1.取付の方法
上にも書きましたが、車輌の形式・番号は、旅客車の場合、もともと壁に直接書かれていました。これは優等車でも一般車でも変わりはありません。特に旅客車が、ほとんど客車のみであった時代はその傾向が強く、一等車は彫刻とか、そういうことはありません。見事な字体でペイントで書かれていたに過ぎません。それが板状の部品になるのは、おそらく1958年の「こだま形電車」こと、151系(当時は20系)電車や、初代ブルートレインこと、20系客車のデビューからではないかと思います。私鉄電車などでは、それ以前にも板に手書きした例があったようですが、アクリル彫刻や印刷の技術が使われるのは、151系電車や20系客車からと考えられます。
さて、形式や車号を板にして、壁に取り付けることになるわけですが、どうやって取り付けるか、ということが問題になります。地球には引力がはたらいていますので、壁に「置いた」だけでは、ずり落ちてしまうからです。
●ネジと接着により取り付ける
この方法は特に国鉄(→JR)の車輌で見られた方法です。盗難にはやや弱いですが、そこそこ有効な方法です。ネジが外れても、接着されているので、それだけでは落ちません。また改造や更新などで、取付位置を変更したい場合にも、比較的手数を掛けずに変更できますね。
画像はネジと接着により取り付けられた、103系の車号板。接着には強力な両面テープが使われています。なお、本品は廃車後取り外されて販売されたものを、ネジと両面テープでアルミデコラ板に取り付け直したもので、その意味では「再現品」です。
●リベットと接着により取り付ける
この方法は、特に盗難や破損に対して有効でしょう。リベットは、裏側と表側両方の頭をつぶして、平らに仕上げてあり、簡単に取れてしまうことはありません。接着と併用することで、より強力になります。
横浜市営地下鉄の廃車となった1113号のもの。両端がリベットで止められているのがわかります。これはドライバーでは回せず、また回したところで外れません。
本品は、車号板が付いた点検ブタごと入手したものですが、車号板と点検ブタのアルミデコラ板の間に、わずかな薄クリーム色の部分が見えるかと思います。この部分が強力両面テープによる接着部分です。これで固定をより強固なものにしています。
国鉄からJR東日本に継承された、モハ211形の車号板。両端がリベット止めですが、裏には両面テープが使われています(当然取り外してみたわけではありませんが、壁から車号板本来の厚みよりわずかに盛り上がって見えるのと、各地の販売品を見た経験から間違いありません)。
●直接壁に記入
これは比較的最近まで実例がありました。取り外せないという点から、ある意味確実な方法ですね。国鉄の車輌では、101系電車の大部分まで、旧形客車の大部分、ディーゼルカーや電気機関車に至るまで、かなり多くの車輌で見られました。問題点としては、壁の塗装を塗り替える場合には、毎回書き直しが必要ことと、通常垂直面である壁に、所定の字体・大きさで書き込むので、書き込む人に熟練が必要であるなど、手間がかかることがあげられると思います。そのため徐々に板に記入して貼る方式が、普及したのだと考えられます。
画像が小さくて恐縮ですが、オハフ61形3055号の壁に書かれた表記。旧形客車や旧形電車などは、ほとんどこの方式です。ナハ10系、オハ35系、スハ43系、72系、101系電車などで、後年アクリルプレートに交換された車輌が存在します。
●接着によって取り付ける
接着剤やテープの発達により、可能になったと思える方法です。簡単にはがれてしまう粘着力では、長期間の車号板保持が難しく、盗難にも弱い方法です。しかし、簡便なためか、割と広く行われています。
壁に両面粘着テープと思われる材料で貼られたクモハ200形の車号板。左側壁に、ネジを埋めたあとが見え、本品は盗難代用品であることがわかります。両端にネジやリベットが見えないのが特徴。画像提供:EH500氏。
同様な方法で取り付けられていたクハ111形の車号板。廃車で取り外されたものです。表からははっきりわかりませんが…。
裏を見れば一目瞭然。全面に両面テープ状の粘着シートがついています。保管するにはポリシートでも貼り付けておかないと、どこにでも貼り付いてしまいます。
●ネジのみで取り付ける
簡単な方法ではありますが、盗難の可能性がないところ、あるいは破損の危険も少ないところでないと、心もとない方法です。新幹線に比較的多用されていました。
新幹線200系の車号板。字体がやや特殊ですが、字体のところで取り上げます。表側はネジ+接着タイプと変わりません。両端にネジ穴があります。
裏面を見ると、全く粘着材が付いていた形跡が見あたりません。0系、100系までの国鉄時代の新幹線、また300系によく見られます。
※なお、例外的に新幹線でも、両面テープを併用していた例が見つかりましたので、ご紹介します。
少数ではありますが、新幹線でも、このように両面テープを併用していた車輌があるようです。これはメーカーによる差異かもしれません。
●リベットのみで取り付ける
これは小田急電鉄などに例がありますが、見た目では断定が難しいです。一つの方法として存在したという程度でしょうか。
小田急の2000系電車の車号板です。小田急はなぜか伝統的にリベットのみで、接着剤や粘着テープを併用しない傾向にあります(近年の車輌や更新車は例外。位置決めのために薄手の両面テープを使った例や、ロマンスカーの更新車などはJR車同様、しっかりとした粘着テープを使用している例があります)。この方法は、リベットのみで両端を止めるため、破損に弱いのと、リベットの止め方に不具合があると、外れてしまう(盗まれてしまう)リスクがあることが問題でしょうね。一方工作としては比較的楽と思われます。粘着材の木場にほこりがたまるという問題もないと考えられます。このような方法で車号板を取り付けているのは、他に阪急の比較的古い系列の未更新時代が挙げられます。
阪急電鉄3512号の車号板。四隅にリベット跡がありますが…。
裏面には、粘着剤などの跡は見られません。
●シールで壁に貼る方法
20世紀末あたりから一般的な方法になりましたが、かつては国鉄のキハ58系中期形などでも、印刷したシールを使用していた時期があります。そのため技術的には目新しいものではありませんが、1輌ごとに異なる番号を、いちいち印刷するのは、割と手間がかかると思われます。プリンター技術の発展と関係が深いのでしょうか。
元の車号板盗難により、統一様式のシールになったモハ200形試作車の例です。それすらはがされそうなところが何とも…(左上角)。車内清掃などの影響を受けなければ、合理的な方法ではあります。画像提供:EH500氏。
最近の電車は、車内の製造銘板も含めてシール化されている例が目立ちます。まあ、まとめてすっきりはしていると思います。趣味者の収集対象にはなりにくいでしょうが…。画像は209系950番台として登場後、E231系900番台となった車輌のもの。改番も上からシールの貼り重ねで簡単にすませられます。微妙に色が合っていないところが改番の証。走行中の電車内でしたので、写真がぶれました。