その先のコメットさん☆へ…2002年分

 「コメットさん☆」の実放送は、2002年1月27日に終了しています。しかし放送がそのまま続いたとすると、第44話から第85話までは2002年中となります。このページは2002年分のストーリー原案です。

 各話数のリンクをクリックしていただきますと、そのストーリーへジャンプします。全てお読みになりたい方は、全話数とも下の方に並んでおりますので、お手数ですが、スクロールしてご覧下さい。


話数

タイトル

放送日

主要登場人物

新規

第44話

おかえり二人のプリンセス

2002年2月10日

コメットさん☆・メテオさん・ケースケ・ミラ・ラバボー・ラバピョン・沙也加ママさん・景太朗パパさん・ツヨシくん・ネネちゃん・幸治郎さん・留子さん・ムーク

第45話

キラキラバレンタイン

2002年2月17日

コメットさん☆・ツヨシくん・ネネちゃん・ラバボー・ラバピョン・景太朗パパさん・沙也加ママさん(・ケースケ)

第48話

ホワイトデーのぬくもり

2002年3月中旬

コメットさん☆・景太朗パパさん・沙也加ママさん

第51話

おゆうぎ発表会

2002年4月中旬

コメットさん☆・ネネちゃん・ツヨシくん・景太朗パパさん・ラバボー(・沙也加ママさん・ケースケ)

第53話

桜を追いかけて

2002年4月下旬

景太朗パパさん・沙也加ママさん・ツヨシくん・ネネちゃん・コメットさん☆・ケースケ

第54話

そこにいた謎の少年

2002年5月中旬

ケースケ・「少年」・ミラ

第55話

ケースケの夢の種

2002年5月中旬

ケースケ・景太朗パパさん

第56話

泳げるようになりたい!

2002年5月下旬

メテオさん

第59話

スピカ命のかがやき

2002年6月中旬

スピカさん・みどりちゃん・コメットさん☆

第62話

みどりかがやきのはじまり

2002年7月上旬

みどりちゃん・コメットさん☆

第64話

もうひとりのラバピョンとラバボー

2002年7月下旬

人間ラバピョン・人間ラバボー・コメットさん☆

部分改訂

第66話

盆踊りの涙

2002年8月上旬

コメットさん☆・メテオさん・沙也加ママさん・留子さん

第67話

好きとキライの間

2002年8月中旬

コメットさん☆・ラバボー・スピカさん・ラバピョン

第68話

海のかがやき

2002年8月下旬

コメットさん☆・ケースケ

改訂予定

第69話

メテオさんはじめての海

2002年9月上旬

メテオさん・コメットさん☆・ラバボー・ツヨシくん・ネネちゃん・幸治郎さん

第70話

メテオさんの悩み

2002年9月上旬

メテオさん・ムーク(・コメットさん☆・ツヨシくん・ネネちゃん)

第71話

絵本で灯すかがやき

2002年9月中旬

コメットさん☆・沙也加ママさん

第73話

メテオさんと子猫

2002年9月下旬

メテオさん・留子さん・猫のメト

第74話

人の迷う森

2002年9月下旬

ラバピョン・ラバボー・スピカさん・コメットさん☆

第75話

イマシュンの心、メテオさんを照らす

2002年10月中旬

メテオさん・今川瞬
※歌あり=歌部分にジャンプ

部分改訂

第76話

電車に灯るかがやきの光

2002年10月中旬

コメットさん☆・ツヨシくん・ネネちゃん

第77話

やっぱり怖い歯医者さん

2002年10月下旬

ツヨシくん・コメットさん☆

第79話

ケースケの片道搭乗券

2002年11月中旬

景太朗パパさん・コメットさん☆・沙也加ママさん・ツヨシくん・ネネちゃん・ケースケ

部分改訂

第80話

眠る美沙子さんとメテオさんの父

2002年11月中旬

故美沙子さん・メテオさん・幸治郎さん

第81話

メトが結ぶ友情

2002年11月下旬

メテオさん・コメットさん☆・猫のメト

第83話

ネネの失敗?

2002年12月上旬

コメットさん☆・ネネちゃん・沙也加ママさん

第84話

全てを越える家族の絆(前)

2002年12月中旬

コメットさん☆・景太朗パパさん・沙也加ママさん・ラバボー・ツヨシくん・ネネちゃん

第85話

全てを越える家族の絆(後)

2002年12月下旬

コメットさん☆・王様・王妃さま・景太朗パパさん・沙也加ママさん・ツヨシくん・ネネちゃん・ラバボー・ヒゲノシタ

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★第44話:おかえり二人のプリンセス−−(2002年2月10日放送)

 …再び地球に向かうコメットさん☆とメテオさん。しかし、コメットさん☆の乗った星のトレインは、太平洋上空まで来て、急にその向きを変えた。

ムーク:おんや〜、コメットさまはどちらに向かわれるので?。

メテオさん:さあ?。どこでもいいじゃない。

 コメットさん☆は、見知らぬ街に降り立った。そこは…、オーストラリア北部の街ケアンズであった。

コメットさん☆:ここは…?。どこなんだろう。

ラバピョン:暑いのピョン。

ミラ:コメットさま、私、英語たぶんしゃべれません。

コメットさん☆:大丈夫だよ。たぶん。

ラバボー:姫さま、姫さま、ヨットがいっぱいいるボ。

コメットさん☆:あっ、あれは…。

 コメットさん☆は、ケースケの姿を、遠くの係留されている船の上に見つけた。彼は、甲板を一心不乱に掃除している。コメットさん☆は、すぐに駆けだした。追いかけようとするラバボーを、ラバピョンが止めた。ミラさんも、その場に立ち止まった。

 そして、コメットさん☆は、はやる心を抑えつつ、船のデッキの上に飛び上がると、ケースケに呼びかけた。

コメットさん☆:ケースケ、ケースケでしょ?。

ケースケ:ん?、誰だオレの名前を呼ぶの…あっ、お前…。

コメットさん☆:…こんにちは。

ケースケ:お、お前そんなところで、何やっているんだバカ。

コメットさん☆:あー、またバカって言った。…もうっ。

ケースケ:…ど、どうやってここに来たんだ?。コ、コメット。

コメットさん☆:やっと名前で呼んでくれたね。…心配だったから来ちゃった。飛んできたんだよ。

ケースケ:…あのなぁ、飛んでこれるわけないだろ…。…って、飛行機か。…でも、ひ、久しぶりだな…。い、いつか、この国で、会えるんじゃないかって、…思ってた。

コメットさん☆:そうなんだ…。…どうして、航海日誌つけなくなっちゃったの?。

ケースケ:航海日誌?、そんなもの、最初からつけてなかったぞ。…まてよ、オレの持ってきたノートのことか?。

コメットさん☆:うん。

ケースケ:ああ、あれは、うっかり間違って捨てちまってさ。

コメットさん☆:ああー、ケースケのばーか。

ケースケ:な、なんだよ、ま、間違いってのは、誰だってあるだろ。

コメットさん☆:…そうだね。

ケースケ:…試験はダメだった。でも、仕方ないさ。これからもまたがんばる。今は南部のシドニーが、少し涼しすぎるから、このケアンズに移動して、トレーニングとバイトをしているのさ。

コメットさん☆:そうなんだ。じゃ、また来年試験受けるんだね。

ケースケ:もちろん。何しろオレの夢だからな。

コメットさん☆:それを聞いて安心したよ。…また会えるといいね。待ってる…。

ケースケ:ああ…。…あれっ?。えっ?。おい、コメットー!。…どこ行ったんだ?。

 コメットさん☆は、すっとデッキの上から、甲板のケースケから見て反対側に降りた。そしてそっとバトンを振って、ケースケに星力をかけた。再びケースケの日々のようすが、貝殻の向こうから聞こえてくるように…。そして、そのままケースケを置いて、自らを待つミラさん、ラバボー、ラバピョンのところに帰ってきた。

ミラ:もういいんですか?コメットさま。

コメットさん☆:うん。もういいの。あまり長居するわけにもいかないし…。早く帰って、パパさんやママさん、おばさま、ツヨシくんやネネちゃん、みーんなに挨拶しなきゃ。

ラバボー:そうだボ、みんな心配しているボ。あっ、姫さま、ケースケのかがやき、感じるボ。

 ラバボーのしっぽの先に、光が灯った。

コメットさん☆:ほんとだ。

ラバボー:たぶん姫さまに会って、失っていたかがやきを、取り戻したんだボ。

コメットさん☆:ええー、そんなんじゃないよ…。

 コメットさん☆は照れたように笑った。でも心の中では…。

コメットさん☆:(ケースケ、がんばって。私もまたがんばる。今度は私のかがやき探し。たくさんのかがやきを、この星で見つけたい…。…でも、時には鎌倉に帰ってきてね…。)

ラバピョン:姫さまのかがやき探しは、まだこれから始まるのピョン!。

コメットさん☆:…そうだね。…さあ、行こ!。

 コメットさん☆たちは、星のトレインを止めてある、ケアンズ駅まで駆けだした。

ケースケ:あれ、おっかしいな…。さっきのコメットの姿は、幻だったのかな。…いや、そんなはずは、確かにあいつだった…。…ま、いっか…。…いけねえ、意識しすぎだ。仕事仕事…。(…でも、ありがとうな、コメット。たとえ幻でも、お前に会えたおかげで、なんか力湧いてきたよ。オレもがんばる。お前もがんばれよ。)…好きだったぞー!!。

となりのヨットの現地の人:What?. Are you okey?. (どうした、大丈夫か?)

ケースケ:ああ、It's not to be anxious for me. Okey.(ご心配なく)

 コメットさん☆たちを乗せた星のトレインは、そっとケアンズ駅の操車場を後にした。そして上空に舞い上がったとき、ケースケの姿が港に見えた。

ラバボー:なんかケースケが叫んでいるボ。

コメットさん☆:ほんとだ。何を叫んでいるんだろうね?。

ラバボー:きっとろくでもないこと言っているんだボ?。

コメットさん☆:そっか。じゃ私も。ケースケのばーかー!。

ラバピョン:姫さま、車内で叫んでも聞こえないし、はしたないのピョン。

コメットさん☆:…そ、そうだね。もう私、バカって言い返すの、やめよう。…えへっ。

 みんなを乗せた星のトレイン。一路再び鎌倉を目指す。コメットさん☆の新しい「かがやき探し」は、今また始まろうとしている…。もう王子を探すことではなく、もっと大きな「かがやき」を、たくさん見つけ、自らに灯すために…。

 

 やがてコメットさん☆を乗せた星のトレインは、七里ヶ浜に近づき、海岸沿いにある江ノ電の踏切に乗り入れて止まった。そしてそこから降りたコメットさん☆たちは、星のトレインを見送ると、山の上の藤吉家に向かって歩き出した。既に日は傾いて、夕方になっていた。

ミラ:突然おじゃまして、大丈夫でしょうか…。

コメットさん☆:大丈夫…だと思うよ。

 コメットさん☆は家の前まで来た。そして、そっと門を開けて入り、玄関の戸を叩いた。

沙也加ママさん:はーい。どなたですかー。

 懐かしい沙也加ママさんの声が聞こえた。

コメットさん☆:…こんばんは…です。

沙也加ママさん:えっ?、そ、その声は…。もしかして、コメットさん☆?。

 玄関の引き戸ががらりと開いて…、沙也加ママさんが顔を出した。

沙也加ママさん:…わあ、…コメットさん☆ね。コメットさん☆…おかえり。

景太朗パパさん:えっ!?、コメットさん☆?、コメットさん☆かい?。

 つい、沙也加ママさんは涙ぐんでしまった。ツヨシくんとネネちゃんも出てきて、そっとコメットさん☆の両腕にしがみついた。

沙也加ママさん:こんばんはなんて…、コメットさん☆、「ただいま」でしょ?。

 沙也加ママさんは、涙をこぼしながらつぶやいた。

コメットさん☆:…ごめんなさい。勝手を言って急に帰ってしまい、心配かけてごめんなさい…。ただいま…。

ツヨシくん:もうコメットさん☆、どこかへいっちゃだめだよ。

ネネちゃん:もう、どこへも行かないで。

コメットさん☆:…そうだね。…ぐすっ、ごめんね。…もう、どこへも…。

 コメットさん☆は、涙があふれてしまった。

コメットさん☆:(私はツヨシくんとネネちゃんを傷つけてしまったかもしれない。もうそんなことはしたくない。)

 沙也加ママさんは何も聞かずに言ってくれた。

沙也加ママさん:さあ、早くあがって。お部屋、そのままにしてあるわよ。…あら、お友だちもいっしょ?。

ミラ:こんばんは。前におじゃましたことがあります。ミラです。

沙也加ママさん:そうね。ミラさん、いらっしゃい。どうぞあがって。

ミラ:はい。ありがとうございます。

 それを見て、ようやくコメットさん☆は少しほほえんだ。

コメットさん☆:(星が導いてくれる…。この地球にいる限り、私はこの家の家族の一人なんだ。)

 その思いを胸に、しばらくぶりの藤吉家に上がった。景太朗パパさんも、そっと目を伏せたように見えた。

 一方メテオさんは…。

メテオさん:…久しぶりだわ。お父様もお母様も、覚えていてくれるかしら…。

ムーク:…また思い出してもらうしかありませんなー。

 メテオさんは、意を決して風岡家の門を開けて、中に入った。ところが、扉に触れようとすると、幸治郎さんと留子さんが、向こうから扉を開けてくれた。メテオさんは、びっくりした。

メテオさん:お父様、お母様…。

幸治郎さん:おお、メテオや、おかえり。そろそろ帰ってくるかもしれんと、思っておったよ。

メテオさん:…どうして、私が帰ってくると、思ったの…。

幸治郎さん:人はうまくいくときばかりじゃないならねぇ…。

留子さん:さあ、メテオちゃん、お風呂がわいていますよ。

メテオさん:……。

 幸治郎さんは、メテオさんが失恋して帰って来たと思ったらしいが、メテオさんは、そうやっていつでも自分を、受け入れてくれる「家族」が、こうして待っていてくれたことに、やはり涙を流してしまう。

メテオさん:…お父様、お母様…、ただ…い…ま…。

 

 二人の王女、コメットさん☆とメテオさんは、またこの街で、かがやき探しをはじめる…。それはいつ終わるか、終わらないのかわからない。けれど、「家族の絆」に守られながら、二人はゆっくりと成長するだろう…。

※この回では「ミルキーウェイ」を、挿入歌として初使用します。

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※コメットさん☆とメテオさんの、地球再来の時期は2002年2月末頃と、複数の証拠から考えられます。また一方、実放送の最終回(第43話)には多少の矛盾が含まれていると考えられます(詳しくは「星のトレインの謎とコメットさん☆はモナコに行ってない!!」を参照して下さい)ので、それらを訂補しつつ、ストーリー構成をいたしました。なお、このストーリーと次の第45話は、多少の時期的矛盾が残りますが、コメットさん☆とメテオさんの星国帰還〜地球再来の間の1ヶ月に渡るブランクを埋めるため、第43話付近のストーリーが、実放送とは異なって、時期的に少し早まったという想定のもとで、ストーリー構築をしています。


★第45話:キラキラバレンタイン−−(2002年2月17日放送)

 2月14日はバレンタインデー。関東にはこのところ雪は降らないので、雪合戦をしに、星のトンネルを通って、スピカさんのペンション近くに行ったコメットさん☆と、ツヨシくん、ネネちゃん。スノーブーツで3人とも大はしゃぎだ。ラバボーは、最初からもうラバピョンの小屋に一直線…。

コメットさん☆:そうだ。ラバピョンの小屋に行ってみない?。ラバボーもう行ってるけど。

ツヨシくん:いいけど、また遭難したくないよ。コメットさん☆。

コメットさん☆:だ、大丈夫だよ。星力ためてから来たもの。

ネネちゃん:行こう行こうー。

コメットさん☆:じゃ行ってみよっか。

 スノーブーツでまっさらな雪を踏みしめながら、三人は進む。道は既にコメットさん☆が覚えている。ほどなく、うっすらと煙突から湯気のあがるラバピョンの小屋が見えてきた。

ラバボー:ラバピョン〜、ボーは幸せだボー。

ラバピョン:もうわかったのピョン。さっきから何回言っているのピョン。姫さまについていなくていいのピョン?。またヒゲオヤジがお説教に来るかもしれないピョン。

ラバボー:うわわ、それは困るボ。ヒゲノシタのじいさん、すぐにボーたちを見つけるボ。

 それを小屋の外で聞いたコメットさん☆、ツヨシくんにヒソヒソとささやく。

ツヨシくん:こぉーーーりゃーーー、ラバボー、何をやっとるかぁーーー!。

ラバボー:うわーー。本当にじいさんが来たボ。ラバピョン逃げるボ!。

ラバピョン:全然今の違う声だピョン。いたずらするのはだれピョン?。

 ラバピョンは、小屋の扉を開けた。

コメットさん☆:あははは。ごめんねラバピョン。今のはツヨシくん。

ツヨシくん:こぉーーりゃーーー。ラバボーーーー。

ラバピョン:あははははは…。言い方だけは似ているのピョン。姫さまいらっしゃいなのピョン。ラバボー、そんなところに隠れてないで、出てくるのピョン。そんな簡単に星国から、やってくるわけないのピョン。

ラバボー:ううう…、ツヨシくん、ひどいボ…。

 テーブルの下に隠れていたラバボーが、そっと出てきた。ラバピョンは、手にボウルと泡たて器を持っている。

コメットさん☆:ラバピョン、何作っているの?。

ラバピョン:ラバボーといっしょにバレンタインのぷるぷるチョコだピョン。

コメットさん☆:そっか。ラバボー幸せものだね。

ラバボー:ああ、ボーは幸せだボー。

 それを聞いて、ちょっと心が重くなるコメットさん☆。

コメットさん☆:(帰ったら、私もチョコ作ろうかな…。でも誰にあげるんだろう…。ケースケは、オーストラリアのどこに住んでいるのかまでは、わからないし…。)

 

 帰ってみると、コメットさん☆にもいいニュースが待っていた。景太朗パパさんにケースケから、電子メールが届いたという。その内容は…。

ケースケのメール:師匠、お久しぶりです。連絡しないですみませんでした。今、オーストラリアの北部の町ケアンズにいます。この電子メールは、現地で出来たライフセーバー友だちのランドルのコンピュータから送っています。ちゃんと届いているかな。ランドルは日本語が少し出来ます。17歳の男です。今のオレの住所は……。

 コメットさん☆は、ツヨシくんとネネちゃん、それと景太朗パパさんに、チョコを作ってプレゼントする。でも、ケースケの分は…?。

景太朗パパさん:コメットさん☆、チョコレートありがとう。…せっかくだから、ケースケにも送ってやらないか?。もっともチョコレートのままだと、溶けちゃうから、なにか加工したお菓子にしなければだめだと思うけど。

コメットさん☆:え?、ケースケに送れるんですか?。

景太朗パパさん:住所はこのメールに書いてあるところに送ればいいよね。方法は「国際宅配便」で、お菓子が送れる会社があったはずだ。そこに頼めば、ちょっとバレンタインデーは過ぎちゃうけど、届くことは届くと思うよ。

コメットさん☆:チョコクッキーにしたらだめでしょうか…。

景太朗パパさん:たぶん大丈夫だと思う。一応調べてみるけどね。

沙也加ママさん:コメットさん☆、クッキーの焼き方知っている?。

コメットさん☆:えーと…。…こまかいところまでは…知らないです。

沙也加ママさん:ふふふ。じゃ教えてあげるわね。いっしょに作りましょ。

コメットさん☆:……ママさん、ありがとう…ございます…。

 そうして出来上がったコメットさん☆特製のチョコクッキー。国際宅配便会社の車が、引き取って持っていった。果たしてケースケに、コメットさん☆の想いとともに、それは届くのか…。

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★第48話:ホワイトデーのぬくもり−−(2002年3月中旬放送)

 街では、ホワイトデーの売り出しの真っ最中。2月に、オーストラリアにいるはずのケースケに送った、チョコクッキーは届いたのかどうか。コメットさん☆は気になる。ケースケからは、何の便りもない。着いたのかどうかさえ…。

 昼のテレビニュースでは、各地のホワイトデーの話題を放送していた。それを景太朗パパさん、沙也加ママさんといっしょに見ていたコメットさん☆は、ふいに席を立って行ってしまう。ちょっと落ち込み気味のコメットさん☆。景太朗パパさんは、そんなコメットさん☆を、ケースケの代わりに何かプレゼントして、なぐさめてやろうと思う。

 沙也加ママさんと相談した景太朗パパさん。沙也加ママさんは、センスのいいスプリングコートをコメットさん☆のために選んで買ってきた。

 ホワイトデーから遅れること2日。そのプレゼントを、二人がコメットさん☆に手渡そうとしていると、ちょうど郵便受けから取った郵便に、エアメールが一通混じっていた。宛名はコメットさん☆。差出人は…ケースケであった。

 エアメールを受け取ったコメットさん☆は、急いであけてみた。近況が荒削りな文章でつづられている。だが、その最後に「チョコクッキー、うまかった」と1行つづられていた。それを読んで、「やっぱり届いていたんだ」と、うれしくなるコメットさん☆。一人部屋の中で、小踊りしてしまうほどによろこぶ。その様子をドアの外からちらりと見ていた景太朗パパさんと、沙也加ママさん。苦笑いをしながら言った。

景太朗パパさん:空振りになっちゃったかな?。

沙也加ママさん:いいんじゃない?。コメットさん☆も、おしゃれしたい年頃のはずよ。

景太朗パパさん:そうだよね。じゃ予定通りで。

沙也加ママさん:ええ。

 

景太朗パパさん:コメットさん☆、ぼくからホワイトデーのしるし。

コメットさん☆:ええっ?。景太朗パパさん…。そんな…、ありがとうございます。何だろう、あけていいですか?。

景太朗パパさん:どうぞ。

 景太朗パパさんは、にっこりと笑った。コメットさん☆は、がさがさと包装紙をはがし、きちんと折り畳んでいく。そして…。

コメットさん☆:うわー、コートだ。私のために?。

景太朗パパさん:もちろん。

コメットさん☆:ありがとうございます。今着てみますね。

 コメットさん☆は、大喜びでベージュ色の、ちょっと大人っぽいコートに、袖を通してみた。景太朗パパさんと沙也加ママさんは、にっこり顔を見合わせた。

コメットさん☆:どうですか?。

 ちょっとはにかんで、言ってみるコメットさん☆…。

景太朗パパさん:実はママに選んでもらったんだけど、よく似合っていると思うよ。ねえママ。

沙也加ママさん:そうね。コメットさん☆はなんでもよく似合うわね。うらやましいくらい。

 悲しいとき、落ち込んだとき、寂しいときにも、そっと励ましてくれる。うれしいときには、いっしょに喜んでくれる。「家族のつながり」って、とても温かい…。そんな気持ちになるコメットさん☆だった。春になったばかりの風は、まだ肌寒いときもある。それを温かくしてくれるのは、コートと…そして…。

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★第51話:おゆうぎ発表会−−(2002年4月中旬放送)

 保育園で、新入園児歓迎劇の発表会が開かれることになった。ツヨシくんとネネちゃんも、今年度は年長さんだ。張り切って練習するツヨシくんとネネちゃん。ところがいよいよあと数日で発表会という日、ツヨシくんは家の前の道路を走っていて転倒、そのひょうしに側溝のふたの角に、右腕を打ち付けてしまう。

 その日は保育園のバスを、たまたま迎えに行かなかったコメットさん☆。沙也加ママさんに頼まれて、リビングの掃除をしていたからだ。大泣きで帰ってきたツヨシくんを見て、びっくりするコメットさん☆。

コメットさん☆:ツヨシくん、どうしたの。ケガしたの?。

景太朗パパさん:どうしたツヨシ。泣いてちゃわからないだろう。何があったんだ?。

 景太朗パパさんも、玄関での大声にびっくりして、仕事部屋から出てきた。

コメットさん☆:パパさん、ごめんなさい。私今掃除していて…。

景太朗パパさん:いいんだよ。たまたまだよ。それよりツヨシはどうしたんだろう。ネネ、どうしたんだ?。

ネネちゃん:ツヨシくんね、おゆうぎ発表会の踊りを、バスから降りてもやってたの。でもね、そこで転んで手をぶつけたの…。うえっ、うぇーーーん。

コメットさん☆:ネネちゃん泣かないで。ネネちゃんのせいじゃないよ。

景太朗パパさん:ツヨシ、腕を見せて見ろ。うーん、ちょっと腫れているな。それに擦り傷もある。これは外科に連れていかないといけない。コメットさん☆、ママに電話してくれるかい?。ツヨシはぼくが病院に連れていくから。それでネネといっしょにしばらく留守番を頼むよ。よしいいかツヨシ、心配するな。今病院に連れていくからな。

コメットさん☆:…はい。わかりました。

 コメットさん☆は沙也加ママさんに電話した。沙也加ママさんは、お店を閉めて帰ろうか?、と言ったが、パパさんが電話にかわって、外科に連れていって、それからもう一度連絡すると言ってから切った。そしてパパさんはタクシーで、ツヨシくんを外科病院に連れていった。

 家にはネネちゃんとコメットさん☆が残された。コメットさん☆は、とても心細い気がしたが、ネネちゃんのことを思うと、そうも言っていられない。だが、もし自分が迎えに出ていれば、もしかして…と思うと、心はふさぎがちだった。

ネネちゃん:ツヨシくん大丈夫かなぁ。ずいぶん練習していたんだよ。

コメットさん☆:きっと大丈夫だよ。ネネちゃん。

ラバボー:姫さま、夜になったら星力たくさんためておくボ。ツヨシくんのために使うことになるボ。

コメットさん☆:…そうだね。ラバボー。その時はお願い。

 そうしているうちに、景太朗パパさんがツヨシくんといっしょに帰ってきた。急いで玄関に出てみるコメットさん☆とネネちゃん。

コメットさん☆:どうでした…?。

景太朗パパさん:うーん。ちょっとあとで話すよ。骨にヒビが入っているって…。

コメットさん☆:えっ!?。そうですか…。

 コメットさん☆はネネちゃんと、顔を見合わせた。ネネちゃんはまた泣きそうな顔をしている。

 

 結局、ツヨシくんは骨にヒビが入っているので、腕を固定しなくてはならず、三角巾で腕を吊ることになってしまった。残念だが、発表会は欠席せざるを得ないことになってしまう。夜、景太朗パパさんと沙也加ママさんが、大泣きして抵抗するツヨシくんを説得するが、楽しみにしていただけに、コメットさん☆はそれを聞いているのがつらい。それでもコメットさん☆の「ケガを治して元気になるほうが先だよ」という説得には、ようやくうつむきながらもうなずくツヨシくんだった。

 それでもコメットさん☆は、夜になってからラバボーの言ったように星力をたくさん集め、ツヨシくんのケガを少しでも治そうとしてみる。もしかするとなんとかならないか…。ところが骨にヒビが入っているだけに、それをつないで、さらに打撲や擦り傷までは、きれいに治せない。バトンを降ろして、うなだれるコメットさん☆。

ツヨシくん:コメットさん☆、治せないの?。

コメットさん☆:ごめんね。どうしても発表会までには無理みたい…。

ツヨシくん:いいよ。秋にもあるもん…。でも…でも、うわーーーー。

ネネちゃん:うぇーーーーん。

 二人は、堰を切ったように大泣きをしてしまった。そんな二人をただ抱きしめるコメットさん☆。

 そこにケースケから、急に電子メールが入る。景太朗パパさんがコメットさん☆に教えにくるが…。

 なんとケースケも、左足にケガをして、数日間入院したという。現地の友人「ランドルが手伝ってくれるのでたいしたことはない、心配しないで下さい。面倒なので入院しただけです」ということだったが、コメットさん☆はやはり心配だ。

コメットさん☆:ケースケの足には、星力届かないよ…。

 大事な二人に、何もしてあげられないと、落ち込むコメットさん☆。ところが翌日、ツヨシくんはネネちゃんに言いながら裏口から出かけた。

ツヨシくん:パパやママ、コメットさん☆にはないしょだぞ。

ネネちゃん:どこいくの?。

ツヨシくん:コメットさん☆悲しそう。ケースケ兄ちゃんも入院したって。コメットさん☆かわいそう。だからツヨシくん、お花取ってくる。

ネネちゃん:ええー?。どうしてお花取ってくるの?。

 ツヨシくんは、それには答えず、使える左手で、裏山の野の花を摘んできた。雑草の花も混じっていたが…。

ツヨシくん:ツヨシくん、コメットさん☆にお花あげる。元気出して。ツヨシくん楽しそうなコメットさん☆好き。

コメットさん☆:…ツヨシくん。ありがとう。私落ち込んでた。ツヨシくんの気持ちとてもうれしいよ。コメットさん☆元気になる!。

 ツヨシくんはまだ保育園の園児。自分のケガが痛いのに、コメットさん☆の気持ちを、なんとかなぐさめようとしてくれた。今日ばかりは、コメットさん☆の王子さまは、ツヨシくん?…。いや、それはもしかして…。

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★第53話:桜を追いかけて−−(2002年4月下旬放送)

 去年の11月に、景太朗パパさんが予告していた通り、ケースケが一時帰国してくることになった。景太朗パパさんのところに、国際電話がかかってきたのだ。

景太朗パパさん:おおい、みんな、ケースケが帰って来るぞー。

沙也加ママさん:本当?。コメットさぁん☆〜!。

ツヨシくん:うわー、ケースケ兄ちゃん帰って来るんだ〜。

ネネちゃん:ケースケ兄ちゃん帰ってくるの?。いつー?。

景太朗パパさん:ああ、3日後だ。これは迎えに行ってやらないとなぁ。

 コメットさん☆は2階から急いで降りてきて聞いた。

コメットさん☆:ケースケが帰って来るんですか?。

沙也加ママさん:コメットさん☆。3日後にケースケ帰って来るって!。

コメットさん☆:わあ…。本当に帰って来るんだ…。ケースケ、大きくなっているかな…。

 約束通り、ケースケは3日後、帰ってきた。そして藤吉家にあいさつに来る。コメットさん☆は、どんな顔をしていいのか、ちょっとわからないで、とまどう。

景太朗パパさん:ケースケ、よく帰ってきたな。一時帰国だそうだけど、そこそこゆっくりできるんだろ?。

ケースケ:はい、師匠。3週間くらいは、いろいろ用足しもあるんで、こっちにいます。

景太朗パパさん:そうか…。それならちょっとみんないっしょにどこかへ出かけないか?。久しぶりの日本だ。なかなか行かれないところに行かないか?。

ケースケ:…は、はあ…。どこへ行くんですか?。

景太朗パパさん:そうだな、信州なんかいいかな。別に予定ないだろ?。いろいろ向こうの話も聞きたいし。な?。

ケースケ:そ、そうすね。どうやって行きますか?。

景太朗パパさん:まあ、まかせておけよ。

 ケースケには、景太朗パパさんが、どうして「みんなでいっしょにどこかに行こう」などと言い出すのか、わかりかねたが、特に時間がないということも無かったので、同行することにした。

 一方景太朗パパさんは、お花見を考えていた。沙也加ママさんは「なんで今頃?」と言うが、確かに市内の桜の時期は、とっくに過ぎている。それで信州に向かうことになる。そうすれば桜前線に追いつけるはずだ。みんなでお花見なんていうのは、ケースケも、またコメットさん☆もしたことがあまりないはずだ。景太朗パパさんには、少し二人の距離を縮めてやれないか…。そんな思いもあった。

 いつものビートルでは、6人乗って旅行はできないので、今回は電車で長野に向かう藤吉家の人々とケースケ。ツヨシくんとネネちゃんは、長野新幹線に大はしゃぎだ。横須賀線で鎌倉から東京、そして長野新幹線で軽井沢、しなの鉄道線で小諸に到着したみんな。今晩はここ、小諸に泊まる。

 関東南部ではもうとっくに終わった桜が、ここではちょうど満開に近い。桜前線は北へ行ってしまったかのようだが、西北にも向かうのだ。1ヶ月近く遅いお花見は、小諸駅前の「懐古園」でとなる。

 コメットさん☆は、ケースケといっしょに園内を歩く。何となく二人とも、気後れして言葉が出ない。ずっと押し黙ったままだ。それでも、意を決して、コメットさん☆は、ケースケに話しかけた。ちょうど園内から、遠く千曲川が見渡せる場所で…。

コメットさん☆:…あ、あの、ケースケ、オーストラリアって、暑いの?。

ケースケ:…ん、あ、ああ、暑かったり、寒かったり…。

コメットさん☆:今頃は?。

ケースケ:…今頃か。今頃はもうだいぶ秋になるな。オレの住んでいた港町は、まるっきり日本と季節が逆だった。

コメットさん☆:へえ…。そうなんだ。

ケースケ:バカ、知らないのか?。

コメットさん☆:あ、またバカって言う…。もう知らない。

ケースケ:…南半球は、北半球と季節がおおよそ逆なんだよ。

コメットさん☆:……。

 コメットさん☆は、遠くに光る千曲川を眺めながら、ちょっとムッとしていた。でもふと気になってふたたび口を開いた。

コメットさん☆:ケースケ、ライセンス試験…。

ケースケ:…ああ。しかたないさ。また挑戦する…。…って、お前に2月に聞かれた気がするんだよな…。…まさか、そんなわけないか…。

コメットさん☆:……それは…。

ケースケ:オレ、どうしても世界一のライフセーバーになりたいのは…。

コメットさん☆:…えっ?。ケースケ?。

ケースケ:オレが子どものころ、乗っていた船が遭難したことがあったんだ。…その時、おやじは死んじまった…。ちょうど、今日みたいな春先だった。水はまだ冷たくて、オレは…おやじを助けられなかった…。まわりの大人が止めたんだ…。オレは海に飛び込んででも助けようと思ったんだけど…。しょせん子どもの力じゃ、どうにもならない…。

コメットさん☆:……。

 コメットさん☆は、いつかメテオさんのお母さんである、カスタネット星国女王といっしょに見た、「ケースケの記憶」を思い出していた。

ケースケ:だから、オレはおふくろの反対を押し切って、ライフセーバーになることに決めた。…毎年、海の事故で死ぬ人がいるだろ?。オレはなんとかしてそれを無くしたかった。海で悲しい思いをするのは、オレまででいいって…。その時から、この道を行くしかないなって…。

 コメットさん☆は、黙ってケースケの語る話を聞いていた。が、ふいに涙が頬を伝って落ちた。それを見ていたケースケが、あわてて言った。

ケースケ:バ、バカ、泣くなよ…。お、お前が泣くことはないじゃないか。まるでオレが…。な、泣くなよ。

 コメットさん☆は、無言でケースケを涙目のまま見た。ケースケは、はっとしたような、困ったような顔をして、それからさっと視線をそらした。

ケースケ:…こんなこと、誰にも言えるわけじゃない…。

コメットさん☆:(…ケースケ……。)

 「誰にも言えないこと」を、コメットさん☆にはそっと語ったケースケ。その意味はいったい…。

小諸の桜の小さい画像です 長野県小諸市懐古園の桜(4月下旬)→画像と解説

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★第54話:そこにいた謎の少年−−(2002年5月中旬放送)

 一時帰国していたケースケの前に、ある日の夕方、謎の少年が現れた。歳はケースケより一つ上くらいか?。少年はケースケに言う。「オレはお前がうらやましい」と。路上で話し込む二人。少年はケースケとコメットさん☆の互いの感情を、なぜか知っていた…。

少年:お前が…三島佳祐だな。

ケースケ:なっ…、誰だお前は。何でオレの名前を知っているんだ。

少年:お前、どうしてあの子を大事に思ってやらないんだ?。

ケースケ:あ、あの子って…。オレの質問に答えろよ!。

少年:あの子が、お前に届かない想いを、心の底にそっとしまっていることに気付かないのか?。

ケースケ:…あの子って、コ、コメットのことか?。

少年:…そうだ。

ケースケ:どうしてお前はそんなことを知っているんだ!。お前、何者なんだ?。

少年:オレはコメット王女のことは、よく知っている。

ケースケ:なんだと!?。

 ケースケは、頭に血が上ったのか、つい少年の胸ぐらをつかんでしまった。

少年:殴るなら殴れ。それでカタがつくと思うならな…。心配するな。オレはあの子とつきあったわけじゃない。

ケースケ:…う、ぐっ…くそっ。

 ケースケは、動じない少年の態度を見て、つかんでいた胸ぐらを離した。少年は襟を正しながらなおも言った。

少年:オレはお前がうらやましかった。正直言ってな。オレにもお前のように、無条件で受け入れてくれるような、「友だち」がいればな…。そんな風に思ったさ。でも、お前はあの子の心を受け止めてやっていない。ただ泣かしているばかりじゃないか。そして今、オレの言葉に、一瞬あの子を疑ったな!。

ケースケ:そんな…。

少年:そんなことはないって言うのか?。じゃどうして、自分の夢も、自分の想いも、自分の考えも、自分の言葉で、あの子に語ってやらないんだ。オレは…、オレは……、そんなお前が腹立たしい…。

ケースケ:……語るって…。

少年:いいか、オレもついこの間までは、そういうことが得意じゃなかったさ。でもちゃんと言葉で伝えなければ、心も、想いも伝わらないんだ。それで失うものがどれほど大きかったか…。

ケースケ:お前が何を失ったか知らないが、お前本当に誰なんだ?。どうしてオレとコメットのことをそんなに知っているんだ。

少年:オレの正体が知りたいか?。…まあ、たぶんそのうちにわかるさ。

ケースケ:さっきお前は、「コメット王女」って言ったよな。王女ってどういう意味だ!?。少しはオレの質問に答えろよ。

少年:コメットは王女。王女は王女だ。お前が知っているコメットは、本当のコメットじゃないかもしれない…。

ケースケ:え…!?。どういうことなんだ。

少年:オレはコメット王女のことを知っている。だが、お前はコメット王女の想いを受け止めてやってない。自分の言葉で語ろうともしない。夢を追いかけるばかりで、それを陰で支えようとする子がいるかもしれないことすら、思ってもみない。そういうことが、いつかどんな結果を呼ぶか。少しは考えて見るんだな。

 少年はそう言うと、きびすを返した。

ケースケ:…ま、待てよ!。どうしてオレに、そんなことを言うんだ!?。

少年:…そんなことまで、オレに言わせるのか?。

 少年は、振り返りもせずに答えた。ケースケは、怒りと不安と疑問がないまぜになった、説明しがたい感情の中で、少年に名前を尋ねた。

ケースケ:…お前の名前は?。

少年:…オレか…。オレは…プラ…いや、そんなことどうでもいいじゃないか。…じゃあな。

ケースケ:お…お前!。勝手に好き勝手なこといいやがって…。…じゃあなって…。

 少年は名乗ろうとしたものの、急にやめると大股で立ち去ろうとした。ケースケは、それを一瞬追おうとしたが、目の前の曲がり角でやめた。少年の後ろ姿が、もう10メートルほど先に見えていたというのに。

 

ミラ:殿下、大丈夫でしたか?。

少年:ああ。言いたいことは言ってやったさ。

ミラ:…殿下…。

 少年は、夕日に照らされた遠くの海を見ながら答えた。

少年:この町はいいところだ。なんだか、ぬるま湯につかった時間が、ほうっておいてもどんどん流れていくような感じだ。あいつもオレも、それにはまってしまったのかもな…。

 少年は、ふと寂しそうな目になって、視線を落とした。ケースケにぶつけた感情は、自分の感情であるのかもしれなかった…。

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★第55話:ケースケの夢の種−−(2002年5月中旬放送)

 オーストラリアへ戻るために、準備にあわただしいケースケ。このところコメットさん☆は、あまりケースケと話もできない。また当分会えないケースケ…。そのことは心に刺さる。だが、そんな中ケースケが急速に「かがやき」を失っていった。それに気付くラバボーとコメットさん☆。

 実はケースケのお母さんが、体調を崩して入院していたのだ。それを無視してオーストラリアに向かおうとしていたケースケは、景太朗パパさんに叱られる。「家族を大事にしないで、どうして自分の夢を実現したと言えるのか?」と。ケースケは何ヶ月も帰っていない自宅に向かう。結局ケースケのお母さんは、大したことはなく、数日で退院し、みなほっとする。しかしケースケは、お母さんから、言いつけをされてしまう。「いつまでも夢を追うばかりじゃなくて、高校くらいは出て欲しい。大人になったらどうするつもりなのか。早く私を助けて欲しい」と。お母さんも、体調を崩したことで、弱気になっているのではないかと思えたが、数少ない身内だけに、その言葉は重かった。

 一方で「少年」に言われた、「夢を追いかけるばかりで、それを陰で支えようとする子がいるかもしれないことすら、思ってもみない」という言葉も、ケースケに重くのしかかる。それらについて、あらためて考えたケースケ。

 そして自問する。「オレは夢を追いかけてばかりだったのか?。親父が死んでから、海で人の命を救うつもりだった。実際何人も救った。でも、人の気持ちは…救えないオレになってしまったと言うのか…」と。

 景太朗パパさんは、そんなケースケを自宅に呼んだ。部屋にこもって話し込む二人。コメットさん☆も同席したいと思うが、なんとなくそれはできないで、自室で遠くに見える海を見つめる。

景太朗パパさん:お前がオーストラリアの大会に出て、その後もオーストラリアにとどまって、3年間修行をすると言ったとき、ぼくは夢に向かって進むことは大事なことだと思った。それでお前を応援するつもりだったが、条件が変わったら、時には遠回りが必要なこともある。いつまでもライフセーバーでいることはできないし。

ケースケ:師匠…。どうしてですか。

景太朗パパさん:今はいいとしても、将来歳をとったらどうするつもりだ。40歳のライフセーバーが、海辺にぞろぞろいるか?。

ケースケ:…そ、それは…。

景太朗パパさん:やがては新しい別な人生を歩かなければならないということさ。後進の指導にだってあたらなければならないかもしれないだろう。それは「新しい夢」に向かうことでもあるだろう。そうしたら、頭だって鍛えておかなければ、新人にバカにされるぞ。

ケースケ:……そうですね…。青木さんは今年26ですけど、いつも冗談めかして、「オレもそろそろ引退かもな」って言っていましたっけ。オレは冗談だと思ってたんですけど。

景太朗パパさん:あまり冗談とも言えないかもしれないな、それは。…それでお母さんは、具体的なことは言っていたのか?。

ケースケ:はい…。高校くらいは出ろと。

景太朗パパさん:お前は中学出てすぐセーバーになってしまったからなぁ。…でも結構高校生活って面白いぞ。ぼくも未だに高校や大学の友だちとは、いろんな交流があるよ。でもお母さんがそういう気持ちも、よくわかるなぁ。それってお前のことを、本当に心配しているんだよ。いや、お母さんだけじゃないぞ、心の底から心配しているのは…。

ケースケ:…それって、コメット…さん☆のことですか、師匠。

景太朗パパさん:…さあ、どうだろうな…。ところで、高校のことなら、夜間高校に入って、昼間働きながら夜勉強に通うことだってできるぞ。オーストラリアで修行をするのも、外の空気を吸ってくるということでは、いいことだと思うけど、その修行が今の段階で、国内で出来ないわけじゃない。とすれば、夜間高校に通いながら、トレーニングも、昼間監視員のバイトだってできるじゃないか。

ケースケ:夜間高校ですか…。オレ、勉強苦手なんですけど…。

景太朗パパさん:そうやって逃げようとするお前は、らしくないぞ。勉強が得意なんて人は、一握りしかいないさ。…実はここに資料が取り寄せてある。これに目を通しておけ。これは師匠としてのぼくの指示だ。

 景太朗パパさんは、ケースケに夜間高校の入学案内書を手渡した。

ケースケ:…はぁ…。もう逃げられないんすね。…見てみます。

景太朗パパさん:ぼくはケースケが、このくらいのことでうじうじ考えるヤツじゃないと信じている。というか、今までやってきたことに比べれば、大したことじゃない。夜間高校は卒業に4年かかるけど、今のケースケの年齢だったら、どうでもないはずだ。みんなケースケのことを大事に思っているから、いろいろ言うんだよ。学資のことは心配しなくてもいい。だが、決めるのはケースケ、お前自身だ。

 ケースケは、書類を手に帰っていった。逡巡するケースケ。心は乱れるが…。

 数日後、ケースケは、成田空港にいた。オーストラリアに戻るためだ。しかし、彼の手荷物には、中学時代の教科書が、何冊か含まれていた。景太朗パパさんが、手配してくれた航空券を手に、飛行機に乗り込むケースケ。見送るコメットさん☆に、ケースケはふいに笑顔を向けた。またしばらくの別れに、心がふさいでいたコメットさん☆は、彼の笑顔の意味が分からない…が、彼には「かがやき」が戻っていた。ケースケの笑顔はいったい…?。

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★第56話:泳げるようになりたい!−−(2002年5月下旬放送)

 ある5月も終わりかける暑いような日、メテオさんが本を読んでいると、幸治郎さんがたずねた。

幸治郎さん:そろそろ海の季節も近いねぇ。メテオちゃんは、今年も海に泳ぎにいかないのかい?

メテオさん:だって泳げないんだもの…。

 メテオさんは、本から視線を上げずに答えた。

幸治郎さん:おや、そうだったかい。…美沙子は泳ぎの得意な子じゃった。ああ、ごめんよ。つい昔話しちゃったね。

メテオさん:……。

 メテオさんは、美沙子さんと比べられた気がして、ちょっとムッとしたが、幸治郎さんと留子さんが、美沙子さんのことを言うのは、仕方がないと思っている。でも、本から目を上げてメテオさんは、思った。

メテオさん:(そういえばコメットったら泳げるんだわ!。この私が泳げないっていうのに。くやしいったら、くやしいじゃないの。…でも、私も泳げるようになりたい…。そうしたら、あこがれの瞬さまと、ホテルのプールだって、海だって行けるのに…)

 いつも星力でなんとかしてきたから、いままで困ることはなかったし、溺れかけたときだって、ケースケが助けてくれた。そう思うメテオさんだが、イマシュンとデートするとしたら、かっこよく泳ぎたい。星力を使ってもいいけれど、途中で切れたらみっともない。

 そこまで考えたメテオさん。ふと思いつく。

メテオさん:そうだわ!。泳げるようになればいいんじゃないの!。お父様ぁ!。

ムーク:はぁ?。姫様何を今さら…。

 ムークを無言で放り投げたメテオさんは、幸治郎さんに相談しに行った。

 メテオさんは、その週から、近くのスイミングスクールに通うことになった。幸治郎さんは、亡くなった娘美沙子さんの面影を見るのか、必ずちゃんと車で送り迎えしてくれる。留子さんは、メテオさんのために、練習用とビーチ用の、きれいな水着をいくつか買ってくれた。

 しかし「ジュニアクラス」に入ったメテオさん。回りは小さい子どもだらけ。屈辱的な気分になる。

メテオさん:(きぃーっ、何でおこちゃまばかりなのよ!。かっこいいインストラクターもいないじゃない!。…今に見てらっしゃい。コメットなんて見返してやるんだから!)

 なんとか、イマシュンとのデートを夢見て、がまんして毎週がんばるメテオさんであった…。

プールで毎週練習するメテオさん プールで練習するメテオさんの画像

大きい画像(縦768ピクセル)はこちら(146KB)

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★第59話:スピカ命のかがやき−−(2002年6月中旬放送)

 臨月になったスピカさんは、いよいよ出産のため八ヶ岳病院に入る。胎動を聞いていたコメットさん☆は、そんな叔母さんが心配でならない。祈るような気持ちだが、無事女の子が産まれる。その産声を聞いて、思わず涙を流すコメットさん☆。

 名前は「柊みどり」と命名された。「みどり」は「碧」の字義、「青く美しい石」から、字の意味だけを取って、ひらがなにしたもので、八ヶ岳の美しい緑にも通じるものだと、コメットさん☆は聞かされる。また「柊」(ひいらぎ)は常緑樹。だから緑がずっと絶えないことも、名前を考える上での参考になったとも。新生児室のガラスの外から、何度も名前を呼んでみるコメットさん☆。早く抱いてみたくてしょうがないのだが、もう少しの辛抱だ。スピカさんは「みどり」ちゃんに、ちゃんと星国名も用意していてくれた。その名は「キララ」であるという…。

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※実際のみどりちゃんの誕生日は、5月5日頃です。

★第62話:みどりかがやきのはじまり−−(2002年7月上旬放送)

 5月に生まれたスピカさんの娘「みどりちゃん」。首がすわってきたので、いよいよコメットさん☆も、抱かせてもらえることになる。コメットさん☆は大喜び。

 スピカさんから手わたされたみどりちゃん。コメットさん☆は、そうっと両手で大事にかかえる。スピカさんに「あなたもずっと前は、そんな小さかったのよ」と言われ、気恥ずかしいコメットさん☆。

 でもコメットさん☆は、小さな赤ちゃんのみどりちゃんが、かわいくてしょうがない。いすに腰掛けてから、そっとみどりちゃんの小さな手をにぎったり、キスしてみたり、ついには頬ずりしたりしてしまう。ケラケラと笑っているみどりちゃんだが、急にご機嫌が悪くなり、泣き出す。びっくりして、何かいけないことをしたのかと心配になるコメットさん☆だが…、しっかり左手と、キュロットスカートを濡らされてしまっていた…。

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★第64話:もうひとりのラバピョンとラバボー−−(2002年7月下旬放送) 部分改訂

 ある梅雨の晴れ間、ラバピョンとラバボーが、二人で相談したのか、「人間になっていっしょにどこかに行ってみたい。妖精の姿じゃ、二人きりで人間の世界は見られないから、人間の姿で見てみたい」と、コメットさん☆に言う。コメットさん☆は、スピカさんに相談してから、二人を星力で人間の姿にする。星国では、何度も人間の姿になったことがあるともいう。

 コメットさん☆は人間になった二人を見て、美少女・美少年なのに驚くとともに、ちょっとラバボーのかっこよさに、ドキッとしてしまう。

 二人は連れだって、江ノ電に乗り、江ノ島水族館に出かけていった。結局デートなのだ。コメットさん☆は二人に、電車の乗り方もちゃんと教えたし、なにか困ったら電話をかけられるように、ティンクルホンを新たに作って、ラバピョンに持たせたし、スピカさんがくれたお金も持たせた。それでも二人が出かけてしまうと、コメットさん☆の心は、心配な気持ちでいっぱいである。それと、心配なだけじゃなく、ちょっと寂しい。

 そんな心配をよそに、二人は楽しく遊ぶ。水族館だけでは飽きたらず、江ノ島に渡って、いろいろなところをのぞいて回る。はた目には、小学校高学年くらいの男の子と女の子が、なかよく遊んでいるようにしか見えない。食事もしたし、甘いものが好きなラバピョンは、パフェを食べたりする。

 展望台に登って、海を眺めているうちに、ラバピョンが、ラバボーに言い出した。

ラバピョン:ラバボーは、姫さまの未来のこと、どう思っているのピョン?。

ラバボー:…どうって、王子さまを見つけて、星国に帰るんじゃないのかボ?。

ラバピョン:まだそんなこと言っているのピョン!?。ラバボー、デリカシーないのピョン!。

ラバボー:…そんなぁ…。

ラバピョン:姫さまは、地球人の好きな人がいるのピョ?。それならスピカさまのように、その人か、また違う人と結婚するかもしれないピョン。なんでタンバリン星国の王子さまにこだわるのピョン!?。

ラバボー:そ、それはだボ…、姫さまが帰らないと、ハモニカ星国は困るボ。だから…。

ラバピョン:そんなの姫さまの気持ちを、何も考えてないじゃないのピョン!。それに別に王子さまでなくても、いいじゃないのピョン。

ラバボー:…それは、ボーだって、本当は姫さまの気持ちが一番だと思うボ。だけどボーの立場では、そこまで口出しできないボ…。

ラバピョン:…そうだったピョン。ラバボーも、板挟みになっているピョン。ごめんねピョン…。

ラバボー:ラバピョンがあやまることないボ。ボーがよく考えてないからだボ。

ラバピョン:姫さまの気持ちをわかってあげられるのは、ラバボー、あなただと思うピョン。今の姫さまの様子だと、姫さまひとりぼっちで、かわいそうピョン。

ラバボー:…ラバピョンはやさしいボ…。

ラバピョン:…そ、そんなこと、…ないピョン。…でも、いつもラバボーは、姫さまの味方になっていて欲しいピョン。星国や星の子も大事だけど、姫さまの気持ちのほうが、もっと大事だと思うピョン。

ラバボー:わかったボ。もう王子さまにこだわったりしないボ。ボーは、何のために今姫さまといっしょにいるのか、ちゃんと考えるべきだったボ。

ラバピョン:でも、こうやって無理を聞いてくれた姫さまは、本当にやさしい人だピョン。…とても今日は楽しかったピョン。

ラバボー:ボーもだボー。

ラバピョン:またいっしょにどこか行きたいピョン。

ラバボー:ボーも、ラバピョンといっしょなら、世界の果てまでも…。

ラバピョン:…ちょっとサムイのピョン。アハハハハハハ…。

ラバボー:…そ、そうかボ?。

 日の傾いた稲村ヶ崎駅に、戻ってきた二人。コメットさん☆は迎えに来てくれていた。ラバボーは、そのコメットさん☆をじっと見た。

コメットさん☆:…な、なあに?ラバボー。そのかっこうで見つめられると、なんだか恥ずかしいよ…。

ラバボー:姫さま、ボーはいつまでもずっと、姫さまの味方だボ。

コメットさん☆:うん、そうだね。ありがとう。…でも、なあにそれ?。ラバボー。急にどうしちゃったの?。ラバピョン、何かあったの?。

ラバピョン:べ…別に何もないのピョン。

コメットさん☆:変なの…。じゃあ、みんなで帰ろ。ラバピョンも、スピカおばさまがきっと心配しているよ。

ラバピョン:姫さま、今日はありがとうなのピョン。とても楽しかったピョン。…あの…、またラバボーと二人で、どこかへ行ってもいいピョン?。

コメットさん☆:うん。いつでもいいよ。ラバピョンとラバボーが楽しいなら、私もうれしい。

ラバボー:(姫さまはひとりぼっちなのに、ボーたちのことをいつも思ってくれるボ…)姫さまぁ…。

 ラバボーは、思わずコメットさん☆に抱きつこうとした。

コメットさん☆:ちょ、ちょっと今そのかっこうではかんべんしてラバボー。

 コメットさん☆は、あわてて後ずさりしながら言う。真っ赤になりながら…。

ラバボー:あ、そうだったボ…。

 稲村ヶ崎駅から、坂道を上る三人。その背中を、夕日が赤く染め上げていた…。

 人間の姿になったラバピョン 人間になったときのラバピョン画像  人間の姿になったラバボー 人間になったときのラバボー画像

人間の姿になったときのラバピョンについてはこちら(大きめの画像あり41KB)。

人間の姿になったときのラバボーについてはこちら(大きめの画像あり38KB)。

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★第66話:盆踊りの涙−−(2002年8月上旬放送)

 稲村ヶ崎商店街はずれにある駐車場で、盆踊り大会が開かれることになった。毎年恒例なのだが、コメットさん☆は、去年の夏には気付かなかった。今年は沙也加ママさんが、浴衣で踊ってみない?と、教えてくれたのだ。

沙也加ママさん:ほら、これが浴衣よ。

コメットさん☆:うわぁ、花の柄ですね。何の花ですか?。

沙也加ママさん:アサガオっていうのよ。初夏の頃から咲いて、朝だけ咲いて、もうお昼にはしぼんでしまう花よ。もっとも、曇っている日は、お昼過ぎまで咲いていることもあるけどね。

コメットさん☆:あさがお…。いろいろな色があるんですね。

沙也加ママさん:そうね。かば色なんて、薄い茶色のようなピンクの濃いような色もあるのよ。

コメットさん☆:なんだか楽しそう。

沙也加ママさん:花の色が?、盆踊りが?。

コメットさん☆:両方です。えへっ。

 沙也加ママさんは、コメットさん☆に自分の少女時代に着ていた浴衣を見せてくれた。真っ白に色とりどりのアサガオ柄。長い間着なかったので、少し染みや色の変わっているところもなくはないが、まだまだ十分に着られる。沙也加ママさんは、ふと不思議な思いにかられた。「捨てないで取っておくと、不思議と着る人があらわれるものね」と。

 コメットさん☆は、踊りの練習を始めることにした。沙也加ママさんや、景太朗パパさんは、「そんなの回りの人に合わせていればいいのに」と、言ってくれたが、基本的な動作くらいは覚えたい。そこでメテオさんがお世話になっている風岡家の、留子さんなら、踊り方を知っているのではないかと思って、さっそくコメットさん☆は出かけていった。

コメットさん☆:こんにちは。メテオさん。

メテオさん:あーら、なあに?。コメット。何か用?。

コメットさん☆:メテオさんのお母様って、盆踊りの踊り方知らないかな?。

メテオさん:ぼんおどりぃー?。何それ?。

コメットさん☆:今頃の季節になると、広場に集まって、輪になって踊るんだって。浴衣っていうのを着て。

メテオさん:はぁ?。そんな話知らないわったら、知らないわ。

留子さん:あら、メテオちゃんお友だち?。

コメットさん☆:こんにちは。あの、盆踊りの踊り方、知っていたら教えていただけませんか?。

 留子さんは、こころよく引き受けてくれた。そしてメテオさんが、「コメットが出るなら、私も出るわ」と言い出すと、メテオさんにも、亡くなった娘、美沙子さんの浴衣を出してきた。メテオさんの着せてもらうことになる浴衣は、紺色に花火の柄。

留子さん:メテオちゃん、これを着せてあげるわ。それとも、新しいのがいい?。

メテオさん:……。いいわ。この柄きれいだもの…。

 メテオさんは小さい声で答えた。

留子さん:美沙子は一度だけこの浴衣で、盆踊り大会に出たのよ。ちょうど花火の時期だったし…。でもその夏だけだったわ。この浴衣を着られたのは…。もっと着せてあげたかった…。

コメットさん☆:…亡くなった…んですよね…。美沙子さんは…。

留子さん:…そう。最初で最後の盆踊りになってしまったの。…「お盆」ってね、亡くなった人のたましいが、その時期だけ生きている人のところに帰ってくると言われているのよ。盆踊りは、本当はそのたましいを迎えるための踊りなの。だからメテオちゃん、あなたがこの浴衣を着て、盆踊りで踊ってくれれば、美沙子もひととき、それを見に戻ってくるかもしれないわ。

 留子さんが語る、娘美沙子さんに対する想いを聞いているうちに、いつしかコメットさん☆もメテオさんも、涙ぐんでいた。

留子さん:…あら!、ごめんなさいね。つまらない話をしちゃったわね。どうか、二人とも泣かないでちょうだい。本当にごめんなさいね。

メテオさん:……。

コメットさん☆:……かわいそうです。美沙子さん…。

 「盆の意味」を聞かされた二人は、星力ではどうしようもないことを感じていた。

 

 そして当日、美沙子さんのたましいが、つかの間帰ってくるように祈り、大会では二人とも一生懸命踊った…。

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★第67話:好きとキライの間−−(2002年8月中旬放送)

 「好きってなんだろう?」。コメットさん☆は、ふと去年、羽仁伸也くんに言われた「好き」という言葉を思い出していた。「好き」なんて言葉は、いつも普通に使っている。当たり前の言葉だと思っていたが、ふと、その意味はどういうことだろうと思うと、よくわからない。辞書を引いてみたりもしたけれど、なんだか自分の気持ちにしっくりしない。

コメットさん☆:好きって、なんだろう?。キライの反対…。それはそうだけど…。

ラバボー:姫さま、また乙女チックモードだボ?。

コメットさん☆:…う、うん…。だって…。

ラバボー:好きはキライの反対だボ。ボーとラバピョンのようなものだボ。

コメットさん☆:うーん、それはそうだけど、ピーマンがキライとか、スイカが好きというのと、どうちがうの?。

ラバボー:…う、そ、それはだボ…。いっしょにいると幸せな気持ちになるとか…。そういうのは好きだボ。

コメットさん☆:好きって、女の子と男の子の間だけじゃないし…。確かに好きはキライの反対だけど、その間がないわけじゃないじゃない?。

ラバボー:…姫さま、急にどうしたんだボ?。

コメットさん☆:…べ、別に…。ちょっとパニッくんのお兄さんから、「好き」って言われたのを、思い出しちゃって…。

ラバボー:まーた姫さま、ケースケのことでも、思い出したんだボ?。

コメットさん☆:…そ、そんなんじゃないよ…。

 コメットさん☆は、ラバボーといっしょに、みどりちゃんに会いがてら、スピカさんのところに出かけた。ラバボーは、ラバピョンに会えるとあって大喜びだが、コメットさん☆は、心の奥に、何か引っかかったような気持ちのままだった。

コメットさん☆:おばさま…。

スピカさん:コメットのその顔は、何かケースケくんのことかな?。

コメットさん☆:えっ!?。そ…そんな…。おばさま…。ケースケがっていうんじゃなくて、「好き」って何かなぁって。

スピカさん:「好き」って何か…かぁ。いきなり難しいこと言うのね…ふふふっ。

コメットさん☆:去年、メテオさんのお友だちの男の子に、「好き」って言われて、それから引っかかっていたんです。でも、スイカが好きっていうのとは、違うんじゃないかなって。

スピカさん:ああ、つまりコメットが聞きたいのは、男の子と女の子の間の「好き」って何かってことね。…そうねぇ、コメットは、スイカ好き?。メロンは?。

コメットさん☆:…えっ、おばさま…。スイカは好きだけど、メロンも好き…。

スピカさん:どっちが好き?。

コメットさん☆:スイカかな…?。メロンも好きだけど、スイカのほうがよく食べるし…。サクッとしたところが好き…。

スピカさん:つまりコメットは、メロンも好きだけど、スイカのほうがメロンより好き、そういうことかな?。

コメットさん☆:…は、はい…。でも、何で?…おばさま。

 コメットさん☆は、スピカさんの意外な言葉に、疑問を持った。「男の子とスイカじゃ違うと思うのに、おばさまは、何でわざわざスイカの話をしているのだろう?」と思いつつ。

スピカさん:嫌いな果物は?。ある?。

コメットさん☆:…はい。ミカンは好きだけど…、オレンジはあまり好きじゃない…かも…。

スピカさん:ということは、オレンジは嫌い、スイカはいちばん好き、メロンはその次くらい…ということね。好きとかキライとかには、ある程度の段階があるということじゃないかな?。

コメットさん☆:はあ…。

スピカさん:男の子と女の子だって、同じようなもの…。そのメテオさんのお友だちの男の子と、ケースケくんとの間には、「好き」の程度には違いがあるでしょ?。

コメットさん☆:…う、うん…。それは…、ケースケのほうが好き…。

スピカさん:「好き」って、その相手のことをしばしば思ったり、心地よかったり、大事に思ったり、夢中になれたり、となりにいて欲しかったり、かけがえのないものだったり、特別な気持ちを持てるものとか人…。違うかなぁ?。

コメットさん☆:…そっか…そういうものなら…。あ、でも…、それならケースケもそうだし、イマシュンだって…そうじゃないとは言えないし…。

スピカさん:うふふふ…。同じ「好き」でも、ケースケくんとイマシュンじゃ、コメットはどっちが好きなのかな?。

コメットさん☆:…うーん。どっちって、はっきりわからない…。けど…、今はケースケかも…。

スピカさん:…無限の段階があるわね、好きとキライの間なんて…。そのランクだって、時に変わるときがあるかもしれない…。人は、そうやって揺れ動くもの…。今好きだって思っている人だって、いつかはキライって思っちゃうことも、あるかもしれない…。思春期なんてそんなもの…。…それにしてもコメットは、思春期まっただ中ねぇ…。私にもあったなぁ…そんな時期。うふふふふ…。

 スピカさんは、少し寂しそうにも見える表情を浮かべ、コメットさん☆をまぶしそうに見た。

 

 スピカさんに会って帰ってきたコメットさん☆は、また自分の部屋で考えていた。

コメットさん☆:ししゅんき?。それって…何だろう?。

 コメットさん☆の、次々とわくいろいろな疑問は、当分尽きそうにないのかもしれない…。

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★第68話:海のかがやき−−(2002年8月下旬放送・夏休みスペシャル)

 夏休み、藤吉家のみんなで、西伊豆に行くことになった。オーストラリアは冬なので、帰国していたケースケも同行できるという。喜ぶコメットさん☆。水のきれいな西伊豆・松崎の海で遊ぶ、コメットさん☆たち。

 松崎の海岸のはじにある、弁天島遊歩道を登るコメットさん☆とケースケ。ここは遊歩道から海を一望できる。遠く御前崎を望む海を、しばし眺める二人。ケースケは、胸に決めていることがあった。しかし、それを言い出すことがなかなかできない。いつもと違うケースケの様子に、疑問を感じはするものの、それがどうしてだかわからないコメットさん☆。

伊豆松崎弁天島の画像です 伊豆松崎弁天島→大きい画像と解説はこちら

 やがて楽しい旅行も終わりかけ、明日は帰る日の夕方、松崎からそばの大田子(おおたご)の夕日を、みんなで見に行く。ここの夕日の美しさは、有名なのだ。その夕日を、ケースケと二人眺めるコメットさん☆。ケースケは、その夕日を見ているうちに、自分の気持ちに素直になれた…。

大田子の夕日の画像です 大田子の夕日→大きい画像と解説はこちら

ケースケ:なあ…。

コメットさん☆:…なに?。

ケースケ:いままで、バカって言ってごめん。

コメットさん☆:いいよ。気にしてない。

ケースケ:…もう、言わないから。

コメットさん☆:…ありがとう。

…(長い沈黙)

ケースケ:オオオ…オレ、お、おまえ…いや、き、君のことが、気になってて…。

コメットさん☆:(ケースケ…)

ケースケ:…君のことが、…好きなんだ。…ちゃんと、いつかは言わなきゃって思って…。

コメットさん☆:…(じわっと涙が)…ありがとう。うれしいよ。…わかってる。わたしも…同じだよ。

ツヨシ・ネネ:ケースケにいちゃーん、花火やろうよ〜。

ケースケ:…ん、ああ、今行くーー!。

(コメットさん☆涙をそっとふいて)

コメットさん☆:また来たいね!。

ケースケ:…ああ、またきっと。…そうだ、オレ、近々鎌倉に帰ってくるよ。もう少し勉強と、トレーニングをしないとな。

コメットさん☆:えっ?、ほんと!?。やったー。

 いずれともなく差し出された手を、自然につないで、ツヨシとネネのところに戻る二人…。コメットさん☆の今年の夏は終わった…。

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※コメットさん☆・藤吉家・ケースケが、全員で泊まったリゾートホテルは、「松崎プリンスホテル」です。残念ながら現在は廃業・売却されています。


★第69話:メテオさんはじめての海−−(2002年9月上旬放送)

 夏も終わりかけのある日、メテオさんは、コメットさん☆のもとに突如やってきた。そして、コメットさん☆に合うなり言い放った。

メテオさん:コメット!、これから水着に着替えなさいったら、着替えなさい。それで私といっしょに海に行くのよ!。

コメットさん☆:ええ!?。別にいいけど…。何で?。何かあるの?。夏、終わっちゃったよ?。

ラバボー:まーたメテオさまは、唐突な人だボ。

 リビングにいたコメットさん☆は、メテオさんに迫られ、びっくりして聞き返した。しかし、「海に行く」などというのを、ツヨシくんとネネちゃんが、聞き逃すはずもない。

ツヨシくん:ツヨシくんも行く!

ネネちゃん:ネネちゃんも海に水遊び行く!。

 そこへ、沙也加ママさんが、廊下を通ってやって来た。

沙也加ママさん:あらメテオさん、いらっしゃい。コメットさん☆と海に行くの?。ツヨシとネネがついていくようだけど、もうクラゲがたくさんいるはずだから、気を付けてやってね。

コメットさん☆:クラゲ…ですか?。

メテオさん:ク…、クラゲ?。

沙也加ママさん:そう。刺されると痛いわよ。念のため薬もって行きなさい。

 普段コメットさん☆とツヨシくん、ネネちゃんが水遊びする海岸線には、更衣室はないし、海の家も、もうシーズンが終わったので、ない。そのため、家で水着に着替えた3人とメテオさんは、藤吉家を出て、山を下り、まず海沿いの国道へ向かった。そして国道に出ると、それに沿ってしばらく歩き、比較的波の静かな岬のたもとについた。

メテオさん:ここがいいわ…。

 メテオさんは、突如足を止めた。

コメットさん☆:ここで何をするの?。

メテオさん:コメット!、私と勝負しなさい!。

コメットさん☆:え?なんで?。何を勝負するの?。

メテオさん:泳ぎでよ。決まっているじゃない。

コメットさん☆:しょ…、勝負って…。私そんなに泳ぎ得意なわけでもないし…。…でも、メテオさん、泳げないんじゃ…。

 それを聞いたメテオさんは、不敵な笑いを浮かべて、コメットさん☆に言い放った。

メテオさん:泳げないなんて、そんな私はとっくに終わったわ!オホホホホ。

ラバボー:はあ、メテオさま、いつものように自分の世界へ突入だボ。

 ぼやくラバボーに対して、コメットさん☆は、一瞬びっくりしたあと、明るい表情で返事をした。

コメットさん☆:もしかしてメテオさん、泳げるようになったの?。うわー、おめでとう!。

 コメットさん☆の意外な反応に、メテオさんは、不意を突かれた。

メテオさん:あ…、あなたに「おめでとう」なんて…。

 そう言うと、メテオさんは顔を赤らめた。そして照れ隠しのように、着ていたTシャツを、思い切り脱ぎ捨て、髪をまとめると、手足の屈伸を黙ってはじめた。

ツヨシくん:わあっ、メテオさんなんかかっこいい!。

ネネちゃん:早く泳いで見せてー。メテオさんの水着かわいいー。

 ツヨシくんとネネちゃんの応援が、またしても予想外ではあったが、メテオさんとしては、まんざらでもない気分だった。実のところ、波のある海で、本当にすいすいと泳げるのか、少しばかり不安だったが、寄せてくる波に逆らいながら、膝くらいの深さまでざぶざぶと海に入り、そのままえいっとばかりに泳ぎだした。すると、メテオさんの体はちゃんと水に浮いて、3ヶ月の特訓の成果は、きちんと現れた。浜と平行に、優雅なフォームの平泳ぎで泳ぐメテオさん。

コメットさん☆:わあすごい!。メテオさん、本当に泳げるようになったんだね。よかったね。おめでとう!。

ツヨシくん:メテオさん、かっこいい!。

ネネちゃん:メテオさんいいなー。ネネちゃんにも泳ぐの教えて!。

 メテオさんは、いつのまにかコメットさん☆との「勝負」を忘れ、ただ自分の泳ぎを披露することになってしまった。それには、途中で気付いたのだが、みんなの祝福が、ついうれしくなってしまった。そして、素直な気持ちになれた。

メテオさん:…ありがとう。まだ25メートル位なんだけど…。

 メテオさんは、ふいに恥ずかしそうな表情をして、「ありがとう」と言っていた。

コメットさん☆:すぐにもっと泳げるようになるよ。さあ、いっしょに泳ご。

 コメットさん☆のその言葉に、ぎこちなくうなずくと、ツヨシくんとネネちゃんに言った。

メテオさん:さあ、お子ちゃまたち、浮き輪したわね?。私のところまでいらっしゃいったら、いらっしゃい!。

 

 水をかけあったり、泳いだり、星力を使って、海の底を泳ぐ魚を見たりして、4人は夕方まで遊んだ。メテオさんは思った。

メテオさん:(こんなに楽しく笑ったの、久しぶりね…。もっと早くに、泳げるようになっていれば…、瞬さまを誘えたかしら…。)

 そうして家に帰ったメテオさんに、幸治郎さんは尋ねた。

幸治郎さん:おや、メテオちゃん。少し日に焼けたね。海に行ったのかい?。

メテオさん:え…、ええ…。そうよ。面白かったわったら、面白かった…。

幸治郎さん:そうかい。それはよかった。まだまだ暑い日が続くからね。いつでもお友だちと行って来るといい。波とクラゲには気を付けるんだよ。…ずいぶん我慢して、一人でよく練習したね。

 幸治郎さんは、そう言って目を細めた。

 メテオさんは、そう言われてはっと気付いた。幸治郎さんも留子さんも、毎週必死に練習した自分を、美沙子さんの代わりではなく、もう一人の娘「メテオ」として、ずっと見守っていてくれたのだということに。メテオさんは、黙って視線を落とすと、今までどこか緊張していた気持ちが切れ、ふいに涙が出そうになった。

メテオさん:(こんなんじゃ、泣いちゃうじゃないったら、泣いちゃうじゃない…。)

 自分が見返してやろうと思ったコメットさん☆でさえ、「おめでとう」と言ってくれた。回りの人々の気持ちが、本当は自分の努力を支え、認めてくれたのだと気付いたメテオさんは、やっぱり胸がじんじんとして、黙って下を見るしかなかった。そして、ゆっくりと幸治郎さんに答えた。

メテオさん:…ええ。幸治郎お父様、ありが…とう…。

 幸治郎さんは、黙ってにこやかに笑った。

 しかし、水着やタオルを洗濯しようと、洗濯室に持っていったら、今日一日着ていた、お気に入りのビーチ用水着のすそに、砂がたまっているのを見て、メテオさんは、しかめっ面になった。

メテオさん:あとが砂だらけになるのは、あんまりうれしくなくってよ。もう!。

 …ちゃんと、いつものメテオさんに戻ることも、忘れないのであった…。

※メテオさんとツヨシくんの水着姿画像は→こちら
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★第70話:メテオさんの悩み−−(2002年9月上旬放送)

 メテオさんは、初秋の昼下がり、自室の外のテラスで、よくそうするように、飲み物を飲みながら、いすにぼうっと座っていた。

メテオさん:あー、なんだかむしゃくしゃするったら、むしゃくしゃするー!。コ…、コメットたちに、「ありがとう」なんて言っちゃったわったら、言っちゃったわったら、言っちゃったわ!。

ムーク:はあ?、はあ…。…あれは、本心ではなかったので?。

メテオさん:ほ…、本心じゃないって、それじゃあわたくしは、まるでいじわるな、ありがちキャラじゃないのー!。

ムーク:え?、姫さまはいつも…ムグ…。

 メテオさんは立ち上がり、ムークの口をふさぎながら、両手で捕まえた。

メテオさん:ムーク、平穏無事でいたくないようね?。

ムーク:あぎゃひぃぃぃぃぃぃぃー。

 ムークを思い切りひっぱると、そのまま部屋の床にぽいと放り出し、ベッドに腰掛け、そして視線を落としてつぶやいた。

メテオさん:…でも、私たち、いったい何のために、ここにこうしているのかしら?…。

ムーク:…ああ…、いたたたた…。な、何って、女王さまが「ライバルに先を越されることがないように」と、おっしゃっていたではありませんか。

メテオさん:…それって、コメットより先に、今さら王子と結婚でもしろってこと?。

ムーク:うーむ、それは…。

メテオさん:結婚してどうするの?。星国が統一されたいとでも?。わたくしは、そんなこと望まないわ。

ムーク:…こ、これまたどうしたものか…。

メテオさん:王子と結婚するなら、あの場でわたくしが王子を選んで、あのへなちょこを、鍛えなおせばすんでいたこと。だけど、そんな気はさらさらないことくらい、お母様もわかっていたはずだわ。…それに、ライバルって何?。今さら何でコメットがライバルなの?。コメットは、あのカリカリ坊やが好きなんでしょ?。わたくしは瞬さまが好き…。瞬さまには、わたくしのこと、何とか思い出していただかないといけないけど…。何もコメットと、争わなければならないことなんて、もはやありはしないわ。あーつまんないっ。

ムーク:うーむ、確かにー。今や、タンバリン星国と、わがカスタネット星国の対等併合など、ありはしない雰囲気…。女王さまの真意はいったい…?。

メテオさん:お母様は、確かにライバルに先を越されないようにとか言っていたけど、それって、本当にタンバリン星国の王子を、もう一度捜し出せってことなのかしら?。…でも、そんなことより、「もう一度地球に行って、ハモニカ星国の王女と同じように、かがやきを見つけるのだわ」とか言っていたことのほうが気になるわったら、気になるわ…。いったいどんなかがやきを見つけろというのかしら?…。

 メテオさんは、そう言うと、小さなため息をつき、ベッドから立ち上がり、今さっき座っていた、テラスのいすを見た。そこには、主を失った飲み物が、そのまま残されている。そして、先週海岸で、コメットさん☆とツヨシくん、ネネちゃんに言われた言葉を思い出していた。

(コメットさん☆:よかったね、おめでとう!。)

(ツヨシくん:メテオさん、かっこいい!。)

(ネネちゃん:メテオさんいいなー。ネネちゃんにも泳ぐの教えて!。)

 メテオさんは、自分がコメットさん☆と、何を争わなければならないのか、ますますわからなくなってしまった。

メテオさん:わからないったら、わからない。わからないじゃないのー!。

 メテオさんは、地団駄を踏んで、いらついた様子を見せた。

メテオさん:わたくしは…、瞬さまが…好き…。瞬さまだけが…。

 メテオさんは、そうつぶやいてうつむいた。すると、瞬間的にぱっと、ラブリン変身してしまった。

ムーク:おおっ!?。

メテオさん:あ…、こ、これって…。

 メテオさんは、びっくりして、自分の全身を見回した。

メテオさん:わたくし、どうしても瞬さまに、会いに行かないと…。わたくしは瞬さまを信じてるわ。瞬さまは、わたくしに歌を作って下さるって…。瞬さまきっと…。

ムーク:…もしかすると、女王さまのおっしゃる「先を越されないように」というのは、意味が違うのかもしれませんなー。

メテオさん:どういうこと?。

ムーク:あー、これは私の推測ですがー。女王さまは、プラネット王子を見つけることでは、もはやなく、よい恋人を見つけろと、そうおっしゃりたかったのでは?。

メテオさん:…それって…、恋人探しで、コメットに先を越されるなってこと?。

ムーク:あ、いや、コメットさまより先かどうかはともかく、つまりは、女王さまが姫さまを、再び地球に向かわせられたのも、早くイマシュンの記憶を戻して、と。まあ、女王さまのことですから、人より先に…というお考えもあるのでしょうが。

メテオさん:…瞬さまを、…恋人に?。

ムーク:…あくまで推測ですが。そうでなければ、何でわざわざ姫さまを地球にもう一度?。

メテオさん:……。

 メテオさんは、ますます困惑した。

メテオさん:…あのお母様が、そんな親切ぶったこと、言うのかしら…。

ムーク:そりゃまあ、人の親ですから…。

メテオさん:親?。

ムーク:親でしょ?。そうじゃなかったら、何で姫さまは生まれて、生きているのです?。

メテオさん:そ、…それは、そうだけど…。

 そう答えたメテオさんの心は、いっそう揺れた。小さいときからきびしかった、母である女王を思い出しながら。しかし、もしムークの言うとおりだとすると、いっそうコメットさん☆と、張り合わなければならないことなど、ありはしないと断言できる。もちろんそれには、何の確証もないと言えば、ないのだけれど、イマシュンをもう一度振り向かせられると、心のどこかで信じている自分が、今ここにいるから。

 さて、女王さまがメテオさんを、再び地球に送り出した意味。そして、その言葉の真意はいったい?…。

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★第71話:絵本で灯すかがやき−−(2002年9月中旬放送)

 新聞を読んでみるコメットさん☆。たまたま絵本に関する投書を見つけた。すると「ノコシタおばけがやってきた」という、例の藤吉家を騒動に巻き込んだ絵本に関する書評が載っていた。

 それによると、「この本は、子どもを脅したり、取り引きさせようとするところについては、教育上あまり好ましいとは思われない。子どもの絵本は、純粋に発達段階に応じて…」などと書かれていた。

コメットさん☆:(ふぅん。そうなんだ。子どもを脅かしたりして、きらいな食べ物を食べさせたりするのは、あまりよくないってことね。じゃあ、どんな絵本がいいんだろう?。)

 ツヨシくんやネネちゃんに、読み聞かせをするのに、適切な絵本は?と考えるコメットさん☆。

 同じ新聞のコラムを読むと、将棋の羽田名人が、「どうぞのいす」という絵本を挙げているのを見つけた。

コメットさん☆:(これってどうなんだろう?。)

 さっそく沙也加ママさんに、新聞の記事を持って指さしながら聞いてみる。

コメットさん☆:この絵本知ってますか?、沙也加ママさん。

沙也加ママさん:ああ、それね。インターネットでのレビューでも評判いいみたいね。そういえば、うちにもたしかあるわ。見覚えがあるもの。

 沙也加ママさんは、子どもの本が並んでいる本棚を見た。

沙也加ママさん:やっぱりあった。これよ。コメットさん☆も絵本好きなの?。

コメットさん☆:ええ、まあ。小さい頃は、よくおばさまや、お母様、それにお父様にも読んでもらいました。…それで、ツヨシくんや、ネネちゃんに読んであげようかなと思って。

沙也加ママさん:そう。ありがと。あの子たち絵本読んでもらうの大好きだから、読んでやってくれるとうれしいわ。

 沙也加ママさんが見せてくれた「どうぞのいす」。手にとって読んでみるコメットさん☆。読むうちに、その絵本に出てくる話中の動物たちが、なんだか星人のように見えてきて、「作者はどんな人だろう?、どんな気持ちでこれを書いたのかな?」と思うが…。

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★第73話:メテオさんと子猫−−(2002年9月下旬放送)

 メテオさんは、雨の降る夕方の道を急いでいた。イマシュンのコンサートテレビ放送があるのに、ビデオの予約を忘れてしまったからだ。

 公園の脇をすり抜けようとするメテオさん。ここを過ぎれば、もう自宅は目の前だ。ところが植え込みから「ニャー」という、か細い声がする。立ち止まったメテオさんが、植え込みをのぞくと、子猫がずぶ濡れになって一匹鳴いていた。「子猫だわ…」。メテオさんは、思わずつぶやいて、手を伸ばそうとするが、ふとイマシュンのテレビを思い出した。「私ったら、こんなところで立ち止まっている場合じゃないわったら、ないわ!」と言って、立ち去ろうとする。そして二、三歩歩くが、子猫の小さく弱々しい「ニャー」という声を、また耳にする。メテオさんは、もう歩けない。「あーもう、放っておけないじゃない!」と叫ぶと、子猫のところにとって返し、子猫を抱き上げ、家に向かって走り出した。「なんとかするしかないわ!」。

 家の門をくぐったメテオさん。いつしか子猫に寄せて傘をさしていたので、自分も雨に濡れてしまっていた。「なんて説明しようかしら…」。ちょっと迷ったが、「時間がないのったら、ないのっ!」。メテオさんは、子猫を抱いたまま玄関のドアを開けた。

メテオさん:ただいま。

幸治郎さん:おお、おかえりメテオちゃん…。おや、子猫じゃないか。おーい、留子さん!。

 話も聞かずに留子さんを呼ぶ幸治郎さん。奥から出てくる留子さん。あっけにとられるメテオさん。

留子さん:あらまあ、子猫ちゃん。どうしたのメテオちゃん?。

メテオさん:…そこの公園で鳴いていたわ。

留子さん:あらそう。じゃうちで飼うのね?。

メテオさん:えっ!?。

 もう飼うことになっている様子の留子さんに、驚くメテオさん。

留子さん:でもメテオちゃん、あなたもずぶ濡れよ。シャワーにかかって、着替えてらっしゃい。子猫ちゃんはあずかるわ。

 素早くビデオのセットと、シャワーと着替えをすませ、メテオさんは、留子さんのところに急いで行ってみた。留子さんは、タオルで子猫を拭いてやり、ぬるいドライヤーで乾かしてやっていた。

留子さん:まあかわいそうにねー。冷たかったでしょう。メテオちゃん、なかなかきれいな子猫よ。この子震えているわ。寒いのね。メテオちゃん、だっこしてあげて。もうきれいにしたから。

 留子さんは、メテオさんにベージュ色の子猫を手渡した。メテオさんは、そっと子猫を胸に抱いた。「ニャー、ニャー」と鳴きながら、メテオさんの胸におさまる子猫。メテオさんが子猫をのぞき込むと、子猫もじっと青い大きな目で、メテオさんを見た。やさしい目になるメテオさん。

 翌日、子猫の名前は、メテオさんと留子さんの名前から、一文字ずつもらって「メト」になった。留子さんは、幸治郎さんの話によると、昔猫を何匹も飼ったのだと言う。留子さんは、メテオさんにも、猫の飼い方や習性を教えてくれたし、獣医にも連れていったくれた。

 メテオさんは、とまどいながらも、なんだかうれしい気分になっている自分に気付いた。自分が立ち止まったことで、子猫の命が救えたかもしれないことはもちろん、それまであまり趣味が合わなくて、会話が続かないこともあった留子さんと、共通の話題ができたからだ。

 夜になって、メテオさんがベッドに入って寝ようとしていると、部屋のドアの外でメトが鳴いている。あわててバトンを出して、星力でドアを開けると、メトが駆け入ってきた。それでメテオさんの部屋を一回り走り回ると、メテオさんのベッドに上がり、のどを鳴らしながら、メテオさんの胸の前あたりにもぐり込んで寝てしまった。

 メテオさんは、自分を必要としてくれるだろう「友だち」が、同じ部屋の中にでき、うれしくて仕方なかった。ムークもお供には違いないが、メトはお供とは違う。

 「あったかい」。メテオさんはつぶやいた。メトになら素直になれるメテオさん。「ずっといっしょよ…」とささやいて、そっとメトに頬ずりすると、毛布を掛けてメトといっしょに寝入った…。

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★第74話:人の迷う森−−(2002年9月下旬放送)

 星のトンネルを通って、スピカさんのところに遊びに行ったコメットさん☆と、ツヨシくん、ネネちゃん。5月に生まれたスピカさんの娘、みどりちゃんを見る。ツヨシくんとネネちゃんにとっては、初めて見る赤ちゃんのみどりちゃんに、興味津々だ。コメットさん☆も、まだ4ヶ月のみどりちゃんのかわいい手足をそっとなでてみたりする。ところがみどりちゃんがぐずりはじめたので、コメットさん☆はスピカさんを呼んだ。どうやらおなかがへったらしい。それでコメットさん☆は、ツヨシくんとネネちゃんを連れて、山にどんぐり拾いをしに行く。ラバボーは、もちろんとっくにラバピョンのところに一直線だ。

 コメットさん☆はどんぐりを拾いながら、そして山栗も拾いながら、ラバピョンの小屋まで行ってみることにした。

 ところが小屋に着いてみると、ラバピョンがしょげている。

ラバボー:…だから、ボーが守ってあげるボ。

ラバピョン:守るって言っても、いつもそばにいてくれるわけじゃないピョン…。

ラバボー:…ボーは、いつでも参上するボ。

ラバピョン:そんなこと言って、姫さまのお供としての役割はどうするのピョ?。

ラバボー:…それは…。

コメットさん☆:ラバピョン、どうしたの?。

ラバピョン:あ、姫さま…。いらっしゃいなのピョン。ツヨシくんとネネちゃんもいらっしゃいなのピョン。みどりちゃん見たピョ?。かわいいのねピョン。

ツヨシくん:ツヨシくん見た。

ネネちゃん:ネネちゃんもみどりちゃん見た。かわいい〜。

コメットさん☆:コメットさん☆も見た…は、いいとして、ラバピョン。

ラバピョン:……。

 ラバピョンの話では、八ヶ岳の森を荒らすハイカーが、多いのだそうだ。車で森の中を無茶して走り回る者もいるという。この前は、自分もひかれそうになったとも。

ラバボー:ラバピョン、大丈夫だったのかボ!?。

ラバピョン:大丈夫だったからここにいるのピョン。

ラバボー:…そ、そんなこと言われても、心配だボ…。

 的はずれな問答を聞いていたコメットさん☆は、それなら道を消してしまおうと考える。そうすれば、車では少なくとも森へ入れないはずだ。星力を使って、片端から車が通れる道を消していくコメットさん☆。ところが、ちょっと力が効きすぎなのと、車の轍らしいものが見える道は全て消してしまったので、森の動物たちが通るけもの道までも消してしまい、動物たちが困ってしまう。

ラバピョン:姫さま、消しすぎピョン。動物たちが困っているのピョン。

コメットさん☆:えっ?、そうなの?。だんだん道がわからなくなっちゃった…。

ツヨシくん:コメットさん☆、星のトンネルの入口へ戻れるの?。

コメットさん☆:あ…。もしかすると…、戻れないかもしれない…。私たちまでも、迷子になっちゃったの?。

ラバピョン:大丈夫ピョン。道はわかるピョン。今からスピカさまのところに行くピョン。

コメットさん☆:…うん。ごめんねラバピョン…。ありがとう…。

 ラバピョンの機転で、なんとかスピカさんのところまで戻れたコメットさん☆と、ツヨシくん、ネネちゃん、ラバボーとラバピョン。勝手に森の道を操作したことを、スピカさんに「ごめんなさい」しつつ、どうしたらいいかスピカさんに相談する。

 結局「土木工事ビト」を、星国から召喚して、動物たちだけが通れる、特製星のトンネルを張り巡らせることになる。この道は、人は通れない通路である。広い森だけに、星のトンネルを張り巡らせることには、たくさんの星力が必要なので、夜を待って、コメットさん☆とスピカさんの二人で、ラバボーと、ラバピョンの協力で星力をたくさん集め、なんとか作りあげた。

ラバピョン:スピカさま、姫さま、ラバボー、ありがとうなのピョン。これで安心して、森を行き来できるのピョン。

コメットさん☆:でも、ラバピョン、気をつけてね。森の境目は危ないよ。

スピカさん:そうよ、ずっともつように作ったつもりだけど、人間は突然自分勝手なことをするわ。

コメットさん☆:ごめんなさい。おばさま。

スピカさん:あら、コメットのことじゃないのよ。もうそれはいいわ。コメットがわかってくれれば。それより、森のこわさ、本当の楽しさ、すばらしさ、大切さがわからない人間が、多くなりすぎなのが気になるわねぇ…。

 なんとか出来上がった動物専用「星のトンネル」…。それはよかったのだが、実は「人は必ず迷って、元のところに戻ってしまう森」が出来上がってしまい、うわさを呼んで、スピカさんのペンションが、妙な繁盛をしてしまうのだった…。

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★第75話:イマシュンの心、メテオさんを照らす−−(2002年10月中旬放送) 部分改訂

 市内のイベントで、美少年・美少女を選ぶコンテストが開かれることになった。審査員にはあのイマシュンも、名を連ねている。他薦でエントリーするコメットさん☆と、自薦でエントリーするメテオさん。メテオさんは、イマシュンが振り向いてくれないかな…と思う。星力を使うこともできるはずだが、メテオさんは、あえて使わない。彼の記憶を強引に消してしまった過去への贖罪の気持ちと、「素顔の自分」を、見て欲しいと思ったからだ。

 イマシュンこと、今川瞬は、そっとメテオさんに1票を入れる。メテオさんが消したはずの、彼の記憶は、星力が切れてとっくに戻っていた。彼はコメットさん☆に心引かれるものがあったが、その感情は「好き」というのとは、ちょっと違うのではないかと思っていた。だが今、メテオさんには、なんだか1月以来、心動かされるものを感じていた。いつか歌をプレゼントしないと…とも。その感情が、自然に彼の1票を、メテオさんに投じさせたのだ。それは、あるいは「審査員」という立場を越えるものだったかもしれない。それとも、「星の導き」なのか…。

 しかしコンテストは、他の審査員の票で、メテオさんもコメットさん☆も、入賞はするが、グランプリは逃す。グランプリは市内の17歳の女性だった。ところが、コンテストへの出場を知っていた、二人の回りの人々、それは鹿島・前島夫妻、風岡夫妻や、藤吉家の全員、その他の二人をよく知る人たちが、みんな花束を持って、二人の入賞を祝ってくれた。メテオさんも、コメットさん☆も、ちょっととまどうが、家族や友人の絆を、あらためて感じる出来事であった。

 メテオさんは、帰ろうとしていたイマシュンに、偶然に出会う。厳しい警備の続く市民会館をあとにした、黒岩マネージャーの車から、イマシュンがメテオさんを見つけたのだ。イマシュンはとっさにメテオさんに合図し、芸能記者たちをまくために、「北鎌倉駅で待ってて」と書いたメモを投げる。

 幸治郎さんに待っていてくれるようにたのみ、急いで横須賀線で北鎌倉に向かうメテオさん。やがてキャップをかぶり、サングラスをかけたイマシュンが、北鎌倉駅に現れた。そしてサングラスを取り…。

イマシュン:メテオさん、来てくれたんだね。ありがとう。

メテオさん:しゅ、瞬さま。お礼を言うのは私のほうですわ…。

 イマシュンは苦笑いをしながら、答えた。

イマシュン:…その瞬「さま」ってのは、やめてくれよ…。ぼくはそんなんじゃないよ。

メテオさん:…はい。じゃ、瞬さん…。

イマシュン:メテオさん、ぼく、1月に君に会ってから3ヶ月くらい、なんでだかわからないけど、君やコメットさん☆のことが思い出せなくてさ、…あ、でも…、なんていうか、誰かがぼくのことを、ずっと気にしていてくれていたような感じだけはずっとあって。

メテオさん:(瞬さま…)

イマシュン:それが最初はコメットさん☆かもって思ったんだ。

 メテオさんは、その言葉に、一瞬不安そうな、残念そうな、なんとも言えない表情を浮かべた。しかし、イマシュンは、それを強く吹き飛ばすかのように語った。

イマシュン:でも!…それはそうじゃなくて、…あの、…それはだんだん思い出すうちに…君だったんだって、やっとわかったんだよ!。

メテオさん:えっ?。

イマシュン:ぼくはずっと君に見守られてきた…。そういうことだったんじゃないかなって…。確かにコメットさん☆は、ぼくにとってあこがれの、天使のような人だったけど、彼女を好きになったというのとは、ちょっと違う…。でも、でも…、本当に素直な気持ちで、好きになれたのは……君…だったんだ!。

メテオさん:……。

イマシュン:こんなぼくだけど、メテオさん、ぼくの「いちばんの好き」になってくれないか…。

メテオさん:…こ、こんな私でいいのなら…。よろこんで…。

 メテオさんは、赤らめた頬のまま、うつむいた。

イマシュン:…ありがとう。ぼくは君の歌を作る。ぼくの歌を歌って欲しいんだ。いちばんの君に…。

メテオさん:私、瞬さんの歌なら、何でも歌いますわ。だって、私だって「いちばんのあなた」ですもの…。本当は、私、あなたに会ったときから、ずっと好きでした。でも、いろいろあって…。いちばんのあなただって、言い出せなくて…。つらいときもあったけど、今私を好きと行って下さるなら、私も言えます…。「あなたが好き」って…。

イマシュン:…ありがとう。感激だ…。本当にありがとう。……あっ、もうこんな時間か…。ごめん。今日まだ都内に帰って、打ち合わせがあるんで、これで帰らなきゃならないんだ。そうだ、3日後に仕事のオフがあるんだけど、…メテオさん、いっしょにどこか…。

メテオさん:はい。こんな私でもいいのなら、よろこんで、どこへでも…。

イマシュン:じゃ、明日また連絡するね。…あ、君の家に電話してもいいのかな?。

メテオさん:大丈夫ですわ。これ電話番号です…。

 メテオさんは、小さなピンク色のカードを、イマシュンに手渡した。そっと手を握りながら…。

イマシュン:でも、メテオさん、君にぼくの正直な気持ちが、伝えられてよかった…。

メテオさん:瞬…さん、ありがとう。私もあなたの「いちばん」になれた…。とても幸せ…。

イマシュン:…じゃ、また明日連絡するね。きっとだよ。突然驚かしてごめんね…。

メテオさん:いいえ…。気にしないで…。連絡待ってます…。

 イマシュンは、手を振りながら、そっと去っていった。メテオさんはというと、ふいに上を向いた。…うれし涙が、こぼれてしまわないように…。

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イマシュンの歌:「ダ・イ・ス・キな君へ」「With You―」


★第76話:電車に灯るかがやきの光−−(2002年10月中旬放送)

 10月14日は「鉄道の日」。江ノ島電鉄の極楽寺車庫を、一般開放するイベントが開かれた。ツヨシ・ネネといっしょに、「運転体験」で、本物の電車を動かしたりして、面白がるコメットさん☆。

 ベンチに座って、ツヨシ・ネネが遊んでいるのを眺めていると、会場の案内をしていた職員さんが話しかけてきた。

職員さん:おや、女の子の見学は珍しいね。面白いかい?。

コメットさん☆:はい。さっきは本物の電車を動かしました。

職員さん:ええっ?、運転体験に参加したの?。将来は女性運転士かな。電車好きなのかい?。

コメットさん☆:はい。よく乗っています。

職員さん:そうかぁ。ありがとうね。じゃちょっと妙な話を聞かせてあげようか…。最近時々ね、時刻表に載ってない「汽車」が、江ノ電の線路を通ると言われているんだよ。幽霊列車のようにね。

コメットさん☆:…そ、そうなんですか。

 コメットさん☆は、それは「星のトレイン」のことではないかと思うが、黙って聞いているしかない。

職員さん:でもねぇ、私は江ノ電に汽車が走るなんて夢があっても、いいんじゃないかなぁ…なんて思うんだよね。

 コメットさん☆は、職員さんの言葉に、少し安心する。

職員さん:ところで、この江ノ電はね、もう100年も走っているんだよ。

コメットさん☆:100年ですか?。それって、桜が100回咲いたってことですよね。

職員さん:そう…。そういうことだね。だから私ら、どんなことがあっても、電車は止めてしまうわけにはいかないって、いつも思うんだよ。

コメットさん☆:…どうして…ですか?。

職員さん:どうして…か。…そうだなぁ。電車に乗っていると、住宅街から海辺に出るところがあるでしょ?。あそこでたいていお客さんから、歓声があがるんだよ。みんな海がぱぁっと見えるのを、よろこんでさ。君も見たことあるだろう?。

コメットさん☆:あります!。あそこの場所、ワクワクしますよね。

職員さん:そうだよね。実は海辺に電車を走らせるのは大変でさ、潮風でいろんなところが錆びたり、傷んだりするんだよ。でも、お客さんの輝いた顔を見て、声を聞いているとね、明日も安全に調子よく走らせなきゃって、思うんだなぁ…。

コメットさん☆:そうか…。電車を走らせる人も、電車にも、かがやきってあるんですね!。

職員さん:…面白いことを言う子だね、君は。…そうだなぁ、電車もお客さんを乗せて一生懸命走っている時、一番輝いているのかもね。…おっと長話しちゃった。ごめんよ。つまらない話だったかな。

コメットさん☆:いいえ、そんなことないです。私もなんだか、いつも乗っている電車に、何ていうか、親しみがわきました。

職員さん:また乗ってやってよ。私らの電車にさ。

コメットさん☆:はいっ。今日は、電車とそれを守る人のかがやきが、見えたような気がします。

職員さん:はっはっは。面白いこと言うね。ありがとう。じゃあね。

コメットさん☆:さよなら。

 職員さんは、手を振って行ってしまった。

 夕方になって、帰り道、コメットさん☆とツヨシ・ネネの三人は、稲村ヶ崎駅の踏切で、電車を見た。運転士さん、車掌さん、駅員さん、そして乗客の人々…。電車はいろいろな「かがやき」を乗せて、走る乗り物だったようだ…。

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★第77話:やっぱり怖い歯医者さん−−(2002年10月下旬放送) 部分改訂

 ツヨシくんが歯が痛いと言い出した。ぐずって歯医者さんに行くのをいやがるツヨシくん。だが痛いのはどうしようもない。コメットさん☆が「ついていってあげるから」というと、渋々歯医者さんに行くことにした。藤吉家がいつもお世話になっている、油沢歯科医院だ。

 治療について行き、ツヨシくんの診察・治療の時も、そばにいてあげるコメットさん☆。油沢先生は、てきぱきとツヨシの虫歯を削って、型を取った。

 ところが油沢先生は、コメットさん☆にも「診てあげよう」と言う。でもコメットさん☆は、「保険証も持ってないですし」と言って、断ろうとするが、先生は「いいから、診察台に座ってごらん」と言う。コメットさん☆は内心「イヤだなぁ」と思いながらも、渋々診察台に座る。ツヨシくんがじっと見ている手前、あからさまにイヤそうな顔も見せられない。

油沢先生:うむ。なかなかいい歯だね。奥歯に一カ所治療のあとがあるね。これは不思議な材料だな。これいつ頃治療したの?。

コメットさん☆:ひゃんねんまえくらいです。

 口にミラーを入れられているので、うまくしゃべれない。が、その治療のあとは、星国の歯科医によるものだ。

油沢先生:ふーん。君は外国人?。

コメットさん☆:はい…。ハモニカ星国の…。

 コメットさん☆は言いかけてやめた。

油沢先生:なるほどね。ここ以外には、まあ特に問題なところはないね。奥歯は、もう少しよくかみ合わせのところをみがくようにね。はい、うがいして。

 コメットさん☆がホッとして、口をゆすぐと…。

油沢先生:じゃ、ついでだから、歯石を取っておこうか。虫歯の元になるといけないからね。

 コメットさん☆は、一挙に不安になった。でもツヨシくんが見ているから、逃げ出すわけにもいかない。歯を削られてしまうのだろうか…。

 油沢先生は、スケーラーという金属製の、先がカギになった鋭く細い棒で、歯石を削る。そのガリガリという感触で、実はコメットさん☆、泣きそうになる。

油沢先生:そんなに緊張しないでー。

 コメットさん☆の様子に気付いたのか、先生が声をかけてくれた。

 ようやく治療と、「歯の健康診断」を終えて、診察室から出たツヨシくんとコメットさん☆。ツヨシくんは、自分の歯の痛さなんて、忘れたかのようにニヤついている。コメットさん☆が青い顔で、ドキドキしているのを面白がっているのだ。

 次回の予約をしてから、二人は外に出た。

コメットさん☆:ツヨシくん、人のことを見て笑っているの、ひどいよ。

ツヨシくん:だって…、コメットさん☆歯医者さんがキライそうなんだもん。

 コメットさん☆は、少し怒ったような顔で答えた。

コメットさん☆:もう!。次の時は、ついてきてあげない。

ツヨシくん:ええーっ。

 ツヨシくんも、さすがに一人では歯医者さんに行かれない。一気にツヨシくんの態度は、しおらしくなる。それを見てコメットさん☆は、静かに言った。

コメットさん☆:ふふっ。私だって歯の治療はきらいなの。ツヨシくんだって、同じでしょ?。

ツヨシくん:…うん。コメットさん☆、ごめん。

 コメットさん☆が、にこっとしながら諭したので、ツヨシくんは素直な気持ちで謝った。

コメットさん☆:いいよ。でも、ちゃんと歯磨きしようね。私も言われちゃった。あはっ。

ツヨシくん:うん。ツヨシくん、ちゃんと歯磨きする。

コメットさん☆:さぁ、帰ろう。景太朗パパさんと、沙也加ママさんが、夕食を作って待ってくれてるよ。

 いつしか街は、夕日に照らされ、さわやかな風が吹き抜けていた…。

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★第79話:ケースケの片道搭乗券−−(2002年11月中旬放送) 部分改訂

 ある日景太朗パパさんが、コメットさん☆を呼んだ。

景太朗パパさん:コメットさん☆、明日の予定は?。何かある?。

コメットさん☆:いいえ。別に何もないですけど。

景太朗パパさん:そうか。ふふーん。じゃ明日成田空港に行かないかい?。

コメットさん☆:えっ?。成田って、新東京国際空港…ですよね?。

景太朗パパさん:そうだよ。何かいいこと、あるかもしれないよ。

 景太朗パパさんは、そう言ってにこっと笑った。それに対してコメットさん☆は、景太朗パパさんの言葉の意味には、何かが秘められているに違いないと思い、しっかりと答えた。

コメットさん☆:行きます!。連れていって下さい。

景太朗パパさん:よーし。明日はみんなで成田空港へ行こう。ほら電車のキップ。

 景太朗パパさんは、そう言いながら、既に用意されていた、人数分の切符をコメットさん☆に見せた。行きは5人分、帰りは6人分だった。

 翌日の2時を回った頃、景太朗パパさんは車を大船の駐車場に入れ、沙也加ママさん、ツヨシくん、ネネちゃん、コメットさん☆みんなで、成田へ向かった。成田までは大船から直通だ。コメットさん☆は、結構遅い時間の出発に、「どうしてだろう」とちょっと疑問を持つが、「もしかすると、いや、間違いなく…」という期待のほうが大きくて、何だか昨日の夜は、なかなか寝付けなかったことを思い出す。

 個室グリーン車に5人を乗せた成田エクスプレスは、東京湾をぐるりと回るように疾走し、夕方5時前に成田空港第2ビルに滑り込んだ。

 1時間ほど時間があると、景太朗パパさんが言うので、ロビーや喫茶店で時間をつぶすみんな。コメットさん☆は、沙也加ママさんに、そっと聞こうとする。

コメットさん☆:…あ、あの…。

沙也加ママさん:なあに?コメットさん☆。

コメットさん☆:…い、いえ、何でもないです。

沙也加ママさん:心配しないで。私もね、あなたのような気持ちで、パパを待ったことがあったっけ…。

 ママさんは、そう言って、コメットさん☆を抱き寄せた。コメットさん☆は確信した。「あの夏の西伊豆での約束は、今日のことだったんだ。春の笑顔の意味も…」と。その胸はドキドキしていた。

 やがて到着ロビーの電光表示の一番下に、772便の表示が出た。それは時間とともにだんだんと上に上がってゆく。そして到着の案内放送が…。

 ややあってケースケは、夏の予告通り、みんなの前に姿を現した。帰ってきたのだ。日焼けした顔、また少し伸びた身長。

景太朗パパさん:やあ、ケースケ。おかえり。

ケースケ:ただいま戻りました。師匠。

沙也加ママさん:また身長伸びたわね。おかえり。

ツヨシくん:ケースケにいちゃんおかえり。

ネネちゃん:ケースケにいちゃん、ずいぶんコメットさん☆が心配していたよ。

 少し後ろで、うつむき加減にケースケを見ていたコメットさん☆。それを見たケースケも、はっとした顔をして、どぎまぎする。でも、すぐにやさしい目になった。それを見たコメットさん☆は、少し涙を浮かべた。

コメットさん☆:…お、おかえり。

ケースケ:ただいま。心配かけてごめん。

 コメットさん☆は、手を差し出した。黙ってその手をにぎるケースケ。大きくて海の男らしい手だ。コメットさん☆が泣きそうになるのを見て、景太朗パパさんが言った。

景太朗パパさん:さあ、つもる話も多いだろうけど、もう遅くなるからね。みんなで軽く食事をしてから、ウチへ帰ろう。ケースケも腹すいただろう?。

ケースケ:は、はい。まあ…。

 みんなでビル内のレストランに入り、軽く食事をとってから、再び成田エクスプレスで大船に向かった。グリーン車の大きなイスに、並んで座るコメットさん☆とケースケ。ちゃんとケースケは、コメットさん☆を窓よりに座らせてくれた。発車した電車の中で、ケースケは語りはじめた。

ケースケ:いままでちゃんと言ってなくて悪かったけど、オレ、当分大会の時以外海外へは行かないよ。

コメットさん☆:どうして?。

 コメットさん☆は、恥ずかしさもあって、窓のほうを向いていたが、向き直ってたずねた。

ケースケ:オレ母親が入院したときに、高校に行くように言われてさ、師匠にも。それでオレなりに考えたんだけど、やっぱ勉強しておいて損はないなって、思ってさ…。…オーストラリアの下宿も、ちゃんと引き払ってきた。3年は帰らないつもりだったんだけどな。

コメットさん☆:ケースケ…。

ケースケ:でもオレ勉強苦手だから、結構大変かもしれないけど、夜間高校に通いながら、昼間海に出て監視員のバイトや、トレーニングするのもいいかなぁって思って…。世界一のセーバーも目指すけど、少しくらい遠回りしたって関係ないしな。だから、オレ夜間高校を受けるよ。来年1月が試験。

コメットさん☆:そっか。がんばってケースケ!。ケースケなら必ず受かるよ。

ケースケ:作文と面接の試験でさ。入学しても、やり通すのは大変らしい。でも、オレだったら必ずやれるって、師匠が言ってくれたんだ。それに…、…オレ、人の気持ちにも、応えられないんじゃ…、ほんとのプロじゃない…かもって…。

コメットさん☆:……(それって…)。

ケースケ:だからオレはあきらめない。もっとも40になって、セーバーやってられないだろってのもあってさ。ははは…。

 ケースケは屈託なく笑った。コメットさん☆もちょっと微笑む。だが、ケースケは今、新しい希望を手にした。それに向かって突き進もうとするケースケ。その「かがやき」はまぶしいほどだ。コメットさん☆は、そのケースケにあこがれのような目を向けた…。

コメットさん☆:ケースケ、新しい夢に向かって走り出すんだね。

ケースケ:まあ、そういうことかな。

コメットさん☆:がんばって。応援してる。

ケースケ:ありがとう。精一杯やるさ。

 その話を、そっと後ろの席で聞いていた、景太朗パパさんと沙也加ママさんは、微笑んで顔を見合わせた。

 成田エクスプレス号は、夜の東京都心をすり抜け、一路大船に向かう。ケースケの古い夢の終点は、もうすぐそこである。明日からは、再び新しい夢の起点に、彼は立つ…。

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★第80話:眠る美沙子さんとメテオさんの父−−(2002年11月中旬放送) 部分改訂

 メテオさんは、秋の改変で始まったドラマを見ていた。少女が白血病で亡くなる話である。それを見ているうちに、悲しい気持ちになったメテオさんは、いつか聞こうと思っていた、「美沙子さんの死」について、幸治郎さんにたずねようと思う。メテオさんは、父の顔を知らない。メテオさんも父を、生まれる前に亡くしていたからだ。「死ぬ」とはどういうことなのか。死んでしまったらどうなるのか…も。

メテオさん:お父様、美沙子さんのこと、聞いてもいい?。

幸治郎さん:メテオちゃん、いつか聞きたがるだろうと、思っておったよ。なんでも聞いておくれ。

メテオさん:美沙子さんは、どうして亡くなったの?。

幸治郎さん:…交通事故だよ。突然のことだった…。学校の帰りにね。

メテオさん:…そう。美沙子さんかわいそう…。

幸治郎さん:そうだね。できることなら、かわってやりたいと思ったよ。メテオちゃんがそう言ってくれるなら、美沙子にかわってお礼を言うよ。ありがとうね。でも私ら誓ったんじゃ。もう泣かないとね。美沙子は星になった。私らがいつまでも泣いていたら、美沙子の星は輝き続けられないじゃろうと思ってね。

メテオさん:…私も、本当のお父様は亡くなったの。私が生まれる前に。だから、お父様の顔は、わからない。

幸治郎さん:…え!、そうなのかい?。メテオちゃん。…それは知らなかった。ごめんよ、今まで知らなくて。

メテオさん:ううん。私も話さなかったし…。でも…、お父様、死ぬってどういうことかしら。

幸治郎さん:うーん、本当のところどういうことだか、死んでみないとわからないから、だれにもわからんかもしれんよ。ただ、一つ確かなことは…、今生きている世界からはいなくなってしまうことじゃな。…しかし、メトだって、私だって、留子さんだって、メテオちゃん、君だって、いつかは必ず死ぬということは、はっきりしておるな。

メテオさん:なんだか、怖い。もう二度と目覚めない。誰とも会えないかもしれない。どこか遠くに行ってしまうのかもしれない…。そんなのって怖いわ…。

幸治郎さん:死ぬのが怖くなかったら、今生きている自分の命だって、大事にしようとは思わんだろう?。そりゃだれだって死ぬのは怖いだろうなぁ。私だって怖いさ。でも毎日毎日、今日死ぬかしらと思っては、生きて行かれんだろう。だから、自分の体を大事にしようとか、誰かと友だちになって、楽しいことをしておこうとか、恋人といっしょにいようとか、人は思うんじゃないかねぇ。

メテオさん:……。

幸治郎さん:人はいつか死ぬことがわかっているから、希望をもつし、夢ももつ。未来に望みを持ったりする、ということなんじゃないのかねぇ。私もこの歳になると、そんなふうに思うよ。…でもまあ、メテオちゃん、君にとってはずっと先のことさ。今から思い悩んでも、仕方ないじゃろう。それよりは、明日どんな楽しいことがあるかとか、夕食のおかずは何かとかでも、考えるほうがいいんじゃないのかね。毎日面白く生きなかったら、つまらんじゃないか。はっはっは。

メテオさん:お父様…。

 メテオさんもつられて、少し微笑む。

幸治郎さん:私をそうやって「お父様」と呼んでくれる。メテオちゃん、君がいてくれるおかげで、毎日が楽しくなったよ。いっしょにいてくれるだけで、楽しい気持ちになったり、つらく悲しい気持ちがいやされたりする。そういう人こそ、大事な人なんだよ。だからメテオちゃん、君は私にとっても、留子さんにとっても、大事な娘だよ。

 …メテオさんは、幸治郎さんの言葉を胸にそっとしまった。人は限りある命だからこそ、「かがやき」を求めつづけるということ。いっしょにいるだけで、楽しい気持ちになったり、つらく悲しい気持ちがいやされる人…。それはやっぱり…と考えながら…。

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★第81話:メトが結ぶ友情−−(2002年11月下旬放送)

 ある日、メテオさんがいつものように、テレビで通販番組を見ていたら、良さそうな「キャッツタワー」を紹介していた。最近猫を飼いだしたメテオさんだが、その猫のメトは、メテオさんの部屋を走りまわったり、メテオさんの部屋のドアにつけられた、小さな専用のくぐり戸を通って、大きな風岡邸内を探検して遊んでいる。完全室内飼いなので、もう少しメトが面白がって遊べる大きなおもちゃのようなものが、あったほうがいいんじゃない?と、留子さんは言っていた。それでメテオさんは、急いで留子さんに相談し、そのキャッツタワーを注文することにした。

 通販番組は、「すぐにお届け!」というのを“売り”にしていたから、3日間で注文のタワーは到着した。さっそく届いたキャッツタワーの包みを開けて、組み立てをはじめるメテオさん。完成すると、高さ1.8メートルにもなるので、組み立てには力もいるし、棚状のところのねじを止めるのが、なかなかうまくいかない。幸治郎さんに手伝ってもらおうと思ったが、あいにく留子さんと二人、横浜に行っていて不在だ。ムーク、とも思ったが、さっき庭のバラたちの水やりを、頼んだばかりだった。広い家の、一人での留守番は、結構大変なことに、メテオさんは気付く。

 泳げるようになって、いっしょに海へ行ったときから、コメットさん☆に対して、星国人として「唯一の友だち」と、ようやく一応は思えるようになったけれど、いきなりコメットさん☆に頼むのは、ちょっと気後れする。だが、メトのことを思えば、そうも言っていられない。意を決して、コメットさん☆に頼んでみようと思う。

 メテオさんは、コメットさん☆のティンクルホンに、直接電話をかけた。コメットさん☆はというと、落ち葉を集めて、焼き芋を焼こうと、庭そうじをしているところだった。

メテオさん:…ちょっと手伝って欲しいことがあるんだけど…。

コメットさん☆:うん。いいよ。どんなこと?。

メテオさん:キャッツタワーってあるでしょ。あれ作っているんだけど、どうしてもうまくいかないところがあって…。

コメットさん☆:キャッツタワーって何?。

メテオさん:んもう、猫がのって遊ぶ立ち木みたいなおもちゃよ。

コメットさん☆:えー!?、メテオさん猫飼っているの?。私見たいー。

メテオさん:(少し困ったような顔で)…そりゃ来てくれればイヤでも見られるわよ…。だから来てよったら来てよ。

コメットさん☆:わかった。今行くね。

メテオさん:…でも、あなた一人で来て。猫って人見知りするから、小さい子どもは苦手なの。それにメトがもし二人をひっかいたりしたら心配だし…。

コメットさん☆:うーんわかった。じゃ私一人で行くね。

 コメットさん☆は、星のトンネルを使わずに、丘の上にあるメテオさんの家に行ってみた。それで門のチャイムを押すと、メテオさんが玄関の扉を少しあけて手招きした。門の鍵は外してあった。コメットさん☆が玄関を入ると、メテオさんに抱かれ「ミャー、ミャー」と鳴く、ベージュ色の子猫が待っていた。コメットさん☆が玄関の扉を閉めると、メテオさんはメトを床に降ろした。

メテオさん:いらっしゃい。待っていたわ。

コメットさん☆:わーかわいい子猫。名前は何ていうの?。

メテオさん:名前はメト。うっかりしていると、外に出ていっちゃうのよ。

コメットさん☆:メトちゃんか。かわいい子猫ちゃんだね。

 メトは見慣れないコメットさん☆を、鼻をひくひくさせながら、少し離れたところからじっと見ていた。

コメットさん☆:でも、どうして急に子猫ちゃんを飼うことになったの?。

メテオさん:うちの手前のところに、小さな公園があるでしょ。あそこで雨の日ひとりで鳴いていて、放っておけないから、連れてきちゃったわ。

コメットさん☆:ふぅん、そうなんだ。…メテオさん、やさしいね。

メテオさん:な、なーにを言ってくれちゃうのかしらったら、くれちゃうのかしら。ホホホホ…(赤面して)。

コメットさん☆:メテオさんらしいな。放っておけないなんて。

メテオさん:…だ、だって、まだ子猫だし、ずぶ濡れだったし…。

 コメットさん☆に「やさしい」なんて言われ、うろたえるメテオさん。そんなことを言われるのは、予想していなかった。

コメットさん☆:それで手伝ってっていうのはどこ?。

メテオさん:こ、こっちよ。

 メテオさんは自分の部屋に、コメットさん☆を連れていった。メトも、少し離れてついてくる。知らない人でも、猫としての好奇心は旺盛だ。

コメットさん☆:わぁーすてきなお部屋だね。ベッドの上に屋根がついてるー。

メテオさん:わ、私の部屋はいいから、こっちを見てよ(赤くなって)。これを組み立てようとしていて、どうしてもねじが回せなくて…。

 メテオさんは、タワーのてっぺんに取り付ける棚のところを指さして言った。

コメットさん☆:…それって、星力じゃだめだったの?。

メテオさん:え…!?。

 なんと、うかつにも、メテオさんは星力でねじを回すということを、考えてもいなかったのだ。メトのことは、自分でやると決めていたから、つい自分が「星使い」であることも忘れて…。

 終始調子が狂いっぱなしのメテオさんだったが、結局星力は使わないでもタワーは出来上がった。二人でやれば、あとは簡単だった。メトとなかよしになったのか、じゃれあっているコメットさん☆を見て、メテオさんは「これでよかったのかも…」と思い直した。

 そしてコメットさん☆は帰っていった。

 夕方になって、コメットさん☆がふいに星のトンネルを通って、メテオさんの家にもう一度やってきた。メテオさんが玄関先に出てみると、庭で焼いた、ほかほかの焼き芋を持ったコメットさん☆が、そこにはいた。

コメットさん☆:おすそわけ。幸治郎さんや、留子さんと食べてね。じゃ。

 …と言って帰ろうとするコメットさん☆。メテオさんは焼き芋を受け取った。そして…。

メテオさん:あ、待って。…今日は、いっぱい…ありがとう。

 メテオさんはにっこり笑った。コメットさん☆も黙ってうなずき、ほほえみを返す。二人の「ほほえみ返し」は、友だちの証…。

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★第83話:ネネの失敗?−−(2002年12月上旬放送)

 前の日、少し夜更かしをしてしまったコメットさん☆は、その日ツヨシくんとネネちゃんを迎えに行ったあと、自分の部屋のベッドで本を読んでいるうちに、ふと居眠りをしてしまった。景太朗パパさんは用事で出かけていたし、沙也加ママさんはいつものようにお店に行っていた。

 ツヨシくんは、テレビを見ていたが、ネネちゃんは、そのテレビには興味がなかったので、コメットさん☆と遊ぼうと、2階のコメットさん☆の部屋に上がってきた。

ネネちゃん:コメットさん☆…。

 開け放たれたコメットさん☆の部屋のドアから、中をのぞき、声をかけた。

コメットさん☆:………。

 コメットさん☆からは、返事がない。ネネちゃんは、そっとコメットさん☆のそばに寄っていった。

ネネちゃん:コメットさん☆寝てる…。なーんだつまんないの。

 ネネちゃんは、コメットさん☆の寝顔を見ると、部屋から出ていこうとしたが、寝ているコメットさん☆の脇にある本棚を見た。あまり大きくない本棚だが、何冊かは目立つ本があった。ふとその中の「ハモニカ星国の歴史」という、やや大きめな判の本に、ネネちゃんは目を留めた。まるで吸い付けられるかのように、それを手に取ってしまった。

ネネちゃん:ハモニカほしくにの…うーん、読めないや。何だろうこの本?。ネネちゃん気になる。

 ネネちゃんは、そっとつぶやきながらその本を手に持つと、コメットさん☆がまだ寝ているのを確かめてから、部屋を出た。

 ネネちゃんは、その本を、ドキドキしながら、リビングのソファーに座って開いた。本の中には…。ネネちゃんにとっては、難しい字が並んでいるページは飛ばして、挿し絵や写真のページをぱらぱらと見た。するとその時、玄関が開いて、沙也加ママさんが帰ってきた。

沙也加ママさん:ただいま〜。

 ネネちゃんは、心臓が飛び出すかというほどドキッとしながら、本をソファーの上に置くと、沙也加ママさんのところに駆けだしていった。

ネネちゃん:ママお帰り〜。コメットさん☆寝ているよ。

沙也加ママさん:えっ?。具合が悪いのかしら?。

ネネちゃん:ううん。たぶん違う。

沙也加ママさん:どれどれ。

 沙也加ママさんは、持っていた紙袋を廊下に置くと、2階のコメットさん☆の部屋に行ってみた。そして、さっきから開いたままなコメットさん☆の部屋の扉脇から、中をのぞき、次いでそっとコメットさん☆の顔をのぞいた。

沙也加ママさん:(具合が悪いわけでもなさそうね。でもこのままじゃ風邪引くわ。毛布かけておきましょ…。)

 するとコメットさん☆は、気配で目を覚ました。

コメットさん☆:…あ、いっけない。寝ちゃってた。あ、沙也加ママさん。ごめんなさい、私ちょっと居眠りしちゃって。

沙也加ママさん:いいのよ。どこか具合悪いんじゃない?。

コメットさん☆:いいえ、そんなわけじゃないです。

 コメットさん☆は、恥ずかしそうに言った。

沙也加ママさん:そう。それならいいけど…。そろそろご飯のしたくするわね。

コメットさん☆:じゃ私も手伝います。あ、でも…今日お掃除してないので、今からします。

沙也加ママさん:ああ、いいわ。あとで私がやるから、ご飯のしたくのほうをちょっと手伝ってくれないかなぁ?。

コメットさん☆:はい。ごめんなさい。

沙也加ママさん:いいってば。コメットさん☆は、しっかりさんね。ありがと。ふふふ…。

コメットさん☆:…いいえ、…そんな…。

 コメットさん☆は恥ずかしそうに言葉を返した。

 やがて食事がすんで、沙也加ママさんは、リビングに掃除機をかけ始めた。正直なところ疲れていたが、仕事する母親としては、そうも言っていられない。ところが、ふと沙也加ママさんは、ソファーの上へ、無造作に置かれたままになっている本に、目を留めた。

沙也加ママさん:あら、だれかしら。こんなところに本出しっぱなし…。しょうがないわねぇ…。…「ハモニカ星国の歴史」?。…ハモニカ星国、ハモニカ星国…。どこかで聞いたような気がするわ。…ああ、どこだったかしら?。

 掃除機を止め、床に置いて、本を手に取ると、その表紙の字を読んだ。そして沙也加ママさんは、普段時々コメットさん☆が口にする言葉を思い出した。

沙也加ママさん:そう言えば、コメットさん☆がよく「ハモニカ星国から来ました」とかって言っていたわね。…コメットさん☆の本かしら?。どれどれ…。

 沙也加ママさんはその本を、何の気なしに開いて、めくってみた。

本の記述:「…長く混沌としていたトライアングル星雲は、モール暦812年、ようやく3つの星が、それぞれ独立国として分離することで、一応安定した。そして独立した3つの星系は、それぞれ「星国」と呼ばれるようになり、ハモニカ星国、タンバリン星国、カスタネット星国となった。同じく814年のことである…。」 「……。以来、ハモニカ星国では、王女「コメット」は、地球に留学することとなる。現在の王妃であるコメットT世は、かつて地球に留学し、「トウキョウト」に住んだことがある。その後コメットT世は、現国王と結婚し、王妃となった。」 「…さらに現王妃の妹であるコメットU世は、同じく地球に留学するも、彼の地の男性と婚姻し、地球にとどまった。そのため現在は王位継承権を持ちながら、星国に在住しない王族となっている。

 一方、コメットT世にはその後娘が誕生し、コメットV世となった。すなわちこの人物こそ、現在の「ハモニカ星国の王女」である。本書の出版時点で、コメットV世は10歳であるが、やがて地球に留学するかもしれない。コメットT世には、その娘であるコメットV世以外に子どもはなく、コメットV世が、王位継承権第一位となっている。」 「なお、ハモニカ星国の歴史上、歴代の女性王位継承権者に、繰り返し「コメット」の名が付けられるのは、「コメット」の発音が、たまたま地球での「彗星」を示す言葉「COMET」と同じものであり、地球での「彗星」は、繰り返し地球に、あるいはほかの天体に接近することから、T世、U世と続く地球への留学を、地球での「彗星」になぞらえて、象徴的に名付けられているものである…。そして…」

 沙也加ママさんは、あやうく本を落としそうになった。これは架空の話だろうか…?。いや、そうに違いない。小説か何かのはずだ。きっとSF小説…。でも、どうしてコメットさん☆が口にする「ハモニカ星国」のことが、こんなに詳細に書かれているのか?。コメットさん☆は、この小説の話を元に、自分の故郷を隠しているのだろうか…?。ならなぜ、この本には「コメット」とという人物が出てくるのか…?。

 コメットさん☆が何らかの理由で、まったく自分の経歴や、いまの自分を偽っているのなら、それがこの本を元にした、コメットさん☆の「創作」とも考えられる。でも、なぜコメットさん☆はそんなことをしなくてはならないのか…。沙也加ママさんの疑問は、どんどん大きくなっていった。しかし、もし逆に、この本に書かれたことが、どこかの国にあった本当の話だとしたら…、「ハモニカ星国の王女」とは、コメットさん☆本人ではないか?。沙也加ママさんはそうも考えた。

沙也加ママさん:こんな偶然って、あるものなのかしら…。こんな本、買った覚えはないわ…。パパが買ってくるはずもない…。だいたい、この本には、どこにも出版社や、値段が書いていない…。変だわ…。

 沙也加ママさんは、ひとまずその本を、そっと寝室に持っていった…。

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★第84話:全てを越える家族の絆(前)−−(2002年12月中旬放送)

 コメットさん☆の持っていた本、「ハモニカ星国の歴史」を、たまたま目にし、一晩かけてじっくり読んだ沙也加ママさんは、本に書かれた「ハモニカ星国の王女」とは、実はコメットさん☆ではないかと思い、やがてそれはほぼ確信へと変わった。

沙也加ママさん:(でも、こんなことって、現実にあるのかしら?。)

 しかし、まだ最後のところまでは信じられない。

 一方、コメットさん☆は、ツヨシくんとネネちゃんを送り出したあと、本棚から1冊の本がなくなっていることに気付いた。

コメットさん☆:…あれ?、あの本がない…。ラバボー知らない?。

ラバボー:何だボ?。

コメットさん☆:「ハモニカ星国の歴史」…。ここの本棚から、なくなってるの…。

ラバボー:ええーっ?。あれは…、姫さまの秘密が、ほとんど書いてあるようなもの…。

コメットさん☆:…う、うん…。

ラバボー:だって、あれを景太朗パパさんや沙也加ママさんに読まれたら…、どういうことになるか、わからないボ。なんでそんな本、普通に本棚に入れておくんだボ?、姫さまはぁ。

コメットさん☆:そ、…そんなこと言ったって…。隠しておくわけにも行かないし…。

 コメットさん☆は、急に心配になった。今まで隠しておいた秘密が…。景太朗パパさんと、沙也加ママさんは、もう自分を受け入れてくれないかも…。もし自分が、この星の人間でないとわかったら…。ケースケも…。コメットさん☆は、力無くベッドに座った。

コメットさん☆:どうしよう…。

ラバボー:姫さま…。

 そこへ階段を上がる音がして、沙也加ママさんがやって来た。ラバボーはあわててティンクルスターの中に隠れる。

沙也加ママさん:コメットさん☆、ちょっといい?。

コメットさん☆:あ、はい…。

沙也加ママさん:…この本、コメットさん☆のでしょ?。

コメットさん☆:え…、えーと…、その…。

沙也加ママさん:なんでだか、リビングのソファーのところに落ちていたから…。どんな本か、つい読んじゃった。

コメットさん☆:……。

 コメットさん☆は、黙り込んだ。その表情には、動揺の色が隠せない。

沙也加ママさん:…その、面白い、小説よね?、これ。

 沙也加ママさんは、コメットさん☆の脇に立ち、わざと窓の外を見るようにしながら言った。努めて明るく。

コメットさん☆:沙也加ママさん…。

 しかし、コメットさん☆は、明るく返事を返すことは出来なかった。

沙也加ママさん:この本、返しておくわね。

 沙也加ママさんは、視線をコメットさん☆に戻すと、そっと本を差し出した。そして、何事もなかったかのように、コメットさん☆の部屋を出ていこうとしたが、その背中にコメットさん☆は声をかけた。

コメットさん☆:沙也加ママさん、待って…。あの、景太朗パパさんも、読んだんですか?、この本…。

沙也加ママさん:…え、ええ。…読んだわ。私と二人で…。

 沙也加ママさんも、少しばかりうろたえ、横顔で答えた。そして少し震えるような足で、階段を降りたとき、沙也加ママさんは、コメットさん☆が、「ハモニカ星国の王女」で、「他の星の人間」であると、100パーセント確信した。

 こうなってしまった以上、もう隠してはいられない。コメットさん☆は、そう思い、今まで長く景太朗パパさんと沙也加ママさんには、ちゃんと話していなかった「ホームステイ」の秘密と、自分がどこから来たのかを話すべきだと考えた。だが、もしかするとそれは、この家を出ていかなければならないことかもしれない。そう思うと、コメットさん☆はたまらなく心配になる。「誰が?。どうして!?」。そんな言葉が、頭の中を駆けめぐる。でも、その責任は、きっと自分にあるんだと、自分に言い聞かせるしかない。もしここにいられなくなって、星国に帰らなくてはならないとしても、これ以上うそをついているようなのはイヤだ。…そう考えたとき、コメットさん☆の心は決まる。

 夕食になって、コメットさん☆は、何となく食が進まなかった。だが、ツヨシくんとネネちゃんはいつものように、楽しそうだ。

ツヨシくん:今日ね、園で源ちゃんがね…。

ネネちゃん:ツヨシくんは、みいちゃんに、今日も追いかけられて…。

沙也加ママさん:源ちゃんはどうしたの?。

景太朗パパさん:ツヨシはそんなにモテモテなのか?。あっはっは…。

コメットさん☆:……。

 景太朗パパさんと、沙也加ママさんも、何もなかったかのように話をしている。しかしコメットさん☆は一人、なんだか話の輪に入れずにいた。ツヨシくんやネネちゃんが話しかけてきても、なんとなく生返事になる。それには、もしかすると、この食事が、藤吉家での最後の食事になるかもしれないという意識も、働いていた。

 そして夕食がすむと、コメットさん☆は片づけを手伝い、景太朗パパさんも洗い物を手伝った。ツヨシくんとネネちゃんが、自分たちの部屋に行ってしまうと、キッチンの空気が少し重くなった。いつもと違って、誰も口を開かない。その空気の中、コメットさん☆は思い切って口を開いた。

コメットさん☆:あ、…あの、景太朗パパさん、沙也加ママさん!。私の話、聞いてくれますか?。

景太朗パパさん:…コメットさん☆。

沙也加ママさん:……。

 二人は手を止めると、顔を見合わせ、それからコメットさん☆を真剣な顔つきで見た。コメットさん☆は、ドキドキして、本当はもう泣き出しそうだった。だが、そのドキドキは、景太朗パパさん、沙也加ママさんも同じなのだった。

沙也加ママさん:…いいわよ、コメットさん☆。じゃあ、リビングのいすで聞くわね。座って。

 沙也加ママさんの言葉にうながされ、コメットさん☆と景太朗パパさんは、リビングのソファーに腰掛けた。

コメットさん☆:景太朗パパさん…、沙也加ママさん…。私、本当は……。本当は…、留学生なんかじゃないんです…。私、…それどころか…、この星の人間でもない……。ごめんなさい…。

沙也加ママさん:…コ、コメットさん☆…。

コメットさん☆:今まで嘘ついていてごめんなさい…。私、母も昔来ていた地球って、どんなところか見たくて…。それで…、あの日鎌倉の駅前に…。

 コメットさん☆は、目の前の景太朗パパさんと、沙也加ママさんに「自分の正体」を、隠すことなく語りはじめた。自分がトライアングル星雲から来た、星国人であること、表向きは、他国の王子を見つけて、政略結婚するために地球に来たこと、今はその危機をくぐり抜けて、地球の人々の「希望や夢」を見つけ、それに向かって努力することの大事さを勉強するためにここにいること、星力という力を使うことができ、それは既にツヨシくんとネネちゃんには知られていること、いつかはハモニカ星国を継ぐために、帰る日が来るかもしれないこと…。

 景太朗パパさんと沙也加ママさんは、想像を絶する話に、最初かなりとまどった。何しろ、もう1年以上もホームステイしていた少女が、なんの前触れもなく、自分は地球人ではないと言うのだから。しかし、コメットさん☆の話があまりに真剣なので、黙って静かにその話を聞いた。いや、正しくは、ただ聞いているしかなかったのだ。そして、しばらくの沈黙の時が流れた。

景太朗パパさん:「星国」って…、この地球上の国の名前じゃなかったってことか…。

 景太朗パパさんが、ようやくつぶやいた。それを受けて、沙也加ママさんも…。

沙也加ママさん:やっぱりあの本に書かれていたことは、本当だったのね…。あ、あの大空の…、別の星から…、女の子が、うちにやって来るなんて…。…どうも最初に出会ったときから、ホームステイにしては学校にも行かないし…、とは思っていたけど、そんな秘密が…。

コメットさん☆:ごめんなさい…。

沙也加ママさん:…コメットさん☆は、何か悪いことをしに来たんじゃない。そうでしょ?。今までずいぶん私たちのこと、慕ってくれた…。…ちょっと整理して言えないけど…。コメットさん☆が、学校に行かなくても、私はそれでいいと思っていた。ツヨシとネネがとてもうれしそうにしていたし、私もなんだかうれしかったもの。年の離れた妹ができたみたいで。

景太朗パパさん:そうだ。ヨットで海難救助をした時、コメットさん☆を見かけた気が、ずっとしていたんだよ。何しろ持っていったはずもない、コメットさん☆のリュックがヨットにあったし、その中にさっき作ったとしか思えない、ママのいなり寿司が入っていたしね。あれは不思議だったなぁ。でもそういうことなら…。あの時、溺れかけたケースケを助けたのも、君だろう?。その「ほしぢから」というやつで。

コメットさん☆:知っていたんですか?。それならごめんなさい、景太朗パパさん…。…私ずっと黙っていて。ケースケを直接助けたわけじゃないですけど…、たしかにあの時、景太朗パパさんのヨットの近くにいました。

景太朗パパさん:…考えてみると、コメットさん☆が魔法使いなら、説明がつくことって、色々あるなぁ…。夜遅く出かけて、どうやって帰ってきているんだろうか、とか…、あ、だいたい、2階の部屋、どうやってあんなふうに模様替えしたんだろう…とか…。

コメットさん☆:ごめんなさい…。私、黙っていて…。

沙也加ママさん:そんなに謝らなくていいのよ、コメットさん☆。コメットさん☆もつらかったでしょ。魔法の力の秘密なんて、簡単に人に教えられるわけないだろうし、全く違った環境に、たった一人でやって来て…。私たちにとても遠慮してたんじゃない?。

コメットさん☆:…えっ?。…沙也加ママさん…。

沙也加ママさん:人と違う能力や力って、それを持っていない人からは、快く思われないときだってあるんだし。

コメットさん☆:…もし私がここにいることで、ご迷惑をかけてしまうなら、私星国に帰ります。星国の両親も、きっとわかってくれますから。

 コメットさん☆は、もう泣き出す寸前のような顔で、下を向いて言った。

沙也加ママさん:そんなこと気にしないで。よく私たちに話してくれたわ。まだずっとここにいて、ツヨシとネネの友だちでいてやってくれないかしら。それから、私たちの娘のように…。ね?。パパもそう思うでしょ?。

景太朗パパさん:うん。まだちょっと、実感がわかないけど…。あははは…。…コメットさん☆が不思議な力を持っていることも、遠い星からやって来たこともわかったよ。でもぼくもちょっと大きな子どもができたような気持ちだったんだ。どうしても帰らなければならない時が来るまで、この家にいてくれないかなぁ?。ツヨシやネネも気に入っているし…、うちにそんなお客様が来ていたなんて、夢のようだし…。…本当に、地球のほかにも、人が生活している星って、あったんだなぁ…。

コメットさん☆:…本当にいいんですか?。私うそついていたみたいで…。

沙也加ママさん:いままで通りでいいじゃない?。うふふ…。私たち世界に発表したりしないし、あなたの力を、悪いことに利用しようなんて、思わないわ。それとも…、私たちじゃ心配?。

コメットさん☆:いいえ!、そんなことないです。…ありがとうございます。今までお世話になって、ちゃんとお礼もできないで…。じゃあ…、まだ当分いてもいいでしょうか。

景太朗パパさん:もちろん!。あらためて歓迎するよ、コメットさん☆。当分宇宙の面白い話を聞かせてよ。あ…、それに、ケースケも喜ぶよ。

コメットさん☆:あっ。…そ、そうですね。

沙也加ママさん:…ツヨシとネネが、いろいろ困らせると思うけど、またこれからもお願いねコメットさん☆。

コメットさん☆:はいっ!。

景太朗パパさん:あ、でもコメットさん☆は王女様だから、「コメット王女様」って呼ばなきゃいけないかな。家の手伝いしてもらうなんて、恐れおおいような。

コメットさん☆:そんな…、今まで通りでお願いします。…とってもうれしいです。いままでだまっていて、ごめんなさい。

 そこまで言うと、コメットさん☆は、涙があふれてしまった。

景太朗パパさん:いいんだよ。ぼくたちも、コメットさん☆のことを、よく聞いてあげなくてごめんよ。ことがことだけに、黙っているのはつらかっただろう。これからは、何か困ったことや心配なことがあったら、何でも言っていいんだよ。ぼくに言えないようなことなら、ママにでも。決してコメットさん☆の秘密を、知らない人にしゃべったりしないから。

沙也加ママさん:本当にここはコメットさん☆の、もう一つのおうちなんだから、何も遠慮しないでね。いやなことや、さびしいこと、つらいことは一人で我慢しないで、私たちに相談してね。

コメットさん☆:ありがとう…ございます…。…うっ…ぐすっ…うっ…うっ……。

沙也加ママさん:泣かないで、コメットさん☆。かわいそうに、緊張していたのね。

 せきを切ったように涙を流すコメットさん☆を、沙也加ママさんはそっと抱いた。景太朗パパさんは、すっと立ち上がると、コメットさん☆の背中を、とんとんと軽く叩いて言った。

景太朗パパさん:コメットさん☆、今夜はお祝いだよ。ママ、ぼくはちょっと車で、ケーキを買いに行ってくるよ。まだお店開いてるからね。

沙也加ママさん:うふふ…。パパったら…。いってらっしゃい。お願いね…。

 コメットさん☆は自分が、この家族の一員になったときから、強い絆で結ばれていたことをあらためて知った。コメットさん☆の涙は、今、新しい希望のかがやきに…。

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★第85話:全てを越える家族の絆(後)−−(2002年12月下旬放送・年末50分スペシャル)

 自分がハモニカ星国の王女であり、地球に「かがやき」探しのためにやってきたことを、ふとしたことから、とうとう景太朗パパさんと、沙也加ママさんに話したコメットさん☆。それを聞いた景太朗パパさんと沙也加ママさんは、コメットさん☆が自宅に「ホームステイ」していた本当の理由を、ごく親しい人に明かすかどうか考えた。

景太朗パパさん:…どうするかなぁ、ママ。正直言うと、コメットさん☆が異星人だとは、さすがに思わなかったよ…。

沙也加ママさん:…そうね…。まったく普通の女の子なんだもの…。梅干しは少し苦手なようだけど…。

景太朗パパさん:あははは…、梅干しかぁ…。…なんて、笑っている場合じゃないよね。

沙也加ママさん:そうね…。

景太朗パパさん:例えばケースケはどうする?…。

沙也加ママさん:ケースケに、「コメットさん☆は異星人だったぞ」って言うわけ?。

景太朗パパさん:…びっくりして、気味悪がるかもしれないなぁ…。それに…、そんな必要ないよねぇ…。

沙也加ママさん:婚約するとかなら、いろいろ問題かもしれないけど…。今のうちは、そんなことを知らせる必要もないんじゃない?。

景太朗パパさん:そうだよねぇ…。…やっぱり、ごく親しい人にも、ないしょにしておいた方がいいんだろうね。

沙也加ママさん:わざわざ知らせる必要もないし…。それにコメットさん☆の、望まない人に、教えることになるのはいけないわ。

景太朗パパさん:…よし。わかった。このことは、うちの中だけの秘密にしておこう。いっさい誰にも言わない。

沙也加ママさん:そうね。ツヨシとネネにも、厳重に言っておくわ。

景太朗パパさん:うん。そのほうがいいね。

 沙也加ママさんは、その日お店を臨時に休業にし、景太朗パパさんも、製図の仕事を少しのばして、コメットさん☆のことを二人話し合った。

 一方、コメットさん☆も、景太朗パパさんと沙也加ママさんに、自分と星国の秘密を語らなければならなくなったことを、星国の王様と王妃さまに報告することにした。

コメットさん☆:…それでねお母様、私、うそついているのは、もうどうしてもイヤだったから、景太朗パパさんと沙也加ママさんには、星国のこと、私のこと、お父様のこと、お母様のこと、しゃべっちゃった…。…ごめんなさい…。

王妃さま:まあコメット、思い切ったことになったのですねぇ…。あなた、あなた…。

王様:ああ、コメットか?。わしじゃ。コメットのことだから、いずれそういうこともあるかもしれぬと、実は思っておったが…。少々早かったなぁ。

ヒゲノシタ:王様!、そんな気楽なことをおっしゃっていていいんですか?。星国の秘密が、地球人にわかってしまったのですぞ!。

王様:ヒゲノシタ、耳のそばでそう大きい声を出さんでくれ。

王妃さま:ヒゲノシタ、今度のことは、コメットが考えて決めたこと。仕方ありませんよ。

ヒゲノシタ:…うーむ…。姫さまはなぜ…。いや、ラバボーは、何をやっとるんじゃ。ラバピョンと遊んでばかりおって、すっかり姫さまをほったらかして。もう星国に連れ戻すべきですな。

王妃さま:ヒゲノシタ、ラバボーのことは、今回関係ないのではないですか。少し落ち着いて。それに、これでコメットがどうにかなるわけではありませんよ。ちゃんと景太朗さんも、沙也加さんも、今まで通り、コメットを受け入れてくれたんだそうではないですか。

コメットさん☆:ヒゲノシタ、私が本を本棚に入れておいたのは、不注意だったと思うけど…。いつまでも、何か秘密にしておくのはイヤだった。だから、自分で考えて決めたの。

ヒゲノシタ:うううーむ…。

王様:姫が自分で考えて決めたことじゃ。それにツヨシくんとネネちゃんのご両親が、コメットの秘密を知ったというだけではないか。地球上に知れ渡ったわけではあるまいし。わしは今回のことは、これでよいと思うのだが、妃はどう思うかね?。

王妃さま:わたくしも、ただちに何か問題が起こるとは思えませんわ。幸い、景太朗さんも沙也加さんも、コメットを、今まで通りにして下さるようですし…。だからコメット、まだまだ一生懸命、地球でいろいろなものを見たり、聞いたり、体験したりしていらっしゃい。帰ってくるのは、いつでも出来るのですから。ヒゲノシタはどうですか?。

ヒゲノシタ:あー、王様と王妃さまが、そうおっしゃるなら、まあ仕方ないですな…。

コメットさん☆:お父様、お母様ありがとう…。私安心した…。叱られたらどうしようって思った…。

 コメットさん☆は、ほっとしたような表情で話した。

王様:しかし、こうなったからには、わしが一度地球に行って、ごあいさつをしてこないといかんな…。コメットや、景太朗さんと沙也加さんに、近々おじゃまして、ごあいさつ申し上げたいと伝えておくれ。ヒゲノシタ、地球への出発の準備を頼む。

王妃さま:あら、あなた、地球にお出かけですか?。…そうですね、今まで何もごあいさつ申し上げなかったから…。きちんと一度お目にかかる必要がありますね。

ヒゲノシタ:わかりました。準備いたします。姫さま、姫さまも王様がお出かけですから、そちらの方々にお知らせ下さい。

コメットさん☆:わかった。ヒゲノシタありがと…。お父様が、地球にいらっしゃるの?。わあ、楽しみ…。

王妃さま:まあ、コメットったら。もう楽しみとか言っているわ。うふふふふ…。

 

 王様は数日後、星のトレインで地球に向かった。おみやげを持って藤吉家に。もう隠す必要はないので、星のトレインは、藤吉家のウッドデッキをホームにして、家の前まで乗り入れることになった。

景太朗パパさん:コメットさん☆、その列車のようなのは、ここにやって来るの?。レールは?。

コメットさん☆:はい。景太朗パパさん、ここにやって来ます。レールは…、いらないと思います。あはっ…。

沙也加ママさん:列車って?。列車が宇宙を飛ぶの?。

コメットさん☆:はい。私も、実はそうやって来ました。

景太朗パパさん:…はあ。ママ、わかるかい?。

沙也加ママさん:ふふふふ…。ぜんぜん…。イメージわかないわ。でもまあ、待ちましょ。コメットさん☆、もうすぐ到着でしょ?。

コメットさん☆:はい。

ラバボー:来たボ!。

沙也加ママさん:あっ…。

景太朗パパさん:おっ!。

 ウッドデッキの前に、並んで待っていた景太朗パパさんと沙也加ママさんは、空に輝くまばゆい光にびっくりした。そもそもラバボーの存在も、二人の理解を越えていたのだが、何もかもが不思議なことなので、二人とも少々のことでは驚かなくなっていた。

ツヨシくん:あっ、ぴゅーんて来たよ!。

ネネちゃん:ほんとだ!。ぴゅーん!!。ツヨシくん見た?。

ツヨシくん:うん。見た。

 星のトレインは、みるみる近くなってきて、藤吉家の前の坂を上がり、ウッドデッキの前にもうもうと煙を立てながら停車した。

景太朗パパさん:うわあ…、本当に列車のようだ…。円盤じゃないのか…。

沙也加ママさん:…こ、これに本当に王様が?。ほんと、UFOじゃないのね。

コメットさん☆:はい。母は円盤に乗って、地球に来たらしいですけど…。今のハモニカ星国は、これを使います。

 静かにドアが開き、ステッキを持った王様が、スーツで姿をあらわした。1月以来の再会ということになる。

ツヨシくん:わあ、王様?。

ネネちゃん:王様って、コメットさん☆のパパ?。

コメットさん☆:うん。そうだよ。…お父様っ!。

王様:おお、コメットか。久しぶりじゃ。あんまり変わらんようじゃな。みなさんこんにちは。私はハモニカ星国国王です。そちら様が、景太朗さんと沙也加さんですな。どうぞよろしくお願いいたします。

 王様はドアからウッドデッキに降り立つと、帽子を取ってあいさつした。コメットさん☆は、そっと王様に抱きついた。

王様:こ、これ、コメット…。まったく甘えん坊な娘でしてな。ははは…。

 王様は、コメットさん☆をそっと引き離した。そしてあらためてあいさつをする。

王様:景太朗さん、そして沙也加さん。今まで娘を黙ってお預けしたままにしており、誠に申し訳ありませんでした。どうかお許し下さい。

景太朗パパさん:あ、いや、そんな、どうぞ頭をお上げ下さい。

沙也加ママさん:お父様、どうかお気になさらずに。まあ、こんなところで立ち話もなんですから、どうか中へ。いろいろ勝手が違いますけれど。

王様:はっ。恐縮です。このように押し掛けてきて来てしまい、申し訳ありません。

 王様はいつになく緊張していた。

 リビングに腰を落ち着けた王様は、帽子を取り、ステッキを置いて、前に身を乗り出した。景太朗パパさんも、手を前で組んで座る。コメットさん☆も王様のとなりに。ツヨシくんとネネちゃんは、いつもと違う雰囲気に、キッチンでお茶を入れているママのそばから、ちらちらとコメットさん☆のほうを見ている。

王様:まずは、今まで娘をお預かりいただき、誠にありがとうございます。ちゃんとしたお礼も出来ませんで、また1月には、大変な失礼をしつつお別れすることになり、どうか非礼をお許し下さい。

景太朗パパさん:いえ。どうかお気になさらずに。コメットさん☆は、他の星からやって来た女の子だとまでは思いませんでしたが、私どももいろいろと楽しい思いをし、勉強になることがありました。うちには、ツヨシとネネという子どもがおりますが、その子たちのお姉ちゃんがわりになってもらって、これまたいろいろ示唆を与えていただいたと思っています。どうかこれからも、よろしくお願いいたします。

沙也加ママさん:さあ、お茶をどうぞ。王様も、お疲れでしょう?。

王様:は。ありがとうございます。…どうかお構いなく…。

沙也加ママさん:…その、星の国から、ここまでは遠いのでしょう?。どのくらいかかりますか?。

王様:わがハモニカ星国から、ここまで距離がどのくらいかはよくわかりませんが、かなり遠いことは確かです。時間は…そうですな、およそ数時間というところでしょうか…。

景太朗パパさん:数時間!?。…それで、遠いのですか?。

王様:いかにも。しかし急げば、数十分で行き来することも、出来なくはないですな。

沙也加ママさん:ええっ!?。

 沙也加ママさんと景太朗パパさんは、びっくりして顔を見合わせた。

コメットさん☆:私が来たときには、夜に星国を出て、朝早く鎌倉に着きましたよ。

景太朗パパさん:そ…、そうすると、時差はどうなっているのかな?。

王様:時差というものは、なくすることも出来ますな。逆に付けることもできますし…。

沙也加ママさん:パパ、私たちが考えられるような世界じゃないのかも…。

景太朗パパさん:あははは…、残念ながらそういうことのようだね…。

沙也加ママさん:あの、王様、私、たまたまコメットさん☆が持っていた「ハモニカ星国の歴史」という本を、読んでしまったのです。

王様:はあ。そのように娘より聞きました。

沙也加ママさん:ごめんなさい…。勝手に読む気はなかったんですが…。うちのネネが、コメットさん☆の部屋から持ち出して見ているうちに、このソファーのところに置き忘れたのだそうです。それでつい、どんな本かと…。

王様:なるほど。そうでしたか…。…あの本に書かれていることは、わがハモニカ星国と、星国が属するトライアングル星雲で、実際に起こったことが書かれた歴史そのものです。したがって、「コメットT世」とは、この子の母のことであり、「コメットU世」とは、この子の叔母、「コメットV世」とは、コメットのことですな。つまり、わが星国の女の王族は、なぜか続いて地球に留学することになっております。特にそう決まっていることではないのですが…。

景太朗パパさん:そうでしたか…。私も実は本を読ませていただいたのですが、星国というところは、1つの星で1つの国なのですか?。

王様:そういうことなのですが、1つの星だけではなくて、いくつかの星が集まって、星系を形成し、それ全体が星国と呼ばれておりますな。

景太朗パパさん:ほう。なるほど。天文のほうは専門でないので、なかなか難しい。あはははは…。

沙也加ママさん:星国の紛争というのは?。

王様:あの本は、星国の暦で2年ほど前に発行されたものなので、多少記述が古いのですが…、トライアングル星雲には、3つの星国がありましてな、星系の大きさとしては、タンバリン星国が最も大きく、次いでわがハモニカ星国、一番小さいのがカスタネット星国となっているのです。かつて、3つの星国は、1つの大きな星系でした。しかし、私の生まれるもっと前に、紛争が起きましてな、3つに分裂してしまったのです。星の力を、間違ったことに使いました。それでも私らの先祖たちは、なんとかそれを安定させることに成功しました。ところが、タンバリン星国は近年、再び3つの星系を統一すべきだと、強く主張するようになっておりますな。それがどうなっていくのか…。タンバリン星国の中でも、いろいろな動きがあるようですが…。

沙也加ママさん:そうでしたか…。なかなか争いごとは、なくならないのですね…。

 ツヨシくんとネネちゃんはそばにしばらくいたが、内容が難しい話だったので、コメットさん☆がそっと部屋に連れていき、いっしょに遊んであげることにした。その間、王様は、ハモニカ星国の風土について語り続けた。沙也加ママは本に書いてあったことと、景太朗パパはコメットさん☆の言ったことと、それぞれ一致した内容に、あらためて驚いた。

 ひとしきり語り終えた王様は、コメットさん☆を呼んだ。

王様:コメット、コメットや。これを頼む。

コメットさん☆:はーい、お父様…。…これ何?。

王様:これで、力うどんを作っておくれ。

コメットさん☆:ち、力うどん?。

 コメットさん☆は面食らった。

王様:おみやげじゃ。みなさんもいかがですかな?。わが星国の餅米と小麦で作った力うどんを。

景太朗パパさん:ええ?、力うどんですか?。それは面白いですね。ママ、だしあるかな?。

沙也加ママさん:え、…ええ。用意は出来るけど…。

コメットさん☆:じゃあ、私作ります。

沙也加ママさん:うふふふ…。私もいっしょに作るわね。

景太朗パパさん:それなら、ぼくも薬味の用意をするかな。畑でちょっと収穫してくる。

沙也加ママさん:お願いね、パパ。

 なんと、王様のおみやげは、星国のモチ米と小麦で作ったお餅とうどんだったのだ。さっそく夜は、コメットさん☆の作る、星国お餅入りアツアツの「力うどんパーティー」になってしまった。王様も、今日ばかりはお餅を3つ入れて。

 

 夜も更けて、王様は藤吉家に一晩泊まることになった。王様は帰ろうかと思ったのだが。

景太朗パパさん:どうぞ、泊まっていってください。あ、警護の方とかいらっしゃいますか?。

王様:警護…。そのような者はおりません。それは供の者のことですか?。

景太朗パパさん:あ、まあそんなものですが…。

王様:それならおりません。星のトレインには、機関士と車掌が乗っておりますが、彼らは列車に泊まる決まりなのだそうです。

景太朗パパさん:ほう。なんだか、何から何まで興味深いですね…。もっとも、この地球上だって、ふるさとが違えば、習慣はずいぶん違うし、国が違えばなおさら…。星が違うなら、当たり前ですかね。あはははは…。

王様:わっはっは…。いかにも。景太朗さんも、面白いことをおっしゃいますな。

沙也加ママさん:コメットさん☆のお父様、今夜はもう、そう呼ばせていただきますね。どうぞお風呂がわきました。お入り下さい。その間に、お布団を敷いてきますので…。

王様:どうもありがとうございます。なんだか押し掛けてしまったようで、申し訳ありませんな…。

沙也加ママさん:コメットさん☆、お父様をお風呂にご案内してね。

コメットさん☆:は、はい…。お父様、きっとびっくりするよ。

王様:うん?。どうしてじゃ?。

コメットさん☆:お湯がね、星国とは全然違うの。

王様:お湯が?。うーむ。

 王様はこのあと、透明で、やや熱めのお湯にびっくりすることになる。思わずまわりを見回してしまうほど…。

 

 コメットさん☆の部屋に布団を敷いてもらった王様は、何年かぶりかで娘であるコメットさん☆と、同じ部屋で寝る。ひとしきり思い出話に花咲く親子二人。

王様:ここのうちの人たちは、みな親切じゃな。安心したぞ。

コメットさん☆:メモリーボールで見てなかったの?、お父様。

王様:そ、そりゃ見ておったが…。実際に会ってみないと、わからんじゃろ。

コメットさん☆:そっか…。そうだね…。みんな親切だよ。

王様:…コメットは、地球に来てよかったと思っておるか?。

コメットさん☆:うん。もちろん。楽しくて、面白いことがたくさん…。お友だちもたくさん出来たし…。

王様:寂しいことはないか?。

コメットさん☆:…時にはあるけど…。大丈夫。スピカおばさまも、相談に乗ってくれる…。

王様:そうか。それはよかった…。わしも、今回のことは、どうなることかと思っておった。藤吉さんたちが、全てを理解した上で、なお、お前を受け入れてくれる…。わしもうれしかったよ。

コメットさん☆:うん…。あの本、そこの本棚に入れておいたんだけど…。まさかこんなふうになるとは思わなかった…。でも…、これで景太朗パパと沙也加ママには、隠しておかなければならないことがなくなったから…。今まで、星力使うときとか、心配かけちゃっていたかも…。そう思うと、これでよかったのかもって…。

王様:…そうじゃな。これでよかったんだよ。これでな。

コメットさん☆:お父様…。

王様:うん?。なんじゃ?。

コメットさん☆:…ありがとう…。

王様:わしは何もしておらんぞ?。

コメットさん☆:ううん。お父様が来てくれて、私うれしかった…。

王様:そうか…。わしは、藤吉さんに、ちゃんとあいさつしておかないと、…と思ってな…。しかし、コメットや、お前がずいぶん成長していたんで、安心したよ。親として、それは何にも代えがたい喜びじゃ。

コメットさん☆:……。

 コメットさん☆は、少し感激の涙が出そうになってしまい、黙って天井を見た。

 翌日、お世話になったお礼をしつつ、星のトレインで帰る王様。景太朗パパさんと沙也加ママさんの、「またちょくちょく来て下さいね。ウッドデッキのプラットホーム、空けておきますから」との言葉に、王様はまた感激した。そして星のトレインは、藤吉家ウッドデッキ前をあとにした。手を振って見送るコメットさん☆を残して…。

 夕方、一日庭に止まっていた星のトレインについて、近所の人から「何ですかあれは?」と聞かれた景太朗パパさんは、「遊園地の汽車を買いました」と答えておいたと言い、沙也加ママさんは「ちょっと子どもの頃に帰ったみたいで、ワクワクするわ」と言っているのを、温かい気持ちで聞くコメットさん☆であった。明日からはコメットさん☆と藤吉家の、新しい関係が始まる…。

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☆2003年前半分に続く

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