車内形式番号板の世界

 車内形式番号板とは、車内にその「車輌の形式と車輌の番号」(または番号のみ)を表示するための板状部品です。車輌の形式や車号は、かつて全て壁に手書きされていましたが、おおむね1960年代くらいから、シールやアクリル板を使って表示するようになっています(それまでに作られた車輌については、後年改造などされた場合以外そのままです)。しかしその様式は、鉄道会社により、また車種により多種多様で、時代ごとに異なる場合もあり、収集者泣かせでもあります。ここでは、そのような奥深い「車内形式番号板」(以下「車号板」と呼びます)について、収集した資料から解説を試みたいと思います。
 なお、ここに記載されている記事に関して、各鉄道会社とは何の関係もありません。独自的な研究ですので、各鉄道会社などには、問い合わせなどなさらないようにお願いいたします。また、当然ですが、ここで紹介する車号板のうち、車輌に取り付けられている状態のものは、実際に手にしたわけではないので除外するとして、不正に入手したものは一つもありません。

1.取付の方法
 上にも書きましたが、車輌の形式・番号は、旅客車の場合、もともと壁に直接書かれていました。これは優等車でも一般車でも変わりはありません。特に旅客車が、ほとんど客車のみであった時代はその傾向が強く、一等車は彫刻とか、そういうことはありません。見事な字体でペイントで書かれていたに過ぎません。それが板状の部品になるのは、おそらく1958年の「こだま形電車」こと、151系(当時は20系)電車や、初代ブルートレインこと、20系客車のデビューからではないかと思います。私鉄電車などでは、それ以前にも板に手書きした例があったようですが、アクリル彫刻や印刷の技術が使われるのは、151系電車や20系客車からと考えられます。
 さて、形式や車号を板にして、壁に取り付けることになるわけですが、どうやって取り付けるか、ということが問題になります。地球には引力がはたらいていますので、壁に「置いた」だけでは、ずり落ちてしまうからです。

●ネジと接着により取り付ける
 この方法は特に国鉄(→JR)の車輌で見られた方法です。盗難にはやや弱いですが、そこそこ有効な方法です。ネジが外れても、接着されているので、それだけでは落ちません。また改造や更新などで、取付位置を変更したい場合にも、比較的手数を掛けずに変更できますね。

リベット取付形式番号板の画像

 画像はネジと接着により取り付けられた、103系の車号板。接着には強力な両面テープが使われています。なお、本品は廃車後取り外されて販売されたものを、ネジと両面テープでアルミデコラ板に取り付け直したもので、その意味では「再現品」です。

●リベットと接着により取り付ける
 この方法は、特に盗難や破損に対して有効でしょう。リベットは、裏側と表側両方の頭をつぶして、平らに仕上げてあり、簡単に取れてしまうことはありません。接着と併用することで、より強力になります。

リベット・接着取付の車号板画像

 横浜市営地下鉄の廃車となった1113号のもの。両端がリベットで止められているのがわかります。これはドライバーでは回せず、また回したところで外れません。

リベット・接着取付の車号板画像

 本品は、車号板が付いた点検ブタごと入手したものですが、車号板と点検ブタのアルミデコラ板の間に、わずかな薄クリーム色の部分が見えるかと思います。この部分が強力両面テープによる接着部分です。これで固定をより強固なものにしています。

リベット・接着取付の車号板画像

 国鉄からJR東日本に継承された、モハ211形の車号板。両端がリベット止めですが、裏には両面テープが使われています(当然取り外してみたわけではありませんが、壁から車号板本来の厚みよりわずかに盛り上がって見えるのと、各地の販売品を見た経験から間違いありません)。

●直接壁に記入
 これは比較的最近まで実例がありました。取り外せないという点から、ある意味確実な方法ですね。国鉄の車輌では、101系電車の大部分まで、旧形客車の大部分、ディーゼルカーや電気機関車に至るまで、かなり多くの車輌で見られました。問題点としては、壁の塗装を塗り替える場合には、毎回書き直しが必要ことと、通常垂直面である壁に、所定の字体・大きさで書き込むので、書き込む人に熟練が必要であるなど、手間がかかることがあげられると思います。そのため徐々に板に記入して貼る方式が、普及したのだと考えられます。

オハフ61形の壁部分の画像です

 画像が小さくて恐縮ですが、オハフ61形3055号の壁に書かれた表記。旧形客車や旧形電車などは、ほとんどこの方式です。ナハ10系、オハ35系、スハ43系、72系、101系電車などで、後年アクリルプレートに交換された車輌が存在します。

●接着によって取り付ける
 接着剤やテープの発達により、可能になったと思える方法です。簡単にはがれてしまう粘着力では、長期間の車号板保持が難しく、盗難にも弱い方法です。しかし、簡便なためか、割と広く行われています。

壁に接着された車号板の画像です

 壁に両面粘着テープと思われる材料で貼られたクモハ200形の車号板。左側壁に、ネジを埋めたあとが見え、本品は盗難代用品であることがわかります。両端にネジやリベットが見えないのが特徴。画像提供:EH500氏。

接着により取り付けられた車号板の画像

 同様な方法で取り付けられていたクハ111形の車号板。廃車で取り外されたものです。表からははっきりわかりませんが…。

接着により取り付けられた車号板の画像

 裏を見れば一目瞭然。全面に両面テープ状の粘着シートがついています。保管するにはポリシートでも貼り付けておかないと、どこにでも貼り付いてしまいます。

●ネジのみで取り付ける
 簡単な方法ではありますが、盗難の可能性がないところ、あるいは破損の危険も少ないところでないと、心もとない方法です。新幹線に比較的多用されていました。

ネジで取り付けられていた新幹線の車号板画像

 新幹線200系の車号板。字体がやや特殊ですが、字体のところで取り上げます。表側はネジ+接着タイプと変わりません。両端にネジ穴があります。

ネジで取り付けられていた新幹線の車号板画像

 裏面を見ると、全く粘着材が付いていた形跡が見あたりません。0系、100系までの国鉄時代の新幹線、また300系によく見られます。
※なお、例外的に新幹線でも、両面テープを併用していた例が見つかりましたので、ご紹介します。

新幹線車号板の画像です

新幹線車号板の画像です

 少数ではありますが、新幹線でも、このように両面テープを併用していた車輌があるようです。これはメーカーによる差異かもしれません。

●リベットのみで取り付ける
 これは小田急電鉄などに例がありますが、見た目では断定が難しいです。一つの方法として存在したという程度でしょうか。

小田急電鉄の車号板画像です

 小田急の2000系電車の車号板です。小田急はなぜか伝統的にリベットのみで、接着剤や粘着テープを併用しない傾向にあります(近年の車輌や更新車は例外。位置決めのために薄手の両面テープを使った例や、ロマンスカーの更新車などはJR車同様、しっかりとした粘着テープを使用している例があります)。この方法は、リベットのみで両端を止めるため、破損に弱いのと、リベットの止め方に不具合があると、外れてしまう(盗まれてしまう)リスクがあることが問題でしょうね。一方工作としては比較的楽と思われます。粘着材の木場にほこりがたまるという問題もないと考えられます。このような方法で車号板を取り付けているのは、他に阪急の比較的古い系列の未更新時代が挙げられます。

阪急3512号の車号板画像

 阪急電鉄3512号の車号板。四隅にリベット跡がありますが…。

阪急3512号の車号板画像

 裏面には、粘着剤などの跡は見られません。

●シールで壁に貼る方法
 20世紀末あたりから一般的な方法になりましたが、かつては国鉄のキハ58系中期形などでも、印刷したシールを使用していた時期があります。そのため技術的には目新しいものではありませんが、1輌ごとに異なる番号を、いちいち印刷するのは、割と手間がかかると思われます。プリンター技術の発展と関係が深いのでしょうか。

シールによる車号表示の画像です

 元の車号板盗難により、統一様式のシールになったモハ200形試作車の例です。それすらはがされそうなところが何とも…(左上角)。車内清掃などの影響を受けなければ、合理的な方法ではあります。画像提供:EH500氏。

シールによる車号表示の画像です

 最近の電車は、車内の製造銘板も含めてシール化されている例が目立ちます。まあ、まとめてすっきりはしていると思います。趣味者の収集対象にはなりにくいでしょうが…。画像は209系950番台として登場後、E231系900番台となった車輌のもの。改番も上からシールの貼り重ねで簡単にすませられます。微妙に色が合っていないところが改番の証。走行中の電車内でしたので、写真がぶれました。


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