その先のコメットさん☆へ…2003年後半

 「コメットさん☆」の放送がそのまま続くと、第86話からは2003年になります。このページは2003年後半分のストーリー原案で、第109話から第131話までを収録しています。2003年の前半分第86話から第108話まではこちらです。

 各話数のリンクをクリックしていただきますと、そのストーリーへジャンプします。第109話から第131話全てをお読みになりたい方は、全話数とも下の方に並んでおりますので、お手数ですが、スクロールしてご覧下さい。

話数

タイトル

放送日

主要登場人物

新規

第109話

コメットの妹

2003年7月上旬

プラネット王子・コメットさん☆・人間ラバピョン・ラバボー・縫いビト

第110話

女王のお散歩

2003年7月中旬

メテオさん・コメットさん☆・カスタネット星国女王・ラバボー・ムーク・狸ビト(侍従長)

第111話

ケースケの心は

2003年7月下旬

ケースケ・コメットさん☆・景太朗パパさん・沙也加ママさん・ケースケの友だち

第112話

勉強すること

2003年7月下旬

コメットさん☆・沙也加ママさん・景太朗パパさん・ラバボー・パニッくんのお母さん

第113話

メテオさんのエール

2003年8月上旬

プラネット王子・メテオさん・ケースケ

第114話

みんなの旅行<前編>

2003年8月中旬

コメットさん☆・メテオさん・プラネット王子・人間ラバピョン・人間ラバボー・ミラ・カロン・景太朗パパさん・沙也加ママさん・ツヨシくん・ネネちゃん

第115話

みんなの旅行<後編>

2003年8月下旬

コメットさん☆・メテオさん・プラネット王子・人間ラバピョン・人間ラバボー・ミラ・カロン・景太朗パパさん・沙也加ママさん・ツヨシくん・ネネちゃん

第116話

やっぱり友だち

2003年8月下旬

コメットさん☆・メテオさん・プラネット王子・人間ラバピョン・人間ラバボー・ミラ・カロン・景太朗パパさん・沙也加ママさん・ツヨシくん・ネネちゃん・ケースケ・由比ヶ浜海の家の人

第117話

ラバピョンと天丼

2003年9月上旬

人間ラバピョン・人間ラバボー・コメットさん☆・沙也加ママさん・景太朗パパさん・ツヨシくん・ネネちゃん

第118話

笑顔のちから

2003年9月中旬

コメットさん☆・プラネット王子・橋田さん・ラバピョン・ラバボー

第120話

ピカピカ賞をもう一度

2003年9月下旬

コメットさん☆・ツヨシくん・ネネちゃん・沙也加ママさん(・高嶋さん・メテオさん)

第121話

食欲の秋とミラの秘密

2003年10月上旬

コメットさん☆・ミラ・プラネット王子・沙也加ママさん・ラバボー

第123話

それぞれの想い<前>

2003年10月中旬

コメットさん☆・メテオさん・カロン・幸治郎さん・留子さん・景太朗パパさん・沙也加ママさん(・ケースケ)

第124話

それぞれの想い<後>

2003年10月下旬

コメットさん☆・ツヨシくん・ミラ・メテオさん・カロン・パニッくん・ネネちゃん・留子さん・イマシュン・黒岩マネージャー・会場の人々多数・ケースケ・青木さん・景太朗パパさん・沙也加ママさん・プラネット王子・審査委員長

第125話

揺れる心のコメット

2003年11月上旬

コメットさん☆・スピカさん・みどりちゃん・ツヨシくん・ネネちゃん・ラバボー・ラバピョン

第126話

紅葉の不思議

2003年11月中旬

コメットさん☆・沙也加ママさん・ラバボー・観光客たち

第128話

沙也加ママの心配

2003年11月下旬

コメットさん☆・沙也加ママさん・景太朗パパさん・ツヨシくん・ネネちゃん・ラバボー

第129話

イルミネーションの夢

2003年12月上旬

コメットさん☆・景太朗パパさん・沙也加ママさん・ツヨシくん・ネネちゃん

第130話

クリスタルガラスの星

2003年12月中旬

コメットさん☆・景太朗パパさん・沙也加ママさん

第131話

ゆず湯のぬくもり

2003年12月下旬

コメットさん☆・ラバボー・沙也加ママさん・ツヨシくん・ネネちゃん

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★第109話:コメットの妹−−(2003年7月上旬放送)

※前の話を読む→こちら

 コメットさん☆が、4月にプラネット王子から教えてもらった、デジタルカメラ写真コンテストの、締め切りが近くなってきた。

 誕生日がわかって、景太朗パパさんからもらった、小さなデジタルカメラ。よく持ち歩いて、いろいろなものをスナップして回っている。せっかくだから、そのコンテストに応募してみようと思う。だが、いままで撮った写真は、コンテスト向きなのかどうか、コメットさん☆にはよくわからない。そこで星のトンネルを通って、橋田写真館まで行き、プラネット王子にも、いままで撮った写真を見てもらったが、二人して探しても、「これなら…」というのはどうも見つからない。

プラネット王子:うーん、写真はある程度、偶然のシャッターチャンスがものを言うんだけれど、そればかりねらっていたら、それこそニュースカメラマンになってしまうな。こういうコンテスト向きなのは、割と日常っぽい題材を、すっきりととらえて、それでいて人の胸に響く…みたいなのがいいんだろうと思うけど、なかなか難しいよなぁ…。

 王子はそう言うと、視線を上げて天井を見た。

コメットさん☆:もっと撮らないとダメなのかな…。

プラネット王子:まあ、デジタルカメラのいいところは、どんどん撮って、その場である程度の仕上がりはわかるから、良さそうなのを残して…ってのを繰り返せることだから、まだ時間があるし、もっと題材を決めて撮ってみたらどうかな?。

コメットさん☆:そうですね…。でも、いままでの花とか、人の顔とかじゃなくて…?。

プラネット王子:いままでのが悪いわけじゃないんだけど…。こういうコンテストって、何かこうアピールするものがあったほうが、有利は有利だよな。あと…、応募点数に制限があるからなぁ…。

 コンテストは作品を、指定の写真店に持ち込むか、送るかすればよく、コメットさん☆の場合は、チラシを置いていたこの橋田写真館に持ち込めばいいが、一人で応募できるのは、1点限りという制限があった。また組写真の場合も、5枚までの制限が。

 結局コメットさん☆は、ラバピョンを“被写体”にして、組写真になるように撮り直してみることにした。

コメットさん☆:…というわけだから、ラバピョン、モデルになって。

ラバピョン:いいけど姫さま、このまま撮ってもらったら、「新種の動物発見!」とかになってしまうのピョン。

コメットさん☆:あはっ。大丈夫だよ。ちゃんと人間の姿にするもの。それから、縫いビトさんたちに、衣装も作ってもらお。

ラバピョン:わぁ、それならいいのピョン。お願いするのピョン。

ラバボー:ラバピョンのドレス姿見たいボー。そうしたらボーは溶けてしまうかもだボー。

ラバピョン:…なんでドレスと決まっているのピョン。…もう。ラバボーしっかりするのピョン。

コメットさん☆:…ドレス?。ドレス…、ドレスかぁ…。あんまりフォーマルなのだと、日常の感じが出ないなぁ…。あ、そうだ、沙也加ママさんの雑誌を借りよう。

 コメットさん☆は、沙也加ママさんが毎月とっている、子どものファッション誌の初夏号を借りてきた。その中で似合いそうな衣装を参考にして、縫いビトに作ってもらい、ラバピョンに着せて写真を撮ろうと考えたのだ。

 コメットさん☆はパラパラとページをめくって、「サンドレス」のところを見つけると、ラバピョンに見せた。

コメットさん☆:こんな感じはどうかなぁ?。

ラバピョン:わぁ、かわいいのピョン。この衣装を縫いビトさんたちに作ってもらうのピョ?。

コメットさん☆:そのままというわけにはいかないから…、このへんのページを縫いビトさんに見てもらって、それであとはおまかせにしよ。

ラバピョン:わかったのピョン。姫さま早く早くなのピョン。

ラバボー:ラバピョンかわいいボー。

ラバピョン:まだいつものままなのピョン!。

コメットさん☆:あははははは、ラバボーおかしいね。じゃラバピョン、星力かけるよ。

 コメットさん☆はバトンを振って、ラバピョンを人の姿にした。いつもの普段着のラバピョンに。続いて縫いビトを呼ぶために、バトンをもう一度振る。

コメットさん☆:さあ、縫いビトさん、来て!。

縫いビトたち:姫さま、お呼びですのー。

コメットさん☆:この本に載っているような感じで、ラバピョンにサンドレスを作ってあげて。

縫いビトたち:…ふん、ふん。これってサンドレスって言うんですの?。わかりましたの〜。ラバピョンさん、動かないでいて下さいねー。

 縫いビトたちは、高速で回る光の帯のようになって、ラバピョンの回りを回り始めた。やがて縫いビトたちが止まると、そこには薄いブルーの、割とプレーンで、フリルと小花をあしらったようなデザインの、サンドレスを着たラバピョンが立っていた。その頭には小さな麦わら帽子。

コメットさん☆:わあ、ラバピョンかわいいよ。とても似合ってる。

縫いビトたち:どうですの?。こんな感じでは。

コメットさん☆:なんか、とってもよさそう。

ラバボー:ラバピョン、かわいいボー。ボーはもうメロメロだボー…。

ラバピョン:かわいいのピョン?。姫さま、鏡はどこピョン?。

コメットさん☆:あそこ、あそこ。

 コメットさん☆は、部屋のすみのほうの壁を指さした。細い鏡がかかっている。ラバピョンは、そっとその前に行ってみた。

ラバピョン:わぁ、これってかわいいのピョン。ひらひらたくさんピョン。

コメットさん☆:縫いビトさんたち、ありがとう。大変だった?。

縫いビトたち:そうでもありませんの。でも、麻の入った生地なので、シワになりやすいかもしれないですの。

コメットさん☆:…あ、そうなの?。わかった。ありがとう。

ラバピョン:縫いビトさん、ありがとうなのピョン。とてもうれしいのピョン。

縫いビトたち:姫さま、よろこんでいただけて光栄ですの。それじゃ、また用があったら呼んで下さいの〜。

 縫いビトたちは帰っていった。それを見届けると、コメットさん☆たちは、七里ヶ浜の海岸に向かった。コメットさん☆は、そこでサンドレスで遊ぶラバピョンを撮ろうと思ったから。

 コメットさん☆は、海を見つめてまぶしそうな目をする、たまたま落ちていた貝を拾う、コメットさん☆に向けて水をはねかせようとする、スカートのすそをもって裸足で水に少し入る、麦わら帽子を投げる…、そんないろいろな表情のラバピョンを、何カットも撮った。人の姿で、ちょっとおめかししたつもりのラバピョン。その様子は、輝いて見える。純粋な笑顔で喜ぶラバピョンは、かがやきに満ちて、いつもよりずっと光っているように思えた。

 コメットさん☆は心の中で思った。「うん、これでいいんじゃないかな」と。

 翌日、コメットさん☆は、「藤吉コメット」と名前を書いた応募票とともに、写真を橋田写真館に持っていき、王子に預けた。王子は、応募票をチェックすると、無言でうなずき、預かり箱に入れた。これであとは、審査結果を待つだけである。

 コメットさん☆の付けた題は「妹」。ラバピョンは妹ではないが、その題がふさわしそうだったから…。果たして、コメットさん☆の写真は、コンテストに入賞することができるか…。

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★第110話:女王のお散歩−−(2003年7月中旬放送)

 もうすぐ梅雨明けというある日、メテオさんが息せき切って、コメットさん☆の家にやってきた。そして玄関を開けて「こんにちは、おじゃましますっ!」と言うが早いか、2階のコメットさん☆の部屋に駆け上がった。

メテオさん:コメット、助けて!。

コメットさん☆:メテオさん、どうしたの?。またお母様でも来るの?。

メテオさん:そうよったら、そうなのよー!。

コメットさん☆:えっ、本当?。よかったねメテオさん。じゃあ久しぶりでお母様に会えるね。

メテオさん:よくなんてないわよー!。何言われるか、わかったものじゃないわ。コメット、私といっしょに逃げて。

コメットさん☆:そりゃ、会ってみないと、お母様が何て言うかはわからないよね…。でもなんで逃げるの?。

メテオさん:ああーーもうーー。なんでコメットは、そんなに落ち着いていられるのよー!。またこの部屋ごと爆発させられちゃうかもしれないのよー。

コメットさん☆:大丈夫だよ。それならメテオさんのお母様、ちゃんと星力で直してくれたもの。

ラバボー:姫さま、元通りになればいいってものでもないボ!。あの時、沙也加ママさんをびっくりさせたボ。

メテオさん:とにかくー、お気楽なこと言っている場合じゃなくて、早く逃げるのよ。

コメットさん☆:…わ、わかったけど…。どこへ…?。

メテオさん:と…とりあえず、え、駅よ!。あそこなら、電車の乗客がいるから、私たちを錨で釣ったりできないはずよ。

コメットさん☆:じゃ、いま準備するから。

メテオさん:準備なんていいから、早く行くのよったら、行くのよー。

ムーク:姫さま〜、少し落ち着かれては?。

メテオさん:落ち着いてなんていられないわよー。

 コメットさん☆は、メテオさんに引っ張られるようにして、稲村ヶ崎駅に向かった。ところが、時は既に遅かった。駅に向かう山道を下っているときに、突然空から船の錨が降ってきて、二人の前に落ちた。コメットさん☆とメテオさんは、その衝撃で転倒しかかり、思わずその錨にしがみついたとたん、錨は引き上げられ、気が付くと二人とも、カスタネット星国女王の前にいた。

カスタネット星国女王:あらメテオと、ハモニカ星国王女コメット、久しぶりねったら、久しぶりね。

コメットさん☆:こんにちは。女王様。お元気でしたか。

メテオさん:なんでいつも私たちをこんな目にあわせるのよー。

女王:私は元気よ。メテオ、あなたは最近どうしているかと思って。ハモニカ星国の王女までついてきてくれるとは、思わなかったのだわ。

メテオさん:じゃあなんで2本も錨が落ちてくるのよー。

コメットさん☆:私なら別にかまわないよ、メテオさん。メテオさんのお母様と、よくお話したことなかったし。

メテオさん:…はあ。…もう少し普通に呼んでよ。毎回命が縮むわよ…。

女王:何か面白いニュースがあるようね、メテオ。

メテオさん:ニュースって…?。別にそんなのはないわったら、ないわ。

 女王は、傍らにあるメモリーボールモニタに、橋田写真館にいるプラネット王子を映し出した。

女王:ほう、じゃこれは誰なのかしらったら、誰なのかしら?。メテオ。

メテオさん:…そ、それは…、プラネット王子よ…。

女王:…おお!、王子が見つかったと?。それでメテオ、お前はどうなのったら、どうなのかしら?。

メテオさん:…どうって…。

コメットさん☆:王子は私が偶然見つけました。…でも、王子は王子自身の希望を持って、写真館で働きながら、写真の勉強をしています。

女王:…なるほど。ではメテオ!。お前は王子と結婚を前提にしたつきあいを、しているのかしら?。

 女王はやや強い口調でメテオさんを問いつめた。メテオさんは、うんざりしつつも、その目にとまどいの色をたたえながら、答えた。

メテオさん:…し、してないわ!。そんなの。まだそんな想いをいだけるはずないじゃない!。…それに私には…。

コメットさん☆:女王様、メテオさんも私も、最近結婚しようなんて、思っていません…。まだそんなこと考えたくありません。だって私たち、まだ大人じゃないし、いろいろ勉強しなくてはならないことがあると思うから…。

 女王は、ちらりとコメットさん☆のことを見ると、眉を少し動かして、それから窓の外を見下ろした。窓の外には、七里ヶ浜の駐車場に集まる人々や、サーフィンに興じる人々が見えていた。あるいはケースケもいるかもしれない。…それから椅子に腰掛けた。

女王:…それでメテオ、「私には…」何なのかしら?。

メテオさん:……。

コメットさん☆:メテオさん、正直に言ったほうがいいよ。

 メテオさんは、コメットさん☆におびえたような目を向けたが、そのまま下を向きながら、観念したように話し出した。

メテオさん:私には…、好きな人がいるの…。その人は王子じゃないわ。

女王:……。ほう、それは誰なのかしら?。

メテオさん:…今川瞬さま。イマシュンと言われているわ。…ミュージシャンで…、私はいっしょに歌を歌ったりしたわ。それに、私は彼に「好き」と言われたわ…。

女王:…ミュージシャンとは?。

メテオさん:歌を作って、歌う人よ。

女王:…それで?。

メテオさん:私はその人が好き。彼も私のことを「いちばんの君」って言ってくれている…。その人がコンサートで歌うときには、ついていっていっしょに歌ったりするの。…プラネット王子も、悪い人ではないと思うけど、トライアングル星雲の未来のためとかで、私はイマシュンに対する想いを捨てるわけにはいかない!。お母様、お母様だって、永遠に女王でいることはできないはずだわ。もし私が、タンバリン星国の王子と結婚したら、カスタネット星国はどうなるの?。星の子や、星人はどうなるの?。…だから、私は自分で自分の未来は決めるわ!。

 女王は静かにメテオさんの言葉を聞いていた。そしてやおら立ち上がると言った。

女王:フフフフ…。…よく言った、わが娘よ!。それでこそわが娘なのだわ。

メテオさん:えっ!?。

コメットさん☆:……。

女王:…本当は、私たち、トライアングル星雲の未来のために生きているのではないのだわ。星の子を導き、星人のために生きている…。3つの星国が、それぞれ安泰でなかったら、トライアングル星雲の安定なんて、ありはしない…。だから、わがカスタネット星国の未来が安泰でなければ、トライアングル星雲も安泰ではない…。他の星国もそれは同じ。しかし、他の星国のことは、他の星国がそれぞれ考えるべきことなのだわ。…ちがうかしら?、ハモニカ星国の王女コメット。

コメットさん☆:…は、はい。私もそう思っています。もし私がいつか星国を治めるときが来ても、私は私のやり方で星の子と、星人を導かなくてはいけないと思うし、3つの星国を統一しなければならないなんて、私も思っていません。

女王:だからメテオ!。お前はお前らしく、お前の生き方を考えるしかないのだわ。そのイマシュンとかいう若者と、未来をともにするのも、それがお前の望みなら、それはそれでいいのだわ。

メテオさん:…お、お母様…。

 コメットさん☆は、メテオさんの背中をそっと押した。メテオさんは、女王に抱きついた。その目には涙が光っていた。

女王:いつまでも子どもだと思っていたけれど…。地球に行かせたのは無駄ではなかったようね…。

 女王の目も、いつしかやさしい目になっていた。

女王:侍従長!。これへ。

侍従長:お呼びでございますか?。女王様。

女王:私は出かけるわったら、出かけるわ。用意を。

侍従長:…下界に…ですか?。わかりました。

メテオさん:お母様?。

女王:どれ、メテオの暮らす地球の街を、見て歩きたいのだわ。案内なさいメテオ。ハモニカ星国王女コメット、あなたもいっしょに食事でもし・な・い?。

コメットさん☆:はい。よろこんで!。

 女王は、衣装を変えると、メテオさんとコメットさん☆とともに、そっと稲村ヶ崎の公園に降り立った。そして三人で江ノ電に乗り、鎌倉小町通りに向かった。江ノ電に女王を乗せるのは、メテオさんもコメットさん☆も、一苦労であったが。

 小町通りについた女王は、まず侍従長の用意した金細工を、途中の古美術商に売り、お金に換えた。女王は、地球でお金が必要であるということを、ちゃんと知っていた。コメットさん☆は、その様子を見て、自分の父上である王様が、なぜ金のメダルをたくさん持たせたのか、初めて全て理解した。

 そして女王は、二人の王女といろいろな話をしながら、小町通りの店をのぞいて回った。「見て歩く」はずなのに、どんどんいろいろと買い物をしていく。そしてそれを一部メテオさんにも持たせ、歩いていった。コメットさん☆は、メテオさんの「通販番組好き」と似ているなぁと思いつつ、ついて歩いた。そして三人は食事をし、西口のスーパーマーケットを覗き、御成通りを歩き、由比ヶ浜を見た。まだ肌寒いのに海水浴に興じる若者を遠目に見つつ、三人はだんだんくたびれながら、稲村ヶ崎の公園に戻った。

 女王は静かに海を見ながら、メテオさんに語った。

女王:メテオ、何年もたって、まだそのイマシュンとかいう若者が好きだったら、わけを話して連れてくるのだわ。お前が心に決めているなら、きっとついてきてくれるはず…。…私はまだ当分、元気だから…。ゆっくり決めなさい。

メテオさん:…お母様…。……わかったわ…。いつか必ず…。

 メテオさんは涙を浮かべてうなずいた。すると女王は、やさしい笑顔でメテオさんを見、それからバトンを取り出し、自らの船から侍従を呼んだ。そしてその狸ビトである侍従に、メテオさんに持たせていた荷物と、自分が持って歩いた荷物を持たせると、すっと船に帰っていった。メテオさんとコメットさん☆に手を振りながら…。

女王:わが娘も、ずいぶん成長したものだわ…。

 女王は船から、遠く山の上に向けて歩き出した、メテオさんとコメットさん☆を見下ろすと、つぶやくように言った。

侍従長:…女王様、何か?。

女王:いいや何も…。さあ、全速でカスタネット星国へ!。

 女王は、想いを断ち切るように、大きな声で言った…。

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★第111話:ケースケの心は−−(2003年7月下旬放送)

 最近ケースケに会っていないなと思うコメットさん☆。ケースケは夜間高校に進学して、しばらくは忙しかったようだし、それからも何となく、昼間アルバイトして、夜勉強だから、あまり眠っていないかもと思って、少し遠慮していた。たまたま七里ヶ浜で、トレーニングしているときに、声をかけるくらいで、ケースケ自身、景太朗パパさんのところにも、顔をなかなか出さなくなっていたし…。

 そんなある夜、景太朗パパさんが言い出した。

景太朗パパさん:ケースケに最近会っているかい?、コメットさん☆。

コメットさん☆:いいえ。あんまり会ってないです。忙しいみたいだから…。

景太朗パパさん:…そうか。やつ、結構寂しがっているんじゃないのかな。

コメットさん☆:え、…そうでしょうか。ふふふ…。

 コメットさん☆は、ちょっと照れ隠しの笑いが出た。

景太朗パパさん:あいつ、あれでいろいろ気にするやつだからなぁ…。よし、コメットさん☆、これからちょっと様子を見に行こうか。

コメットさん☆:…え、もう5時過ぎですよ。どこへ?。

景太朗パパさん:だって、6時からだよ、夜間高校の授業は。

コメットさん☆:あ、そうか…。じゃ、今行くしかないんですね…。

景太朗パパさん:そういうこと。さあ、車に乗って乗って。

 景太朗パパさんは、ケースケが通っている夜間部のある高校、「深沢第三高校」まで、車を走らせた。そして、守衛室で名札をつけると、教室のそばまでコメットさん☆を連れていった。

 教室をそっとのぞくコメットさん☆。するとたちまち、生徒たちに見つかってしまった。

女子生徒A:あれ、あなただれ?。誰かの妹?。

コメットさん☆:い、いいえ、コメットです。ケースケに会いに…。

女子生徒A:へえ…。ケースケってことは…、三島くんの彼女?。

コメットさん☆:え、い、いえ、あの…その…。

女子生徒A:三島ぁ!、彼女が来ているよー。

子生徒B:おっ、何々?。三島の彼女?。どこどこ?。おおー、かわいい子じゃん。君、名前は何ていうの?。いくつ?。

コメットさん☆:…え、ええと、コメットです。じ、14歳かな…。

男子生徒B:ええー、14?。もっと子どもかと思ったけど…。あ、ごめんね。外人さん?。スゲー。三島ぁ!、お前もすみにおけねぇなぁ。年下趣味三島くん!、早くここへ来なさい!。あはははは…。

コメットさん☆:……。

ラバボー:失礼なやつだボ。

 コメットさん☆は、夜間部の高校生たちに、いいように言われ、作り笑いを浮かべて困惑した。ラバボーはティンクルスターの中で怒っている。

ケースケ:…ったく、うるせえなぁ…。バカ言ってんじゃねぇよ。コメットは、そんなんじゃねぇよ。オレの師匠のところの子だ。

男子生徒C:おやおや、三島くん。呼び捨てですか?。これはもう決まりですね。

ケースケ:何が決まりなんだよ…。で、コメット、何か用か?。

コメットさん☆:…べ、別に用なんてないけど、…ケースケ最近どうしているのかなって思って…。

ケースケ:オレは毎日こんな具合だよ。もうすぐ授業開始。定期試験が近いのが、頭痛いけどな。

コメットさん☆:そう…。

男子生徒C:三島くん。オレにこの子を紹介して下さいよ。

ケースケ:ふざけんなよ。お前みたいなチャランポランなやつに、コ…この子を紹介できるかバカ。

男子生徒C:あれ、バカとはご挨拶ですねー。そんなにお二人は…。ああそうですか…。なるほど。

コメットさん☆:……。

ケースケ:何がなるほどなんだよ。…ったく、コメット、こんなところに来るなよ。変なやつばっかりなんだから。

新井さん(女子生徒):あら、変なやつばっかりとは、言ってくれるじゃないの、三島くん?。

ケースケ:いや、あ、新井さん、そういうつもりじゃ…。

 新井さんという女子生徒のまえでは、急にケースケはおとなしくなった。が、そんなやりとりをしていると、先生が教室の前の扉を開けて入ってきた。

先生:よーし、こんばんはー。出席をとるぞー。席に着け。…おっ?、君はだれだい?。

 生徒たちはガタガタといすを言わせながら、席に着いた。先生は、コメットさん☆を見つけると、聞いてきた。

コメットさん☆:…コメットです。ケースケの…。

先生:けーすけっていうことは…、三島か。すると恋人か?。三島ぁ、恋人を連れてくるなぁ。ここは学校だぞ。

生徒たち:ヒューヒュー。三島の恋人!。

ケースケ:恋人じゃないですよ!。友だちでもない、ただの知り合いです。みんな関係ないこと言うなよ!。

コメットさん☆:…えっ!?。

 コメットさん☆は、「恋人」というのはわからないと思う。そんなの意識したことは、ない。それはともかく、「友だちでもない、ただの知り合い」と言われたことに、ショックを受け、その場を離れた。そして廊下のいすに座って待っていた景太朗パパさんのところに戻ってきた。

景太朗パパさん:おっ、コメットさん☆、ケースケには会えたかい?。

コメットさん☆:…は、はい。

景太朗パパさん:…どうかした?。

コメットさん☆:……。

 コメットさん☆は無言で、景太朗パパさんを見つめた。少し青ざめた顔に見えたのは、蛍光灯の光のせいではなかった。

 帰りの車を運転しながら、景太朗パパさんは、ちらりと助手席に座っているコメットさん☆の様子をうかがった。いつもなら、外を見たり、話しかけてくるコメットさん☆が、なんだかうつむき加減だ。景太朗パパさんは、「何かあったな」とは感づくが…。

 

 翌日、コメットさん☆は沙也加ママさんからの頼まれものを買いに、鎌倉駅近くの御成通りを歩いていた。

コメットさん☆:ふられちゃったって、言うのかな?。恋人でも、友だちでもない、ただの知り合いだって…。

ラバボー:姫さま、ケースケも本心で言ったんじゃないボ。あの場を切り抜けるために言ったんだボ。去年の夏は、好きって言ったボ。

コメットさん☆:そうなのかな…。でも、人は思ったことを口にするって、メテオさんが言ってた…。

ラバボー:もう一度ケースケに会って話を聞くしかないボ。

コメットさん☆:あっ…。

ラバボー:何だボ?、姫さま。

 コメットさん☆の視線の先には、新井さんという、あの日ケースケが一目置いていた様子の女子生徒といっしょに歩く、ケースケの姿があった。

コメットさん☆:ケースケ…。

 

 コメットさん☆は、家に帰ると、何となく裏山の、あの桐の木の下に行ってみた。桐の木は、梅雨明けして暑く降り注ぐ太陽の光を、その大きな葉っぱでよけてくれた。桐の木の日陰に入ったコメットさん☆は、寄りかかってみた。木は、何も語らない。

コメットさん☆:桐の木さん、私ふられちゃったのかな…?。やっぱり、ケースケには、ケースケの世界があって、私はそこに入っていけないっていうことなのかな…。なんだか、自信ないや…。

 コメットさん☆は、一人そう言うと、少し涙を浮かべた…。桐の木は、何も語ることはなかったが、そっとそのてっぺんの枝を振ったようにも見えた。そこに沙也加ママさんが、思いもかけずやってきた。

沙也加ママさん:コメットさん☆、ここにいたの?。…どうしたの?、今日はなんだか帰ってから元気ないわね。

コメットさん☆:沙也加ママさん…。私…。

沙也加ママさん:パパからそれとなく聞いたわよ。ケースケに何か言われたんでしょ?。

コメットさん☆:……。

 コメットさん☆は無言で頷いた。そして、沙也加ママさんに話した。言われたことも、偶然ケースケが、新井さんと歩いているのを見てしまったことも。

沙也加ママさん:…そう…。

コメットさん☆:……。ケースケの世界は広くて、そこに私は入っていけないような…。

沙也加ママさん:海岸へ行くと、波が寄せては返して行くわよね。それと同じようなことなんじゃないかな?。

コメットさん☆:…波ですか?。寄せては返す…?。

沙也加ママさん:そう。近づいたり、離れていったり。また近づいたり…。別にケースケの世界に、コメットさん☆が入って行かなくてもいいんじゃない?。いっしょに世界一のライフセーバーになるわけじゃないでしょ?、コメットさん☆は。だから、ケースケにはケースケの世界があって、コメットさん☆にはコメットさん☆の世界がある…。互いにそこに近づいたり、また遠ざかったりするけれど、その中に互いが入れるわけはない…。それは別の人だからよ。それでいいんじゃないのかな?。

コメットさん☆:…ママさん。

沙也加ママさん:でも、…ケースケは、少し甘えているのかもね。コメットさん☆なら、いつも微笑んでいてくれると、思いこんでいるんじゃないかな。ほんとはもっとデリケートな問題なのにね。

コメットさん☆:甘えている…んですか?。

沙也加ママさん:コメットさん☆は、コメットさん☆らしく、いつものように振る舞っていればいいんじゃないかと思うわ。当分様子を見ましょうよ。たまたま今回は、少しケースケと遠ざかっただけ…。ちがうかな?。

コメットさん☆:…はい。じゃあ、ケースケには普通に話してみます。

沙也加ママさん:そうね。その新井さんって言う人だって、ただケースケが頭の上がらないつよーい女の子なだけかもよ。

コメットさん☆:あははっ。そうですね。

 沙也加ママさんは、「パパにはないしょよ」と言いながら、自らの中学・高校生時代の話もしてくれた。ちょっとした失恋の話も…。そして二人は裏山から帰ったが、桐の木が、風もないのにざわざわとその枝を揺らしていたのには、誰も気付かなかった。

 果たして、ケースケとコメットさん☆の距離は、再び縮まるのか…。それとも…。

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★第112話:勉強すること−−(2003年7月下旬放送)

 ケースケの夜間高校を見に行って、いろいろ冷やかされてしまった上、ケースケから「恋人でも友だちでもない…」と言われてしまったコメットさん☆。なんだかケースケとは、距離ができてしまった気持ちがする。でも、そのケースケは、学校に通って勉強している。人はなぜ「勉強」するのだろう?。ふとそんな言葉が頭に浮かぶ。私だって、星国では学校に通った。普通に星人たちといっしょに、机を並べて勉強した。星の子のこと、星の成り立ち、星国の歴史、植物たち、星人たちのいろいろなこと。それらを知ることは面白かったし、友だちもできた。覚えたこともたくさんある。夏、楽しくみんなといっしょに泳いで遊べるのも、星国の学校で、水泳を教わったから…。…それでも、今私は勉強しているのだろうか?。地球には、表向き王子探しにやってきた。でも今はそんなことをするために、ここにいるのではない。じゃあ何のため?。…そう思うと、はっきりと答えられないかも。…そんな気持ちを抱くコメットさん☆。さっそく、リビングで新聞を読んでいた沙也加ママさんに聞いてみた。

コメットさん☆:沙也加ママさん、私、もっと勉強したほうがいいんでしょうか?。

沙也加ママさん:…うーん、それはどういうことを言っているのかな、コメットさん☆は。

コメットさん☆:ケースケが夜間高校に行っていますよね。私も学校に行って、勉強したほうがいいのかなって。

沙也加ママさん:ああ、そういうこと。…そうねぇ。コメットさん☆は、まだ知らないことが多いわよね。でもそれは当たり前なんじゃない?。まだ大人というわけでもなければ、子どもでもない。知っていることと、知らないことがあるのは当然よ。

コメットさん☆:…そうなんでしょうか。

沙也加ママさん:確かにコメットさん☆くらいの歳の子は、この国では、中学校に通って、いろいろな科目の勉強をすることになっているわね。だから、ツヨシもネネも、学校に通ってるのはそのため。それは最低限必要な、いろいろなことを理解する力をつけたり、計算する力を養ったり、得意なことを見つけたりするためで、コメットさん☆は、もうその段階は過ぎているんじゃないかな?。

コメットさん☆:…私、それもわからなくて…。

沙也加ママさん:コメットさん☆が、今したいと思っているのは、もう少し教養を身につけたいということなんだと思うな。だって学校は出たんでしょ?。星国で。

コメットさん☆:はい。学校は出ました。12歳になるまでは、星国でも学校に通います。

沙也加ママさん:それって、星国の暦は、およそ地球の倍なんだから、計算の仕方にもよるけど、地球人なら24歳まで勉強したのと同じことなのかもしれないわよ。だから、ケースケが学校でしているような勉強を、今からしなくてもいいんじゃない?。机に向かってするのばかりが、勉強じゃないし。…でも、今コメットさん☆がしたいと思っている勉強は、ただ毎日いろいろな経験をすることだけじゃなくて、もっと違うステップを踏み出してみたい…そういうことじゃない?。

コメットさん☆:…ええ、なんとなくそういう気がします。私なんだか、地球のこと知らなすぎて…。

沙也加ママさん:うーん、地球のことを知るべきなのか、それとも、コメットさん☆の立場を考えると、星国のことをもっと知るべきなのか、その辺は何とも言えないかもね。

 そこに、仕事が一段落した景太朗パパさんもやってきた。

景太朗パパさん:ああ、やれやれ、一休みしようかなっと…。あれ、二人ともどうしたんだい?。

コメットさん☆:景太朗パパさん、私、もっと勉強したいんですけど、どういう勉強をしたらいいでしょう?。

景太朗パパさん:え!?、そんな難しい話していたのママ?。

沙也加ママさん:コメットさん☆が学校に通って勉強したほうがいいか聞くから…。でもよく聞いてみると、コメットさん☆は、もっと教養を身につけたいということのようよ。

景太朗パパさん:…なるほど、そういうことかぁ。そうだなぁ、コメットさん☆が学校に行くのは、ちょっと手続きからして難しいかもね。でも、別にケースケのように学校に通わなくても、いくらでも勉強なんてできるよ。

沙也加ママさん:コメットさん☆は今、「知りたい」って気持ちが、おう盛になっているということだわね。…つまりコメットさん☆は、ケースケを見て、いろいろなことを自分も知りたくなった。もちろん今までもそういう気持ちは、意識しなかっただけで、持ってはいたし、いろいろなことを自然に学んでいたんだけど、今度はそれを意識して、いろいろな知識を持ちたくなった…、教養として身につけたくなった、そういうことじゃない?。たぶん。

コメットさん☆:…確かに、ケースケを見て、私もいろいろ勉強しないといけないなって思いました。なんだか、知らないことが多すぎる気がして。

景太朗パパさん:うん。そういうように、自分から「知らないことが多いな」と振り返ることは、大事なことだね。まあ、とりあえずは本を読んでみることじゃないかな。本を読むと、いろいろ知らないことが書いてあるものだよ。

コメットさん☆:…本ですか。わかりました。どんな本がいいのかな…。

景太朗パパさん:どんな本でもいいけどね。どっちかというと、実際にあったことが書かれているものがいいかな。ノンフィクションだね。割とコメットさん☆は、理科系のことを普段知りたがるように見えるから、宇宙の本とか。…あ、そうだ。ちょっと待ってて。

 景太朗パパさんは、急に立ち上がると、新聞のまとめてある棚を探した。

景太朗パパさん:あったあった。本もいいけど、市民講座なんてどうかな?。ちょうどコメットさん☆が興味持ちそうなテーマで、講演があるよ。

 景太朗パパさんは、市の公報を取り出し、コメットさん☆に見せた。そこには市民講座の記事が出ていた。

コメットさん☆:…「空のはなし」、「ほうき星と流れ星」…。わあ、なんだか面白そうですね。これってどこでやっているんだろう?。あ、市民会館講義室となっている…。

景太朗パパさん:面白そうかい?。なら、申し込みをして行ってみるといいかもしれないよ。コメットさん☆にとっては、ほうき星なんて、星国でありふれているのかもしれないけど、地球から見るとどんな感じでみんな見ているのか、わかるかもしれないし。

コメットさん☆:そうですね。ありがとうございます。すすっと行ってみたい!…。

 

 そうしてコメットさん☆は、市民会館に出かけた。講演のテーマは、「空のはなし」である。ところが会場には、パニッくんのママさんも来ていた。

パニッくんのママ:あーら、藤吉さんのところの方ね。あなた学校にも行かないで、どうしてここにいらっしゃるの?。

コメットさん☆:学校は卒業しましたから…。

 パニッくんのママさんは、得意のメガネを光らせながら、いつもの調子で聞いてきた。

パニッくんのママ:どこの学校かしら?。あなたの歳で、学校を卒業できるのかしら?。

コメットさん☆:…そ、そう言われても、卒業したことはしましたし…。ハモニカ星国ではそれが当たり前だし…。

パニッくんのママ:じゃ、その学校を卒業した人が、どうしてここにいるのかしら?。

コメットさん☆:私、勉強したいんです。…いけませんか?。

 コメットさん☆は、少し不快な気分になりながら、やや強い口調で言った。

パニッくんのママ:あ、あら…、そ、そんなことはないわよ。じゃ、失礼するわね、おほほほほ…。

ラバボー:…失礼だボ。

コメットさん☆:ラバボー…。

ラバボー:姫さま…。気にすることないボ。

コメットさん☆:…うん…。

 講座そのものは面白かったと思いながら帰ってきたコメットさん☆だったが、次回もまたパニッくんのママさんに、いろいろ不自然だと思われるのかと思うと、気が重くなった。

沙也加ママさん:市民講座面白かった?。コメットさん☆。

コメットさん☆:はい。とても面白かったです。ただ…。

沙也加ママさん:あれ、どうかしたの?。

 コメットさん☆は、パニッくんのママさんに、不審の目を向けられ、少し強い口調で言い返してしまったことを話した。

沙也加ママさん:そんなの気にしないのよ、コメットさん☆。だって、その会場にいた人、ほとんど「学校は卒業した人」でしょ?。

コメットさん☆:…あ、確かにそうです。

沙也加ママさん:学校を卒業しても、もっと知りたいと思ったり、興味を持つからみんな講義を聴きにくるんだから。それをどうこう言う人のほうがおかしいわ。だから気にしないの。コメットさん☆の勉強したいという希望は、ほかの人の希望と、必ずしも同じじゃないでしょ?。

コメットさん☆:…そう、そうです。勉強したいのは私の希望…で、ほかの人は、また違った形の希望かもしれない…。

沙也加ママさん:そうよ。コメットさん☆の希望は、コメットさん☆にしかない希望。その希望が、今は「もっといろいろなことを知りたいという希望」なら、希望のかなえ方は、コメットさん☆にしかわからないはずよ。

コメットさん☆:あっ、そうですね!。…そう思います。…じゃ、次回は、人のことを気にしないで行ってきます。次回のテーマ、「ほうき星と流れ星」なんです。

沙也加ママさん:…そう。ほうき星なら、コメットさん☆にぴったりじゃない。偶然とは思えないくらいね。うふふふふ…。

コメットさん☆:あははっ。そうですね。実は、パパさんが紹介してくれたときから、ちょっと期待していたんです。

沙也加ママさん:勉強なんて、自分のペースでやればいいのよ。急いでやらなくてもいいし、学校じゃなければ、誰かにやれといわれてやるものでもない…。気楽に考えていいのよ。本当の勉強は、学校の黒板に書かれることじゃない…。大事なのは、「考える」ことね。

コメットさん☆:はい。ママさん、ありがとうございます…。私、もっと本を読んで、星国のことも、地球のこともいろいろ知りたいです。

 沙也加ママさんは、コメットさん☆に、にっこり微笑みかけた。コメットさん☆は、安心して2階にあがり、本棚から本を出して読み始めた。コメットさん☆が自分で、星国から取り寄せた本を…。いろいろな教養を身につける足がかり。それはコメットさん☆にとって…?。

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★第113話:メテオさんのエール−−(2003年8月上旬放送)

 メテオさんは、先月イマシュンのコンサートについて行った。お気に入りのドレスを持って。黒岩マネージャーも、そうやってメンバーでもないのについてくるメテオさんに、当初は少々困り顔だったが、最近はもう普通に接してくれる。

 そればかりか、メテオさんの前では、遠慮してタバコも吸わなくなったし、すっと席を外してくれたりもする。そんな気遣いにも、メテオさんは最初のうちは気付かなかった。だが、コンサートのあとの打ち上げで、メテオさんが同席していると、バックバンドのメンバーや、マネージャーは、さっと場所を明け渡し、自分たちだけで別なお店に行ってしまったり、打ち上げの場所が、普通のレストランになったりした頃から、メテオさんは、それが未成年の自分のために、イマシュンと自分だけの時間を作ってくれようとしているのだと気付いた。メテオさんは、そっと言葉にならない感謝の言葉を、それらオトナの人たちに、心の中でつづった。

 そうやって忙しいイマシュンとのデートを、何度かして、幸せな気分のメテオさんだったが、ムークも何度か星国に、一時的に帰らせたりした。ムークには家族がいる。その家族から、ムークをずっと独り占めしていていいとも思えない。それに、メテオさんは、ムークがいつもそばにいなくても、自分を見失ったりしない自信がついたから。

 だが、今年の夏は、みんなで泳ぎに行きたいという理由で、半ば強制的にプラネット王子に水泳の練習をさせたわけだが、いつしか王子が通うスイミングスクールに、その様子を見に行くことはなくなっていた。それは、王子が「そんなに毎回来なくてもいいよ」と言ったことも、理由の一つではあったが、メテオさんの、イマシュンに対する、微妙な心理が影響したことも、間違いはなかった。

 そんなメテオさんが、庭で水やりをしていると、ある日星力メールが飛んでくる。メテオさんは、それを手に取ると、紙を広げて見た。

プラネット王子星力メール:マスターした。−−プラネット

メテオさん:…「マスターした」って…それだけ?。何のことだかわからないじゃないのー!。は、待って…。もしかして…、泳げるようになったっていうこと!?。

 メテオさんは、急いで自分でも返事を返した。

メテオさん:今どこ?。−−メテオ

 メテオさんは、返信にあった場所に行ってみることにした。返信の場所とは、七里ヶ浜の海岸だった。そこは結構波が荒いのだが…。

 20分ほど歩いて、山を下り、江ノ電の踏切を越えて、海岸線の国道に出た。そしてその歩道から、プラネット王子の姿を、砂浜に探した。すると浜の江ノ島寄りで、少し広くなっているところに、一人海を見つめているプラネット王子がいた。メテオさんは、急いで浜に降りると、小さな川を渡って、王子に近づいた。

メテオさん:殿下…。

 王子はその声に気付いて、後ろを振り返った。

プラネット王子:…よおメテオ。久しぶりだな。呼び出したりしてすまん。

メテオさん:スイミングスクール…で、泳げるようになったのですかしら?。

プラネット王子:…ああ、とりあえずはね。一応、その証拠を見せておこうかと思ってさ。…しっかし、今日は風が肌寒いな。それにしても、あいつはよくやるよ…。

メテオさん:え?。だれ?。

 プラネット王子の視線の先には、ケースケがいた。サーフィンの練習をしているようだ。距離が遠いせいか、向こうは気付いていない。

メテオさん:…ああ、カリカリ坊やね。あの子は一途過ぎるって言うか…。回りが見えなくなっちゃうのが、私からすればもどかしいわったら、もどかしいわ。

プラネット王子:カリカリ坊やってなんだい?。

メテオさん:…ふふふっ。いつもカリカリしているからですわ、殿下。

プラネット王子:…なるほどね。だいぶ前になるけど、オレ、あいつに意見したことがあってさ。コメットのことで…。

メテオさん:えっ?。殿下…?。

プラネット王子:さあて、王女さまにお見せするほどのものじゃないかもしれないけど、泳いで見せますか。

 王子はそう言うと、やおら着ていたTシャツを脱ぎ、軽く体操すると、海に入っていった。そして、矢継ぎ早にクロール、平泳ぎで、浜と平行に泳いだ。そのスピードの速さには、メテオさんも驚くほどだった。だが、それを見ていたのはメテオさんだけではなかったのだ。

 王子は少し息を荒くしながら、戻ってきた。

プラネット王子:…どうかな。まだ背泳ぎとバタフライは、うまくいかないけどな。とりあえずはどうでしょうか、王女さま。はははっ。

メテオさん:…すごいわ…。もうそんなにマスターなさったの?。それにスピードが速い…。

 メテオさんは、王子の肩幅が前より広くなっているのにも気付いた。そこに後ろから声をかける人物が…。

ケースケ:…あ、あの…。あっ、お前!。

メテオさん:あ、カリカリ坊や…。

ケースケ:いいかげんにやめろよ、その言い方。

プラネット王子:よう、久しぶりだな。三島佳祐。

ケースケ:何?。あ、お前は…。プラ…って、…。

プラネット王子:プラネットだ。まだ正式に名乗っていなかったよな。

ケースケ:プラネット…。お前は、外国人なのか?。

プラネット王子:外国人…。まあそんなところだな。で、何か用か?。コメットと仲良くしているか?。あんまりそんな様子もないようだが…。

ケースケ:な、何でお前がそんなことを知っているんだよ。

プラネット王子:まあいいじゃないか。そんなことより、何か用があるんだろ?。オレたちに声をかけてきたからには。

ケースケ:…う…、お前すごいスピードだな。相当練習しているのか?。

プラネット王子:うん?、水泳のことか?。だとすれば、まあ一応な。

 王子はにやっと笑って、メテオさんのことを見た。メテオさんは視線をそらす。

ケースケ:キャリアはどのくらいなんだ?。

プラネット王子:そうだなー、2ヶ月ってところか?。

ケースケ:…何だって!?。2ヶ月って…、ウソだろ?。2ヶ月で、あんなスピードは出せるはずがない…。

プラネット王子:そういうものなのか?。オレはスクールで練習しただけだが。

メテオさん:ほんとうよ。カリカリ坊や。…この人は、私がスクールに通わせたのよ。間違いなく2ヶ月前に、通いはじめた。週に3回ね。

プラネット王子:…実を言うと、ほぼ毎日通っていたのさ。仕事が引けてからな。一生懸命やらないと、今年の夏中に泳げるようになれなかったかもしれなかったからな。

ケースケ:なにーっ?。お前、泳げなかったのか!?。

プラネット王子:ああ。6月まではね。

ケースケ:……。

 ケースケは息をのんだ。毎日のように練習に行ったとしても、泳げないやつが、わずか2ヶ月で、そんなにどんどん泳げるように、ましてやかなりなスピードで泳げるようになんて、なるものなのだろうか…?。このプラネットとは、何者なんだ?。…そんな思いが頭の中を駆けめぐる。

ケースケ:…くやしいが、お前は相当な力の持ち主だ。…オレのクラブに紹介したいくらいだ。

プラネット王子:プロにそう言われるのはありがたい。しかし、せっかくだが、お断りしておくよ。オレは写真を撮っている方が、性(しょう)に合っているからな…。

ケースケ:…プラネット…。お前、やっぱりオレのことも、そうやって知っているんだな…。

プラネット王子:名前、覚えたられたな。…メテオ、もういいかな、オレ水から上がると風が寒くって。

 確かに今年は冷夏で、8月だというのに、あまり気温が上がらない。王子の唇は、少し色が悪くなってきていた。そして王子は、ケースケの質問には答えなかった。

メテオさん:…あ、ご、ごめんなさい。殿下、早くTシャツを着て。もういいわ。ありがとう。わざわざ見せてくださって。それに、…お、おめでとう。

プラネット王子:いやいや、こちらこそ。ああ、三島佳祐、じゃ、オレはこれで失礼するよ。

ケースケ:あ、ああ…。

 ケースケは、あいまいな返事を返した。遠ざかるプラネット王子と、メテオさんの背を見つめながら。そして、なぜかぼうっと、コメットさん☆のことを思い出していた。

 

プラネット王子:へっくしょい!。あー、鼻風邪ひきそうだ…。

メテオさん:殿下、ごめんなさい。私にわざわざ見せて下さるために…。

 メテオさんは、王子を自宅に連れていった。

プラネット王子:いや、いいんだよ。しかし、三島佳祐にずいぶん高くかわれたのには、さすがにびっくりしたよ。ありがとう、メテオ、君のおかげだな。オレが泳げるようになったのは。

メテオさん:わ、私はただ…。殿下の力ですわ。無理やり連れていったみたいで…。でも、私も去年泳げるようになって、とても面白かったから…。

プラネット王子:最初はとんでもないことになったと思ったがな。ははははは。でも、やってみたら結構面白かったよ。星国にいたら、こんなことは出来なかったな。

メテオさん:これで今年の夏は、みんなで泳ぎに行けるといいですわ。ミラやカロンは行けるかしら?。

プラネット王子:大丈夫だと思うよ。二人とも結構楽しみにしているぞ。

メテオさん:じゃ、殿下、近々みんなで海のかがやき、見つけに行きましょうよ。もう場所や宿は手配していますのよ。

プラネット王子:…はあ、なるほど、そう来るのか。オレまで指名手配だったわけだな。あははははは…。いいよ、行こう。この星のかがやきは、きっと海にもたくさんあるよな。

メテオさん:そうですわったら、そうですわ。そうやって私たちも、いろいろな思い出作りをしないと…。

プラネット王子:…そう…だな。この先…。

 王子はそこまで言うと、黙って窓の外を見た。しかし、メテオさんのエールは、イマシュンとの微妙なバランスで、王子に届いていたことになるようだ…。

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★第114話:みんなの旅行<前編>−−(2003年8月中旬放送)

 待ちに待った夏休み。メテオさんは、景太朗パパさん、沙也加ママさんと、旅行の計画の調整をしていた。コメットさん☆はというと、裏山の畑に、夏野菜の収穫に行っている。

 メテオさんは、既にホテルの手配をすませてあった。しかも11人分。綿密に立てられた計画に、驚く景太朗パパさんと沙也加ママさん。

景太朗パパさん:こりゃまたすごい緻密な計画だねぇ…メテオさん。

メテオさん:そうですかしら?。だって旅行は計画から行く瞬間までが、一番楽しいとか、うちの父は申しておりましたので。

沙也加ママさん:電車で行くのね。伊豆へ電車で行くなんて、久しぶりだわー。車もいいけど渋滞がね…。

景太朗パパさん:でも、現地の移動は…?。

メテオさん:それはご心配なく。下田でレンタカーを手配してありますわ。お二人とも車運転できますでしょ?。

景太朗パパさん:うん、できるよ二人とも。

メテオさん:じゃ、2台でみんな乗せていただけますわね。

景太朗パパさん:ぼくたち、責任重大だなぁ。何しろ3家族の命預かるんだから…。はははは…。

沙也加ママさん:そうね。気をつけて行きましょ。

 メテオさんは、ちょっと申し訳なさそうな顔をした。

 旅行の目的地は、西伊豆の松崎。東海道線から特急「踊り子」で下田へ。そして、下田からはレンタカーで、バサラ峠を越えて松崎に入る。プラネット王子の写真館と、HONNO KIMOCHI YAが夏休みが取れる8月中旬に3泊で…。宿泊は松崎のホテル…。参加予定者は藤吉家5人、メテオさん、プラネット王子、ミラ、カロン、ラバボーとラバピョンも人の姿で…。旅行の計画はそのように決まった。

 

 コメットさん☆と、景太朗パパさん、沙也加ママさん、ツヨシくん、ネネちゃんの5人と、人の姿になったラバボーとラバピョンは、まず家の近くのモノレール鎌倉山駅から、大船に向かった。

コメットさん☆:みーんないっしょに旅行なんて、はじめてで楽しいな。

沙也加ママさん:あら、コメットさん☆、もう楽しい?。

ツヨシくん:ツヨシくん楽しいよ。

ネネちゃん:ネネちゃんだって。

コメットさん☆:もうなんだか、夢のようです。

景太朗パパさん:それにしてもケースケ、残念だったなぁ。さすがにこの時期、あいつも抜けられないだろうしなぁ。

コメットさん☆:…あ、…そうですね…。

 コメットさん☆は、ちょっと寂しそうな視線を、モノレールの窓の外へ向けた。その視線の先には、鎌倉山が、さらに遠い先には、ケースケが一生懸命ライフセーバーとして働く、由比ヶ浜があるはずだった。ケースケは、このお盆前後の時期、一番忙しい。それは、浜にたくさんの人が、休暇でやってくるから…。だから、この旅行には、どうしても参加できなかった。

コメットさん☆:…でも、ケースケがいないと、困る人がいるかもしれませんよね。…だから、仕方ないですよね…。

沙也加ママさん:…そうね。ケースケ、今頃誰かを助けているかもよ。

ツヨシくん:ケースケ兄ちゃん、人助け?。

ネネちゃん:おぼれている人を助けるの?。

沙也加ママさん:ケースケの手助けを必要とする人は、何もおぼれている人ばかりじゃないわ。ケガをした人、病気になっちゃった人。それに落とし物とか。ライフセーバーって、浜で困ったことがあったら、いつでも手助けしてくれるいい人たちよ。…伊豆にもいるかなぁ?。

ツヨシくん:きっといるよ!。

ネネちゃん:そう、見るの楽しみ。サインしてもらおうかな…。

ツヨシくん:なんだよそれ。アイドルじゃないんだぞ、ネネ。

ラバボー:すぐ「バカ」って言う、こわーいお兄ちゃんかもしれないボ?。

ラバピョン:ラバボー、そういう根拠のないこと言っちゃだめピョン。

ラバボー:…うう、ラバピョンに叱られたボ。

ツヨシくん:ラバボー、ラバピョンにすぐ叱られてる。

コメットさん☆:ラバボー、ラバピョンの言う通りだよ。そんなケースケみたいなライフセーバーさん、いないよ。でも、最近ケースケも、バカって言わなくなった。

沙也加ママさん:ところでパパ、メテオさんと、コメットさん☆やメテオさんのお友だちの、橋田さんたちは、どこから乗ってくるの?。

景太朗パパさん:…ええと、メテオさんがくれたメモだと…。まずメテオさんは、大船の駅で待ち合わせっていうことになっているね。あと橋田さんたちは…、プラネットくんと、ミラさんとカロンくんだね。藤沢市に住んでいるから…、小田原で特急「踊り子」に乗って来るって。

沙也加ママさん:そう。特急は藤沢に止まらないのよね。

景太朗パパさん:そうなんだよね。藤沢に止まるなら、大船から乗らなくてもいいんだけどね、ぼくたちも。

 コメットさん☆は、既にプラネット王子が、タンバリン星国の王子であることは、景太朗パパさんと沙也加ママさんに話してある。だから、何も隠し事をしなくてもいいし、信頼して景太朗パパさんと沙也加ママさんには、何でも話すことができる。家族みんなが、そんな関係に今なっていることに、あらためて不思議な気持ちを感じていた。

 

 大船駅では、大きなキャリートランクを持ったメテオさんが、上品な服を着て、小さな麦わら帽子をかぶって待っていた。

メテオさん:こんにちは。お世話になります。父に車で送ってもらってきました。

景太朗パパさん:こんにちは。こちらこそ。

沙也加ママさん:メテオさん、よろしくね。メテオさんの計画がなかったら、これほど大人数の旅行は、考えなかったわ。ありがとう。

メテオさん:そんな…、恥ずかしいですわったら、恥ずかしいですわ。

コメットさん☆:メテオさん、かわいい服だね。留子さんが選んでくれたの?。

メテオさん:…そうね。まあそんなところよ。…でもコメット、バリバリ泳ぐわよ。私は。

コメットさん☆:…そうだね。いっしょに泳ごうね。

ラバボー:ラバピョーン、いっしょに泳ぐボ。

ラバピョン:ラバボー、泳げないのピョ?。

ラバボー:…うっ、もしかして、泳げないのは、ボーくらいなものかボ?。ツヨシくん、ネネちゃん…。

ツヨシくん:ツヨシくんも…。まだ泳げない…。

ネネちゃん:ネネちゃんも…。学校で教えてくれるけど、全然だめ…。

ラバボー:…仲間がいたボ…。いっしょに練習するボ。

ラバピョン:しょうがないのねピョン。私が教えてあげるのピョン。

コメットさん☆:私も教えてあげるね、ツヨシくんも、ネネちゃんも。…それほど上手じゃないけど…。

メテオさん:水泳の練習なら、ホテルに温水プールがあるから、そこの方がいいわよ。海は、浮力があるけど、波もあるし、プールの方が泳ぎやすいわ。

コメットさん☆:そっか、そうだね。

ホームアナウンス:♪まもなく、3番ホームに特急「踊り子」101号、伊豆急下田・修善寺行きが、15輌編成で参ります。危ないですから、黄色い線の内側に下がってお待ち下さい。この電車は熱海で、伊豆急下田行きと、修善寺行きに切り離します…。

ツヨシくん:あ、電車が来るよ。ママ、特急券持っている?。

沙也加ママさん:ちゃんと持っているわよ。えーと何号車かな。

メテオさん:ここでいいはずですわ。

沙也加ママさん:…さすがメテオさん、もう位置までチェックしてるのね。

 

 大船を発車した「踊り子」は、ぐんぐんとスピードを上げ、次々と駅を通過していった。そしてわずか25分ほどで、小田原駅に着いた。プラネット王子、ミラ、カロンの3人は、既にホームで待っていた。見ると、王子は縦長のケースを肩から下げ、ミラはなぜかビート板を持っている。ほどなく、3人は合流した。電車はすぐに発車して、一路伊豆を目指す。  (→踊り子号走行音こちら・※下)

プラネット王子:こんにちは。藤吉さん、お世話になります。

景太朗パパさん:おお、プラネット…くん…だね。こちらこそ。

沙也加ママさん:久しぶりね。みんな元気だった?。ミラさん、ドレスコンテストの準備進んでる?。

ミラ:はい。大丈夫…だと思います。

カロン:コメットさま、こんにちは。…メテオさま、こんにちは…。

メテオさん:カロン、どうしたのよ。

カロン:いえ、なんでもないです。

 カロンは、なんとなく恥ずかしそうに答えた。メテオさんを、ちょっと意識しているのだ。

コメットさん☆:王子、その長い荷物なんですか?。

プラネット王子:ああ、これか。これは釣り具の竿が入っている。魚でも釣れないかなと思ってさ。

コメットさん☆:王子、魚釣りなんてするんですか?。…面白そう…。

プラネット王子:普段はしないけどさ。西伊豆はいろいろ釣れるって聞いたから…。

ミラ:あ、あの、私サンドイッチ作ってきました。みなさんも食べませんか?。今から、ホテルの食事とか、楽しみですね。あと、海の家とかあったら、焼きそばが食べたいですね。

プラネット王子:もう、よく食べるなぁ…。

沙也加ママさん:あら、食欲は健康な証拠よ。

プラネット王子:そりゃそうですけど、今朝からずっとこんな調子なんですよ。あははは…。

沙也加ママさん:笑っちゃかわいそうじゃない。ねえ?。ミラさん。おなかが減るのよね、今頃の時期って。

ミラ:…は、はい。

 ミラは、消え入りそうな声で答えた。

 やがて電車は、熱海駅で修善寺行きを切り離してから発車した。伊東線、次いで伊豆急行線に入る。いよいよ伊豆半島だ。

車内アナウンス:…電車はしばらく東伊豆海岸線を走ります。左手、手前に見えます大きな島は、伊豆大島です…。

 電車のアナウンスにあわせて、コメットさん☆は、左側の窓を見た。やや荒い波が、線路の下にある大きな岩ばかりの浜にうち寄せている。

コメットさん☆:(ケースケなら、乗りこなすかな、この波…。)

 コメットさん☆は、寄せては返す荒い波を見つめながら思った。

 

 特急「踊り子」は、定刻に伊豆急下田駅に着いた。お昼ご飯を食べてから、景太朗パパさん、沙也加ママさんの運転するレンタカーで、バサラ峠に向かう。それほど険しくない峠道で、峠を越えれば、もうそこは西伊豆である。渓流沿いの細い道を抜け、その川が少しずつ太くなっていくのに沿って走ると、もう目指す松崎が見えてくる。道の左右には、青々とした田んぼが広がり、だんだん所々になまこ壁の建物が見え始めると、ほどなく車は、松崎海岸沿いのホテルに到着した。

景太朗パパさん:ああ、やれやれ到着〜。

コメットさん☆:わあ、去年のままの海だ。

メテオさん:あたりまえじゃない。違っているわけないでしょ?。

コメットさん☆:あはっ、あはは…。そう…だけど。…潮の香りがする。水の色が、鎌倉よりずっときれい…。

ツヨシくん:コメットさん☆、泳ごう。

ネネちゃん:ネネちゃんも。

ラバピョン:姫さま、私も泳ぐのピョン。

プラネット王子:んーーー。オレは磯釣りでもしてみようかな。

カロン:メテオさまは、泳がないんですか?。

メテオさん:…別に、泳いでもいいけど?。

カロン:じゃ、ぼくと行きましょう!。

メテオさん:ええっ!?、ち、ちょっと…。もう、しょうがないわね…、なんなのよー!。

ミラ:私は…、殿下といっしょに行きましょうか。魚がたくさん釣れるといいですね。

プラネット王子:もしかして、ミラは、釣れた魚はすぐ食べようとか、思っているのか?。

ミラ:…わかりますか…、やっぱり…。

プラネット王子:やれやれ、景太朗パパさん、何とか言ってやって下さいよ…。

景太朗パパさん:いいじゃあないか。期待に応えてやりなよプラネットくん。

沙也加ママさん:みんな元気ねぇ…。やっぱり若いのね。うふふ…。でもパパ、私たちも、浜へ行きましょうか。

景太朗パパさん:…そうだね。ぼくたちも行こう。

 にぎやかなコメットさん☆たちの旅行は、まだ始まったばかり。夕方までみんな泳いだり、釣りをしたりで楽しんだ。王子はメジナを釣ってまんざらでもない様子。コメットさん☆は沙也加ママさんに買ってもらった、新しい水着で、弁天島の遊歩道を、ミラや、ラバボー、ラバピョン、ツヨシくん、ネネちゃんといっしょに歩いてみた。去年、ケースケといっしょに歩いたように…。磯で小さなカニをつかまえたりもしてみた。カロンはメテオさんといっしょに泳いで、とてもうれしそう。景太朗パパさんと、沙也加ママさんは、あまり泳がずに、浜辺でゆったりした時間を楽しんだ。

 夜はホテルの近所に食事に行き、帰りに松崎港に通じる道沿いにあるお店で花火を買って、浜辺の階段のところにみんな座って花火をした。そしてみんな温泉に入り、さすがに疲れて、ぐっすり眠る。明日も楽しい一日が、きっと待っている…。

(次回へ続く)

※踊り子号走行音→mp3形式約1.87MB。読みながらお聞きになると、臨場感が増します。2008年5月11日収録。
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★第115話:みんなの旅行<後編>−−(2003年8月下旬放送)

 翌日コメットさん☆たちは、ホテルでバイキング形式の朝食を食べてから、水の透明度が高くて有名な、岩地の浜に向かった。岩地で一日ゆっくり過ごそうという企画だ。岩地は松崎から南に車で15分ほど。小さな港がある。天気は快晴。今年は冷夏気味なので、やたら暑くはないが、コメットさん☆たちが泳いだり、水遊びするには、何も問題はない。この時期の西伊豆は、波もしずかで、海水浴場は、まあまあにぎわっているが、由比ヶ浜や材木座のように、人だらけということはない。さっそく海の家に荷物を置いて、ビーチパラソルを立ててもらい、体操をして準備を終えた。

プラネット王子:今日はカメラを用意してきた。みんな思い出になる写真を撮ろう。…あれ、みんな水着が昨日とは違うのな。

コメットさん☆:だって、まだ乾かなかったんだもの。

カロン:ぼくらは、普通に乾いたんですけどね…。

プラネット王子:女の子はまた違うんだよ、カロン。…それに、潮風だとなかなか乾かないよな。昨晩は曇っていたしな。

 王子はつぶやくように言った。と、その時、コメットさん☆が少し大きな声を出した…。

コメットさん☆:あー!。…私…。

プラネット王子:ど、どうした?。

コメットさん☆:星国の海に、更衣室と休憩所作るの忘れた…。

プラネット王子:はぁ?。なんだいそりゃ?。

コメットさん☆:…私、この前、星国に帰ったの。その時に、星国の海で星ビトが、海水浴できるようにしてきたんだけど…。更衣室と休憩所作ってくるの、忘れちゃった。

プラネット王子:なんだよ、そういう話か…。びっくりしたじゃないか…。星国の海か…。オレの星国の海なんて、暗いところで、こんな楽しく遊べるようなところじゃないよ。

コメットさん☆:ハモニカ星国もそうだったよ。だけど、海の妖精さんに協力してもらって、泳げるようにしてきた。…んだけど、星ビトさんたち、どうしてるかな?。

プラネット王子:どうって、…なんとかしているだろ。きっと。…でも、君はどうしたんだよ、その時。

コメットさん☆:私は…、星力で…。

プラネット王子:じゃ、同じだろうよ。みんな。

コメットさん☆:…そうか。そうだね…。あははは…。

プラネット王子:…面白いな、コメットは。何を言い出すかと思えば…。あっ。オレたち出し抜かれたぞ、もう…。

 プラネット王子と、コメットさん☆がふと見ると、もうメテオさんとカロンは、水のかけ合いをしている。ラバピョンは、ラバボーの手を取って、バタ足の練習をさせている。

ツヨシくん:コメットさん☆、泳がないの?。

ネネちゃん:ネネちゃん、もう待ちくたびれたよ。

コメットさん☆:あははっ、ごめーん。あれ、ミラさんは…?。

プラネット王子:とりあえずラーメン食べるとさ。なんでミラは、あれだけ食欲があるかね…。

コメットさん☆:ラーメンか…。私もあとで食べよかな…。

プラネット王子:やれやれ。じゃオレもつきあうよ。…でも、ツヨシくんとネネちゃんがお待ちかねだから、泳ごうぜ。

 コメットさん☆は、タオルをパラソルの下に置くと、小砂利混じりの浜を駆けだした。サンダルを脱ぐと、水に入る。

コメットさん☆:わあ、気持ちいい。ツヨシくん、浮き輪大丈夫?。

ツヨシくん:うん、大丈夫だよ。

コメットさん☆:ネネちゃんは?。少し練習する?。

ネネちゃん:うん。コメットさん☆水泳教えて。

コメットさん☆:いいけど、私あまり上手じゃないよ?。

ツヨシくん:ぼくもがんばる。

ネネちゃん:ネネちゃんもがんばる。

コメットさん☆:よーし。いっしょに泳ごうね。まず平泳ぎおぼえよう。

 景太朗パパさんと、沙也加ママさんは、そんな様子を、遠くのパラソルの下で見ていた。

景太朗パパさん:ママ、ぼくたちも泳ごうか。ここはとても水がきれいだよ。

沙也加ママさん:そうね。せっかくだもの。

 景太朗パパさんも、沙也加ママさんも、そっと水に入り、顔を出したまま、平泳ぎで泳ぎはじめた。それでも、さすがに大人なだけあって、ほかの「子どもたち」への注意は怠らない。

 一方プラネット王子は、タモ網を持ってきて、海水浴場の沖よりにある防波堤に上がった。そして何かをすくっている。

コメットさん☆:あれ、王子何しているんだろ?。

メテオさん:コメットー、どうしたの?。

コメットさん☆:あ、メテオさん、王子何しているのかな?。

メテオさん:ええ?。…あの手に持っているの何?。

ツヨシくん:ツヨシくん知っているよ。魚とる網だよ。

コメットさん☆:へえ、あれで魚とるの?。

ツヨシくん:プラネットのお兄ちゃんは、たぶん小さい魚をすくって、とっているんだよ。

メテオさん:まさか、ミラに食べさせるんじゃないでしょうね。

ミラ:私がどうかしましたか?。

メテオさん:うわ!。き、急に現れないでよ…。

ミラ:すみません。ラーメンまあまあでしたよ。

メテオさん:だれも、ラーメンの味は聞いてないわよ…。

コメットさん☆:ミラさん、「まあまあ」、だったの?。

ミラ:そうですね。いま一つというところでしょうか。おやつになったら、今度は焼きそばか、チャーハンを食べてみたいですね。

コメットさん☆:本当にミラさんは、食欲旺盛だね。

ミラ:…だって、運動するとおなか減りませんか…?。

コメットさん☆:…それは、そうだけど。ミラさん、王子が魚とっているよ。いっしょに行ってみよ。

ミラ:はい。ああ、あそこの防波堤のところですね。行きましょう。…泳いでですか…?。

コメットさん☆:…さすがに泳いでは行けないよ…。ママさん、パパさーん、ちょっと防波堤のところまで行ってきますー。

 コメットさん☆は、少し離れたところで、ゆっくり泳いでいる景太朗パパさんと、沙也加ママさんに声をかけた。

景太朗パパさん:ああ、わかったよー。行っておいでー。

 パパさんの返事を確かめると、コメットさん☆とミラ、メテオさんにカロン、ツヨシくんとネネちゃんは、一度水から上がって、海水浴場の左側にある小さな港を通り、脇のトンネルを抜けて防波堤のところまで行ってみた。

コメットさん☆:プラネット王子、何してるんですか?。

プラネット王子:おお、ここ、水きれいだぞ。今さ、こうやって、カワハギの小さいのをすくって、とっているんだよ。いいかい?。こうして、網を水に入れるだろ?。それから、網の前に、少しオキアミのえさを落とすのさ。すると、ほら、カワハギが寄ってくる…。それで…、すかさず…。こう…。あ、だめだ。

 プラネット王子は、寄ってきたカワハギを、すくい上げようとしたが、逃げられて失敗した。

プラネット王子:…今のは失敗したけど、そこのバケツ見てみろよ。

コメットさん☆:うわあ、けっこうたくさん。

メテオさん:カワハギっておいしいの?。

ミラ:かわいい魚ですね。

プラネット王子:味はうまいはずだよ。だけど、まだ小さいよな。…ちょっと食べるにはなぁ…。それより、ちょっとこの防波堤の、根本のあたりに潜ってみな。熱帯魚みたいなのがいるよ。それと、マトダイとか呼ばれる魚だと思うんだけど、群をなして泳いでいるのが見える…。あ、でもサンダル履いたままな。足ケガしないように…。

コメットさん☆:あのへん…か…。メテオさん、ミラさん、ツヨシくんにネネちゃん、行ってみよう。

 防波堤の根本のところは、浅いところにたくさんの小さな魚が集まっていた。

コメットさん☆:わあ、ほんとうだ。青い熱帯魚みたいな魚が、たくさんいるよ。

ツヨシくん:ほんとだ。

ネネちゃん:これなんて魚?。

メテオさん:…私、見たことないわ…。

ミラさん:ペットショップで見たようなのでしょうか…。

コメットさん☆:あ、ほら、細くて青い魚もいるよ。

カロン:それは、たぶんベラって魚だと思います。コメットさま。

コメットさん☆:へえー、カロンくん、詳しいんだね。

カロン:…いえ、来る前に、ちょっと図鑑を見てきただけですから…。

 水にそっと入ったみんなは、透明度の高い水の上から、小さな魚たちを見ていた。

メテオさん:そっと潜ってみたらどうかしら。

コメットさん☆:あ、それいいかも。ツヨシくん、ネネちゃん、思い切って、少し水の中で目を開けて見ようよ。

ツヨシくん:う…うん。

ネネちゃん:ネネちゃん、ちょっと怖い…。

コメットさん☆:大丈夫だよ。しっかり手を握っていてあげるから。

ツヨシくん:それならいいや。

ネネちゃん:ネネちゃんも見る!。

コメットさん☆:じゃ、ツヨシくんはコメットさん☆と見よ。

ミラ:じゃあ、ネネさんは私と見ましょうか。

コメットさん☆:じゃあ、みんなせーので潜って見よう。目をつぶっちゃだめだよ。いい?。せーの…。

 コメットさん☆は、ツヨシくんの手を握って、頭を水につけた。そして、遠くにマトダイの群れを見つけると、ツヨシくんに合図した。水の中は、意外に静かで、遠くは青くかすんでいる。しかし、海底の藻のようなものの陰や、流木の脇、岩陰などに、よく見ればいろいろな魚がいるのが見える。海面から差す日の光が、キラキラと輝いて、とてもきれいだ。

コメットさん☆:…ぷはー。とってもきれいだね。ツヨシくん見えた?。

ツヨシくん:うん。見えた。お魚さんたくさん。…ねえねえ、コメットさん☆、もう一度やろう。

コメットさん☆:いいよ。ツヨシくん、水に慣れてきたかな?。じゃあもう一度ね…。

 

 やがて王子が戻ってきて、みんなの様子を見に来た。

プラネット王子:おーい、みんな、魚見えたか?。

メテオさん:あら、殿下、とってた魚は?。

プラネット王子:…ああ、あんまり小さいんで、みんな逃がした。

メテオさん:…そう。そのほうがいいわ。こうやって、小さな魚見ちゃうと、ちょっと食べる気にならないわよ…。

プラネット王子:…そうだよな。そろそろ昼じゃないかな?。

ミラ:そうですね…、あ、もう12時近いです。

 ミラは、セパレーツ水着の、隠しポケットから時計を出して、見て言った。ちょうど、コメットさん☆とツヨシくんが、水の上に顔を出した。

コメットさん☆:…はあー。ツヨシくん、面白い?。

ツヨシくん:うん、とっても面白い。コメットさん☆とだから、よけい楽しいよ。

コメットさん☆:そう?。なあに?、それ。あははは…。

プラネット王子:そろそろ戻ろうか。昼飯の時間だぜ、たぶん。あ、景太朗パパさんと沙也加ママさんが、呼んでいる。

 

 海の家で、昼食をとったみんなは、それぞれ長く休憩を取った。ミラさんとメテオさん、ネネちゃんとカロンは、漁協の売店を見に行ってしまった。ラバボーとラバピョンは二人で、浜辺に引き湯してある温泉につかっている。遊びすぎて、少し冷えたようだ。一方、プラネット王子とコメットさん☆、ツヨシくんは、パラソルの下で、ぼぅっと遠くを見ていた。しかしプラネット王子は、カメラを持って、風景を撮影に行ってしまった。

 食後のけだるい感覚と、思い切り遊んだ疲れも手伝ってか、コメットさん☆は、横になって今度は空を見ていた。少しだけある雲が、ゆっくりと流れていく。日の光は、相変わらず強いが、それが心地よい暖かさをも投げかける。コメットさん☆は、あくびが出た。そうして、やがてまどろみの中に落ちていってしまった。ツヨシくんも、また同じように…。

 そこへプラネット王子が、撮影を終えて戻ってきた。

プラネット王子:景色は紫外線が強い分、青っぽく写るかな…。あれ…?。

 プラネット王子は、コメットさん☆とツヨシくんが、寄り添うように寝転がっているのを見て、ちょっと心配になった。そして、すっと二人のそばに寄ってみる。…二人は静かな寝息をたてて、眠っていた。

プラネット王子:なんだ…。疲れて寝ちまったのか…。ふふ…。そっと一枚撮って、あとでびっくりさせてやるか…。

 プラネット王子は、コメットさん☆の寝顔に向けて、そっとシャッターを切った。だが、ふとコメットさん☆の姿を見て、少しドキドキしている自分を感じていた。

プラネット王子:(このコメットの、どこにあんなかがやきの元が、あるんだろうな…。年下の…女の子なのに…。)

 王子は、かたわらにあったすっかり乾いた大きなバスタオルを取ると、そっとコメットさん☆とツヨシくん二人にかけた。

プラネット王子:…風邪引くなよ、二人とも。まるで姉弟みたいだな…。

 

 夕方まで遊んだみんなは、岩地の海をあとに、ホテルに帰ることにしたが、景太朗パパさんが、帰り道を間違えそうになって、たまたまそばを通りかかった黄色いスポーツカーに乗った夫婦に、道を教えてもらい、誘導してもらった。その人は、松崎海岸のそばで、和食料理店を経営しているという。それでその夜は、その和食料理店にみんなで出かけることになって、魚料理をいろいろ作ってもらった。

 

 翌日、朝は薄曇りだった。午前中ゆっくり休んで、昼食を松崎港の近くの食堂でとることになった。ミラはここでもラーメンを注文し、ついでに名物のたこ焼きも注文した。ミラが、さっぱりとしたラーメンの味に「おいしいです」と言い続けた。そして午後になって、天気が晴れてきたので、大田子の浜に、みんなで出かけた。

 昨日と同じように、海の家にお世話になろうとしたが、大田子には海の家はない。そこで近くの駐車場に車を入れ、浜の小さな防波堤の根本に、シートを敷いて、借り物のパラソルを立てた。パラソルは、王子と景太朗パパさんが自前で立てたのだ。

 大田子の浜は、小さな石が多い。その分砂だらけにはならないし、ここも人出は少ない。ゆっくり楽しめるようだ。プラネット王子は、さっそくカメラを取り出して、遊ぶみんなを写真におさめた。

コメットさん☆:殿下、恥ずかしいよ…。

メテオさん:カロン。今日もバリバリ泳ぐわよったら、泳ぐわよ。

カロン:はい。メテオさま。いっしょに沖の堤防まで行きましょう。

メテオさん:ち、ちょっと、あんな遠くは無理よ。

カロン:わかってます。冗談です。でも、早く泳ぎましょう。ここは人出が少ないから、いいですね。

メテオさん:もう、本気にするじゃないのー!。

ミラ:…カロンは、メテオさまのこと、ずいぶん気に入ったようです。

コメットさん☆:そうだね。メテオさん、上のお姉さんみたい。ふふふっ。

ラバボー:ラバピョン、今日も泳ぎ、教えてだボ。

ラバピョン:いいのピョン。姫さま、ラバボー、泳げるようになるかもしれないピョン。

コメットさん☆:へえー。ラバボー、がんばってるね。

ラバボー:…そんなことないボ。ラバピョンの教え方がうまいからだボ。

ラバピョン:ううん。ラバボーが飲み込み早いからだピョン…。

コメットさん☆:…なんか、お呼びじゃないみたい…。ツヨシくん、ネネちゃん、今日もいっしょに水に慣れようね。

ツヨシくん:うん。コメットさん☆、昨日のようにまた水の中見ようよ。あれ楽しかった。

ネネちゃん:ネネちゃんも。またお魚さん見たい。

コメットさん☆:そうだね。あれ?、景太朗パパさん、沙也加ママさん何を塗っているんですか?。

沙也加ママさん:ああ、これ日焼け止めよ。コメットさん☆は塗らなくても大丈夫なんだっけ?。

コメットさん☆:はい。大丈夫です。星国の星ビトは。

沙也加ママさん:そうだったわよね。コメットさん☆が最初、日焼けしないのが不思議でしょうがなかったわ。…あれ、メテオさんは、少し小麦色になったようだけど?。

コメットさん☆:メテオさんは、少し日焼けするらしいです。人によってかなり違うようです。

景太朗パパさん:そうかあ。じゃ、ツヨシとネネは、時々肩のところと、太ももあたりには、日焼け止めしておけよ。あとでお風呂がつらいぞ。

ツヨシくん・ネネちゃん:はーい。

コメットさん☆:さあ、ツヨシくん、ネネちゃん、いっしょに水に入ろ。そーれ!。

 ツヨシくんとネネちゃんをかわりばんこに手を引いて、水に潜るコメットさん☆。もう、ツヨシくんもネネちゃんも、水に顔をつけるのを怖がらなくなった。

ツヨシくん:あははは…。ツヨシくん楽しいよ。

ネネちゃん:きゃあ。ツヨシくん水かけないでぇ。

ツヨシくん:じゃ、コメットさん☆にかけちゃおう。

コメットさん☆:キャハっ。やったなー。それー。

 プラネット王子は、そんなコメットさん☆の様子を見るとはなしに見ていたが、かわいらしい水着で、子どものようにはしゃぐコメットさん☆の、楽しそうな笑顔に、そっとカメラを向けて、写真に切り取る。それは、「写材」としての興味以上のものを、コメットさん☆に感じてしまったからかもしれなかった。しかし王子は、ファインダーから目を離して思った。

プラネット王子:(みんな、コメットのこの笑顔が好きで、守りたいんだな…。オレも、そう…なのかもしれない…。)

 

 プラネット王子は、コメットさん☆のもとを離れて、しばらく防波堤でぼーっとしていた。ふと見ると、防波堤の下に、岩がごろごろしているのが見える。プラネット王子は立ち上がると、防波堤の下に降り、水に入って岩の回りに潜りはじめた。

プラネット王子:おおい、コメット、来てみろよ。みんなもー。

コメットさん☆:王子、なんですか?。

プラネット王子:ちょっと貝と、ウニがいるんだよ。まってろよ、今とってみる。

 プラネット王子は、港の防波堤のすぐ外側にある浅い場所に潜って、ウニと貝をとってきた。

プラネット王子:バケツとってくれよ。

メテオさん:なあに?。何かいるの?。はい、バケツ。

 王子は、バケツにウニと貝を入れると、メテオさんに返した。

メテオさん:これがウニ?。もぞもぞ動いているわ。ちょっと気味悪いわね…。

プラネット王子:もしかして、生きているウニは知らないか…。まあ、魚屋で売っているときには、中身だけになっているものな。

コメットさん☆:たしか、このイガイガのからの中に、入っているんだよ。イガイガビトさんみたい。

メテオさん:ふうん…。知らないわ。

ミラ:ウニはおいしいですよね。これ、食べられるでしょうか。

プラネット王子:ほーら始まった。バケツバック。そのままにしておくと弱るからな。その前に誰かさんに食われそうだ。 

 みんなで、ウニがたくさんいるところや、魚が泳いでいるところを、プラネット王子の教えで見た。強い夏の陽光が差し込んで、ゆらゆらと揺れる海面のすぐ下には、岩にもぐり込んだ小魚や、ウニや貝が見えた。引き潮の今は、あまり深くない。しかし、急に深いところがあるので、プラネット王子と、コメットさん☆、メテオさんは、気を使った。

  

 夕方になって、ホテルに帰るしたくをすませたコメットさん☆と、ツヨシくん、ミラとプラネット王子は、防波堤の上で、ぼぅっと夕日を見ていた。大田子の夕日の美しさは、有名である。去年は、この夕日を見ながら、ケースケがコメットさん☆のことを「好き」と言ったのだ。

コメットさん☆:…去年、ケースケが、この夕日を見て、私のこと…、好きって言ってくれた…。

プラネット王子:…コメット。…どうしたんだ急に。

コメットさん☆:…殿下も、ツヨシくんも好き。ケースケも、少し距離が遠くなっちゃったかもしれないけど、好き。ネネちゃんも、ミラさんも、カロンくんも、メテオさんも…みんな好き…。これって、変かなぁ…。

プラネット王子:…いいや、ちっとも。

 王子は、また少しドキドキしながら、話を続けた。

プラネット王子:…でもさ、もしオレが、こう言ったらどう思う?。…コメット、オレは君が好きだ。独り占めしたい…って。

コメットさん☆:…えっ!?。

ツヨシくん:だめ!。コメットさん☆のこと好きなのは、ツヨシくんだから。

ミラ:…そんなの、ダメです。殿下…。

プラネット王子:…え…!?。

 ミラとツヨシくんの、思いもかけない発言にとまどうプラネット王子。だが、静かに続けた。

プラネット王子:…な?。オレがこういう言い方をすれば、異議をとなえる人がいるわけさ。

コメットさん☆:……。

 コメットさん☆もまた、ドキドキしていた。

プラネット王子:…つまり、「好き」という言葉には、誰かを独り占めしたいという意味も、含まれるかもしれないということ。君の言っている「好き」も「好き」のうちだけど、あまり軽々しく使わないほうが、いいのかもしれないな…。

コメットさん☆:…うん。

 コメットさん☆は、小さくうなずいた。

プラネット王子:…しかし、オレたちは、誰かを独り占めしたい「好き」の相手が、誰なのかという答えを、近々出さなきゃいけないわけじゃ、もうないよな。この星にいつまでいるか、それは自由だし…。いつか帰る日が来るのかもしれないが…。今川瞬の新曲の歌詞、知っているだろ?。「思い出のすみかはここじゃない、君の心のかたすみ」ってさ。

コメットさん☆:知ってます…。殿下も…?。

プラネット王子:…ああ、君が預かっていてくれた、オレのメモリーストーンを見たときに、今川瞬のことは知ったよ…。

コメットさん☆:…そうですか…。…いつか、この星での楽しい思い出も、心のかたすみに…ってこと?。

ツヨシくん:…コメットさん☆…。

 ツヨシくんが心配そうな顔で、コメットさん☆を見た。

プラネット王子:…そうかもしれないし、そうでないかもしれないし…。まあ、先のことはわからない…。それでいいんじゃないか?。…あ、みんな見ろよ。もう日がずいぶん沈んできたぞ。もうすぐあの岩にくっつきそうだ。

 プラネット王子は、沖の岩に、大きな夕日が沈んで行くのを見て言った。みんな防波堤の上に立ち上がって、いつの間にかそばに来ていた景太朗パパさん、沙也加ママさん、メテオさん、カロン、ラバボーにラバピョンもいっしょに、その様子を見ていた。

 コメットさん☆の心に去来するものは…。

(次回に続く)

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★第116話:やっぱり友だち−−(2003年8月下旬放送)

 翌日コメットさん☆たちは、松崎のホテルを出て、一路帰宅の途についた。松崎を出て、バサラ峠を通り、下田の市街に出て、レンタカーを返し、荷物の一部を宅配便で送りだしてから、松崎の和食料理店で教えてもらった、おいしいパンと、紅茶のお店に立ち寄って、電車の時間までゆっくりお茶を飲んだ。コメットさん☆は、ケースケや前島さんたちにおみやげを買った。ふと思い立って縫いビトたちにも…。

 東京に向かう電車は、楽しかった旅行の思い出とともに、コメットさん☆たちを乗せて、下田の駅をあとにした。

景太朗パパさん:また来年も、こうやって旅行に来たいかい?。みんな。

 景太朗パパさんが、電車の中で、みんなに聞いた。

メテオさん:出来れば、来たいですわ。今回はどうもありがとうございました。

景太朗パパさん:いやいや、こちらこそ。みんな元気で行って来られてよかったね。

カロン:メテオさま、またごいっしょしたいです。

ミラ:私も…。コメットさまや、メテオさまと楽しい時間が持てましたから…。また出来れば来年も…。

プラネット王子:景太朗パパさん、沙也加ママさん、すっかりお世話になりました。ありがとうございます。なんかこう、星国一行で押し掛けちゃったみたいで…。

沙也加ママさん:いいのよ。楽しかったわ。私たちも、ゆっくり出来たし。また機会があるといいわねぇ。

コメットさん☆:私もとっても楽しかった。海って大好き。

メテオさん:私たちの家の近所にだって、海はあるじゃないの。

コメットさん☆:そうだけど…。

ツヨシくん:ツヨシくんも、いろいろな海で泳ぎたい。その前に、早く泳げるようになりたいけど。

景太朗パパさん:はっはっは。ツヨシ、まだ泳げるようにまではならなかったか。まあそのうち泳げるようになるさ。コメットさん☆がやさしく教えてくれたろ?。

ツヨシくん:うん。もう顔水につけるの平気。

ネネちゃん:ネネちゃんも平気。

景太朗パパさん:そうか。それなら、もう半分くらいは泳げるようになったようなものだ。ねえママ。

沙也加ママさん:そうかもね。コメットさん☆ありがと。

コメットさん☆:い、いいえ、私はただ…。自分がいっしょに楽しんでただけですから…。

ラバボー:ラバピョン〜、またいっしょに旅したいボ。

ラバピョン:ラバボー、私もなのピョン。ずっといっしょねピョ?。

ラバボー:もちろん。ボーもずっといっしょだボ。

メテオさん:なんか浮いているのよね、この二人。アツアツ過ぎよ!。

ラバボー:うわわ、メテオさまがヒゲじいさんみたいなこと言っているボ。

コメットさん☆:あははは…。ラバボー、やっぱりアツアツ過ぎだよ。

 そんなみんなの会話を聞いていて、景太朗パパさんと沙也加ママさんは、笑って顔を見合わせていた。また機会があれば…と思いつつ…。

 

 楽しかった旅行が終わってから一週間ほどたった日、残暑の毎日が続いていた。コメットさん☆は、ツヨシくんとネネちゃんにせがまれ、由比ヶ浜の海に出かけることにした。

コメットさん☆:じゃママさん、ちょっと行ってきます。

沙也加ママさん:いってらっしゃい。何かあったら、ここへ帰ってくればいいわ。

コメットさん☆:はい。

ツヨシくん:コメットさん☆、早く行こうよ。

ネネちゃん:早く早くー。

 コメットさん☆は、沙也加ママさんの店に、着替えや少しの荷物を置くと、そこから真ん前の由比ヶ浜に出た。もう水着を着たままで。そして、ふと見ると、監視台の上に、ケースケが座って、遠くの海面を監視しているのが見えた。

コメットさん☆:あっ、ケ、ケースケ…。

 コメットさん☆と、ツヨシくん、ネネちゃんは、ケースケのそばまで行った。ケースケは、コメットさん☆にすぐ気付いた。

ケースケ:よっ、コメットも海好きだなー。もうシーズンも終わり近いってのに。

コメットさん☆:だ、だって…、海で泳ぐの、大好きなんだもん。

ケースケ:…まあ、そうだな。波が静かなら、プールよりは面白いさ。…でも、あとで…その…、砂が気持ち悪くないか?。

コメットさん☆:……、大丈夫。

ケースケ:…そうか。…オレ、もう少しすると交代だから、その辺で泳いでいろよ。あとで行く。

コメットさん☆:…う、うん。わかった。

ツヨシくん:コメットさん☆、早く水遊びしようよ。

コメットさん☆:あ、そうだね…、じゃ、どこにしようか。

 コメットさん☆は、監視台からそれほど遠くないところにシートを敷いた。持ってきた小さめのパラソルも広げたが、気が付くとケースケがパラソルを立てる穴を掘ってくれた。

コメットさん☆:ありがとう…。

ケースケ:これも仕事のうちだから…。

海の家の人:はーい、彼女。うちの海の家使わない?。

コメットさん☆:あ、あの…。

ケースケ:この子、そこの店の子なんで。地元です。

海の家の人:ああ、そう。地元の人ぉ。ごめんね〜。

 海の家の人は、どうやらコメットさん☆たちを、都内あたりから来た、家族連れの3人姉弟と勘違いしたらしい。

コメットさん☆:ケースケ、ありがとう。

ケースケ:…今年は冷夏で、海の家も必死なんだな。もし声かけられて困ったら、オレに言えよ。

コメットさん☆:…うん。

 

 コメットさん☆は、ツヨシくんネネちゃんといっしょに海に入って遊んだ。また二人の手をかわりばんこに握って、いっしょに潜ったりしてあげた。こうすると、二人とも大喜びなのだ。やがて、ケースケが、パラソルのそばに立っているのが見えたので、コメットさん☆は海から上がって、戻ってみた。ツヨシくんとネネちゃんは、波打ち際で遊んでいる。

コメットさん☆:ケースケ、もう休憩?。

ケースケ:ああ。ちび達大丈夫か?。もうちびっていう感じでも、だんだんないんだろうな…。あいつらも、だいぶでかくなった…。

コメットさん☆:ケースケも背伸びたんじゃない?。

ケースケ:まあな。…旅行楽しかったか?。

コメットさん☆:あ、…うん。…楽しかったよ。水がきれいだった。

ケースケ:そうか。オレも…ちょっと行きたかった…かな。…プラネットとかいうやつは、いっしょに行ったんだろ?。

コメットさん☆:…うん。

ケースケ:やつの泳ぎはどうだった?。

コメットさん☆:どうって…。プラネット…さんとは、そんなに泳いだわけじゃなくて…。いっしょに水遊びしただけだから…。…わからないよ。

ケースケ:…そうだよな。競泳しているんじゃないもんな。…毎日見てたよ。潮の具合と、天気。西伊豆の…。

コメットさん☆:…え?。毎日心配してくれたの?。

ケースケ:いや、心配ってわけでもないけど。…旅行で雨降られちゃったりすると、やばいよなとか思って。…別にオレが見ていたからって、どうなるわけでもないけどな。なんとなくさ。

コメットさん☆:ケースケと見た夕日、今年も見てきたよ。

ケースケ:…大田子の夕日…だろ?。

コメットさん☆:覚えていた?。ケースケ。

ケースケ:忘れるわけないじゃんか。

コメットさん☆:…ケースケはどうしてた?。

ケースケ:秋にある文化祭の実行委員にさせられてさ、高校の。実行委員長がうちのクラスにいるんだけど、新井さんっていうんだ。これがまた年上の女子生徒でさ、7月には文化祭の出し物の買い出しにつきあわされるわ、ここ何日かもいろいろで借り出されるわで、参ってるよ。

コメットさん☆:新井さん…って、私がケースケの様子見に行ったとき、ケースケのそばにいた人?。

ケースケ:ああ、たぶんそうだ。割と背の高い…。参っちゃうよ。買い出し、いっしょに歩かされて、まったく…、恥ずかしいったらねぇよ…。

コメットさん☆:…そうなんだ。…なんだか、だんだんケースケの世界は、私からは想像もつかない…。

ケースケ:…そ、そうか?。コメット…。

コメットさん☆:あ、そうだ。ケースケ、ちょっと待ってて。ツヨシくんとネネちゃんお願い。

ケースケ:え!?。おいおい…。しょうがねぇな…。

 コメットさん☆は、急いで沙也加ママさんのお店に戻ると、ホテルの売店でおみやげに買った包みを取って、ケースケの元に戻ってきた。そしてそれをケースケに手渡した。中身は…、イルカの柄が入った腕時計。ケースケが学校にしていくのにいいかと思って…、コメットさん☆が選んだもの…。ケースケは、「やっぱり友だち」。「友だちでもない」なんて言われたけれど、それはたぶん、照れ屋のケースケが、とっさに言ったこと。

 だが、コメットさん☆は、ケースケの回りに広がる世界と、自分の世界に共通する部分が、だんだん少なくなっていることを、何となく感じていた。ケースケが夜間高校に進んでから、徐々にそれを意識しつつあったコメットさん☆…。いったいこの先どうなるのだろうと思いつつ。家に帰ると、旅行の写真が、プラネット王子から届けられていた…。

(このシリーズ終わり)
 
※海の家の人が、コメットさん☆たちのところまで、自分の海の家を利用しないか聞きに来るシーンがありますが、実際の由比ヶ浜では、海の家の客引きは、自店の前でのみしか行えない決まりになっており、海の家の人が浜を歩いて客を探すということはありません。
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★第117話:ラバピョンと天丼−−(2003年9月上旬放送)

 ツヨシくんとネネちゃんは、学校が終わってから、学校でできた新しい友だちといっしょに、パニッくんの家に行くと言っていたので、コメットさん☆は、今日のお昼ご飯を、景太朗パパさん、沙也加ママさんといっしょに、鎌倉駅近くへ出て、食べる約束になっていた。ツヨシくんとネネちゃんは、予定通り、パニッくんの家に出かけていったが、景太朗パパさんに急な仕事が入ってしまい、それはお昼までには終わらなさそうになってきた。

景太朗パパさん:ちょっと仕事終わりそうにないからさ、ママとコメットさん☆でお昼食べに行って来なよ。ぼくは残り物ですますから…。

沙也加ママさん:あらそう?。じゃパパ何か作っとく?。

景太朗パパさん:いや、いいよ。ちょっと忙しくてさ。今朝の残り物で何とかするよ。

沙也加ママさん:そう…。残念ね。じゃ、パパ、悪いけどコメットさん☆と何か食べて、ついでに買い物してくるわね。

景太朗パパさん:ああ、ぼくのことは気にしなくていいから。…さて、仕事、仕事と…やれやれ。

コメットさん☆:いいんですか?。パパさん。なんだか気の毒ですけど…。

沙也加ママさん:…うーん、まあしょうがないわよ。時々あるのよね。仕事が重なること。あ、それなら、ラバボーくんとラバピョンちゃんも誘っちゃおうか?。

コメットさん☆:え?、いいですか?。わあ、面白そう…。

沙也加ママさん:ラバピョンちゃんはどこに住んでいるんだったかしら?。

コメットさん☆:八ヶ岳です。友だち…のスピカさんといっしょです。

沙也加ママさん:ああ、あの冬に来たお友達ね…。え!。八ヶ岳って、信州の?。そんなに遠くだった?。

コメットさん☆:はい。そうです。でも、星のトンネルで、すぐ来ると思います。

沙也加ママさん:…あ、そ、そう…。すぐ…。私まるっきり勘違いしていた。金沢八景あたりかと思ってたわ…。

 コメットさん☆は2階の部屋に戻ると、ラバボーを人の姿にするために、星力を使った。コメットさん☆はバトンを出して、ラバボーを人の姿にし、それからラバピョンのティンクルホンUに、電話をかけて呼んだ。

 ラバピョンは料理を作っているところだったが、それは夕食に回すことにして、中止してからやってきた。そしてコメットさん☆の星力で、ラバピョンも人の姿になった。

 沙也加ママさんは、ガレージでチャイルドシートを外すと、コメットさん☆とラバボー、ラバピョンを乗せ、鎌倉駅に向かって車を走らせた。

沙也加ママさん:ラバボーくん、ラバピョンちゃん、暑くない?。

ラバボー:ちょうどいいですボ。

ラバピョン:気分いいのピョン。うわあ、海が見えるのピョン。姫さま姫さま、あれ江ノ電ピョ?。

 ラバピョンは、ちょっと車のショートトリップにはしゃいでいる。遠くに見える江ノ電を指さして、助手席のコメットさん☆に身を乗り出した。

コメットさん☆:うん。そうだね。この道は、ほんの少しだけど江ノ電が見えるんだよ。

 鎌倉駅近くのパーキングに車を入れた沙也加ママさんは、三人を小町通りに連れていった。

ラバピョン:わあ、いろいろなお店があるのねピョン。

コメットさん☆:ラバピョンたら、私がはじめてここへ来たとき時みたいなこと言っている…ふふふっ。

ラバボー:ボーは覚えているボ。あの時は大変だったボ…。

コメットさん☆:…そうだね。なんだか思い出しちゃった…。

沙也加ママさん:ああ、もしかして、はじめて私と会ったとき?。…あの時は雨が降っていたわねぇ…。コメットさん☆びしょぬれだった…。一人で泣きながら、メロンパン食べていたっけ…。

コメットさん☆:…そうでした。あの時、沙也加ママさんとツヨシくんとネネちゃんが見つけてくれなかったら、私…。

 沙也加ママさんは、そっとコメットさん☆を歩きながら抱き寄せると言った。

沙也加ママさん:不思議な縁だわね。あれからもう2年半もたつのよ。…でもね、人って、そうやって不思議な縁で結びつきができるものよ。…あ、さあここよ。着いたわ。

 4人はそば料亭の「川道」というお店の前に着いた。小町通りに面した専用の細い路地を入ると、板塀が続き、その奥が入口だ。入口では、靴を脱いで上がるようになっている。

沙也加ママさん:さあ、みんな靴を脱いで、靴箱に入れて下さい。

お店の人:いらっしゃいませ〜。どうぞ、空いているお好きな席へ。

 コメットさん☆は沙也加ママさんと、ラバピョンはラバボーと大喜びで並んで座った。

沙也加ママさん:さあみんな、好きなものを注文して。なんでもいいわよ。遠慮しないでね。

コメットさん☆:何にしようかなぁ…。ラバボーは?。

ラバボー:姫さまは何にするボ?。

沙也加ママさん:そんな、譲り合ってないで…うふふ。みんな遠慮しすぎよ。

ラバピョン:…えーと、この天…、これってなんて読むのピョ?。

沙也加ママさん:どれどれ?、ああ、それは「てんどん」よ。天ぷらがのったご飯よ。

ラバピョン:じゃ、私、この天丼にするのピョン!。

 意外な注文に、一瞬全員あっけにとられた。

沙也加ママさん:ラバピョンちゃん、天丼でいいの?。

ラバピョン:ハイなのピョン。

沙也加ママさん:じゃ、私は天せいろにしようかな。おそばにしよう。ラバボーくんは?。

ラバボー:じゃ、ボーは刺身定食にしますボ。姫さまお先にですボ。

コメットさん☆:じゃあ、私も刺身定食にします。

沙也加ママさん:じゃ、注文するわね。

 通された注文は、やがて出来上がり、順に出されてきた。

全員:いただきます。

ラバピョン:…これって…、おいしいのピョン!。

沙也加ママさん:うふふ…、ラバピョンちゃんおいしい?。

ラバピョン:おいしいですのピョン。地球には、こんなにおいしいものがあるのピョン!。

 どうやらラバピョンは、天丼がいたくお気に入りのようだ。

沙也加ママさん:よかった…。ラバピョンちゃんの好みのものが見つかって。

コメットさん☆:ラバピョン、もう少しゆっくり食べなよ。のどにつまるよ。

ラバピョン:姫さま、わかっているけど、…ング、お箸が止まらない…ピョン。

ラバボー:…なんだか、普段とイメージ違うボ…。

 ラバボーは、困ったような顔をしている。コメットさん☆と沙也加ママさんは、微笑んで顔を見合わせた。

 そうしてみんな満足して帰ったのだが、ラバピョンは、翌日も、今度は「天丼を自分で作るピョン!」と言って、やってきた。

沙也加ママさん:うわあ、ラバピョンちゃん、意気込みがすごいわね。ふふふふ…。いいわ、わからないところは教えてあげるから、みんなで作りましょ。…そういうわけだから、今晩は天丼よー、みんなー。

景太朗パパさん:おっ、いいねぇ…。昨日のお昼は悲惨だったからなぁ…。

ツヨシくん:うわーい、天丼天丼ー。

ネネちゃん:ラバピョンの作る天丼?。ネネちゃんも手伝うー。

 沙也加ママさんは、お金をコメットさん☆に渡して、鎌倉の若宮大路にある魚屋でマキエビを、反対側の市場でシシトウを買ってくるように言った。もしなければ、西口のスーパーで、とも。コメットさん☆、ラバボー、ラバピョンは江ノ電で出かけ、材料を買って帰ってきた。

 そして夕方から、みんなで天ぷら作りが始まった。コメットさん☆も、天ぷらを揚げるのは、手伝う程度しかしたことがない。沙也加ママさん以外、みんなほとんど経験はない。ネネちゃんは冷水を用意し、ツヨシくんは粉をとく手伝いをする。コメットさん☆はエビとシシトウに包丁を入れ、ラバピョンとラバボーは、エビの皮むきからかかる。沙也加ママさんは衣を調整し、天ぷら鍋に油を入れて火をつけた。

 そうして出来上がった天ぷらに、ラバピョンと沙也加ママさんが作ったタレをかけて、藤吉家合作天丼はできあがった。

全員:いただきまーす。

景太朗パパさん:…うん、これはおいしいね。天ぷらもからっと揚がっているね。

コメットさん☆:おいしい!。よかった。おいしくできて。

沙也加ママさん:…うん、なかなかのものね。外で食べるのもいいけど、家で作るものも楽しいし、いいわねぇ。

ラバボー:なるほど、天丼ってこういうものですかボ。おいしいですボ。

ツヨシくん:天丼おいしい!。ツヨシくん大好き。

ネネちゃん:おいしいね。ネネちゃんも天丼大好き!。

 ところが、ラバピョンだけは、ちょっと考え込んだような様子。

コメットさん☆:どうしたの?、ラバピョン。

ラバピョン:確かにとてもおいしいのピョン。だけど、どうもお店で食べたのとは、ちょっと違うのピョン。

沙也加ママさん:あら、ラバピョンちゃん、おいしくないの?。

ラバピョン:いいえ、とてもおいしいのピョン。でも何か違うのピョン。何だろピョ?。

景太朗パパさん:ラバピョンちゃんとどこで食べたの?、ママ。

沙也加ママさん:小町通りの「川道」よ。

景太朗パパさん:ああ、あそこの天丼かぁ。ぼくも食べたことがあったなぁ。ママはなかったっけ?。

沙也加ママさん:私、いつもあそこではおそばだもの。

景太朗パパさん:そうか…。あそこの天丼はね、タレが特別なんだよ。だから、そっくりそのものの味は、ちょっとまねできないと思うな。それとね、天ぷらの揚げ方も、プロは大鍋の高温の油でさっと揚げるから、家庭用のコンロと鍋では、その辺が難しいんだよね。たぶんそういうことなんじゃないかな?。

コメットさん☆:へーえ、そういうことがあるんですか?。

景太朗パパさん:うん。こればっかりはしょうがないね…。でもこの天丼は、とってもおいしいよ。

ラバピョン:…そういうことなのピョン…。

景太朗パパさん:タレは何年も寝かしておいたりするらしいよ。まあ、プロにはプロの道具と、やり方があるってことかな。でも、ラバピョンちゃん。がっかりすることはないんだよ。みんなおいしいって言っているんだし。ラバピョンちゃんも、ラバボーくんも、コメットさん☆も、ツヨシもネネもママも、みんな料理のセンスはいいと思うよ。はじめて本格的に天ぷらを揚げて、こんなにうまくは、なかなか揚がらないものだよ。

ラバボー:ボーは、ほんの手伝っただけのようなものですボ。

ラバピョン:ママさんに聞かなければ、エビの使い方すらわからなかったピョン。

コメットさん☆:私も包丁をどこに入れるかとか、冷えた水で粉をとくとか、知らないことばかりだった。

沙也加ママさん:たいしたアドバイスはしてないわよ。みんなの飲み込みが早いんで、びっくり。うふふふ…。

景太朗パパさん:まあ、家庭でみんなして作る料理って、途中も楽しいんだよね。お店の料理人は、充実した設備と、いい素材、それに腕をふるって料理を作るけど、逆に、家庭で作る面白さや、それをみんなで食べる楽しさは、作り出せないんだな。だから、家庭料理が、プロに負けるってことは、決してないんだよ。…そうだなぁ、よくコメットさん☆の言う言葉を借りれば、「家庭料理のかがやき」ってやつかなぁ。

 コメットさん☆はそれを聞いて、にっこり笑った。

ラバピョン:パパさん、ママさん、ありがとうございますなのピョン。また作ってみたいのピョン。

景太朗パパさん:おっ、じゃまた天丼が食べられるかな?。そりゃあ楽しみだなぁ。な?、ツヨシとネネ。

ツヨシくん:ツヨシくんラバピョンの作る天丼楽しみ!。

ネネちゃん:ネネちゃんも、もっと楽しみ〜。

 食卓にみんなの笑い声が響いた。藤吉家、天丼の夕食の夜は、にぎやかにふけていくのであった…。

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★第118話:笑顔のちから−−(2003年9月中旬放送)

 楽しい思い出が詰まった今年の夏も終わり、鎌倉には秋の風が吹くようになった。もっとも今年はやや冷夏だったせいもあって、9月に入ってから、もりかえしたような暑い日もあり、コメットさん☆は、ツヨシくんとネネちゃん、それにメテオさんを誘って、海の家が片づけられた由比ヶ浜に、水遊びに行ったりしていた。沙也加ママさんのお店は、目と鼻の先だから、着替えや食事にも困らない。

 そんな毎日のゆったりとした時間が過ぎる中、ある日プラネット王子から、星力メールが飛んでくる。

プラネット王子星力メール:コメット、いい知らせが待っているぞ。来られたら来ないか?。こっちからそっちには、ちょっといけないからさ−−プラネット。

 コメットさん☆は、星のトンネルを使って、王子の住む橋田写真館に向かった。

コメットさん☆:…こんにちは。

橋田さん:おや、いらっしゃい。いろいろもらえる方のお出ましかな?。

コメットさん☆:…え?、なんですか?それ。

プラネット王子:よお。いらっしゃい。ふふふー、ちょっといい知らせがあるわけだなこれが。

コメットさん☆:…よくわからないけど…?。

 コメットさん☆は、コンテストの何かとは思ったが、特にコメットさん☆宛に知らせが来たわけでもない。プラネット王子は、それでもうれしそうな表情で、巻かれたポスターを、お店のカウンターの後ろから出してきた。そしてそれを広げると、下の方を指さした言った。写真館の主人、橋田さんも優しい目で見ている。ポスターは、前にコメットさん☆が応募した、デジタルカメラ写真コンテストの結果発表のものだったのだ。

プラネット王子:ほら、ここ。

 コメットさん☆は、不思議に思いつつ、王子が指さしたところを見た。すると「佳作:藤吉コメット 題『妹』」とある。

プラネット王子:おめでとう。佳作に入選だよ。

コメットさん☆:ええーっ?。私がですか?。

プラネット王子:まだこのポスターは、さっき店に来たばっかりでさ、これから貼ろうとしていたところなのさ。

コメットさん☆:わー、信じられない…。うれしいな!。

プラネット王子:まあ、入賞や特賞逃したのは惜しかったけど、よかったな。

コメットさん☆:…そんな、私の写真が、佳作に入るなんて…。びっくり。

 

 王子は、いつものように2階にコメットさん☆を招き入れると、ハーブティーを入れ、コメットさん☆にすすめながら、自分もいすに座った。

プラネット王子:あらためておめでとう。

コメットさん☆:ありがとう。あなたのおかげだよ。私、とても一人じゃ、賞品をもらえるほどのものは、撮れなかったと思うもの。

プラネット王子:いや、君の感性が、それだけ鋭かったということだよ。それはそれで自信を持っていいんじゃないかと思う。

コメットさん☆:…王子…。なんだか恥ずかしいです…。

プラネット王子:これは君が、かがやきを見出したもの、美しいと思ったもの、心に響いた光景、思い出深くなりそうなもの、かわいいと思ったもの、愛しいもの…。そういうものに、どんどんカメラを向けて撮れってことかな…。でも、本当によかったな。

コメットさん☆:ありがとう…ございます…。

 コメットさん☆は、そう言って、恥ずかしそうに微笑んだ。

プラネット王子:写真の面白いところは、その人の経験に関係なく、いい写真が誰にでも撮れる可能性がある反面、誰にも撮れないその人の一枚というのが、あるってことだな。今度のラバピョンを撮ったのは、まさにそういう、君にしか撮れないラバピョンの表情なんだと思うよ。

コメットさん☆:…ありがとう。いろいろアドバイスしてくれて、私とても心強かったし、うれしかったです。これからも、わからないことだらけだから、また教えて下さいね。

プラネット王子:もちろん、オレでわかることなら、なんでも教えるけど…。君の素直な心の感性だよ、この賞に導いたものは…。

 と言って、王子は急に黙った。コメットさん☆の、いつもの明るい、かげりのない笑顔が、そこにあったから…。

プラネット王子:(ああ、この笑顔が、オレ好きなんだな…。)…え、えーと、君の笑顔を見ていると、オレも負けてはいられないな。はははっ。早く大きな賞を取りたいよ。

コメットさん☆:王子の、よく撮るものってなんですか?。

 コメットさん☆は、ハーブティーを飲みながら、少し興味を持って聞いた。

プラネット王子:そうだなぁ、オレはあまり遠くへ出かけたりしないで、身近なものを撮っているな。鎌倉の裏路地の風景とか、そんなものも撮ったこともあるし…。前に君に会ったときの、冬の富士山もそうだし…。変わったところでは、東海道線の夕方のラッシュ風景とか。…日常の中に埋もれているかがやきって、実はかなりあるなって思ってさ…。

 王子は、そう言って、コメットさん☆を再び見た。

プラネット王子:(そうだ…。このコメットの笑顔だって、日常にある「かがやき」そのものだな…。コメットの笑顔には、不思議な力がある…。そう…、人を幸せな気分にすると言うか…。…この力のもとって、コメットの何なんだろうな…。)

 

 王子の写真館から帰ったコメットさん☆は、さっそくラバピョンに会いに行った。そしてラバピョンにも、佳作入選の「報告」をする。

コメットさん☆:ラバピョン、ラバピョンを撮った写真で、私、佳作に入選したよ!。

ラバピョン:かさく…?。それって1等賞ピョ?。

コメットさん☆:…え…、えーと、よ、4等賞くらいかな…。あははっ。

ラバピョン:…そうなのピョン。でも、姫さま、それって大変なことなのピョン。おめでとうなのピョン。だって、この国で4番目ってことなのピョ?。

コメットさん☆:あ、ありがとう。4番目っていうのは、まあ、そうだけど。佳作は何人かいるし…。

ラバピョン:それにしても、なかなかはじめて応募して、選ばれないピョン。

コメットさん☆:うん。ラバピョンが、いい表情で、笑顔を見せてくれたからだよ。

ラバピョン:…それは、姫さまが考えて、縫いビトが作ってくれたドレスが、とてもうれしかったからピョン…。

コメットさん☆:うれしい時、楽しい時の笑顔って、かがやきがあふれているんだよ。ラバピョンのかがやき。

ラバピョン:姫さま…。

コメットさん☆:これからも私、いろいろなかがやきや、楽しそうな笑顔なんて撮りたいな。

ラバピョン:姫さま、また私も撮ってなのピョン。

コメットさん☆:うん。約束するね。ラバピョン、またよろしくお願いします。

ラバピョン:ハイですピョン。

ラバボー:ラバピョン〜。ラバピョンかわいいボー。ボーはまたメロメロだボー。

ラバピョン:…もう、ラバボーはわかったのピョン。姫さま、何とか言ってやってなのピョン。

コメットさん☆:あははははは。ラバボーは、本っ当にラバピョンのこと好きなんだね。でも、ラバボーが幸せそうにしていると、私も自然とうれしくなって、笑顔になってくる。

ラバピョン:…姫さま、全然ラバボーに突っ込んでないピョン。

コメットさん☆:あははっ、そうだね…。ごめん。あはははっ。

 

 翌日、副賞の賞品とともに、正式な佳作入選の通知が、コメットさん☆のもとに届いた。それには短い「講評」が付いていた。その講評の、自分の作品のところを読むコメットさん☆。

講評:『妹』=平凡な題材ではあり、技術的にはまだまだ未熟だが、妹の楽しそうな笑顔の姿は印象的で、生き生きと輝いており、その一瞬一瞬の表情を切り取った、まだ少女である応募者の新鮮なカメラアイには、今後大いに期待が持てる。

 副賞の賞品は、メモリカードとプリントペーパー1年分3650枚。重たいペーパーを自分の部屋に上げると、コメットさん☆は、新しいメモリカードをカメラにセットした。そして窓から遠くの海を眺めた。思いを新たにしつつ…。

コメットさん☆:この星のかがやき、たくさん写して、星国のみんなに見せてあげたいな…。

(この回終わり)
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★第120話:ピカピカ賞をもう一度−−(2003年9月下旬放送)

 ツヨシくんとネネちゃんが、学校から帰ってくるなり、コメットさん☆に向かって興奮気味に話し始めた。学校に卒業生の先輩が、「母校訪問」としてやってきたらしい。

ネネちゃん:…それでね、学校にね、前に卒業した高嶋さんっていう人が来たの。

コメットさん☆:ふぅん。その人、どんな人なの?。

ネネちゃん:あのね、バレエダンサーなんだって。それで、体育館で、踊って見せてくれたの。

コメットさん☆:バレエを踊る人なんだ。

ネネちゃん:うん。とってもきれいだったよー。

ツヨシくん:なんか、かっこいいの。女の人なんだけど。

コメットさん☆:あ、女の人なの?。

ツヨシくん:うん。15年位前に卒業したんだって。それで、なんとか言う賞をもらったんだって。

コメットさん☆:へえー、じゃその人、とっても踊りうまいんだね。

ネネちゃん:もう、ネネちゃんうっとり〜。

ツヨシくん:ツヨシくんは普通。

コメットさん☆:あはっ、ツヨシくん、普通って何?。

ツヨシくん:別にうっとりしないもん、ツヨシくんは。その人、子どもの頃からバレエ習っていたんだって。

ネネちゃん:ねえねえ、コメットさん☆の星国では、バレエってないの?。

コメットさん☆:あるよ。私も小さい頃習ってた。

ネネちゃん:ええー、コメットさん☆習ってたの?。見せて見せてー。

ツヨシくん:…コメットさん☆が踊るのなら見たい。ツヨシくんも見たい!。

コメットさん☆:ええー?、今でも踊れるかなぁ…。それに…、ツヨシくん、「普通」なんじゃなかったの?。

 コメットさん☆は、困ったような顔で答えた。それでも、二人が見たいと言うなら、ふと、今でも踊れるだろうかと思った。だが、練習は長いことしていないから、何をどう踊っていいのかすらわからない。どうしよう…と思うコメットさん☆…。

 コメットさん☆は、沙也加ママさんのところに相談に行った。なんとかあり合わせのもので、踊れないかと思ったから…。

沙也加ママさん:それなら…、最近買った雑誌に、記事が載っていたわね。…そう、…これこれ。

 沙也加ママさんは、毎月とっている月刊雑誌をコメットさん☆に差し出した。

コメットさん☆:あ、この記事…、高嶋玲子…さんって、もしかしてこの人のことかな。

沙也加ママさん:え?、コメットさん☆知っている人?。

コメットさん☆:いえ、そうじゃないんですけど、ツヨシくんとネネちゃんの学校に来た、高嶋さんっていうバレリーナの人って、この人じゃないかなって。

沙也加ママさん:そうねぇ、同じ名前の別な人が、二人もバレリーナとして活躍しているとも思えないから、その人なんじゃないかしら?。

 コメットさん☆はその雑誌を借りて見た。その記事は「特集・高嶋玲子のバレエ誌上初級講座」とある。雑誌の記事だから、それほど本格的なことが書いてあるわけではないが、ちょうどいいことに、基本ポジション、バーにつかまっての足の動かし方の基本などが、写真入りで書かれている。

コメットさん☆:これくらいなら、何とかなるかなぁ…。ネネちゃん、ツヨシくん、この人?、学校に来た人。

ネネちゃん:あ、そうそう、この人だよ。ネネちゃん見た。

ツヨシくん:ツヨシくんも見たよ。なんかジャンプしたりしてかっこいいの。

コメットさん☆:ふぅん、そうなんだ。…よーし、コメットさん☆もやってみるね。星力使っちゃおう。

ツヨシくん:わーい、見せてくれるの?。

ネネちゃん:ネネちゃん、すっごく見たい!。

 コメットさん☆は、星力でいつものミニドレスに変身。そして、さらに足もとの短いブーツを、バレエシューズに変えた。足と衣装は合わないけれど、仕方がない。リビングの広い場所を選んで、小さい子どもの頃習った基本動作を思い出しながら、足を動かし、つま先を開いて、踊り始めた。

 背筋を伸ばし、前を見て、つま先まで一直線に足を伸ばして、高くあげる。手もまっすぐに伸ばし、ときにきっちりと曲げて体に沿って動かす。バーがないから、あまり安定はしないけれど、何とか姿勢を保ちながら踊る。しかし、やはり次第に息が切れ、ぐらつきが大きくなってくる。

ネネちゃん:わあ、コメットさん☆きれい。

コメットさん☆:…そう?。ありがとう。…でも、…これは、…足が…。

 コメットさん☆は、息が上がっているので、うまく答えられない。

ツヨシくん:コメットさん☆、大丈夫?。

コメットさん☆:…はっ、だ…大丈夫だよ…。それっ!。

 コメットさん☆は、最後にやや高く跳躍し、「ダンッ!」という音を立てて着地し、最初のポジションに戻って踊りを終えた。

ネネちゃん:わーい、はくしゅー。パチパチパチ…。

ツヨシくん:ツヨシくんもはくしゅー。

 二人はよろこんで拍手をしてくれた。

コメットさん☆:ありがとう。…でも…恥ずかしい。ああ、汗かいちゃった。…ふぅ。

 着地の音と、二人の声を聞いて、沙也加ママさんがやってきた。

沙也加ママさん:どうしたの?。コメットさん☆大丈夫…。…こ、コメットさん☆?。

コメットさん☆:…あ、沙也加ママさん、大丈夫です。

沙也加ママさん:…コメットさん☆、なんでそんな格好を?。

 沙也加ママさんは、コメットさん☆のミニドレスにバレエシューズという、ちくはぐな格好にびっくり。

コメットさん☆:…あ、あはっ、あはははは…。ちょっとバレエ、踊ってみたんです。…でも、普段練習していないと、かなり難しいですね…。

沙也加ママさん:あんまり普段使わない筋肉を急に動かすと、あとで痛くなるわよ…。うふふ…。コメットさん☆も、バレエ習っていたの?。

コメットさん☆:はい。小さい子どもの頃、星国で習っていました。レッスンは楽しかったです。

沙也加ママさん:そう。

ネネちゃん:コメットさん☆、上手だったよー。きれいだったぁー。

沙也加ママさん:なんだ、二人とも呼んでくれればいいのにー。ママも見たかったな。ねぇ、コメットさん☆。

コメットさん☆:…そんな、恥ずかしいです…。

 コメットさん☆はバトンを出して、普段の姿に戻った。そして沙也加ママさんに雑誌を返した。

沙也加ママさん:コメットさん☆は、何かバレエで賞をもらったことある?。

コメットさん☆:はい。星国の子どもバレエで、…その、「ピカピカ賞」っていうのを。

沙也加ママさん:あらそう。それってどんな賞?。

コメットさん☆:別に…普通に…、努力賞みたいなものだと思います。大きなメダルをもらいました。

沙也加ママさん:うふふ…。そう。でも、賞をもらえると、励みになるわよね。どうだった?、コメットさん☆は。

コメットさん☆:はい。とってもその時はうれしかったです。またもらえるようにがんばろう…って。父もよろこんで、ビデオで撮っていたような…。メダルは、星国の私の部屋に、いまでも飾ってあります。

沙也加ママさん:そうか…。そのうれしさといっしょにもらった自信で、人はまたその先の向こう側へ進むのね…。あなたの写真コンテストの時も同じよね。

コメットさん☆:…そうですね。あの時もうれしかった。

沙也加ママさん:人にほめられる、評価されるってことは大事なことね。そのためには、相当努力も必要だけどね。賞は、名誉やお金がもらえることもあるわ。賞品とかもね。でも、本当の価値は、その人の励みになり、明日に踏み出すステップにならなければ、発揮されない…。そういうことだわね。…どう?、もう一度ピカピカ賞。

コメットさん☆:…はい。私も、がんばらなきゃいけないなって。…あ、でもバレエでピカピカ賞はちょっときついかも…。もう足が痛い…。

沙也加ママさん:ほーら、明日は筋肉痛よきっと。ふふふふ…。急ながんばりすぎは、禁物ってことかなぁ。

コメットさん☆:あははっ、あははははは…。

 コメットさん☆は、ばつが悪そうに笑った。

 

 コメットさん☆と、ツヨシくん、ネネちゃんの三人は、メテオさんのところへ出かけた。

コメットさん☆:メテオさん、私よりずっとバレエ上手だと思うよ。バトンのコンテストの時、チュチュ着てきたくらいだから。

ネネちゃん:メテオさんのバレエも見たい。

ツヨシくん:ツヨシくんは、コメットさん☆のほうがいい。面白いもの。

コメットさん☆:あー、なんかツヨシくん、それってー。あはははは…。

 三人の笑い声が、極楽寺の山に響く。賞はもらっても、もらえなくても、一つの通過点。人はいつもその先へ…。

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★第121話:食欲の秋とミラの秘密−−(2003年9月中旬放送)

 ミラは悩んでいた。夏の旅行の時、いや、もっと前から、「私は大食い」と、コメットさん☆やメテオさん、王子に思われているのではないか…。そう思うと、どうしても恥ずかしい。なんとかして、理由を説明した方が、いいのではないか…。ミラはそうも思った。なぜなら、ミラには、ある秘密があったから…。

 ある日、いつものように学校から帰ったミラは、そっとバトンを出すと、星力メールを書いて、コメットさん☆のもとに飛ばそうとした。今日は、学校でもクラスメートに言われてしまった。

クラスメート:(ミラのお弁当って、いつも大きいね。なんで?。)

 ミラは、自分の姿を、そっと鏡に映してみた。別に地球にやってきてから、太ったりはしていない。学校の健康診断では、少しやせ形という結果が出ているほど。「なんで私だけ、こんなにおなかがすくの?」と思った時期もあった。タンバリン星国の自分の家系を調べたら、だいたいの理由はわかった。星国の医者ビトも、心配ないと言ってくれたし…。でも…やっぱり…。

ミラ星力メール:コメットさま、どうしても聞いていただきたいことがあります。殿下には、今すぐには言えないことなのです。もしよろしければ、来ていただけませんか?。−−ミラより。

 ミラは、その星力メールを、そっとコメットさん☆のもとへ飛ばした。

 

沙也加ママさん:いよいよ食欲の秋ねぇ…。今夜は栗ご飯でもしようか、コメットさん☆。

コメットさん☆:はい。…おいしそう!。栗ご飯、おかわりしちゃいそう…。

沙也加ママさん:いいのよ。どんどんおかわりしてね。たくさん作るから。食事がおいしいのは、元気な証拠。昔から、快食・快眠って言うのよ。…もう一つあるんだけど…。

コメットさん☆:ふふふふっ、知ってます…。

沙也加ママさん:…まあ、それは人それぞれっていうことで。

 沙也加ママさんと二人で大笑いしているコメットさん☆のところへ、星力メールが飛んできた。

コメットさん☆:あれ?、なんだろう?。…ミラさんからだ。…「どうしても聞いて欲しいことがある…」。沙也加ママさん、ミラさんが私に話したいことがあるんだそうです。ちょっと行ってきてもいいですか?。

沙也加ママさん:いいわよ。でも、夕食に遅れると、栗ご飯なくなっちゃうかもよ〜。

コメットさん☆:あはっ、それは困ります…。急いで帰ってきます。

沙也加ママさん:そうね。行ってらっしゃい。気をつけてね。

 コメットさん☆は、ラバボーをティンクルスターの中に連れて、星のトンネルを使い、藤沢市の橋田写真館に向かった。

 

 写真館に着くと、プラネット王子がカウンターのところにいた。

プラネット王子:おう。久しぶり。コメット、今日はどうしたんだ?。

コメットさん☆:ちょっとミラさんに用事があって…。

プラネット王子:へえ…。ミラなら2階にいるよ。オレはまだ仕事だから、2階に行って、直接会ってこいよ。写真室の奥の廊下を行って、左端だ。

コメットさん☆:はーい。おじゃましまーす。

プラネット王子:オレもあとで行けたら行く。カロンはまだ遊びに行っているし、おやじさんは現像所にネガ届けに行っているから、ちょっとまだオレ仕事抜けられない。

コメットさん☆:はい。じゃああとで…。

 コメットさん☆は、王子にうながされて、2階のミラの部屋に向かった。コトリ、コトリと階段を上がる。いつ来てみても、この写真館は落ち着いた空間だ。それでいて、どこかかがやきが詰まっていそうな…。プラネット王子のかがやきなのかな…と、ふとコメットさん☆は思う。

 

コメットさん☆:それで話って?。ミラさん。

ミラ:…はい。私って変ですか?。

コメットさん☆:え?、どこか変なの?。

ミラ:私、食べ過ぎですか?。

 ミラは、うつむき加減ではあるものの、緊張したような口調で、コメットさん☆にたずねた。

コメットさん☆:…この間の旅行の時のこと?。食欲がとてもあるんだなぁって、思っていたけど、別に変だとか思ったことはないよ。

ミラ:私、食事をしても、3時間くらいすると、またおなかが減るんです。でも、星国の医者ビトは、体質的なもので心配ないと…。

コメットさん☆:医者ビトさんがそう言うなら、大丈夫だよ。私だって、おなかがとても減るときあるよ。今晩は、栗ご飯だって沙也加ママさんが言ってた。いまからとても楽しみ。

ミラ:実は私…、どうしてこんなにおなかがすくのか、自分で調べてみました。

コメットさん☆:ええっ!?。自分で調べられたの?。

ミラ:はい、コメットさま。…そうしたら、私、「モリモリビト」の家系であることがわかったんです。

コメットさん☆:モリモリビト?。星ビトさん?。

ミラ:…はい。食べ物を食べることで、星力に変換できる…、そんな星ビトです。

コメットさん☆:へえー。そんな星ビト知らなかった。

ミラ:タンバリン星国でも、少数しか残っていない種族なんだそうです。私も一度星国に帰るまでは、知りませんでした。

コメットさん☆:…ということは、カロンくんは?。

ミラ:カロンは、その性質は引き継いでいないようです。ですから、私と私の母親が…。たくさん食べると、そのエネルギーを一部星力に変えられるのです。

コメットさん☆:そうなんだ。でも、それって、いちいち星力ためなくてもいいってこと?。

ミラ:…それで全部まかなえるほどには、たまりませんから…。ただ私、たくさん食べる変な女の子みたいで…。

コメットさん☆:そんなことないよ。そんなことない。ミラさんは、珍しい星ビトの性質を、今も保っている…。それって個性の一つだよ。

ミラ:……コメットさま…。

 と、その時、ドアがノックされ、プラネット王子がハーブティーとケーキを持ってきた。だが、なぜかその表情は硬い。

コメットさん☆:王子、お構いなく…。

ミラ:で、殿下…。

 王子は、無言でそれらを置くと、ドアに向いて静かに言った。コメットさん☆は、王子がどうしたのか、わかりかねていたその時…。

プラネット王子:ミラ、ごめん。聞くつもりはなかったんだが…。聞いてしまった…。…そんな秘密があったのか…。すまん、オレ…。

ミラ:…い、いいえ、殿下。わ、私が黙っていたんです…。ごめんなさい。

プラネット王子:ミラ、君が謝ることはない。…いつわかったんだ?。

ミラ:…この前、殿下が星国の改革に、帰られたとき…。

プラネット王子:…そんなに前からか…。ツキビトに乗って、星力を集めるとき、どうりで、君だけ少ししか集めないはずだ…。すまん…。君のこと、わかってやれなくて…。

ミラ:…いいえ。殿下のその言葉が、私、うれしいです…。

ラバボー:…もしかして…、姫さま、ミラさんの…。

コメットさん☆:しっ!。ラバボー…。

 コメットさん☆は、言いかけたラバボーを制した。ところが、そのコメットさん☆のティンクルホンが鳴った。

コメットさん☆:もしもし?。あ、沙也加ママさん。今ミラさんと会っています…。

沙也加ママさん:ちょうどよかったわ。ミラさんと会っているなら、夕食をいっしょに食べないか誘ってみて。秋の味覚を、いっしょにどうかなぁって。

コメットさん☆:え?。ミラさんをですか?。はい。じゃ、ちょっと聞いてみます。ミラさん、うちの沙也加ママさんが、夕食いっしょに食べませんかって。

ミラ:…わ、私です…か?。

コメットさん☆:ミラさん、秋の味覚をいっしょにいかが?って、ママさんが。

ミラ:…いいんですか?。私、たくさん食べる変な子かも…。

コメットさん☆:そんなことないよ。ね、いっしょに夕食食べよっ。

プラネット王子:…ミラ、行って来いよ。せっかくのお呼ばれだぞ。…君は、しっかり食べなきゃだめってことだよ。

ミラ:…はい。じゃあ、おじゃまします。

コメットさん☆:沙也加ママさん、ミラさん来られるそうです。

沙也加ママさん:そう?。よかった。栗ご飯たくさん作っておくから、いっぱいおかわりしてねって、言っておいて。

コメットさん☆:はい。わかりました。じゃ、ミラさんを連れて帰ります…。

 コメットさん☆は電話を切ると、ミラに言った。

コメットさん☆:栗ご飯たくさん作るって。だから、たくさんおかわりしてねって。沙也加ママさんが言ってた。ミラさんの元気の元は、ごはんなんだから、たくさん食べないと。

ミラ:コメットさま…。

 ようやくミラの顔に、少し笑顔が戻った。

 

 そうしてミラは、藤吉家の食卓に招待されることになった。ミラとコメットさん☆は、プラネット王子に見送られながら、星のトンネルを通って、コメットさん☆の家まで向かったが、ラバボーが、そっと不思議なことを言い出した。

ラバボー:…ミラさんのかがやき感じるボ。…でも、ちょっと違ったかがやきも感じるボ。

コメットさん☆:ラバボー、それって何?。

ラバボー:ボーがラバピョンに感じるような、ほんわかかがやきだボ。

コメットさん☆:…それって…?。恋力ってこと?。

 ラバボーの言う、「ほんわかかがやき」とは、ミラの何なのか?。それはいったい?…。

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★第123話:それぞれの想い<前編>−−(2003年10月中旬放送)

※前の話を読む→こちら

 春に募集がはじめられた、相模湾フェスタ「ドレスデザインコンテスト」。題目はウエディングドレスで、ミラと留子さんが挑戦することになっていた。モデルはそれぞれ、コメットさん☆とメテオさん。もし完成すれば、二人は、はじめてウエディングドレスに、袖を通すことになる…。もちろん、これはコンテストだから、相手役の男性と結婚するわけでも何でもない。しかしそれは、タンバリン星国のプラネット王子を巡っての、かつての怖い記憶を、コメットさん☆にちょっぴり思い出させることだったが、今はプラネット王子が、タンバリン星国のために、コメットさん☆やメテオさんをめとろうなどとは、思っていないことも確かめられたし、ミラの熱意の前に、コメットさん☆は、ドレスを着て出場することにしていた。

 だんだんコンテストの締め切りも近づいて、ミラの作っていたドレスも、おおよその形になってきた。それでもまだ、いろいろと不具合の場所が見つかるので、何度かコメットさん☆が実際に着てみて、その都度チェックしては、沙也加ママさんに聞いたりして、手直しをすすめる。一方、留子さんもそのころ、ミシンと格闘していた。「娘」であるメテオさんに、精一杯のものを着せてやりたい。それは亡くなった美沙子さんが、着るはずだったドレスを、美沙子さんとうり二つのメテオさんが着ることに、何か遠い「縁」のようなものを感じていたから…。

 ドレスが形になるにつれ、メテオさんは、袖を通しては、幸治郎さんと留子さんに見せる。幸治郎さんは、ことのほかそれを見て喜ぶ。

幸治郎さん:メテオちゃん、とおってもきれいだ。かわいいねぇ。

メテオさん:お父様、そう?。

幸治郎さん:ああ、とってもきれいだよ。本当にね。

メテオさん:…ありがとう、お父様。

 幸治郎さんは、ウエディングドレスのメテオさんに、いつか夢見た、美沙子さんの「あるはずだった未来」を見ているかのようだった。美沙子さんのかつての姿が、メテオさんにダブる。幸治郎さんは、メテオさんに見えないように、そっと涙をぬぐった。

留子さん:メテオちゃん、お相手役の男性は見つかった?。

メテオさん:それは…、まだ…。

留子さん:そろそろ決めないと、書類に書けないわねぇ…。あと、その人の衣装も手配しないと…。男性の衣装は、貸衣装でいいとあるから…、それでいいと思うけどねぇ…。

メテオさん:…だれかいるかしらったら、いるかしら…。

 メテオさんは、イマシュンが好きなのだ。だからイマシュンとだったら…なんて思うけれど、人気歌手のイマシュンが、そんなことを出来るはずもない。じゃあ誰か…。そんなさなか、玄関の呼び鈴が鳴った。

留子さん:あら、誰かしら。はーい。

カロン:はじめまして。ぼく、メテオさまの…えーと、と、友だちのカロンと言います。メテオさまいらっしゃいますか?。

留子さん:あら、ずいぶん丁寧な言葉遣いなのね。えらいわ。ちょっと待ってね。メテオちゃん、メテオちゃん…。

 カロンは、メテオさんの部屋に通され、さっそく話を切りだした。

カロン:メテオさま、コメットさまから聞きました。ウエディングドレスのコンテストにお出になるんですね。

メテオさん:(もう、コメットったら…)…そうよ。

 メテオさんは、1週間ほど前にコメットさん☆に会ったとき、たまたまコンテストの話になって、まだ相手役の男性が、互いに見つからないという話を、したことを思い出していた。コメットさん☆には、「カリカリ坊やがいるじゃない」などと、軽口を叩いていたのだが、自分のほうが深刻な問題だったのだ。

カロン:あの、…その、ぼ、ぼくではだめですか?メテオさま。メテオさまの相手役の男性が、まだ決まっていないとうかがいましたので…。

メテオさん:…えっ…。そ、それは…。

カロン:ぼく…、その、どうしても、メテオさまのお相手を、させていただきたくて…。

 メテオさんは、いきなりの申し出に、ドキッとした。そして、黙ってしばらくカロンの目を見た。

メテオさん:(この目は、いつかの目じゃない…)

 そしてメテオさんは、やさしい目になって、答えた。

メテオさん:…いいわ。ありがとう。ぜひ、お願い。

カロン:やったぁ。メテオさま、いっしょに花道を歩かせて下さい。

 メテオさんは、黙ってうなずいた。こうして、思わぬ助け船に、また助けられたメテオさんだったが…。コメットさん☆のほうは…。

 

景太朗パパさん:コメットさん☆、お相手役の男性は、ケースケで決まりかな?。

コメットさん☆:…それが…。

ケースケの言葉:(そ、そんなの興味ねぇよ。また学校で冷やかされるのがオチだしな。か、勘弁してくれよ…)

コメットさん☆:…せめて見には来てって、言っておいたんですけど…。

景太朗パパさん:…そうかぁ。やつはほんとに恥ずかしがりだからな…。しょうのないやつだ。…じゃあ、代わりといっちゃ何だけど、コメットさん☆、星力で、年齢を成長させるのはできる?。

コメットさん☆:…え?、成長させるって、何歳か先にするってことですか?。それならやったことがあります。一応自由に出来ますけど…。たぶん。

景太朗パパさん:そうか…。なら、ツヨシって言うのはどうかな?。実は、ツヨシもやりたがっているんだよ。コメットさん☆といっしょに出る出るってね。ははは…、おかしいだろ?。

コメットさん☆:いいえ、そんなことないです。…そうですね。ツヨシくんなら、いつもおうちでいっしょだし…。…それで、ツヨシくんを何歳にすればいいんでしょうか?。

景太朗パパさん:そうだなぁ…、あまり普通結婚するような年齢にしてしまうと、コメットさん☆との釣り合いがとれなくなるっていうか、それも変だと思うから…、コメットさん☆と同じ歳くらいでどうかな。

沙也加ママさん:あら、何の話?。

 そこに沙也加ママさんが、洗濯物を抱えてやってきた。

コメットさん☆:今度のウエディングドレスコンテストですけど、相手役の男性を、星力で同じ歳くらいに成長させたツヨシくんでは…って、景太朗パパが…。

沙也加ママさん:ええーっ!?。ケースケは?。

景太朗パパさん:ケースケは、「学校で冷やかされる」とかで、だめなんだってさ。

沙也加ママさん:へえー。そう。それは残念ねぇ…。ほんっとにあの子は、こういうときは恥ずかしがり屋ね…。…なるほどツヨシね。ツヨシこのところ、コメットさん☆のおムコさんやる!とか言っていたのはそれか…。おかしなこと言っているなぁとは思っていたのよ。…でも、星力って途中で切れたりしないの?。

コメットさん☆:3日くらいなら、大丈夫だと思います。実は前ーに、ツヨシくんを12歳くらいになら、ケースケを見送るときに、したことありますし。

景太朗パパさん:んん?、それって、もしかして、ヨットでぼくとケースケが、グアムに出かけた時じゃないか?。

コメットさん☆:あ、そうです。あの時です。

景太朗パパさん:あー、覚えてる。あの時は、ケースケが、コメットさん☆とツヨシとネネの三人同じ歳くらいになった幻を見た!とか言って、騒いでいたよ。何言ってるんだかわからなかったけど、あれは幻じゃなかったってわけだね。あはははははは。

コメットさん☆:…す、すみません。

 コメットさん☆は、そう言いながらも少し笑った。

沙也加ママさん:ツヨシ聞いたら大喜びするわ…。でもネネがすねそう。

景太朗パパさん:…そうか、ネネか…。どうしよう…。

コメットさん☆:メテオさんのドレスには、大きなヴェールがあります。だれか学校のお友だちと、ヴェール持ちの子ども役をやってもらうんじゃだめでしょうか?。

沙也加ママさん:ああ、それはいいかも。きっとネネも喜ぶわ。でも…、メテオさんがOKしてくれるかしら。

コメットさん☆:たぶん大丈夫だと思いますけど…。メテオさんも、相手役の男の子見つけるのに、困っていたくらいですから…。

沙也加ママさん:あー、私も若くして欲しいわ、星力で。…でも、大人の若返りなんてことに、星力って使っちゃだめよね…。

 

 そうしてコメットさん☆のエスコート役の男性は、星力で14歳くらいにしたツヨシくん、メテオさんのエスコート役はカロン、ヴェール持ちにパニッくんとネネちゃんという、「出場メンバー」が正式に決まった。

 そしていよいよ9月末、ドレスは完成した。コメットさん☆−ミラ組のも、メテオさん−留子さん組のも…。ほどなく写真での審査を終え、10月中旬の発表会を待つばかりとなった。発表会は、市内の市民会館ホールで行われる。鎌倉市と近隣の市の共催なので、見に来る人も多いだろう。

 留子さんは、メテオさんとカロンの身長差があるのを気にしていた。しかし、今さら直しもできないし、メテオさんのヒールを低くするのも考えたが、そうするとドレスのすそが地面にすってしまう。結局身長差は仕方がないとして、メテオさんも星力を使わずに、ありのままにすることにした。

(次回に続く)

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★第124話:それぞれの想い<後編>−−(2003年10月下旬)

 コメットさん☆の、よく眠れないような夜が明け、コンテスト当日がやってきた。それはしかし、メテオさんも同じようなものだった。コメットさん☆は、前の日の夜ためておいた星力を使って、予定通り、ツヨシくんを14歳くらいにした。そうして二人とも景太朗パパさんの車で送られ、会場に向かった。ネネちゃんは、もうメテオさんの家に出かけていった。藤吉家と風岡家の長い一日が始まる。

 会場では、市の職員から舞台での動きについて説明があった。コメットさん☆とツヨシくん、ミラ、それにメテオさんとカロン、ネネちゃん、パニッくん、留子さんも、いっしょにそばで説明を聞いたのだが、それによると、舞台から客席中央に向けて張り出した花道を、エスコート役の男性と歩き、低い階段を下りて、審査委員の前へ。そこで審査委員が近寄って、ドレスや飾りの類を子細に見ることがある。そしてもと来た方向へ戻る。審査発表の時は、全員舞台の上に。階段は低いが、転倒しないよう気をつけて欲しい…。そんな説明がなされた。ところが、コメットさん☆もメテオさんも、あたりを見渡してみると、他の応募参加者は、みんな大人ばかり。中学生くらいのペアなんて、コメットさん☆−ツヨシくん組とメテオさん−カロン組しかいない。ほかの大人のペアからは、ヒソヒソ声が聞こえる。コメットさん☆とメテオさんは、居心地の悪さを感じていた。

メテオさん:私たちのこと、いろいろ言っているわ。なんなのよったら、なんなのよ…。

コメットさん☆:しかたないよ…。それより、精一杯がんばろ。

メテオさん:…そうね。絶対に負けないわよ…って言いたいところだけど、なんだかそういう気分にはなれないわ。

コメットさん☆:…メテオさん?。

メテオさん:だって私、あなたやミラと、競い合うためにここにいるんじゃないもの…。最初はきれいなドレス着て、舞台に立ちたいだけだった…。でも、今は…、幸治郎さんと留子さんに、私の姿見せて、美沙子さんのことを思い出してくれればって…、そんな気持ちだわ…。

コメットさん☆:……メテオさん。…やさしいんだね。

メテオさん:…また、何を言うのよ、コメットは。私が…やさしいなんて…。

 困ったような顔を向けるメテオさんに、コメットさん☆は、無言でにっこり笑っていた。

 やがてドレスに着ける番号札が配られた。コメットさん☆は8番、メテオさんは11番。全部で13組の出場だった。そして控え室が各出場者に割り当てられた。コメットさん☆は、ツヨシくんとミラといっしょに、「8」と書かれた紙の貼られている控え室に入った。そこにはもう、景太朗パパさんと沙也加ママさんが待っていた。

コメットさん☆:あ、景太朗パパさんと沙也加ママさん、待っていてくれたんですか。

景太朗パパさん:もちろん。なあママ。

沙也加ママさん:ええ。パパったら、もう古いカメラまで持ち出して、張り切っているのよ…。コメットさん☆とツヨシとネネの晴れ舞台だ!、ですって。

コメットさん☆:あははっ、恥ずかしいです。

沙也加ママさん:出場の時間はいつ頃?。その時間までには、私たちも観客席に行かなきゃ。

コメットさん☆:ミラさん、時間は?。私聞いてないんだけど。

ミラ:ええと、いただいた書類には、11時10分頃と書かれています。その30分くらい前に係の人が確認に来て、ドレスを着て、もう一度直前に呼び出しがあって、舞台袖に移動だそうです。

コメットさん☆:…そう。ああ、なんか緊張するなぁ…。

ツヨシくん:コメットさん☆、星国ではドレス着ないの?。

コメットさん☆:着るよ。いろいろ王宮でセレモニーとかあるもの。…でも、なんだか、今日はそんなのとは、違うような気がして…。ドキドキ…。

沙也加ママさん:そんなに緊張することないわよ、コメットさん☆。いつものあなたらしく、ツヨシと手をつないで、舞台を回ってくればいいのよ。

コメットさん☆:…そうですね。沙也加ママさんにそう言われると、少しほっとします。

沙也加ママさん:でも、そろそろドレスに着替えた方がいいわね。ツヨシも衣装を着ないと…。

 

 コメットさん☆とツヨシくんは、衣装に着替えた。ミラも念入りに、衣装のわずかな不具合がないか、最後の見直しをする。沙也加ママさんも、ツヨシくんの衣装にブラシをかけたりする。そしていよいよ、ミラは一生懸命作ったヘアオーナメントを、箱から出して、コメットさん☆の頭に載せた。造花ながら桜の花びらをたくさんあしらって、緑色の葉っぱのところだけは生花を使ったヘアオーナメント。後ろ側から両側に向けて、短いヴェールがついている。顔は最初から隠れないデザインだ。

ツヨシくん:…コメットさん☆、きれい。いつもより手袋が長いね。

コメットさん☆:…ツヨシくんありがとう。そうだね、肘よりかなり上まであるね。

沙也加ママさん:コメットさん☆きれいよ。とってもかわいいわ。コメットさん☆なら、お化粧はいらないわね…。いいなぁ、若いって…。

ミラ:そうですね、コメットさまには、最初からお化粧はいらないと思っていましたけど…、コメットさま、口紅くらいお持ちですか?。

コメットさん☆:…ううん。持ってないけど…。

ミラ:うふふ…。ごめんなさいコメットさま。でも、コメットさまらしいです。

コメットさん☆:恥ずかしいなぁ…。えへっ。

沙也加ママさん:ちょっとパパにも見せてあげようか。今呼んでくるわね。まだ時間大丈夫よね。

ミラ:はい。

コメットさん☆:わあ、恥ずかしいな…なんだか…。

 ほどなく景太朗パパさんは、やってきた。カメラを手に。

景太朗パパさん:おおっ、コメットさん☆きれいだなぁ…。ツヨシもかっこいいぞ。どれ、二人手をにぎってこっち向いて。

コメットさん☆:えっ…。

ツヨシくん:コメットさん☆、ほら。

 ツヨシくんから伸ばされた手を、おずおずととるコメットさん☆。少しほおが赤い。ストロボの光が光って…。

 

 それから10分ほど経ったとき、コメットさん☆とツヨシくんは、舞台の上にいた。二人とも「8」の番号札を左胸に小さく着けて…。そして、会場からおこるどよめきの中、ゆっくりと二人は舞台から、前の花道に向けて歩き出した。コメットさん☆の小さな胸は、ドキドキと高鳴る。ツヨシくんは、案外平気そうにしているが、それでも少し、足が震えるような感じがする。そして花道の強いライトに照らされると、会場のどよめきは、歓声に変わった。

会場の人A:まあ、中学生くらいのペアよ。かわいいわねー。

会場の人B:ほんとうだわ。二人ともかわいい。がんばってー!。

会場の人C:きれい。ヘアオーナメントの、桜が珍しいわ。

会場の人D:ほんとだ。あれどうやって作ったんだろう?。

 コメットさん☆は、かなり緊張しながら、ゆっくりと、ツヨシくんの手を借りて、花道の先の低い階段を下りた。高めのヒールが、コメットさん☆を不安にさせる。しかし、ツヨシくんのしっかりとしたエスコートで、審査委員たちの前に進み出ることが出来た。

 審査委員たちは、口々に何か言いながら、コメットさん☆のドレスや、ヘアオーナメントをちょっとさわったりして、出来を見ている様子である。特にヘアオーナメントの桜には、何人もの審査委員が、手を触れた。

審査委員X:緊張していますか?、えーと、藤吉コメットさんと、藤吉ツヨシくん。

コメットさん☆:は、はい。かなり緊張しています。

ツヨシくん:…ぼくも緊張していますけど、がんばります。

審査委員X:…そうですか。そんなに緊張しなくて大丈夫ですよ。

 審査委員が声をかけたのは、異例のことかもしれなかった。しかしコメットさん☆もツヨシくんも、それを受け止めるだけの余裕はなかった。そうして、二人は、花道をまた、静かに戻っていった。帰りも、ツヨシくんはしっかりと、コメットさん☆の手を引いた。

 

 3組あとには、メテオさんも舞台に上がっていた。カロンとネネちゃん、パニッくんといっしょに。コメットさん☆とは違い、うっすらとお化粧をしている。

メテオさん:カロン、行くわよ。ネネちゃんとへの6号、よろしくね。

カロン:はい、メテオさま。

ネネちゃん:はあーい。

パニッくん:…ここでもへの6号なんですね…。わかりました。への6号、任務を遂行します。

 メテオさんは、にっこり微笑みながら、四人で前に進みはじめた。ふたたび会場からどよめきと歓声が起こる。

会場の人E:また中学生くらいのペアだ。

会場の人F:ほほえましいわねー。ヴェール持ちの子どもも面白いわ。

会場の人G:すっごいきれいなドレス。モデルもかわいいわねー。

 …メテオさんは、かつて前島さんのモデルを、コメットさん☆に代わって引き受けたこともあってか、手慣れた様子で花道を歩く。そして回りを見渡しながら歩くうちに、幸治郎さんと留子さんの姿を見つける。

メテオさん:(幸治郎お父様と留子お母様、よく私を見てね。ありがとう留子お母様。)

 その時、会場右奥の扉の脇に、メテオさんはイマシュンを見つけた。そういえば、一週間くらい前に電話で話したときに、このコンテストのことを言っていたのだ。イマシュンは、厳しいスケジュールの合間を縫って、見に来てくれたのだ。

 イマシュンは、サングラスとキャップで、素顔を見せないようにしていたが、メテオさんに気付くと、そっとサングラスを取り、メテオさんに手を挙げて合図した。メテオさんは、それにうなずくと、また花道を歩き、審査委員の前に、カロンのエスコートで降りた。

 メテオさんのドレスは、コメットさん☆のそれよりも、全体に豪華な感じに仕上がっていた。長めのヴェールと細かいレースが、きらびやかな印象を際だたせている。それに対しコメットさん☆のドレスは、全体にシンプルで、胸の前にフリルがついていて、レースがスカートのすそに向かって伸びていた。ヴェールはごく短く、顔の両側をおおうだけである。

 メテオさんは、花道を戻るとき、ちらっと再びイマシュンのいた場所を見た。すでにイマシュンはいなくなっていたが、心の中で「ありがとう瞬さま」と、つぶやくメテオさんであった。イマシュンは、黒岩マネージャーにせき立てられながら、車に向かう会場の廊下を歩いていた。

イマシュン:本当はぼくがエスコートしたかったな…。

黒岩マネージャー:ん?、何か言ったか瞬。

イマシュン:あ、いや。行こう黒岩さん。

 イマシュンは、内心、自分のジレンマに悩んだ。自分の歌を待っている人がいる…。でも、そのために大好きなメテオさんのそばに、いられないなんて…。

 

 控え室に戻ったコメットさん☆とツヨシくん。二人とも緊張の糸がいくらかほぐれて、いすに向かい合って座っていた。まだ審査は続いているので、ほかには誰もいない。ラバボーとラバピョンすら、人の姿で客席だ。ふとコメットさん☆は、ケースケのことを思い出す。せめて見には来てと言っておいたのに…。コメットさん☆は心細さのためか、少し悲しくなる。

コメットさん☆:…ケースケ、やっぱり来てくれなかったなぁ…。

ツヨシくん:…コメットさん☆。ケースケ兄ちゃんと約束したの?。

コメットさん☆:…ううん。約束したわけじゃないけど…、見に来てって…。

 

 そのころケースケは、学校の友人と青木さんに、釣りに誘われ、葉山沖で釣りをしていた。本当は、コメットさん☆を見に行くつもりだったのだが…。

木さん:…いいのかケースケ。なんかだれとかの発表会が、とか言っていたじゃないか。

ケースケ:ああ、いいっすよ。たいしたことじゃないす。

青木さん:そうか。

ケースケ:(コメットのウエディングドレス姿なんて…、なんだか、手の届かない遠くに行っちまうみたいで…。)

 

 ツヨシくんに向かってそこまで言うと、ふいにコメットさん☆は涙ぐんでしまった。ところが…。

ツヨシくん:コメットさん☆、そのドレスで泣いちゃだめだよ。ウエディングドレスって、とっても大事な、コメットさん☆が一番うれしいときに、着るものでしょ?。だから、泣いちゃだめ。

コメットさん☆:……。

 コメットさん☆は、ツヨシくんの意外な言葉にはっとする。そして…。

コメットさん☆:…うん。そうだね。このドレスは、たくさんの女の子のあこがれ…。私はミラさんのおかげで、こうしてだいぶん早く着ることが出来たけど、本当に結婚するときにしか、着られないはずだものね…。ごめんね、ツヨシくん。

ツヨシくん:…コメットさん☆、いつか、本当にぼくと着て、ウエディングドレス。ぼく、コメットさん☆のことが、大好きなんだから。

コメットさん☆:えっ…!?。

 コメットさん☆は、そう答えたきり、なんて返事していいのか、わからなくなった。胸ばかりが再び、ドキドキと高鳴る。目の前にいるのは、星力で同じ歳に見えるツヨシくん。想いは複雑な気持ち…。壁に掛かっている時計が、カチリ、カチリと時を刻む。

 とその時、係の人が呼びに来た。

係の人:審査結果の発表ですので、舞台に集まって下さい。

コメットさん☆:は、はい。…ツヨシくん、行こ。

ツヨシくん:うん。

 

 いよいよ審査発表が行われる。いったい優勝はだれなのか?。コメットさん☆−ミラ組、またはメテオさん−留子さん組は、受賞できるのか…。発表の場なので、こんどはミラと留子さんも舞台の上だ。そして、発表の瞬間を迎えた…。

審査委員長:ええと、みなさんお待たせしました。だいぶ審査委員の間でも意見が分かれまして、審査には予定を超過する時間がかかりました。それでは発表します。優勝は…、11番の風岡留子さん制作、モデル風岡メテオさんと橋田カロンくんの組です。おめでとうございます。

観衆:きゃーーー(大拍手)。

メテオさん:お母様!!。優勝よ!。ありがとう。

留子さん:メテオちゃん、私こそお礼を言うわ、ありがとう。

カロン:メテオさま!。

ネネちゃん:やったやった、メテオさんおめでとう!。

パニッくん:フォルテシモやったであります。

 メテオさんと留子さん、それにカロンとネネちゃん、パニッくんは、互いに抱き合って、受賞を喜んだ。留子さんに花束が渡され、たすきが5人に掛けられる。それをかけてもらってから、メテオさんは、会場の天井を見上げると、つぶやいた。

メテオさん:美沙子さん、これはあなたの導きなのね…。幸治郎お父様と、留子お母様に、私のこの姿を見せなさいという…。

 メテオさんは、涙をたたえた目で、ホール天井のライトを見た。しかし、すぐにそのライトは、涙でかすんでしまった。

 ほどなく審査委員長が、再び口を開いた。

審査委員長:ええと、さらに今回は検討の結果、審査委員特別賞を出すことにしました。これは審査委員全員が特に、優勝以外にも入賞すべき作品があったと判断したときに出すものです。審査委員特別賞は…。

 会場は静まり返った。

審査委員長:8番の橋田ミラさん制作、モデル藤吉コメットさんと藤吉ツヨシくんの組です。おめでとうございます。

コメットさん☆:えっ!?。私たち…?。

ツヨシくん:やったぁ!!。コメットさん☆おめでとう!。

ミラ:わあ、私たちも選ばれたんですね、うれしいです…。

 会場が割れんばかりの拍手と歓声に包まれる中、ミラは、すぐに目頭を押さえた。客席では、景太朗パパさんと、沙也加ママさんが抱き合って受賞を喜んでいた。そして、ミラに花束が、たすきが同じように3人に掛けられた。コメットさん☆は、そっとミラと抱き合って、受賞をよろこびあった。

審査委員長:それでは、受賞理由の説明をいたします。

 審査委員長は、割とぼそぼそとしゃべる人だったが、マイクをもって舞台に上がっているのを見たとき、コメットさん☆は、自分たちが花道から低い階段を降りて、審査委員たちの前に出たときに、声をかけてくれた人だと気付いた。

審査委員長:…優勝は、素人の制作でありながら…まあ全員素人さんなわけですが、まずなかなか豪華で巧みなデザインと評価されました。一方デザインそのものよりも、丁寧に作られていたことと、その作りに、着る人に対する想いが十分に伝わってくることも、高く評価されました。生地の選択も適切であり、失礼ながら比較的ご高齢の方が制作されたようですが、その娘さんに対する想いが凝縮されたような作品と感じました。一方、審査委員特別賞のほうですが、正直言いまして、デザインそのものはオーソドックスで、それほどの新しさはありません。しかし、ヘアオーナメントに特徴的な桜をモチーフとして使い、しかも季節を春に限定しなくてもすむよう、桜に生花を用いず表現するための工夫があり、かつそれがいかにも手作りな工作によってなされているという点は、特筆すべきものと判断いたしました。以上、簡単ですが、受賞理由といたします。

 会場は拍手に包まれた。そしてそれは、なかなか鳴りやまなかった…。

 

 夜になって、藤吉家では「祝勝会」になっていた。コメットさん☆はまたドレスを着せられ、ツヨシくんも衣装を着せられて、“撮影会”になっていたのだ。景太朗パパさんは、とても喜んで、ビデオまで持ち出して、二人とネネちゃん、ミラに、ウッドデッキを歩かせたり、リビングをぐるぐる歩かせたりしていた。コメットさん☆は、疲れたなぁと思いつつ、苦笑いをしながら、スカートの長いすそで写らないのをいいことに、実はスリッパで歩き回っていた。そこへティンクルホンが鳴ったと、ラバボーが持ってきてくれた。コメットさん☆は、それを耳に当てる。

コメットさん☆:はい、もしもし?。

プラネット王子:あ、コメット?。プラネットだ。特別賞おめでとう。きれいだったらしいな。

コメットさん☆:ありがとう…。

プラネット王子:たのみがあるんだけど…。今からドレス姿の撮影に行ってもいいかな?。…写真館に飾ろうかと…。

コメットさん☆:いいよ。今景太朗パパさんが、私たちのこと撮っているから。どうぞ、殿下。

プラネット王子:ありがとう。すぐ行く。

 プラネット王子は、星のトンネルを通って、すっとんでやってきた。レフ板や大形のストロボまで持って。そしてみんなをリビングに立たせて、撮影する。それからコメットさん☆一人だけも撮影する。もちろん、ツヨシくんと二人のカットも。

景太朗パパさん:プラネットくん、せっかく来たんだから、ごはん食べていきなよ。あと、写真出来上がったら、1枚ずつ焼き増ししてくれないかなぁ?。

プラネット王子:は、はい。ありがとうございます。せっかくのお誘いですが、これからメテオ…さんのところにも、行きたいと思いますので、またそのうちということで失礼します…。すみません。あ、焼き増しはします。4つ切りくらいでいいですか?。全紙にします?。

景太朗パパさん:ええー!?、全紙って…。そんな…、56センチ×45.7センチだよね?。

プラネット王子:はい。なんなら大全紙でも。61センチ×50.8センチにもできますけど…。

コメットさん☆:やめてよ、そんな大きいの恥ずかしいよ…。

景太朗パパさん:…いいよ、君に任せるけど…。そんな大きくなくていいよ。

プラネット王子:わかりました。それじゃおじゃましました。コメット、またな。おめでとう。じゃ。

沙也加ママさん:あら、もうおかえり?。もっとゆっくり…。

 景太朗パパさんと沙也加ママさん、ミラとネネちゃんは、プラネット王子を送りに玄関のほうに行ってしまった。リビングには、コメットさん☆とツヨシくんだけが残された。

 コメットさん☆は、ツヨシくんをそっと抱き寄せる。そしてそっと小さな声で言った。

コメットさん☆:ツヨシくん、今日はありがとう。とてもうれしかったよ。…ツヨシくんの、おかげだよ。…いつか…。…いつか…。

 コメットさん☆は、そこまで言うと、一度ぎゅっとツヨシくんを抱きしめ、そして離した。真っ赤な顔で…。

ツヨシくん:…コメットさん☆?。

コメットさん☆:さ、まだ当分撮影会だよ。恥ずかしいなぁ…。行こ、ツヨシくん。

ツヨシくん:うん!。

 コメットさん☆も、メテオさんも、一足先に「リハーサル」。うれしくて、楽しくて、胸はドキドキ、ちょっぴり複雑な想い。いつか本当に着るであろうウエディングドレス。でも、今回のドレスには、いろいろな人の協力と、いろいろな人の、それぞれの想い。それは、コメットさん☆、メテオさんも、例外ではなく…。

(このシリーズ終わり。シリーズ協力:mari氏)

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★第125話:揺れる心のコメット−−(2003年11月上旬放送)

 先日終わった「ドレスデザインコンテスト」のあと、ケーブルテレビ局や、ラジオ局などの地元メディアの取材を受けたりしたコメットさん☆。なんだか藤吉家のまわりは、わさわさしていて、落ち着かない感じだった。そのため、あの日ツヨシくんに言われたことも、そのあわただしい時間には忘れていた。

 だが、コメットさん☆は、自分の部屋で外の景色を見ていると、ふとあの時のツヨシくんの言葉を思い出してしまう。そして、自分の言葉も…。顔が紅潮するのがわかる。…さすがにコメットさん☆も、ツヨシくんの言葉が、何を意味するかくらいは理解していた。

コメットさん☆:(好きって…、やっぱり何だろう?。誰かを独り占めしたい気持ち?。そんなのって…、自分勝手じゃないのかな…。でも…)。

 コメットさん☆も、うまく説明出来ない感情が、芽生えつつあることを感じていた。

ツヨシくん:ねえねえ、コメットさん☆、どんぐり拾いに行こうよ。みんなでコマを作って遊ぶんだ。

コメットさん☆:…つ、ツヨシくん…。

 コメットさん☆は、ドキッとした。だが、当のツヨシくんは、いつものツヨシくんなだけだ。

ネネちゃん:みどりちゃん見に行こうよ、コメットさん☆。

 みどりちゃんも1歳半くらいになった。もう立って歩くのはもちろん、片言の言葉くらいはしゃべる。ネネちゃんには、それが面白いらしい。ことあることに、スピカさんのところに行こうと誘われる。しかし、そうそういつも行くわけにもいかない。スピカさんの時間を、あまりとってしまっては悪いような気もするし、もし修造さんに知られると、いろいろと困るかもしれないから…。

 それでもコメットさん☆は、ティンクルホンを取ると、スピカさんに電話をかけた。そして、スピカさんの「少しの間なら大丈夫」という答えをもらうと、すぐに星のトンネルを通って、スピカさんのペンションに向かった。

 

 スピカさんのペンションの回りは、もうすっかり紅葉が進んでいて、秋色に山や野が染まっていた。ひとしきりみどりちゃんと遊ぶ三人。スピカさんは、遠くからその様子を眺めている。そっと微笑みながら…。

コメットさん☆:みどりちゃん、たっち、たっちしてー。こっち、こっちだよ〜。

みどりちゃん:アー、コメトおねえ…たん、たっち…すうぅ。

ネネちゃん:まだみどりちゃん、ちゃんとはしゃべれないね。

ツヨシくん:あたりまえじゃんか。ネネちゃんだってそうだったじゃんか。

ネネちゃん:ああー、ツヨシくんだって。そんなころ知らないくせにー!。

ツヨシくん:そりゃまあ、…そうだけど。

コメットさん☆:あははっ。みんなそうなんだよ?。小さい頃は。

みどりちゃん:…ちいたいころ、ちいたい…?。

コメットさん☆:わあ、みどりちゃんまねしてる。かわいいー。

 そうするうちに、スピカさんが来て、みどりちゃんを抱っこすると、ミルクの時間になった。

コメットさん☆:そうだ。二人とも、どんぐり拾いに行って来なよ。

ツヨシくん:うん、そうする。ネネ行くぞ。

ネネちゃん:もう、ネネちゃん、ツヨシくんの召使いじゃないもん。…でも、行こう。

コメットさん☆:あまり遠くに行かないでね。

ツヨシくん:わかった。ツヨシくんたくさん拾ってくる。

ネネちゃん:ラバピョンいるかな…。行って来るねコメットさん☆。

 コメットさん☆は二人を送り出した。そして、スピカさんのほうを振り返ると…。

スピカさん:ほら。遠くの山を見て。山が燃えているようでしょ。

コメットさん☆:え、それって山火事に例えているってことですか、おばさま?。

スピカさん:言ってみればそうねぇ。まるで山が燃えているように、赤や黄色やオレンジ色に染まっている…ってことね。それから、その木を見て。それに巻き付いている草も、赤く色づいているわねぇ。そういうのを「草もみじ」って言ったりするのよ。

コメットさん☆:へぇーっ。きれい。草もこんなに赤くなるんだ。まだ鎌倉は、紅葉してません。もうそろそろするのかな…。

スピカさん:もうここのあたりは、紅葉も終わりに近いかもね。それだけこっちのほうが寒いってことなのねぇ。…コメット寒くない?。

コメットさん☆:大丈夫です…。それに…、ツヨシくんに、ちょっとあったかいこと、言われちゃったから…。

スピカさん:…あったかいこと?。ふふふ…何それ?。

コメットさん☆:…ちょっと…。

 コメットさん☆は、ツヨシくんとネネちゃんが、ラバピョンの小屋のほうにに行ってしまったのを見届けると、簡単に先日の「ドレスコンテスト」の模様を話した。もちろん、そこでツヨシくんに言われたことも…。

スピカさん:…そう。ツヨシくんがそう言ったの?。…それはねぇ、ツヨシくん、コメットがツヨシくんの家にやってきたときから、好きだったんだと思うなぁ。

コメットさん☆:…えっ!?。…そうだったのかな…。

スピカさん:男の子って、けっこうそうみたいよ。小さい頃出会った女の子が、忘れられないような…。ケースケくんにとっては、強力なライバル出現ってところかもね。ふふふ…。

コメットさん☆:おばさま、笑っている場合じゃないよ…。私、どんな顔で、ツヨシくんを見ればいいのか…。

スピカさん:…いままでどおりでいいんじゃない?。…人間ってね、あしたのことすら、本当のところはわからない…。ツヨシくんが言ったことが、何か意味をもつか、それとも持たないで終わるか、誰にもわからない…。…いいじゃない?。好きって言われて、コメットはイヤなの?。

コメットさん☆:ううん。そんなことない…。とってもうれしかった…。でも、ツヨシくんは、そんなんじゃないって思ってた。

スピカさん:いままでずっと、いっしょにいたからこそ、ツヨシくんはコメットのことが、好きなんだと思うなぁ。ツヨシくんにとって、コメットは、とても大事な人。小さいなりに、コメットのことを守りたいんだと思うな。…コメットは、ツヨシくんのこと、どう思うの?。

コメットさん☆:…それは、もちろん大事な…。…本当のことを言うと、ツヨシくんがエスコートしてくれたのは、タンバリン星国で、プラネット王子とヘンゲリーノさんの前へ進み出た時と全然違って、とても安心できたし、うれしかった。ツヨシくんなら、ずっと手を引かれていても大丈夫って、…思った。ケースケが見にすら来てくれなかったのは、悲しかった。一度は「友だちじゃない」ってまで、言われたし…。そんなときに、「ウエディングドレス着て泣いちゃだめ」って…。

スピカさん:…コメットも、揺れ動いているのね、それは。…でも、そんなに意識しなくてもいいと思うな。ツヨシくんだって、まだ小学生でしょ?。ツヨシくんも、心は揺れ動くはずよ。

コメットさん☆:……。

スピカさん:意識しちゃう時があるかもしれないけれど、いつものあなたのままでいれば、自ずと答えは出るんじゃないかな?。

コメットさん☆:…こ、答えって…。

スピカさん:ふふふ…。思春期まっただ中のコメット、がんばって。

コメットさん☆:…はぁ…、…はい。

 コメットさん☆が、スピカさんのペンションの外に出ると、冷たい北風が吹いていた。そこへちょうどツヨシくんとネネちゃんが戻って来た。ラバピョンとラバボーもいっしょだ。

コメットさん☆:ツヨシくん、どんぐり拾えた?。もう少し時期過ぎていたでしょ?。

ツヨシくん:うん。あまり拾えなかった。コメットさん☆は何をしてたの?。

コメットさん☆:…えっ?、べべ…別に…、おばさまと秘密のお話。

ネネちゃん:秘密ってどんな?。

コメットさん☆:秘密は、秘密。だってしゃべっちゃったら、秘密じゃないでしょ?。

ラバボー:姫さま、あやしいボ。

ラバピョン:…それはたぶん、好きな男の子の話ピョン。

コメットさん☆:やだなぁ…。なんでそういう話になるの?。もう…。

ラバボー:あ、姫さま、赤くなったボ。図星だボ。

ラバピョン:第6感なのピョン。

 どうも顔に出やすいコメットさん☆は、あまり隠し事は上手ではないようだ。それでも、コメットさん☆は内心ほっとといていた。スピカさんに話をすることで、ドキドキするような、息の詰まるような気持ちは、少しやわらいで、いつもの自分を取り戻せるような気になったから。揺れていた心も、いくらか落ち着いたような…、そんな気分。

 コメットさん☆は、星のトンネルを通って家に帰るとき、ふと、後ろを振り返った。見送るラバピョンの向こうに、八ヶ岳の山々が、早くなった日暮れに染まって、いっそう燃えるようだった…。

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★第126話:紅葉の不思議−−(2003年11月中旬放送)

 八ヶ岳山麓の、まるで燃えるような紅葉を見てきたコメットさん☆。スピカさんに言われた「揺れ動く私…」って…、どういうことなんだろう。ケースケと、ツヨシくんの二人を思い出しながら…、今日は鎌倉の駅近く、御成通りから小町通りに抜け、和菓子やハムを買って歩く。この商店街は、コメットさん☆がこの星にやってきたときに、さまよった場所だが、今はもう、どの路地がどこに通じているか、覚えているほど、「いつもの街の商店街」だ。鎌倉は観光の街でもあるから、たくさんの観光客や、修学旅行生たちが、道を歩いている。地元の人に混じって…。そんな街の人々の声に、耳を澄ませば、面白い話も聞こえてくる。

観光客のおばさんA:大銀杏の紅葉がきれいよ。

観光客のおばさんB:極楽寺駅あたりの山の紅葉も色づいてきているって。

 ふとその声を聞いたコメットさん☆は、素朴な疑問に気付く。最近、本を読んで勉強するようにしているから、なおさら…。

コメットさん☆:(そう言えば、紅葉ってどうしてするんだろう?。あんなにきれいに色づいてから、葉っぱが落ちるのはどうして?。…それから、黄色くなる葉っぱと、赤くなる葉っぱがあるのも、どうしてかわからないな)。

 そう思ったコメットさん☆は、道の脇に立ち止まって、遠くの小山を見上げた。ところどころ黄色や赤に染まっている山が見える。八ヶ岳山麓のように、全山色づいているわけではないが。コメットさん☆は、それを見ると、何か思いついたように、急いで裏路地から鎌倉駅に向かった。

コメットさん☆:ただいまー。

沙也加ママさん:コメットさん☆、おかえり。ハム買えた?。

コメットさん☆:はい。残り少なかったんですけど…。

沙也加ママさん:そう。よかった。あそこのハムおいしいのよね。遠く東京の世田谷あたりからも、買いにくる人がいるそうよ。

コメットさん☆:世田谷って…、昔母が住んでいたらしいです。聞いたことがあります。

沙也加ママさん:あらそう?。へえー。お母様も、地球に留学なさっていたんだっけ?。

コメットさん☆:はい。もうどのくらい前になるのかな…。この前星国に帰ったときに、母が「機会があったら行ってみたい」って言っていました。

沙也加ママさん:あらそう?。ぜひご案内したいわ。…もっともコメットさん☆が案内してあげるのが、一番いいかもね。うちに寄ってから、行って来るといいんじゃないかしら?。そう言えば…、お母様とは、まだいろいろお話したことないわね。今度誘っておいて、コメットさん☆。

コメットさん☆:はい。ありがとうございます。母も喜ぶんじゃないかと思います。

沙也加ママさん:なんだか、まだコメットさん☆は遠慮がちな言い方をするわねぇ。そんな遠慮はいらないのに。

コメットさん☆:…そ、そうですけど…。あ、そうだ。沙也加ママさん、ちょっと気になったこと聞いていいですか?。紅葉って、どうしてするんでしょう?。あと、黄色くなる葉っぱと、赤くなる葉っぱがあるのもわからないんです。

沙也加ママさん:うーん、そういうことに関する本は、…コメットさん☆、持っていないわよねぇ…。うちに前からある本はどうかしら?。…実は、私も知らないのよ。あはははは…。

コメットさん☆:そうですか…。…でも、簡単に人に聞いちゃだめですよね。私、自分で調べなきゃ…。

沙也加ママさん:…そうね。自分で調べるのは、いいことだと思うわ。図書館なんかどうかしら?。あ、でもまってよ。図書館って、最初に利用者登録をして、図書館カードっていうのを作ってもらうんだけど、その時に住所確認のできるものが必要だから…、確か手紙とかでもいいはず…。コメットさん☆、あなたあてに来た年賀状か手紙を、誰からのでもいいから持っていかないとだめだわ。最初だけね。その場でカード作ってもらって、次の時からは、そのカードを持っていけばいいの(※下参照)

コメットさん☆:年賀状か、手紙…ですか?。読まれちゃうんですか…?。

沙也加ママさん:あはははは…。違うわよ。住所を確認するだけだもの。中を読んだりしないわよ。登録をすませれば、借りたい本があれば、貸し出してくれるし、わからないことがあれば、調べてくれたり、その手伝いをしてくれたりするのよ。コメットさん☆のような10代向けのコーナーなんていうのもあるわよ。…でも、星国にもあるでしょ?。図書館って。

コメットさん☆:はい。あります。…あんまり利用したことはなかったんですけど…えへっ。王宮の中にも図書室があって、父が利用しているのを見たことがあります。

沙也加ママさん:…王宮かぁ。なんか別世界のお話のようねぇ…。そんなお姫さまがうちに住んでいるなんて、今でもどこか信じられないような、不思議な気分ね。目の前にそのお姫さまがいるのにね。ふふふふ…。…ところで、コメットさん☆、わかったら教えてね私にも。紅葉のしくみ。

コメットさん☆:は、はい…。

 コメットさん☆は、困ったような笑いを浮かべて答えた。

 

 コメットさん☆は、さっそく教わったように、プラネット王子から届いた年賀状を持って、中央図書館に向かった。登録はすぐにすみ、「藤吉コメット」と名前の入った図書館カードが発行された。そして、書架を見て回り、リファレンスコーナーで相談したりして、なんとかわかりやすく紅葉の仕組みが書かれた本にたどり着くことが出来た。しかし、閉館時間が迫っていたので、その本を借り出して来た。

本の解説:「秋の低温にさらされた、落葉樹の葉は、光合成を続ける一方、葉の付け根部分の「離層」と呼ばれる組織が、コルク状に発達して、葉と幹の間を分断する。そうすると光合成で出来た物質が、葉から幹のほうに流れなくなるので、アントシアンやカロチノイドといった、それぞれ赤や黄色の色素になりながら葉にたまっていく。しかし緑色の色素であり、葉の光合成に関与する葉緑素(クロロフィル)は、紫外線などで分解されるので、緑色の色素であるクロロフィルよりも、アントシアンの赤、カロチノイドの黄色といった色素の、相対的な量が多くなり、葉が紅葉した状態になる…。」

コメットさん☆:へぇー、そういうことなんだ…。緑色クロロフィルが分解されるから、赤いアントシアンや、黄色いカロチノイドが透けて見えるようになる、というようなことね。…でも、木によって、黄色くなったり、赤になったりするのはどうしてだろう?。

本の解説:「…なお、木の種類によって、あるいは同じ木の場所や条件によって、黄色く紅葉するものと、赤く紅葉するもの、さらには茶色く紅葉するものがあるが、それは葉に残った色素のうち、どの色素がたくさん残っているかによる。つまり、アントシアンがたくさん残る木は赤く、カロチノイドがたくさん残る木は黄色く、フロバフェンがたくさん残るものは茶色く紅葉するということである…。」

コメットさん☆:…ちゃんと書いてあった…。

ラバボー:姫さま?。さっきから何を独り言言っているんだボ?。

コメットさん☆:ふふふー。ラバボー、なんで紅葉ってするか知っている?。

ラバボー:…うっ…、し、知らないボ。どうして姫さま、そんなことを突然言うんだボ?。

コメットさん☆:本ってね、いろいろな知らないことが書いてあるんだよ。…沙也加ママさんに教えてあげよっ。

ラバボー:なんだボ?、それ。…生物は苦手だボ。数学なら少しはなんとかなるボ…。だけど、姫さま最近なんだか熱心だボ。新しいかがやき見つけたのかボ?。ツヨシくんのかがやきなら、とっくに見つけていたボ?。

 コメットさん☆は、ぼやき気味のラバボーをあとに、階下の沙也加ママさんのところに跳んでいった。

コメットさん☆:沙也加ママさん、沙也加ママさん、紅葉の仕組み、わかりましたよ。

沙也加ママさん:えっ、そうなの?。教えて、教えて。

 コメットさん☆は、本からの受け売りながら、紅葉の仕組みを簡単に沙也加ママさんに解説した。

沙也加ママさん:…なるほど、そういうわけ。そういえば高校の生物の時間とかに、ちょっと習ったような気もするなぁ…。もう全然忘れちゃっててだめね。ふふふふ…。

コメットさん☆:…私も、つい数分前にわかったばかりですから…。でも、図書館に行ってよかった。調べることって、なんだか楽しい。

沙也加ママさん:そうね。知りたいことがわかるって、面白いわよね。知識欲がおう盛な人ほど、いろいろなことを類推する力も持てる。だから、人のことを思いやったりもできるものね。…あ、そうそう、関係ないけど、ツヨシが、「コメットさん☆をおよめさんにする」って言っているのよ。なんだか、この間のコンテストで、すっかりその気になっちゃったみたい。「コメットさん☆をおよめさんにするために、ツヨシくん我慢してピーマン食べる」とか、言っているんだけど、気にしないでやってね。

コメットさん☆:…えっ?、は、…はあ…。

 コメットさん☆は、いきなりの話の流れにドキッとしながら、沙也加ママさんにはあいまいな返事を返した。

 そして2階の自分の部屋に戻ったコメットさん☆は、窓から外を見た。外はもう、夜の闇が広がっている。階下ではツヨシくんとネネちゃんが遊ぶ声がする。コメットさん☆は、今度図書館に行ったら、10代向けの「ヤングアダルトコーナー」でも、見てこようかなぁと、静かに思っていた。

 翌日コメットさん☆は、またお使いの買い物をしに、夕方の小町通りに行った。帰り際、ふと思い立って横須賀線の今小路踏切を渡り、線路の西側に出た。こちら側にはお寺が並んでいるし、森が近いので、紅葉がわりと間近に見える。時折車が通る以外、あまり人に出会うこともない。横須賀線の線路の奥の方には、小高い丘の木々が、少しずつ紅葉しているのが見える。コメットさん☆は、その紅葉をじっとながめ、心にわく不思議な暖かさに、そっと深呼吸して目を伏せた。木のにおいがした。

 しじまを破るように、銀色の電車が、脇の線路を通過していった…。


※鎌倉市の図書館は、登録する際に住所がわかる書類が必要です。通常、そのような場合には、保険証、免許証などが使われますが、公共図書館というところは、その人の借り出した本がどのような傾向があるかとか、その人の国籍的背景などを調査する機関では、全くないので、単に図書館サービスを享受すべき人であるかどうか(市の税金で整備している以上、在住・在勤者に利用資格を限定しなくてはならいない)ということの確認と、返却されない図書資料が発生した場合、返却の督促をしなければならないため、登録をすることになっているようです。
 図書館というところは、本の善し悪しを判断するところでもなければ、利用客の思想的背景などを監査する機関でもありません。通常、どのような資料を借り出したり、利用したかといった個人的情報は、その資料の利用終了とともに消去され、捜査令状が出ている場合の一部などを除いて、それらの情報が第三者に提供されることはありません。
 利用資格についても、コメットさん☆のような、地球人や日本人でない人でも、市内に在住しており、それを証明できる手紙などがあれば、資格はあるものとされます。
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第128話:沙也加ママの心配−−(2003年11月下旬放送)

 コメットさん☆はある日、海岸沿いまで行ってみた。そこはよくケースケが練習しているところだ。しかし、ケースケは今日もいない。最近また忙しいらしい。もっとも、コメットさん☆としては、その後ケースケとの距離が縮まらないなと、ずっと思っていたのだが。七里ヶ浜の岸壁で、ぼぅっと海を見ていると、聞き覚えのある声がした。

メテオさん:コメット、何しているの?。

コメットさん☆:あ、メテオさん。…別に何も。

メテオさん:…カリカリ坊やでも、探しているの?。

コメットさん☆:……。

 コメットさん☆は、黙って首を振った。

メテオさん:最近、カリカリ坊やと会っていないようね。…どうしたの?。

コメットさん☆:別にどうってことはないけど…。…この前、友だちでもないって言われちゃったし…、ドレスコンテストも来てくれなかった…。

メテオさん:…そう。じゃ、そんなことを気にするより、私につきあいなさいよ。

コメットさん☆:…えっ?、つきあうって…どこに行くの?。

メテオさん:今日、これから瞬さまを送りに行くのよ。北海道公演ですって。

コメットさん☆:瞬さんかぁ…。メテオさん、相変わらずだね。…でも、いっしょに行かないの?。

メテオさん:…行きたいところなんだけど、留子さんとメトの健康診断が明日あるから…。

コメットさん☆:メトちゃん元気?。大きくなった?。

メテオさん:なったわよ、思ったより早いわ成長が。元気すぎるくらいよ…。…それより、行きましょったら、行きましょ。

コメットさん☆:う、うん。

 コメットさん☆は、一瞬沙也加ママさんに電話してからにしようと思ったが、すぐ帰ってくればいいやと思い直した。

ラバボー:姫さま、行くんなら、ママさんに言っておいた方がいいボ?。

コメットさん☆:大丈夫だよ。すぐ帰ってこれるよ、たぶん。

メテオさん:さあ、早く行きましょ。

 メテオさんの誘いにのって、コメットさん☆はメテオさんといっしょに出かけた。行先は羽田空港。メテオさんとコメットさん☆は幸治郎さんの車で、金沢八景まで送ってもらうと、京浜急行線で羽田空港まで出た。

 ところが、羽田空港までの高速道路の事故渋滞で、イマシュンの到着は大幅に遅れた。メテオさんは、いらいらしながらイマシュンが空港に来るのを待った。

メテオさん:きぃーー、これじゃあ、羽田まで直行した意味がないじゃないのー!。

コメットさん☆:仕方ないよ…。事故渋滞じゃ…。でも、いつ着けるのかなぁ…、イマシュン…。

 コメットさん☆としては、困ったことになったと思っていた。当初考えていたよりは、ずっと遅くなってしまいそうだからである。うちに連絡をしようかとも思ったが、すぐに帰れない以上、よけいな心配をさせるかもと思って、仕方なくひたすら待った。

 

 やがてようやくイマシュンが空港に姿をあらわし、メテオさんとイマシュンは、ひとことふたこと会話を交わし、それからメテオさんとコメットさん☆の二人で、遠くからその出発を、たくさんのファンに混じって見送った。時刻は2時間くらい遅れて、既に夕方になっていた。秋の日は短く、もうメテオさんとコメットさん☆が帰路につく頃には、夕闇が迫っているほどである。コメットさん☆は、こんなに遅くなるなら、やっぱり一度連絡しておくべきだったかなと、ふと思った。

ラバボー:姫さま、姫さま、もう相当に遅いボ。沙也加ママさんに叱られるボ…。

コメットさん☆:うーん、でも、メテオさん一人置いて帰れなかったもの。横浜に着いたら電話しよ。

ラバボー:もう5時になるボ。ママさんとパパさん、心配しているボ。

メテオさん:コメット、今日はこんなことになるなんて…。ごめんね…。

コメットさん☆:メテオさんのせいじゃないよ。いいよ、大丈夫。

 そうは言いつつも、コメットさん☆は、心配そうな顔で、京浜急行の電車のドア窓から、外の景色を見た。

 そしてコメットさん☆は、横浜に着くと、京浜急行から横須賀線に乗り換える。電車が来るまでの間、ホームからティンクルホンで家に電話をかけた。

コメットさん☆:あ、沙也加ママさん、コメットです。ちょっと遅くなっちゃって。今横浜です。

沙也加ママさん:コメットさん☆、どこ行っていたの?。心配して探しに行こうかって言っていたのよ。

コメットさん☆:ごめんなさい。メテオさんといっしょに羽田空港に…。

沙也加ママさん:鎌倉駅まで迎えに行くわ。

コメットさん☆:あ、大丈夫です。稲村ヶ崎から帰ります。メテオさんと極楽寺までいっしょですから。

沙也加ママさん:だめよ。二人とも迎えに行くわ。鎌倉駅でまってて。

コメットさん☆:は、はい。すみません。

 コメットさん☆は、意外にも沙也加ママさんの口調が、いつになく強い感じなので、内心びっくりした。電話を切り、急いでメテオさんと、来た電車に乗った。

 電車は順調に走り、すっかり日の暮れた鎌倉駅に滑り込んだ。西口の小さい方の改札を抜けると、駅前のロータリーに、見慣れた黄色い車と、その脇にたつ沙也加ママさんが見えた。

沙也加ママさん:ほら、こっちこっち。もう、遅いわよ、コメットさん☆とメテオさんも。

コメットさん☆:はーい。

沙也加ママさん:メテオさんも乗って。送って行くわ。おうちには言ってから行ったの?。

メテオさん:どうもありがとうございます。一応幸治郎お父様には言ってきました。帰りは迎えに来てくれるはずでしたが、お言葉に甘えさせていただきますわ。

沙也加ママさん:そう。じゃ、メテオさんは大丈夫ね。

 沙也加ママさんは、それきり口を結んだまま、車を運転して、メテオさんをまず送り届けた。お礼をしながら家の門を入るメテオさんを、目で追って確認した沙也加ママさんは、再び車を走らせた。なんとなく重い空気が、車の中に漂っている。

ラバボー:姫さま、ママさん怒っているボ。

コメットさん☆:…そうかも。

 ラバボーが小さな声でささやいた。それにやはり小さな声で答えるコメットさん☆。その時、沙也加ママさんが口を開いた。

沙也加ママさん:お昼はどうしたの?。コメットさん☆。

コメットさん☆:…は、はい。メテオさんと空港で食べました。

沙也加ママさん:…そう。

 沙也加ママさんは、そのあと口を開くことなく、車は家に着いた。ほっとした表情で、玄関を入るコメットさん☆。

ツヨシくん:おかえりコメットさん☆。

ネネちゃん:おかえり。コメットさん☆、遅いね。待ちくたびれちゃったよー。

コメットさん☆:ただいま。ごめんね。ちょっと遅くなっちゃった。

景太朗パパさん:おう、コメットさん☆おかえり。ツヨシとネネは、パパとお風呂に入ろう。

ネネちゃん:いいけど、3人で入ると狭いんだもの。

ツヨシくん:じゃネネちゃんは、あとで入れば?。ぼくパパと入るもんね。

景太朗パパさん:まあ、そう言わずにいっしょに入ろう。なっ。

 そんな様子とやりとりを、微笑んで見ていたコメットさん☆だが、沙也加ママさんが後ろで呼んだ。

沙也加ママさん:コメットさん☆、ちょっといらっしゃい。

コメットさん☆:はい…。

沙也加ママさん:コメットさん☆、どうしてこんなに遅くなったの?。理由を聞きたいわ。

コメットさん☆:はい。メテオさんがイマシュンを、羽田空港に送りに行こうって…。そうしたら、イマシュンの車が、渋滞に巻き込まれて、空港に着くのが大幅に遅くなったんです。それで…。

沙也加ママさん:…そう。それはそれで仕方ないけど、そういうときは、今から行きますって、せめて電話ちょうだいよ。いつもあなたは、すっといなくなるけど、私もパパも、けっこうそれって心配なのよ?。

コメットさん☆:はい、ごめんなさい。

沙也加ママさん:今日まで何もなかったからいいようなものだけど、もし出先で悪い人がいたら、どうするつもりなの?。

コメットさん☆:…そ、それなら、たぶん、星の子たちが守って…。

沙也加ママさん:コメットさん☆、私たち家族は、あなたが守ってもらえるかどうか、そんなことはわからないのよ。ただ、どうしているかしらと、もしや怖い目にあっていないかと、心配するしかない…。あなたは星国の誰かが守ってくれると思っていても、パパやママには、そんなことわからないでしょ?。

コメットさん☆:は、はい。ごめんなさい…。

沙也加ママさん:今日は、大事なことだと思うから、ちゃんと言うわね。…どこかへ行っちゃダメって言うんじゃないのよ。どこへ、どのくらい行くのかくらいは、これからはちゃんと言ってから出かけるようにしてちょうだい。前から夜にふっと出かけたり、夜中にいつの間にか帰ってきたり…。あなたは何でもないことだったり、星使いとして必要なことだったりするのかもしれないけど、私たち家族にとっては、とっても心配なんだから。

コメットさん☆:…気をつけます。

沙也加ママさん:…でもね。あなたがうちの子だから、心配するのよ。うちの子の一人が、なかなか帰ってこなかったら、心配するのは当然よね?。

 コメットさん☆は、はっとした。そして思った。

コメットさん☆:(そうだ…。私、ずっとこのうちの子だったんだ。…それなのに、いつも心配かけていたんだ…。)

 と、その時、コメットさん☆が顔を上げると、沙也加ママさんがずんずんと近づいて来るのが見えた。もしかして、「おしおきされちゃうの?」と、思わず目をつぶるコメットさん☆。

沙也加ママさん:もう一人で行先を言わずにどこかへ行っちゃダメよ。…ね。

 そっと目を開けると、沙也加ママさんの顔が目の前にあった。そして、沙也加ママさんは、ぎゅっとコメットさん☆のことを抱きしめた。コメットさん☆は、またそれにびっくりした。沙也加ママさんの、心臓の音すら聞こえそう…。

沙也加ママさん:あなたがもし、いつか星国に帰るときが来るとしても、それまではうちの子よ。だから、ツヨシやネネもあなたも、みんないっしょ。とっても大事な子。…こうしてね、ツヨシもネネも、いたずらして叱ったあとは、ぎゅって抱きしめるのがうちのやり方。何度か見たでしょ?。あなたは、うちの子だから、今日はあなたにもするわね。

コメットさん☆:ママ…。

 沙也加ママさんは、コメットさん☆の返事に、珍しく「さん」が付かないことに気付いた。そして、コメットさん☆の顔をのぞき込むと…。コメットさん☆の大きな瞳からは、涙が一粒、また一粒と、こぼれるのだった。

コメットさん☆:ママ、ごめんなさい。心配かけて…。

沙也加ママさん:いいのよ、もう。…泣かないで。怖かった?。ちょっと言い過ぎちゃったかなぁ。

 沙也加ママさんは、抱きしめたコメットさん☆の背中を、やさしくポンポンとたたいて、涙をこぼすコメットさん☆をなだめた。

沙也加ママさん:さ、涙を拭いて。夕食にしましょ。手伝ってくれるかな?。

コメットさん☆:はい。もちろん。

 コメットさん☆は、涙を拭くと、顔を上げて答えた。

沙也加ママさん:ありがと。じゃキッチンへGO!。

 沙也加ママさんは、さっさとキッチンへ、コメットさん☆と二人で入っていったが…。

沙也加ママさん:ああー、しまったわ。タマネギがダメになってるじゃない。

コメットさん☆:ああっ、ほんとだ…。腐っちゃってる…。

沙也加ママさん:これじゃ、マリネ作れないわ…。どうしよう…。

コメットさん☆:あ、あの、私が買ってきましょうか?。

沙也加ママさん:普段ならお願いって言うところだけど…、今日はああ言った以上、そういうわけにもいかないわね…。あーあ、コメットさん☆、いっしょに買いに行ってくれる?。

コメットさん☆:もちろん、よろこんで。

 沙也加ママさんは、困ったような顔をしながら、ちょうどお風呂から上がってきた景太朗パパさんに留守を頼み、コメットさん☆といっしょに外に出た。歩いて7〜8分のスーパーに行くために。

 外は、晩秋の冷たい風が吹いていた。…が、コメットさん☆の心には、ほんわかと、温かい風が吹いているような…、そんな沙也加ママさんとの、夜の外出。そっとママさんと腕を組んで…。

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★第129話:イルミネーションの夢−−(2003年12月上旬放送)

 街がクリスマスムードに、いよいよなってきた12月のはじめ、コメットさん☆は、おうちのみんなといっしょに、横浜港のイルミネーションを見に行った。横浜周辺は、そこかしこでイルミネーションが灯されている。

コメットさん☆:わあ、きれい。マリンタワーも、緑色と赤色だね。

ツヨシくん:クリスマスだけの色だって。

コメットさん☆:え?、そうなんだ。いつもは何色?。

ネネちゃん:ネネちゃん知っているよ、いつもは普通の白い色なの。

コメットさん☆:そうなんだ…。

 コメットさん☆は、横浜マリンタワーのライトアップを見て、メテオさんやイマシュンの姿を、なんとなく思い出していた。

コメットさん☆:(そういえば、おととしも来たんだ、ここに。)

景太朗パパさん:ちょっと寒いけど、大桟橋まで行ってみないか?。

沙也加ママさん:そうね。みんなどう?。

ツヨシくん:ツヨシくん平気だよ。

ネネちゃん:ネネちゃんも。

コメットさん☆:私も大丈夫です。コートあったかいから。

 コメットさん☆の着ているコートは、景太朗パパさんと沙也加ママさんからプレゼントされたもの。二人は、ちょっとニコッと、顔を見合わせて笑った。

 

 大桟橋には、港内クルーズ船が止まって、客待ちをしていた。甲板の上には、クリスマスツリーが、操舵室の上にはサンタクロースまで乗っている。窓から漏れる光と、マストを模したポールに渡されたランプが、幻想的に光る。コメットさん☆は、かつてこの船に誘われたことがあったわけだ。メテオさんに、イマシュンとの食事を譲ると言われたとき…。

コメットさん☆:(この船が、あの時の船だったんだっけ…。)

 遠くには、氷川丸と横浜ベイブリッジが見える。コメットさん☆は、それを見ながら、「あの橋の向こう側は、どこにつながっているんだろう」などと、何とはなしに考えていた。

景太朗パパさん:いやー、イルミネーションはきれいだね。電気代かかるだろうけどね。

沙也加ママさん:そうねぇ。ほんとにきれいだけど…、あまり地球にはやさしくないかもしれないわね。

コメットさん☆:それって、発電所の負担になるってことでしょうか。

沙也加ママさん:そうね。発電していることには違いないから、結局エネルギーを使っていることには違いないものね…。

景太朗パパさん:まあ、それもあって、最近は電球じゃなくて、発光ダイオードを使うという方法で、イルミネーションしたりするのが流行りつつあるね。

コメットさん☆:発光…?、ダイオード?。

景太朗パパさん:そう。電気をながすと光る半導体…。って言っても、難しいかな。電球と同じように使えるんだけど、電球よりかなり少ない電気で、点灯させることができるんだ。ふふふ…。実は今年、うちにも買ってあるんだ。さっそくうちに帰ったら点けてみるかい?。

コメットさん☆:え?、うちにあるんですか?。…それ。

景太朗パパさん:うちの樅の木のクリスマスツリー、ご近所でも評判なんだけど…、あはは…。かなり電気代がかかるんで、ママがちょっとおかんむりでさ…。それで今年はね。

 景太朗パパさんは、小さな声で、コメットさん☆にささやいた。

コメットさん☆:あはっ。そうなんですか。

景太朗パパさん:今年は少し電力節約にしようって…。まあ、地球にやさしいことには違いないだろうし…。どうだー、ツヨシもネネも、コメットさん☆といっしょに、飾り付けしないかー。

ツヨシくん:クリスマスツリーの飾り付けするの?。ツヨシくんもちろんする!。

ネネちゃん:ネネちゃんもする。コメットさん☆もいっしょにしよう。

コメットさん☆:うん、しようね。

景太朗パパさん:よし。ママー、氷川丸見てから帰ろうよ。

沙也加ママさん:ええ、わかったわ。

 沙也加ママさんは、やや離れたところから、クルーズ船を見ていたが、引き返してきた。そして言った。

沙也加ママさん:パパ、こんどはこの船に乗りたいわね。どうかしら?。二人で。

コメットさん☆:あ、それなら私とツヨシくん、ネネちゃんは留守番していますから。いつでもどうぞ。

景太朗パパさん:えっ!?、あはは…。参ったなぁ…。ま、前向きに考えます…。

沙也加ママさん:…もう…。パパったら、ムードがないんだから。しょうがないわね…。

 みんなは氷川丸のイルミネーションを見てから、元町に出て、少し買い物をしたあと、横須賀線で帰宅した。

 景太朗パパさんは、帰るなり、すぐに発光ダイオードのイルミネーションセットを持ってきた。それをコメットさん☆に渡す。

景太朗パパさん:コメットさん☆、これが発光ダイオード式のライト。今年はさ、ウッドデッキを飾るなんてのはどうかな?。

コメットさん☆:あ、それいいですね。いろいろなところから見えて、きれいだろうなぁ…。

景太朗パパさん:ガレージへ降りる階段の下に、コンセントがあるから、そこから電源を引けばいい。防水になっているから、雨や雪でも大丈夫だし、あまり発熱しないから、電球と違って、自由に配線できるよ。けっこうまだ高かったなぁ…。あはははは…。気にしないでどんどん飾っていいから。

コメットさん☆:景太朗パパ。ツヨシくんとネネちゃんとやってみます。出来上がったら見て下さいね。

景太朗パパさん:もちろん。期待してるよ。…なにしろご近所のご期待もあるようだから…。よろしく。

コメットさん☆:…あははっ。じゃあ、がんばります。

 

 コメットさん☆は、ツヨシくんとネネちゃんと、何セットもある発光ダイオードライトを使って、ウッドデッキの手すりを、イルミネーションするように飾り付けていった。要所要所をビニールタイという針金でしばって止める。少し置いてある植木はよけて、手すりを巻くように。机と椅子は、少し手すりから離して置き直した。おおむね出来上がったところで、点灯させてみる。

コメットさん☆:じゃ、いくよ、ツヨシくん、ネネちゃん。少し下がって見てみて。

ツヨシくん:うん、いいよコメットさん☆。

ネネちゃん:楽しみ楽しみー。

コメットさん☆:それっ、スイッチ入れた!。

ツヨシくん:わあー、いろいろな色だー。

ネネちゃん:あっ、きれいー。遊園地のパレードみたい…。

コメットさん☆:わぁ、きれいだねえー。赤や緑、黄色、それに青や白まであるね。青いのばっかりのところがある。なんだか、星の色みたい。

 ウッドデッキに平行に伸びる手すりには、色とりどりの発光ダイオードイルミネーションが点灯した。ひときわ目立つのが、青色のものと、明滅を繰り返すタイプの3色発光のもの。木に灯すクリスマス電球とは、また違った味わいだ。コメットさん☆は、この場所から、ケースケのことを、想い続けていたことを、何となく思い出していた。

コメットさん☆:(夏の終わりから、またケースケとは、ちゃんと話もしてないなぁ…。)

ツヨシくん:コメットさん☆、どうしたの?。

ネネちゃん:コメットさん☆、パパ呼ぼうよ。

コメットさん☆:あ、…そ、そうだね。パパ呼んで見せなきゃ。

 

景太朗パパさん:おっ、いいねぇ。去年とはまったく違っていいんじゃないかなぁ。コメットさん☆も、ツヨシもネネも上手だなぁ。

コメットさん☆:青い色のが、とても濃い色なんですね。目立ちます。あと3色で色が変わるのがきれい…。

景太朗パパさん:青い色の発光ダイオードって、20世紀中には出来ないだろうって言われていたんだよ。あの色は出すのが難しかったんだって。でもその色が出来たおかげで、あの中にも含まれている白も作ることが出来たんだ。

コメットさん☆:それって…。

景太朗パパさん:光の三原色って言ってさ、緑・赤・青の3つの色の光を同じように当てると、白くなるんだよ。だから青が出来ないと、白もできない。でも青さえ出来れば、赤と緑はもうあったから、原理的にはあらゆる色が作れる…、そういうことなんだよね。

コメットさん☆:光の三原色、知ってます。あれって面白いですね。絵の具や色鉛筆で、三原色を塗るのと全然違うの。…あ、じゃあ、ピンクとか紫とかっていうのも、出来るんでしょうか。

景太朗パパさん:こういうクリスマスライトとしてはまだのようだけど、出来てはいるようだよ。

 コメットさん☆は、じっと出来上がったイルミネーションを見つめていた。心にすうっと風が吹くような、なぜかそんな気持ちになりながら…。

 そして、少し残ったセットと、去年も使ったクリスマス飾りを使って、リビングに小さなクリスマスツリーを飾った。またネネちゃんや、ツヨシくんといっしょに。「今年もサンタビトは、みんなのところに来てくれるかな?。きっと来てくれるよね…」そう思いながら…。

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※青色発光ダイオードの開発を巡っては、いろいろな議論がありますが、2004年12月には、青色発光ダイオードを使用したクリスマスイルミネーション製品が半値になったり、白色のものが一般的に販売されるようになるなど、最近はいっそうバラエティが豊富になっています。


★第130話:クリスタルガラスの星−−(2003年12月中旬放送)

 コメットさん☆の住む鎌倉も、古都ではあるけれど、この時期になるとクリスマスの装飾が、そこかしこで見られるようになる。リースをつける店や家、駅前のクリスマスツリー、イルミネーション…。そんな華やいだ雰囲気も、コメットさん☆は大好きだった。春は桜が咲くから楽しい。地球の冬は寒いけれど、なんだか華やぎの温かさがあるから、それはそれでうれしい…、そんなことも考える。

 12月も中旬になったある日、コメットさん☆と景太朗パパさん、沙也加ママさんは、珍しく3人で出かけた。ツヨシくんとネネちゃんを学校に送りだしてから。ツヨシくんとネネちゃんのクリスマスプレゼントを買わなければならないし、たまには少し遠くまで…と、沙也加ママさんの提案もあって。新宿まで。

 鎌倉から新宿までは、湘南新宿ラインで1時間ほど。新宿に着いた景太朗パパさん、沙也加ママさん、コメットさん☆は、さっそく駅西口のデパートに入った。

沙也加ママさん:ツヨシのプレゼントって、何ってことになっているの?、パパ。

景太朗パパさん:…うーん、なんでも、聞くところによると、なんとかロボのおもちゃということらしいよ。

沙也加ママさん:あ、そう…。いつもおもちゃを買わされるわねぇ…。ふふふ…。

コメットさん☆:ステラレンジャーの、ステラロボですか?、もしかして。

景太朗パパさん:あ、そうそう、それだよ。よく知っているねコメットさん☆。

コメットさん☆:このあいだ、ツヨシくんからストーリーを教えてもらいましたから…。

景太朗パパさん:最近ツヨシは、それに執心なんだよ…。まあね、夢中になれるってことは、いつになってもいいことなのかもしれないからね。

沙也加ママさん:パパは夢中になるもの、多すぎなんじゃないの〜?。

景太朗パパさん:あ、ママ、それひどいなぁ。ママだって、イマシュンに夢中じゃない。

沙也加ママさん:…あ、それは…別よ、…って言っても、説得力ないか…。

景太朗パパさん:コメットさん☆は、何か夢中になれることはあるかな?。

コメットさん☆:…えっ、えーと、特には…。

沙也加ママさん:コメットさん☆、そんなに他人行儀な言い方しなくていいのよ。

コメットさん☆:はい…。でも、夢中になるって言っても、私は…。

景太朗パパさん:コメットさん☆は、割と欲がないからなあ…。それはとてもいい性質なんだけど、たまにはわがまま言ってもいいんだよ。

 コメットさん☆は、ちょっと困ってしまった。夢中になれるもの…と言われても、星ビトである自分というもののほうが、どうしても前に出てきてしまう。普通の女の子のようには、夢中になるようなものもない。恋愛だって…、よくわからないと思うし…。最近、いろいろなことを知ることには、興味があるけれど、夢中になって何から何まで知ろうとしているわけでもない。しかし、星ビトであるがゆえに、星のことには、とても興味がある。とすれば、ある程度夢中になれることと言うと、星のことを知ること…?。…コメットさん☆が考えていると、沙也加ママさんの携帯電話が鳴った。

沙也加ママさん:あ、もしもし?。ツヨシとネネね?。

ツヨシくん:うん。今学校から帰ったよ。ネネちゃんに替わる。

ネネちゃん:ママ、今帰ったけど…、麻衣ちゃんといっしょにおうちで遊んでもいい?。

沙也加ママさん:いいわ、そのほうが。ネネちゃんのほかには、ツヨシと麻衣ちゃんね、そこにいるのは。三人とも大丈夫ね?。ママとパパとコメットさん☆は、お買い物して、3時頃には帰るからね。もし何かあったら、また電話して。

ネネちゃん:うん。わかった。大丈夫。

沙也加ママさん:ちょっとツヨシに替わって。

ツヨシくん:なに?ママ。

沙也加ママさん:しばらく3人だけになるけれど、気をつけるのよ。危ないことしちゃだめよ。何かあったら電話してね。

ツヨシくん:うん。大丈夫だよ。ツヨシパパいるから。

沙也加ママさん:よーし。その意気。3時頃には帰るからね。帰りに電話するから。

ツヨシくん:了解!。

 ツヨシくんは元気よく言って、電話は切れた。

沙也加ママさん:パパ、ツヨシとネネは留守番しているようよ。お友だちが一人来てるみたい。

景太朗パパさん:そうか。じゃ、なるべく早めに帰ってやろう。…でも、ツヨシもネネも、友だちをよく連れてくるようになったよなぁ…。…逗子の親戚にグラスを送る手配をしに行って、それからお昼を食べて帰ろう。

沙也加ママさん:ああ、そうだった。高村さんね。秋にお世話になったから…。

 ふと、景太朗パパさんがコメットさん☆を探すと、コメットさん☆は、エスカレーターの脇の、「スワロフスキー・ショップ」のところにいた。そのクリスタルガラスの細工ものを、じっと眺めている。スワロフスキーとは、オーストリアで作られているクリスタル細工のブランド。美しいカット・クリスタルの製品を、長く世界に送りだしている。

 景太朗パパさんは、沙也加ママさんに合図をして、グラス売場に先に行かせると、そっとコメットさん☆に近づいた。

景太朗パパさん:何か面白そうなもの、見つかった?。コメットさん☆。

コメットさん☆:あ、パパ…さん、これってきれいですよね。

景太朗パパさん:どれ?。このハリネズミかな?。

コメットさん☆:ああ、これ、ハリネズミなんですね。ネズミかなぁ?って思ったんですけど…。

景太朗パパさん:これは、カットクリスタルって言うんだよ。きれいだろ?。…ハリネズミ好きかな?。

コメットさん☆:あ、いえ、…その。ちょっとかわいいなって…。

景太朗パパさん:そうか。じゃ、ちょっと面白いこと考えよう。…あ、すみません、このハリネズミと…、…んー、そうだな、この「コメット・オーナメント」っていうのを下さい。

コメットさん☆:パ、パパさん、そんなつもりじゃ…、それじゃ、なんか、私…、なんだか申し訳ないです…。

景太朗パパさん:いいんだよ…。うちに帰ったら、君の部屋にちょっと楽しいしかけをしてみよう。

コメットさん☆:…パパさん…?。楽しいしかけ…?。

景太朗パパさん:いいから、ママといっしょに、グラス選んできてよ。ね?。

コメットさん☆:…はい。パパ…、ありがとうございます…。

景太朗パパさん:コメットさん☆は、遠慮深いんだなぁ…。たまには「買って」とか言ってごらんよ。はははは…。…あ、すみません店員さん、そこの回転台も下さい…。

 景太朗パパさんは、カット・クリスタルで出来た、ハリネズミを売場の人に頼んだ。コメットさん☆の手のひらに乗るくらいの大きさ。それと、ほうき星をかたどった、小さなオーナメントも。ガラスのほうき星には、細いリボンがついていて、どこかにちょっとぶら下げられるようになっている。

 

 家に帰ったコメットさん☆は、景太朗パパさんの言った、「楽しいしかけ」ってなんだろう?、と思っていた。ツヨシくんとネネちゃんのクリスマスプレゼントは、ちゃんと買ってきた。だが、コメットさん☆にと、景太朗パパさんが買ってくれた、スワンのマークが入った、スワロフスキーのカット・クリスタル細工は、部屋に持ち帰っていいものかどうか、コメットさん☆にもわからず、リビングにそっと置かれたままになっていた。

 そのうちに、景太朗パパさんは、ツヨシくんとネネちゃんを寝かしつけると、沙也加ママさんを呼んで、リビングにやってきた。

景太朗パパさん:ママ、ちょっと来てー。

沙也加ママさん:なあに?、パパ。

景太朗パパさん:さて、コメットさん☆、君の部屋に入ってもいいかな?。

コメットさん☆:は、はい。…どうぞ。

景太朗パパさん:そう。じゃ、これを持って…。

 コメットさん☆は、突然の景太朗パパさんのたずねに、ちょっとびっくりしたが、手渡された買ってもらったものの包みを、受け取って手に持った。

沙也加ママさん:ははーん、パパ何かまたたくらんでるわね…。

景太朗パパさん:あら、ずいぶん人聞きのよくない言い方だね、ママは。瞳にかがやきが足りないよ。ふふふっ。

コメットさん☆:…パパ…さん。あははは…。

 景太朗パパさんは、階段を上がると、コメットさん☆の部屋の扉を、そっと開けた。

景太朗パパさん:…おじゃまするよ。えーと、コンセントはどこだったかな…。それと…、どこに置くと一番いいかな…。

コメットさん☆:パパさん、コンセント…ですか?。ベッドの足もとのところと…、チェストの右脇と…、あとはすぐそこです。

 コメットさん☆は、コンセントの位置を指さした。景太朗パパさんは、ベッドの足もとのコンセントの前にしゃがむと、買ってきた箱を取り出した。そして、景太朗パパさんが最後に買った「回転台」を、中から取り出すと、コンセントにつないで、発光ダイオードが光るのを確認して、テーブルの上に置いた。回転台は、しずかにゆっくりと、鏡のついた手のひらを広げたくらいの大きさの台が回るもので、その真ん中には、発光ダイオードの光が七色に変化しながら、上にのせたものを照らすものだ。

 続いて景太朗パパさんは、ハリネズミともう一つの小さなの箱の2つを取り出し、コメットさん☆に渡した。

景太朗パパさん:開けてみて、コメットさん☆。

コメットさん☆:はい。

 コメットさん☆は、ややあって箱を開けた。

コメットさん☆:わあ、きれい。とんがってる。…あ、こっちもかわいい…。す…、彗星だ…。…パパさん…。

景太朗パパさん:気に入ったかな…、コメットさん☆。…ああ、ママ、電気消して。

沙也加ママさん:…だいたいわかったわ。パパのやりたかったこと。

 暗くなった部屋では、回転台の中央に光る、発光ダイオードの光だけがぼぅっと、太い梁の通るコメットさん☆の部屋の天井を照らす。

景太朗パパさん:さあ、コメットさん☆、そのハリネズミをこの回転台に乗せてごらん。

コメットさん☆:はい。…わあーー、きれーい!。あはっ、うわっ、大きな星が映っているみたい。…なんて…きれいなんだろう…。パパさん、ありがとう…。

 七色に変化する発光ダイオードの光が、ハリネズミのクリスタルを通って、さまざまな方向に分かれ、天井に反射する。その光は、全体がゆっくりと回転し、あたかも星座が動いていくかのようなイメージ…。あるいは、星々がいろいろな色にまたたくような…。

景太朗パパさん:…ちょっと面白いだろう?、コメットさん☆。さすがに星空っていうわけじゃないけれど、クリスタルに光を反射させて、それが天井を照らしたら、きれいかなって思ってさ…。

コメットさん☆:きれい…、きれいです。パパ…さん。

沙也加ママさん:…きれいねぇ…。…パパも、いろいろなことに夢中だけど…、こういうことに夢中なのは、…まあいいかもね。うふふふ…。

景太朗パパさん:おや、ちょっとは、ぼくの株も上がったかな。あははは…。

コメットさん☆:…わあ…。ラバボー、ラバボー…起きてる?。とってもきれいだよ。

ラバボー:…なん…だボ?。ラバピョンの…ところに…行く…ボ…ぐう…。

コメットさん☆:あはっ、ラバボーはもう寝てしまって、見られないみたいです…。とってもきれいなのにな…。

景太朗パパさん:またラバボーくんには、明日の夜にでも見せたら。…ああ、それで、ここにタイマーが入っているから、好きなときに止めたり点けたり出来るようにしてあるからね、コメットさん☆。

コメットさん☆:はい。…ありがとう…パパ…うれしい…です。

 コメットさん☆は、恥ずかしそうに、そして、とてもうれしそうに、それでいて、小さな声で言った。光る回転台と、その上のハリネズミのクリスタル細工に、自らも照らされながら。

 コメットさん☆は、眠るまでの間、ベッドに横になって真上を向いて、天井に映る光を見つめていた。刻々と色が変わり、そしてそれがゆっくりと回る。パパさんにもう一つ買ってもらった「コメット・オーナメント」を、そっと窓辺から手に取ってかざすと、それにも光が射し込んでくる。天井と同じ色にキラリと光る。それを見ると、コメットさん☆は、自然に微笑んでしまう。誰かが見ているわけでもないのに…。それは、なんだかこの部屋が、星国になったようだから…かもしれないし、いろいろな「面白いこと」を、見せてくれようとするパパさん、ママさん、ツヨシくん、ネネちゃん、みんなの心づかいがうれしいから…かも。

 コメットさん☆はいつしか、天井の光を見つめながら、眠りに落ちていった…。

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★第131話:ゆず湯のぬくもり−−(2003年12月下旬放送)

 いよいよ2003年も暮れようとしている12月下旬。街はクリスマスムードに染まっていた。それにしても、このごろは、日の暮れるのが早い。だから、夕方はすぐにやってきてしまう。星国はどうだったろうか…。そんなことも、ふと寒い夕方の街の景色を見ていると、コメットさん☆は思い出す。

 そんな12月22日、早い夕暮れにせき立てられるように、メテオさんのところから帰ってくるコメットさん☆。家の前の坂を上りながら、後ろを振り向くと、日が沈んでいくのがわかる。空が青から紫、そして赤へと、グラデーションを描いて染まっているのが見えた。コメットさん☆は、家の門扉を開けて、中に入った。

コメットさん☆:ラバボー、寒いね。早くおうちに入ろ。

ラバボー:そうだボ。そうしないと、風邪ひくボ。ちょっとメテオさまのところに、長居しすぎかボ?。

コメットさん☆:うん。日暮れが早いものね。…ただいまー。

 コメットさん☆は、玄関の引き戸を開けて中に入った。

沙也加ママさん:あら、コメットさん☆おかえり。外寒かったでしょ?。

コメットさん☆:はい。ちょっと足が冷えました。

沙也加ママさん:そう…。でも、冬本番はこれからよ…。といっても、最近は暖冬続きだけどね。

 コメットさん☆は、コートを脱ぎながら答えた。

コメットさん☆:暖冬って、暖かめの冬のことですよね。前はもっと寒かったんですか?。

沙也加ママさん:そうね。もっと寒かった記憶があるなぁ…。このところ雪らしい雪も降っていないしね。

ツヨシくん:コメットさん☆おかえり。

ネネちゃん:おかえりー。外寒いの?。

コメットさん☆:ただいま。少し寒いよ。メテオさんのおうちから、ここまでで、私少し凍えちゃったかも。

沙也加ママさん:ふふふっ。大げさね。まだ凍えるには早いわよー。これから1月も2月もあるのよ。

コメットさん☆:…ですね。えへっ。

沙也加ママさん:夕食の支度しているから、コメットさん☆、お風呂に入ってきたら?。

ツヨシくん:ツヨシくんも入る!。

ネネちゃん:私もー。

沙也加ママさん:二人は宿題があるでしょ?。それを終わらせてかーら。

ツヨシくん:ええー。しょうがないなぁ…。

ネネちゃん:ネネちゃんもつまんないなー。でも宿題やらないと…。

コメットさん☆:パパさんは?。まだですよね?。

沙也加ママさん:パパは今日遅くなるって。忘年会らしいわよ。パパ、お酒飲まないから、たぶんカラオケでも歌わされているんじゃないかしら?。

コメットさん☆:パパさん、歌うの上手ですよね。

沙也加ママさん:一応まあまあじゃない?。いっつもむかーしの歌聞かされるけどね。パパが学生時代の…。ふふふふ…。

コメットさん☆:あはっ。そうでしたっけ。

沙也加ママさん:…そういうわけだから、コメットさん☆、一人先に入って。はいはい、ツヨシとネネは、宿題、宿題。終わったらちょうど夕食よ。

ツヨシくん・ネネちゃん:…は〜い。

コメットさん☆:ツヨシくん、ネネちゃん、ごめんね。沙也加ママ、じゃお先に入らせていただきますね。

沙也加ママさん:そんな遠慮しなくていいのよ、コメットさん☆。いつも言っているでしょ?、ここはあなたのおうちなんだからって。

コメットさん☆:…は、はい。じゃ…。

 コメットさん☆は、それでも少し遠慮がちに言った。そして着替えを自分の部屋のチェストから出すと、それを手に持って、浴室に行った。脱衣かごに脱いだものを入れ、タオルを取って、浴室の扉を開け、中に入って扉を閉める。そして浴槽のふたを開けると…。

コメットさん☆:きゃっ!。

沙也加ママさん:どうしたの!?。コメットさん☆。大丈夫?。…開けるわよ。

 コメットさん☆が、急に小さな叫び声をあげたので、沙也加ママさんは、急いで浴室にやってきた。そして浴室の扉を少し開け、中をのぞいた。

コメットさん☆:沙也加ママ、ミカンみたいなのが、お湯に入っています。

沙也加ママさん:あ、そうだ。言い忘れていたわ。ごめんね。今日は「ゆず湯」の日なのよ。だからそれはユズ。心配しないで、そのまま入って。いい香りがするでしょ?。体あったまるわよ。

コメットさん☆:…そうなんですか。ミカンにしては、でこぼこしてるし、色が薄いとは思ってましたけど…。今日がユズを入れる日と決まっているんですか?。

沙也加ママさん:そうなんだけど…。ここ2年ほどやってなかったわねぇ…、そういえば…。だからコメットさん☆には教えてなかったわね…。あ、でも早く入らないと、そのかっこうじゃよけいに寒いわ。お風呂から上がったら、由来を教えるわね。

コメットさん☆:はい。

 コメットさん☆は、かけ湯をすると、ユズがたくさん入っている湯船に、そっと入った。

コメットさん☆:わあ、いいにおい。ユズって、料理に使うのは知っていたけど、こんな使い方もあるんだ…。

 コメットさん☆は、指先でユズを突っついたり、そっとつまんだりしてみた。すうっといい香りが、浴室中に広がる。浴室の窓の、曇りガラスに映る、裏庭の庭園灯の白い光が、湯気が作る水滴で、無数の星空のようだ。

コメットさん☆:ふう…。あったかいなぁ…。でも、あんまり入っているとのぼせちゃう。

 コメットさん☆はつぶやいた。そのおでこには、汗がにじんできていた。

 

 お風呂から上がったコメットさん☆は、髪の毛をブラシでさっととかすと、そのまま髪にタオルを巻いてリビングに座っていた。さっきまで少し感じていた寒さはもう感じない。そこへネネちゃんがやってきた。

ネネちゃん:あっ、コメットさん☆いいにおい。

コメットさん☆:えっ?。私?。

ネネちゃん:うん。あ、今日はゆず湯の日だぁ。ねえねえ、コメットさん☆、そうでしょ?。

コメットさん☆:うん、そうだったよ。それでユズのにおいがするのかなぁ?。

ネネちゃん:そうだよ。コメットさん☆、ユズのお姫さま。

コメットさん☆:ええっ!?。…あははっ…。

 コメットさん☆は、ちょっと恥ずかしそうに笑った。そこへ沙也加ママさんがやってきた。

沙也加ママさん:今日はね、「冬至」って言って、夏からだんだん短くなってきた昼の時間が、いちばん短い日。明日からは、だんだんまた昼の時間が長くなって、夜のほうが短くなっていくのよ。冬至にゆず湯に入ると、それから1年は風邪をひかないと言われているの。そう言われているだけだけどね。でもね、ユズとかのミカンの類は、お風呂に入れると、本当に体があったまるのよ。ミカンの皮を干して、お風呂に入れる人もいるって。

コメットさん☆:そうなんですか。面白いですね。星国でも、冬至にあたる日は、あるにはあります。なかなか来ないですけど…。「星がわりの日」って言うんですよ。

沙也加ママさん:へぇー、そうなのー。星がわりかぁ…。なかなかロマンチックねぇ。見える星座が変わるからかしら。

コメットさん☆:そう言われてます。星国から見える遠くの星たちが、冬と夏で交代するという意味らしいです。その日を境にがらっと変わるんじゃなく、位置が少しずつ変わっていくだけなんですけど…。…今日が昼の時間のいちばん短い日とすると、昼がいちばん長い日もありますよね。それってなんて言うんですか?。

沙也加ママさん:ああ、夏の6月22日頃ね。それは「夏至」。

コメットさん☆:げし…って、ああ、ケースケが言っていた。思い出しました。

沙也加ママさん:そうねぇ…ケースケは、そういうことは割とよく知っているかもしれないわね。

コメットさん☆:え?、そうなんですか?。

沙也加ママさん:海の潮の満ち引きも、月と関係があるから…、ライフセーバーとか、サーフィンとかやっているときは、それを頭に入れないではやれないでしょ。

コメットさん☆:あ、そっか…。意外と星のことに詳しいのかも…。

沙也加ママさん:…そうね。今度聞いてみたら?。

コメットさん☆:…は、はい…。

沙也加ママさん:さあ、夕食にしましょ。パパはたぶんもっと遅くなるから。あ、冬至はゆず湯だけじゃなく、カボチャを食べるのよ。それも習慣ね。だから今日はカボチャの煮物もあるわよ。

ネネちゃん:えーっ、カボチャ…。

 どうやらネネちゃんは、カボチャは苦手のようだ。

 

 夕食が終わって、コメットさん☆は自分の部屋に戻ると、メモリーボールに語りかけた。

コメットさん☆:今日は、地球の星がわりの日だって。地球では「とうじ」って言うの。ユズを入れたお風呂に入った。そうすると、地球の1年風邪をひかないんだって。私も来年まで風邪ひかないかな。今日は寒い日だったけど、ユズのお風呂はいい香りがして、とてもあったかかったよ。ママさんも、いろいろ教えてくれた。私星国では、透明なお湯のお風呂って、あまり入ったことなかったけど、そこにユズを入れるなんて、思ってもみなかった。それから、カボチャを食べるの。カボチャは体にいいんだって。今年ももうすぐ終わるよ…。

 コメットさん☆の知らない地球の習慣は、まだまだたくさん。それでも、コメットさん☆が地球にやってきてから、3年目の年も暮れようとしている。かがやきを放ち、ぬくもりのあふれる、藤吉家の一人として…。明日も、また来年も…。

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