっと豊富になった。コメットさん☆が煮た鶏のささみのしょうが煮。メテオさんが作った鯛のムニエル。サラダの残りに卵焼き。メトには、コメットさん☆がアジを水煮にしてあげた。

コメットさん☆:猫ちゃんのごはんも、自分で煮てあげるといいんだって。本で読んだよ。

メテオさん:…そう。私、缶詰でいいのかと思っていたわ。

コメットさん☆:缶詰もいいんだけど、せっかくだし、アジ安かったじゃない。

メテオさん:ふふふっ…、そうね。あっ、メト大喜びしている…。

コメットさん☆:そうなの?。メテオさん、わかるの?。

メテオさん:ええ…。ああしてごろごろ言いながら食べてるときは、うれしい証拠よ。

 メテオさんは、メトが専用のごはん皿に盛られたアジの水煮を、のどを鳴らしつつ一心不乱に食べているのを、やさしい目で見ながら言った。コメットさん☆は、目を丸くして見ていたが、メテオさんの様子に、柔らかな目を、メトに向けた。

 夕食がすんで、後かたづけが終わり、エプロンを外しているコメットさん☆に、メテオさんは、そわそわしながら、そっと言った。

メテオさん:…泊まっていってよ、コメット…。

コメットさん☆:うふっ、実は、そのつもりで来たんだよ。ほら。

 コメットさん☆は、持ってきたデイパックを引き寄せると、メテオさんに見せた。中には着替えと、パジャマが入っていた。

メテオさん:…コメットったら…。…よかった。帰っちゃうのかと思ったわ…。

コメットさん☆:あさってなんでしょ?、幸治郎さんと留子さんが帰ってくるの。

メテオさん:…ええ。

コメットさん☆:じゃあ、二人が帰ってくるまでいてもいいかな?、私。

メテオさん:…ありがとう…。…もちろんよ…。

 メテオさんは、少し目を潤ませた。

 夜は更けていく。メテオさんは、お風呂をわかし、いっしょにコメットさん☆と入った。お風呂では、コメットさん☆の日焼けしていない体に、メテオさんは驚いた。

コメットさん☆:わあ、ずいぶん大きなお風呂だね。メテオさんいいなぁ…。

メテオさん:…そ、そう?。毎日入っているから、あまりよくわからないけど…。

コメットさん☆:湯船がこんなに大きいの、はじめて。リゾートホテルならあるけど…。

 コメットさん☆は、西伊豆のホテルにあった大浴場を思いだしていた。

メテオさん:コメットって、ほんとに日焼けしないのね。

コメットさん☆:うん。あ、メテオさんは水着のあとが少し残ってる…。

メテオさん:わ、わたくしは…、母も少し日焼けするわ…。だから、地球と星国を行き来するときは、なるべく船の外側には出ないわ。

コメットさん☆:ふぅん…。

メテオさん:…そ、そんなに見ないでよ…。恥ずかしいじゃないの…。

 メテオさんは、コメットさん☆がじっと見るので、なんだか恥ずかしい気持ちになった。

コメットさん☆:あはっ、ごめんね。じゃあ潜っちゃおう!。

 コメットさん☆は、まるで子どものように、広い湯船のお湯に潜った。

メテオさん:何やってるのよ、コメットは…。じゃあ、わたくしもシャワーで…。

 コメットさん☆がざばっと頭を出すと、メテオさんはすかさずシャワーでお湯をたくさんかけた。

メテオさん:はーい、きれいきれいしましょうねー…だわ。

コメットさん☆:きゃはぁっ!。もうーっ。メテオさんにもお湯かけちゃお!。

 コメットさん☆も負けじと、手桶にお湯をくんで、メテオさんにひっかけた。風岡邸のお風呂には、いつまでも、二人の王女の歓声がこだましていた。

 

 楽しい時間はどんどんと過ぎていく。翌々日になって、それも夕方になるころ、メテオさんのベッドで、メテオさんと二人うたたねをしていたコメットさん☆は、車の音に気付いた。

コメットさん☆:メテオさん、幸治郎さんと留子さん帰ってきたんじゃないかな?。

 コメットさん☆は、メテオさんを起こした。

メテオさん:んー…?、…えっ、そう?、そうかしら?。お父様、お母様ー!。

 メテオさんは、跳ね起きると、ドアを開けるのももどかしく、1階に降りていった。コメットさん☆も、デイパックを持ってあとを追う。メテオさんが1階に降り、さらに玄関のドアを開けると、階段の向こうにタクシーから降りた、幸治郎さんと留子さんの姿があった。コメットさん☆は、それを見ると、そっとバトンを出して、星のトンネルの入口を、メテオさんの家の庭に出現させた。

メテオさん:お父様、お母様おかえりなさいっ!。

幸治郎さん:メテオや、ただいま。

留子さん:ただいま。いい子にしてた?。メトも元気?。

メテオさん:ええ。私もメトも元気よ。

留子さん:寂しくなかった?。ふふふ…。

メテオさん:大丈夫よったら、大丈夫よ。コメットが泊まりに来てくれたの…。

コメットさん☆:じゃあね、メテオさん…。

 コメットさん☆は、そっと星力で声をメテオさんに飛ばすと、星のトンネルを通って、ツヨシくん、ネネちゃん、それに景太朗パパさんや沙也加ママさんの待つ家に向かった。

メテオさん:…あ、え?、コメット?…。

 メテオさんは、コメットさん☆の声を聞いて振り返ったが、そこにはもうコメットさん☆の姿はなかった。

留子さん:メテオちゃん、おみやげよ。

メテオさん:わあー、お母様ぁ!。

 メテオさんは、留子さんの声に、前に向き直り、おみやげを手に持つ留子さんに抱きついた。しかし…。

メテオさん:(…コメット、ありがとう。…それに、カロンも神也もムークもね…。みんな…ありがとう…。)

 メテオさんは、心の中でつぶやいていた。

メテオさん:お母様、わたくしにもう少し、上手な料理の仕方教えて。そうでないと、わたくし、干上がってしまうわったら、しまうわ。

留子さん:あらあら、メテオちゃん、珍しいこと言うのね。いいわよ、いっしょにいろいろ覚えましょ。

メテオさん:ええ…。

留子さん:(メテオちゃん、たった3日留守にしたけど、いろいろあったみたいね。一人でたくさんのことをやり遂げる大変さ、少しはわかってくれたかしら?。うふふふ…。)

 メテオさんは、幸治郎さんと留子さんの荷物を持って、家に入った。一方星のトンネルを通って、家に向かうコメットさん☆は…。

コメットさん☆:ツヨシくん、ご機嫌斜めかな。うふっ…。ネネちゃんにも心配かけちゃったかな…。沙也加ママや景太朗パパは…。

 家に向かって一直線に伸びる星のトンネル。そのまわりには夕焼けの赤い光が満ちていた…。

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★第173話:医者ビトの不思議な治療−−(2004年10月下旬放送)

 すっかり秋めいて、だんだん肌寒くなってきた鎌倉。そんなある夜のこと、夕食をすませたコメットさん☆は、2階の自分の部屋で、困ったような顔をして、ほおを押さえていた。

ラバボー:姫さま、どうしたんだボ?。

コメットさん☆:…うん、何でもないよ…。

 ラバボーが聞いても、はっきりとは答えず、手鏡を持って、そっと口の中を見るコメットさん☆。

ラバボー:口の中に何か出来たのかボ?、姫さま。

コメットさん☆:ううん、別にそういうわけじゃないけど…。

 コメットさん☆は、手鏡を置いて、目を閉じると、静かに部屋の扉を開け、1階に降りていった。

ラバボー:…姫さま…?。

 コメットさん☆は、あまり足音をたてないように洗面所に行き、洗面所の前にある鏡に、また口の中を映してみた。

コメットさん☆:いたた…。…なんだか、急に痛い…。

 コメットさん☆は、小さい声でつぶやいた。と、その時、トイレから戻ろうとしたツヨシくんが、不思議に思って、後ろから声をかけた。

ツヨシくん:コメットさん☆、どうしたの?。どこか痛いの?。

コメットさん☆:つ…、ツヨシくん…。

ツヨシくん:どうかしたんでしょ?、コメットさん☆。ぼくが聞いちゃだめなことなの?。

コメットさん☆:…ううん、そんなことない…。…歯が、歯が痛いの…。奥歯が…。

ツヨシくん:えっ?、コメットさん☆、虫歯?。

コメットさん☆:…うん、そうかも…。

ツヨシくん:ママ呼んでくるよ。待ってて。

コメットさん☆:あ、ツヨシくん、いいよ。自分で何とかするから…。

ツヨシくん:何とかするって、どうするの?。歯医者さんに行くしかないよ?。

コメットさん☆:歯医者さんは…、私行かれないかも…。

ツヨシくん:怖いの?。じゃあ、ぼくついていってあげるから。

コメットさん☆:そうじゃないけど…。

ツヨシくん:とにかくママ呼んでくる。

コメットさん☆:あ、ツヨシくん…。

 ツヨシくんは、コメットさん☆の様子を伝えに、沙也加ママさんのところに飛んで行った。ほどなく沙也加ママさんは、エプロンで手を拭きながら、洗面所までやって来た。ツヨシくんも後ろからついてきている。

沙也加ママさん:コメットさん☆、歯が痛いの?。どれ、見せてごらんなさい。

コメットさん☆:沙也加ママ…。右の奥の…下のほうが…。…熱いものや、冷たいものがしみます…。

沙也加ママさん:どれどれ…。あーって口開けて。

 沙也加ママさんは、小さなライトでコメットさん☆の口の中を照らした。そして、よく見えるようにのぞき込んだ。

沙也加ママさん:うーん、見た限りではたいしたことはないようだけど…。奥から2本目かしら?。

コメットさん☆:…そう…だと思います。

沙也加ママさん:じゃあ…、ツヨシは救急箱持ってきて。コメットさん☆は、ちょっとキッチンまで来て。あ、ツヨシ、救急箱キッチンに持ってきてね。

ツヨシくん:はあい。…コメットさん☆、大丈夫?。

沙也加ママさん:大丈夫よ。ツヨシは心配?。うふふふ…。虫歯なら心配ないわ。でも、歯医者さんに行かないとね。

コメットさん☆:沙也加ママ…。

 コメットさん☆をキッチンに連れてきた沙也加ママさんは、、割り箸の先で、順番にコツコツと奥歯をつついた。

沙也加ママさん:これは痛い?。

コメットさん☆:いえ…。

沙也加ママさん:これは?。

コメットさん☆:あ、それ少し痛い…。

沙也加ママさん:うーん、やっぱり奥から2番目の歯ね。…でも、コメットさん☆の歯は、しっかりしていてきれいね。

コメットさん☆:そ…そうですか?。…虫歯でしょうか…。

沙也加ママさん:多分そうよ。…さて、でもどうしうかな…。とりあえずパパと相談して、出来るだけ早く歯医者さんに診てもらいましょ。

ツヨシくん:ママ、救急箱持ってきたよ。

沙也加ママさん:ありがと。じゃあ、ちょっとそこに置いておいて。…パパー、パパ!。

 沙也加ママさんは、景太朗パパさんに相談しに行った。ツヨシくんは救急箱を、キッチンのテーブルに置き、ほおを押さえたままのコメットさん☆を、心配そうに見た。

コメットさん☆:ツヨシくん、心配してくれるの?。…ありがとう。大丈夫だよ…。星力…使ってみようかな…。

ツヨシくん:えっ、虫歯も星力で治せるの?。

コメットさん☆:星の子が、協力してくれるなら…。

 と、その時、沙也加ママさんに呼ばれた景太朗パパさんが、キッチンのテーブルまでやって来た。

景太朗パパさん:コメットさん☆、歯が痛いんだって?。かなり痛いかい?。

コメットさん☆:は、はい。夕食を食べてから、ずっと痛いんです…。あ、でも、星力でなんとかしてみます。ごめんなさい…。

景太朗パパさん:えっ?、星力でなんとかするって…。治るのかい?、それで。

コメットさん☆:はい、たぶん…。

 コメットさん☆は、バトンを出して、その先端を見た。ところが…、星力が明らかに足りないのがわかった。先端の輝きが足りないのだ。

コメットさん☆:…あっ、星力が足りない…。ラバボーに頼んで、集めないと…。ちょっと待っててください。ラバボーに頼んで、星力ためてきます。

景太朗パパさん:あ、こ、コメットさん☆…。

 景太朗パパさんは、沙也加ママさんと顔を見合わせた。

ネネちゃん:ツヨシくん、何かあったの?。まだ寝ないの?。

ツヨシくん:あ、ネネ、コメットさん☆が歯が痛いんだって。

ネネちゃん:ふーん。それなら、二日くらい前かなぁ?、いっしょにアイス食べたとき、奥歯にしみるって言ってた。

沙也加ママさん:あらそうなの?。なんだ、コメットさん☆早く言えばいいのに…。

景太朗パパさん:…きっと、保険証がないから、診察代が高くなると思ったんだよ。コメットさん☆は、そういう遠慮する気持ちの持ち主だからね…。

沙也加ママさん:…そんなこと、気にしなくていいのに…。あの子ったら…。

 沙也加ママさんは、困ったような、それでいて仕方なさそうな顔で、視線を2階のコメットさん☆の部屋のあたりに向けた。

 そのころコメットさん☆は、2階の部屋で、また困り果てていた。

コメットさん☆:ラバボー、起きて。…ねえ、ラバボー。

 ティンクルスターに入ってしまったラバボーは、もう寝てしまっていた。昨日寝る前に、ラバボーといろいろおしゃべりしていて、夜更かししてしまったことを、コメットさん☆は思いだしていた。

コメットさん☆:ラバボー、お願い、起きて…。…仕方ないか…。

 コメットさん☆は、ムークか、ラバピョン、ツキビトに頼んで星力を集めることも頭をよぎったが、自分の不養生のために、そんなことを頼むのは…と思い直し、仕方なくコメットさん☆は、階段を降りて、1階のキッチンに戻った。

沙也加ママさん:どう?、コメットさん☆、星力集められるの?。

コメットさん☆:…それが、ラバボー、もう寝ていて…。

景太朗パパさん:そうか。じゃあ油沢先生のところにママ電話して。今から診てもらえますかって。

沙也加ママさん:そうね。今電話してみるわね。コメットさん☆、遠慮しないでちゃんと診てもらいましょ。

コメットさん☆:あ、いえ…。あの…、私、星国から医者ビトを呼びます…。本当は、ちょっと気が引けますけど…。

景太朗パパさん:医者ビト?。それは、星国のお医者さんだったよね?。

ツヨシくん:ぼく知ってるよ。とてもやさしいの。コメットさん☆のインフルエンザ治してくれたよ。

ネネちゃん:ネネちゃん、この間の運動会の時も、見たことないー。

沙也加ママさん:いいの?、コメットさん☆。…あなたがこの間、インフルエンザになったときに、星国のお医者さんから受け取ってきた、あなたのカルテには、歯は地球で治療してもいいって、書いてあったけど…。いっしょに見たわよね?。

コメットさん☆:…はい。でも、私…、保険証ないし…。

景太朗パパさん:そんなことは、気にしなくてもいいんだよ、コメットさん☆。体の調子が悪いときは、ちゃんと早く治さないとね。

コメットさん☆:はい…。でも、やっぱり医者ビトを呼ばせてください…。…実を言うと…、ちょっと怖いんです。あの歯医者さんのキーンっていうの…。

沙也加ママさん:あー、そうね。ふふふっ、あれは確かにイヤね。コメットさん☆もやっぱりきらい?。

ツヨシくん:ぽくもきらい、あの削るの。

ネネちゃん:私も…。あれさえなければ、歯医者さんに行ってもいいんだけど…。

景太朗パパさん:そうだなー、ぼくもあれは…、正直ちょっとイヤだなぁ。ガリガリ痛くてさ…。あっはっはっは…。

 みんな歯医者さんが苦手という点では、どうやら一致しているようだった。しかしふと、景太朗パパさんは、星国で歯はどうやって治療するのだろう?、削らないというのだろうか?と、疑問に思った。

 コメットさん☆は、ティンクルホンを持ち出すと、星国に電話をかけた。電話の向こうでは、王様が出て、すぐに医者ビトを差し向ける手配をしてくれた。景太朗パパさんと、沙也加ママさんは、その様子をじっと見ていたが、沙也加ママさんは、思いだしたようにツヨシくんが持ってきた救急箱を開けた。そしてコメットさん☆が、通話を終えると同時に言った。

沙也加ママさん:…そうだ。コメットさん☆、痛み止めを飲んだら?。これ飲むと、少しは楽よ。痛み止めは飲んでも大丈夫だって、カルテに書いてあったわ。

コメットさん☆:はい…。沙也加ママありがとう…。

沙也加ママさん:あと、歯に直接塗る麻酔のような薬もつけてみましょ。ちょっと辛いから、舌がしびれるかもしれないけど。

ツヨシくん:あ、それあのくさいやつだ。

ネネちゃん:治らないけどね。

コメットさん☆:…それってどんなの?、ネネちゃん。

ネネちゃん:あのね、つけると歯の痛いのがしばらく痛くなくなるんだけど、歯のまわりがしびれるの。

コメットさん☆:ふぅん…。…つけてみようかな、どうしようかな…。

景太朗パパさん:ツヨシ、コメットさん☆のここをもんであげなさい。右手の親指と人差し指の間のところ。

ツヨシくん:親指と人差し指?。

景太朗パパさん:そうだ。そこは「合谷(ごうこく)」と言う、歯が痛いときのツボなんだよ。

コメットさん☆:ツボ…ですか?。

 景太朗パパさんは、自分の手の甲を示しながら、「合谷」の場所をツヨシくんに教えつつ、コメットさん☆に答えた。ツヨシくんは、景太朗パパさんの手を見ながら、コメットさん☆の手を取って、右手の親指と人差し指が交わるところの手の甲を、そっと小さな親指でもんであげた。

景太朗パパさん:そうなんだ。昔から歯が痛いときは、そこを刺激すると、神経を伝わって歯の痛みがやわらぐんだそうなんだよ。きっと大昔から虫歯に、苦しむ人がたくさんいた中で、見つけだされた痛みをやわらげる方法なんだろうね。

コメットさん☆:はあ、そうなんですか…。…うん、ツヨシくん、ちょっと痛いよそこ…。

ツヨシくん:コメットさん☆の手、やわらかいね…。

コメットさん☆:ふふっ…、ツヨシくんだって…。

 コメットさん☆は、ツボをもんでもらい、痛み止めを飲み、歯に辛くて舌がしびれる薬を塗ってもらって、医者ビトの到着を待った。どれかが効いたのか、いつしか痛みは感じなくなっていた。

 

 やがて星のトレインが、ウッドデッキのところに乗り入れると、医者ビトが一人降り立った。あのインフルエンザのコメットさん☆を、ツヨシくんとともに治療した医者ビトである。地球の医師と同じように、白衣をきっちりと着ている。

ツヨシくん:あ、医者ビトさん…、こ、こんばんは。

コメットさん☆:医者ビトさん、ありがとう…。こんな夜遅く、呼んでごめんなさい…。

医者ビト:こんばんは、みなさん。ツヨシくん、こんばんは。姫さま、どうかお気になさらずに。わたくしはこれが仕事ですから…。景太朗さまと沙也加さまですね、わたくしはハモニカ星国の医者ビトです。

景太朗パパさん:はい、どうもこんばんは。王様はお元気ですか?。

医者ビト:はい、ダイエットされておられるようですが…。今日も、「いつも娘がお世話になっています、よろしく」と、王様からことづかって来ました。

沙也加ママさん:星国では、歯もお医者さんが診るのですか?。

 沙也加ママさんは、あいさつもそこそこに、歯も歯医者さんではない、お医者さんが診るのかどうか、さっきから疑問に思っていたから、医者ビトに聞いてみた。

医者ビト:はい。…地球では歯は、医者が診るのではないのですか?。

沙也加ママさん:ええ…。歯は歯科医師が診るものですから…。

医者ビト:そうですか。星国では、全身どこでも、わたくしたち医者ビトが診ます。

 沙也加ママさんと景太朗パパさんは、感心したような目を、医者ビトに向けた。

医者ビト:では、さっそく姫さまの歯を診ましょう。姫さま、どのあたりが痛いのですか?。こちらのいすをお借りしましょう。

コメットさん☆:…あ、あの、右の下の奥から2番目の歯が…。

 コメットさん☆は、少し恥ずかしそうに口を開けた。医者ビトは、リビングのいすに、コメットさん☆を座らせると、指の先に光を灯らせ、コメットさん☆の虫歯を診た。その様子に、景太朗パパさんと沙也加ママさんは、目を見張り、そして顔を見合わせた。

医者ビト:…ほう。なるほど、右下2番が傷んでますね。では治療しましょう。沙也加さま、恐れ入りますが冷たい水をコップに1杯、下さいませんか?。

 景太朗パパさんも、沙也加ママさんも、医者ビトがちらりと診た程度ですぐに治療すると言うので、いったいどうやって治療するのだろうと、とても不思議に思った。何しろ歯を治療するような道具は、医者ビトの手に何も握られていなかったのだから。それに冷たい水がいるという。沙也加ママさんは、さらに不思議に思った。

沙也加ママさん:つ、冷たい水ですか?。はあ…。じゃあ、今用意しますね。

医者ビト:よろしくお願いします。

 沙也加ママさんは、いったい何に使うのだろうと思いつつも、キッチンの冷蔵庫から、ミネラルウオーターを取り出して、コップに注ぎ、医者ビトのところまで持ってきた。

医者ビト:ああ、ありがとうございます。では姫さま、治療しましょうか。

コメットさん☆:お願い…、医者ビトさん…。

ツヨシくん:医者ビトさん、どうやって治療するの?。星力使うの?。

ネネちゃん:バトン回すの?。

医者ビト:ツヨシくん、いい勘してますね。ネネさんも面白いことを言いますね…。ふふふ…。まあ見ててください。…姫さま、もう少しお顔をこちらに向けてくださいね。

 みんなこれから始まる治療を、かたずを飲むようにして見守った。医者ビトは、細長い10センチほどの、冷たく光る金属の棒のような道具を、すっと白衣の胸ポケットから取り出すと、小さな声で呪文を唱えた。…いや、唱えたように思えた、というのが正しいかもしれない。それは、ほんの一瞬のことだったからだ。

医者ビト:姫さま、少し頭を動かさないようにしていてくださいね…。すぐ終わりますから…。

コメットさん☆:はい…。

 医者ビトは左手をコメットさん☆のあごに添え、右手に金属の棒のような道具を持つと、その先をコメットさん☆の右側のあごに、そっと当てた。景太朗パパさん、沙也加ママさん、ツヨシくん、ネネちゃんのみんなが、その棒で何をするのか、ドキドキするような気持ちになりながら、みんな身を乗り出して見た。すると…。

景太朗パパさん::あっ…。

沙也加ママさん:わっ、まぶしい…。

ツヨシくん:こ、コメットさん☆…。

ネネちゃん:な、何?。

 みんなが声をあげた一瞬、医者ビトの持つ棒のような道具の先から、青い光が発せられたように見えた。…しかし、みんなが目を見開いて、もっと見ようとした次の瞬間、その光はもう消えていた。

医者ビト:終わりましたよ。姫さま、どうですか?。もう痛くないでしょう?。ちょっとこの冷たい水を飲んでみてください。

 コメットさん☆は、そっと閉じていた目を開けて、座っていたいすの背ずりから身を起こし、さっき医者ビトが、沙也加ママさんに用意してくれるように言った、冷たい水のコップを医者ビトから受け取り、そっとその水を口に含んだ。そして静かにうなずいた。

コメットさん☆:…うん、大丈夫。ありがとう医者ビトさん…。

ツヨシくん:ええーっ、今ので終わり!?。

ネネちゃん:すごーい…。1秒もかかってない…かも…。

景太朗パパさん:ええっ!?、もう終わり…ですか?。

沙也加ママさん:ひ、光が光って…。そ、それだけ…。あ、あの、歯を削ったり、神経取ったり、埋めたり…しないんですか…?。

医者ビト:え?、…ああ、地球では歯を削ったりするんでしたっけ。王妃さまがおっしゃっていましたね。…ええ、星国では星力で歯は治療します。もっとも、たいていの病気やケガは、星力で治りますからね。ですから、削ったり、かぶせものをしたりはしませんよ。

沙也加ママさん:は、はあ…。…そうなんですか…。

 景太朗パパさんと沙也加ママさんは、今目の前で起こったことが、どうしても信じられないような様子だった。それは無理もない。何しろ一瞬明るい光が、コメットさん☆のほおを照らしただけで、医者ビトは治療が「終わった」と言うのだから。

景太朗パパさん:し…、信じられない…。コメットさん☆、本当にもう何ともないかい?。

コメットさん☆:はい。

沙也加ママさん:水しみない?。

コメットさん☆:大丈夫です。沙也加ママ。心配かけて、ごめんなさい…。ツヨシくんもありがとう。指のところもんでくれて…。

 

 医者ビトは、リビングのいすに少しゆっくり座ると、沙也加ママが入れた紅茶を飲んだ。

医者ビト:この紅茶はおいしいですね…。でもどうかお構いなく…。…地球では、歯の痛みを押さえるのに、治療する以外、どんな方法を使うのですか?。

沙也加ママさん:そうですね…。痛み止めを飲むとか…、歯に直接塗って、軽く麻酔をするような薬もあります。それはかなり昔からある薬ですけど…。

医者ビト:ほう。それは面白いですね。もっともつけられる方にとっては、面白いなどとは言ってられないでしょうけれど…。

ツヨシくん:「合谷」をもむといいって、パパが言っていた。ぼくコメットさん☆の「合谷」もんだんだよ。

医者ビト:ごうこく…?。それは何ですか?。

景太朗パパさん:あは…、いやあ、昔からある療法の一つで、体にある「ツボ」というところを刺激すると、神経の興奮がおさまったりするという、東洋医学の考え方でして…。しかし、歯が痛いときに「合谷」というツボをもむなどして刺激すると、確かに歯の痛いのがおさまる人が多いですね。

医者ビト:なるほど。その「ごうこく」というのは、どのあたりですか?。わたくしも、ツボを刺激するというのは、聞いたことがあります。

景太朗パパさん:ちょっと失礼。こうして握手しますよね、その時にちょうど親指があたるところの少し指の先より…と言いましょうか…。…どうですか?、少し痛いところがあるでしょう?。

 景太朗パパさんは、医者ビトの手と握手すると、医者ビトの「合谷」を押してみた。

医者ビト:うーん、なるほど、ここは確かに痛いですね…。ここをもむといいのですか?。

景太朗パパさん:そのようですね。ぼくは学生の頃、試験の時にちょうど歯が痛み出して…。そうしたら友人がたまたまそういうことに詳しいやつで、教えてくれたんですよ。何度か助けられました。あっはっは…。

医者ビト:そうですか。ふふふ…、地球の話は面白いですねぇ…。

沙也加ママさん:あ、あの、コメットさん☆はあれでもう治療は終わり…ですよね?。

医者ビト:はい。…どうですか、姫さま。痛みは感じますか?。

コメットさん☆:いいえ、もう大丈夫。なんともないです。沙也加ママ…。心配かけてごめんなさい…。

沙也加ママさん:あら、そんな謝らなくていいのよ…。それより、あんまり簡単なんで…、びっくりしちゃって…。

医者ビト:星ビトといえども、星の力の影響を、常に受けています。その力を治療に使うのです。今度の姫さまの歯痛は、虫歯が原因ですが、そこを固めて、菌をやっつけます。…そうだ。みなさん、せっかくですから、歯を診ましょう。順番に口を開けていただけますか?。もし虫歯や歯の不具合があれば、たいてい30秒以内で治ります。まったく痛くないですよ。

景太朗パパさん:えっ…!?。…じ、じゃあ、せっかくだから診ていただこうかな…。ねえ、ママ。なんだか申し訳ないような気がするけど…。

沙也加ママさん:え…ええ…。私も試させていただこうかな。

コメットさん☆:ツヨシくんもネネちゃんも、どう?。痛くないよ。

ツヨシくん:うーん、コメットさん☆がそう言うなら…、ぼく診てもらおう。

ネネちゃん:私もっ!。

医者ビト:では、どなたからになさいますか?。わたくしのそばのいすに、少しの間腰掛けてください。

景太朗パパさん:…それじゃあ、まずは藤吉家を代表して…なんて…。ぼくが最初に…。こんな位置でいいですか?。

医者ビト:はい、けっこうです。では…。

 医者ビトは、さっきコメットさん☆にしたのと同じように、胸のポケットから棒を取り出すと、景太朗パパさんのほおに向けて、青い光を放った。

医者ビト:…終わりました。景太朗さまは、何本か虫歯になりかけの歯がありましたが、全て治療しておきました。どうですか?。

景太朗パパさん:…痛くも何ともない…。どこを治療したのかすら…。あ、ありがとうございます…。

医者ビト:次はどなたになさいますか?。

 医者ビトは、半ば呆然とするツヨシくんやネネちゃん、沙也加ママさんに呼びかけた。

ツヨシくん:じゃ、ぼくぼく!。ぼく治療してくださーい。

 ツヨシくんは、ふと気付いて、いち早く治療してもらうことにした。

医者ビト:おお、ツヨシくんですね。では口を開けて診せてください…。

 医者ビトは、平然と藤吉家の人々全員を治療した。その間わずか数分の出来事だった。

 

 全員の治療を終えると、医者ビトは星のトレインで帰ることにした。景太朗パパさんは、「もう遅いので、泊まって行かれませんか?」と誘ったが、医者ビトはそれを辞退して、星のトレインで、星国への帰途についた。コメットさん☆をはじめとするみんなのお礼の言葉を聞きながら…。

景太朗パパさん:…帰ってしまわれたか…。それにしても、ちょっとぼくたちの常識を越えた治療だったね。

沙也加ママさん:え…、ええ…。なんだか本当に信じられないくらい…。

ネネちゃん:私、前歯のちょこっとした虫食いも治してもらったよ。きれいになった。よかったぁ。

ツヨシくん:痛くないし、キーンっていわないからよかった…。ぼくあれきらいなんだ。

沙也加ママさん:そうね。ほんとにあれさえなければ、もう少し歯医者さんに、気軽に行けると思うんだけど…。

コメットさん☆:私、前にツヨシくんの歯医者さんについていった時に…、あのキーンって削る見ていて、すごく怖くて…。歯石取りっていうのも、やってもらったんですけど…。

景太朗パパさん:ふふーん、地球の歯医者さんも、そこら辺のことはいろいろ考えていて、痛くなく治療する方法を実際にやっている歯医者さんもあるらしいよ。

ツヨシくん:ええっ!?。パパ、それ星力使うの?。

景太朗パパさん:あ、いや、星力は使わないんだけど…。レーザー光線を、虫歯になりかけの歯に当てて、ほとんど痛くなく歯を治療して、殺菌しちゃうんだってさ。だいぶ進んじゃった虫歯には、あまり効かないんだそうだけど。

コメットさん☆:へぇーっ、それならいいかも…。

沙也加ママさん:油沢先生のところでも、やってくれないかしら…。ずうっと昔から、治療の仕方が変わらないなんて…、ねえ?。

ツヨシくん:それならぼくもいいなぁ。

ネネちゃん:私も、それくらいなら、治療受けてもいいな。

景太朗パパさん:痛くない治療とか、怖くない治療、苦しくない検査とかっていうのは、実はけっこう大事なんだよね。病気になる前に、ならないようにする。あるいは、なってもすぐに治してしまう…。病気になってなければ、治療はしなくていいし、なっても始めのうちなら、治療も簡単なんだ…。そのためには、痛かったり、怖かったり、苦しかったりするんじゃ、だれもそんな治療や検査を、どんどん受けには行かないよね…。だから病気にならないために、なっても早く治すために、痛くないとか、怖くない、苦しくないっていうのは、とても大事なことなんだよ。

コメットさん☆:そうですね…。私も、あのキーンって削るのがなかったら、もっと早く相談していたかも…。何日か前から、少し歯は痛かったから…。

沙也加ママさん:今度からは、遠慮しないで、なるべく早く相談してよ、コメットさん☆。ふふふ…。

コメットさん☆:はい。沙也加ママ、景太朗パパ、心配かけてごめんなさい…。ツヨシくんとネネちゃんも…。

景太朗パパさん:いいんだよ…。たまにはそういうこともあるさ…。星国の技術は、とてもすばらしい。でも地球にも優れた技術や方法を考える人はたくさんいる。そういうすばらしい技術が、いつも人間みんなが幸せになるように、使われるといいよねぇ…。

 景太朗パパさんは、しみじみと語るような言い方で、誰にいうともなく語った。コメットさん☆は、無言でうなずいた。

ツヨシくん:あーあ、眠い…。

ネネちゃん:私も…。もう寝よう…。当分歯の心配しなくていいから…うれしい。

沙也加ママさん:あら、そうね。もう二人はとっくに寝ている時間ね。

コメットさん☆:あ、じゃあ私二人をベッドに連れていきます…。

沙也加ママさん:そう?、じゃお願いね。

 コメットさん☆は、夕食後からパジャマ姿だったツヨシくんとネネちゃんを、二人の部屋のベッドに寝かせた。夜遅いせいで、すぐに二人は寝入った。コメットさん☆は、それを見届けると、電灯を消して部屋から出ていこうとしたが、ふと思いついて、ツヨシくんのベッドにもう一度近づき、ツヨシくんの寝顔をのぞき込んだ。

コメットさん☆:ツヨシくん、ありがとね…。ツヨシくんが、手をもんでくれたから、痛くなくなったんだよ…。

 コメットさん☆は、やさしい表情で、そっとつぶやき、ツヨシくんのおでこの髪をなでた。コメットさん☆の歯の痛みを消したのは…、痛み止めでも、歯に塗る辛い薬でもなく、それは?…。

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★第174話:ケースケの文化祭−−(2004年10月下旬放送)

 11月の1日から3日まで、ケースケの通う深沢第三高校では、文化祭が開かれる。研究発表、親善試合、模擬店、演奏…。いろいろな出し物を、みんなで半ば競いあうようなものである。ケースケのような夜間部の生徒たちも、昼間の生徒に混じって夜に、クラス単位で出し物を出す。ケースケのクラスは、喫茶店である。もう数ヶ月も前から準備していた。

 ケースケのクラスは、女子生徒が少ないせいもあって、喫茶店の「ウエイトレス」が足りないのではないかと懸念されたが、何とか時間をやりくりして、計画をまとめることが出来た。中には、実際にウエイトレスとして働いている生徒もいたから、その生徒に、お盆の持ち方から、お客さんへの飲み物の出し方まで、みんな楽しく教わりながら、練習をした。

 ケースケは、クラスメートの新井さんとともに、クラスの「文化祭実行委員」を引き受けたので、昼間のトレーニングやバイトのかたわら、準備に明け暮れた。ウエイターとウエイトレスは、全員それらしい格好をすることになったので、ケースケは、コメットさん☆に、固く「来ないように」と言っておいたが、そう言われると、コメットさん☆としては、ウエイター姿のケースケを、ちょっと見てみたくもなるのだった。

 そうして文化祭の日、景太朗パパさんは、夕食が終わると、ふいにリビングのみんなに言い出した。

景太朗パパさん:さあて、ケースケの文化祭、見に行かないか?。

コメットさん☆:えっ、景太朗パパ…。

ツヨシくん:これから行くの?。

ネネちゃん:わあ、楽しそうー。夜の文化祭?。

景太朗パパさん:そうだ。ちょっとのぞきに行きたいだろう、コメットさん☆も。

コメットさん☆:…はいっ。

景太朗パパさん:よーし。ふふふ…。ママは行かないか?。

沙也加ママさん:えー?、私見たいテレビがあるのよ。イマシュンが出演するのよ。それが楽しみなのよー。

景太朗パパさん:…あー、そうですか…。…じゃあ、ぼくが車出すから、コメットさん☆、ツヨシ、ネネ、みんなで見に行こう。

ツヨシくん:行こう、行こうー。

ネネちゃん:どんなところだろう?。ケースケ兄ちゃん、どんなことしているのかな?。

コメットさん☆:そうだね。文化祭って、どんなんだろうね。

ツヨシくん:コメットさん☆文化祭って知らないの?。

コメットさん☆:うん。ケースケに少し教わったけど、よく知らないよ。学校にそんなのなかったもの。バレエの発表会とか、学芸会はあったけど…。

ネネちゃん:…実を言うと、私も知らなーい。

景太朗パパさん:あー、そうか…。みんな知らない…んだよね。小学校じゃまだ文化祭はないしなぁ…。星国にもないとすれば…。…まあ、見ればわかるさ!。

 景太朗パパさんは、コメットさん☆、ツヨシくん、ネネちゃんの3人を車に乗せると、夜の道を、ケースケが通う深沢第三高校まで走った。車はほんの7〜8分で、高校に着く。

景太朗パパさん:よーし着いたぞ。夜だからね、みんな気をつけるんだよ。コメットさん☆、ツヨシとネネを頼むね。…ああ、あんまり大人向けっぽいところには、行かないようにね…。夜間部の生徒は、成人している人もいるからね。

コメットさん☆:はい。わかりました。…でも、景太朗パパは?。

景太朗パパさん:…うん、ちょっとケースケの担任の先生にでも、会ってこようかな?。

 そうしてコメットさん☆は、景太朗パパさんと別れ、校内を、ツヨシくんとネネちゃんを連れて歩き始めた。夜なのに高校の校舎には明々と電灯が灯り、不夜城のように輝いている。その光景が、コメットさん☆には華やいだ雰囲気に見え、楽しかった。いろいろな教室の窓には、飾り物がつけられていたり、パネルや暗幕がつけられていて、その隙間から光が漏れたりしている。グラウンドでは、夜間照明に照らされて、何かの試合をやっている様子だった。生徒たちの声が、大きくあたりいっぱいに響く。

コメットさん☆:なんだか、学校全体がかがやいているね…。

ツヨシくん:うん。そこでやっているの、ラグビーの試合だよ。

ネネちゃん:なんか、おしくらまんじゅうしているみたい…。

コメットさん☆:ラグビーって、どういうの?。

ツヨシくん:ぼくもあまりよく知らないけど…。あの変な形のボールを蹴ったり、取ったり、投げたりするの。時々おしくらまんじゅうするの。

コメットさん☆:ふーん。…よくわからないね。ふふふっ…。

ネネちゃん:何でおしくらまんじゅうしているんだろ?。

ツヨシくん:さあ…。

 コメットさん☆は、二人と手をつないで、校舎の中に入っていった。そう言えば、手をつなぐ高さも、少し高くなったような気がする。二人は確実に成長しているのだ。

コメットさん☆:ケースケのお店はどこかなぁ?。

ツヨシくん:ケースケ兄ちゃん、どんなことしているの?。

コメットさん☆:喫茶店って言っていたよ。模擬店っていうのやるんだって。

ネネちゃん:喫茶店?。ケースケ兄ちゃん、ウエイターさんのかっこうしているのかなぁ?。

コメットさん☆:たぶん…。なんだか、「絶対に来るなよ」って言っていたんだけど…。そう言われると…、よけいに見たくなっちゃうよね。

 コメットさん☆は、にっこり笑った。それにしても、すれ違う生徒たちが、珍しそうな顔で、コメットさん☆たちを見る。中にはヒソヒソとうわさ話をしている男子生徒もいる。コメットさん☆は、そんなことには気付かず、景太朗パパさんに言われた注意を守りながら、校舎内を歩いて回った。

 そして、「星占いの部屋」という教室の前で、コメットさん☆は、ふと立ち止まった。どうやらそこは、占いに関する発表と、実演をしているクラス発表の教室のようであった。

コメットさん☆:星占い…だって。入ってみようか?。どんなこと占ってくれるのかな?。

ツヨシくん:わあ、なんだか暗そうな部屋…。

ネネちゃん:でも、コメットさん☆、恋人のこととか占ってくれるかもよ?。

コメットさん☆:えっ?、こ、恋人…。…やっぱりどうしようかなぁ…。

ネネちゃん:ここで引き返したら、つまらないでしょ?、コメットさん☆。せっかくだから中に入ろうよ。

ツヨシくん:ネネ、最近強気…。

ネネちゃん:え?、ツヨシくん何か言った?。

ツヨシくん:ネネは強気って言ったの!。

コメットさん☆:二人とも…。…じゃあ、入ってみようか。

 コメットさん☆たちは、教室の開いているドアにつけられたカーテンをくぐり、中に入った。教室の手前側では、占いのいろいろに関する展示がされていて、熱心に解説する生徒と、それに聞き入っている人がいた。直線状に並べられた机の上には、専門書も展示されている。コメットさん☆は、ふとそれを手に取って、パラパラとめくって見た。

ネネちゃん:コメットさん☆、コメットさん☆、占いのコーナーはあそこだよ。

 と、その時コメットさん☆の背中をとんとんと叩いて、ネネちゃんが指さした。コメットさん☆は、見ていた本を置くと、ネネちゃんが指さす方を見た。

 一方そのころ、景太朗パパさんは、ケースケの担任の先生に面会していた。

担任の先生:…ほう、そうですか。よく三島君は、「師匠が」と言っていましたが、あなたのことだったんですね。

景太朗パパさん:いやあ、お恥ずかしい…。あいつそんなこと言っていましたか?。

担任の先生:ええ。よくお名前は三島君から聞いております…。まあどうぞ。

 ケースケの担任の先生は、景太朗パパさんに「理科研究室」の中にある、応接セットのいすをすすめた。1杯のコーヒーとともに…。

景太朗パパさん:ケースケの成績はどうですか?。真面目にやっていますか?。

担任の先生:三島君の成績ですか?、極めて良好ですよ。…彼は努力家ですなぁ…。なかなか最近の高校生で、あそこまで熱心な生徒はいないかもしれません。

景太朗パパさん:そうですか。それはよかった。あいつはどうも人見知りなところがあって…。

担任の先生:そうなんですか?。高校ではあまりそういう顔は見せませんけどね。はっはっは…。…それで、私は思うのですが、彼を…。

 

 コメットさん☆とツヨシくん、ネネちゃんの3人は、それぞれカーテンで仕切られた、占いのスペースに一人ずつ入って、机の向こう側に座った女子生徒に、占ってもらっていた。占いのやり方は、カード占いのようであった。

女子生徒A:…あなたの生年月日は?。

コメットさん☆:え、えーと、…モール…じゃなかった…。1989年…さ、…3月…、えーと、2日…かな?。

 女子生徒は、自分の誕生日をすらすらと言えないコメットさん☆を、ちょっと不審に思い、ちらりとコメットさん☆の顔を見た。しかし、特にそれ以上気に留めることもなく、質問を続けた。

女子生徒A:血液型をどうぞ。

コメットさん☆:お、O形…です。たぶん…。

女子生徒A:調べたことはない?。

コメットさん☆:ええ…。でも、両親ともOだから…。

 コメットさん☆は、星ビトとしては、かなり事実と異なることを答えてしまって、少しドキドキしたが、そんなことはつゆ知らない女子生徒はカードを切り始め、それを机の上に並べていった。そうしながらも、いくつか質問を続けたが…。

女子生徒A:…そうね。あなたは家族運がとてもいいですね。あと出世運もいいほうだわ。恋愛は…、ごく身近なところに、とても強い想いを持っている人がいるわね。その人との相性はとてもいいなぁ。

コメットさん☆:…えっ!?。

 コメットさん☆は、ドキッとした。

コメットさん☆:(それって、いったい誰のことなんだろう…?。)

 となりの小部屋では、ツヨシくんが同じように占ってもらっていた。

女子生徒B:かわいいお客さんだねっ。歳はいくつ?。

ツヨシくん:8歳だよ。

女子生徒B:お誕生日はいつ?。

ツヨシくん:1996年6月11日。妹のネネもだけど…。夜遅くに生まれたんだよ、ぼく。午後11時25分。

女子生徒B:そう。へぇー。よく覚えているんだねぇ。ということは…、妹さんは…双子かな?。

ツヨシくん:うん。

女子生徒B:ツヨシくんって言ったよね?。ツヨシくんはねぇ…、ちょっと早いかなぁ、こういう話は…。…恋人になる人は、傷つきやすい人だよ。…いつかねぇ、心に大きな傷を負うかもしれないの。だから、もしそういうことになったら、君が支えてあげてね。

ツヨシくん:大きな傷?。

女子生徒B:そうだよ。でも、占いって、絶対にそうなるって決まっているわけじゃないの。わかるかな?。努力すると、そうならないようにも出来るんだよ。だから、あまり絶対そうなるって思わないで、もしそうなっちゃったら、君がよく恋人の話を聞いてあげてね。そうすればきっとその人とうまくいくよ。ちょーっと早いかなぁ?。ふふふふ…。

ツヨシくん:うん。わかった。ぼくがんばるね。ありがと、おねえちゃん。

 ツヨシくんは、かなり意味の深そうなことを言われ、少し動揺したような気持ちになったが、女子生徒のやさしい言葉に、明るく小部屋を出た。

女子生徒C:…ネネちゃんには…、意外な人がパートナーになるって出てるなぁ…。思い当たる人いるかな?。ふふふっ…。まだいないかな?。

ネネちゃん:えー、まだいないよぉ…。

女子生徒C:そうだよね。まだまだこれからいろんな人と出会うよ、たぶん。おねえちゃんだって、ネネちゃんくらいの時から、いろーんな人に出会って、好きになったもん。

ネネちゃん:そうなの?。私もこれから男の子好きになるのかなぁ?。

女子生徒C:クラスに好きな男の子とかいない?。

ネネちゃん:…いるよ、いるけどぉ…。

女子生徒C:がんばってね、小さな未来の花嫁さんっ。

ネネちゃん:えーっ…。

 そうして3人とも、それぞれにドキドキしながら、星占いの部屋を出た。みな一様に無口になっていたが…。

コメットさん☆:(なんだか、ただの占いじゃなかったみたいな感じ…。もしかして…、星力…?。…でも、そんなはずは…。ラバボー連れてくればよかったな…。もう眠そうだったら、おいて来ちゃったけど…。)

 それでもコメットさん☆は、ここに特別な力がかかっていたことに気付いていた。一方、コメットさん☆たちが出ていった「星占いの部屋」でも、ちょっとしたさわぎが起こっていた。

女子生徒A:…あれ、な、なんだか、今の子たちに、すごく難しい話をしちゃったような気がする…。

女子生徒B:…私も。なんて言うのかな…、口をついて出て来ちゃうみたいな感じで…。小さい子だったのに…。

女子生徒C:私だってよ。8歳の子に「未来の花嫁さん」とかって…。口走っちゃった…。なんでそんな先の予測まで出来たんだろう…。

女子生徒A:私たち、その辺のカード占いの本を読んで、少し練習しただけだよねぇ?。

女子生徒B:そうだよー。そんなマジじゃないものー。

女子生徒C:なんだろう…。私…、なんだか怖い…。

 コメットさん☆たちが立ち去った教室から、淡いピンク色の光が、一瞬灯って消えたのに、気付いた人はいなかった。

 

 コメットさん☆たちは、別のフロアにある、ケースケのクラスの喫茶店を見つけ、さっそく中に入っていった。入口には、まるで落書きのように、「2−F 喫茶店ホラ貝」とある。

コメットさん☆:喫茶店ほらがい…?。

ツヨシくん:…何これ?。

ネネちゃん:ホラ貝って、…あのぶぉーっていうやつ?。変なの…。

コメットさん☆:うふふふっ。ケースケどんな顔するかな?。とにかく入ろ。

 コメットさん☆は、入口のカーテンをくぐって、その教室に入った。どういうわけだか、前の黒板、後ろ側の掲示板、壁のいたるところに、ホラ貝のイラストが描かれた紙が貼られて、さらに各テーブルには、ホラ貝のような貝の貝殻が一つずつ置かれている。そんな様子に驚いていると、ウエイトレス姿の女子生徒が声をかけてきてくれた。

女子生徒D:いらっしゃいませー。あらかわいいお客さん。どうぞ。

コメットさん☆:あ、ありがとうございます。わあ、その洋服かわいいですね。

女子生徒D:そう?、ありがとう。何にしますかぁ?。

コメットさん☆:あ、じゃあ、私レモンティーを…。

ツヨシくん:ぼく…、パイナップルジュース。

ネネちゃん:ツヨシくんおもしろーい。私は、みかんジュースホラ貝風っていうのにしよう。

ツヨシくん:なんだそれ?。そんなのメニューにあるの?。

ネネちゃん:あるよ、ほらここ。

ツヨシくん:ふーん。ほんとだ…。…ホラ貝風…。わけわからない…。

コメットさん☆:ふふふっ…。本当だ。面白い名前だね。

女子生徒D:わかりました。ちょっと待っててね。あ、ごめんそこのところで先に食券を買ってね。

コメットさん☆:あ、す、すみません。今買ってきます。

 コメットさん☆は、女子生徒が先に注文を取ってくれたので、急いでいすから立ち上がり、食券売場と書かれたところに行った。それは入口を入って、すぐ右手のところであったが、入口から入ったあと、向き直らないとならない位置だったので、気付かなかったのだ。

 コメットさん☆は、食券を買おうとして、あっと声をあげた。

コメットさん☆:あっ、け、ケースケ…。

ケースケ:…ん?、ああ、お…お、こ、コメット。…く、来るなって言っただろ。

コメットさん☆:だ、だって、景太朗パパさんが連れてきてくれたんだもの…。そ、それに…。

ケースケ:し、師匠が?。…しょうがねぇな…。もう、恥ずかしいから…。こんな格好なんだぞ!。来なくていいのに…。

 ケースケは、白いシャツに黒いスボンで蝶ネクタイという、ウエイターさながらの格好をきめて、食券を売っていた。

コメットさん☆:こんな格好って言われても…。ケースケのウエイター姿、なかなか似合っているよ。

ケースケ:なるべく他人のフリしてくれよ。…で、何を注文するんだ?。飲んだり食ったりしたら、さっさと帰ってくれよ。わりいけど…。

コメットさん☆:…もう、ケースケったらっ!。

 コメットさん☆は、珍しく、ちょっと不機嫌そうな顔になった。

コメットさん☆:パイナップルジュースと、レモンティーと、みかんジュースホラ貝風の3つくださいっ!。

ケースケ:あ、ああ。…お、怒ったのか?。

コメットさん☆:だって…、お客さんにさっさと帰れは、ないものだと思うな。

ケースケ:わ、わかったよ…。悪かったよ…。ま、まあじゃあ、適当にゆっくりしていってくれ…。なるべくオレは、ここから出ないようにしているから…。

コメットさん☆:ぷっ…、なあにその、適当にゆっくりって…。

 コメットさん☆は、ケースケの物言いに、つい吹き出して答えた。そんな様子を遠くで見ていた男子生徒が、ヒソヒソと洗い場に通じる通路のところで、うわさ話をしていた。

男子生徒F:三島もすみにおけないよな。あんな年下のかわいい子を…。

男子生徒G:ほんと。そうだよな…。それに引き替え…、オレたちは…。

新井さん:あなたたち、そういううわさ話はやめなよ。よけいにみじめになるだけだよ?。

男子生徒F:…み、みじめって…。…まったく新井は、学級委員みたいな言い方するのな…。

新井さん:私、実際クラス委員だけど?。

男子生徒G:うへぇ…。

 と、その時、食券を出すケースケに、コメットさん☆は持っていたデジタルカメラを向けると、シャッターを切った。

コメットさん☆:ケースケ、こっち向いて。

ケースケ:や、やめろっ!。と、撮るなよ!。

コメットさん☆:いいじゃない…。ケースケのウエイター姿、見たかったんだもん。こっちに出てきて、見せて。

ケースケ:たた、頼むからやめてくれって。ケーキやるからさ…。

コメットさん☆:ふふっ…。ケースケって、ほんとに恥ずかしがり屋さんだね…。

 そんな様子を見ていた、今度は新井さんが、面白そうな顔でつぶやいた。

新井さん:やれやれ、仲がいいんだね。アハハハ…。

 

 ケースケは、コメットさん☆たちの帰り際、そっとケーキの入った箱を手渡してくれた。「ないしょだぞ」と言いながら。コメットさん☆は、にっこり微笑んで、うなずいて、少し眠くなってきたらしく、あくびが出始めたツヨシくんとネネちゃんの手を引いて、「喫茶店ホラ貝」をあとにした。

コメットさん☆:ネネちゃん、結局ホラ貝風って、なんだったのかな?。

ネネちゃん:あーあ、よくわからなかった…。

コメットさん☆:だいたい、なんでホラ貝なのか、ケースケに聞けばよかったかな?。

ツヨシくん:なんでホラ貝なんだろう?。あの絵や置いてあった貝殻は何?、コメットさん☆。

コメットさん☆:さあ?。

 そんな会話をしながら廊下を歩き始めると、向こうから景太朗パパさんがちょうど迎えに来た。

景太朗パパさん:おおい、コメットさん☆にツヨシ、ネネ、もう帰ろうか。

ツヨシくん:あっパパ。

コメットさん☆:あ、景太朗パパ。はい。ツヨシくんとネネちゃん、眠たそう…。

景太朗パパさん:おお、そうか。ごめんごめん。ちょっと色々、ケースケの担任の先生と話し込んじゃってさ。急いで車に乗って帰ろう。

コメットさん☆:はい。

景太朗パパさん:コメットさん☆、どうだった?。面白かったかい?。ケースケには会えたかな?。

コメットさん☆:はい。占いがなんだかとても細かくて…。びっくりしました。

景太朗パパさん:へえ。占いなんてやってもらったの?。運勢よかったかい?。

コメットさん☆:え、ええ…。まあ…。

景太朗パパさん:そうかぁ…。

 景太朗パパさんは、話ながら車のところまでくると、後部座席のドアロックを外し、ツヨシくんとネネちゃんを乗せた。

景太朗パパさん:もうツヨシとネネは眠いかな?。

ツヨシくん:うーん、まだ大丈夫。

ネネちゃん:私もー。

景太朗パパさん:まだ眠らないでくれよ。降ろすとき大変だからなぁ…。

コメットさん☆:私も手伝います…って、ツヨシくんやネネちゃん、もう抱っこできないかも…。

景太朗パパさん:あははは…。そうだよね。さあ、急いで帰ろう。ところでコメットさん☆…。

 景太朗パパさんは、車を走らせ、校門を出ると、助手席のコメットさん☆に話しかけた。

コメットさん☆:はい?、なんですか?。

景太朗パパさん:…ケースケが、大学に進学するかもしれないって、知っていた?。

コメットさん☆:…はい。この間、ケースケから聞きました。

 急に車の中の空気が、重くなったようにコメットさん☆には感じられた。景太朗パパさんの横顔を見ると、心なしかきびしい目をしているようにも見えた。コメットさん☆は、ケースケからもらったケーキの箱の持ち手のところを、そっと握りしめた。

景太朗パパさん:…そうか…。海洋生態学…。ケースケがライフセーバーと、両立させたい夢らしい…。三重の大学だそうだ…。もし進学できると…。

コメットさん☆:…はい。…でも、ケースケの夢だから…。

景太朗パパさん:…うん。そうだよね…。…でももし…、いやいいか…、まだ…。

コメットさん☆:…なんですか?、景太朗パパ…。

景太朗パパさん:いや、なんでもない。ケースケの夢、どれでもかなうといいよなぁ…。

コメットさん☆:…はい…。

 コメットさん☆は、ケースケの夢の話なのに、どうしても明るく返事が出来なかった。「あこがれのケースケ」が、もしかすると、また遠くに行ってしまうかもしれない…。その時自分は?…、と思うと…。それに景太朗パパさんが、飲み込んだ言葉は何だったのか?。それもコメットさん☆には気になった。しかし、それをもう一度強く聞き返す気には、なぜかなれなかった。その答えを、今は聞かないでいたほうがいいかもしれないという気がしたから…。

 景太朗パパさんの運転する車は、藤吉家に向けてひた走る。楽しかった夜の文化祭のはずなのに、コメットさん☆の心は、少しもやがかかったようになっていた…。

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★第176話:王妃と星の導き−−(2004年11月中旬放送)

 コメットさん☆は、朝から沙也加ママさんの店を手伝っていた。秋はヒマかと思いきや、紅葉狩りに来た観光客が、そのまま海を見に立ち寄ったりするので、そこそこお客さんがやってくる。それで今日は、コメットさん☆も沙也加ママさんの手伝いをしていたのだった。

 12時を回った頃、ようやく沙也加ママさんは、お店を昼休みにした。沙也加ママさんは、前の日の余りものでお弁当を作り、それをコメットさん☆と食べようかと思っていたのだが、あまりおかずになりそうなものが残っていなかったので、お店に鍵をかけると、車でコメットさん☆と、鎌倉駅の東側にあるうどん屋さんまで、食事に出た。沙也加ママさんは、車を運転しながら、コメットさん☆に買い物を頼んだ。

沙也加ママさん:コメットさん☆、悪いけど夕食のおかずの材料、ここに書いておいたから、買ってきてくれないかしら。…ごはん食べたら、駅前まで送るから、ゆっくり買い物して、またお店に戻ってきてくれる?。

コメットさん☆:はい。沙也加ママ。買い物たくさんありますか?。

沙也加ママさん:ううん。そんなにたくさんはないと思うわ。お願いしてもいいかなぁ?。

コメットさん☆:はい、わたしささっと行ってきますから…。なんでもどうぞ、沙也加ママ。

 車はうどん屋さんの駐車場に着いた。そしてお店に入って、沙也加ママさんとコメットさん☆は食事をした。

 

 やがて食事がすんで、店から出た沙也加ママさんは、再び車の運転席に座ると、助手席に座ったコメットさん☆に言いながら、車を発進させた。

沙也加ママさん:ああおいしかった。コメットさん☆はどうだった?。

コメットさん☆:私もおいしかったです。きしめんっていうのがおいしい…。

沙也加ママさん:そうねー。きしめんのほうが、うどんよりおいしいかなぁ?。うどんやさんなんだけどね、ふふっ。

 車は鎌倉駅前に向かった。ほどなく車は鎌倉駅の東口前に着き、沙也加ママさんは車を止めるとコメットさん☆を降ろしてから、窓越しに言った。

沙也加ママさん:時間はゆっくりでいいわ。見たいお店でもあったら、見てきていいわよ。…あ、ほら、特別にお小遣いっ。

コメットさん☆:…はい、じゃ…、えっ、沙也加ママ…そんな…。

沙也加ママさん:いいから持っていって、コメットさん☆。欲しいものくらいあるでしょ?。たまには自分のものも買ったらいいわ。

コメットさん☆:…沙也加ママ…、…えへっ。ありがとう…ございます…。

 コメットさん☆は、遠慮がちではあったが、沙也加ママさんが差し出した、何枚かの千円札を、そっと手にとって、ちょっとうれしそうに笑った。それを見た沙也加ママさんも、少し微笑んで左手を振ると、車を出して、由比ヶ浜のお店に戻っていった。コメットさん☆は、それを見届けると、駅前のバスターミナルを抜けて、小町通りに向かおうとした。すると聞き覚えのある声が背後でした。

万里香ちゃん:あ、コメットさん☆!。

 コメットさん☆が振り返ると、そこには万里香ちゃんがいた。お母さんもいっしょだ。

コメットさん☆:万里香ちゃん。…あ、こ、こんにちは。

 コメットさん☆は、万里香ちゃんを見て、それから万里香ちゃんのお母さんに気付いて、少し緊張したあいさつをした。

万里香ちゃんの母:あら、あなたがコメットさん☆?。はじめまして…。夏にはうちの万里香がずいぶんお世話になって…。あの時はありがとう…ね。

コメットさん☆:い、いえ、…そんな…。私いっしょに遊んだだけですから…。

 

コメットさん☆:…沙也加ママ、そういうわけなんで、少しお買い物が…。…はい。

 コメットさん☆は、ティンクルホンで沙也加ママさんに電話をかけた。そして電話が終わると、万里香ちゃん、万里香ちゃんのお母さんといっしょに、浄明寺方面に向かうバスに乗り込んだ。

万里香ちゃんの母:コメットさん☆、何か用事があるなら…。悪かったかしら?…。

コメットさん☆:いいえ、大丈夫です。普通に夕食の買い物ですから…。あとでも大丈夫です。

万里香ちゃん:わあ、コメットさん☆が来てくれるんだー。

コメットさん☆:うん。万里香ちゃん、おじゃまするね。

 コメットさん☆は、万里香ちゃんの家に、「招待」されることになったのだ。バスは、鎌倉駅を出ると北東に進み、やがて浄明寺1丁目という、住宅街のバス停に止まった。

 浄明寺バス停のあたりは、もう鎌倉駅前の喧噪とは違って、ひっそりしたような住宅街だった。車が時折通る程度で、あまり人が歩いているわけでもなく、家がゆったりと建ち並ぶようなところである。そのうちの1件、瀟洒(しょうしゃ)な新築の家に、万里香ちゃんとその母はコメットさん☆を招き入れた。「稲沢」という表札が、白い門扉を支えるやはり白いタイル貼りの壁のところについている。大きな木製のドアを開けると、そこは藤吉家と、まったく異なった雰囲気の家であった。

万里香ちゃんの母:散らかっているけど…、どうぞ、コメットさん☆。

コメットさん☆:おじゃまします…。

万里香ちゃん:コメットさん☆、こっちこっち。

 万里香ちゃんは、コメットさん☆を応接間兼リビングに、手招きした。コメットさん☆は、靴を脱ぐと万里香ちゃんが指さしたスリッパを履いて、リビングに入った。そこは花柄のソファと、ガラステーブル、それにコレクションボックスが棚に並び、壁際には西洋アンティークの食器が、専用のガラス棚に入れて飾られていた。どうやらそのあたりは、万里香ちゃんのお母さんの趣味であるようだった。コメットさん☆は、しばらくそれらを見回していたが、立ったままのコメットさん☆を見て、万里香ちゃんのお母さんは、いれた紅茶を持ってきながら、あわてて言った。

万里香ちゃんの母:あら、コメットさん☆、どうぞ座って。万里香ったら、お姉ちゃんに「座ってください」くらい言わなきゃダメよ…。

万里香ちゃん:はーい。

コメットさん☆:あ、ど、どうぞお構いなく…。

 コメットさん☆は、すすめられるままにそっとソファに腰掛けながらも、一応遠慮した。それでも紅茶のいい香りが、あたりに広がる。リビングの南側にある出窓からは、レースのカーテン越しに、柔らかな秋の日の光が射し込んでいた。

万里香ちゃん:コメットお姉ちゃん、遊ぼう。

コメットさん☆:う、うん。そうだね…。

万里香ちゃんの母:万里香ったら、コメットさん☆がお茶飲めないわよ?。

コメットさん☆:うふふ…。万里香ちゃん、もう少ししてからね。

万里香ちゃん:うん。わかったー。

万里香ちゃんの母:万里香ったら、近頃コメットさん☆、コメットさん☆って、ずいぶんあなたの話をするのよ。

コメットさん☆:え、そうなんですか?。なんだか恥ずかしいな…。

 コメットさん☆は、少し視線を落として、恥ずかしそうにした。

万里香ちゃんの母:でもね、万里香がお友だちを作って、うちまで連れてきたのは…、ここに越してから、あなたで二人目なの…。この子はどうも人見知りするほうで…。

コメットさん☆:突然おじゃましてごめんなさい…。

万里香ちゃんの母:いいえ、万里香も私も、あなたを呼んだんだから…。こちらこそ突然ごめんなさいね…。

コメットさん☆:いえ、その…、…二人目ってことは、一人目は…、賢司くんですか?。

万里香ちゃんの母:あら、賢司くんも知っているの?、コメットさん☆。そうよ、賢司くんとは仲がいいの。うふふふ…。この子のはじめてのボーイフレンドかなぁ…。…このあたりは森があって、少し行けば海もあるし…。うちの主人と相談して、子どもはそういう自然のあるところで育てたいって思って…。…でも、この子は一人っ子だから、なかなかお友だちが出来なくて…。

コメットさん☆:万里香ちゃんは…、転校したわけですよね?。

万里香ちゃんの母:そうなのよね…。それだけはちょっと心配だったんだけど…。…でも、あなたのようなお姉さんのお友だちや、賢司くんのようなお友だちが出来て、一安心だわ…。そうそう、ツヨシくんとネネちゃんでしたっけ?、その子たちもね…。ところでコメットさん☆は、どちらにお住まい?。

コメットさん☆:えーと、稲村ヶ崎のおうちにお世話になってます。

万里香ちゃん:ママ、由比ヶ浜にコメットさん☆のお母さんのお店あるんだよ。

万里香ちゃんの母:あら、ということは…、コメットさん☆のおうちは外国の方?。

コメットさん☆:あ、いいえ…。その…、私はホームステイしているので…。由比ヶ浜のお店は…、沙也加ママの…、あ、藤吉沙也加って言うんです、私がお世話になっているおうちのママ…。

万里香ちゃんの母:まあ、万里香ったら…。うふふ…。そう…。ホームステイなさっているの。いつからいつまで?。

コメットさん☆:え、ええと…、に、2001年の春から…、…そのいつまでかはまだ…。

万里香ちゃんの母:あらそう。いつまでかはまだ決まってないのね…。珍しいわね。日本語のお勉強?。

コメットさん☆:え、ええまあ、そ、そんなところです…。

 コメットさん☆は、少し答えにつまりがちだった。

万里香ちゃんの母:じゃあ、お母様やお父様はお寂しいでしょうね…。お国は遠いんでしょう?。

コメットさん☆:は、はい。かなり…。あ、でも母も前にちきゅ…いえ、あの、この国にホームステイしていたことがありましたから…。

万里香ちゃんの母:あらそう。どちら?。

コメットさん☆:東京の世田谷です。あ、そういえば万里香ちゃん、ここに引っ越してくる前は、世田谷に住んでいたって言っていたよね?。

万里香ちゃん:うん、そうだよ。世田谷区砧3丁目…。

万里香ちゃんの母:あら、同じ世田谷区?。それはまた偶然ねぇ…。でも世田谷は東京で一番広い区だから…。世田谷のどちらかしら?、お母様の住んでおられたところは?。

コメットさん☆:あ、あの、偶然だと思うんですけど…、世田谷区砧3丁目と聞きました。

万里香ちゃんの母:ええっ?、ほんとう?。じゃあご近所さんだったかもしれないわねー。本当に近くだわー。

 万里香ちゃんの母は、紅茶のおかわりとクッキーを取りに、リビングから続くキッチンのほうへ立って歩いていった。コメットさん☆は、万里香ちゃんにそっとささやいた。

コメットさん☆:万里香ちゃん、前に聞いた、星の国の女の子の話、ママに聞いてもいいかな?。

万里香ちゃん:いいよ。たぶんママのほうが、詳しく知っていると思うもの…。…でも、早く遊ぼう?。

コメットさん☆:あはっ、ごめんね。私のお母様の住んでいたところのこと、もう少しわかったら、いっしょに遊ぼうね。

 コメットさん☆といっしょに遊びたくて仕方ない万里香ちゃんを、なんとかなだめて、王妃さまの暮らしていたあたりの話を、もう少し聞きたいと思った。

万里香ちゃんの母:…砧もいいところなんだけど…、うちが住んでいた家はどうしても狭くてね…。

コメットさん☆:あの…、私万里香ちゃんから、前に不思議な話を聞いたんですが…。…星の国からやって来た女の子の話ってご存じですか?。

 コメットさん☆は、万里香ちゃんのお母さんが、砧について語りながらソファに戻ってくると、さっそく聞いてみた。

万里香ちゃんの母:ああ、その話?。万里香にそっと教えた話なんだけど…。普通は信じられないような話よ…。…そうね、でも実際にあったこと…。私その子と…、いっしょに遊んだこともあった…。…万里香そんな話もあなたにしたの?。なんだか恥ずかしいようなことだけど…。信じられないわよねぇ?。

コメットさん☆:いいえ、そんなことは…。

万里香ちゃんの母:でも、確かに私はこの目で見た…。世田谷のうちから道を少し行ったところに、その子は住んでいたわ…。…私が中学か高校の頃だったと思う…。その子は近くの立派な家に、ちょうどあなたと同じようにホームステイしていて…、その家の小さな男の子の兄弟と仲がよくって…。1978年…頃だったかしら…。不思議なバトンを振り回して、…そうね、ちょっと魔法のような術を使う女の子だった…。

コメットさん☆:バトン…ですか?。

万里香ちゃんの母:万里香も少し学校で教わったわよね。

万里香ちゃん:うん、バトントワリング!。

万里香ちゃんの母:最近はバランス感覚がよくなるって、学校でも教えてくれるらしいんだけど…。その子はとてもバトンを回すのがうまくて…。でも、ただ回すだけじゃないように見えた…。回すと不思議なことがいくつも起こるのよ…。…でも、そんなこと、あるはずないわよね…。

コメットさん☆:星の国の…っていうのは?。

万里香ちゃんの母:コメットさん☆、ずいぶんいろいろ聞くのね。興味ある?。面白い?。

コメットさん☆:は、はい。ちょっと…あの、う、宇宙人とかって、興味あるものですから…。あははっ。

万里香ちゃんの母:あらそう。うふふ…。UFOとか?。…そうねぇ…、遠い星の国からやって来たって、その子は言っていたわ…。私も最初は冗談だと思って、信じられなかった…。でもね、ある時私が飼っていた猫が、行方不明になってしまったの。そうしたら、その子はすっとバトンをどこからともなく取り出すと、それでもって、私のいなくなった猫を探し出してくれたのよ…。

コメットさん☆:へぇーっ、…その人なんて名前だったんですか?。

 コメットさん☆は、ドキドキしながら聞いた。

万里香ちゃんの母:それがよく思い出せないのよね…。確かに名前聞いたんだけど…。なんだか、英語の名前だった…。うーん、どうしても思い出せないわ…。それも実は変なのよ…。その子がある日いなくなってしまったら、ふっと忘れてしまったの…。そんなことって…変でしょ?。さんざん考えたんだけど、どうやっても思い出せないの…。口から出かかっているような気持ちなんだけど…。

 コメットさん☆は、心の中で思っていた。「それは間違いなくお母様だ…」と。

コメットさん☆:不思議ですね…。でも、私信じます!。なんだか、そういう話ってありそうだなって思います。人が解明できていないことって、多いはずですから…。

万里香ちゃんの母:…コメットさん☆…。…そう、そうよね。コメットさん☆も宇宙人の話とか読んでいると、そう思ったりする?。

コメットさん☆:…え、ええ、ま、まあ…。あ、その星ビト…じゃなかった、星の国の女の子が住んでいた家は、女の子がいなくなったあとどうなったんですか?。…う、宇宙人が住んでいたかもしれないわけですよね。

 コメットさん☆は、わざと宇宙人という言葉を使って聞いてみた。王妃さまが住んでいた家を探しに、前に世田谷まで行ったとき、どうしても見つけられなかった理由がわかるかもしれないと思ったからだ。

万里香ちゃんの母:その星の国からやって来ていたという女の子は、ある日突然いなくなってしまったのよ。そのあとしばらくその家はひっそりとしていたわ…。でも…そうねぇ…、2年ぐらいした頃…、1981年頃かしら?、おうちの人みんなで外国へ行っちゃうことになって、おうちを引き払って、引っ越して行っちゃったの。南米のほうに行ったって聞いたわね…。

コメットさん☆:な、南米ですか…?。

万里香ちゃんの母:そうよ。遠くの国ね…。…でも私は、やっぱり不思議でしょうがなかったわ…。星の国の女の子の正体は、いったい何だろうって。だって、本当に星の国から来たって…、それは宇宙人ってことでしょ?。そんな人が、堂々と「星の国の…」なんて名乗るかしらって…。だから私は、魔法みたいに見えたのは、手品か何かかなぁって思うし…、星の国って呼んでいたのは、何かどこかの国を星にたとえてそう呼んでいたんじゃないかなって、そういう風にも思うのよ…。…ふふふ、私の言っていること、変でしょ?。常識じゃ考えられないでしょ?。

コメットさん☆:い、いいえ、そんなことは…。

万里香ちゃん:コメットさん☆、遊ぼうよぅー。

コメットさん☆:あ、ごめんごめん。じゃあ何して遊ぼうか…。

万里香ちゃんの母:万里香ったら、お姉ちゃんがお話ししているのに…、しょうがないわね…。

コメットさん☆:あ、いえ、万里香ちゃんのお母さん、またその話、いつか続きを聞かせてください。

万里香ちゃんの母:変な話につき合わせてごめんなさいね。面白かった?。ふふふ…。

コメットさん☆:ええ、とっても。やっぱり、宇宙人っていますよね!。

万里香ちゃんの母:…そ…、そうね。いるわよね!。…実は私信じているもの…。

 コメットさん☆は、万里香ちゃんのお母さんとの話を打ち切ると、万里香ちゃんの部屋で遊んだ。万里香ちゃんのお母さんが、いまだ生徒時代の思い出として、コメットさん☆の母、つまりは先代の「コメットさん」のことを、覚えてくれていることがうれしかった。それは王妃さまである母の記憶と、万里香ちゃんの母の記憶が、細い糸ながら、確実につながったような気がしたから…。

 

 夜になって、コメットさん☆は、さっそくメモリーボールに報告した。

コメットさん☆:(お母様、大ニュースだよ。お母様の住んでいたおうちの近くに住んでいた人が、万里香ちゃんのお母さんだったんだよ。万里香ちゃんのお母さんは、お母様のこと、ちゃんと覚えていたよ。…でも、万里香ちゃんのお母さんは、お母様の名前の記憶だけ消えてた…。それって、私が万里香ちゃんのお母さんに出会うことを知っていて、私のことがみんなにわかっちゃうといけないと思った、星の導きなのかな…。お母様の住んでいたおうちの人たちは、そのあと外国に引っ越しちゃったんだって。南米ってところだよ…。だからもう会えないかもしれないね…。…いつか、万里香ちゃんのお母さんには、会ってみたら?。感激してくれると思うなぁ…。思い出の女の子だって、私が万里香ちゃんのおうちから帰るとき、言っていたよ…。私も、いつかそうやって、思い出に…、なるのかなぁ…。)

 コメットさん☆は、メモリーボールに語りかけるのを終えると、記憶の糸が結ばれてうれしかったはずなのに、なぜか少し寂しいような気持ちになっていた。人は出会い、そして別れ、成長していく。それは大人になっても同じこと…。歳をとっていくことは、星ビトであれ、地球人であれ、避けることは出来ない。そんなことは、わかっているはずなのに、どこか寂しい…。でも…。

ツヨシくん:コメットさーん☆、いっしょにテレビ見ようよー!。

 下のリビングから、ツヨシくんが大声でコメットさん☆を呼んだ。とたんにコメットさん☆の心には、さっと光が射したような気分。まだまだこれから長い長いかがやき探し。気持ちを切り替えて、それはまた明日も…。

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★第178話:星力はどこまで−−(2004年11月下旬放送)

沙也加ママさん:ええっ!?、そ、それ本当?。…ええ、じゃ、すぐに行くわね、どこの病院?…。

 ある朝、ツヨシくんとネネちゃんを学校に送りだした沙也加ママさんのところに、親戚から電話がかかってきた。

景太朗パパさん:ママ、どうしたんだい?。

 受話器を置いて、少し沈んだ顔の沙也加ママさんに、景太朗パパさんがたずねた。

沙也加ママさん:お、おばさんが倒れたって…。今、救急車で市民病院に運ばれて…。

景太朗パパさん:ええっ!?、あの、高村さんかい?。

沙也加ママさん:…ええ。そう…。高村のおばさんが…。

 コメットさん☆は、キッチンの片づけを手伝っていて、エプロン姿のまま、ふきんでお皿を拭いながらリビングに出てきた。

コメットさん☆:沙也加ママ…、どうかしたんですか?。誰か具合悪いんですか?。

沙也加ママさん:あ、ええ、コメットさん☆…。私の親戚のおばさんが倒れたのよ…。直接のおばさんじゃないんだけど…。

コメットさん☆:倒れたって…。

沙也加ママさん:今病院に行っているの。大丈夫って、親戚は言っていたけど…。心配だわ…。…あ、コメットさん☆、悪いけど、今日お店お休みにしておいてくれる?。私、ちょっと今から、その病院に行って来るから。

コメットさん☆:は、はい。…でも、それなら私、今日店番します。ラバボーといっしょに…。沙也加ママは、心配しないで、病院に向かってください。

沙也加ママさん:…ごめんね、コメットさん☆…。

コメットさん☆:いいえ、そんな…。私ちゃんとやりますから…、大丈夫です。

景太朗パパさん:よし。じゃあ、コメットさん☆、キッチンの後かたづけはぼくがやるから、お店に向かって。ママは車で行く?。

沙也加ママさん:そうね。市民病院なら、ほとんど一本道だから…。

景太朗パパさん:じゃあ、様子がわかったら連絡入れて、ママ。コメットさん☆は、江ノ電で行くことになるかな…?。

コメットさん☆:星力あるので…。

景太朗パパさん:あ、そうか。よし。じゃあみんな行って。ツヨシとネネは、ぼくがうちで待っていることにするから。

 藤吉家は、急にあわただしくなったが、コメットさん☆は、2階に上がるとラバボーを星力で人の姿にした。

ラバボー:姫さま、この姿も久しぶりだボ。

コメットさん☆:…うん、沙也加ママ心配だろうな…。ラバボー、私たちで、沙也加ママの留守を守ろ。

ラバボー:わかったボ。

 コメットさん☆とラバボーは、星のトンネルを抜けると、由比ヶ浜の沙也加ママの店に向かった。

 

 沙也加ママさんは、市民病院で医師から説明を受けていた。

医師:ちょうどここのところなんですが…、血液が通りにくくなっていました。今は薬で通りをよくしましたから、特に心配ないでしょう。ただ生活習慣をあらためなければなりません。それと、体が動きにくくなった場合は、もう明日からでもリハビリをはじめましょう。

 医師は、頭の画像を見ながら、沙也加ママさんと親戚の人々に説明した。

沙也加ママさん:大丈夫なんでしょうか…。

医師:場所もよかったし、早く気付いたので、リハビリすれば、割とすぐによくなるでしょう。しかし、やはり繰り返すとよくないので、食生活や普段の生活も改善しなくてはいけませんね。

沙也加ママさん:はあ…。

 親戚の人々も、安堵はしたものの、一様に心配そうな顔で、顔を見合わせた。

 

 夕方になって、沙也加ママさんは病院から帰ってきた。コメットさん☆も、お店を一日ラバボーと店番して、すでに帰ってきていた。

沙也加ママさん:ただいま…。はあ…、くたびれた…。

コメットさん☆:沙也加ママ、お帰りなさい。

ツヨシくん:ママおかえり…。親戚のおばさん、大丈夫なの?。

ネネちゃん:ママ、大丈夫?。

沙也加ママさん:ええ、それほど心配することはないそうよ…。でも、明日からリハビリですって…。少し左の手足が動きにくいみたい…。

景太朗パパさん:…あ、ママおかえり…。そうか…。リハビリで治るのかな?。

 沙也加ママさんは、靴を脱いで、リビングへ歩きながら答えた。みんなぞろぞろと、沙也加ママさんについていく。

沙也加ママさん:お医者さんは、リハビリを何ヶ月かすれば、まだ若いから元通りに回復できる可能性が高いって言っていたわ。早く見つかってよかったんですって…。でも…、私はまだ高村のおばさんは、そんな歳じゃないし…、元気だったから、何も心配していなかったのに…。

景太朗パパさん:うーん、病気って、突然やってくることが多いからねぇ…。まあしかし、たいしたことはなくてよかったじゃないか。

沙也加ママさん…そうね。それはそうね…。

ツヨシくん:ママ、肩凝った?。ぼくもんであげる。

ネネちゃん:じゃあ、私は足ー。

沙也加ママさん:あら、ありがとう…。いいのよ、大丈夫。…ふふっ、ママのこと、心配?。

ツヨシくん:…うん…。

ネネちゃん:…私も…。

 沙也加ママさんは、景太朗パパさんやツヨシくん、ネネちゃんの元気な顔に囲まれて、少し安心した笑顔を見せた。

コメットさん☆:ラバボー、星力で治せないのかな?。

ラバボー:姫さま…、それは治せないことはないと思うけど…。

 そんな様子を見ていたコメットさん☆は、ラバボーにふとたずねたあと、さらにツヨシくんに肩を、ネネちゃんに足をもまれている沙也加ママさんに聞いた。

コメットさん☆:…あの、その病気って、星力で治療したらどうでしょうか…。

景太朗パパさん:えっ!?、星力…?。

沙也加ママさん:こ、コメットさん☆…!?。

コメットさん☆:…はい。

 景太朗パパさんと、沙也加ママさんは、はっとしたような顔で、しばらく顔を見合わせた…。

ツヨシくん:あ、コメットさん☆、さすがぁ…。

ネネちゃん:わあ、ススっと治療するの、コメットさん☆。

景太朗パパさん:…それは…。

沙也加ママさん:…星力…かぁ…。

 うれしそうなツヨシくん、ネネちゃんに対して、景太朗パパさんと沙也加ママさんは、考え込んだような顔をした。にっこり笑っていたコメットさん☆は、景太朗パパさんと沙也加ママさんの様子を見て、不思議そうにした。

 夜も更けて、コメットさん☆はパジャマに着替え、ベッドに座ってラバボーと話をしていた。

コメットさん☆:少し考えさせてって…。沙也加ママも景太朗パパも…。…いつもより、なんだか歯切れが悪いよ、ラバボー…。

ラバボー:…それはボーもそう思うボ…。何か考えがあるのかなぁ…。わからないボ。

コメットさん☆:…うん。星力で治療するのに、何かいけないことでもあるのかなぁ…。

 コメットさん☆は、毛布をめくるとその中に体を横たえた。

 

 翌日沙也加ママさんは、午前中親戚のおばさんのお見舞いに行った。コメットさん☆は、午前中は沙也加ママさんの代わりにお店に行き、午後戻ってきた沙也加ママさんと入れ替わりに、ふと思いついて、プラネット王子のところに行ってみた。沙也加ママさんは、相変わらず、星力で親戚のおばさんを治療することについて、「その話は、もう少したってからにしない?」と言っていたからだ。

コメットさん☆:…というわけなんだけど…、沙也加ママは、どうして星力での治療に、今度は賛成しないのかな?。

プラネット王子:…そうだなぁ…。今までツヨシくんやネネちゃんの治療は、コメットも、医者ビトもしたんだろう?。

コメットさん☆:ええ…。だって、私の歯が痛くなって、医者ビトさんが来てくれたときは、みんなついでに歯を診てもらったんだよ?…。それなのに…、沙也加ママさん、その親戚のおばさんのこと、きらいなのかな…。そんなはずないと思うけど…。

プラネット王子:うーん、きらいな人のお見舞いには、そうそう行かないだろうな。そうだなぁ…、考えるに…、こういうことなんじゃないかな。

コメットさん☆:…どういうこと?。

プラネット王子:…オレたちが、この星の運命を変えるほどのことを、していいはずもないよな。また…、さすがに出来もしないだろう…。

コメットさん☆:わ、私、そんな大きなことをしようとしているわけじゃないけど…。

プラネット王子:その通り。それはそうなんだが…、つまり…、この星のことは、この星の人が決めるべきだってことなんじゃないかな?。…オレたちが、オレたちの星国のことを、決めるべきなのと同じように…。

コメットさん☆:うん…。それはそうだけど…。だとすると、この星の人には、星力を使わないほうがいいってこと?。

プラネット王子:みんながみんな、星力を要求したとしたらどうする?。

コメットさん☆:…ああそっか…。この地球の人みんなの希望をかなえることなんて…、できはしないよね…。

 コメットさん☆は、考え込んだ。確かにプラネット王子の言うことはわかる。自分は魔法使いの女の子ではない。星力は無尽蔵でもない。ツヨシくんやネネちゃん、景太朗パパさんや沙也加ママさん、それにケースケくらいには、使ってもいいとは思うけれど、この星の全ての人なんて、救えない…。

プラネット王子:星力を使うなってことじゃないさ…。必要だとコメットが思うなら、星ビトも星の子も協力してくれるだろう。それだけ、オレたちは信用されているんだと思うよ。でも…、誰彼なく星力を使うことが、この星の人々のためになるのかまでは…、わからない…かもな。

コメットさん☆:……。…うん。…数年前、ミラさんとカロンくんに頼まれるまま、星力使って失敗したっけ…。

プラネット王子:…へえ、そんなことがあったのか?。どんなことだったのか、教えてくれよ…。

 ハーブティを口にしようとしていたプラネット王子は、カップを口から離すと、コメットさん☆にたずねた。

 

 コメットさん☆が家に帰ると、景太朗パパさんと沙也加ママさんが待っていた。帰宅のあいさつもそこそこに、コメットさん☆は、リビングで話を聞いた。

沙也加ママさん:…コメットさん☆、あの話だけど…。

コメットさん☆:は、はい。星力で治療の話…ですね?。

沙也加ママさん:ええ…。せっかくで悪いけど…、いいわ、コメットさん☆。気持ちだけで…いいの。本人も、一生懸命自分で治そうとしているし…。

コメットさん☆:…沙也加ママ、やっぱり…。

景太朗パパさん:ぼくたち、しばらくママとも考えたんだけど…、やっぱり君の星力は君のものだからね…。

コメットさん☆:で、でも…、私ツヨシくんやネネちゃんのこと…。

景太朗パパさん:うん、いつもありがとう…。ぼくはとても感謝しているよ。それはママも同じ…。きっとツヨシとネネだって同じさ。…星力は、この地球上で、おそらくほとんどのことを可能にする力だろうと思うよ。でも、それは、いつも際限なく使えるものじゃない…。そうだよね…。

コメットさん☆:…はい。星の子の協力がないと…。それにいつも集めておかないと…。

景太朗パパさん:…すると、この家の中や近所では自由自在に使えても、この街中の人たちや、この地球上の全ての人に対してなんて、ちょっと無理なんじゃないかな?、って思うわけさ。

コメットさん☆:はい、それはそうです…。

沙也加ママさん:そうだからこそ、いつ誰に対して星の力を使うのか、あなたは星国の人たちから任されている…。そういうことじゃない?。

コメットさん☆:…え、ええ。確かにそう…だと思います。

景太朗パパさん:本当のところは、誰にだって使ったらいい…。ぼくだって人間だから、仕事だって肩代わりしてくれれば楽だなあ…なんて、思わないわけじゃないけれど…、それじゃあ、君がこの星に来ている意味が、なくなっちゃうじゃないか…。君は、地球を救いに来た「スーパーガールコメット」でもないし、ほうきに乗った魔法使いでもない…。そんなんじゃなくて、この星に「かがやき」という、希望の光を見つけに来たんだろう?。

コメットさん☆:…あっ…。

沙也加ママさん:ずいぶんパパとも話をしたんだけど…、コメットさん☆の力は、純粋にコメットさん☆が「かがやき」というものを見つけるために、使って欲しいなぁって…。それで十分だと思うのよ。

コメットさん☆:…やっぱり、景太朗パパと沙也加ママは…、そう思っていたんですね…。なんとなく、そうかなぁって、私も思っていました。

沙也加ママさん:そう?。ごめんね…コメットさん☆。せっかく心配してくれたのに…。

コメットさん☆:いいえ、そんな謝らないでください…、沙也加ママ…。私が勝手に思いこんだだけだから…。

沙也加ママさん:ううん。コメットさん☆の気持ち、とっても温かかったわ…。ありがとう…。

コメットさん☆:沙也加ママ…、景太朗パパ…。

 そしてコメットさん☆は、メモリーボールに語りかけた。

コメットさん☆:(星力をどこまで使ったらいいんだろう?。ツヨシくん、ネネちゃんにはずっと使いたい…。ツヨシくんが風邪を引いたら治してあげたい…。ネネちゃんがケガしたら、それも治してあげたい…。景太朗パパが腰痛くても、沙也加ママがおなか痛くても…、ケースケが足くじいても。それはいつものように、体の調子が悪いときだけじゃなくて…。おばさまもみどりちゃんだって…。でも、鹿島さんは?。前島さんは?。パニッくんや神也さん、万里香ちゃん…。どこまで?。…それは、私が自分で決めなくちゃいけないんだね…。沙也加ママと景太朗パパは、私が「かがやき」を見つけるために使いなさいって、言ってくれるけれど…。)

 コメットさん☆は、簡単には答えの出ない問題に直面したような気がした。今までだって、起こっていたはずのことなのだが…。そしてそのつど判断できていたはずのことなのだが…。

 

 コメットさん☆は翌日、市民病院へ沙也加ママさんについて行ってみた。紹介してもらった沙也加ママさんの親戚のおばさん、高村さんは、必死にリハビリに励んでいた。理学療法士のお兄さんといっしょに、少し不自由になった左手と左足を、なんとしても元どおりに動くようにするために…。

ラバボー:あ、姫さま姫さま、かがやきを感じるボ。

コメットさん☆:…うん、ほんとだ。あの高村さんからだね。

ラバボー:そうだボ。新しいかがやきだボ。

 コメットさん☆は、リハビリ室の外に設けられた窓から、高村さんを見た。

コメットさん☆:…病気に立ち向かおうとするかがやき、感じるね、ラバボー。

ラバボー:そうだボ。ここにもかがやきは、あったんだボ。

コメットさん☆:…うん。

 コメットさん☆の星力、それは「かがやき」を見出すために。しかし、時には星力を使わなくとも、「かがやき」に出会うことは出来る。コメットさん☆は魔法使いではない。だからこの地球全てなんて、星力で救えはしないけれど、人を思いやる心を大事にすること。それも、自らの「かがやきみがき」の一つ…。

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★第180話:美沙子さんのアルバム−−(2004年12月中旬放送)

 12月も半ばの鎌倉は、そこかしこにクリスマスの飾り付けが行われ、いつもとはまた違った、華やいだ雰囲気になる。そんなある日、メテオさんは、お昼ごはんを幸治郎さん、留子さんとともにとったあと、リンゴジュースを飲んでいた。コップを持ったまま、ダイニングからリビングに出ると、ぼうっと外を眺めながら、一口ずつジュースを飲んだ。飲むたびに、メテオさんの口には甘い香りが広がる。窓から見える広い庭の向こうには、七里ヶ浜の街や、遠く海も見える。そうしているうちに、幸治郎さんと留子さんも、リビングのソファにやって来た。幸治郎さんは、手にたずさえているものがある。

幸治郎さん:メテオちゃん、リンゴジュースおいしいかい?。

メテオさん:ええ。これ、おいしいわ。特別なの?。

幸治郎さん:うむ。それはね、わしの友だちでな、リンゴ園をやっているのがいるんだよ。そこから送られてきたんだ。

メテオさん:へえ。そうなの?。そのお友だちの方、今でも農園やってらっしゃるの?。

幸治郎さん:いやあ、さすがに歳で引退したと聞いたよ。でも息子さんがあと継いで、やっているらしい。だから、そのリンゴは息子さんが育てたものだね。

メテオさん:そう…。とてもおいしいわ。

留子さん:メテオちゃん、リンゴ好き?。

メテオさん:す…、好きよ。果物はだいたい好きだわ。

留子さん:そう。ミカンもおいしい季節よね。

メテオさん:ええ。

 冬の昼下がり、それでも窓から差し込む陽光は、リビングを明るく照らし、ゆったりとした時間を作りだしていた。留子さんと幸治郎さんは、隣り合わせに座っている。幸治郎さんは、手に持ったものを広げると、留子さんに見せた。

幸治郎さん:…増えたねぇ…。

留子さん:…増えましたねぇ…。

幸治郎さん:もう、写真は増えないかと思っていたが…。

留子さん:そうですねぇ…。

 メテオさんは、何を見ているのかと思って、幸治郎さんと留子さんの手元をのぞいた。幸治郎さんが手に持って、留子さんに見せていたのは、アルバムだった。かつては、実の娘美沙子さんの写真が、途中まで貼られ、その先に、今度はメテオさんの写真が、続けて貼られているアルバム。

 メテオさんは、亡くなった娘さんと、続きで自分の写真が貼られていることに、最初の頃ちょっと抵抗感も覚えたが、今は気にならなくなった。それよりは、美沙子さんのページも含めて、まるで自分の成長を記録したアルバムを見ているような、ちょっと不思議な気持ちにもなるのだった。

メテオさん:(星国のお父様が、もし生きていたら、私のこと、こうして記録したりしたのかしら…?。)

 そんな思いも、頭をよぎる。

メテオさん:また幸治郎お父様と留子お母様は、そのアルバムを見ているの?。

留子さん:そうよ、メテオちゃん。それにしてもあなた、メテオちゃんが撮ってくる写真もあるから、どんどんアルバムが増えるわ。

幸治郎さん:それはいいねえ。幸せなことだ。二度と増えないと思っていたわが家の娘の写真が、こうやって増えていくのは、私もとてもうれしいよ、メテオちゃん。

メテオさん:…そ、そう…?。

留子さん:でも、メテオちゃんが、いきなりデジタルカメラって言うのを買って、プリンターとかいうもので印刷し始めた時は、ちょっとびっくりしたわよ。

メテオさん:…だ、だって…。コメットもなんかカメラ持っているし…。わ、わたくしだって、何か撮ろうかなって思ったわったら、思ったわ。…し、瞬さまとか…。

 メテオさんは、そういうと、少しほおを赤らめた。

幸治郎さん:おお、瞬くんという歌うたいの青年とは、うまくいっているかね?。メテオちゃん。

メテオさん:…う、歌うたいって…。せ、せめて歌手と言ってよ、幸治郎お父様…。…うまく行っているわったら、行ってるわ。

留子さん:まあメテオちゃん。うふふ…。あなた、よくそうっとデートに出かけていますよ。

幸治郎さん:そうかね、メテオちゃん。それはよかった。じゃあそのジュースを飲み終えたら、…どれ、写真でも撮ろうかね。

メテオさん:よ、よかったって…。写真…ま、また撮るの?…。

 幸治郎さんは、そう言うと席を立った。自慢の古いカメラを持ち出して、メテオさんを庭で撮ろうということなのだ。メテオさんは、最近しょっちゅうのことなので、少々うんざり気味だった。だが、「私は私よ!」と、思う気持ちもあるけれど、「美沙子さんの生まれ変わり」という立場も、それが星の導きであり、さらには老夫婦の希望というかがやきの元であるとすれば、それはそれでいい…、とも、いつしか思うようになっていた。

 

 メテオさんは、薄いピンク色のドレスを着て、自室の鏡の前に立っていた。

メテオさん:もう…、このドレス…、いくら何でもひらひら過ぎだわ…。

ムーク:んー、なかなかお似合いですよー。…ちょっと前なら、あり得ないドレスだけど…。

メテオさん:…フフフフフ。ムーク、何か言ったかしら?。

ムーク:…あ、いいえ。何も。姫さまの性格にぴったりだと…。…だんだん女王さまに似てきたねこりゃ。地獄耳も…。

メテオさん:ムーク。

 メテオさんは、そっとやさしくムークを抱きかかえると、言った。

メテオさん:…全部聞こえてるわよ、ムーク。…メト、よろしく頼むわね。

 次の瞬間、メテオさんのそばに寄り添っていたメトは、ムークを追いかけ回しはじめた。ムークはメトに飛びかかられながら、必死に逃げ回る。

ムーク:うわぁー、姫さま、助けてくださいーーー。

 

 メテオさんは、たくさんフリルのついた、華やかなそのドレスを着て、前庭に出た。午後のやわらかな陽光は、ほとんど寒さを感じさせない。メテオさんは、庭にあるテーブルセットに腰掛けてみた。

メテオさん:きゃっ、いすが冷たいわ…。

ムーク:…ううう、いつつ…。そ、そりゃあ、一応冬ですからね…。

 メトに追われて、少々ひっかかれたムークは、傷をさすりながら答えた。と、その時、庭の外から聞き覚えのある声が…。

神也くん:わあー、メテオさん。カワイイです〜、そのドレスーー。

メテオさん:うわっ、な、なんであなたがここにいるのよー!。

神也くん:たまたま前の道を通りかかったら、お人形のようなメテオさんが…!。

メテオさん:…うちって、道の一番奥だけど?。

 神也くんは、答えもせずにメテオさんに向けて、手元のカメラのシャッターを切った。どんどん連写で…。

メテオさん:ち、…ちょっと、勝手に撮らないでよ!。ひ、人の質問に答えなさいよったら、答えなさーい!。

神也くん:ああ、すみませんねー、メテオさん。メテオさんが、あんまり美しいから…。つい…。あ、笑ってください〜。

メテオさん:…笑ってって…。

 メテオさんは、神也くんのその言葉に、やや気勢をそがれた。そして向けられたカメラに、つい少し微笑んでしまった。すかさずシャッターを切った神也くんは、目を輝かせた。

神也くん:わあ、メテオさんありがとう。家宝にするため、いまから現像に行って来まーす。

メテオさん:あ、神也、ち、ちょっとどこに行くのよ!。

神也くん:湘南台の写真館でーす…。

 みるみる神也くんは、走っていってしまった。結局メテオさんには、神也くんが何の目的で、ここまでやって来たのかわからなかった。なんだか冷や汗が出るような気分になった。そこへ準備が整った幸治郎さんと留子さんがやって来た。

留子さん:あらあら、大騒ぎね。メテオちゃん、モテモテね。

メテオさん:ち、違うわ!。あ、あれは…、ただ勝手に…、思いこんでいるだけよ、神也は。

留子さん:まあそんなに邪険にするものじゃないわ。あの子もあなたのこと、気になってしょうがないのね。ふふふ…。

メテオさん:き、気になるって…。そ、そんなのイヤーーーー!!。

幸治郎さん:さあ、メテオちゃん、いいお顔してごらん。

メテオさん:えっ…?。

 ふと幸治郎さんに言われ、はっとしてカメラのほうを向いたメテオさん。すかさずシャッターが切られる。

メテオさん:あっ。幸治郎お父様…。まだ…。

幸治郎さん:いいんだよ。自然なメテオちゃんが、いちばんかわいくて、かがやいて見えるよ。

メテオさん:…わ、私が…、かが…やいて…?。

 メテオさんは、何気ない幸治郎さんの言葉に、ふと温かい気持ちになった。すると硬い表情だったメテオさんの顔が、ふっとゆるむ。そんなメテオさんの、ゆるやかな表情は、幸治郎さんのカメラによって、何カットも切り取られた。庭のバラをバックに、鉄骨アートをバックに、門に通じる階段で、サンルームの中や、ガラスを背景にして…。

幸治郎さん:おお、こりゃいかん。フィルムがもうないよ。ちょっと詰め替えてくるから、少し待っててね、メテオちゃん、留子さん。

メテオさん:…幸治郎お父様…、まだ撮るの…?。

留子さん:メテオちゃん、寒くない?。

メテオさん:寒いのは大丈夫だけど…。

 幸治郎さんは、そのまま家の中に戻った。庭には留子さんとメテオさんが残された。

留子さん:瞬さんっていう彼と、その後どうなの?、メテオちゃんは。

メテオさん:ど、どうって…。別に普通に食事したり…。いつも収録やコンサートには…、ついて行くけど…。

留子さん:そう…。もうメテオちゃんは、キスぐらいしたの?。うふふふ…。

メテオさん:…き、キスって…、えっ!?。…そ、そんな…こと、す、するわけ…、あああの、…ほっぺとか…、おでこなら…。…ってなんでこんな恥ずかしいこと私ったら、言ってしまうのかしらー!。

 メテオさんは、一気に真っ赤になって、あわてて言い返した。

留子さん:まあ、メテオちゃん、美沙子に似て、意外と奥手なのね。ふふふ…。

メテオさん:…だ、だって、私たち…、まだ未成年だし…。…そりゃあ…、瞬さまのまわりには、バックダンサーの女の人とかいるけど…。そんなこと…。

留子さん:信じているのね、メテオちゃんは。瞬さんっていう子のこと。

メテオさん:…もちろん。

 メテオさんは、そうは言ってみたものの、心の奥が少しじんじんとした。

留子さん:…心でつながっている人同士は、とても絆が強い…。私も歳をとったけど、それだけは間違いないと言えるわね…。

メテオさん:えっ!?。

留子さん:あなたと瞬さんは、本当に心でつながっているのね。

メテオさん:……ええ。…留子お母様…。

 メテオさんは、留子さんのことをじっと見て、それから前に向き直って答えた。心の奥のじんじんする感じは、留子さんのちょっとした言葉で、かなりやわらいだ。

幸治郎さん:いやあ、メテオちゃんおまたせ。ちゃんとフィルムを入れ換えたよ。

メテオさん:…あっ、幸治郎お父様…。

 メテオさんは、横浜の夜景を見ながら、そっとイマシュンからおでこにキスされた時のドキドキを思いだして、恥ずかしそうにうつむいていた。そこへ幸治郎さんが戻ってきた。幸治郎さんの声にはっとして、顔を上げたメテオさんは、思わず声のしたほうを見た。すかさずシャッターが切られる。

幸治郎さん:おやメテオちゃん、お顔が赤いよ。寒くなってきたかな?。大丈夫?。

メテオさん:…だ、大丈夫よ。幸治郎お父様…。別に寒いんじゃないの…。

留子さん:メテオちゃんは、瞬さんのことを思い出していたのよ。

メテオさん:…と、留子お母様、よけいなこと言わないでったら、言わないで。

留子さん:あら、いけなかったかしら?、メテオちゃん。

幸治郎さん:もうメテオちゃんも年頃だねぇ…。まるで…、いや…。

メテオさん:幸治郎お父様、どうしたの?。

幸治郎さん:あー、いやいや、なんでもないよ。さあ、もう少しバラのあたりで撮ろうかね…。

 幸治郎さんは、ふと美沙子さんの姿を、メテオさんに見た。かわいらしくほおを赤らめたメテオさんに、かつての娘の姿を重ね合わせ、幸治郎さんは、少し手と心が震えるような気持ちになった。しかしその時メテオさんは…。

メテオさん:…そうだわ。私もカメラ持ってくるわ!。ちょっと待っていて、幸治郎お父様と留子お母様。

幸治郎さん:メテオちゃん?。…さすがに美沙子より、ずっと積極的だねぇ…。

 幸治郎さんは、びっくりして、美沙子さんにはなかったような、メテオさんの行動力と思考力に感心した。

 メテオさんは、ドレスのすそをつまんで、2階の自室へと上がっていった。

ムーク:姫さま、急にどうなされたので?。

メテオさん:私のカメラなら、リモコンで写せるわ。それなら、3人とも入った写真が、簡単に撮れるじゃない…。

ムーク:なるほど…。姫さまもおやさしくなられた…。

メテオさん:…もうっ、まるで前の私はやさしくないみたいな言い方じゃないのー!。

 メテオさんは、自室にたどり着くと、棚の上のデジタルカメラと、小さな三脚、それにクッションを手に取った。メトがついてきて、不思議そうに見ている。

 再び庭にとって返したメテオさんは、すぐにデジタルカメラを構えた。

メテオさん:二人ともこっち向いて…。

 その声に、幸治郎さんと留子さんは、振り返った。そのちょっとびっくりしたような顔と、気がついて、ふっと柔らかな笑顔になった二人を、続けてカメラに収める。

幸治郎さん:おお、メテオちゃんがわしらを撮ってくれるのかい?。それはうれしいねぇ…。

留子さん:そうですねぇ…。

幸治郎さん:…それにしても、時代は変わったものだ…。ああしてメテオちゃんのような子が、どんどん気軽に写真を撮って、それがすぐ印刷できるんだからねぇ。美沙子が生きている頃…、いや、それは言わないでおこうか。

留子さん:そうですよ。今私たちの娘は、メテオちゃんですよ。間違いなく…。

幸治郎さん:そうだね…。

 幸治郎さんと留子さんが、そんな会話を交わしている最中も、メテオさんはいろいろな角度からシャッターを切った。そして、庭に置かれたテーブルの向こう側に、小さな三脚をつけたカメラを置くと、自室から持ってきたクッションを敷いて、いすに座った。

メテオさん:幸治郎お父様、こっちに来て。留子お母様も。いっしょに写りましょ。

幸治郎さん:おお、メテオちゃん、みんなで写るのかね。それはうれしいね。

留子さん:こんな感じで写真に写るなんて…、何年ぶりかしら?。

 メテオさんは、手にしたデジタルカメラのリモコンで、セルフタイマーを作動させた…。

 

 夜になって、メテオさんはデジタルカメラの画像を、プリンターで印刷し、リビングでカメラを磨いている幸治郎さんと、編み物をしている留子さんのところに持ってきた。

メテオさん:幸治郎お父様、留子お母様、はい写真!。

幸治郎さん:おや、もう出来たのかい?。さすがにメテオちゃんのは早いねぇ。わしが撮った分は、明日現像に出そうと思っておったところだよ。

留子さん:どれどれ見せてもらうわね、メテオちゃん。…あら、ずいぶんきれいね。色が鮮やかだわ。

メテオさん:それはもう、最新型のカメラとプリンターのなせる技だわったら、技だわ。

幸治郎さん:うむ。メテオちゃん、最新型はすばらしいが、それだけでもないよ。メテオちゃんが、わしらを大事に思ってくれる心が、この写真たちには込められているんだねぇ。

メテオさん:えっ!?。…わ、私…、そんなだいそれたつもりじゃ…。

幸治郎さん:どうだい?、この3人で写っているのを見てごらん。メテオちゃんがひときわかがやいているじゃないか…。もちろん、わしらもね。

 メテオさんは、そう言われて、その1枚の写真を手に取った。庭に置かれているテーブルを囲むようにして撮った、自分を中心にして、左右に幸治郎さんと留子さんを写しこんだ写真。それは、ふとリビングの棚に飾られた美沙子さんの写真を思い起こさせた。美沙子さんを真ん中にして、左右に幸治郎さんと留子さんがいる写真を…。だがもう動かない写真の中に閉じこめられた美沙子さんに、刻まれる時はない。一方メテオさんは、これからずっと続く「かがやき探し」の未来が待っている。家族である幸治郎さんと留子さんとともに過ごす時間、同じ星ビトのコメットさん☆や、プラネット王子たちと過ごす時間、そして恋人であるイマシュンと過ごす時間…。全てはメテオさんの刻まれつつある時間だ。

幸治郎さん:リンゴジュースを、毎年美沙子に送ってくれていた私の友だちも、息子さんに農園をゆずったという…。喜んで飲んでいた美沙子はもういない…。だけど、農園を受け継いだ息子さんの作ったリンゴジュースを、今度はメテオちゃんがおいしいと飲んでいる…。全ては時の流れ…、ということかな?。

メテオさん:幸治郎お父様…。

幸治郎さん:メテオちゃん、わしらにまたいろいろな写真を見せておくれ。

 そう言うと、幸治郎さんはにっこりと笑った。

メテオさん:…ええ、幸治郎お父様、留子お母様…。また、どんどん撮るわったら、撮るわ!。アルバム、もっと埋めるわよ!。

留子さん:あらあら、いつものメテオちゃんね、その意気込みは。瞬さんとのデートも、その調子で行ってらっしゃい。

メテオさん:えっ…、あああ、あの…、そ、それは…。もう恥ずかしいったら、恥ずかしいじゃないのー。

 メテオさんは、思わぬ留子さんの言葉にとまどったが、気が付くと、自分から少しはにかんだように笑っていた。

 リビングの棚の上には、撮ったばかりの3人の写真が飾られた。幸治郎さんと留子さんは、美沙子さんの思い出を胸にしまいつつ、メテオさんという、もう一人の娘の成長を、そっと見守っている。時を戻すことは出来なくても、時が進んで行けば、また新しいかがやきをみつけることが出来る…。老夫婦は、メテオさんにそんな希望を託しているに違いない…。

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★第181話:沙也加ママの想い−−(2004年12月中旬放送)

 ある寒い日の夜、コメットさん☆は、リビングの赤々と燃える暖炉の前に座って、ぼぅっとしていた。その日の昼は、ウッドデッキの掃除を、ツヨシくん、ネネちゃんといっしょにしたのだ。枯れ葉や土ぼこりのたまっていたウッドデッキ。少し前に施した、クリスマスの装飾に照らされて、今夜はひときわきれいに見える。そんな気もした。今年はリビングの窓にも、少し電照の飾りを取り付けた。夜になって、リビングが暗くなっても、赤、青、黄色、白、ピンク、緑…。いろいろな色が、リビングをほの暗く照らす。

 暖炉の火は、夕食が終わってお風呂に入り、はやばやとパジャマに着替えたコメットさん☆に、ぬくもりと、体全体を赤く染める光を投げかける。キッチンでは、いつもより遅くなった沙也加ママさんの、最後の片づけの音が、カタリ、カタリと聞こえる。コメットさん☆も手伝おうとしたのだが、「簡単だからいいわよ」と言われて、コメットさん☆はツヨシくんと、ネネちゃんを寝かしつけたのだった。

 いつもなら、2階に上がって、メモリーボールに記録をして、そのまま寝るのだが、今日はなんだか薄ら寒くて湯冷めしそうだったし、そして、どういうわけだか、心も少し寒くて、何となく暖炉の前に居続けていた。やがて沙也加ママさんの片づけは終わったのか、キッチンがまったく静かになった。

沙也加ママさん:あら、どうしたの?、コメットさん☆。

コメットさん☆:あ、いえ…。沙也加ママ、今年もまた、もう暮れて行くんだなって、…思って…。

沙也加ママさん:…そうねぇ、早いわねぇ…。

 リビングに出てきた沙也加ママさんは、コメットさん☆の心を見透かしたかのように、少しがさついた手に、ハンドクリームを塗りながら答えた。窓の外には、クリスマスのイルミネーション。暖炉には赤い火。リビングの窓辺にもイルミネーション。クリスマスの飾り付けは、今年もコメットさん☆、ツヨシくん、ネネちゃんの3人がしたのだ。それらは幻想的にまたたき、リビングをも照らす。それを相変わらずぼぅっと見るコメットさん☆。沙也加ママさんの視線も、いつしかそれに重なっていた。

コメットさん☆:…私、ここのおうちにお世話になって…、もう、3年なんですね…。こっちの暦で…。

沙也加ママさん:そうね。もうそんなになるのね…。ふふ…、どうしたの?、いつものコメットさん☆らしくないわね…。何か悲しいことでもあった?。

コメットさん☆:いいえ。それはないですけど…。なんか、年が変わって、どんどん時間が過ぎていくのが、不思議なような、怖いような…。

沙也加ママさん:…私も、コメットさん☆くらいの頃、ふとそんなふうに思ったことあったなぁ…。…自分がどんどん、歳だけ大人になっちゃうのが、怖いみたいな…、そんな気持ち…。

コメットさん☆:……。

 コメットさん☆は、沙也加ママさんの目を見て、それから少し視線を落として、小さく頷いた。そして再び沙也加ママさんの目を見ると、そっと言った。

コメットさん☆:…沙也加ママは、どうして私を、この家に住まわせてくれたんですか?…。

沙也加ママさん:……そうねぇ…。どうしてかしら…。

コメットさん☆:…沙也加ママ…。

沙也加ママさん:…いつもツヨシとネネに、困っている人がいたら助けるのよって、教えていたから…というのは、本当は違うのかも…。

コメットさん☆:…えっ?。

沙也加ママさん:…確かに、あなたがはじめてうちにやって来た夜、家出してきたんじゃないかしらとか、心配したし…。それにパパも平気なこと言って、ツヨシもネネも大喜びしているから、とまどったのは事実だけど…。あなたのお母様と直接お話して、家出じゃないとわかると、なんだかそれもいいかなぁって…。ふふふっ…。…車でうちに来る時、私が「星が好き?」って聞いたときの、あなたの表情は、忘れられないわ。

コメットさん☆:…わあ、なんだか恥ずかしい…。

沙也加ママさん:でもね、翌日になって、ツヨシとネネが大喜びしているのを見て、私もなんだかほっとしていた…。本当は、私のほうがうれしかったのかも…。

コメットさん☆:沙也加ママが?…。

沙也加ママさん:そう…。私ね、子どものころから妹が欲しかったの。…ずいぶん母に「お願い」したわ。ふふっ…。それがずっとあって…、あなたがある日突然、歳の離れた妹のようにやって来た…。私はうれしかった…。

 沙也加ママさんは、少し潤んだような目で、コメットさん☆から視線をそらして、リビングの窓から庭のイルミネーションを見た。コメットさん☆は、沙也加ママさんにあたる、暖炉の赤い火の中で、沙也加ママさんの横顔をじっと見た。

沙也加ママさん:最初は…、正直それでも少しとまどうようなことも多かった…。あなたがうちに来た翌日、お風呂の水が透明だって、驚いていたでしょ?。どんな西洋の国の人かなぁって思ったけど、それにしては、留学生っぽいものも、何も持っていないし…。日本語も上手だし…。

コメットさん☆:…ごめんなさい…。

沙也加ママさん:あら、どうして謝るの?。ふふふ…。今にして思えば、いい思い出よ。

コメットさん☆:…な、なんだか、私うそついていたみたいで…。

沙也加ママさん:…確かに、この星じゃない故郷を持っている子、…とまでは考えなかったし…、あなたが星ビトってわかってからでも、不思議なことが多くて、とまどったこともあった…。どう考えていいか、わからない時もあったけど…。

コメットさん☆:…沙也加ママ。

 コメットさん☆は、心配そうな顔を沙也加ママさんに向けた。

沙也加ママさん:…あなたは、この星に「かがやき」探しに来たって、言っていた…。「かがやき」って何だろうって、ずいぶん考えたわ。あなたがこの星に、「かがやき」を探しに来たということは、まだこの地球に、「かがやき」っていうものが、残っているということでしょ?。「かがやき」を探している、別の星の女の子が、うちにやって来たということは、うちにも「かがやき」があったということかなぁって…。それってなんだか、とてもうれしかったなぁ…。

コメットさん☆:沙也加ママ…、ありがとう…。

 コメットさん☆は、申し訳なさそうな顔で、沙也加ママに言った。

沙也加ママさん:お礼を言うのは、私のほうよ、コメットさん☆。パパも、ツヨシもネネも。みんなコメットさん☆のこと、大好きなんだから…。私やパパ、ツヨシにネネのほうが、「かがやき」を、あなたの中に見たのかもしれない…。それが「星の導き」っていうのだとすれば、…私たちのほうが、コメットさん☆に導かれていったのかもしれないわ…。

コメットさん☆:……。

 コメットさん☆は、黙って少し微笑んだ。沙也加ママさんは、いすから立ち上がると、リビングの窓から、空を指さした。

沙也加ママさん:…だいぶ前になるんだけど、有名な科学者が、地球のように人が住んでいるような、文明が発達した星は、少なくとも10個くらいはあるはずだって言っていたわ。…どのくらいの範囲の中で、10個なのかは忘れちゃったけどね…。ちょうどあなたくらいの歳のときに、…読んだ本に書いてあったと思う…。

コメットさん☆:…10個ですか?。意外と少ないと…、思われているんですね。

沙也加ママさん:コメットさん☆にしてみれば、その数は間違っていると思うかな?。ふふふ…。世界的に有名な科学者も、星ビトにはかなわないわね。あははは…。

コメットさん☆:あははっ…。でも、地球の人たちって、思ったより星が好きなんだなぁって…。

沙也加ママさん:そう思う?。…そうね。…地球以外の星に、「誰かいませんかぁー」って、世界中で電波を飛ばしたり、望遠鏡でのぞいたり、遠い星の人が出す信号(シグナル)を探したり…。いろいろやってみているらしいけど…。…それは、結局この星の人たちみんな、寂しいのよね…。

コメットさん☆:…寂しい?。

沙也加ママさん:きっと誰か、同じような人たちが、他にいないのかなって、心配なんだと思うわ。地球にしか、人が住んでいなかったら、ひとりぼっちなんだって思っちゃうからでしょ?。

コメットさん☆:…そうなんだ…。

沙也加ママさん:……でも、なんだか有名な科学者ですら、地球以外に人が住んでいる星は…なんて予想するくらいだから、お友だちが欲しい…。そういうことなのかもね。うふふっ…。みんな寂しがりやさんだ…。

コメットさん☆:…沙也加ママ…。

 コメットさん☆もまた、立ち上がって、沙也加ママさんのとなりに行き、空を見上げた。名前もないような小さな星が、無数にあるはずの空を。雪雲のような雲に、今夜は閉ざされていたのだが…。

コメットさん☆:あ、あの…、沙也加ママ、私…、いつまでここにいていいですか?。

沙也加ママさん:そんなこと、まだ気にしているの?。…ここはあなたのもう一つのおうちなんだから…。

コメットさん☆:…そ、そうですけど…。

沙也加ママさん:…あなたは、夢や希望のかがやきを、見つけたいんでしょ?。…なら、それが見つかったと思えるまで…。いつまでも…。

コメットさん☆:ママ…。

沙也加ママさん:もう、うちの子になっちゃう?…。なんてね…。うふふふ…。

コメットさん☆:……なっちゃったら…。

 コメットさん☆はふと、星国や他の星ビト、星の子のことを忘れたような気持ちになって、言ってみた。沙也加ママさんは、それを聞いて、コメットさん☆をそっとやさしく抱きしめた。

沙也加ママさん:…そっか…。やっぱり、時々は恋しいのね…。ご両親や、星国が…。わかるわ…。

コメットさん☆:……。

 いつしか、リビングの窓の外には、白い雪が降り出していた。何もかも白く覆いつくす雪が。

沙也加ママさん:…コメットさん☆、明日は雪合戦かもよ?、ツヨシとネネと…。

コメットさん☆:…はい。そうですね。

 コメットさん☆は、ふと窓の外を見て、やや明るい声で答えた。

 

 翌日の午後、珍しく一面の銀世界となった藤吉家の庭には、元気なコメットさん☆と、ツヨシくん、ネネちゃん、ラバボーの声がこだましていた。

ツヨシくん:それっ!。

コメットさん☆:あー、やったなっ。じゃあ私も…、えいっ。

ラバボー:うっ、何で姫さま、ボーに雪玉投げるボ?。

ネネちゃん:ツヨシくん覚悟っ!。

ツヨシくん:わひっ、つ、冷たいっ!。

景太朗パパさん:あはは…、さっそくやっているな。滑って転ぶなよー、みんな。

沙也加ママさん:うふふふ…。(コメットさん☆、あなたの探し求めている「かがやき」って、そうやって毎日のように見つかっているのかな?。でも、いつかあなたは、星国に帰るのかしら…。それはまだ当分先のほうが、…いいなぁ…。)

 沙也加ママさんは、庭を見やりながら、心の中でつぶやいていた。まだまだずっと、コメットさん☆の「かがやき探し」は続いてゆく…。

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