江ノ電の車輌とその沿革

The current train's history and the photograph

「コメットさん☆」との関連項目は、青色字で記載しています。


 江ノ電には、現在15編成の電車が走っています。全て連接車と呼ばれる3つの台車で2つの車体を支える構造です。この構造は、カーブが急で多い、江ノ電の線路条件には合致しています。この連接車の編成を2本つないで、4輌編成としたり、単独の2輌編成で運転されています。

 現在全ての編成同士は、車輌の形が異なっても連結可能で、そのため旧形の300形と最新の新500形が4輌編成を組むということもありえます。ここでは、全在籍車輌を簡単に紹介します。画像もあるものについては、紹介するようにします。またこのページの親ページは、「コメットさん☆」についてですので、それに関係し既に廃車になった一部の車輌も、現在の在籍車輌ではありませんが、紹介したいと思います。

★300形
 300形は、旧形車の100形などを、大改造をして登場した系列です。ただし305編成だけは、改造扱いながら、車体は新製されています。そのため編成の番号ごとに車体の主要構造が異なり、かなり差異もありますので、ここでは1編成ずつ紹介することにします。

303−353編成画像
 1929年に登場した、江之島電気鉄道最初のボギー車(前後に台車=2対の車軸をバネで支えてはめ込んだ車輪支持器=を持ち、カーブでは台車が首を振ることにより、よりスムーズな曲線通過が可能となる構造。現代の鉄道車輌の多くはこの方式)である100形のうち、103号車と104号車を1957年に改造したものです。改造にあたってはかなり大がかりな改造となり、客室ドアの移設や車体後部を一部切り取るなどの改造を、東洋工機で行っています。

 さらに改良工事は続けられ、集電装置をパンタグラフに改造、運転室を全室化(横幅いっぱいに拡大すること)、ロングシート寸法の変更(混雑対策)、ATS装置(自動列車停止装置=赤信号を越えて進まないように、必要に応じて急ブレーキをかける装置。安全運行の要)設置、窓枠アルミサッシへの変更、ヘッドライトをおでこに1灯から、腰に2灯へ変更などが行われました。

 1992年4月には、下回りを一新。それまでの釣り掛け駆動方式(モーターの取り付け方式の一種で、モーターから出たノーズと言われる支えの一端を車軸で支える方式。構造は簡単だが、加速時にグオーンとモーターがうなる、線路に与える影響が大きく、乗り心地もやや悪いなどの問題がある)から、新形車同様の平行カルダン方式(モーターの重量を台車で支え、車軸に影響を与えない方式。現代の電車は全てこの方式)に改造、台車も当時新製されていた2000形と同様のものに交換、重量制限が緩和されたため、冷房装置を搭載、内装も一新されました。

 江ノ電に在籍した電車としては、最も長寿でしたが(製造後78年)、老朽化が進み、2006年の新500形就役後、休車を経て、2007年9月についに廃車となりました。

 なお同系に302−352編成もありましたが、10形に置き換えられてすでに廃車となっています。

 「コメットさん☆」においては、極楽寺のトンネルを行くカットで登場しているようです。第34話で、コメットさん☆が鎌倉→稲村ヶ崎と乗車するのは、この編成のようです。

304−354編成画像
 1931年に登場した、江之島電気鉄道106形(新潟鉄工所製)の106号車と109号車を、1958年、東京目黒にあった東急碑文谷工場(東横車輌)で改造したものです。基本的に303−353編成と似ていますが、屋根のカーブの印象、側面の窓と戸袋窓の仕上げ、車体寸法などが微妙に異なります。

 改造・改良工事は、303−353編成と同じように行われ、1991年12月には、下回りを一新、釣り掛け駆動からカルダン駆動に改造され、冷房装置も取り付けられました。やや遅れて内装も一新。2003年からは、リバイバルカラーのクリームと茶色に塗られて、活躍を続けていました。しかし、2004年9月頃に、規模の大きな故障が見つかり、一時修理されて2005年2月末から、再度活躍を続けましたが、結局完全な修理が出来なかった模様で、2005年9月30日限りで引退、廃車となりました。

 「コメットさん☆」においては、コメットさん☆自身が乗車する(第31話他)など、実は一番登場します。

305−355編成画像
 この車は、300形の中でも異色の車輌で、本来は新形式になってもおかしくないと思われます。

 1960年に、京王電軌(現在の京王電鉄)の木製車、2000形の台枠(車で言えばシャーシの部分で、家で言えば土台の部分)のみを利用して、その上に新製の車体を載せたもので、工事は東急碑文谷工場(東横車輌)で行われました。当初台車も新製で、モーターは中古品という不思議な組み合わせの電車でしたが、流行の大きなサイズの窓を取り付け(上段がゴムで固定されている、通称「バス窓」。当時のバスに多く見られた方式)、旧形車とは思えない斬新な装備の電車でした。

 改造・改良工事は、他の300形同様に進められましたが、車体の新しさからか、下回りの更新と、冷房化は、旧形車グループでは最も早く、1989年12月に行われています。

 その後登場する1000形などは、この車を基本に作られていると言えます。

 「コメットさん☆」では、第3話でコメットさん☆やツヨシくん、ネネちゃんが「305」と書かれた車輌に乗車(内装から確認)するなど、この編成が重要な役割を果たしているように見えますが、実際には側面の窓配置などから、304−354編成のほうに重点があるようにも見えます。が、第37話で、今川瞬くんが乗車しているのは、間違いなくこの編成です。また第34話で、コメットさん☆が稲村ヶ崎→鎌倉と乗車する車は、この車輌と考えられます。

★1000系
 この形式は、本来1000形、1100形、1200形、1500形に分けられますが、一応同じような外観の車体を持つので、1000系と総称して支障はないでしょう。以下形式ごとに見ます。

1000形画像
 1979年に、「江ノ電」ブームの中、それまで凋落傾向の続いていた輸送が、急に上向いてきたため、長きにわたった中古車輌の時代に別れを告げるべく、東急車輌で新製された、江ノ電としては48年ぶりになる完全な新製車です。一気に2編成(1001−1051と1002−1052)を製作、その英断は、鉄道界で高く評価され、その年の最優秀車輌(投票による)に贈られる「ブルーリボン賞」の栄誉に輝きました。ブルーリボン賞は特急形電車が受賞することが多いので、いかにこの電車が従来の江ノ電イメージを突き破りつつ、それでいて路線イメージを巧みに取り入れたものであるかがわかると思われます。

 機構的には、当時の車輌水準もあってか、非冷房、釣り掛け駆動のままと、一部に従来の技術を継承している部分もあります。しかし全電気指令式ブレーキの採用(その後旧形車も含む全車輌に波及)、右手操作ワンハンドルコントローラ(右手のみで電車の起動、ブレーキを制御でき、乗務員の負担軽減になる)、改良されて観光・通勤・通学いずれの目的にもマッチする座席、大きな窓、自動行先表示器の設置など、当時の最新技術を多く導入しています。デザイン的には、当時新製されていた、京浜急行電鉄800系の影響も見られるのが興味深いところです。

 改造は、1985年に1001−1051編成が冷房化されたのと、1986年に1002−1052編成が冷房化されたのが目立つくらいでしたが、2003年に1001−1051の編成は、車体腐食部分の補修と、内装の更新が行われました。2004年にも1002−1052の編成が同じ工事を受けましたが、その際この編成のみ塗色が20形と同じものに変更されています(のちに1001−1051の編成も塗色を統一)。

 「コメットさん☆」には、この車は不思議と出てきません。イメージ的なものでしょうか。わずかに第29話の後半に、実写の写真をコラージュしたカットに1カット映るのみです。
 コメットさん☆を「一日駅長」にするという企画が、2001年10月に、鎌倉商工会を中心にして行われたようですが、この時着ぐるみのコメットさん☆が、駅長として「発車合図」をしたのは、当時「シーブリーズ」の青色広告塗装になっていた1002−1052の編成でした。

1100形画像
 大好評をもって、利用客に迎えられた1000形に続いて、1981年江ノ電最初の「冷房準備工事車」としてデビューしたのが特色です。それ以外にも細かい改良を行っていますが、翌1982年、江ノ電極楽寺工場で予定通り冷房化され、江ノ電の歴史上初めての冷房車となりました。下回りなどの機構は、1000形と同様です。1101−1151の1編成が他形式に混じって活躍しています。

1200形画像
 1983年に登場した1000系の改良車輌で、新製時から冷房装置は搭載していました。この車の改良点は、屋根と床にステンレス材を使用し、海岸線沿いの走行による、車体の腐食をくい止める「長寿命化仕様」となっていることです。これは同時期に製造された小田急電鉄8000系と、かなり共通する構造で、車体の基本構造としては、その後の江ノ電車輌の元になっています。下回りなどの機構は、この形までは、1000形と共通のものです。1201−1251の1編成が活躍中です。

1500形画像
 1986年と1987年に1編成ずつ、計2編成(1501−1551、1502−1552)製造された、1000系列の集大成的電車で、車体外板にもステンレスを多用。一段と腐食対策を強めました。また長きにわたって使用された釣り掛け駆動と決別し、江ノ電初の「たわみ板継ぎ手中空軸平行カルダン駆動」(モーターを小型軽量化し、台車で支え、たわみ板という部品で、モーター軸と車軸を結んで動力を伝達する)を採用。発電ブレーキも搭載(モーターと抵抗器をつなぐと、自動車のエンジンブレーキのようにモーターが負荷として作用し、ブレーキとなる)され、安定した走行と、乗り心地の改善がいっそう進みました。車内の客室ドアの内側に、エッチングで模様が付けられているのも、見落とせない特徴です。

 なおこの車で採用された下回りが、基本的にその後の2000形、旧形車の下回り取り替えにも使用されることになりました。
 車体塗装も一新され、クリームとオレンジ色を基調とした色とされたため、「サンライン号」という愛称が付けられていましたが、その後イメージ統一のためか、通常の塗装になっています。

★2000形画像
 この車は1000形で培った技術を昇華しながら、さらに観光用電車となることを意識して、1990年から毎年1編成ずつ、計3編成(2001−2051、2002−2052、2003−2053)が登場した新型電車です。下回りには1500形のものを基本的に使用しながら、その後の技術の進歩も取り入れています。

 特に車内については、可能な限り大きく取った窓を始め、運転席うしろと、連結面側にクロスシート(横形座席)を配置し、沿線の、主として海側の景色がよく見えるように配慮されている点が、それまでの江ノ電車輌とは性質を異にすると言えるでしょう。

 正面のデザインも、大きな曲面ガラスを用いた、スマートなデザインで、窓周りを黒く処理した側面と共に、景勝地を走るにふさわしい優美な外観を持っています。また前面の行先表示器には、四季折々のイラストが添えられ、毎月そのデザインが変わるなど、観光路線+生活密着路線ならではの楽しさにもあふれています。

 10形が登場した今、その強いアピール度にやや押され気味の2000形ですが、20世紀から21世紀に至る、代表車輌としての地位は揺るがないものと思われ、沿線の人気車種の一つです。

★10形画像
 江ノ電開通95周年を記念して、1997年に新造された江ノ電の「ランドマークカー」です。古都鎌倉と景勝地江ノ島、市街地藤沢を結ぶ江ノ電としては、その路線イメージに合った、「モダンでクラシカル」という、相反する志向を同時に満足するような電車の登場が、期待されていました。それには新型電車の登場で徐々に引退する旧形車輌の、長きにわたって江ノ電のイメージに貢献してくれた功績を引き継ぎつつ、現代感覚にマッチした、乗ること自体が楽しくなるような電車のイメージというのを、1995年頃から模索していたようです。

 それらの構想をまとめ、通勤通学と観光輸送というマルチパーパスを満足しうる、21世紀につなぐ車輌として登場したのが、この10形(10−50)です。車体幅を10センチ広げ、通勤輸送に配慮しながら、一部のクロスシートを維持、さらに500形以来となる両開きドアを採用して、乗降の便に配慮するなど、今後のスタンダードとなるような内装にしつつ、外観はレトロチックなイメージを演出し、オスロ市の市電に範を取ったと言われるデザインで、全く新しい江ノ電のイメージを創出するべく、登場した電車と言えます。

 機構的には2000形と特に変わるところはありませんが、シングルアーム式のパンタグラフの採用、バリアフリー法に対応する車椅子スペース新設など、新技術も取り入れています。

★20形画像
 時代は21世紀になり、非冷房で残存していた旧500形(下参照)を置き換える必要が出てきました。500形も1000系が登場するまでは、江ノ電の顔として活躍したものでありましたが、下回りを更新していたとはいえ、老朽化が進んできたこともあり、整理の対照となりました。

 そこで500形の更新されていた下回りを利用し、車体を新製することで、2000形や10形よりは、やや通勤・通学輸送に重点を置いて、設計製作された新車輌が20形です。2002年に1編成(21−61)、2003年に1編成(22−62)の2編成が作られ、意外にも300形と同じような塗装で活躍しています。この辺は、代替新造車ということを意識しているのでしょうか。

 車体の基本構造は、10形を多少簡略化したものになっていますが、大きな違いはありません。また下回りも2000形と同様です。結果的に10形や2000形よりも、やや地味な印象ですが、今後の江ノ電新時代の担い手として、長く活躍するでしょう。

★新500形画像
 長く活躍してきた300形304−354の編成は、老朽化が進み、下回りに根本的修理が困難と思われる故障が発見されたため、惜しまれながらも引退することになりました。しかし、そのまま車体を取り替えるのではなく、10形、20形のマイナーチェンジを徹底して行うことと、江ノ電初のインバータ制御車輌として、生まれ変わらせることになり、旧500形のイメージを継承しつつ、新時代にマッチするようにリファインされた新500形、501−551編成が、2006年春から運用を開始しました。

 台車と一部機器は、旧車輌からの流用ですが、モーターが交流モーター+インバータ制御となったため、改造を施しています。また、塗装されていますが、車体はオールステンレスで、腐食に極めて強い構造となっています。2007年には、老朽化のため廃車となった303−353編成の代替車として、502−552も登場しています。仕様は、501−551と基本的に変わりません。

 車内はロングシート。富士山が見えることがある、藤沢方先頭車(501号・502号)の一番前には、展望シートが設けてあります。その他ドア上には、液晶モニタを使用した、情報表示装置が2台ずつ取り付けられています。



★旧500形画像
 この車は、すでに全廃となっていますが、アニメ「コメットさん☆」では、何度か登場している様子なので、特に紹介しておきます。

 1956年と1957年に各1編成(旧501−551と旧502−552)が作られた、ヨーロッパ調の、全体に曲線を使った優美な車体の車輌でした。登場当時は当時として大変珍しい角形のヘッドライト(502−552編成)や、車輌中央部付近に配置されたクロスシート、幅の狭い両開きドアなど、当時の江ノ電としては特徴的な電車でしたが、下回りは旧形車からの流用でしたので、新製車とは呼べません。

 のちに大改造が行われ、クロスシートのロングシート化、前面窓を開閉可能に、両開きドアを片開きに、腐食した鋼板の大幅な張り替え、1990年代には下回りの一新などの工事が行われましたが、冷房化と内装の重点的更新は行われず、結局20形に代替される形で、2002年と2003年に引退。同時に江ノ電の冷房化率100%が達成されました。

 「コメットさん☆」では、第34話に、窓配置と屋根形状から考えて旧500形と思われる車輌が登場しますが、窓構造が2段窓に見えますので、確定的とまでは言えません。



※この項の参考文献は、下記の通りです。
1.江ノ島電鉄株式会社、1990年、「ENODEN 2000」(パンフレット)、江ノ島電鉄株式会社、神奈川
2.湘南倶楽部、2002年、「江ノ電百年物語」、JTB、東京

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